シナリオ

記憶の奥から音がする

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 憶えているだろうか、あの時の思いを。憶えているだろうか、春が近づくあの日に聞いた言葉を。それとも君は、忘れてしまったのだろうか。

 ファンファーレがけたたましく鳴っていた。軋むようなレコードのノイズが乗っている。ポツポツというその音はノスタルジックと言うにはずいぶんと褪せていた。青年が一人走っていた、まだ3月だというのに汗をしたたらせて。逃げている理由は追われていたからだ。獣だった、アライグマと言うヤツだろう。ただ、普通の動物とは違っていた。そいつが洗うと消えていくのだ、汚れも、記憶も。それ故にこの大きな音も、追いかけてくるアライグマのことも、そして青年のことも街の人々は忘れていた。もしかしたら、ここに道があることを知るものももういないかもしれない。
「あいつらに捕まったらどうなる? 記憶を消されてバカになるのか? それとも存在を消されていなかったことになるのか?」
 碌なことにならないだろう。逃げたかったがそろそろ脚が限界だった。息も上がっている。どうせならこの疲れとか恐怖も消してくれればいいのに、青年はそう思っていた。

「事件を一つ予知しました。一人の青年が妖怪に襲われるというものです。みなさんには青年を助けて、青年を襲っている妖怪の退治と、その裏で糸を引いている古妖の封印をお願いします」
 木原・元宏(歩みを止めぬ者・h01188)はそう言うと20代半ばくらいの男性の画像をスクリーンに表示する。
「岡戸重路(おかとじゅうじ)さん、26才です。重路さんは大学卒業後にふらふらバイトをしながら暮らしているそうです。重路さんはバイト帰りの夜道で妖怪に襲われるので、まずはその妖怪、アライグマを倒してください。アライグマはその名の通り洗うのが得意です。何でも洗ってきれいにしてしまいます。それが記憶でも、経歴でも、存在でも。重路さんがアライグマに捕まって何かを洗われてしまう前に彼を助けてください」
 スクリーンの表示が変わる。どうやら壊れた家電のようだ。
「どうも古妖は壊れたり、忘れ去られた家電の恨みを晴らすために√EDENにやって来ているようです。重路さんが忘れている電化製品のことを思い出すと重路さんを付け狙うことはなくなると思います。アライグマを倒した後で聞いて見るのがいいと思います。それとは別に、古妖は倒して封印しないといけないですが。それではよろしくお願いします」
 元宏はそう言うと√能力者達を送り出した。

「いいメロディーだね。君を忘れたあいつは酷いもんだ。あたしがすぐに思い出させてやるよ」
 古妖はそう言うと重路を見た。

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第1章 集団戦 『洗い熊』


黒滝・恭一郎

「『古妖』と戦うことは初めてですが、事件に巻き込まれる人を見て見ぬふりはできません。俺の力で止められるよう、全力を尽くしましょう」
 黒滝・恭一郎(セレスティアルの神聖祈祷師・h02448)はそう言うと重路とアライグマの間に割り込んだ。アライグマはつぶらな瞳でこちらを見ると、手を地面にこすりつける。みるみる間に地面の色が消えて白くなっていった。
「ええと、あんたは?」
 重路がそう聞くと恭一郎は落ち着いた声で答える。
「黒滝恭一郎です。岡戸さんを助けに来ました」
「助けるはいいけど、あいつただの動物じゃないぞ」
 膝に手を乗せながら重路が言う。
「ええ、知っています。綺麗好きの洗い熊……ですか。汚れも、記憶も、物によっては消えてしまう方が良いものでしょうけれど。何を洗われてしまうか分からないというのは、危険すぎますね」
 恭一郎がそう言うと、重路はぽかんとした顔をする。
「なんか、訳知りだな。ならまかせてもいいのか?」
 恭一郎は肯くと【神聖竜詠唱】を使う。現れた竜の力で結界が張られ、恭一郎と重路のまわりを覆う。アライグマたちがそのまわりに群がるが、結界を越えることはできない。アライグマの投げかけた洗浄液が結界に当たってポタポタと地面に落ちていくと地面から煙が立ち上り、地面の色が消えていった。それを見て恭一郎はアライグマに言う。
「君の能力は危険すぎる。大人しくしてもらえますか」
 恭一郎のディヴァインブレイドがアライグマたちを斬りつけ、アライグマを倒していく。アライグマたちはその場を離れ、遠巻きに重路を取り囲んでいた。

