シナリオ

酒は飲んでも呑まれるな

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 酒は好きですかい?何を隠そう、桜騎は酒好きでしてね。酒にゃ目がねぇもんで……、これからの時期、花見酒なんかいいですねぇ。花を見ながらの一杯はたまらねぇもんですよ。

 っと、んなこと言ってる場合じゃねぇんだ。

 とある山にダンジョンが発生したようでしてね。中は鍾乳洞のようなんですが、湧き出るのは水じゃなくて酒なんですよ。

 つららや石柱から垂れるのも酒、百枚皿にはそれぞれ違う種類の酒が湧いてるときた。まさに酒好きにとっちゃ天国ってとこで、近くの町が早速観光資源に動きだそうとしてるんですが……ダンジョンはダンジョン、当然美味い話にゃ裏がある。

 どうやら√能力者の捕獲を目論むやつが原因のようでしてね。まぁ、核は別のモンスターなんですが、ここに人を集めて、酒で酔わせて捕獲するのが目的のようですよ。

 一般人はモンスターの餌に、√能力者は捕獲する為に。ってなわけで、どっちにしろ放っちゃおけねぇ……酒が湧き出るダンジョンなんて、ちともったいねぇが……まぁ、普段通り頼みますよ。

 ダンジョン自体の突破はまぁ、難しくないでしょうよ、酒の誘惑に負けなきゃね。飲んでも別に構わねぇが、飲みすぎて潰れるなんてこたぁ……ないですよね?

 突破できりゃ、その先にいるのは今回のことを目論んだ√能力者か、あるいは家畜型モンスターでしてね。うーん、ツマミまで用意されてるとなりゃ至れり尽くせり……。っと、また脱線しちまった。

 ダンジョンの核自体は最奥にいるモンスターなんで、二章に関してはどっちのルートでも倒して突破さえ出来りゃ問題は無いですよ。√能力者が撃破出来りゃ、最後のボス戦はちと楽かもしれやせんがね。

 まぁ、なにはともあれ、頼みますよ。

 そうそうこのダンジョン、20歳以下は不思議な力で弾かれて入れないようで。

 酒は20歳以上になってから、ってね。

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第1章 冒険 『酒ダンジョン』


シンシア・ウォーカー

「酒ダンジョン、なんと甘美な響き」

 はぁと頬に手を当て、ダンジョンの入口を見上げながらシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)はうっとりと呟く。

 ダンジョン踏破と飲酒のために生きているといっても過言でない私にとっての楽園では!なんて思いながら、ウキウキと足を踏み入れれば、あちらこちらから香しい|酒精《アルコール》の香り。

「…………ちょ、ちょっとだけ……」

 いや、もちろん目的は見失っていない。大切なのは、ここを踏破し、最深部にいるボスを倒すこと。うん、でも、飲んで欲しいとばかりにあちらこちらに湧きいずる酒酒酒、少しだけ、ちょっと味見だけと、近くにある百枚皿のうちの一つに溜まった比較的甘い香りのする酒に手をつけ飲んでみる。

「はぁ〜……」

 甘いフルーティな味わい、度数もかなり高めとみた。が、美味しい、度数は高ければ高い程よいのだ。しかも、この先のルートによっては、おつまみもゲットできるらしい(正確には、家畜型モンスターがいるということだが)

「こんな素晴らし……傍迷惑なダンジョンを作ったのはどなた!生産者の顔を見たい!」

 くううっと拳を握りしめて思わず叫んでから、ハッと顔を上げ周囲を見渡す。いやいや、少しはしたな過ぎただろうか。うん、少し酔いすぎたかもしれないと、すぅと、呼吸を整え

――"Be a lady."――

 体内のアルコールはいわば毒のようなもの、淑女たるもの、一時の勢いでダンジョン内で酩酊するなどあってはならない。精神汚染トラップ怖い。

 うん、これは精神汚染トラップです。そういう事にしておこう、うん!

 ルート能力のおかげで頭も冷静さが戻った。まだすこーーし酒には未練があるものの、うん、ここは冷静に、淑女らしく。

 シンシアはそう呟きながら、ダンジョンの奥へと向かうのだった。

神鳥・アイカ

 星詠みである|護導・桜騎《ごどう・おうき》(気ままに生きる者・h00327)の説明に、|神鳥・アイカ《かみとり・あいか》(邪霊を殴り祓う系・h01875)はパァァ〜と歓喜の表情を浮かべたが、すぐにがっくりと肩を落とし、まさに絶望のどん底というような表情を浮かべた。

「それって、『酒』への冒涜だよ……」

 鍾乳洞内に多種多様な酒が大量に湧き出ている。つまり、様々な酒のごった煮の強烈な匂いが入口からしているというわけだ。これではいくら飲兵衛といえども眉を顰めるだろうし、楽しみ方は人それぞれであるにしても、酒好きの神鳥からすれば『このダンジョンを作ったアホは酒へのリスペクトが足りていない!』となる。

 はぁとしょんぼりと溜息をつきつつもダンジョンへとはいる。が、その際に自身の能力を発動させる。

――|酒呑童子《ノンデノマレテマタノンデ》――

 それは【酒を呑んだ際の【酔】に対する耐性】を増幅するルート能力。その上、これは神鳥だけではなくその周囲にも耐性を与えるので、これなら中に入りこんだ人間も多少マシになるはずだ。

 よし、これで準備はOKと頷き、改めてダンジョン内を見渡す。一見して鍾乳洞、だが、やはり中に充満しているのは【酒】の匂いだ。

「どれ……」

 自前の盃を取り出し、つららから滴る酒を一口飲んでみる。味は良い、だが、それを周囲の酒の匂いが邪魔してしまっている。

「飲み放題といえばそうだけど、やっぱダメだね。酒の良さを殺してる」

 酒とはアルコールばかりが大事では無い、そして味ばかりが大切でもない。

 味とアルコールと香りと視覚、その全てが組み合わさり絶妙な旨さとなるのだ。

「はぁ……さっさと踏破して飲み直そ」

 幸い、ここらは本当に酒が湧き出ているだけでトラップなどは無い様子……いや、この酒自体がトラップと言えなくもないか。脳裏で、酒に目がないと語っていた今回の星詠みを思い出す。まぁ、知らぬ訳では無いし

