シナリオ

狙われた花嫁

#√ドラゴンファンタジー #喰竜教団

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√ドラゴンファンタジー
 #喰竜教団

※あなたはタグを編集できません。

●血に染まるドレス
 晴天の昼下がり。√ドラゴンファンタジーのとある街にて。
 教会は祝福の鐘を鳴らし、バージンロードを花婿と花嫁がゆったりと歩く。
「おめでとう、アラン!」
「お幸せに、オリビア!」
 人間のアラン、ドラゴンプロトコルのオリビア。今日は二人の結婚パーティーだ。二人の家族と親戚、友人や職場の同僚たちが集い、二人の門出を祝っている。
 会場の庭園はお祝いの花飾りに彩られ、テラステーブルには豪華なご馳走が並ぶ。
 この日のために集まった音楽隊はバイオリンやフルートを奏で、幸せの音楽を響かせていた。
 式は終盤を迎え、来場客たちが二人を見送るためにバージンロードの脇に並ぶ。バージンロードの先では、花で飾られた馬車が二人を待っていた。
「アラン……これからもずっと一緒にいようね」
「ああ、約束する」
 バージンロードを歩き、花飾りの馬車に乗って、二人は新たな旅路へ――――。
 馬車に乗り込もうとした二人の前に、暗い影が落ちた。
「人間の姿に堕とされた挙句、人間の男と結婚すると? なんと哀れな」
 馬車の上に見知らぬ女が立っていた。エルフのような、ドラゴンプロトコルのような、判然としない女だ。
「……? あなた、誰な……」
 オリビアの言葉は最後まで続かない。純白の花嫁衣裳に、真っ赤な花が咲いた。それは鮮やかな血の色だ。
「え……?」
 何が起こったのか理解できないまま、オリビアは馬車の前に倒れ伏す。
 会場全体が恐怖と混乱に突き落とされ、悲鳴が湧き起こった。半透明の体を持つモンスター、エンジェル・フラットワームが、翼や腕のようなものを広げ、会場の人々を包囲する。
 オリビアから上がった血飛沫は、アランの服をも赤く染め上げた。
「オリビア……!!!!!!」
 アランが叫んだ。その叫びなど気にも留めず、オリビアを斬り殺した女は、ゾッとするほど穏やかな声で紡ぐ。
「貴女はこのような場所に居るべきではない。この身に尊き遺骸を移し、必ずや真に強き竜の姿を取り戻させましょう」
「貴様! よくもオリビアを――」
 殴り掛かろうとするアラン。だが、その拳が女に届く前に、その身は呆気なく斬り飛ばされた。
「あぁ、無力……あまりにも無力な人間よ。お前にこの御方は似合いません。諦め……ああ、もう死んでしまいましたか?」
 女は薄く笑う。邪魔がこれ以上入らぬよう、エンジェル・フラットワームたちに見張らせつつ、女はオリビアの遺体を持ち去るのであった。

●幸福を壊す者
「皆様、√ドラゴンファンタジーにて、ドラゴンプロトコル襲撃事件が発生しているのはご存知でしょうか」
 |泉下《せんか》|・《・》|洸《ひろ》(片道切符・h01617)は話を切り出し、集まった皆へと今回の事件について語る。
 かつて世界を支配していた『竜』を崇める『喰竜教団』の教祖『ドラゴンストーカー』。彼女が黒幕となり、戦う力を持たないドラゴンプロトコルを襲撃しているらしい。
「どうやら敵は、『人間の姿に堕とされたドラゴンプロトコルを殺し、その遺骸を自身の肉体に移植することで、いつか強き竜の力と姿を取り戻させる』……と主張しているようなのですが……正直、疑わしいところですね」
 そのような狂った教義のもと、結婚パーティーが襲撃される。狙われるのは花嫁――オリビアという女性だ。皆が介入し、ドラゴンストーカーとその配下からオリビアを守ることができれば、彼女は命を奪われずに済む。会場へと赴き、彼女を守ってもらいたい。
 事件が起こるのはパーティーの終盤。皆はそれよりも前に会場に入ることができる。「パーティーは自由に参加できる形式となっています。敵が来る時間までは、パーティー会場で『結婚をお祝いするために来た客』として過ごすと良いでしょう。それが一番自然ですから。それと、大事なことがもう一つございます」
 一息置いた後、洸は強調するように言葉を続ける。
「決して、『会場の人々に事件のことを話してはいけません』。人々の雰囲気や会場の様子など、僅かでも変化があれば、ドラゴンストーカーは察知して作戦を変えるでしょう。予知が及ばない所で、花嫁が殺される未来に繋がります」
 助けようとした結果、かえって助けられない状況になるということだ。敵が襲撃するその時まで、皆には結婚を祝福するお客様を演じてもらいたい。御馳走を食べて過ごしたり、お祝いの歌や音楽を奏でたり……思い思いに過ごすと良いだろう。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 日常 『カーニバルカーニバル』


中村・無砂糖

●幸せに満ちた場所
 少し早い陽気に包まれて、今日は幸せな結婚パーティー。
 会場の庭園へと訪れた|中村《なかむら》|・《・》|無砂糖《むさとう》(自称仙人・h05327)は、華やかな光景に表情を輝かせる。
「なんと結婚式とな! それはそれはおめでたいことじゃ! これはジッとしてはおれんのう!」
 黙って見ているだけでは足りない。無砂糖は花婿と花嫁に話し掛けに行く。
 二人は会場の中心で、人々に囲まれながら食事や会話を楽しんでいるようだ。
「おお、お二人とも御結婚おめでとうじゃ!」
「ありがとうございます」
「ふふっ、ありがとうございます」
 祝福の言葉を贈る無砂糖に、花婿と花嫁――アランとオリビアが穏やかに微笑んだ。
「花嫁さんは綺麗で素晴らしいのう。花婿も今日はばっちりキマってベリーグッドじゃ」
 二人の衣装をストレートに褒めれば、二人は嬉しそうに表情を緩ませる。
「今日のために仕立ててもらったのよね」
「ああ、仕立て屋さんが頑張ってくれたおかげだ」
 衣装を仕立てた職人も、鼻が高いことだろう。職人も彼らを祝うために心を込めて作ったに違いない。衣装のデザインを見ればよくわかる。
 わしも負けてはおれんのう、と無砂糖は奮起した。
「わしからも盛大にお祝いさせてもらうのじゃ! とくとご覧あれ!」
 華麗に軽やかに舞いながら会場を巡り、色とりどりの花弁を振り撒いた。
 赤、黄、白……瑞々しく柔らかな花弁が、会場を鮮やかに彩ってゆく。
「どうじゃ? 世に言う『花咲かジジイ』てヤツの祝福は、綺麗じゃろう?」
 ぱちりとウインクしてみせれば、アランとオリビアだけでなく来場客も拍手喝采だ。
 温かな歓声に包まれて、無砂糖の心も幸せな気持ちで満たされた。
(「なんか、忘れているような……はて? 気のせいかのう」)
 ま、大事なことならそのうち思い出すじゃろ、などと思い直しつつ、無砂糖は全力でパーティーを楽しむ。

