デビオニア派と『クヴァリフの仔』
暗い室内に、机がいくつもくっつけて並べられていた。
広さや、椅子などの形状から学校の教室に思える。尖がった頭巾の黒装束たちが儀式を行うと、ぶよぶよとした触手状の怪物が召喚されてきた。
それは、適正な融合先を探して蠢き……。
チャッチャラ、チャラララ、チャラ、チャララ~♪
「しょうわ仮面のおねえさま、顏を隠して正義を助ける、いい|女《ひと》よ♪」
歌いながら登場した星詠みのテンションに、能力者たちは若干ひきぎみである。
|昭月・和子《あきづき・かずこ》(しょうわ仮面・h00863)は、√汎神解剖機関での初めての依頼を行う。
「狂信者による『クヴァリフの仔』事件をお聞きになった、あるいは解決した方も多いと思います」
この√で最近になって頻発している事件だ。
仔産みの女神『クヴァリフ』が己の『仔』たる怪異の召喚手法を狂信者に授けていた。『クヴァリフの仔』自体はさしたる戦闘力を持たないものの、他の怪異や√能力者と融合することで宿主の戦闘能力を大きく増幅させる。
星詠みたち各位は、狂信者の撃破と『仔』の奪取を依頼しつづけている。
「私は別の事件を追ううちに、√マスクド・ヒーローから√EDENを経由して、√汎神解剖機関まで来ました。『デビオニア派』という悪の組織が、とある廃校で『クヴァリフの仔』を召喚している予知を見たのです」
そして、しょうわ仮面も『仔』に関わるひとりとなったわけだ。
「『デビオニア派の巣』事件の舞台となった√EDENの小学校は、異界への門でどこかと繋がっていました。門のさきが、今回の廃校舎です」
√と√は対応する同じ場所でつながるという。
√EDENの小学校が、√汎神解剖機関では廃校舎になっているというわけだ。
「現場が3階にある教室だとわかっておりますが、結界が張ってあるために校舎内の階段を使わなければなりません。そこにも罠が仕掛けてあるのです」
マントのすき間から資料が出てくる。
階段の上りがループしている。地上階から数えて特定の階で廊下へ進めば、目的の教室にたどりつけるが、正規の入り方以外だといくら上ってもどこにもつかないのだ。
下れば、地上階には戻ってこれる。
「特定の階は、『子の数と同じ』という予知がでました。しかし、前の事件ではみなさんの活躍で攫われた児童はいなかったはずです。ただ、敵組織がまだ弱小なおかげで、ループの結界も完全なものではありません。√能力者があがけば、時間はかかっても破ることは可能です」
その場合、別の場所から犠牲者を攫われてきてしまう。
『仔』の融合が完了してしまう懸念はあった。
「人類の延命に利用可能な|新物質《ニューパワー》を得られる可能性は大きく、危険な敵を排除しつつ、可能な限り『クヴァリフの仔』は生きた状態で回収してください。よろしくお願いします」
第1章 冒険 『無限ループってこわくね?』
√EDENの時と同じ地図で、現場の小学校に到着できた。
|蔵太《くらふと》・びあ(酔い時雨・h06300)は、施錠された校門を見る。
「前回はついうっかり色欲に染まりまくったけれど、今回は誰もいない廃校舎なので、残念……じゃなくて」
錆びた格子には欠けたところがあった。
「わたしの目を眩ませるものは何もありませんね……!」
お尻がちょっと引っかかったが、鉄の棒のあいだを抜けて敷地内への侵入を果たす。
校舎まで石畳の舗装があったはず。雑草で模様の一部がのぞくのみ。顔を上げると、灰色の建物がよりくすんで迫ってくるようで、空すら赤黒く感じた。
さすがは、√汎神解剖機関。
ぶるぶるっと、背筋に冷たいものが走る。
「こ、こ、こ、これしき、こわ、こわ、怖くは、こわ、こわ……」
びあは小心者である。
普通に怖い。
恐怖を払うためには、やはりこれが必要。今日はボトルで忍ばせてくる必要はない。