「お土産に汲んでくか」

 飲めそうな酒を土産に汲んでそれを手に、神鳥は歩き出して、冷静に踏破していくのだった。

逆月・雫

 軽い足取りでダンジョンに足を踏み入れ周囲を見渡したのは、逆月・雫(酒器の付喪神の不思議居酒屋店主・h01551)であった。

 彼女はきょろりと周囲を見渡して、百枚皿に近づくとそっと酒器を取り出す。強烈な酒の匂いも、酒器の付喪神である彼女にとっては慣れ親しんだものだ。

「お酒は量より質ですよーと言う事で、まずは味見♪」

 くいっと一口……、口に広がる芳香な酒の味、周りの香りが邪魔をして匂いは分かりにくいが、うん、これは美味しい。

「美味しい……ダンジョンの核を倒したらコレも無くなっちゃったりするのかしら?」

 他の酒の香りが邪魔をしなければもっと美味いだろう。こちらの√にあまり縁がないので、うーん?と少し悩んだものの、酒器に入れて持って帰ることにする。うん、いいお土産ができた。

 さて、と……、と酒を酒器につめおわり、ダンジョン踏破を目指す。街の人々はここを有益に使いたいと言っていたということは、調査をした人間がいるはずだ。その中には、不運にも荷物を落とした人間もいるだろう。

 なにせこの酒の香り、人によっては入るだけで倒れてしまう。

「あった……」

 やはり、ちらほらと、ここに入り込んだ人が落としたものが落ちている。とりあえず暫くはそれを目印に進んでいくが、奥までは落ちていないようだ。

 まぁ、調査もまだ入口程度と言ったところか……さもありなん、やはりこの洞窟内の|酒精《アルコール》の香りが強すぎるのだ。

「……あぁ、美味しいお酒はいいんだけど、これだけの量は流石に…匂い、なかなかですわね」

 奥に進むにつれ洞窟は狭くなる作りだ。となれば、当然ながら酒の匂いも濃厚になる。そっと、自分の懐から手ぬぐいを取り出して鼻と口を塞ぐ。有毒なガスに対するような扱いではあるが、これだけ匂いが強いと似たようなものだ。匂いだけで酩酊してしまう。

「……ふむ、ここから先は神様にお伺いしてみましょうか」

 そっと盃を取り出し、そこに酒を注ぐ。なにせ酒だけは浴びるほどにあるので、捧げるのには問題ない。
 そうしてから、すっと背筋をただし柏手を叩く。パァーン!と澄んだ音が洞窟内に響き渡った。

『神さん神さん、いらっしゃれ♪』

――|七福神召喚《コウウンショウライ》――

 現れたのは白い髭と杖を持った老人の姿の七福神、寿老人の幻影だった。赤ら顔の酒を好むとされる神がこの場に現れたのは、たしかにおあつらえ向きと言えるかもしれない。

「先への道案内をお願いできますか?」

 逆月の言葉に寿老人はこくりと頷いて手に持った杖で地面をトントン、と2回ほど叩く。その音は反響し光となって先への道を示すと幻影は酒の香りに溶けるように姿を消した。

「ありがとうございます」

 ぺこりと再度柏手と会釈をすると、よし、と改めて逆月はダンジョンの奥へと向かうのだった。
 

食神・深雪

 むわり、と酒の強い香りがする洞窟内を見渡して、|食神・深雪《はむかみ・みゆき》(旅する『私』・h03643)は、ほうと息を吐いた。

「酒なぞいつぶりでしょうね……」

 かつては神の末席に居たもの、竜神との月見酒が最後だっただろうかと懐かしい記憶を辿る。なにぶん最近は自販機の姿が主であるし、売っているものもとい嗜んでいるものも未成年者が誤って購入しないようにお茶やコーヒーなどのノンアルばかりだった。

 が、食神とて酒が嫌いな訳では無い、むしろ、不可思議な力で未成年者が近づけぬとあれば、むしろ無礼講では?と小さく笑う。

 とはいえだ。

「……ですが、まあ、酒で釣って人を狩るような不埒者を刈る方が先でしょうね。」

 √能力者どころか一般人すらも標的だという今回の敵、そいつらを狩った後に存分と楽しむとしよう。何人かは土産として持って帰っているらしいし。

 洞窟の壁に手をつけながら慎重に進んでいく。ひんやりと湿った壁、当然その湿り気も酒であるが気にはしない。はてさて、こういう時は左手で壁を触りながら行けばいずれ出口に到達するのだったか?なんて、|自販機の自分《私》に売られている飲み物を買いに来る子供たちの会話を思い出しながら先へと進む。

「それにしても、酒のダンジョンだなんて、どのような首魁なのでしょう」

 これで八岐大蛇でも出てきたらもはや笑ってやるしかない。酒で倒されたのに懲りぬ蛇と思うが、首魁はこの先であり、確か星詠みの話では√能力者の捕獲が目的と言うから分からない。

 ゆっくり、ゆっくりと足を先へ進めて行く。足元が滑りやすくなっている上、人の姿であれど、進むだけなら問題は無い。

 慎重に、けれども先を見据えて食神は洞窟を歩いていくのだった。

御杖・国宗
稲城・狐盈

「√を渡ると常識自体ががらりと異なるのはなかなかに面白いものだね。
酒が湧き溢れる鍾乳洞とは……」

 ふむ、とダンジョンの入口を見渡しながら呟く|御杖・国宗《ごじょう・くにむね》(|御神之杖刀《ごしんのじょうとう》h06314)は、どこかわくわくした様子でその目を輝かせる。

 いやはや、√を渡ると常識自体ががらりと異なるのは知っているが、まさか多種多様な酒が湧き溢れるダンジョンがあるなんて、と、好奇心から目を輝かせる様は、仕込み刀の付喪神というより、どこか子供のような純粋さを思わせた。

「翁、あまりは年甲斐なくはしゃぐのはどうかと」

 その横でそっと溜息をつきながら窘めるのは|稲城・狐盈《いなしろ・こえい》(|萬事屋《よろずや》「|銀天堂《ぎんてんどう》」店主・h03012)である。

「いやいや、目的は|迷宮《ダンジョン》の突破なのは判っているよ。酔いすぎちゃいけないってこともね」
「目的を判ってるのなら良いんですがね」

 好々爺といった様子で笑う御杖に溜息をつきつつも、稲城とて興味がわかないかと問われれば当然ながら否となる。

 なにせ、酒が湧き出るのだ。酒を嗜むものからすれば、興味が湧かないという方が嘘となるだろう。

 なにはともあれだ。御杖と稲城がゆっくりと洞窟内へ入れば、途端、むわりと香る|酒精《アルコール》の香りに2人は揃って眉間に皺を寄せた。これは、この香りは……

「話半分に聞いてたが此れはまた……」
「捕獲する為に酔わせるのが目的とはいえ、この|酒精《アルコール》の香りは驚くね」

 酒に慣れてない者なら、早々に酔いつぶれてしまう者も居るんじゃないかい?それが狙いなんだろうけれどなんて、強すぎる|酒精《アルコール》の香りにそんな事を言いながら、物見遊山といった様子で、周囲を興味津々に見やりながら進む御杖の後を着いて、稲城も歩き進む。

