シナリオ

デビオニア派の巣

#√EDEN #√汎神解剖機関 #スパルタン教育委員会 #民間軍事会社『BBB』 #デビオニア派

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 暗い室内に、椅子や机がいくつも浮かんでいた。
 広さや、椅子などの形状から学校の教室に思える。だが、児童や生徒はおらず、無人だ。
 廊下側は比較的明るくて、窓枠に這っているものの正体がわかった。枯れた枝や草、葉っぱのたぐいだ。
 何重にも編まれている。
 その積層は、外側の窓のあったほうに向かうにつれて厚くなり、最後は壁も床も天井も、真っ黒。窓はすべて塞がり、壁と天井の境目の角度は鈍角化し、塗りこめられた黒さで、まるで穴でもあいているかのようだ。

 チャ~ラ、ラ、ラ~ララ~♪
「しょうわ仮面のおねえさま、顏を隠して正義を助ける、いい女ひとよ♪」
 |昭月・和子《あきづき・かずこ》(しょうわ仮面・h00863)は、√EDENに集った能力者たちの前へ登場した。
 赤い覆面と、マント。そして、歌。
「呼びかけに応じていただき、感謝します。私は√マスクド・ヒーローから来た正義の味方。ゾディアック・サインからの予知をお伝えしましょう」
 星詠みは、地図や画像などの資料を、マントのすき間から渡す。
「地図に記されているのは、事件がおこる小学校です。画像は予知に見たものを再現した絵で、ごらんのとおり鳥の巣です」
 小学校の教室の外にあるベランダ。
 その軒下にかかった鳥の巣ということだろう。
「温かくなってきたので、鳥がかけたのですね。その巣が√汎神解剖機関と繋がってしまいます。見た目は普通の巣だったものが、あるとき教室を飲み込み、児童たちをヒナとして育て始めるのです」
 学校は特定できたが、どの教室で怪異がおこるかわからない。
 そこで潜入しての調査が必要になった。
 探すのは軒下の鳥の巣だ。
 児童の家族や編入希望者、卒業生などなどの名目で訪れ、あとは能力者が直接探してもいいし、聞き込みをしてもいい。あるいは巣から小さな怪異が漏れ出し、奇妙な事件として噂になっているかもしれない。
 巣が発見されれば、校舎内を通って教室に向かう。
「潜入や調査は、みなさんの得意な方法でお願いします。上手く見つけられれば、教室が巣に変化したタイミングで入室することができるでしょう。なにかしら怪異が起こっているはずですが、それと戦いながらでも児童を教室の外へと逃がせます。ただし……」
 しょうわ仮面は、無人の教室に浮かぶ机と椅子のビジョンについて話す。
「鳥の巣発見に手間取ると、怪異化した教室に児童はすでにいません。その先は、私にも詠めませんでした」
 児童救出に成功した場合もふくめて、なんらかの敵が現れると言うのだが。
「どうやら、ここしばらく私が追っている敵、『スパルタン教育委員会』に関わりがあるようです。どうか、みなさんの力をお貸しください」