ビールをガンガン消費しながら、酔った頭でふらふら進みだした。それでも、ポイ捨てしないのは偉い。
気持ちが大きくなることで、感度は研ぎ澄まされる。
子供たちと遊んだ広場の面影が、視界のなかで重なった。あの子たちや、被害にあった教室が無事で良かったと思う。
「子の数ぅ……と同じぃ?」
指定された玄関口から校舎内に入り込む。
例のループ罠が仕掛けられた階段だ。正しい階数で廊下に出なければ、どこにも着けない。
「わたしがこないだ仲良くなった女の子は……3人!」
経験とひらめきが合わさって、びあは小躍りした。
「よっし! 3階だ~!」
二段飛びで駆けあがる恰好は、レディススーツのパンツスタイルで勇ましい。
目指す階についてから、同じように角を曲がって廊下に出たが、どの教室もからっぽなのであった。扉があいたままの部屋や、曇りガラスが割れてなかを確かめられるところもあり、『デビオニア派』が儀式を行っていそうな場所はない。
よく考えたら『現場は3階の教室だけど結界が張ってある』って話なのにフツーに3階な訳もなく。
すごすごと一旦地上階に戻ることになった。
「えーわっかんないよぉ……子の数~……子の数~~」
失敗があったので、場当たり的に行ってもダメなことは身に染みた。外れの階をくまなく探していたら、それこそ時間が過ぎてしまう。
「ん……? なんだっけ、あのとき。なんかカラスがどーこー……」
調査の過程で聞いた、怖い話。
「カラス……。歌……」
口をついて、出る。
「かーらぁすー……なぜなくのー……」
ピキーンと、びあの眼に光るものがある。
「……。……よし! 考えてもわかんないし! ラッキーセブン階にでもいくか~~!」
7階までまた駆け上がる。
角を曲がり、まずは鳥の巣の事件のときと同じ教室へ。
バーンと扉を開けたら、なかにいた尖がり頭巾の黒装束が、一様にビクッてなる。
「ディヴィーッ!?」
あの奇声、そして寄せた机の上で蠢いている触手の怪物。
『デビオニア派』で間違いない。ループをやぶる正解は、7階だった。
『クヴァリフの仔』は召喚済みだが、被験者や犠牲者は見当たらないから、陰謀を砕くことにも成功した。
「ラッキー~~!」
この奇襲で、『狂信者達』はろくな対応ができない。優位なうちに倒せるだけ倒してしまおう。
元から廃校舎だが、教室には結界がはられているので少々のことでは壊れない。
『狂信者達』の居場所がわかったのなら、暴れまくるだけだ。|白神・明日斗《しらかみ・あすと》(歩み続けるもの・h02596)は、『試作可変型詠唱錬成剣』を抜く。
「シミュレート完了。これが貴様をぶち抜き、潰すためだけに生まれた一振りの槍だ」
『|戦闘錬金術・重力破砕槍《プロエリウム・アルケミア・グラビティランサー》』により、武器は槍へと変化する。
儀式のなかで、一段高いところにいる黒装束をリーダー的な存在と考え、明日斗はその胸元を狙って突いた。
「死にあ・いぶ!」
不可思議な語尾とともに、苦しむ。
蒼い刀身から、過重力が流れ込み、装束はべこべこにへこんで、くたりと沈んだ。中身だけが圧壊したのである。
「リ、リーダーァ・いぶ!」
「いぶ!」
ほかの狂信者が叫んでいるから、シミュレートは完全だった。
「さあ、どうするよ。貴様らでは『クヴァリフの仔』を扱いきれない。異界への門を開いて、融合者を呼ぶこともできない」
明日斗が言ったとおり、これは詰み。
だが、その状況から戦闘をはじめるのも、また『悪の組織』なのである。
斧槍を構え、旗印をふって抵抗してくる。
第2章 集団戦 『狂信者達』
近接武器のほかには、後方で『狂信者達』が固まっていた。
樽くらいの大きさのものを数人がかりで担いでいる。
「教祖よ、魔ジョニア砲、よういぶ」
それは両取っ手付きの壺だった。信者たちとは別の、女の声が教室に響く。
「許可します。せっかく召喚できた『クヴァリフの仔』を、守ってください」
