叩いて倒して謎を推理しろ(マジで)!
彼は目の前で繰り広げられている状況に、ただただ、呆然としていた。
彼は謎が好きだった。いや、推理も好きだった。
だからこそ、その二文字がある書物は、これでもかと買ったり借りたりして、読み漁っていた。
その書物の一つが、まさか、凶暴で他者の血肉を喰らう危険な「古妖」を封印しているものだとは、思ってもみなかったのだ。
「これは素晴らしい」
危険な「古妖」が……いや、犯罪鬼妖教授『モリアーティ』が笑みを深める。
「私のプランは完璧でね。すべてがこの掌の上だ。君のような勇敢な青年のお陰で、私はこの世界に戻れた。礼を言おう。ところで……ふむふむ、推理小説か。面白い」
犯罪鬼妖教授『モリアーティ』は哂う。
「この地の探偵は、私を捕まえることができるのかな? ましてや、私を倒すことなどできるはずもない」
くっくっく……と嗤う犯罪鬼妖教授『モリアーティ』を前に、間違って彼の封印を解いてしまった青年は恐れおののくのであった。
「今回、皆さんに向かっていただくのは、√妖怪百鬼夜行のとある長屋に向かっていただきます」
そう告げるのは、アクシア・メロディールーン(はつらつ元気印なルーンソリッド・アクセプター・h01618)だ。
「その長屋に住んでいる謎解きと推理小説をこよなく愛する文学青年が、うっかり「古妖」を封印していた書物を手に入れてしまって、封印を解いちゃったみたいなんです。その影響で、いろいろと妖怪達が出て来ちゃってるので、そいつらを、根こそぎ退治して欲しいんです。敵を謎と称して、攻撃と称して推理するように」
……えっ。この場に集まった√能力者達が固まった。
「開いた封印のせいか、なんかこう、推理したくなるんだそうです。けど、推理する必要はなく、推理したように、|敵《なぞ》を|攻撃《すいり》すれば、なんだか、攻撃が強くなる……感じがするそうです。なので、それっぽくしゃべりつつ、敵をぶっ倒してください」
もちろん、推理してくれても構わない……らしいが、事件らしい事件は、「古妖」が出てきてしまった事しかないので、ちょっと難しいかもしれない。まあ、その辺はそれっぽくこじつければなんとかなるだろう。
「とにかく、出てきた妖怪達を始末して来れば、問題ありません。ぶっ叩いて推理して任務達成してきてくださいね。謎の答えはたくさんですよ!」
なんだかアクシアがわけわからんことを言っているが、とにかく、頑張れ、√能力者達。皆の|推理力《こうげきりょく》に期待している!!
第1章 日常 『妖怪長屋の日常』

人々が行き交う長屋に、どろんと現れたのは、一人の少年。見るからに、ザ・探偵といった素晴らしいいで立ちをしている。
「ここは……妖怪探偵の腕の見せ所だね!」
|家綿《うちわた》・|樹雷《じゅらい》(綿狸探偵・h00148)。綿っぽい白髪と白いマフラーがトレードマークな彼は。
「ボクは半妖狸の家綿・樹雷。『インビジブルとは生命が死んだ姿である』『√能力者は自らインビジブル化でき』『死後蘇生する』の三点から√能力者の正体を『生命を欠落したもの』と推理している」
えっ……なんていうか、凄い人来た!! 樹雷はふふっと笑みを浮かべ、更に続ける。
「√能力者が本質的にインビジブル死者なら、√とはその行き先、すなわち来世。妖怪が喰いあってた、この√は『餓鬼道』世界かもしれない。こうした推理を積み重ね、世界の謎に迫らんとする妖怪探偵さ」
樹雷の後ろに『ドンッ!!』という力強い文字が浮かんだように見える。既にかなりのやり手な名探偵っぷりである。
「くくく、|自己紹介《つかみ》は完璧だね!」
……あれ、なんだかちょっと怪しい雰囲気になったぞ? 気のせいかな?