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第1章 冒険 『学校で情報収集』


蔵太・びあ

 社会の変革は進んだり、進まなかったり。
 |蔵太《くらふと》・びあ(酔い時雨・h06300)も頑張ってはいるけれど、勤め先でうまくやっていくのは、まだまだ難しい。
「ましてや、ハンパな霊剣士なんて……くすん」
 弱気になってしまうのは、事件現場になる小学校の校門をみて、お気楽だった子供時代を思い出したからだった。
 卒業生と偽って潜り込み、聞き込みで情報を集める依頼。
 会社だけでなく、能力者の任務にも勇気がでない。恰好はレディススーツでキマっているし、職員室に行ってみたら、教員は歓迎ムードで、低学年の子たちとお昼休みに遊んであげる機会まで得た。
 順調なのに、コミュ症すぎとついつい低い点数を自分につけてしまっている。
「そう……これは神がわたしにあたえたもうた試練なのです。今こそわたしの隠された力を……」
 ジャケットの内ポケットに隠して持ち込んだボトルをグイッ。
 シラフでなければ、なんでもできる。
「ねえ、いっしょにいいかな?」
 気軽な感じでにこやかに話しかけ、児童とのレクリエーションをこなした。
 特に、3人組の女の子たちと仲良くなる。
 任務で得たい情報は『鳥の巣の場所』だ。
 しかし、児童本人か兄弟姉妹の教室の横にでも巣がかかっていなければ、気にすることはないだろう。3人ともが首を横にふる。
(「あとは、巣から漏れた怪異のうわさですね……」)
 低学年にとって、『怖い話』とは大きな関心ごとだ。好きなので聞きたがる子、逆に避けるために予備知識を入れようとする子。
 一人目は、ぺらぺらとしゃべるけど、本から得た話がほとんどだった。
 びあは頭を撫でてやる。
「そう、いっぱい本を読めるのね。カラスの子が本当は怖いなんて知らなかったわぁ」
 二人目は、用心深いタイプ。
 おかげで校内のうち、寄り付かないようにしている場所がいくつか判った。
「教えてくれてありがとう、お姫様!」
 当たり情報かもしれないと喜んだあまり、びあは大袈裟に傅いて、手の甲にそっとキスをする。
 傅いた瞬間にズボンが真ん中からバツンっと弾けて、生の尻肉が露わになる。
 気にしているヒマはない。というか、びあ自身が服の破れに気付いていなかった。
 なぜなら、三人目の児童が。
「うっ、ううっ、うわぁああああん!」
 挙げられた話が怖すぎて、泣き出してしまったからだ。
 びあが、女児の服を確かめると、粗相をしていることまで判る。
 こうした時、女の友情は麗しい。
 失敗の露見を避けるため、友達を空いた部屋に連れて行き、着替えさせることを進言した。
「だいじょーぶだよ、あたしもいっしょのかっこうするよ」
「みんな、いっしょだから、はずかしくないよ。ほら、おねーちゃんだっておしりでてるよ」
「そうそう! わたしなんか、パンツごとなくなって……」
 泣く子をなだめすかして、連れていく。
 びあも含めて、親交はより深まった。
 君たちが大人になったころ、すばらしい社会が出来ていますように。