黒滝・恭一郎
零識・無式

「加勢が無いのであれば、仕方ありません……。俺が取れる手段で、アライグマを倒しましょう」
 黒滝・恭一郎(セレスティアルの神聖祈祷師・h02448)は重路を守りながらそう言う。張り巡らした結界はなおも健在で、アライグマ達は重路に近づこうとするも結界に跳ね返されていた。
「岡戸さん、怪我や被害はありませんね?」
「おかげさまで、でも、ビックリするな。まるで夢の中の話かゲームの中の話みたいだ」
 重路は現実感がなくてふわふわしているようだった。無理もない、他の√に関わることは見たとしても忘れてしまうのだから。
「うお、見た目はただのアライグマだってのにこれまた随分凶悪だな。リアルなアライグマも害獣ではあるがそんなん比にならないくらい害悪だな」
 駆けつけた零識・無式(化異人零号・h00747)がそんな感想を漏らす。無式は用意してきた真新しい武器を取り出す。その錫杖、異業武装『雷帝』を掲げるとアライグマを引き付ける。左右の手を交互に差し出し、空間を消していくアライグマ。無式は錫杖を餌にアライグマを一カ所に集めていく。
「手伝いましょう」
 恭一郎が【ディヴァインブレイド】と【死霊の使役】を使ってアライグマを無式の前に集めていく。空を飛ぶ刃と死霊の悪意に押されて追い立てられて威嚇しながらも集められるアライグマ達。カーッと言う威嚇の声もむなしく無式の前に集まってくる。
「行け!」
 無式が【異業開放『イカレルイカズチ』】を使うと怒りが雷に姿を変える。杖を掲げる無式。天から降り注ぐ雷がアライグマ達を焼き切る。シューシューと音を立てて黒焦げになったアライグマ達は倒れ、塵になって消えていった。安心したのもつかの間、しぶとく重路を狙っていたアライグマがついに恭一郎の結界を洗い終えた。一気に重路に飛びかかるアライグマだが恭一郎が身を挺して庇う。アライグマに「洗浄」され一瞬腕が見えなくなるがそこは√能力者、アライグマの能力を押し返して事なきを得る。
「大丈夫か? 黒滝さん」
「大丈夫です。そのまま落ち着いていてください。ただし、油断はしないで」
 恭一郎は焦る重路をなだめると消えていた両手を見せる。重路は目をパチパチさせながらも安堵した顔を見せる。
「害獣駆除もキツイもんだな」
重路達を襲っていたアライグマ達を再び雷で焼き切ると無式は辺りを見渡す。囲んでいるアライグマ達の目が光っていたが数は大夫減らせたようだった。気がつけば周囲で鳴っていたファンファーレは止み、弦楽器の沈むような旋律が響いている。この楽章もそろそろ終わりのようだ。 

中村・無砂糖

「あ、あ…あー!!トラッシュパンダ(アライグマ)じゃー!!」
 中村・無砂糖(自称仙人・h05327)はワナワナと震えるとアライグマを指差す。
「アライグマに関わるとろくなことがないんじゃぞ! アレは名前や見た目よりも凶暴凶悪な害獣じゃからのう! 下がっておれ…!」
 それを聞いていた重路が呆気にとられた顔をする。
「いや、今までで滅茶苦茶わかったけど、じいさん、あんたはなんなんだ?」
「聞いて驚くな。仙人じゃ!」
 無砂糖はそう言うとパチンと指を鳴らす。重路はなんだかわからないという顔をした。
「『オーライベイベー』じゃ!」
 無砂糖が呼び出した【仙術決戦気象兵器「サンバースト」】が辺りを真昼のように照らす。キッ、キッ、と残っていたアライグマが無砂糖を睨み付け襲いかかる。無砂糖は大げさにアライグマを指差すと叫ぶ。
「こういった害獣は焼却処分に限るのじゃー!!」
 光に焼かれたアライグマ達が消えていく。無砂糖に群がっていたものも言わずもがなだった。
「うん?……なんか、いつの間にか頭のスキンヘッドがさらにツヤツヤピカピカになっている気がするのは気のせいじゃろうか?」
 無砂糖の頭をアライグマが「洗った」かどうかは神のみぞ知ることだった。