「あっと、そこのお方。どうかボクに協力してもらえませんか?」
さっそく、|配下妖怪作成《テシタヅクリ》を発動させ、本の出所や青年について事件の情報収集を開始していく。
流石に本の出どころは分からなかったようだが、青年のいる長屋はすぐに見つかった。
「……謎がなければ作り出す、どろんバケラー探偵のトンチキ推理に慄くがいい!」
……あれ? トンチキ推理? って、もしかして、この人……残念な探偵さんだ!!
最初はものすごく、格好良かったのに!! ……でもまあ、|敵《なぞ》を|推理《こうげき》すればいいから、まあ、いっか!
樹雷は怪しい気配を感じる、青年の長屋を見つけ、慎重にその中へと入っていくのであった。
夜に瞬く星のようなキラキラとした光を宿した黒の瞳に、山から落っこちてきたような癖っ毛を揺らしながら、その少女は長屋にたどり着いた。
「わかりましたっ!!! 夜世古もいつか、かっこよく謎を推理してみたかったんですっ!!! よろしくおねがいします!!」
物凄く元気な様子で自己紹介をするのは、|八弥屋《ややや》・|夜世古《よよこ》(よだかか星・h03378)だ。
「ここが現場ですねっ! 確かに悪い気みたいな雰囲気がプンプンしています!」
ちなみに夜世古は、件の長屋を見つけてはいない。なので。
「まずは聞き込みからですねっ! でも、夜世古の見た目では舐められてしまうかもしれないので……」
さっそく、夜世古はどろんと、リアルタイムどろんチェンジで変身して見せた。
「かっこいい大人の女性になって、聞き込みしましょうっ!!」
……かっこう……いい? とってもグラマーでセクシーなスポーツタイプ(つば広の帽子つき)を被っている。長い髪をなびかせ、くねりくねりと歩いて見せる。
いや、ある意味、格好いい……のだろう。うん、たぶん、いつもの容姿よりは、成功率は高そうに感じる。
「こんにちは!! すみません、犯人っぽい人をお見かけしませんでしたか!」
うわあ、残念な聞き方だった!! けれど、夜世古の素直さがよかったのか、相手も察したのか(?)ちょっと生暖かい笑顔で聞き返してくれた。
「犯人っぽいって……?」
「犯人っぽい人は……ええと……すっごく犯人っぽい人です!!! そういうぐわーっとしたオーラが出てる人がいないですか!!?」
「……怪しい人、かなぁ? そういう人は見ないけど、それっぽい人ならいるよ」
優しく答えてれた!
「ど、どこにいますか!!!」
両手をぎゅっと握り、ギラギラ輝く瞳で夜世古は、ずずいっとその人に尋ねる。
「この先の、ほら、あの長屋の人だよ。いつも推理小説とか、怪しい謎の本とか買ってて……」
「ありがとうございますっ!!!!」
場所を聞き出した夜世古は、ばびゅーんと正解の長屋へと、無事たどり着いたのだった。……ほんと、無事たどり着いてよかった……。
「件の長屋はこの辺か……」
手帳に書かれたメモを確認しつつ、|海棠《かいどう》・|昴《すばる》(紫の明星・h06510)は、ぱたんと閉じて、それを胸ポケットへと仕舞い込む。
いつもは、従姉の会社の手伝いをしており、そこでは不穏な事件を追い解決に導く探偵兼ボディーガードを果たしていた。
ちなみに従姉の世話になっているのは、家族を失ったからだ。もちろん、保護してくれた従姉もまた、大切な家族を失っている。
だからこそ……秋に出会った年頃の二人の少女のことも、仕事の傍ら、面倒を見ている。
「見えないながらも、怪奇の正体は気になってた。ここで少し経験を積むのも悪くない」
だが、そうはいっても、昴は裏稼業中心の調査がメインで、従姉が表の事件を調査するのがいつものこと。少々慣れない。
「……調査はするんだが、なぜか物理的に解決することが多くてな。仕組みがわかれば納得できるんだが……」
