シナリオ

戦闘機械群、襲来

#√ウォーゾーン

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●√ウォーゾーンの悪夢
「まったく、……随分と繁殖しているではないか、生肉共が」
 嫌悪の言葉を吐き捨てて、レリギオス・オーラムの統率官のひとりである統率官『ゼーロット』が機械の頭部を動かす。
「完全機械実現のために、伸び過ぎた枝葉の剪定は必要不可欠だ。総員、戦闘準備開始――生肉共を駆逐せよ!」

●戦闘機械迎撃戦
「√ウォーゾーン……俺の住んでる√ドラゴンファンタジーとは全然違う場所なんだな。……こんなの、放っておける訳ないじゃないか」
 ゾディアック・サインを読み取った√能力者、黒辻・彗(自在変異の『|黒蓮《ブラック・ロータス》』・h00741)が悲しそうに俯く。
「今現在、√ウォーゾーンの戦闘機械都市――その人間居住区域が、戦闘機械群に襲われているんだ。彼らがやろうとしていることは、剪定――つまり、繁殖しすぎた人間たちを|間引こう《殺戮》としている」
 眼前に流れる予知の光景を、青い瞳で読み取った彗は、集った√能力者たちに告げた。
「敵もゾディアック・サインを読み取る関係上、俺たちはこの行動に対して先手を取ることができなかった。行く先はすでに戦場だろう。数多の機械兵たちが、侵攻を開始しているんだ」
 だから、この侵攻を阻止し、親玉を叩く。それが、今回√能力者に課せられた任務だ。
「まずは、襲いかかってくる戦闘機械群『バトラクス』を撃破して欲しい。ここで上手く撃破することができれば、一旦休憩することも可能だと……思う。けれど、敵の星詠みと俺の星詠みが拮抗しているから……どうなるかは分からない」
 敵の出方に依るだろうが、戦闘時に敵指揮官を探すような行動を行えば、敵も警戒して一度手を緩めるかもしれない。
 もしくは、襲い来る機械群たち全てを掃討すれば、敵指揮官が恐怖に慄いて戦闘力が減衰するかもしれない。
 この判断は、√能力者に委ねられる。
「とにかく、連続的に戦闘が続く可能性もある。十分注意してくれ」
 √ウォーゾーン、戦闘機械都市。
 襲撃を開始している戦闘機械群を蹴散らし、指揮官の首を取れ。

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第1章 集団戦 『バトラクス』


ヴァイセノイエ・メーベルナッハ
タマミ・ハチクロ
馬車屋・イタチ
鬼島・祥子

 人間居住領域――戦闘機械都市。
 機械兵団から奪還した都市を居住区に変えているこの都市の有り様は、機械的かつ無機質に過ぎる。
 そして、人間たちの最後の希望たるこの領域が、機械兵団の侵略によって脅かされている。
「√ウォーゾーン、話には聞いていましたが…本当に、人類は追い詰められている。そんな感じがします」
 様々な居住区が立ち並ぶ都市の先、迫りくる機械兵の軍団『バトラクス』を垣間見て、未知なる√からやってきた人外種の少女、 ヴァイセノイエ・メーベルナッハ(夢見る翼・h00069)は独りごちる。
 まさに、光景は絶望の一言に尽きるだろう。
 だが、その言葉を制したのはこの√に住まう者の一人だった。
「……ま~、こういう状況がイタチさんたちの日常だからね~」
 また侵略カ、と。さも当然とでも言うように、馬車屋・イタチ(|偵察戦闘車両《RCV》の|少女人形《レプリノイド》の素行不良個体・h02674)はやれやれと肩をすくめた。
「星詠みさんも優しいんだろうけど、悲しんでも敵さんが手を緩めてくれるわけでもないし~」
「その通りであります。速戦即決が第一優先でありますよ」
 同じく、|少女人形《レプリノイド》たるタマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)が頷いた。
 悲しむだけでは、この状況は打開できない。ならば、相応に武器を持って対処する他にこの窮地を逃れうる術はない。
 住居の壁に背を預けていた√マスクド・ヒーローからの√能力者が、にっ、と快活に笑った。
「戦闘機械、ね。話を聞いた感じ、殴って問題ない連中だな。殴って壊す、単純で助かるぜ!」
 金髪をなびかせて、鬼島・祥子(武装少女レティシア・h02893)が、片手に抱え込んでいたヒーローマスクを装着する。
 ここでは――武装少女レティシアとしての参戦だ。
「では、作戦通りにいくでありますよ。強行偵察といくであります」
「了解~そんじゃ徹底抗戦といきますか~」
「はい! 必死に生きてる人達を虐殺するなんて、許せませんよね! ボク達が、この都市を守ってみせます!」
「よし来た、あの大層な枝切り鋏共をスクラップにする時間だ!」