第2章 冒険 『何者かに追われる一般人』


 アライグマは去った。去る者がいれば来るものもいる。家電だった。廃家電、それも列をなすような。それらが重路を追って迫ってきていた。
「もう、走るのは無理だ。無理だって!」
 そう言いつつ重路は走った。とは言え疲れがありありと見える。なんとか重路が捕まらないように助ける必要がある。
「そうそう、そうやって逃げればいい。追ってくるものがなんなのか、わかるまでね」
 鳴り響く音楽が近づいてくるようだった。鳴り響くレコードは今度は古いロックに変わっていた。追ってくるものの姿を見極めるのもいいかもしれない。自由を歌うその曲を聴きながら。
中村・無砂糖

 冷蔵庫にブラウン管のテレビ、洗濯機に電子レンジ。それらがドカドカとやかましい音を立てて重路を追う。どうも古い家電らしかった。その後ろからマーチングバンドよろしく音楽が聞こえてくる。蓄音機か何かだろうか。
「ふむ、ふむ…?家電品と共になにやら音楽が聴こえてくるような気がするのう?」
 中村・無砂糖(自称仙人・h05327)は顎の髭を撫でながら重路の様子を見た。
(先ほどの洗い熊みたく悉く滅ぼしたいモノじゃが数が多すぎてキリがない…それに走るあやつの体力も限界じゃな)
 ううむと唸ると妙案を思いつく。
「岡戸重路というたか、すこしひと息入れに走るのを止め後ろを振り返ってみるとよい…。なに心配は要らん…。『仙術、リアルタイム変身変化』!」
 無砂糖はそう言うと光の巨人に変身する。廃家電にボコボコ殴られながらも重路に声をかける。
「息を整えて落ち着いて振り返って見るんじゃ。コレらに心当たり無いかどうかをのう…!」
 重路はううん、と首を捻る。音、音なのだ。
「昔、じいさんの家に行ったときに滅茶苦茶気に入ったものがあったな。レコードプレーヤー? うーん」
「もうちょっとじゃな。わしが変身できる限り足止めをするから思い出すんじゃ。ちょっと痛いんじゃがのう! 大丈夫じゃ」
「あ、ああ、わかった。ううん、そうだ! 古いステレオだ! 子供の頃、じいさんにくれってねだったんだ。大学に入ったときにお祝いにくれたんだ。結局使わなくなってしまったけど。PCと繋がらなくてさ」
 無砂糖はそれを聞いてもう一度力を振り絞って変身する。ダメージはともかく大夫痛かった。
「あ! あれだ。あの一番奥にいるヤツだ」
「よし、あいつに謝るんじゃ」
 無砂糖がそう言うと、重路は意を決してステレオの方に歩いて行った。

斯波・紫遠
八木橋・藍依

 重路が古いステレオに歩いていくのを斯波・紫遠(くゆる・h03007)はくわえ煙草で見守っていた。今のところ悪さをする家電はいないようだった。それどころか重路がステレオのところに行くのを固唾をのんで見守っている空気がある。
「悪いヤツらってわけじゃないのか。まあ、気持ちはわからなくもないが」
 煙を肺に入れるとトルコ葉の甘い香りが鼻に抜ける。他の煙草ではなかなか味わえない深い味わいだ。
「スクープですが、少し気を遣った方がいいニュースかもしれませんね」
 八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)がカメラを構えながらそう言った。こういう話はどうしても故人の思い出話になりがちだ、ニュースとしても弱い。問題はそれでは無いのだが。信頼関係があってこそ人は本当のことを話してくれるものだからだ。そういう意味では記者の本分は信頼を得ることかもしれない。
2人と多数の廃家電が見守る中、重路はステレオのところにたどり着く。
「お前だったのか、そうか、悪かったな。どうにもうまく行かないせいで、お前の出す音を聴くこともなくなってたな」
 重路は申し訳なさそうに頭を下げる。頭をかきながらステレオに言う。
「レコードじゃなくても、CDじゃなくても、お前から音を出して聴くよ。ちゃんとアパートに置いておくよ。実家から持ってきてさ。それでもうちょっとがんばってみるかな。レコード屋はできないだろうけど、きっとなんかできるはずだ」
 重路がそう言うと古いステレオは涙を流したように見えた。そして元あった場所へと消えていった。
「一件落着ですかね。それなら少しインタビューをお願いできませんか?」
 藍依がそう言うと重路はそれに答えようとするが、まだ全てが終わったわけではなかった。
「お二人さん、気をつけた方がいい。僕のカンによると、この事件を起こしたヤツが近くにいる。そいつを倒さないと、また面倒な事件が起こるだろうね」
 紫遠がそう言うと、暗がりから何者かがゆっくりと現れた。