とにかく、やってみるかと近くにいたおばちゃんに声を掛けてみる。
「すまない、近くで何かトラブルみたいなことは起きていないか?」
「さあ……どうかしら?」
もしかして……まだ起きていない……とか? それに近所のおばちゃんがトラブルに巻き込まれるのは、たぶん、低確率だろう。
ならばと、ありがとうございましたと、頭を下げて、ささっと退散。
次に狙いを定めたのは、運よく見つけたチンピラっぽい若者だ。
「よう、兄ちゃん。景気はいいかい?」
こっちの方が気楽に話せるなと、昴はホッとしながら声を掛ける。
「ん? なんだ、兄ちゃん、やる気か?」
「こんな眼鏡でひょろっとした奴が強いわけないしな!」
どうやら、相手はやる気なようだ。
「まあ、あいかわらずいつもの仕事をするだけ、か」
数秒後、倒れたのはチンピラの方で、昴はしゃがみ込みながら、忘れようとする力を発動させつつ、件の長屋の場所を突き止めることが出来た。
「本当に怪奇が現実に存在したとはな……」
件の長屋にたどり着いた時、昴はヤバい気配をビンビンに感じていた。既に怪しいオーラみたいなものも見え始めている。
昴もまた、慎重にその長屋の中へと入っていったのだった。
第2章 集団戦 『カラクリコガサ』

たどり着いた長屋の中には、案の定、カラクリコガサ達が巣食っていた。
このまま放置すれば、長屋の人々にも被害が来てしまうだろう。
その前に、君達の手で、|カラクリコガサ《なぞ》を|攻撃《すいり》して欲しい。
容赦なく!!
ちなみに、目の前の敵を倒さねば、ボスのいる青年の部屋にはたどり着けない。
よろしく頼むぞ、|探偵《√能力者》諸君!!
●マスターより
いよいよ、本番です!
探偵等みたいに、それっぽい|適当なこと《すいり》を言って、物理でキメてください!! そうすれば、自動的にボーナスが入ります。
皆さんの|敵《なぞ》を|攻撃《すいり》する、熱い(?)プレイング、お待ちしています!!
「さて、本件で『推理で攻撃が強くなる』のは謎だ」
ベレー帽に手を添えながら、樹雷は考える。考えながらも、近くにいたカラクリコガサへと接近。
「その答えは青年の情念が『謎や推理』だからだ!」
持っていた探偵刀で、ズバッと見事に一刀! しっかり格好よく決めつつ、そのカラクリコガサはばたりと倒れていった。
と、リンリンと鈴を鳴らして抗議するかのように、カラクリコガサは、傘から青白い毒の粒子を、樹雷へと放ってくる。
が、樹雷はそれを察知して、何とか避けて見せると。
「ボクの推理『√能力者の本質はインビジブル』だと、簒奪者とは、インビジブルを取り込んで強くならんとする『邪悪なインビジブルの√能力者』!」
え、そうなの? それが正しい推理なのか? 考察なのか? ちなみに、これは樹雷の一主観である。ご注意を。
おっと、そんなことを言いながら、樹雷は颯爽と、眠りの妖精の砂でできた弾丸を射出する拳銃、|妖精式催眠拳銃《ザントマン・スリープガン》を数発撃ちこんでいく。それでぱたりぱたりと寝てしまうカラクリコガサが続出。
「√能力者は幸福によって|欠落《生命》が満たされる。逆説的に人は幸福でなければ|欠落しうる《死ぬ》。つまり……」
かなりもったいぶりながら、樹雷はきらーんとその瞳を輝かせて、こう指摘する。
「つまり古妖は情念から|幸福《インビジブル》を喰らう! その阻止に本件では√能力者の推理が有効なんだ!」
どどーーんっ!!! びしっと人差し指を突き付ける樹雷がビシッとポーズを決めた。
それだけではない。しっかり|自白の催眠榴弾《コンフェション・スリープグレネード》を放って、爆発と催眠効果による、弱点を狙われる幻覚による2倍の攻撃で敵を一気に攻撃するだけでなく、周りにいる仲間にも敵の弱点看破と、催眠での強化暗示による戦闘力強化を与えるのも忘れない。流石である!