どうやら、リーダー格のほかにボスがいるようだ。
「見つけたぞ悪者~~!」
|蔵太《くらふと》・びあ(酔い時雨・h06300)は、傘を振りかぶる。
「人間――には見えたけど、話が通じる相手じゃなさそうだね」
心剣『水月』を構える、|柳生・友好《やぎゅう・ともよし》(悠遊・h00718)。
「なら、実力行使しかない、か。僕としては、悪い話じゃないかも。せっかく、びあさんが間に合わせてくれたんだからね」
手加減はしない、という意味だ。
「え!? う、うん。斧とか槍とか持ってる敵は任せなさい!」
びあは、少年剣士を相手におねえさんっぽく言ってみたが、階段ループの謎が解けたのは適当に選んだラッキーセブンだったので内心『まじで!?』って驚いていたところだった。
狂信者達にしても、強襲されて慌てた様子が見て取れる。
その隙と、自身の酔いを頼りに、|酔気降臨・壱ノ型『人間傘歌』《ハレルヤ》で一気にスピードをアップ。傘で斧槍と渡りあい、とんがった頭巾をボカボカ殴りつけた。
敵前衛の横をすり抜けた友好は、だんだんと物腰の柔らかさがなりをひそめ、凛々しい雰囲気にかわってくる。
「|活刃・雷之太刀《カツジン・カミナリノタチ》!」
速度が強化されているが、それはまだ見せない。
壺をかついだ奴らに、鈍い動きを演じる。考えが正しければ、あれこそが魔力砲『信仰の炎』だ。
「発射にあ!」
ボンっと壺の口から煙があがった。
火球がふってくるのを見極めると、友好はスピードを解放する。間一髪のところで避け、カウンターの『雷討』を振り下ろす。
刀は、壺を抱えた信者の幾人かを、斬り捨てた。
雷のような、変幻自在さで。
支えが不足したのか、大きな壺はぐらつく。思ったとおりと、『水月』をひきもどしたところ、新たに十数人の狂信者が集まってきて、魔力砲を担ぎ直した。
また、煙があがる。
さっきよりも、強力で正確だ。びあのほうへもふりそそいだ。
「あぢッ! あちちッ!」
レディススーツに火の粉が飛ぶ。
教室の扉がけたたましく開いた。
中では、小学生たちが授業を受けている。男性教師はあっけにとられ、板書の途中で固まっていた。
入ってきたのは、上級生と思われる少女、|星々・空々《ほしぼし・そらら》(スターリースカイハイ!・h02946)だ。
ここは同じ教室であって、同じじゃない。
「√汎神解剖機関の廃校舎には結界があって、でも敵が3階の教室にいることはわかってるのね? なら簡単な話じゃない。√EDENの校舎の同じところから攻撃すればいい! 霊能力者の私ならそれができーる!」
緊急事態だし、しょうがないのだ。
授業だろうが構わずに、ずかずかと真ん中まで入ってきた。
「他の√世界がピンチなの! お願い協力して!」
もちろん、教師も児童もなんのことかわからない。
みんなが先日、ここで起こった『デビオニア派の巣』事件の被害者であっても。
忘れられる力によるものだ。
「|フィンガーアクセプト:インデックス《フンドシフォーム》!」
空々は、ふんどし一丁の姿に変身した。
霊能力者の力で√汎神解剖機関を覗き見る。大勢で抱えた壺から火球が発射されている。びあと友好がピンチだ。
狂信者の人数が、魔力砲の威力を上げるのだ。
霊能波を撃つことで、それを削れる。
「どんどんいくわよ!」
突如、倒れていく同胞に、敵が驚くさまも√越しに覗けた。友好は、教室外へと脱出を果たす。
攻撃の余波でローブがめくれて中身が露わになるのも、覗けた。
「あら、履いてない」
つい無意識に手を伸ばした。黒い長衣は、目の前ではなく、√汎神解剖機関にあるのだ。
如何せんこっちは√EDEN……ついうっかり女子児童のスカートをめくってしまう。
「やや、この感触は、大人っぽくない。あと、履いてないはずなのに、パンツをめくってる感じがする。あ、そうか。そうか。仕方ないわね、敵を成敗するのに夢中なんだもの」