第3章 ボス戦 『『百機夜行』電導キョンシー・雷鈴』


 現れたのは『『百機夜行』電導キョンシー・雷鈴』だった。雷鈴は重路とステレオがわかり合ったのをみて、満足して帰ろうとしていたのだが。なんと言っても古妖なのだ、また面倒な事件を起こすことになるだろう。今ここで倒しておいた方がいい。再封印されればしばらくはおとなしくしているだろうから。
クーベルメ・レーヴェ
十六夜・伊織
片町・真澄

「いいことをしたあとは気持ちがいいね。ん、なんだいあんたら?」
 雷鈴はいぶかしげに√能力者達の方を見た。すでにステレオは元いた場所に帰り、重路は安堵のため息とちょっとした想いを抱えて立っていた。それでも雷鈴は古妖なのだ、このままでは新たな事件を起こすことは目に見えている。
「私達はあなたを見逃すわけにはいかないわ。悪いけど封印させてもらうから」
 クーベルメ・レーヴェ(余燼の魔女・h05998)が高らかに宣言する。獅子の名を持つ彼女は自信をみなぎらせてそう言った。そのまま5重に折りたたまれた防御壁を展開する。
「防壁があるなら武器が必要だろう? 分隊支援火器なんてどうだ?」
 十六夜・伊織(天候を操るかもしれない不思議な店主さん・h01521)がそう言って大型のマシンガンを取り出す。武器である伊織だが出してくる武器はちょっと癖があるものばかりだった。今回のものは人が持つには重すぎる上に反動が大きく扱いづらいものだった。その分威力や貫通力は申し分ないのだが。
「わかってるわね。私にはこれくらいでちょうどいいわ」
 クーベルメが自信たっぷりの顔をする。なんと言っても重戦車のレプリノイドなのだ。大口径の武器は望むところだろう。
「ウチにそんなデカイ武器は無理やわあ。ウチの方が吹き飛んでしまうわ」
 片町・真澄(爆音むらさき・h01324)が言った。真澄はふわっと飛んで雷鈴のそばに行くと手を一度打つ。
「差し響け、"五番"!」
 その手から敵を弱らせる衝撃波が飛び出た。
「え!? ちょっと、私はもう帰ろうと思ったのに、仕方ない人達ね。返り討ちにしてやるわ。廃家電の恨み、思い知れ!」
 いつの間にか雷鈴のそばに埃を被った家電が集まっている。トースター、電子レンジ、二槽式の洗濯機、扇風機などなど。それらがけたたましい作動音を響かせながら真澄を襲う。ドカッ、ドゴッという音の間を真澄は舞うように跳び回る。
「あんたらをおとなしくさせる」
 真澄は時折手を打ちながら雷鈴達のまわりを跳び回った。そこをクーベルメが狙い打つ。マシンガンで弾幕を張るとボロボロと家電達が撃ち抜かれて動かなくなる。
「ひどい、まだ使えるのに」
「アンタが呼び出したんでしょ?」
 真澄が冷たく言うと雷鈴は起き上がれ、まだ倒れるには早いよ、と家電達に声をかける。雷鈴の力で再び立ち上がる家電達。
「そうよ、まだあなたたちはやれる。あの生意気な子をやってしまえ」
 雷鈴はクーベルメを指差すと家電達がクーベルメに殺到する。防御壁を乗り越えた掃除機が吸い口を振り下ろす。
「距離を詰めただけで勝ったと思わないでよね!」
 クーベルメはシャベルを抜くと下から払うように振り抜く。飛んできた掃除機の吸い口を弾き飛ばし、本体を寸断する。続いてやって来るラジオを、トースターを、ワープロを、クーベルメは華麗なシャベル裁きで倒していく。ナイフのようにシャベルを使い、ラジオを突き刺し、トースターの口にシャベルを叩き込み、ワープロを真っ二つにする。雷鈴はものを大事にしなさいと再び怒った。