イリス・フォルトゥーナ
アスター・フォルトゥーナ

●幸せのお勉強
 庭園の色鮮やかな花々と、響き渡る華やかな音楽。其処に居るすべての人々が祝福の言葉を紡ぎ、幸せをその身に感じる――幸福に包まれた庭園は、まるで楽園のよう。この楽園を壊そうとしている者がいるなど、人々は知る由もない。
 会場を目前に、アスター・フォルトゥーナ(天上で光り輝く幸運の星・h00862)は表情を引き締める。
「幸せの中にいる花嫁を殺すなんて……許せないよ。絶対に阻止しないと」
 彼の言葉に、イリス・フォルトゥーナ(楽園への|階《きざはし》・h01427)は力強く頷いてみせた。
「喰竜教団、ですか……歪んだ教えのせいで殺されてしまうなんて。使徒として、許せませんね」
 二人はパーティーが開かれている庭園へと足を踏み入れた。お客として振る舞いつつ、襲撃に備えて会場を見回っておきたい。会場内を巡っていると、賑やかな音楽が聞こえてきた。
 音がする方を見れば、来場客が音楽隊の演奏に合わせてダンスを踊っている。その様子に、アスターがキラリと瞳を輝かせた。
「わっ……!! 皆ダンスしてる……!! 皆楽しそう……音楽もノリノリだし……」
 イリスも踊る人々へと目を向けた。皆の笑顔が眩しい。耳に届く歓声に、イリスは表情を綻ばせる。
「皆さん自由に踊られていて、見ているだけで楽しい気分になりますね」
 胸の奥が温かくなる心地を感じつつ。アスターが思い付いたように口を開いた。
「ねぇねぇ、イリス。ちょっと踊っていかない? 折角の機会なんだからさ……!」
 その言葉に、イリスはぱちりと瞳を瞬かせる。
「踊りはあまり詳しくないのですけれど……」
 遠慮がちに返せば、アスターの煌めく眼差しと目が合った。イリスへと手を差し伸べて、アスターは朗らかに紡ぐ。
「大丈夫、ボクが手取り足取り教えてあげるから! ほら、楽しもう!」
 可愛らしいお誘いに、イリスはこくりと首を縦に振ってみせた。
「よろしくお願いします。アスターさんが教えてくださるなら、私もきっと!」
 きっと、楽しく踊れるはず。
 二人は手を繋ぎ、音楽を熱心に聞いて、少しずつ流れを掴むように体を動かす。
 アスターはイリスが踊りやすいように、彼女をリードする。
「次は、リズムに合わせて、こうやってステップを踏んで……」
 イリスはアスターの声に導かれるように、次のステップを踏む。
「こう、でしょうか?」
 イリスの軽やかなステップは、足元に花を咲かせるような可憐さを魅せる。形になってゆくダンスに、アスターは満面の笑みを浮かべた。
「いい感じ! ふふっ、ボクたちのダンス、ピッタリ息が合ってるよ!」
 きらきらと星のように輝くアスターの瞳を、イリスは彼女の瞳に映し込んだ。
(「こんなに楽しそうなアスターさんを見るの、やっぱり幸せです……!」)
 春の訪れを祝う曲と共に、二人はくるりくるりと舞い踊った。
 曲の終わりにポーズを決めれば、ダンスを眺めていた来場客から拍手が沸く。
 会場に入る前は緊張が漂っていた二人も、今では幸せを分かち合うパーティーの参加者だ。
「結婚ってこんなに賑やかで、楽しくて、幸福なものなんだね」
 アスターが感慨深げに言う。大切な人のこともあるのだから、さらに学んでいかないと。
 それはアスターの想いだ。そして、イリスの想いでもある。
「来るべき時のために、これも大事なお勉強、ですね!」
 |最初の贈り物《フォルトゥーナ》のその先、結ばれた後。知識としてだけでなく、見て、聞いて、感じることで、たくさん知っていきたい。
 二人は幸福に満ちた花園で、二人の未来を学ぶ。

ゾーイ・アストン

●密やかに待つ
 大勢の人で賑わうパーティー会場は、華やかな活気に満ち溢れている。
 ゾーイ・アストン(ドラゴンパトロール・h06445)は会場へと入り込み、早速行動に移る。ドラゴンプロトコル襲撃事件。個人的に気に掛かっていたところに、事件の依頼が舞い込んできた。
(「ここで遭遇できるとは僥倖でした。事件解決に尽力いたしましょう」)
 表面上は穏やかな雰囲気を崩さず、彼女はぽつりと呟く。
「……今日も出動要請が無くて暇ですから、ね」
 落ち着いた足取りで、ゾーイは新婦側の来賓客が集まるテーブルへと向かった。
 道中でスタッフから受け取ったグラスを手に、彼女は客へと挨拶する。
「この良き日に、お食事をご一緒しても?」
「新郎さんの知り合いかな? どうぞどうぞ~!」
 来賓客の女性たちが、ゾーイを温かく迎える。
 ありがとうございます、とゾーイは柔らかに微笑んで、彼女たちと同席した。
「いや~、オリビアもいい人を捕まえたよねぇ」
「職場の取引先の人だっけ? まさに運命、って感じよね!」
「とっても頼りがいのある人なんですって!」
 オリビアの友人たちの話を聞くに、彼女は平和な学生生活を過ごし、一般企業に就職。後にアランと知り合い交際、結婚に至ったらしい。
(「良き出会いに恵まれた、あとはどこにでもいる普通の女性……といったところでしょうか」)
 ちょうど良い頃合いで、新郎側の席に戻ることを伝え、テーブルから離れた。会場を一歩引いた所から眺めてみる。
(「……この平和な光景が、後に一変するのですね」)
 罪なき花嫁が狂った教義の犠牲になり殺される――そのような結末は、絶対に迎えてはならない。ゾーイはグラスに入ったソフトドリンクを一口飲んだ。ゆっくりと喉の奥に流し込み、戦いに備えて心を落ち着ける。