 進軍を始めていた『バトラクス』の軍団が、前方から響いてきたエンジン音に警戒のアラートを発する。
 その刹那、家屋の影から現れたのは偵察戦闘車両。【|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》】を発動し、イタチの愛車がエンジン音を高く響かせて、バトラクスの包囲網の間隙へと滑り込む。
 バトラクスたちが現れた敵勢力に対して、機銃掃射を開始しようとするが、あまりの速さに仲間の巻き添えを恐れたのか発砲寸前で停止した。
 そして、上空から落ちた影に気づくバトラクスもいる。
 頭上に飛行物体。
 それは翼を広げて飛翔する、ヴァイセノイエの姿だ。
 機銃一斉に発射されるが、展開されたオーラの壁が凄まじい音を奏でて拮抗する――!
「隙ありであります!」
 瞬間、バトラクスの包囲に踏み込んだ影、タマミが鉄の塊であるバトラクスを強靭な膂力で弾き飛ばした。
 僅かに地面から浮いたバトラクスに、タマミが『TMAM896』から貫通弾を撃ち放つ。
 激烈な爆発音と共に散った|仲間《機械》のことにも気にもとめずに、他のバトラクスがタマミを捕縛しようと粘着弾を撃ち放った。
「やらせるかよ!」
 疾駆する|もう一つの影《ヒーロー》。
 タマミの前に立ち塞がった|レティシア《祥子》の右掌が破壊の炎に揺らめく。
 【ルートブレイカー】。それは、√能力によって生み出された尽くを破壊する√能力だ。
 焦熱、ガラス板が砕け散るような音共に虚無へと還った粘着弾から目を逸らして、タマミは祥子と顔を合わせた。
「支援、感謝するであります!」
「どんどんぶっ飛ばしてやろうぜ! 爆撃弾も全部無力化してやるよ!」
 途端、ひらめいたのはレーザーの雨。そして、祥子のパイルバンカーによる激烈な破砕音。
 タマミが成すのは【|八九六式近接格闘銃術《ハチクロシューティングアーツ》】。蹴りとレーザー、銃撃の舞踏。バトラクスの陣形が、崩れていく。
 迎え撃とうとしたバトラクスはしかし、凄まじい速度で翻弄するイタチの戦闘車両を捕捉できないでいた。
「正面から撃ちあうには、ちょっとイタチさんは旧式だからね~。でもさ、キミたちに追いつかれるなんて思ってもいないんだよね~」
 バトラクスの砲撃が連続的に響き渡る。
 逃げ回る敵対者を、どうやっても撃破できない。
 そんなバトラクスたちに降り注いだのは、圧倒的な嵐。
 ヴァイセノイエの【|掃滅・嵐舞の光《シュトゥルム・シュトラール》】の光の如き剣が嵐となって敵領域を切り刻んだ。
「この先へは一歩も進ませません!」
 圧倒的な剣戟に蹂躙される中、指揮官を探していたタマミの足が止まった。
 陣形が崩壊したバトラクスの先、呆然とこの光景を見ている人形の機械がいたからだ。
 残ったバトラクスがその砲門をタマミに向けるが、金色の瞳で見つめ返す。
「小生は少女人形。この目で指揮官を捉えさえすれば、バックアップにも記憶は共有される。戦闘機械群なら、この意味が分かるでありますな? 小生を殺したとて、口封じは出来ないのでありますよ」
 そう。
 この瞬間、機械兵団を指揮している指揮官の作戦は、完璧に崩壊したのだ。

 バトラクスへ立ち向かう別√の能力者の戦いぶりを見ていたイタチは、ふ、と微かに微笑む。
「|こんな世界《ウォーゾーン》のために、体を張って、他所の世界の人が頑張ってくれるなんてね~。これは負けていられないよ~」
 沈静化していく侵略。
 ここから、√能力者たちの反撃が始まる。

第2章 日常 『食卓を囲もう』


 指揮官が一時的に撤退したことにより、機械都市は一瞬だが平穏を取り戻した。
 武器を収めた√能力者たちではあるが、星詠みを覆された指揮官が黙っているはずがない。
 と、都市に住んでいる住民たちが、バトラクスを押し返した√能力者たちを称賛するために集まってくる。
 頻繁に機械兵団の侵略が発生するこの√ウォーゾーンにおいて、機械兵団を撃破できる√能力者の存在は、彼らにとっては救世主そのものだ。

 ――ならば、この機会に、さらなる希望を齎そう。

 √ウォーゾーンの食料の備蓄は十分、とは言えない。
 ならば、別√から食材を持ち込めばその問題は解決するだろう。
 集まってきた住民たちに、料理を振る舞ってさらなる希望の道とするのも、√能力者の役目だ。
明星・暁子
タマミ・ハチクロ
ヴァイセノイエ・メーベルナッハ
鬼島・祥子

 √能力者の力によって一時的な平和を迎えた機械都市。
 そこに集まった住民たちは、希望に満ちた眼差しで彼らを見つめていた。
「生きることは食うことだ。しっかり食っておけば、人類はそう簡単に負けぬ!」
 鉄十字怪人、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)が、腕組みをしたまま声高にそう宣言した。
 身長200cmの長身、その威圧感は相当なものだったらしく、集った住民たちがぱちくりと目を瞬かせている。
「だが……この世界は食材がたらぬのだな。ならばカレー、カレーライスを作ろう!」
 やはり大量調理の定番といえばカレーだろう。
「もしもし弊社? 至急バックアップ12体頼むであります」
 暁子の後ろで通信機に耳を当てていたのは、タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)だ。
 どうやら、自社へ連絡していたらしい。
「えっ、13体で何するのかって?そんなの料理に決まってるでありますよ!!」
 えぇ、みたいな声音が通信機の向こうから聞こえてきた気がするが、きっと気のせいである。
「皆さん随分とお腹を空かせておられるようですので! ご飯にしましょう! 食材は――」
 ヴァイセノイエ・メーベルナッハ(夢見る翼・h00069)は白翼を羽撃かせる。
 そこで、住居区の影から現れた影があった。
「おう、待たせたな! √マスクド・ヒーローのスーパーで買い込んできた」
 鬼島・祥子(武装少女レティシア・h02893)が大きく膨らんだ数々のレジ袋を提げて登場だ。
 √ウォーゾーンでは食料の備蓄に問題がある以上、別√から仕入れるのはナイス判断であった。
「よし、いい頃合いでありますな。小生達もたった今到着したであります! √EDENでの買い込みも完了しているでありますよ!」
 【少女分隊】が到着し、皆一様に作戦会議中である。
 というわけで、調理開始だ。

「巨大な寸胴での調理は任せろ!」
 暁子が、大量の材料を寸胴に入れて調理開始。流石にタマミたちでは腕力に限界があるということで、怪人の膂力を総動員して肉と野菜を煮込み中だ。
 その真後ろでは、食材を洗う祥子と分隊たちに指示を出すタマミの姿がある。
「なあ、芋を洗うのってこんな感じで良いのか?」
「ええ、ありがとうございます! 次はタマネギとゴボウを切って頂けますか?」
「ああ、もちろんだ! っつーかやっぱ目に染みるなこれ」
「そこの|バックアップ《小生》! 切り方が雑でありますよ! そこの|バックアップ《小生》も! 小さな子供がいることも忘れないようにするであります!」
 せっせと調理指導中。えぇー、とばかりに口を尖らせるバックアップたちに檄を飛ばすタマミの姿。
「大根、人参、ゴボウにタマネギ……里芋と豚肉の柔らかさも良い具合ですね!」
「なに? カレールーは自作しないのかだと? 素人がややこしい料理を作っても失敗のもとだからな。√EDENの市販のカレールーは、美味いぞ?」
 大切なのは、こだわることではない、というお話である。√ウォーゾーンの住民によって、簡単に作れる料理こそ至高なのだ。
「よし、カレーの完成だ!」
「こちらも豚汁の完成です!」
「おお、いい匂いだな。それじゃあみんなで食べようか」
「バックアップたち、お疲れ様でありますよ」
 住民たちが輝かしいほどの笑顔で出来上がった料理を見つめている。
「それでは皆さんどうぞ召し上がれ! 沢山作りましたのでご遠慮なく! あ、でも出来たら小さい子優先でいきましょうね!」
「さあ、食べるが良い。食べて明日の、いや今日その日の活力を手に入れるのだ!」
 料理を配り終わって、美味しそうに食べる住民たちの姿を見ながら、満足そうにヴァイセノイエが呟く。
「…お料理の経験はあんまりありませんでしたけど、うまくいったようなら何よりです!」
 ああ、と祥子が頷く。
「たっぷり腹ごしらえしたら、もう一戦だ。気張って行こう!」
 すでに指揮官の情報を得ているタマミは気付くだろう。
 明らかに、機械兵団の動きが変わったことに。
「どうやら、本番のようでありますな」
 暁子もそちらへ顔を向ける。
「……おでましのようだな」

第3章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』


「この私の星詠みが覆されるとはなッ!」
 機械の体、機械の頭脳。レリギオス・オーラムの統率官のひとり、『統率官『ゼーロット』』が屈辱に満ちた声音を漏らしながらわなわなと震えている。
「生肉如きが、私の崇高な作戦をよくも……! スケジュールも台無しだ。さっさと終わらせるつもりだったが、こうも邪魔をしてくれるとは」
 ゼーロットの根本、行動原理は、出世欲。人間に対して微塵の興味も示さず、ただの生肉として認識している戦闘機械だ。
 それが、自身の星詠みを凌駕せしめた√能力者たちへ、復讐を成そうとしている。
 ゼーロットの出現に気付いた√能力者たちがその場へと駆けつけてくる。
 眼前に現れた|敵性対象《生肉》たちへ、ゼーロットは頭部のセンサーを稼働させた。
「貴様らを殺し尽くし……私の誤算を根絶やしにする。――視えるぞ。私の力にひれ伏し、塵と化すお前たちの姿がなぁ!!」
明星・暁子

「随分と感情豊かな機械のようだな」
現れた指揮官、統率官『ゼーロット』の傲慢な言い分にしかし、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)はその指先を突きつける。
「戦いは冷静さを欠いたものが負けるものだ」
「ふん! この私に指揮を説くかッ! くだらん!」
 ゼーロットは簒奪者、つまり通常の√能力者よりも邪悪なインビジブルを使用している関係上、その力はより強力だ。
 ゼーロットの片腕に莫大な輝きが宿る。
 √能力、【マルチプライクラフター】によって、ロケットランチャーじみた巨大な新兵装が生み出された。
「周辺の邪魔な|家畜《生肉》ごと、全て破壊してくれる!」
 新兵装の筒内に破滅の光が宿る。暁子に突きつけられた砲門から、激烈な閃光と共に破壊の銃弾が飛び出す――はずだった。

 ばちり、と周辺に満ちた雷光。
 刹那、建物の間に敷かれていた高圧電線の一つが断たれた――!

「なに……ぐわああああああああああッ!」
 凄まじい爆裂音、電撃がゼーロットに襲いかかる。
 新兵装に蓄えられていたエネルギーが内部で弾けて、大爆発を引き起こした!
「な、何が……!?」
「あまり人類を侮らないことだ。さあ続けようか」
「ぐ、ぬ……! 貴様……ッ!」
 【怪人大作戦】によってあらかじめ巨大ダム作戦を仕掛けていたことで、高圧線には莫大な電力が集まっていた。
 それが、ゼーロットの新兵装を爆散させる要因となったのだ。
 爆発に呑まれてよろめくゼーロットへと、ブローバック・ブラスター・ライフルの銃口が突きつけられる。
「――いや、続けるまでもないな」
 瞬間、ヘビーライフルの銃撃音。
 ゼーロットの肩を貫いて、鋭い弾が機械都市の静寂に轟き、掻き消えたのだった。

ヴァイセノイエ・メーベルナッハ
鬼島・祥子

「テメェが今回の、戦闘機械群の親玉か」
 レティシアに変身した鬼島・祥子(武装少女レティシア・h02893)が、現れた戦闘機械と顔を合わせる。
 機械であるのに、嫌に人間らしいこの統率官『ゼーロット』は、祥子の言葉に顔のセンサーを眩く光らせる。
「生肉共が! 私をここまで……!」
「へっ。たかが小娘数人に台無しにされるなんて、素晴らしい頭脳じゃねぇか。そこらの百均で売ってる電卓でも計算できるだろうさ」
「き、貴様……ッ!」
「生命の価値を勘定できねぇポンコツは、アタシらが廃品回収に出してやるよ!」
 快活に微笑んで、祥子が拳を構える。
 その横で、敵の動きを見ていたヴァイセノイエ・メーベルナッハ(夢見る翼・h00069)が小さく唸っていた。
「うーん、嫌な意味で人間臭いですねこの戦闘機械さん…」
 人間を生肉と称する軽率さ、そして出世だけしか頭にないかなり偏った思考、機械であるのが逆に嘘であるかのようだ。
「……ともあれ! この街で生きてる人達に手出しはさせないんですから!」
 祥子と並んで戦闘態勢に入る。ヴァイセノイエは翔び立ち、祥子は機械の大地を蹴ってゼーロットに肉薄する。
 
 戦闘、開始だ。


「生肉の分際で……私を怒らせたことを後悔するがいい!」
 突撃してきた祥子に対して、ゼーロットは近接武器のブーストナックルを創造する。
 拳が交錯し、火花が散る。
 甲高い音が木霊し、両者が真後ろへと吹き飛ばされた。
「ぐぬ……! 私の一撃をこうも……!」
「なるほど、新兵装ってやつか! それならこっちの価値とぶつけ合うとしようじゃねえか!」
 ふぅ、と深呼吸し――祥子の√能力が発現する。
「システムカラー、ブラック! スタートアップ!」
 それは巨大な拳型の武具だ。ゼーロットの武具と同様にブーストするための噴出孔を持ち、一撃で全てを粉砕する剛腕、漆黒の重装備。
 【|肉切骨断《アームズアーマーズ》】。敵の武器や√能力を複製した、必殺の武器である。
「なんだ……それは……! 私の新兵装をコピーしただと!?」
「驚いている暇はありませんよ!」
 頭上から響く声。見れば、もう一人の敵対者が、飛翔しながら、武器を突きつけている。
 【|聖浄・螺旋の風《ライニグング・シュピーラル》】の力によって、白き浄化の風を纏い瞬間的に翔び立ったヴァイセノイエは、風を纏った錬戦器「クリーク・グランツ」から幾重にも折り重なるレーザーを撃ち放つ。
 ここが、ゼーロットの運命を分ける分水嶺だった。
 空からヴァイセノイエからのビーム放射を受けるゼーロットは、視界内にあるインビジブルと位置を交換することも可能だった。
 だが、祥子が自身の新兵装をコピーしたというあまりにも屈辱的な行為によって、その判断が鈍ってしまったのだ。

 つまり。

「くっ!! 私の新兵装を真似して生きていられると――ぐおおおおッ!」
 レーザーの放射を無視し、祥子へと新兵装を構えたゼーロットはしかし、集中するレーザーが新兵装に直撃したことで、その不運を引き寄せてしまった。
 新兵装のエラー音と共に、漏れ出る噴煙。
 刹那、ゼーロットの新兵装が爆発を引き起こす。
 爆発の衝撃で仰け反るゼーロットを見逃す√能力者たちではない。
「競り合い、にもならなかったな! ゼーロット!」
「あなたの侵略も、ここまでです!」
 祥子の漆黒の鉄腕が唸り、ヴァイセノイエが鋭い風を纏って急降下し、侵略者へと螺旋の力を込めた一撃を叩きつける。
 交錯する二撃が、統率官の戦闘機械へと突き刺さったのだった。

タマミ・ハチクロ

「こ、この私が……! なぜ生肉如きに……ッ!」
「小生に星詠みは出来ないでありますが、そういう台詞を吐く奴の末路は決まっているものであります」
 狼狽えるゼーロットの言葉を制したのは、タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)だった。
 なに、と悔しそうに呻くゼーロットへと、タマミは続けて口を開く。
「塵になるのはどちらか、その電脳に刻み込んでやるでありますよ」
「ちぃっ!! 貴様のその減らず口……! 完膚なきまでに叩き潰してやるぞ!!」
 タマミの√能力はすでに発動している。
 整列するかのように集まった【少女分隊】へと、タマミは的確に指示を行っていく。
「少女分隊、揃っているでありますな。炊事の次は戦闘であります、オーダー:統率官『ゼーロット』の撃破」
 瞬間、タマミのバックアップ素体たちが一斉に散開した。機械都市の物陰へと消えていく分隊たち、その行動にゼーロットのセンサーが瞬く。

「『フェザーレイン』を敵上方に展開」

 上空にレイン砲台のサークルが出現、くるりと廻るのは天使の羽のような照準。
「【|最後の雨《ラストレイン》】を降らせるであります」
 瞬間、空に現れた光のサークルから、驟雨の如きレーザーの雨が降る。
 ゼーロットを包み込むような激烈の雨。しかし。
「笑わせる! 私の√能力を見くびったなッ!」
 ゼーロットの片腕が肥大化すれば、遥か遠方へと放たれる。
 虚空を掴んだその腕が、ゼーロットをその座標へと引き寄せた。
「ふはははははは!! 無駄だ無駄だ無駄だァ! 私を捉えることなど不可能――」

 かっ、とゼーロットの移動先の天空へ、光のサークルが現れる。

 目を剥いた、とは言えないが、ゼーロットの頭部のセンサーが赤く激しく明滅した。

「な、なん――?」
「そちらこそ、見くびってもらっては困るであります。小生のバックアップ素体は常に動き回ってるでありますよ。小生達がいない場所を見出すことなど不可能であります」
 遥か遠方から、タマミの声。
 頭上に光のサークルが折り重なる。
 すでにターゲッティングされたゼーロットに、再び√能力を発現する暇はない。
「――主の御心によりて、救いの雨を降らせ給う。飽和攻撃、逃げ切ってみせるでありますよ」
 刹那、空が光の雨で爆ぜた。
 ゼーロット周囲を覆い尽くすレーザー攻撃。
 光の熱に、ゼーロットの機械体が激しく損傷していったのだった。

明星・暁子

「ぐぅ……お、おのれ……ッ!」
 よろよろと立ち上がるゼーロットの姿は、まさに満身創痍だった。
 数多のレーザーに焼かれ、強烈な殴打による機械体の損傷、肩口に穿たれた穴からはスパークが発生している。
「全く、√能力者は頼りになる。これがお前の言う『生肉』の団結力だ」
 もはや機能停止に陥るのは必然だろう。
 明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)は鉄十字怪人の姿を取って、ゼーロットへと現実を突きつけた。
「ふざけるな……ッ! この私が、負けるなど……!」
 まだ屈する気配のないゼーロットへと暁子は静かにブラスターライフルの銃口を突きつけた。
 一発撃って終わり、というわけにもいかないだろう。
 腐っても簒奪者だ。ここは、完膚なきまでに叩き潰さなければ。
 大きく息を吸って、|それ《・・》を歌う。
「ふーしーぎ、まーかふしぎ・どぅーわー」
 途端、世界が歪んだ。
 時空間異常の後、ゼーロットが見たのは、機械都市――しかし、その機械都市は異界の如き色彩に満ちている。
「この魔空間の中では通常の物理法則は効かない」
「な、なんだと……!?」
 切り替わった景色にゼーロットが狼狽える。
「鉄十字怪人は魔空間の主役。その|創造力《想像力》の限りのことが起こるのだ」
 瞬間、地面が沸き立つ。
 現れるのは、怪異の群れ。それは、鉄十字怪人がこの世界にとって主人公だということの証左だった。
「ご、が……ッ!!」
 ゼーロットのセンサー光がでたらめに明滅した。たとえ機械体であっても、怪異と接触した際の狂気はこの世界では必中なのだから。
 【不思議摩訶不思議魔空間】は、鉄十字怪人が主人公となり、その攻撃は全て必中となる。
 だからこそ。
「「「おわりだ!」」」
 たとえ√能力で逃げようとも、暁子の攻撃は回避不可能。
 鉄十字怪人が分裂し、ブラスター攻撃が放たれた。
 破壊の連撃に包まれながら、ゼーロットから響いた電子音は断末魔となって、魔空間に響き渡ったのだった。

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