「なぜ血肉でなく情念を喰らうのか? その理由はボス戦で!」
あ、いい引きありがとうございます!! と、いうわけで、続きはボス戦へと引き継がれていくのであった。
「感じる……謎の波動を……! 不肖シンシア、|助手のクラゲ《雑用インビジブル》と共に参上です」
ふわふわと漂う助手のクラゲさん(一般には見えない)を伴って、新たにここへと合流を果たしたのは、背中に白い翼をもつ、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)だ。
りんと鈴を鳴らすカラクリコガサを見据えながら、シンシアは一言。
「ふむ、傘についているのは鈴ですか。音を鳴らすことで自己の存在をアピールする愉快犯……きゃっ!!」
鈴を楽しそうに鳴らしながら、カラクリコガサが古鈴を伴って、急にシンシアに攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください真剣に考えてるんだからこっち来ないで!」
めっちゃ早口で、シンシアは焦りながら、インビジブル・ダイブで回避。もうちょっと遅かったら、本当にヤバかった。
「まったく、人の推理を大人しく聞いていただけないなんて。……まさか犯行も衝動的に行ったのでしょうか!!」
その推理(?)に至り、シンシアは驚きに満ちた視線をカラクリコガサへと向ける。
と、また攻撃してきたので、再び、インビジブル・ダイブで回避。これもまたギリギリのところを避けることが出来た。
「ああもう! それなら、強化したこの拳でっ!!!」
ばちこーんと、目の前にいたカラクリコガサをぶん殴った……マジで!!
「古代語魔術師らしくないって? 細かいことはいいじゃない!」
そう、細かいことはいいのだ。目の前の敵がいなくなれば、それでいいのだ!
「……何故不思議な顔をしているのです? そういう判定なのだから論理的に決まっています!」
なのかなぁ~? まあとにかく、新たな助っ人の登場に、現場は否応にも盛り上がっていくのであった。
「探偵だが、今回は物理で解決しなきゃダメか」
昴は、ちょっと嫌そうに呟きながら、|カラクリコガサ《なぞ》を前に身構える。
「まあ、今後の為に敵と何故ここに出たか推理はするが」
と、そこで、カラクリコガサが古鈴で技能を高め、昴へと折りたたんだ傘で攻撃してきた。が、昴はそれを難なく躱して見せると。
「長屋か。まあ集まりやすいところだ。情念がたまりやすいしな。古鈴で技の精緻さをあげるらしいが壊してしまえば問題ないな」
その昴の言葉に、カラクリコガサはびくりと身を震わせた。そう、その古鈴が消滅する際に、その鈴の中に内包されていた酸性雨がカラクリコガサへと降り注がれる。それだけは、阻止しなければならない。
「……結局は物理だ。こういう類は常識が通用しないしな」
カサカサと鈴を仕舞い込みながら、カラクリコガサ達が猛抗議してくる。
「え? もっとよく推理しろ? 聞こえないなー」
耳を塞ぐ振りをしつつ、昴は駆けだす。目指すはこの長屋にある最も殺傷力の高い物体。台所と思われる場所へとたどり着き、流しの下の扉を開いた。
――包丁。
これこそ、殺傷力の高さでは、群を抜いているものだ。
「触れたらおしまいってな。覚悟しな?」
|影鬼の呪い《カゲオニノノロイ》を発動させ、手に入れた包丁に呪いの影の力を纏わせ、斬りつけていく。
「ギャアアアアアアアア!!!」
聞いたことのない叫び声が長屋に響く。
