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繋いだ意志、そして祈り

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モルドレッド・アーサー

 状況は一変していた。
 到着した先を山林へと突っ込めばそこはゴスペリジオン領。早鐘を打つ心臓もそのままに近道を駆けるうち、一行の嗅覚が途切れ途切れに不快な臭いを拾い始めた。
 ──死臭だ。徘徊するモンスター、兵士達、そして住民の亡骸が、領内の至る所に転がっている!
『グアァァァァァ!!』
「……!!」
 汚い咆哮を上げて棍棒を振り上げ、横合いからドスドスと迫るオーク。その緑の腹の一点に、長大な竜漿兵器のリーチが鮮血の噴水を作り上げた。
『ガヘッ!?』
「くっ!」
 返り血。ばさり、と戦旗付きの槍からべとついた液体を振るうモルドレッド・アーサー(防導の騎士・h04734)。具足を鳴らし速度を保つ彼の後ろからは、重装戦士のザインとグレゴリーが、倒れたオークに斧と槍でトドメを刺しながら付いてくる。
 ──舞い込んだ大規模襲撃の報。
 この状況下、戦軍師であるモルドレットをして領地の中枢ではなく国境付近を駆け回らせているのは、戦術的判断と言うよりは個人的な親交を通して得た確信である。
 領主にして恩人たるゴスペリジオンはモンスターから背を向ける人物では無い──果たしてその予想は、最悪の形で的中した。
「遅かったわね……!」
 先行する女ローグ、イメルダの優れた視力が前方の異変を拾う。きらめく投げナイフ。ゲッ!? と鳴き声。次に木立を抜けた瞬間、装飾品を漁っていたと思しきゴブリンが額を射抜かれひっくり返った真横に、モルドレットは領主の亡骸を認めた。
 固まるモルドレット。イメルダも、少し遅れて追いついた両戦士も同じく硬直。全員がモルドレットの仕事仲間で冒険者であり、またダンジョンに潜る√能力者でもある。彼等の同僚には功成り遂げた後も領地運営に専念し、また愛妻家で知られた卿を悪く言う者は居なかった。早晩彼の死を拝む事になるなど、彼等のうち誰が予見し得ようか。
「ハァハァ……マジで誰も残ってねぇ!! このままじゃオレ達もヤバいぜ!」
「どうする? モルドレット」
「……」
 モルドレット、ゴスペリジオンの手に握られた武器を見る。冒険者時代の相棒。血に塗れているのは『力』を失ってなお彼が善戦した証だ。
 亡骸の容儀を整え、彼の武器を胸元に置くと、最後にうっすらと開いた瞳を閉じてやった。
「……諦めるな。一人でも多く救う。それは変わらん」
 行くぞ、と駆け出すモルドレットに、三人が気勢を上げて続く。


 ──────
 ────


 個人的であれ、組織的であれ、この日加勢に駆け付けた冒険者は少なく無かった。その全員がモルドレット達の一番槍を功一等と認めていたが、同時にそれは四人の勇が大勢を決する程度に領土が広くは無かった事と、そこを襲ったモンスターの規模が相対的に大きく、全土を脅かすには十分であった事も暗に示していた。
 ──住民の生存は絶望的。そうした見立ての下、モルドレット達は休む間も無く戦後処理に入る。
 撃ち漏らしを討伐しつつ、郊外にある山小屋の近くを通りかかった時。
「待って」
 イメルダが足を止めた。
 小屋の中から物音がする。
「……突入」
 号令と共にひしゃげた扉を破壊し、どやどやと床板を踏み鳴らしながらザインとグレゴリーが乱入。そこへモルドレットが続く。
 小屋の中は滅茶苦茶に荒らされ、破壊と略奪の跡が至る所に刻まれていた。ふと最後に入ったイメルダが、奥の片隅に一人の女性が倒れているのに気付く。
「奥方……」
 その姿を一目見るや、思わずモルドレットはそう漏らした。
 領主からは何度も惚気話を聞かされている。一目惚れから己の愛に応えてくれた、穏やかな淑女であったと。
 領内を逃げ回っている最中、モンスターと遭遇したに違いない。今の彼女は胸元に一人の赤ん坊を庇うように抱き締め、事切れていた。
 彼女の手から慎重にモルドレットは赤子を受け取り、そして抱いてみる。
(「やはり」)
 左は黒。だが右は違う。
 娘の瞳は自分譲りだと、これも酒の席で聞かされていた通り。生前と亡骸の彼の表情がモルドレットの中で交互に去来し、そして目の前の赤ん坊と重なる。こうした身体的特徴は良くも悪くも目立つもので、他人から理解を示されるのみならず、いずれ自身でも受け入れられるに越したことはない。領主はそれを名声へと変え得たが、しかしこれは最良に近い幸運というべきであろう。
 これもまた受け継いだ宿命と言える。身寄りを喪ったこの子をどうするか。冒険者達がその処遇を考え始めた所。
「俺が育てる」
 モルドレッドが手を挙げた。
 恩人である領主の忘れ形見。彼女を育てる事が彼への恩返しに繋がるならば。そうしたモルドレットの言葉を拒む者はいない。
 ──後にミルグレイス・ゴスペリジオンと呼ばれる、まだ首も座らないこの赤子は、今回のモンスター襲撃事件における唯一の生存者となった。
 ほどなくして彼女は正式にモルドレットの手に引き渡され、新たな生を歩む事となる。

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