ティファレト・エルミタージュ

●恋を想う
 満開の花飾り、香り立つ料理の数々。結婚を盛大に祝うパーティーへと、|ティファレト《Tiphereth》|・《・》|エルミタージュ《Hermitage》(|真世界《リリー》の為に・h01214)は足を踏み入れた。
(「喝采せよ、と言うべきかな……あの痴れ者は後でぶちのめすとして、今は……」)
 花婿と花嫁に歩み寄り、ティファレトは可愛らしい花のように微笑んだ。
「おめでとー! おめでとー!」
 純真無垢な子供を演じ、祝福の言葉を掛ける。アランとオリビアは、ティファレトに喜びの笑みを返した。
「ふふ、ありがとう」
「御馳走もいっぱいあるから、食べていってね」
「わーい! たくさん食べる―!」
 元より食べるつもりである。が、今の彼女は来賓の子供。大喜びするフリをしながら、ご馳走が並ぶテーブルへと駆けてゆく。
 テーブルには沢山の料理が並んでいた。ローストビーフ、チキングリル、ケバブ。飲み物もしっかりと用意されている。
「美味い。間違いなく一流のシェフに作らせているな……もぐもぐ」
 口直しに熱い紅茶も飲みつつ、肉料理を次々と口にする。やはり、肉料理は良いものだ。
 食べながら何気なく花嫁へと視線をやった。これから、我々が彼女を守るのだ。
(「√能力を使わず、ただ座して待つ……これも我らの戦いであるか。……にしても、我って恋仲とかいたのかなぁ……」)
 失った記憶の中には恋仲の記憶もあるかもしれない。当然、思考を巡らせても頭の中は空白だらけなのだが。物寂しさを紛らわすように、ティファレトは花嫁の衣装をじっと見つめる。
(「……綺麗な花嫁衣装だ。我もいつかは、ドレスを着て……」)
 そこまで考えて、ふるりと首を横に振った。あまりの美しさについ夢中になってしまったが、気を引き締めなければ。
(「腹が減っては戦ができぬ、だ。戦いに備えて英気を養うぞ」)
 止めなければな、何としても。脳内で言葉を反復し、ティファレトは料理を口に運び続ける。

眞継・正信
ルイ・ラクリマトイオ

●Shall we dance?
 青い空の下では花々が祝福するように咲き誇り、喜びの歓声が天へと響く。
|眞継《まつぐ》|・《・》|正信《まさのぶ》(吸血鬼のゴーストトーカー・h05257)と|ルイ・ラクリマトイオ《涙壺のルイ》(涙壺の付喪神・h05291)は、幸せを運ぶ祝祭へと訪れた。二人は花婿と花嫁に会い、寿ぎの言葉を贈る。
「これは賑やかな結婚式だ。皆に祝われるとは、さぞ良い花婿と花嫁なのだろう。おめでとう」
 正信に続いて、ルイも紡ぐ。
「私からも、ささやかながらお祝いの言葉を贈らせてください。ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「今日は本当に色んな人からお祝いしてもらえて嬉しいわ」
 花婿と花嫁の表情は晴れやかだ。二人を見つめながら、ルイは想う。
 かつての主人たちは、色々な面持ちでこの式に臨んでいた。そこには喜び以外の感情もあった。しかし、今目の前に居る二人、来場した人々は、皆幸せに満ち足りた顔をしている。この幸せを、踏み躙らせてはならない。
 花婿とのファーストダンスを終えた花嫁へと、正信が和やかに微笑みかける。
「よろしければ、私とも一曲、踊っていただけませんか?」
 ダンスのお誘いに、花嫁はまぁ! と笑みをこぼす。
「こんなに素敵なおじ様と踊れるだなんて、アランが嫉妬してしまうわね」
「オリビア……そんなこと言って、もう……」
 花婿の表情も変わらず穏やかだ。次の曲が始まり、正信は花嫁の手を取ってダンスを踊る。花嫁との一曲を終えれば、次は不慣れそうなお嬢さんや、ようやく立てるようになったおちびさんと。エレガントに、流れるように。
 映画のワンシーンでも見ているような光景に、ルイは手拍子で華やぎを添える。
「正信さんはお上手ですね……昔取った杵柄でしょうか」
 おちびさんとお別れして、戻ってきた正信へと、ルイは尊敬の眼差しを向けた。
「そんなところかな。ルイ君も一曲どうだい?」
 音楽隊が奏でる演奏は絶えることなく、次のダンサーを待っている。
「私も……ですか」
 躊躇うように言い淀むルイ。彼の反応に、正信はひとつの考えに思い至る。
「ルイ君、まさか気後れしているのか?」
 正信の言葉に、ルイはこくりと頷いた。
「興味はあるのですが、あまり経験がないものですから、気が引けまして」
 ふむ……と正信は思案したあと、柔らかな微笑みと共に、ルイへと手を差し伸べる。
「踊りたくないならともかく、興味があるなら試してみよう。私が相手なら、練習気分で気楽だろう?」
 ゆっくりと差し出された手に、ルイは頼もしさを感じる。こんなに優雅でスマートなお誘いをされてしまっては、断る理由など何処にもない。
「教えていただけるのなら、喜んで」
 二人は手を取り、ダンスフロアの中心へ。奏でられる音楽は、春の訪れを表現する朗らかな曲。正信はルイをしっかりとリードし、次のステップへと導きながら踊る。
 安定感のある正信のリードに、ルイの緊張はあっという間に解れていった。
「ほら、君も楽しく踊れるだろう。一歩踏み出してみれば、意外と簡単にできたりするんだ」
 暖かな春の旋律と共に、正信の優しい声がルイの耳へと届く。
 リードと音に身を任せる、ヒトの身体ならではの心地良い感覚。全身を包むそれは、本来の姿では味わえないものだ。
「ありがとうございます。ずっと、こうしていたくなりますね」
 春の陽だまりにいるような感覚に、ルイは表情をふんわりと綻ばせた。
 ルイの笑みに、正信は「うん、いい笑顔だ」と、穏やかな眼差しで返すのだった。

第2章 集団戦 『エンジェル・フラットワーム』



 時はあっという間に過ぎ去り、パーティーは終盤。
 貴方たちはこの光景をよく知っている。そう、星詠みが予知で示した光景だ。
「アラン……これからもずっと一緒にいようね」
「ああ、約束する」
 バージンロードを歩き、二人は花飾りの馬車へ向かう。そして、不躾な訪問者が姿を現すのだ。
「人間の姿に堕とされた挙句、人間の男と結婚すると? なんと哀れな」
 馬車の上には『喰竜教団』の教祖『ドラゴンストーカー』。そして、彼女の配下である『エンジェル・フラットワーム』が、会場の人々を包囲するように出現する。
 今こそ、『お客様』から本来の身分に戻る時だ。
イリス・フォルトゥーナ
アスター・フォルトゥーナ