「そうそう……」
包丁を片手に振り向きながら、昴は告げる。
「インテリメガネってのは否定しないが、意外と鍛えてるんだぜ」
そこ、実は気にしてた!? いやいや、今は敵を倒すのが先。昴はこうして、次々と目の前にいるカラクリコガサを倒していったのだった。
「わかりましたっ!!!!!!!! ええとっ……探偵さんっぽく推理をすればいいんですね!!!」
正解! 夜世古はさっそく、推理をしてみようと試してみる……が。
「で、でもどうしよう……! 探偵さんっていつも、どんなこと言ってましたっけ……!!」
大変だ、探偵さんの名セリフが夜世古の頭の中に納まってなかった!! 新たなピンチを迎えつつ、そうこうしている間にも、カラクリコガサ達が夜世古を倒そうと近づいてくる。
「ええとっ…ええとっ………」
焦りながらも、答えを導こうと夜世古の頭の中はフル回転! と、そこで、何かが閃いた。ぴかーんと、頭の中の電球が光ったのだ。ビカビカに!
「わ、わかりましたっ! 犯人はあなたです!!!」
ビシッとカラクリコガサ達を指さし、夜世古は指摘して見せたのだ。……ん? これって推理?
「あっ!! す、推理を忘れてました!」
かなりぐちゃぐちゃには、なっているが、それでも頑張るのは、夜世古。ちょっと頭をフル回転させすぎて、ちょっと目がぐるぐるになっているが、気にしない!
「あなたは傘を持ってて、いっぱい本を買ってて……つまりっ! お家で本を読みたかったんですっ!! それであのっ、道で出会った優しい人に! それを目撃されてたんですっ!! おうちで本をゆっくり読んで過ごそう作戦の犯人は……あなたですーーーっっ!!」
なんだか可愛らしい作戦が出てきたが、しっかり推理できた!! ついでに指摘したと同時に霊能波を放ったお陰で、油断してたカラクリコガサが1体消滅していった。すごいぞ、夜世古!!
「ん? でも……おうちでゆっくり本を読むのって、悪いことじゃないんじゃ……??」
ああ、そこは気づいても突っ込んじゃだめだ! このままでは夜世古がやられて……。
「もう、わかんなくなりましたけどっ!!!! とにかく、皆さん……犯人なんですっーーー!!!」
考えるのを放棄した夜世古は、手あたり次第、霊能波を打ちまくって。
「…………あれ?」
無事に傍にいたカラクリコガサ達を殲滅させたのであった。
第3章 ボス戦 『犯罪鬼妖教授『モリアーティ』』

「おや……騒々しいと思えば、こんなところまで探偵達が迫ってきていたとは」
けれどと、犯罪鬼妖教授『モリアーティ』は、余裕の笑みで続ける。
「残念だけど、君達の活躍はここで終わりだよ。何故なら、君達の推理はここで終わる。君達を倒して、私はこの世界を支配していくのだよ」
そう言って、モリアーティはくつくつと嗤って見せる。
「そうそう、既にここでの準備は終わっているよ。さようなら、探偵諸君」
こうして、最後の敵、モリアーティとの戦いが、今、始まる!!
●マスターより
いよいよラストバトルとなります。泣いても笑っても、このバトルで終わりです。
悔いのないよう、しっかり推理(?)をお願いしますね!
それと、モリアーティの近くには、意識を失っている青年も転がっています。場合によっては、モリアーティは彼をも使うかもしれません。
そちらも気を付けて、攻撃をお願いしますね!! 推理と青年を救う行動には、ボーナスが付きます。引き続き、ラストバトルもお楽しみください!!