 その眉間には深いシワが刻まれつつも、彼がおかしな方向へ行かぬよう見守りは欠かさない。まぁ、なにせ戦闘ともなれば頼りがいのある付喪神なのだが、今は完全に物見遊山モードなのだ。心配するのも当然のことと言えた。

「この|迷宮《ダンジョン》にとって、我々は八岐大蛇という所なのかもしれないね」
「それでは我々は尾を斬られて倒されてしまう流れになってしまうではないですか。
あまりにも縁起が悪い事この上ない」

 カラカラと笑いながら言う御杖に、きゅっと出していない尾が震えた気がして、ふるふると首を振る。八岐大蛇は酒に酔わされた挙句、その首を切り落とされて倒されたらしい。

 確かにこの|酒精《アルコール》の香りは、それを思い込ませるし、ルート能力者とはいえ長居をしていたら酔ってしまうかもしれない。

 とはいえだ、先を進む御杖は物見遊山モードであるが、奥へ奥へと進んでいくのに少し安堵する。さすがにここでのんびり呑む、というわけにはいかないのは、彼もわかっているようだ。

 そう思っていれば、ふと、御杖が足を止め、百枚皿のうちの一つに近寄って、ふむ、と思案。

 ここで飲んで酔い潰れる訳には行かない、何せこの奥には彼が斬るべき者がいる。だが

「ところで狐盈君
此処に湧いている酒って、持ち帰れると思うかい?」

 此処で飲むのではなく、持って帰れば問題ないのでは?事実、何人かは持って帰るために持ってきた入れ物に入れているような様子もある。せっかくの酒だ、お土産にと笑う御杖に、稲城は本日幾度目かになるのも分からぬため息をこぼし

「翁、|銀天堂《ウチ》の常連ならいざ知らず、忘れて能力者でもない人間に供した日にはどうなるか判らんから止めておいた方が良いのでは」

 そっとそう窘めるのだった。

白・琥珀

「酒が湧き出るなんて、なんて羨ましい……」

 ダンジョンに足を踏み入れながら、一度周囲を見渡して|白・琥珀《つくも・こはく》(一に焦がれ一を求めず・h00174)は呟くも、いやいや、今はそんな場合じゃないと首を振る。

 もわりと漂う酒気に腕を組み、眉間に皺を寄せて、これだけで良いそうだな、なんて思いながら百枚皿のひとつに近づき、懐から取りだしたぐい呑みで中に溜まっていた日本酒らしきものをすくい、一口味見をしてみる。

 うん、味は悪くないが、やはり漂う他の酒の香りが些か邪魔をしてくる。それに本当は毛氈広げて酒盛りしたいところだが、このダンジョン自体が罠であると星詠みが言っていたので、さて、どんな酒があるかなと酒を吟味するフリをして奥への道を探っていく。

 まぁ、たまに飲んだりするのはご愛嬌、割と笊であると自認しているし、ぐい呑みに時折くむ酒も、飲むふりをして零し、飲み過ぎないように気をつける。

「まぁ、少しくらいはいいだろ」

 たまに本当に飲みはするが、当然酔いすぎないレベルでだ。酒による酔いで勘が鈍ってはいけないし、そんな醜態を晒すような真似はしない。何より

「酒は仕事上がりが一番だ。」

 終わったら、のんびりたっぷりと楽しもうと思いながら、白はゆっくりと奥へ足を進めていくのだった。

野分・時雨
尾崎・光

 ぴちゃん、ぴちゃんと、水の落ちる音がする。一見して鍾乳洞、その実、中には酒の匂いが充満し、上から滴る水も当然ながら酒酒酒の、酒ダンジョン。

 そんなつららが吊り下がる上を見あげて、|野分・時雨《のわけ・しぐれ》(初嵐・h00536)は徐に盃を取り出すと、そっと酒がしたたり落ちる場に置いた。

「湧き出る酒の罠とは巧妙で。
酒好きな人はたまらず集まってくるでしょうね。」

 良くも悪くも話題になるダンジョンだ。事実、近くの街では観光資源にできないかと動き始めているという話。当然ながら、このままでは一般人の被害が出てしまうだろう。

「最近、人間を堕落させる系ダンジョンにも行ったところでね。
ドラファンのダンジョンは憖なテーマパークより面白いもの多いな。
命掛けなのが難点だけど。」

 その隣で何をしているんだろうと野分を覗き込むと、|尾崎・光《おざき・こう》(晴天の月・h00115)が、他のダンジョンを思いを馳せる。
 
「きみ、栗とか蟹とかは先に剥いて溜めて食べる口?」

 皮をむく系の食べ物って性格出るよね、なんて、尾崎が首を傾げると、ぴちゃん、ぴちゃんと滴り落ちる酒は、2人がみているうちにあっという間に盃を満たす。それにうんと頷いて、野分は酒をこぼさぬ様に盃を回収すると、にっこりと笑って尾崎へと差し出した。

「はい!そんなこんなでコチラにありますのはただ今ためておりました滴る酒。
コウくん飲んでみて。ぼくが根気強く集めた酒。年上のお願いきいてよ。おら。」

 ぐいぐいと盃を尾崎へと押し付けた。これが普通の飲みの席なら現代ならパワハラだしアルハラだが、生憎とここにそれを指摘する人間はいないのである。

「ちなみに蟹にしても手間がかかるものは人を選びやらせます。手汚したくないじゃん。」
「わあ人使いが荒いタイプだった」

 思わず遠い目をしつつ棒読み。いや、いいんだけどとため息を零しながら、ぐいぐいと顔に押し付けられる盃をわかったわかった、零れるからと言いながら受け取って口をつける。

「どう?不味くない?毒とかない?」
「僕は耐性あるから毒味には向かないと思……あ、甘めで美味しいね。」

 どちらかと言うとフルーティーな味わい、うん、普通に美味い。あちらこちらに湧いている|酒精《アルコール》の匂いが邪魔をしてくるが、それでも美味しいと感じる程度には味が良い。

 その様子を見ていた野分はにんまりと笑い、なら自分も!といつの間にやらもう1つの盃にためておいた酒をならば遠慮なく一気!いただきます!とあおって、うん!美味い!と笑う。

「チーズとか合いそうだけど、この後の料理が肉メインになるなら辛めを探そうか。」

 けど、飲んだ後に屠殺からツマミを準備するのは少々面倒だとは思う。うーん、順番が逆なら良かったかも?いや、目的はダンジョン踏破なのだが、美味い酒とツマミがある以上、やはりそう言う思考へ行くのは仕方ない。