●デュエット
 幸福を壊す者たち――『エンジェル・フラットワーム』。エンジェルという名は、彼らには相応しくない。
 イリス・フォルトゥーナ(楽園への|階《きざはし》・h01427)は凛と敵群を睨み据え、杖を堅く握る。
「ようやく現れましたね。罪なき人々を害することも、天使さまの名を騙ることも、偽りの教義を掲げることも。使徒として、許せません」
 許せない。その気持ちはアスター・フォルトゥーナ(天上で光り輝く幸運の星・h00862)も同じ。
「愛の形を、哀れの一言で片づけないで欲しいな。とっても素敵な形なのに。彼女らの愛を壊すっていうのなら、ボクとイリスが相手になるよ」
 エンジェル・フラットワームたちが、彼らの方を向く。不気味な光が、敵意を示すように瞬いた。
「天使さま! お役目の時間です!」
 イリスは|憑装:楽園の大天使《オーバーレイ・アークエンジェル》を発動し、聖祓天マグ・メルを己の身に|慿装《降霊》する。背から広がる白銀の輝きは、天翔ける祈りの翼。大天使の姿へと変身を遂げたイリスは、相対する敵群へと高らかに告げる。
「これより此処は仮初の楽園。害為す者たちを聖なる光と共に浄化し、真の楽園を築き上げるのです!」
 敵の性質を見るに大天使となった代償とは相性が悪い。――それでも、リスクを背負ってでも、守りたいものがあるから。
「アスターさん! あなたの歌声を聞かせて! アスターさんの歌があれば、私はもっと頑張れます!」
 それに、どんなに危険でも、彼と一緒ならきっと大丈夫。イリスの呼びかけに、アスターが力強く頷いてみせる。
「勿論だよ、イリス! ここにいる皆に届くように、めいいっぱい歌ってあげる!」
 新郎新婦の二人には祝福を。イリスには加護を。皆のために、魂を鼓舞する勇士の歌を奏でてみせよう。
 そしてその歌は、敵対する者たちへと畏怖を与えるだろう。眼前で構える敵群へと、アスターは悪戯っぽく微笑んでみせる。
「敵の君たちにはちょっとやかましいかもね? さ! ボクの歌を聞いていってよ!」
 |勇士に捧げる助奏《コラッジオ・オブリガート》――明るく激しい勇壮な歌が、戦場へと響き渡った。
「ここは幸せに満ち溢れてる。こんなに美しくて綺麗な場所を、君たちに汚させはしないよ!」
 アスターの力強い歌声が、イリスに勇気を与えてゆく。
「どんな困難でも乗り越えられる……そんな気持ちにさせてくれる、素敵な歌ですね」
 新郎新婦への祝福と共に、空へと舞い上がるイリス。
 エンジェル・フラットワームたちが口から触手を放ち、彼女を絡め取ろうとする。しかし、どれだけ触手で打とうとも、イリスの飛翔を止めることはできない。
 敵は同様にアスターへも触手を伸ばす。だが、オーラの如く展開された|星の精霊《シェラタン》は彼の体を守り、触手を次々に弾き落としてゆく。
「届かせないよ。打たれたとしても、歌を止めるつもりはないけどね!」
 イリスとアスターは互いの詠唱を重ね、聖句と魔法を紡いだ。それはまるで合唱のように、心地よい旋律を響かせる。
「どうか、貴方がたへも! 楽園の幸運のありますよう!」
 イリスが眼下の敵群へと告げれば、聖句は光となり、乾いた大地を潤す雨の如く降り注いだ。
 アスターは心を震わす勇ましい歌に魔力をのせ、イリスが降らせる光の雨へとさらなる力を与えてゆく。
「ボクとイリスの合わせ技、その身で堪能していってよ!」
 それは二人が創り出す祝福の雨だ。
 結ばれる者らのために恵みの雨を。幸福を脅かす敵は、清らかな水で洗い流せ。
 二人の息の合ったデュエットが、エンジェル・フラットワームたちを圧倒する。

眞継・正信
ルイ・ラクリマトイオ

●包囲を崩す
 ――『喰竜教団』。会場を包囲するように出現した彼らを、|眞継《まつぐ》|・《・》|正信《まさのぶ》(吸血鬼のゴーストトーカー・h05257)は鋭い眼差しで捉える。
 幾度聞いても、彼らの理屈には共感できない。かつて真竜だった者の喜びこそが、喜びではないのか。
「……色々と問いただしたいが、その余裕はなさそうだ」
 そう呟く正信に声を掛けるのは、|ルイ・ラクリマトイオ《涙壺のルイ》(涙壺の付喪神・h05291)だ。
「まずは包囲を突破し、参加者の皆さんを無事に避難させましょう」
 正信の問い質したいと思う気持ちはルイにも理解できる。同時に、優先すべきは人々の救助だということもわかっている。
 ルイの言葉に、正信は即座に頷いた。当然彼も、優先すべきことを理解している。
「先頭には私が立とう。ルイ君は後方で避難誘導を最優先に頼む」
「わかりました。必ず守り抜いてみせましょう」
 今度はルイが頷いてみせた。互いの役割を分担し、二人はエンジェル・フラットワームの軍勢へと挑む。 
 ルイは守るべき人々へと目をやった。彼らは皆一様に、何が起こったのか理解しきれていない、或いは恐怖に怯えた表情をしている。ズキリ、と胸の奥が疼いた。――喜びのうちに宴を終えられなかった。その事実に、ルイは心を痛める。
(「……ですが、まだ『終わり』ではありません。生きてさえいれば、祝宴はやり直しもかなうものですから」)
 怯える彼らを安心させるように、ルイは落ち着き払った表情で語りかけた。
「私たちはあなた方を守るために参りました。どうか落ち着いて、私についてきて下さい」
 人々は震えながらもルイの後ろにつく。
 ルイが人々を誘導する一方。正信は、道を塞ぐ敵群と正面から対峙した。
 エンジェル・フラットワームたちは、不気味に体を揺らしながら、彼の前に立ち塞がる。
 僅かに瞳を細め、正信は静かな声色で告げた。
「――来なさい。私が相手をしてあげよう」
 新郎新婦にも来場客にも、指一本たりとも触れさせはしない。
 半透明の体を震わせ、敵が襲撃の体勢に入る。同時、正信は|漆黒の外套《クロノガイトウ》を発動した。日の光を遮る夜の気配が、彼を瞬く間に包み込む。
(「必ずこの瞳で捉え、仕留める」)
 這い寄る敵群をしかと視界に捉え、鉤爪での一撃で引き裂いた。
 正信を支援すべく、ルイも|あいの言弾《アイノコトダマ》を紡ぐ。
(「私へと注がれたあらゆるあいが、彼を守る力となりますように」)
 それは何よりも鋭い刃。また心を燃やし、潤す糧。言霊の弾丸を敵へと撃ち込み、呪言を以てその身を侵す。
『――!』
 キィン、と高い音を響かせながら、敵は有毒の粘液を撒き散らした。
 呪いに苛まれながらの反撃だ。必死さが垣間見える敵へとOrgeが飛び付き、鋭い牙を喰い込ませる。そうして弱った敵に、正信が鉤爪の斬撃を叩き込んだ。
「今度はこちらが導かれる立場になったな。ルイ君、感謝するよ」
 感謝の言葉を紡ぐも束の間。正信の視線は、すぐに残存する敵群へと向いた。反撃をひらりと躱し、時には受け流しながら敵を斬り捌いてゆく。
 正信が戦う様を、ルイは瞳にしっかりと焼き付ける。
「……戦う姿も、美しいですね」
 最前のダンスを思い出すのは、敵を屠る彼がまるで舞うように鮮烈だからだろうか。彼がいるからこそ、包囲を崩せるだろうという確信すらある。
 一方で、正信の心にも確固たる想いがあった。
(「ルイ君の助力が得られるのは幸いだ。彼のおかげで、押されることなく戦えている」)
 互いに似たような感情を抱きつつ、二人は敵の包囲網を切り崩していった。