「出ましたね、黒幕っぽいの」
ちょっとだるそうな視線をモリアーティに投げかけながら、シンシアは|揺蕩分隊《タヨレルミナサマ》で、12体の頼れる(?)インビジブルを呼び寄せた。
そのうち6体を倒れている青年を守るために、残りをシンシアの傍で、モリアーティを攻撃してもらっている。
「青年は推理小説がお好きなようで。厚みや巻数が多い推理小説は、それだけで部屋のスペースを埋めがち。つまり、掃除が面倒!」
シンシアの推理が始まった。もちろん、その間も呼び出されたインビジブルはモリアーティを攻め立てている。
「数が多いと面倒ですねぇ。仕方ありません、完全犯罪計画でも立てましょうか」
眼鏡をくいっと持ち上げると、モリアーティは、自身の半径数十メートルを毒霧の満ちる古都へと変えて、対応していく。
「っ、すごい霧。しっかり耐え……あれ、今この人何か言った?」
首を傾げつつ、シンシアは続ける。
「犯罪は計画時点でもう罪なので。ナントカ罪ってやつです。つまり犯人は貴方!」
「ナントカ罪って……」
シンシアの言葉に、モリアーティは思わず言葉を失う。だが、シンシアは負けない。
「重いので滅多に出さないのですが……今こそ、この|モーニングスター《杖》を使う時! 喰らいなさい!」
「だから、ちょ……ぐあっ!!」
重そうな杖もとい、モーニングスターをばちこーんとモリアーティにぶつけるシンシア。
「……やはり拳より杖のほうがいいですね。真実はいつも勝つ! ……あれ、なんか違った気もする」
ふんと得意げに腕を振り上げつつ、けれど首を傾げるシンシアに、モリアーティは理不尽だ……と呟くのであった。
「……!!! だ、大丈夫ですかっ、お兄さん!! それに、この怖そうなオーラの人は……?」
倒れている青年に、いよいよ出てきた(けど、モーニングスターを喰らって痛そうな)黒幕であるモリアーティに、夜世古は状況把握に少々、時間が必要だった。
そして、はっと閃いた……いや、思い出した。
「わ、わかりました!! この倒れているお兄さんが、よく本を買っていたこの長屋の本好きな人……そして、あなたは本に封印されていた悪い妖怪……正しく真犯人ですねっ!!!」
きゅぴーんっ!! 夜世古のやる気に火がついた。
「真犯人め~!! 許せません!! こうなったら、夜世古とっておきの技で、大・変・身っ!」
むむむむっと物凄い形相で念じる夜世古に、モリアーティはあっけに取られながら、見つめている。
どろんと、変化したのは、なんと、黒々とした大きな蒸気機関車。まるで、童話に出てくるような、そう、銀河鉄道である! 流石に先頭の一両だけだが、それでもその迫力はすごいものを感じる。そう、それが夜世古の|私が星の又三郎《ワタシガホシノマタサブロウ》で変化できる一つの姿である。
「とりゃああああーーっ!!」
そして、勢いよくモリアーティを。
「ぐほっ!!」
ぶっ飛ばして……あ。
「うわああ!! 障子が大変なことにーー!! あああーーー!!! ごめんなさーーい!!!!」
勢いそのままに、バリバリバリっと、障子をぶっ壊してしまった。けれど、青年を守るように夜世古の銀河鉄道がいれば、青年の安全はしっかり確保できたと言えよう。
「お、おのれ……こ、これが√能力者の実力というのか……」
よろよろと立ち上がりながら、モリアーティは夜世古達、√能力者を睨みつけるのであった。
「どうも、モリアーティ教授」
そう挨拶を交わしつつ、樹雷もまた、戦線に加わる。