十・十
星宮・レオナ

 予鈴が鳴った。
 もうすぐお昼休みは終わり。
 小学校の校舎裏で、女の子にもみえる男児と、ボクっ娘の元女子高生がひそかに落ち合う。
 |十・十《くのつぎ・もげき》(学校の怪談のなりそこない・h03158)は、二つ名のとおり、幽霊だ。享年をなぞって小学4年生として編入してきた。
「頭痛がするでごぜーますがモーマンタイでごぜーます」
 退魔道具と同じ効果の『文字が擦り切れた御守り』を使って生身の状態を保つ。痛みはその影響。
「ここの卒業生どころか、高校も通えてないけど、正体を隠しての調査は上手くいったかな」
 星宮・レオナ(復讐の隼・h01547)は、『ミスティカ・キー』を手にする。
 『七不思議』の噂は、七つどころじゃなかったけど、手分けしたおかげで目星はついた。
「カラスの七つの話が一番こえーでごぜーますが、今回は除外でごぜーますね」
 |十《もげき》は、『|小動物転生《ケモノカタリ》』をつかって、そばにいたインビジブルを小鳥の姿に変えた。
「探索なら任せるでごぜーますよー」
 小鳥には、『しゃべるカラス』の目撃場所をまわってもらう。
 『不思議な語尾・いぶ』を探すのは、レオナのミニチュアマシンだ。
 目の前の空中に出現した魔法陣の中心に、ミスティカ・キーを差し込み、捻る。
「SUMMON!」
 音声が鳴った。
 レオナとも|十《もげき》とも違う、声。
 魔法陣から隼、狼、蜘蛛型の動物メカが出てくる。これが、『ロックビースト』だ。
「それじゃあ皆、お願いね」
 大きさも10センチほどなので、授業中の学校でも目立たない。
 インビジブルの小鳥と、ロックビーストは校舎裏から散らばっていく。
「ところでモーマンタイってどういういみでごぜーますかねー?」
「さぁ、漫画か映画で言ってたみたいだけど……?」
 流行ったのは、ふたりとも生まれていないか、死んでいるあいだか、日常を失ったあとだったか。
「あ、ボクのとこがアタリだったね!」
 レオナのクモロックビーストが、鳥の巣の映像と位置情報を送ってくる。依頼時の絵とも照合したから間違いない。
「急ごう。頭痛は?」
「モーマンタイでごぜーます」
 外から回ったほうが早そうだったので、レオナはリミッターを解除して、3階のベランダまでいっきにジャンプした。
 しかし、√汎神解剖機関との接続が始まったせいか、窓は内側から枝葉で塞がれていた。結界に覆われ、巣もガラスも破壊は不可能である。
 |十《もげき》が、廊下側から引き戸を破った。
 机と椅子の並びは乱れている。
 鳥の巣のようになった床に、児童と男性教師がうずくまっており、苦しそうではあるが意識はあるようだ。
 壁と天井の交わる角に、黒い穴があいた。ベランダ側からは鳥の巣が張り付いている、その裏面にあたる。
 穴を通じて、尖がった頭巾をかぶった集団が転送されてきた。
「ひなたちを、宿主にしまじょニア・いぶ」
 『狂信者達』は、奇妙な語尾をつけて喋る。

第2章 集団戦 『狂信者達』


蔵太・びあ

「あーあー、なんか来やがりましたね……」
 |蔵太《くらふと》・びあ(酔い時雨・h06300)は、√汎神解剖機関からの『狂信者達』来訪の知らせを受ける。
 空き教室で、こっそりお世話をしていた。
 粗相をした女の子とそのお友達のお股をしっかり手で押さえて隠しながら避難させて。
「また後で遊ぼうね、待っててね!」
 と、怖がらせないよう声を掛けて一旦離れる。
 せっかくの子供たちとの触れ合いタイムだった。校門をくぐるまではマイナスな思考に支配されていた|び《・》|あ《・》だが、邪魔をされたと怒るほどに使命感に燃えている。
 そして、ジャケットから出したボトルは飲み干し空っぽに。
 現場の教室のある階へと、二段飛びで駆けあがる|恰好《下半身》は、さっき粗相した子達と同じ。
 尻肉は左右にぶるんぶるんと揺れ、踊り場で方向転換するさいには、すぼまりが少し開く。
「お前らが悪者かーー!」
 開け放たれた戸口から暗い教室へと、傘を握って突入した。
 べろんべろんに酔っているのに、いや酔っているからこそ、『|酔気降臨・壱ノ型『人間傘歌』《ハレルヤ》』のスピードは増す。
 黒い、尖がった頭巾の『狂信者達』をばこばこ殴りまくった。
 範囲攻撃など所持していないため、速さに任せて攻撃するスタイル。
「こらー! このー!」
「いたーいぶ」
 殴りつけられて、あがった悲鳴が甲高い。
「敵対者がいまじょにあ」
「教主に承認をとりゅ。魔ジョニア砲、よういぶ」
 反撃の手段を講じているようだ。
 語尾が特徴的すぎて、意味を捉えにくいが、疑いようのないことがある。
「ふひ……逃しませんよぉ……」
 完全に目がすわった|び《・》|あ《・》は、狂信者のひとりのローブを裾からひっつかむと、左右に引き裂いた。
「『|不純理性批判《ミンナダメニナレ》』!」
 布地は、へそのあたりまで破れる。
 中にはなにも着ていない。
 白い肌と、太めの大腿。濃い茂みに、きゅっとした腰のくびれ。
「お、女じゃ~ん!」
 二人目、三人目と確認。
「みんな、女じゃ~ん!!」
 びあは、さらに捲りあげたり、引きちぎったり。狂信者達の戦力を削った。
 実働可能な人数が低下したため、作戦提案していた武器は運用ができなくなったようだ。しかし、教室の天井と壁が接するところ、黒い穴になった異界との門から、狂信者達の増援はやってくる。
「な、なにこのお酒臭さいぶ」
「ああ、先遣の信者たちが全部、あんなコトにあ・いぶ」
 教室の暗がりに、びあを中心に円形に寝かされている。
 びあは自分の舌と両手の指で、一度に三人を相手にし、狂信者達のあいだを時計の針のようにくるくるまわりながら、全員を均等に満足させようとしていた。
「恰好は同じなのに、感度には差があるのね~。あぶぶぶ、ぺろぺろぺろ……」
 激しく出し入れされる中指が、その信者のもつ、信仰の核心を探り当てた。
「ディヴィーッ!」
 ぶっしゃあああ。
 吹いて、果てる。
「ひとり、撃破したのです。うぃ~。回っていたら、わたしの酔いもまわって~」

ベニイ・飛梅
十・十

 『狂信者達』は不気味な装束のわりに、どうもバタバタと落ち着きがない。
 素人くさいというか、戦闘のプロといった身のこなしではなかった。だが、|十・十《くのつぎ・もげき》(学校の怪談のなりそこない・h03158)はすぐに気がつく。
「きっと、戦いに来たんじゃねーでごぜーますよ!」
 床には、まだよく動けない児童たちがいて、狂信者達が抱えようとしている。あの、異界との門へと連れ去るつもりだ。|十《もげき》のところにも捕まえにきた。
 小学4年生の設定だから。
「く、数が、多いでごぜーますなー」
 √能力者なので、振り払って抵抗するのは簡単だ。
 門から次々と現れる増員には手が回らない。
「|十《もげき》さん! 子供たちを取り返すのは、わ、私が……!」
 単身、教室に飛び込んできたのは、ベニイ・|飛梅《とびうめ》(超天神マシーン・h03450)だった。
「狭いし足場も悪い。ヴィークルには不利。でも、苦手だから苦手なんて、いつまでも言ってられない……!」
 愛機は外で待機させてある。
 教師と生徒達を教室から避難させられるのは、自分。
 覚悟を決めると、子供を抱えた狂信者にむけて、両手をかざした。
 左手の皮膚にはしった継ぎ目をさかいにカバーがスライドして、オーグメントアームがポップアップする。射出されたワイヤが狂信者だけを捕まえて引き寄せ、右手の掌から|電撃《テンジンブレーク》を発すると、掌底ぎみに当てた。
「ディヴィヴィッ!」
 そのひとりを無力化することに成功する。
「次はっ!」
 ベニイは門を見据えると、そちらに掌をかざした。
 出力を上げる。
 手の甲がわに文様が浮かび上がり、義手の関節部は人工的な継ぎ目がより顕著になる。
「|超天神竜巻《テンジンブレーク・エレクトロマグネパルスストーム》、無ーーー理ーーー!」
 門から出現した増援が、電撃によって即足止めになった。
 これで拉致は防げるが、門から視線をそらせないのと、急激な体力の消耗がある。避難誘導を同時にやるのは、それこそ無理だ。
「倒れている生徒や先生に当たらないように気をつけるでごぜーますよ」
 |十《もげき》は、敵が自由にならないうちに、全滅させることに決めた。
「君の爪は僕の爪、君の牙は僕の牙、君の恨みは僕の恨み。力を貸して、一緒に戦おう。『|憑依合体《ノケモノ》』!」
 子猫の霊と融合する。
 猫耳と尻尾が生えた状態になる。適当な狂信者に突撃して足払いを仕掛けた。
 転がった相手は、ローブの裾から生足をむきだしにする。子猫小学生はそれを両脇に抱えると。
「頭上注意でごぜーますよ!」
 振り回しはじめた。
 いわゆる、ジャイアントスイングである。味方にも当たらないように注意しつつ、電撃をくらって麻痺しているほかの狂信者達につぎつぎとぶつけ、打ち倒していく。
「敵を武器にする『喧嘩殺法』でごせーますな! ぐーるぐるぐるぐるぐるぐるでごぜーます!」
 さすがにこの騒がしさで、男性教師は完全に目を覚ました。
 児童の避難誘導を試みている。
 |十《もげき》は最後に、持ってた狂信者を投げて撃破する。
 異界への門のまえには誰もいなくなった。
 すると、今までとは別の声がして、教室の様相に相応しい怪人が門から渡ってくる。
「子供の誘拐に時間がかかりすぎだよ。ここは民間軍事会社のプロがお手本を……」
「やっぱり……。また、あなたたちですね!」
 ベニイには見覚えがある、鳥のマスコットキャラクター。
 『ベンジャミン・バーニングバード』は、顔を出したとたんにビリビリしびれているが。

第3章 ボス戦 『ベンジャミン・バーニングバード』


蔵太・びあ
十・十
継萩・サルトゥーラ

「またお前かーーーー!!!」
 |蔵太《くらふと》・びあ(酔い時雨・h06300)は、『ベンジャミン・バーニングバード』にむかっていった。
 全裸で。
 鳥の着ぐるみのようなマスコットは、丸い目に不等号記号を浮かべて不快そうにする。
「え? ちょっと、この|女《ひと》、なにか混ぜて塗ってる? 香りがヘンだよ?!」
「敵だーー! その、ゆるキャラっぽい見た目、この前もしばいただろッ!」
 十人十色の女の臭いで顔中をべとべとにしたまま、びあはすごい速度で思い切りふりかぶった武器、『その辺で買った500円の傘』を打ち下ろす。
 √能力『|酔気降臨・壱ノ型『人間傘歌』《ハレルヤ》』が効いているので破壊力はあった。
 いかんせん、能力の相性が悪く、ボス敵の撃破には至らない。
 ベンジャミン自身は痛がっているし、驚いてもいた。
「報告があったね。服を脱ぐことで対策されたって。おまえがそうなの?」
「酔った勢いだ、よくわかんないわーー! この悪い鳥め、そういえば言ってたな、幼稚園バスもって……!」
 噛みあってそうで、噛みあっていないやり取り。
 児童や教師などを巻き込む恐れがなくなったと確認し、|十・十《くのつぎ・もげき》(学校の怪談のなりそこない・h03158)はあらためて、狂信者達の次に出てきた敵を見た。
 武装した鳥だ。
 確かにこの教室は、鳥の巣の怪異と融合している。
「いくらなんでも、カラスの子の怖い歌とは無関係でごぜーます。軍事会社っていう名前のマスコット会社でごぜーますかね?」
「いや、民間軍事会社『BBB』の怪人で間違いない」
 継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)が、解説を加える。
 幽霊とデッドマンという違いはあるが、|十《もげき》とサルトゥーラはともに学徒動員兵。敵兵の戦力を分析する知恵や勘を備えていた。
「みなさんが、マスコットを次々にお前お前と……。サルトゥーラくんも知り合いでごぜーますー?」
「はは、知り合いか。そりゃいい」
 サルトゥーラは笑う。
 視線はベンジャミンになく、また|十《もげき》とも|び《・》|あ《・》ともずれている。
「オレは√ウォーゾーンで二度ほど戦ったしな。けど、注意すべきはそこじゃない。どの√にも出現する簒奪者ってのはいまのところヤツらだけなんだ。悪の組織の広がりかたは侮れない。兵士としての練度もある。ほら、おいでなすったぜ!」
 指差したのは、黒い穴のなか。
 闇から攻撃ヘリコプターの編隊が接近しており、銃で武装したゆるキャラ兵も降りてくる。
「楽しいのはこれからだ。細かいヤツらはオレに任せな」
 小型改造無人ドローン兵器『アバドン』を展開する、サルトゥーラ。|十《もげき》は頷き、指揮官のボスキャラへと向かう。
 『ゆるキャラ怪暴機関』は陣形を組み、自動小銃を発砲してきた。
「あだだ。あだだだ!」
 全裸酔客の肌に当たっている。
 『アバドン』の一部が、盾代わりにまわって、びあを守った。
 サルトゥーラは、ドローン本隊を指揮して銃撃戦をいどむ。|疑似人格《彼》は戦闘を楽しんでいる。
 その傾向は、肉体をつかって大暴れするときもあれば、指揮官役におさまって冷静に戦術を練るときもあるのだ。
「レーザーで追いこめ。ミサイル隊、足が止まっている敵部隊から撃破していけ」
 ドローン兵器が、ゆるキャラの侵攻を押し返している。
 シリアスな攻め方を受けて、血みどろの兵には愛嬌をふりまいている余裕がない。
 ボスにも援護がいかず、びあの猛攻が盛り返した。
「幼稚園バスも!? ジャック!? 小学校だけじゃなくて!?」
 ワナワナと震える。
「何て……何て……」
 歯噛みして、傘を握る力を強める。
「うらやましいことをッッ……!!!」
「痛い、痛い、イタァイ! 知らないよ、幼稚園バスはジャックしてない! √ドラゴンファンタジーの……いや、√妖怪百鬼夜行? とにかく、ボクが契約しているのは、√汎神解剖機関の『デビオニア派』だから!」
 ポロっと、悪の組織の名前が判明する。
「そうなの? ……むふう、身体で詫びてもらおうと思ったのにぃ♪」
 びあは突如として、流し目。
「……ちなみにこの着ぐるみも中に女が入ってるとかじゃないでしょうねェ?」
 ヨッパライは、唐突なものである。
 ナデナデと鳥の表面を撫でる。
 すぐに、中の人などいないと察した。
「わたしの純情をもてあそだましたなぁ!!!」
「だから、知らないってば!」
 ベンジャミンはギリギリ回避したが、びあの『人間傘歌』の『刺突』は容赦なかった。霊剣士はシラフのときも自信を持っていい。
 攻撃ヘリコプターが、|十《もげき》の動きを捉えることは、ついになかった。
 オバケのポーズでゆらぁりゆらぁりと揺れながら空中浮遊している。
 機関砲もミサイルも、黒い穴からでてきて幽霊を狙うものの、野生の勘というか、フェイントのようなもので避けられてしまうのだ。
 ちなみに、教室そのものが怪異に包まれているので、校舎は戦闘の余波から免れている。
 叩かれ疲れた様子のベンジャミンの前まで来た|十《もげき》は、拳を構えた。
「全力でぶん殴る!」
 『|一点集中全力突《パイルバンカー》』を発動する。
 右拳が、『ベンジャミン・バーニングバード』の腹にめり込んだ。
 びあも触って確かめていたが、見た目に反して着ぐるみではなさそうだ。鎧砕きをのせていたので、|十《もげき》の腕は、鳥の身体を貫通する。
「グエッ!」
 ひよこみたいなクチバシから、血反吐がたれる。
「汚いでごぜーますー」
 |十《もげき》が下がると、ベンジャミンは枝葉の編まれた床に倒れた。
「……うう、吾妻先生、ごめんなさい。たぶん、またやります……」
 床も壁も天井も、マスコットの消滅とともに元に戻っていく。最後に黒い穴も消えた。念のため、|十《もげき》とサルトゥーラはベランダに出て、軒下にかかっていた巣を外し、中が空であることを確認してから処分した。
 びあは、戦闘後の恰好で廊下に出て、あの女児たちを迎えにいく。
 今度は時間を掛けてじっくり親睦を深めるため。あと、なんとなく、一番目の子の怖い話が気になっていた。

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