√EDEN側の教室でなにが起こっているのか、見ずに想像で済ませる。
教師が止めにきて、不用意にもみ合ったりしたら。
「私のふんどしが緩んじゃうのもしょうがないことよね!!」
√汎神解剖機関の教室では、また壺を支える人員が不足して、砲撃が止んだ。
「助かったぜい。ふひ……。あとはコッチで」
びあは見えないまでも、仲間の援護に感謝し、立ち上がる。
レディススーツは燃えてしまって、露わだ。あと、霊能力者の少女が似たような恰好になって明るい教室で暴れていたとしても、もう無関係だ。
「|不純理性批判《ミンナダメニナレ》!」
酒臭い吐息を放つと、狂信者達の本能的行為に対する抵抗力は、10分の1となった。
魔力で姿を隠そうとしても、びあにローブの裾を掴まれ、それにも抗えない。
「おしおきの時間ですよぉお~!」
下半身だけでなく胸まで一気にめくっている。
びあは両手と舌と、自分ので擦り合わせることで、4人まとめて成敗した。
「ちなみに一人一回じゃ済ませませんからね」
「ディヴィーッ!」
何度でも噴かせて噴かせて噴かせまくる。
透明なのから、黄色いやつまで。
ジョロロロロ……。
「全部ごくごく飲み下しますよ……ふひひ」
独占状態で、びあは『狂信者達』に勝利した。
脇に転がっている大きな壺。
「信者はみな、ヤラレてしまいましたか。このまま、『クヴァリフの仔』を横取りされるわけにはいきません」
教主と呼ばれていた者の声が響く。
壺がボボンと煙をはき、呪術的な装いの少女が現れた。
『レッド・クラウド』マアピヤ・ルタ、山羊の頭骨を仮面とし、それが悪魔を象ったようにも感じられる。
この、デビオニア派のボスを倒さなければ、『クヴァリフの仔』の回収任務は果たせない。
第3章 ボス戦 『『レッド・クラウド』マアピヤ・ルタ』
|片町・真澄《かたまち・ますみ》(爆音むらさき・h01324)は、狼の耳をぴくっと動かした。
表情はあまり変わらないが、相対した敵にただならぬ気配を感じたようだ。
「ほら、見てみい。インビジブルの動きがおかしいで」
半透明の魚類が、一方向へと宙を泳いでいる。ルミナスティア・エアルネイヴ(|The Star of SkyDancer《空の魔女》・h00113)は、スノーボードのスカイダンサーに魔法をかけて浮遊していたから、行先はよくわかった。
「ボス敵に……。出てきてすぐ、奥の手かい?」
「おう、らしいなァ。祖霊の召喚のために、自分から喰われるつもりだろうぜェ」
|天國・巽《あまくに・たつみ》(同族殺し・h02437)は、着物の袖から片手を出し、ボキボキと指を鳴らした。
仮面の少女、『レッド・クラウド』マアピヤ・ルタの覆われていない口元がほくそ笑む。
「どうぞ、めしあがれ」
ボボンっと煙が立ち上り、祖霊『魔性の紅蓮羊』が入れ替わりに現れた。この無敵獣は常に呪歌を口ずさみ、聴いたものたちを衰弱させる。
「こっちも決着を急いだほうがいいな。『|未明の空識《アンノウンライズ》』!」
ルミナスティアは記憶を覚醒させ、得られた力でスカイダンサーごと速度を増す。
無敵獣の周囲を飛び回り、浮遊魔法を籠めた弾丸を放つ。真澄と巽は、空の魔女が囮役を買って出たのだと、すぐに理解した。
「巽ちゃん、ウチは近接苦手やねん。呪歌への対抗手段は考えるさかい、羊の相手をしてやってや」
「任せてくんな」
巽は、素手で獣に組み付く。
大刀流合気柔術があれば、触れた箇所から彼我を一体化させ、重心を奪うことで動きを止められるのだ。
「……ほらな? 息が詰まって体は固まる。そうしてなぁんにも出来なくなっちまう」
「僕はまだ見ぬ空に……行くんだッ!」
当然、ルミナスティアの弾丸も、的が固定されれば命中精度は上がる。
ボードは、落下と浮遊を繰り返すことで波乗りのように機動した。しかし、徐々にキレがなくなってくるのは、敵の呪歌のせいだろうか。
真澄は、『音』での妨害を試す。
「うるさなるで、"3番"!」
無敵獣に、特殊弾を撃ち込んだ。その周囲が、『|壊音響《カイオンキョウ》"|3番《サンバン》"』に包まれ、反響し続ける強力な音の振動が起こる。
「こいつはぁ、俺もキツイかなァ」
組み付いたままだった巽は、いったん下がった。ルミナスティアも、舳先を外に向ける。真澄の3番のダメージはそれなりに入ってはいるが、決定打とはいかない。
「僕がまた、最初からかく乱しなおすから……」
ボード上から意気込む声を聞いて、巽はポンと手をうった。
「なんのことはねぇ。仕切り直しにすりゃいいんだ!」
その右手を、紅蓮羊へと伸ばす。
『|合気《アイキ》』は、敵を行動不能とするだけでなく、√能力の無効化もできた。
ボボン。
煙がおこって、呪術的な装いの少女にまた入れ替わった。
「ほらな?」
「敵のボス!? やっぱり女の子じゃ~~ん!!」
|蔵太《くらふと》・びあ(酔い時雨・h06300)は、狙いを定めた猛獣の如き据わった視線で山羊仮面の子を見据えた。酔いがまわってジト目になってるだけかもしれないが。
声で女性と思っていても、壺から出たとたんにインビジブルの群れに自身を食わせてしまった敵だ。
能力無効化をくらって再生され、不思議そうに立ち尽くしていることで、びあにははっきりと判った。
「もう、自殺なんかさせない。……こらしめてあげますからねぇえ!!」
今までは、|酔気降臨・壱ノ型『人間傘歌』《ハレルヤ》でただスピードアップするだけだったが、そこに緩急自在の動きをつける。
ふらりふらりと千鳥足で敵の右側に歩を進めた。
教主『レッド・クラウド』も右手での能力無効化を持っているのだ。びあの接近に気付いて、手を伸ばされた瞬間に3倍の速度で一気に左側から背後に回り込む。
『酔傘の霊剣士』の真骨頂だ。
「捉えたっ!」
そのまま、まるで足がもつれて転んだかのような不意の動きで、呪術師のズボンをひっ掴んで一気に引き摺り下ろす。
「山羊子ちゃんの血の雨攻撃も、範囲内に自分が居れば放てないでしょう!」
「まぁ、まぁまぁ」
地声はもっと幼く感じた。
相手が抵抗できずに、うろたえているので、びあは後ろからふぅーと息を吐きかける。
教主は、狂信者たちと同じく、『|不純理性批判《ミンナダメニナレ》』で、『本能的行為』に対する抵抗力を10分の1にされた。
「まぁ、そんな……」
「……さっきまで以上の勢いで遭わせましょう。悪いヤツに手加減する必要なんて無いですからね!」
むき出しになった丸い肉の片方を、グイとよせた。
指を沿わすと、すべすべの感触がある。生えていないらしい。すぼまりを越えて、縦にわれたひだへと、びあの指は侵入していく。
「正義のために激しくいきますよ!!」
「せいぎ……。ああ、悪の組織のわたしは、罰せられているのですか?」
出入りする動きの速さが、罰というならそうだろう。
あっというまに達してしまう。
「なんて、なんてこと……ああん!」
「私まだ飲めます!!」
びあは、背後から相手を押さえていた体勢から、くるりと前へまわってしゃがみこんだ。
ぷしゃあ、じょぼじょぼじょぼ……。
ごくごくごく……ぺろぺろ、チュッ。
出し切ったあとの膝ががくがくと震え、すぐにくずおれてくる。
悪の成敗にしては優しく、その上体を抱きとめたびあは、最後に仮面から露わになっている口元へと、自分の唇を重ねた。
「下だけでなく上の唇もきちんと奪っておきましたからね」
「ああ、なんとなさけない……。吾妻先生、お許しを」
『レッド・クラウド』マアピヤ・ルタは完全に脱力する。
簒奪者はいずれ、復活するだろう。これでデビオニア派が滅びたわけでもない。
けれども、『クヴァリフの仔』を回収し、廃校舎から脱出する時間は十分につくれた。