「古妖が血肉でなく情念を喰らう謎。ボクの推理するに、『全ての古妖は既に一柱の|付喪神《ダンジョン》に喰われ、その|百鬼夜行《一部》になっている』だ!」 えっ、そうなの!? 正しいことは定かではないが、今、樹雷の|探偵の推理披露《カイケツヘン》が展開される。現場の再現空間に埋められ、更に青年は守られることになったようだ。これだけ守られれば、もう気にせず、モリアーティを叩くことに集中しても問題ないだろう。
樹雷の推理はまだ続く。
「√ドラゴンファンタジーの|簒奪者《ダンジョン》自体が√能力者なら、遺産を本体とする付喪神。奇妙建築は竜漿がないから被害もなかったダンジョンの可能性がある! これと同種の付喪神が本√におり、血肉でなく情念を喰らうため古妖が収集していたと予想する!」
きらーんと、樹雷の黒い瞳が一層輝き、そのまま、探偵内では有名な格闘術(?)、妖怪バリツでもって、モリアーティに強烈な一撃を与えた。
「ぐはっ!! お、おのれ……!!」
「現状この推理に証拠はない。だから貴方を確保調査させて貰う」
びしりと樹雷はそう言い放ち、そして、格好よく探偵っぽく、探偵刀の刃をモリアーティへと指し示して見せたのだった。
「……くっ、出遅れたか」
とはいっても、皆が保護していた倒れた青年を、実は秘密裏に近くの病院に運んでいたのは、昴である。
これでもう、青年に被害は及ばないだろう。この功績は揺るぎないものだ。
「探偵として不覚だ。可能なら最後の謎に挑ませてほしい」
だが、昴としては、後れを取ったのが悔しいらしく、苦い顔をしているようだ。
「……遅れてきた者に後れを取る訳にはいきませんよ」
モリアーティは先ほどの戦いでズレてしまった眼鏡を直しながら、ふっと余裕の笑みを見せた。
「それにここは、既にこの場所は、私の意のまま。倒せるものなら、倒してみるのですね!」
どうやら、まだモリアーティが事前に仕込んでいた完全犯罪作戦が残っているらしい。
「本物がどうかわからないが、彼の偉大な名探偵の生涯のライバルたる大物。奥の手を打たないと謎を解かれる危険がある」
ぐっと体を沈めて、そして、昴は駆けだし、先制攻撃を加えようとして。
「ふっ……その射程であれば、私の勝ちは確定したというも……の……?」
とたんに、モリアーティの目の前で、がこんと開いた大きな穴。その中に飛び込むように立った昴。しかし、寸でのところで何とか穴に落とされる前に飛び退くことが出来た。とたんに姿を消すのは、昴の方。
「ど、どこに消えたっ!?」
それが、昴の|黄昏の疾走《タソガレノシッソウ》。最初の一撃は先ほどのモリアーティの策で阻まれてしまったが、次はもうないだろう。これまでにもモリアーティの計画は不発に終わっている。
(「所詮、一度完全無効したって、攻撃に繋げなければなんの意味もない」)
そう昴は分析し、モリアーティの死角から飛び出していく。
「しまっ……!!」
「探偵はな。謎の一部を解いたって、完全解決にしなければなんの意味もない」
囁くようにモリアーティの耳元でそう告げると、ずぶりと何かがモリアーティの胸に突き刺さった。
「ごぼっ!!」
ずしゅっと引き抜き、モリアーティがゆっくりと地に伏す。そんなモリアーティを見下ろしながら、昴は続ける。
「拍子ぬけだな。偉大な名探偵をくるしめたのにふさわしい敵で欲しかった。……じゃあな」
「く、そ……こんなはず、で……は……」
がくりと息の音を止められて、モリアーティは、その姿を消え失せたのだった。
こうして、うっかり危険な「古妖」を呼び出してしまった青年は救われた。病院に担ぎ込まれたのなら、|直《じき》に目を覚ますだろう。
少々長屋を壊してしまったが、きっとこれもまた、後で何とかなるはずだ。
他に妖怪が潜んでいないか確認したのち、役目を終えた|探偵《√能力者》達は、颯爽とその場を後にしたのだった。