ティファレト・エルミタージュ
ゾーイ・アストン
中村・無砂糖

●計画を砕く
 喰竜教団の襲撃によって、パーティー会場は恐怖と混乱に見舞われた。
 だが、守るべき命は失われていない。√能力者たちの奮戦が、悍ましき教団の凶行を食い止めるからだ。
  怯える人々を守るため、ゾーイ・アストン(ドラゴンパトロール・h06445)は敵前へと歩を進める。
「皆様が避難し、敵を片付ける為の時間の猶予を生み出しましょう」
 ゾーイの言葉に、|ティファレト《Tiphereth》|・《・》|エルミタージュ《Hermitage》(|真世界《リリー》の為に・h01214)は力強く頷いてみせた。
「必ず守り抜いてみせよう。この右手に宿る力に懸けてな」
 予測されていた事態だ。護るための準備は既に完了して……。
(「あ、あー……! やらねばならんことやっと思い……出したのじゃ!」)
 今になって大切な依頼を思い出す|中村《なかむら》|・《・》|無砂糖《むさとう》(自称仙人・h05327)。忘れてたのじゃ、などと言えようか……隠しておこう。
 邪魔者を排除すべく、エンジェル・フラットワームの口が大きく開かれた。その動作を見逃さず、ゾーイは√能力を発動する。
「自由に暴れさせはしません。大人しくなさい」
 |霊震《サイコクエイク》が霊能震動波を放出。発生する震度7相当の震動が、敵群を激しく揺らす。
 揺れる敵をゾーイは注意深く観察する。彼女の手にはクヴァリフ式拳銃が握られており、いつでも魔力弾の発射が可能だ。
(「数体纏めて片付けられれば理想的……ですが」)
 動けずにいる敵は良い。問題は、震動に耐えながら触手を伸ばすフラットワームだ。
 一部の敵が触手をゾーイへと放った。彼女はオーラを身に纏い、触手から身を守る。
「さすがに全ての動きを阻害するのは難しいでしょうね。想定の範囲内です」
 触手を弾かれ無防備な状態となった敵へと、ゾーイは銃口を向けた。
「ハレの日を狙い、事件を起こすとは、何とも人の心が無い。ならば容赦は不要、ですよね?」
 魔力弾を放つ。弾丸は敵の中心へと撃ち込まれ、霊震の震動に加え、銃撃による衝撃で震わせた。
 銃弾に倒れる敵群の向こうから、さらに敵群が押し寄せて来る。本当に数だけは多い。仲間が倒されても、フラットワームは構わず進軍しようとする。
 彼らの進行を阻むように、白い煙が彼らの周囲を覆い尽くした。無砂糖が仙術手榴弾をばら撒いたのだ。
「ちょーと、そこタンマじゃ」
 |百尻夜行《バットクラシィ》を発動。磨きをかけた仙術により、得物を尻に挟み込んだ仙人を自称する爺さん達を召喚する。
「仙術……来たれ同志共、百尻夜行! 同志共よ、人々を護りつつ迎撃じゃー!」
 爺さん達は得物を尻に、壁の如く敵の行く手を阻んだ。敵群が尻の壁を溶かし破るべく、有毒の粘液を撒き散らす。爺さん達は毒に臆することなく迎え撃った。
「この包囲から突破口を開けば、皆の者早々にそこから避難開始じゃー!」
 無砂糖も悉鏖決戦大霊剣を抜き放ち、尻に挟み込んだ。独特な戦法であるが、これが彼の戦い方である。
 毒液を浴びるも決して退かず、勇猛に尻を振るった。視界の端に呆然としている花婿と花嫁を捉え、彼らへと呼び掛ける。
「ほれほれっ、花婿と花嫁さんも逃げるのじゃ! わしらに任せい!」
 ハッと我に返った花婿が、花嫁の手を引いた。
「オリビア! 行こう!」
「皆さん、どうか気を付けて……!」
 二人は√能力者たちに守られながら戦場を脱出する。殺害を果たせず、ドラゴンストーカーが呟いた。
「チッ……邪魔が入りましたか」
 忌々しげなその声は、ティファレトの耳にもはっきりと届く。
 敵は花嫁を哀れだと言った。痴れ者どもの腐りきった性根に対する呆れ、そして怒りが、ティファレトの心に炎を灯す。
「哀れなのは、貴様らの脳味噌の形質だよ……」
 敵の首魁は後で叩き潰す。まずは配下からだと、ティファレトはフラットワームを視界に捉えた。
 敵群は不快な音を鳴らしながら毒を撒き散らす。有毒の粘液が、ティファレトを呑み込まんと迫った。彼女は右拳を堅く握り締め、迫る毒へと突き出す。
 ――|憑依黒嵐・風の刃にして無は理を抱き斬を遂行する《リリーエンド・ブラックテンペスト》。ルートブレイカーとしての力……不可視の真空波が粘液を切り裂き、毒を無効化する。
「見えるか? ――我の放つ真空波が。貴様らが否定した、彼らの姿が」
 敵は応えず。ティファレトに対する敵意しか見えない。
「――やはり、貴様らの目は節穴であったか。救いようのない奴らだ」
 ならば、是非もなし。
「痴れている事を解せぬなら、そのまま切り刻まれるがいい」
 真空波は粘液を消し飛ばし、その先にいる敵群を切り刻んだ。
 √能力者たちの苛烈な攻撃は、エンジェル・フラットワームの軍勢を掃討するに至った。
 配下の殲滅を確認し、ゾーイは淡々と状況を報告する。
「配下モンスターの掃討、並びに人々の避難も完了しています」
「うむ、人々に被害が出なくて良かったのじゃ!」
 無砂糖が心底安心したように返した。
 一方で、ティファレトは、一人残されたドラゴンストーカーへと鋭い眼差しを向ける。
「次は貴様だ――ただの殺人犯。貴様に『教祖』の称号は相応しくない」
 配下を失ったドラゴンストーカーは深い溜息を吐いた。馬車から地上へと降り立ち、戯言を紡ぐ。
「よくも邪魔をしてくれましたね。素晴らしき教義を理解できぬ、愚か者たちよ。……一部、ドラゴンプロトコルの方々もいらっしゃるようですが……ともあれ、その命を以て償ってもらいましょうか」
 愚か者は、果たしてどちらか。