黒滝・恭一郎
中村・無砂糖

「あ、あぁー…満足そうにしているところ悪いんじゃがのう」
中村・無砂糖(自称仙人・h05327)が少し申し訳なさそうにする。仙術手榴弾手榴弾を投げて足止めすると戦術を使うために集中をはじめる。
「『『百機夜行』電導キョンシー・雷鈴』、貴方に恨みはありませんが、これ以上√EDENに危害は加えさせませんよ。そして忘れられたくないという思いには、共感できます。誰もが抱える願いであり、悲しみ……それを否定することはできません」
 黒滝・恭一郎(セレスティアルの神聖祈祷師ホワイトクレリック・h02448)はそう言うと神聖竜へ祈りを捧げる。恭一郎の祈りは竜へと通じ、元の持ち主達が家電妖怪達のことを思い出していく。
「岡戸さんがステレオのことを思い出したように、きっとやり直すことができるはずです……!」
 思い出してもらえた家電妖怪達は満足げな表情を浮かべていずこカヘ消えていった。
「ちょっと、何してくれちゃってるのさ! いや、私も嬉しいんだけど、それじゃ私が困るのよ!」
 雷鈴が複雑な怒りを見せる。ああ、もう!! となんとも言えない顔をする。
「仙術…来たれ同志共、百尻夜行!」
 その間に仙術を完成させた無砂糖が同士達を呼び寄せる。しりに思い思いの武器を挟んだ仙人達が雷鈴の前に立ち塞がった」
「あんたたち、数にものを言わせるなんてずるいよ!」
「今までたくさん呼んでいたのはおぬしの方じゃろうに。今回の騒ぎを起こしたオシオキを受けてもらわんとちょいと割に合わんのじゃ」
 無砂糖がそう言うと、じいさん達が包囲の輪を狭める。
「ちょっとちょっと、あんた達、残ってるなら助けて!」
 まだ残っていた家電妖怪がじいさん達とポコポコと殴り合いを始めた。そこを恭一郎のィバインブレイドが舞うように跳び回り、1体ずつ倒していく。
「持ち主が他界しているなど、思い出して貰うことが叶わない家電もあるでしょう。可哀想ではありますが倒さなければなりません」
 恭一郎が悲しそうな表情を見せる。本当ならば誰かに使ってもらえたら嬉しいだろうに。やるせない気持ちだった。
状況は雷鈴に不利になってきていた。頼みの家電妖怪は持ち主の元に返ったり、倒されたりしてもう残ってはいない。仙人のじいさん達がまたしても間合いを詰めると雷鈴は一気に飛びすさり逃げようとする。
「逃しはせんぞい!!」
 悉鏖決戦大霊剣を構えると空高く舞い上がり一気に雷鈴に向けて振り下ろす。対なんでも用をうたうその剣は古妖に対しても有効だった。背中をばっさり切られた雷鈴は悔しそうに呻くと元の祠に封印された。
「岡戸さん、これからどうするのです?」
 恭一郎が聞くと重路が答える。
「実家に行ってステレオを取って来ようと思う。いつまでもフラフラしてるのもあれだし、なんとか音楽の良さを伝えられる仕事ができるようにがんばるかな。嬉しかった思い出って誰にでもあると思うからさ。そういうきっかけになれるようなのがいいんだけど」
「いい心がけじゃのう。わしも応援するぞい。達者でな」
 無砂糖がそう言うと、重路はお礼を言って駅へ向かった。今からならまだ実家に行く電車はあるはずだったから。

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