「ツマミねぃ。飲んだ後に祭りがあるから楽しいんじゃないですか」
「だって面倒じゃない?あと獲物を捌くのって経験無くて……」
「ぼくに任せるとブツ切り丸焼きですよ」
「て、ブツ切りしてくれるんだ。
じゃあいいか」
「いやいや、コウくんやればできるできる!良いとこ見たいな~」
「えぇー」

 2人してそんなことを言いながら、盃に酒を貯めては飲んでいきつつ奥へ向かう。緊張感など何も無いが、もはや仕方ないだろう。だって酒が美味いので。

「もし酔ったら言って?焼却すればアルコールは全部飛ぶから安心して飲んでいいよ。」
「物騒だな。
では、はい。交互に飲んで行きましょう。勝負です。」

 物騒と言いつつも、野分自身も乗り気だ。互いに盃を持ち、近くのつららから落ちる酒を集めて、ニっと笑い合う。

「ではまずきみからどうぞ。」

 尾崎の言葉に、野分はくっ!と盃を傾け、一気に飲み干したのだった。

第2章 ボス戦 『葛城・リサ』


 酒の匂いのするダンジョンを進んでいく。ぴちゃん、ぴちゃんと酒の滴り落ちる音、だが、√能力者達ならばわかった。

 この先にいるのはツマミとなる家畜型モンスターなどでは無い、それよりももっと強い……

「……来ましたか」

 ぽっかりと広がる空間に、女の静かな声が反響する。カチャリと構えられた刀の切っ先は真っ直ぐに現れた√能力者たちに向けられる。

「……全員、捕獲させていただきます」

 このダンジョンを作り上げ、√能力者の捕獲を企てる葛城・リサは、そう言い放つのだった。
神鳥・アイカ

 その空間に足を踏み入れた途端、|神鳥・アイカ《かみとり・あいか》(邪霊を殴り祓う系・h01875)はぴくりと眉間に皺を寄せた。

 そこにいたのは一人の剣士、ここにいる以上只人でないことは当然のこと。だが同時に、違和感を感じる。

 あの酒のダンジョンの主、と思うには、些かその気配は凛としていた。

「ふ~ん…キミがこのダンジョンを作ったって事で良いのかな?」
「ええ、その通りです」

 言い訳もせずに答えは帰ってきた。そうして彼女、葛城・リサはただ静かに刀を構える。対話は不可能と言った様子か……まぁ、わかってはいたのだが。

「捕獲されてあげてもいいけど…
ちょっとお酒ってモノについて半日説教したいとこなんだけどいい?」

 まあ当然タダで捕まってやるわけもないし、それに、うん、酒好きを冒涜するようなあの|迷宮《ダンジョン》を許しているわけもない。

 すぅと息を吐き、神鳥が僅かに片足を下げた瞬間、その場から姿を消した。

「っっ!」

 爽やかな風がふきぬける。淀みのように溜まった酒気を吹き飛ばし、風ともに彼女は一気に距離を縮め、目の前に現れた神鳥に対応しようと刀を抜き放とうとした葛城の手をその柄ごと押さえ込み、にっこりと間近にあるその顔に笑みを浮かべて見せた。

「やる気なら相手になるけどさ…
取り敢えずそんな物騒な得物は片付けようか?」

 ギチギチと抜こうとする葛城と、それを抑え込む神鳥の間で柄が悲鳴をあげるかのように軋む音をあげる。抜けるものなら抜いてみろ、簡単に、抜かせるわけもないが。

「……ボクは簡単にはやられないよ?」

食神・深雪

 ぴちゃんとここでも酒が滴るぽっかりと開けた場へ足を踏み入れて、|食神・深雪《はむかみ・みゆき》(旅する『私』・h03643)は前を見据え、目を細めた。

「ふむふむ。あなたがここの首魁、と。
酒を嗜むことのなさそうな、真面目くさった面構えをしていらっしゃる。」
「……私を愚弄しているのですか?」

 些か不愉快になったのだろうか、葛城・リサが眉間に皺を寄せ、カチャリと刀を構えるのに、ゆるりと食神は首を振った。

「愚弄してなどおりません」

 そう、愚弄などしていない。

 ピン、と空気が張りつめる。お互いの呼吸音がうるさいと感じるほどに静寂が包み込む。

「挑発を、しております」

 ダッ!と先に動いたのは葛城だった。素早く鋭い突きが食神を捕らえようと襲う。その切っ先が、食神の肩を貫こうと接敵した瞬間、どろり……彼女の体が『溶けた』。ドロドロに、まるで熱せられたチョコレートのごとく、あるいは、海の底に溜まるヘドロのごとく、わずか、葛城の顔がひきつる。

『我が名は|食神《はむかみ》。悪食と云われようと、此れが私の真髄ですよ』

 黒いヘドロに付いた口ががぱり、と開く。これこそ食神の真の姿、ヒトならざる、かつては神であったモノ。

「っっ!」

 葛城が素早い動きで突きを繰り出す。それは確かに食神の体を貫くが、ヘドロの塊であるような彼女の体に手応えがないのか、葛城が眉間に皺を寄せた。

 そのうちにヘドロに無数の牙が現れる。ずぼりと二本の腕が彼女の体を捕える。

「ひっ……!」

 どんなに身体を強化しようと、|【捕食】《食べること》に特化した食神が丸呑みしてしまえば無意味なこと。さぁ、全て食らい尽くしてやろうかと、食神はその無数にある口を開き、ガチり、と牙を鳴らしたのだった。

御杖・国宗
稲城・狐盈

 足を踏み入れた広い空間、酒の匂いは変わらずあれど、そこにある気配に、ふむと|御杖・国宗《ごじょう・くにむね》(|御神之杖刀《ごしんのじょうとう》h06314)は、先程まで纏っていた好々爺とした雰囲気を鋭いものへと変えた。

「ふむ、日本武尊命になりそこなったのお嬢さん……ということか」
「翁、その例えを引っ張るんですか」

 はぁとため息こそこぼすも、|稲城・狐盈《いなしろ・こえい》(|萬事屋《よろずや》「|銀天堂《ぎんてんどう》」店主・h03012)は御杖の鋭い刀の切っ先にも似た空気に、油断なく敵へと目をやる。

「此方としては、はいそうですかと捕まる訳にもいかなくてね。
大人しく退散してもらうよ」

 御杖の言葉にこくりと稲城が頷き、
 
「女性剣士が黒幕とは少々意外ではあるんだが、|√能力者《我々》を捕獲して企てている事なんざ碌な事ではなかろうよ……」
 
『揺焔よ、薙げ』

――|焔尾揺乱《エンビヨウラン》――

 ぼっと尻尾の様に揺らぐ焔が稲城の周囲に現れた瞬間、彼は地を蹴って葛城へと一気に距離を縮める。瞬間、葛城も√能力を発動させたのだろう。素早い居合が稲城へ襲いかかり、おっとと僅かに髪先をカスめながらそれを避け、手を向けた瞬間、焔が葛城の顔目掛けて飛んでいくのを、彼女は刀で切り裂くことで避ける。

「最近の若者は血の気が多いね」
「流石に俺も言うほど若くは無いんですがね?!
あと、翁も働いちゃくれませんかね?!」

 はぁ、やれやれと言わんばかりの御杖の態度に、こちらへ向かう刀の切っ先を舞扇でなんとか受け流しつつ叫ぶ。

「なに、狐盈君は私よりは若いじゃないか
とはいえ、狐盈君ばかりに任せる訳にも行かないのでね」

 ぱぁーーーんっ!柏手の鋭い音が洞窟内に反響する。それは酒の空気を切り裂くがごとく清涼であり、目を伏せ

『御神刀の一端、見せてあげよう――』

――|祝詞《ノリト》|「神明」《カミアカシ》――

 祝詞が唱えられた瞬間、先程よりも明確に洞窟内の空気が変わった。清涼であり、神聖、そうここは既に御杖の聖域なのだ。

「まだ慣れないものでね
此方に優位に働くようにさせてもらうよ
この|迷宮《ダンジョン》を速やかに攻略しなければならないからね」

 ザっと足を踏み出しての一閃、それに反応したのは見事と言えるのだろうか。葛城が稲城へ向けていた刀をすぐさま御杖へ向ける。

 キィーンと剣戦の音が響く、一旦その場を離脱した御杖と葛城の刀が合わさる。この空間では御杖の攻撃は必中になるとはいえ、向こうも簡単にはとらせてくれない。

 一重、二重、三重――、鋭い刀の応酬をみながら、「その力の恩恵が此方にもあれば良いんですけどね」とぼやきつつも、こきりと稲城は首を鳴らして、拳を構えた。

 まぁ、とはいえ、稲城は御杖を"扱えない"。となれば、自身がやるべきことは決まっている。

 葛城は御杖の攻撃に集中している、いや、そうせざる得ない。なにせ、その一撃は必中、その上決して軽いものでは無い。気を抜けばそれは彼女をすぐさま貫くことだろう。

 当然ながら、それが狙いなのだが。

 ぼっ……と稲城の拳に焔が宿る。狐の尾のような焔が揺らめき

「フッ……!!」
「っっ!!」

 葛城が御杖の刀をわずかに弾いた瞬間、御杖がサッと体を引き、同時に葛城の死角から彼女の鳩尾に向かって放たれた焔を宿った拳は悲鳴をあげることも許さずに彼女を吹き飛ばしたのだった。

野分・時雨
尾崎・光
シンシア・ウォーカー

 酒ダンジョンを進むさなか、シンシア・ウォーカー
(放浪淑女・h01919)は見知った姿を見つけて駆け寄った。

「オゼキ……じゃなかった尾崎さんに時雨さん!お二人もこのダンジョンに釣られ……」
「シンシアさん、正しく覚えていてくれたんですね。」
「あいあい、来ましたよ、釣られにね。」
「え?僕も釣られた側なの?」

 振り向き、柔らかな笑みを見せる|尾崎・光《おざき・こう》(晴天の月・h00115)と|野分・時雨《のわけ・しぐれ》(初嵐・h00536)の言葉に、シンシアが顔を赤くする。

「ま、真っ先に来たのは事実ですが!違います顔真っ赤なのはお酒のせい!」

 これでは自分がお酒に釣られてのこのこ来たようではないか!いや、違うとも言いきれないのがあって顔が赤くなるが、ともかく、ともかく!ちゃんと仕事は弁えている。

「あいあい。三人連携て初めて。照れますね。
合言葉は!仕事終わりの酒は美味い。これで。」
「仕事終わりって事は帰り道でも飲むのか」
 
 やいのやいの言いつつも、とりあえず合流した三人が進むと、そこにはぽかりと広い空間、そして佇む少女らしき剣士が一人いるのに、あれ?と首を傾げたのは尾崎だった。

「ところで次はツマミの材料の確保じゃなかった?」
「この方がダンジョンの生産者ということですかね」

 星詠みの話では、最初の酒のところで酔い潰れ過ぎなければダンジョン生産者の方へ行くと言っていたがなるほど、彼女がその相手らしい。

「お姉さん相手だけど牛角くん大丈夫?」
「お姉さんでも大丈夫。こっちには淑女いるんで。酒飲みだけど。」
「……?淑女と酒飲みは両立し得ます、問題はないです。とっとと踏破して飲みなおしましょう。」

 ゆるいが連帯感は取れている。そして互いの武器もやるべき事もわかっている。互いに目配せをし、こくり頷けば……その場は戦場へと変わるのだった。

●●●

 がァん!!と葛城の構えた刀は野分に届く前に彼が持つ卒塔婆に防がれる。葛城が僅か眉間に皺を寄せ、ガチャりと構えられた刀のスピードが上がるが、野分も負けじと早業で追いすがる。

『これは慈悲です』

――|一切合掌・蓮解業《カマラ・カルマ》――

 カッと野分の目が見開かれ、卒塔婆が光を宿し、卒塔婆が刀を大きく弾いて葛城がわずか後退する。ピキっと卒塔婆にヒビが入るが構わない。折れれば拳に変えるだけ。何せ自身の役割は、『盾』なのだ。

 再度葛城が刀を構えた瞬間、ひらりと何かが舞った。

「っっ?!」

 葛城が困惑する。自身の敵は、3人であった。あったが……自分の目の前には、同じ姿が更にもうひとつずつ……。

「これは……」

 幻影だ、それはわかる。だが、瞬時の判断が必要とされる戦場において、それは致命的な判断ミスに繋がる。

「よっ、と」
「っっ!」

 自身の攻撃が野分によって防がれている間、突然横からの一撃に葛城が咄嗟に顔を反らせて避ける。それは刀……、尾崎の一撃であり、幻影を見せる護符も彼の仕業だった。

「チッ」
「おっと、そっちには行かせないですよ」

 お相手はコチラ、と尾崎へ攻撃を仕掛けようとする寸前で野分が間に入る。葛城の顔に明らかに不愉快そうな色が浮かび、わずか後退をした。それを見て、尾崎が具現化したアラベスク状の偽刺青を投網のように投げて葛城の体を『捕縛』する。
 
『ぷらちなのてをあはせ ぷらちなのてをはなれつ』

――|大宣辭《ダイセンジ》――

 捕縛され、動けぬ葛城の体にぽんと触れる尾崎の右の掌、その瞬間、がくり、と僅かに葛城から力が抜けた。

「なっ?!」
「さて、隙はできたよ」

 くるりと後ろを振り向いて笑う尾崎、そこには魔導書を構え、既に『高速詠唱』にて呪文を唱え終えていたシンシアの姿があった。

 魔力は十分、前衛で盾役を野分が、そして遊撃を尾崎が。その間、魔導書を構え、口早に呪文を唱えていく。

 足元に魔法陣が現れ、彼女の服を魔力の風がたなびかせる。

 カッと開かれる瞳、すっと右の指先で指し示すは捕縛された葛城の姿。たんっ!と野分と尾崎が退いた瞬間、彼女の術は発動した。

『光あれ』

――|Stellanova《ステラノヴァ》――

 強い光が流星となって葛城へと降り注ぐ。それは確かに必殺の一撃となり、次の瞬間には、その姿はなくなっていたのだった。

「お見事」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」

 ふうと互いの労を労いながら話していた瞬間、はっとなる。あれは、この洞窟の生産者、つまり

「もしや年下の敵に先程のはしたない姿を見られていた可能性!そ、そんな……。
だ、大丈夫ですよね?」

 がっくりと肩を落とすシンシアに野分と尾崎はクスクスと笑うのだった。

第3章 ボス戦 『呪われしバイティア』


 ダンジョンの作り手は倒せど、ダンジョンはそれだけではなくならない。

 再奥にあるは、巨大な宝箱……、もしやダンジョンクリアの報酬か?と飛びつくのであれば、冒険者としては致命的。

 近づいた瞬間にその箱は巨大な口を開け、愚かな冒険者を丸呑みにするのだろう。

 これこそ、このダンジョンの『核』。人の欲を利用し、招き入れた者を喰らうミミック、呪われしバイティアであった。
食神・深雪

「ほぅ、みみっく……」

 ダンジョンの最奥、ぽつんと置かれた箱に|食神・深雪《はむかみ・みゆき》(旅する『私』・h03643)は首を傾げる。

 女性剣士とやり合っていた時の姿ではなく、一度人の姿に戻って最奥までやってきたのだが、そこにあったのは巨大な宝箱……、けれどそれは人を喰らう魔の箱。ということはつまり|【捕食】《たべること》に特化した同類、ということだ。

 ふふっ、と口元に小さく笑みを浮かべる。同類相手とは張合いが出るもの。食神の体が溶けて変わっていく、本来の姿へと。

「……存分に喰い合いましょう」

 にぃとヘドロの中心にある口が弓なりに形を変えた。

●●●

『我が名は|食神《はむかみ》。悪食と云われようと、此れが私の真髄ですよ』

――|食以鎮神《ハムカミ》――
 
 ガチガチと巨大な口に幾つもの『歯』が増える。先程と同じ√能力であるが、増やすのは歯のみ。あちらも口はひとつ、こちらもひとつ、これで"いーぶん"とやらだ。

 ぶるりっ!と震えたミミックがその数を一気に増やして食神に襲いかかる。ここからは互いに喰い合いだ。

 抱きつき噛み付いてくるミミックの一匹を伸ばしたヘドロの腕でつかみ、がぎぃ!!とその硬さも気にせず噛み砕いて飲み込む。次から次へと噛み付いてくるがこちらも同じ、不定形故にヘドロの身体を器用に動かして、噛みつかれては喰らい返す。自身の複製体を回復するようなミミックは先に喰らう。

 何せこちらは悪食、喰ってきた数も年季も違う。互いに喰らって、喰らって、喰らい尽くして……、咀嚼音と破壊音が洞窟内に響き渡った。

●●●

「ふぅ、いいお土産が出来ました」

 |迷宮《ダンジョン》から外へ出ながら食神は笑う。核を倒したダンジョンは程なくして消えていくだろうが、それまでしばしの時間はある。

 にっこりと好みの酒を詰めた入れ物を手に、食神はさぁ、誰と飲みましょうかなんて少し弾んだ足取りで帰路へ着くのだった。

神鳥・アイカ

「最後はコア、ね……」

 最奥に足を踏み入れて、ふぅと溜息をつきながら|神鳥・アイカ《かみとり・あいか》は、つまらないと言う顔を隠しもせずに、ミミックである宝箱を見据えた。

 先程の剣士、葛城との戦闘が楽しかった事もあり、言ってしまえば興ざめ、何せ財宝にも興味が無いのだ。これはもう、さっさと済ませて花見酒と洒落こもうと決めて、ぐっと構える。

『緋色を纏いて 我が敵を撃ち砕く』

――|岩飛流『紅雀』《ベニスズメ》――

 緋色に輝くオーラを右手に集中させる。あの宝箱が核だとわかっている以上、手段があるのならば別に近寄る必要は無いのだ。確かに神鳥が得手とするのは徒手空拳ではあるが、遠距離攻撃が行えない訳では無い。

 スっと片手を構えて綺麗なフォームを取る。目を細め、オーラを集中させた右手を勢いよく振り下ろした瞬間、宝箱に向かって気弾となったオーラが鋭く飛んでいく。

『!!!!』

 悲鳴らしきものをミミックが挙げた気がした。そうしてそこでやっと、敵対者が遠距離攻撃を仕掛けているのだと気づいて、自身の体を複製させて神鳥に襲いかかっていく。

「フッ!」

 スっとまるで水面を滑るかのような、流れるような足さばきでそれを避け、酒によって滑りやすくなっている洞窟内においても、それさえ分かっていれば動くのは容易い。

「近寄らせなきゃ、意味ないよね」

 ミミックの攻撃を避けては気弾を投擲して確実に倒していく。そう、数が多くとも、当たりさえしなければ怖くなどないのだ。その上、気弾はマヒの状態異常を付与することが出来る。やつの動きらあからさまに鈍っていた。

 その上、やつとて、無限に増える訳でも無く……やがて、最後の一撃がミミックを貫いたのだった。

●●●

「んー、やっと終わったぁ」

 大きく伸びをして、好みの酒を手にゆっくりと川岸へ向かう。河津桜が満開との話を聞いてだ。洞窟内で取れた酒と、町によって買ったつまみを手に、神鳥は満開の河津桜の下にあるベンチに座ると、ご機嫌に酒を飲むのだった。

逆月・雫

「……まぁ、なんと恐ろしげな見た目」

 辿り着いた最奥で、ガチガチと隙間から鋭い牙と奇妙な触手らしき物を覗かせるミミックに、頬に手を当て逆月・雫(酒器の付喪神の不思議居酒屋店主・h01551)は感心したように呟いた。

 酒に酔い、ケダモノ達との戦いに疲れ、辿り着いた先で財宝かと思いきやその正体はミミック……、宝物だと思った人々には「絶望」だと思い知らされるだろうし、奴としてもこれは生きる術、食べる術だとわかる。とはいえ、だ。
 生憎と、ここにいるのは哀れな被害者ではなく、やつを狩りに来た√能力者なのである。

「お前さんも生きる為の努力なのでしょうが…御免なさいね。」

『おいでませ、そぉれぽんぽこぽん♪』

――|信楽子狸大行進《ポンポコマァチ》――

 ぽん!ぽん!とどこか愛嬌のある顔立ちのたぬき達が現れる。誰もが一度は見たことがあるだろう、いわゆる信楽焼の子狸たちは、その愛嬌のある見た目で一気にミミックへと襲い掛かる。

 ミミックも複製体をつくりあげて襲いかかるが、何せここは外では無い、多少開けているとはいえ狭い洞窟内なのだ。当然動きは制限される。その隙を突くかのように、酒瓶で殴ったり、絵本を広げて滑らせたりと、こたぬき達は容赦などない。可愛らしい見た目に反して、バキ!とか音を立てながらどんどんと攻撃していく。

「よいしょ」

 逆月自身も空飛ぶ絨毯に乗って、飛び回ってミミックの一体を翻弄しながら、目を回したところに突撃!一見古めかしい絨毯とて、そのスピードは中々であり、当然ながら激突された方は溜まったものでは無い。

「ほら、お酒好きなんですよね?
こんなダンジョンの核なんですし。」

 そこへその口目掛けて大量の酒を流し込むというか放水する。あばばばばと溺れているようだが、もはや関係は無し。

「残さず好きなだけお呑みなさいな?」

 にっこりと逆月は溺れて目を回すミミックに笑いかけた。

●●●

 んーと外に出て深呼吸、お土産のお酒はたんまりと。ふふっと楽しげに笑いながら、逆月はゆっくりと家路へと向かうのであった。

御杖・国宗
稲城・狐盈

 女性剣士との戦闘を終え、それでも奥へと続いている洞窟を進んだ|御杖・国宗《ごじょう・くにむね》(|御神之杖刀《ごしんのじょうとう》・h06314)と|稲城・狐盈《いなしろ・こえい》(|萬事屋《よろずや》「|銀天堂《ぎんてんどう》」店主・h03012)は、はてさてこの先には何が待っているのやらと思いながら訪れた最奥で、はて、と首を傾げる。

「宝箱かと思いきや、中身は|擬態の怪物《ミミック》と……。
成程、|ダンジョン《迷宮》の核になっているのは先程のお嬢さんではなく此方か」

 ぐぱぁと口を開けてすっかり臨戦態勢のミミックを前に、御杖はほうほうと笑みを見せる。その目は好奇心を隠しもしない。

「狐盈君、本当に他の|√《世界》は多様だねぇ」

 好奇心と物見遊山気分はずっと抜けてはいないが、それで構わない。やることはやっているのであるし。

「此奴さえ倒せばダンジョンは無事踏破ということか。先の|女性《にょうしょう》が何を考えてこんな核を据えてダンジョンを起動したのかは判らんが、さっさと壊すに越したことは無いだろうな」

 ふむふむと頷きこちらも油断なくミミックを見ながら呟くも、隣のいっそ穏やかとも言える声に稲城はがっくりと肩を落とす。

「翁、お上りさんみたいなんで自重してもらえませんかね」
「はは、そうだね、起動させた女性は追い払えたけど、能力者を捕獲するダンジョンだけが残っても碌な事は無さそうだ
先刻と同じ要領でいいかね?」

 好奇心と物見遊山気分は抜けきれていないが、仕事はわきまえているし、やるべき事もわきまえている。稲城を見やって杖に手をかけながら問いかける御杖に再度ため息をこぼし

「むしろ俺は翁を“扱え”無いんでそれしか無いんですよ、次があるならその時は別の奴を連れて行ってほしいってもんで……っと」

 ぼやきながらも構える。まぁ、実際のところ刀剣の類とて使えない訳では無い。ただ単純に、格闘戦主体の近接型であるがゆえの答えだ。

 その答えにやれやれと首を振り、「その気になればいけるだろうに、つれないね」などとぼやきながらも、まぁ、こちらもそろそろ真面目に仕事をするかと、目を伏せて口を開く

『御神刀の一端、見せてあげよう――』

――|祝詞《ノリト》|「神明」《「カミアカシ」》――

 空気が変わる。ここは既に御杖の領域であり神域、それを展開しつつくっと笑みを浮かべる。

「年長者は少しいたわって欲しい所だが」
「十二分に労わってますよ」

 そもそも、年寄り扱いしたらそれはそれでなんか言ってくるでしょうと思うがそこまでは言わず、わずか後方に下がった瞬間、いきなり御杖の目の前に現れたミミックが彼を喰らおうと、その口から触手だかなんだかを伸ばして御杖に襲いかかる。

「……フッ」

 だがそれに狼狽えはしない。伊達に歳を食っている訳でもない。杖でその触手を咄嗟にたたき落とし、抜きはなった白刃で切り伏せる。

 ぐっ!とミミックが僅かに箱を傷付けられ、またも姿を消した瞬間、踏み込んだのは稲城であった。奴の技は、空気中に漂うインビジブルと位置を入れ替えるもの、インビジブルはどこにでもいるが故に確かに補足はしづらいが、出来ぬ訳では無い。

 稲城の攻撃に、ミミックが更に後方へ行きバラバラと撒き散らす金銀の【財宝の嵐】で先制攻撃を行うが、それが稲城の狙いである。

「っっ!!」

 攻撃をあえて受けた瞬間、にぃと笑みを浮かべる。

『それ、返すぞ』

――|応報焔尾《オウホウエンビ》――

 先程ぼやきながらも発動させていた能力、反撃の√能力がやつの攻撃に反応して狐の尾のように揺らめく焔が、一気にミミックへと降り注いぎ、その直撃を受けたミミックは吹き飛んで洞窟の壁に激突したのだった。

●●●

「うん、中々に面白いところだったね」
「だいぶ疲れましたがな」

 ふぅと2人揃って|ダンジョン《迷宮》から外へ出ると空を見上げる。空は晴れ渡り、冬の凛とした空気が酒臭い香りを吹き飛ばすかのよう。

「さて、土産もできたし、戻ったらのんびりしようか」
「まぁ、たしかに、味は良かった」

 2人の手にはそれぞれ酒の入った入れ物が。|ダンジョン《迷宮》が消え去る前に、まだ余裕があったので土産として汲んできたものだ。

 空は快晴、河津桜は見頃を迎えている。少し早い花見酒にでも洒落込むかと話しながら、翁と狐はゆっくりと足を進めるのだった。

尾崎・光
シンシア・ウォーカー
野分・時雨

 ダンジョンの奥へ奥へ。ぴちゃーんと落ちる酒の音に誘い込まれるように最奥へ行けば、そこにあるのは|宝箱《人喰いミミック》。

 それらに騙されるような面々では無いが、ここが最奥であれが核となってから、三人はハッ!という顔つきになった。

「ダンジョンの核。上等でございます。
倒してダンジョンごと消えていただき………消える?
あれ。お酒が滴るダンジョンが消える。倒さなくて……良い……?」
「私とて冒険者ですから、頭ではわかってはいるのです。悪しきダンジョンの核は破壊せねばならぬと。
どうにかして無限のお酒だけでも残せないでしょうか。無理ですか……。」

 上から|野分・時雨《のわけ・しぐれ》(初嵐・h00536)とシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)の言葉である。2人揃って、えーー、倒したくないなぁという気持ちが漏れでて……いや、もはやダダ漏れなのに、|尾崎・光《おざき・こう》(晴天の月・h00115)が、はいはいと手を鳴らす。

「生産者にして捕獲者が倒れたのだからもう良いのではという気配を二人から感……いや完全に漏れ出てるね。安全にダンジョンで飲める人間?より被害者の方が圧倒的に多いだろうから諦めよう?」

 このままだと、今度はミミックによって訪れた人間が喰われてしまう。流石にそれは放っておけない、つまりここは閉じるしかないのだ。

 三人(というか、主に2人は)渋々ながら配置に着く。先程の戦闘でお互いの得手不得手がある程度わかっている以上、やることもわかっている。

 タンっと前に出たのは護霊符に防護を仕込んだ尾崎と曲刀を構えた野分、シンシアはその後ろで意識を集中させる。

 2人が前衛、シンシアが後衛で術を放つという、先程と似た布陣であれど、やりやすく隙が少ないものだ。2人がミミックに攻撃を仕掛けようとした瞬間、ミミックがばっと後方へ下がり、金銀宝石といった財宝群が一気に二人に降り注ぐ。

「っっ!」

 その瞬間、防護を仕込んだ護霊符が二人の前にいくつも現れ、2人を守って吹き飛び、そうしてミミックが財宝の嵐に身を隠すのに尾崎が目を細める。

「距離があるのに詰めて来られるとはね。
護霊符全部吹き飛ぶとは威力あるじゃないか。」
「露払いは任せました」
「もちろん」

 隠れられたが、手がない訳では無い。背後のシンシアは護霊符に守られ、詠唱の間は安全と判断し周囲のインビジブルからエネルギーをチャージする。

 60秒間というタイムラグがあるが、奴は現状隠れられたと安心しているのか、積極的な攻撃はしてこずこちらの様子を見ているようだった。

『風は草木にささやいた……試練の詩だね。僕は倒す気だけれども。』

――|大木のやうに倒れろ《タイボクノヨウニタオレロ》――

 光が集中する。隠れている、だが、近くにいるのは確実、ならば、"全て吹き飛ばしてしまえばいい"。強い光が放たれた、財宝の嵐が吹き飛ばされ、ミミックが動揺した様子で姿を現した瞬間、一気に踏み出した野分が曲刀を振り上げる。

『ひと撫ですれば裏返し』

――|黍嵐《キビアラシ》――

 ミミックの体に振り下ろされる曲刀、霊力による加速がつけられたそれを、やつは避けることができない。ザン!とその身体に傷がつき、血らしきものを撒き散らしながら後退するが、野分は自身の左目を"あえて潰した"。

 後退する前に再度曲刀が本来なら有り得ぬ早さでミミックの体を傷つける。左目から血が流れるがそれは気にしない、こちらは√能力者、これくらいならばしばらくすれば回復する。

 よろけたミミックが再度嵐を発動させて隠れようとするが、それを尾崎が許さない。ひらりと手招いた蒼白めいた蝶を刃とし、ミミックを牽制する。やつがもう、隠れぬように。

「トドメは飲んでからの方が間違いないだろうけど
さすがにそこまでの余裕はないかな。」

 うーんとミミックを牽制しつつ呟いた時、同じく曲刀で共に牽制していた野分が反応した。

「これ倒して頑張って戻れば、飲み放題にまだ間に合いませんか?」

 倒してもすぐさまダンジョンが消えなければ、多少の時間さえあれば行けるのでは?飲めるのでは?!

「シンシアのねーさん!」

 思わず叫ぶ!間に合うかもしれない!ならさっさとこいつを倒さねば!!の気持ちを込めて

 シンシアにも二人の会話は聞こえていた。魔導書を構え、護霊符によって守られながら、ミミックを倒す魔術を組んでいたが、その会話に少ししょんぼりしていた気持ちが元気を取り戻す。

 さっさと倒してさっさと戻れば間に合うかもしれない!!!いいや、間に合う!ならば!

「ならばこいつはさっさと倒します。」

 カッと瞳が見開かれる。ミミックが最後の抵抗とばかりに複製体を飛ばしてくるが、こちらも術式は終えている。炎が彼女の周囲を踊る、踊る、巻き上がり

――ウィザード・フレイム――

 それは洞窟内の酒にも引火しミミックを包み込み燃やし尽くしていく。彼女の術の発動と同時に後方に飛び退いた尾崎と野分は、燃え尽きていくミミックを見ながらよしと頷いた。

 これでダンジョンが消えていく。なんだか締めのキャンプファイヤーのよう……ならばその前に、飲まなければ!

●●●

 ちょっとだけ焦げ臭いような匂いが体にまとわりつくが、それを外気の冬の空気で吹き飛ばして、三人がうーんと背筋を伸ばす。

 彼らの手には、それぞれ土産として詰め込んだ酒たち。ミミックを倒し、消えていくダンジョンで集めたものだ。

 飲み放題、とはいかないまでも、これなら花見酒程度は楽しめるだろう。

「あとはツマミかな。ツマミは結局狩れなかったし」
「なら町で買いますか。コウくんの奢り?」
「あ!それは良いですね!」
「うん、みんな自分で払ってね」

 和気あいあいと話しながら三人は花見酒に心躍らせる。

 こうして、酒ダンジョンは√能力者たちの活躍もあり、ひっそりと姿を消したのだった。めでたし、めでたし。

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挿絵イラスト