第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』


ゾーイ・アストン
ティファレト・エルミタージュ
中村・無砂糖

●開戦、邪悪を討て
 喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』。歪んだ教義を語り、人々の幸福を壊す者。
 破壊者を前に、ゾーイ・アストン(ドラゴンパトロール・h06445)はついと歩み出た。その足取りは力強く、落ち着き払っている。
「さて、後はあなただけですね。ドラゴンストーカー。確かこれまでの犯行も、竜を敬ったゆえの行動でしたか」
「勿論ですとも。わたくしの行いは、ドラゴンプロトコルの方々に強き竜の力を取り戻していただくためのもの」
 ゾーイは深く溜息をついた。予想どおりの回答だが、直接聞けば腹の奥に呆れと嫌悪感が蟠る。
「……独り善がりもいいところだ。人と共に歩まんと望む竜もいるというのに、相応の罰を受ける覚悟はあるのだろうね?」
 ドラゴンストーカーは心底理解できぬといったように眉を寄せた。
「罰? 罰ではなく褒賞の間違いではありませんか?」
 ゾーイの瞳の奥に、炎が渦を巻く。
「――愚かだ。何回か死んだ程度では、その愚鈍な思考回路は治らないだろうね」
 彼女へと鋭い言葉をぶつけるのはゾーイだけではない。|ティファレト《Tiphereth》|・《・》|エルミタージュ《Hermitage》(|真世界《リリー》の為に・h01214)も、ドラゴンストーカーへと言葉の刃を突き刺す。
「おい間抜け、貴様のやり方は致命的に破綻しているぞ」
「……間抜け?」
 ドラゴンストーカーがティファレトをギロリと睨んだ。その眼差しをまっすぐに見つめ返し、ティファレトは続ける。
「考えても見ろ、貴様の√能力は『ドラゴンプロトコルの骸を操作する』であり『肉体の融合・合一化』ではない。なら『ドラゴンストーカーという不死の√能力者』と『骸となった√能力者でないドラゴンプロトコル』とでは『異物』と判定される……なら、死を繰り返せば……切り捨てた『貴様という√能力者の肉体』が強く出てくるのは自然の道理だぞ」
 ドラゴンストーカーは吐き捨てるように返した。
「そのような虚言でわたくしを惑わせようとするなど、笑止千万」
 言葉を向ければ拒否とも取れる勢いで弾き返される。マトモな会話ができない状況に、|中村《なかむら》|・《・》|無砂糖《むさとう》(自称仙人・h05327)は悩むように唸った。
「ううむ、話が通じんのう……わしがおぬしの教義を理解できないからかのう? うーむ……」
 一方で、ティファレトは口には出さぬまま、呆れを通り越して哀れとすら思う。
(「心の底では理解していても認めぬのか、本当に理解していないのか……どちらにせよ、とんだ大馬鹿者であることには違いないな」)
 ――どうあれ、さっさと倒してこの場から消えてもらおう。ドラゴンストーカーという存在自体、この祝福の場には相応しくないのだから。
 考え込んでいた無砂糖が口を開く。彼なりの結論が出たようだ。
「真竜の何が素晴らしいのか? 全く理解できなくて申し訳ないのう……じゃが愚か者とは、さすがに言い過ぎじゃ。それに他所様の晴れ舞台を邪魔するのもよろしくない……」
 せっかくの楽しい雰囲気を壊されてしまえば、優しいおじいちゃんだって怒る。
「どんな事情があっても、他所様にご迷惑を掛けてはいかん。おぬしには帰ってもらうからのう!」
 一度こうなってしまえば、倒れるまでしばき倒すしかない。悪辣なドラゴンストーカーに、慈悲など必要ないのだ。
「竜の欠片が欲しくば、私から持っていけ――できるものなら」
 ゾーイはドラゴンプロトコル・イグニッションを発動し、|真竜《トゥルードラゴン》へと姿を変える。竜の咆哮を轟かせ、ゾーイは壁のように立ち塞がった。
「黒き鱗の竜……なんとも美しい……!」
 喜々としながら腕を竜化部位へと転じるドラゴンストーカー。彼女に向け、ゾーイは業火の如きブレスを放つ。
 視界ごと焼き払うかの如きブレスが吹き荒れる中、無砂糖はインビジブル・ダイブを発動。視界内のインビジブルと自分の位置を瞬時に入れ替えた。
「こうなったらわしはおぬしの邪魔をしてやるのじゃー! そう簡単に真竜になぞ、ならせはしないのじゃ!」
 インビジブルと位置を交換すれば、そこは敵の眼前だ。
「狙いどおりじゃ!」
 尻に挟んだ霊剣を振るい、ドラゴンストーカーの動きを妨害する。
 敵は真竜降臨の儀を為そうとするも、その度に無砂糖がインビジブルと入れ替わり儀式が完遂しない。
「まったく、鬱陶しいですね……」
 苛立たしげに呟くドラゴンストーカー。無砂糖にとっても重労働であるが、彼は自らを奮い立たせて邪魔を続ける。これもすべて、仲間の攻撃へと繋げるためだ。
「わしが邪魔してる間にとっちめるとよい!」
「当然! この好機、逃すはずもない!」
 ティファレトは√能力を駆使し、巨大な竜の姿を形作る。竜は大きく口を開き、敵へと飛翔する。
 ――|三位一体、全ての超常は捕食され貫通し蹂躙される《リリーエンド・トリニティブレイカー》。
「美しき世界のために、我は貴様を蹂躙しよう。喰われ、穿たれ、果てるがよい!」 
 敵は竜化させた腕で、迫り来る竜とティファレトを切り裂こうとする。
 より強大な力を感じる竜化部位……だが、ティファレトは決して臆さない。
「その肉体が√能力というなら、それを全て食らい尽くす!」
 竜が敵を呑み、あらゆる力で肉体を破壊する。
 猛烈な蹂躙の渦から抜け出し、ドラゴンストーカーは血を流しながらも体勢を整えた。
 彼女へと、ゾーイは冷たい声色で語りかける。
「感じるか? 愚かな狂信者よ。お前が侮る者たちが、お前に与える痛みを」
「……」
 ドラゴンストーカーは答えない。だが、それが答えとも言えよう。
 灼熱のブレスを口の中に溜め込みながら、ゾーイは闇色の眼で敵を見下ろした。
「人を侮るな。お前が思うほど、人は脆弱ではない」

眞継・正信
ルイ・ラクリマトイオ

●届かぬ言葉、届かせる刃
 戦いは幕を開いた。仲間たちに続き、|眞継《まつぐ》|・《・》|正信《まさのぶ》(吸血鬼のゴーストトーカー・h05257)も戦場へと足を踏み入れる。
「彼女がドラゴンストーカーか。……あれでは、見境の無い殺人鬼ではないか」
 彼女は花嫁や花婿、参列者だけでなく、仲間のドラゴンプロトコルまでも害そうとしている。
 |ルイ・ラクリマトイオ《涙壺のルイ》(涙壺の付喪神・h05291)も彼女の邪悪さを感じ取り、僅かに眉を寄せた。
「彼女を捨て置くことなどできませんね。逃すことなく、確実に倒しましょう」
 これ以上花嫁たちの記憶が、悲痛を伴うことのないように――ルイは強く心に想う。
 正信とルイは互いに目配せし、動き出した。正信が|クロウタドリ《メリル》を、ドラゴンストーカーへと解き放つ。
「鳥たちよ、行きなさい」
 同時にインビジブル制御も用い、敵の周囲からインビジブルを遠ざける。小鳥の姿をした死霊は羽音を響かせながら敵へと群がり、その体を啄んだ。
「……邪魔な小鳥ですね」
 大剣を振るい死霊たちを斬り払う。彼女へと、正信は落ち着いた声色で問いかけた。
「君は彼女の今生の名を知っているのか? 彼女の喜びは? 悲しみは?」
「そのようなもの、知る必要などありません。大切なことは、真の姿となる未来なのですから」
 Orgeが敵意を剥き出しに、唸り声を上げた。
 全く迷いのない返答だ。正信は想う。叶うなら、一縷でも迷いがあって欲しかった。
「何も知らぬまま気にもせぬまま、真竜復活の為に彼女の死を望むのか? それでは……君にとって尊き者も他の愚か者も、何ら変わらないではないか」
 哀れなことだ、と暗い水底に溶けるような言の葉を落として。クロウタドリを再び空へと舞わせる。
「また小鳥の群れですか。何度も出したところで、わたくしを倒すことなどできません」
 数々の攻撃を受けても、未だ倒れる気配をみせないドラゴンストーカー。邪悪な√能力者なだけあって、体も頑丈なのだろう。
 だが、彼女に何と言われようと、正信は冷静な表情を崩さない。
(「君を攻撃するのは私だけではない。……ルイ君なら、上手くやってくれるだろう」)
 宙を飛ぶクロウタドリに紛れるように、ルイが跳躍する。
 敵の視線が向いたと同時、彼は|言の刃隠れ《コトノハガクレ》を発動した。
「これは私に注がれた、愛と哀の欠片たち。欠片は刃となり、あなたを貫くでしょう……」
 ヒトの感情から言葉が生まれ、言葉は物語の破片となる。
「できるのですか? お前に!」
 大剣を手に、ドラゴンストーカーが問う。
 ルイには、『できる』という確信があった。なぜなら、一人で戦っているわけではないのだから。
 漆黒の小鳥に運ばれた物語たちが刃を届かせる。ドラゴンストーカーの体は裂かれ、血が迸った。
「独りで踊って、虚しくはないですか?」
「――なに?」
 今度はルイが問い掛ける番だ。
「あなたが今独りなのは、崇高ゆえではない。生命の有り様、その豊かさを、種族でしか判じられないあなたに、真竜などという美しい物語は紡げない」
「何とでも言うがいい。お前たちには、わたくしの考えなど一生わからないでしょう」
 ドラゴンストーカーは冷たく言い放った。
 きっと何を語っても彼女には響かない。その事実を、ルイは息苦しさを感じながらも飲み下す。
「……わかっておりました。言葉が届くような相手ではないことも……」
 それでも、投げかけずにはいられなかった。静かにそう零すルイの肩へと、正信が優しく手を置いた。
「届かぬならば、止めるしかあるまい。ルイ君、共に戦おう」
 Orgeも尻尾を振り、ワオン! と頼もしい声で吼える。彼らに励まされ、ルイは表情を引き締める。
「はい。止めましょう。私たちならば、必ずやり遂げられますとも」
 ルイは彼らへと笑みを返し、凛と敵を見据えるのだった。

アスター・フォルトゥーナ
イリス・フォルトゥーナ

●竜と楽園の歌
 抜けるような晴天の下、苛烈な攻撃の応酬が繰り広げられる。
 炎、風、あらゆるエネルギーが渦を巻く戦場に凛と立ち、アスター・フォルトゥーナ(天上で光り輝く幸運の星・h00862)はドラゴンストーカーを睨み据えた。
「キミが例の教団の教祖? 望んでもいない理想を押し付けてくるなんてお断りだよ。同類が掴み取った幸福を壊そうとするのなら、ボクとイリスが相手になるよ」
「ならば、無理にでも理解していただくしかありませんね」
 己の両腕を竜化させながら、ドラゴンストーカーが返す。心臓まで届くであろう爪を見てもなお、アスターの意志は変わらない。
「そっちがどんなに強くても、諦める理由なんて無いよ。そんな歪んだ救いなんていらないんだから」
 アスターと並び立ち、イリス・フォルトゥーナ(楽園への|階《きざはし》・h01427)もドラゴンストーカーをまっすぐに見つめる。
「貴女が教祖……|イヴ様《オラシオン教祖》とは全然違うけれど、その力が強大なことは、見習いの私でもわかります。でも――」
 思い返す。祝福の花々に満ちた庭園、歓声を上げる人々、幸せそうに寄り添い歩く花婿と花嫁の姿を。
 イリスは強く想う。美しく輝かしいこの情景を守りたいと。
「偽りの救い、偽りの理想を掲げることは、使徒として許せないもの。罪のない人々を害することも、許せないこと。だから――お役目の、時間です」
 聖祓杖「アルカディア」――楽園の名を冠する宝杖を構え、イリスは力強く告げる。
「その歪な教えは、今此処で砕きます!」
 ドラゴンストーカーが纏う殺気が、急激に膨れ上がった。
「やれるものならやってみなさい。やれるならの話ですが!」
 竜化させた両腕で大剣を握り締め、彼女はアスターとイリスを睥睨する。
 肌にひり付く殺気を感じながらも、イリスは決して目を逸らさない。
「いきましょう、アスターさん」
 イリスへと、アスターが頷いてみせた。
「うん。どこまでだって行けるよ!」
 二人に迷いは無い。二人で力を合わせれば、どんなに険しい道でも進んでいける。
 アスターは大きく息を吸い込んで、全身に魔力を漲らせた。
「最初から全力で、ここにいる皆に歌を届けるんだ。――さあ! 今限りのライブの開始だよ!」
 紡ぎ出すのは|勇士に捧げる助奏《コラッジオ・オブリガート》。仲間たちに戦う勇気を与え、敵には畏怖を与える勇壮なる歌。
 響き渡る歌に、ドラゴンストーカーは僅かに眉を寄せる。
「この歌は……」 
 振るう両腕は変わらず鋭い。だが、|星の精霊《シェラタン》を始め、あらゆる防御の手段を駆使し攻撃をいなせば、傷も浅く済む程度だ。
(「本人は気付いてないみたいだけど、聞き入って動きが鈍くなってるみたいだね。でも、まだまだこれから!」)
 アスターの歌は止まらない。歌の力をその身に受け、イリスは魂の底から湧き出る希望を感じ取る。
(「アスターさんの歌が、私に力を与えてくれる。そして……」)
 彼女は敵を視界に捉えた。ドラゴンストーカー。その目指すところは、真竜として降臨すること。儀式には、インビジブルに自分を贄としなければならない。それなら、とイリスは決意する。
「私の身で過分な願いだけれど……それでも! 天使さま! 力を貸して!」
 |慿装:楽園の奇蹟《オーバーレイ・グロリア》を発動し、聖祓天マグ・メルを|慿装《降霊》する。聖杯を天高く掲げ、イリスは願いを紡いだ。
「インビジブルが誰も傷つけないように、かの教祖を捕食しないように、彼らを縛って!」
 天使が彼女に微笑みかける。器の中の天使は、イリスへと力を与える。
 インビジブルたちが動きを止めた。己を喰らいに来ないインビジブルに、ドラゴンストーカーは顔を顰める。
「お前、余計なことをしましたね」
 真竜降臨の儀は封じた。そして、次なる手は既に用意してある。これは真に幸福の約束された其処へ至るための試練のようなものだ。
(「私一人の器に天使さまをたくさん慿装するなんて、相応に負担も大きいけれど。だからと、ここで立ち止まる訳にはいきません」)
 ――|慿装:楽園への使者《オーバーレイ・サルヴェイション》。オラシオンの教義を語るべく、イリスは口を開く。体が軋む感覚を覚えた。けれど、痛みに伴い湧き出す感情は、迷いや恐怖ではない。アスターの歌声がイリスへと、負の感情に打ち勝つ力を与えてくれる。
(「大丈夫だよ、ボクがついてる。幸運の星たる真竜が、イリス……キミを照らすよ」)
 希望と幸運の星が、イリスの魂を輝かせる。
「――彼の歌があれば、どこまでだって!」
 そう、どこまでだって、私は翔べる。楽園を彩る星々は、清かに輝いて。
「これより此処は仮初の楽園! 未だ見ぬ楽園、皆で其処へと至る為に。みんな、力を貸して!」
 祝福の鐘の音が鳴り響き、イリスを無敵の使徒へと変じた。すべては敵と互角以上に渡り合うため。だが、それは一時的な力だ。肉体が耐え切れなくなる前に、決着をつける。
 イリスが全力で戦う中で、アスターも心を決めていた。
(「イリスとまた|二重奏《デュエット》を奏でたい……だから、ボクは!」)
 あまり可愛くないからと、普段は避けている真の姿。今こそ顕現する時だ。
「キミを倒すためにも見せてあげるよ。ボクの本当の姿を、幸運の星たる真竜の姿を……!」
 その旋律は、|ボクが為の独奏曲《ボクガタメノモノーディア》――アスターは気高き竜の姿へと変身する。夜空の体には煌めく星々。幸運を象徴する天上の真竜。その美しさにイリスは見惚れそうになるが、すぐに表情を引き締める。
「|二重奏《デュエット》を奏でましょう。私とアスターさんで、楽園へと至る歌を!」
 アスターが竜の咆哮を上げた。天へと轟く堂々たる咆哮は、歌い出しの合図だ。
 イリスは|召喚:楽園の聖光《サモン・ホーリーシャイン》により、新たな天使を召喚する。
「聖なるかな聖なるかな聖なるかな――楽園の扉より来たりし我が守護天使よ、今此処に、楽園へ至る穢れなき光を!」
 天使は聖なる光を放つ水晶を無数に展開し、一斉に敵を取り囲んだ。ドラゴンストーカーは苦渋の表情を浮かべながらも、竜化させた両腕を構えた。彼女は激しく消耗している――終わりは近い。
「まだです……わたくしは、倒れるわけには……!」
 両腕を振り上げ、彼女は二人へとその爪を届かせようとする。その体を、アスターのブレスが押し流した。
 敵を滅する音響兵器――音の奔流がドラゴンストーカーの肉体を斬り刻む。
「キミが何をしたって、ボクには届かない。届かせない!」
「ぐううぅ、っ……!」
 苦しげな敵の呻きを呑み込むように、水晶たちが音を奏でた。アスターの歌声に呼応し、風鈴のような音色を響かせたのだ。
「どうか貴女へも、楽園の幸運のありますよう!」
 イリスの祈りの言葉と共に、聖なる光の雨が降る。光はドラゴンストーカーを穿ち、その体を悉く焼き尽くした。
「何度、倒れようと……わたくしは……諦め、ない……――」
 執念に満ちた言葉を遺し、歪んだ教えを抱く教祖は崩れ落ちる。
 かくして、√能力者たちは花嫁を救い、彼女の幸せを護るに至ったのであった。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト