シナリオ

遅れたホワイトデー! プレゼントはお早めに

#√マスクド・ヒーロー #リア充撲滅しねしね団

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√マスクド・ヒーロー
 #リア充撲滅しねしね団

※あなたはタグを編集できません。


 少年――レンは困り果でていた。
 幼馴染からバレンタインにチョコをもらったのだが、ホワイトデーにお返しするのををすっかり忘れてしまったのだ。
 いや、忘れていなかった訳ではない。正確には『お返しするつもりだったが、ホワイトデーが3月何日なのかを忘れていた』のだ。
 幼馴染は風邪をひいてしまいホワイトデーに顔を合わせる事もなかった。だから次に会う時には必ずプレゼントを贈りたい。
 でも、ホワイトデーはもう終わってしまった。登下校時に通る商店街で探してみるも、ホワイトデーの文字はどこにもない。
 困った。どうしよう。
 途方に暮れながらバレンタインにチョコをもらった公園を歩いていると、大きな声が聞こえてきた。
「ファイナルセールの開催中だよー!」。
「ホワイトデーのプレゼントはいかがですかー? 」
 その声を頼りに時計台にたどり着くと、なんとホワイトデーフェアが行われているではないか。
「あの、プレゼントを買いたいのですが……」
「そうかそうか君はリア充だな? そうだな!」
 どこか棘が含まれているような気がしたが、レンは気にしない事にしてずらりと並ぶ商品を眺める。
 おいしそうな焼き菓子にマシュマロ、キャンディー、アクセサリーや花束まで揃っている。
 あまりの多さに目移りしそうだが――、
「高い……」
 思わず口に出てしまった。
 どの商品もとても値段が高いのだ。
「む、高いかな?」
「今月のおこづかいと貯金しているお年玉を全部使っても買えないです」
 素直に言うと、怪しげな恰好の店員たちは顔を見合わせると、レンにある提案をする。
「そうだ、アルバイトをしてみる気はないかな?」
「実は次の作戦の準備に人手が足りなくて困ってるんだ」
「短時間に高収入! ついでにフェアの商品を半額以下で買える特典付き!」
「「「どうかな?」」」
 間髪入れずに聞かれて判断に迷うレンだが、半額以下で買えるという特典に心が揺れる。
 どれも高そうだが、半額以下で買えるというのなら――。
「や、やります」
 おおおおお~っ!
 俯きながらの声に店員たちは声を上げて拍手をする。
「ささ、彼がバイト会場まで案内するからついて行って」
「リア充野郎一名様ごあんなーい!」
 何だか不安になってきてしまったが、今更断りづらいのでそのまま手招きする怪しげな店員について行くのだった。


「ホワイトデ一は企業の陰謀だって説があるそうだ」
 能力者達が集まったのを確認した海老名・轟(流星は星を詠む・h04411) は開口一番にそんな事を言い出した。
 日く、バレンタインは日本発祥のイべントで、バレンタインにチョコ会社がチョコレートを売るのだから我々も売るぞ! といった具合に他の製菓会社がクッキ画やキャンデイーなどを売り出したのだとか。
「陰謀論はともかく、悪の秘密結社の動きを予知したからお前達には解決に向けてカを貸して欲しい」
「ちょっと待った、ホワイトデーの話題をしてきたって事は一一」
「じゃあ説明をはじめるぞ」
 嫌な予感を感じた能力者の一人が言いかけるも、それを遮って説明ははじまった。

 場所は商店街から少し離れた場所にある公園。
「この公園にある時計台の前で戦闘員達がホワイトデープレゼントの販売会を行っている」
 轟によれば、その販売では、クツキーやマシュマロなどのお菓子やアクセサリーにハンカチ、花束など様々なものを扱っているようだ。
 ただし値段は超ボッタクリ価格。だが、どれも品質は折り紙付きのものばかりだという。
「やつら、こういう事は地味にしっかりしてるんだよな」
 妙に感心しながらも説明を続ける。
 戦闘員達はホワイトデー用のプレゼントを買い忘れたターゲットに超高領で商品を勧め、払えそうにないと分かるとバイトを進めてくるという。
「大人でも買うのをためらうほどの高額だ。だが、プレゼントを買いたくてもホワイトデーは終わっててシーズン商品は手に入らない。そんな状態で短時間で高収入を得られるとなりゃ藁にもすがる思いでそれをやろうとするってワケだ」
 プレゼントを贈りたい思いを利用する悪逃非道な悪の組織の野望を阻止せねば。
 すると、 説明を間いていたー人が手を上げて聞いてきた。
「まさか短期間で高収入って、開バイーー」
「いゃ、それはないようだ」
 恐る恐る開かれる質間を轟は否定する。
「なんかよくわからんけど、地下でなんか重労働とか強いられてるっぽいんだよな」
「地下で重労働で短期間の高収入?」
 なんだかよくわからないが、怪人の勧誘にのれば酷い目にあいそうな予感しかない。
「既に何名か連れていかれてまってるから、一般人がこれ以上連れていかれないようにして欲しい。販売会場に向かわないように別の場所を数えるとか、自分が囮になるのもアリだな」
 アジトの地下にある労働場まで潜り込んだ後は、ー般人を開放して首謀である怪人を撃破すれば今回の依頼は完了だ。
「お前達ならこれくらい朝飯前だろ? 」
 そう言い、轟はにっとロ角を上げる。


「そこの商店街を通り抜けると件の公園だ」
 言いながら轟は目の前にある商店街を指さした。
「お前達の予想通り、今回の事件も秘密結社『ブラクマ』の大首領に忠誠を誓う悪の組織『リア充撲減しねしね団』が首謀だ。お前たちのカで悪の組織の陰謀を打も砕いてくれ」
「想定内すぎる」
「またかよ……」
「無駄口叩く余裕があるならきっさと行けって、頬んだぞ!」
 こうして能力者たちは轟にせっつかれるようにして公園へと向かうのだった。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 冒険 『一般人の拉致を阻止しろ!』


木更岐・柊次朗
白籍・ヌル
エーリカ・メーインヘイム

 依頼を受けた白籍・ヌル(まだ無名・h05334)は公園へとやって来た。
 爽やかな色が広がる空には薄雲がいくつも浮かび、頬を撫でる風は春が近づいている事を教えてくれる。
 ――さて。
「星詠みが言うには、時計台の前で戦闘員達がホワイトデープレゼントの販売会を行っていると……」
 誰に言うでもなく口にすると、スーツ姿の男が目に留まった。
 何かを探すようにきょろきょろとあちこちを見ながら歩く男は、その『何か』を見つけたらしく、歩調を早めてその場所へ真っ直ぐに向かって行く。どこへ行くのかと見ていると、その先には時計台があった。
 いやな予感がする。
「こんにちは。何を急いでいるのですか?」
 慌てて追いかけて声をかけるとスーツの男は突然声をかけられ驚いたようだが、足を止めるとヌルへと振り向いた。
「実は妻にバレンタインのお返しのプレゼントを買い忘れてしまったんだ。さっき変な恰好の人が時計台でプレゼントの即売会をやってると教えてもらったから、これから行こうと思ってね」
「そこよりもっといいお店ありますよ」
 男を引き止める為に咄嗟に言葉が出た。
「あそこの商店街で桜フェアが始まってます。そこで一足早い桜スイーツなんていかがですか?」
「桜スイーツか……悪くないね」
「お手頃価格で種類も豊富でした」
 ヌルの言葉に男も興味を持ったようだ。
「手ごろな価格で買えるなら商店街に行ってみようかな」
「是非」
「いい情報を教えてくれてありがとう」
 礼を言い感謝に頭を下げた男はネルに教わった時計台ではなく商店街へと向かって行く。
 これで一人救う事ができたが、同じようにプレゼントを求める人がいる筈だ。
「あの人……」
 学生らしき男の子が時計台へと向かって行くのが見える。
 被害者を一人でも減らすべくヌルが急ぐ中、同じ依頼を受けたエーリカ・メーインヘイム(あなたの帰りを待つ母艦・h06669)と視線がかち合った。
 さすがに本来の身長では目立ちすぎるので等身大の背丈でベンチに座っていたが、ヌルの様子にすっと立ち上がるとじっと周囲を見渡した。
「一般人がこれ以上連れていかれないように……販売会場に向かわないように別の場所を数える……」
 依頼の内容を反芻していると、目の前を歩く青年が時計台に向かっている。恐らく彼も販売会場に向かうのだろう。
 今から追えば十分間に合う。足早に追いかけ、その背へと声をかける。
「あの、すみません」
 柔らかなエーリカの声に青年は振り返った。
「なにかな?」
「時計台に行くのですか?」
 言い当てられたようで、青年は少し驚いたようだ。
「よく分かったね。さっきホワイトデー用のプレゼントを販売してるって教えてもらったから、そこで彼女へのプレゼントを買おうと思って」
 やはりか。
 この青年を時計台に向かわせてはならない。
「あそこはあまり良くなかったです」
 青い瞳で青年をじっと見つめ、エーリカは優しく否定した。
「良くなかった?」
「はい、販売している様子を見てきましたが、どれも高額なものです。あそこで買うなら、商店街で花屋さんやケーキ屋さんでプレゼントを選んだ方がいいと思います」
「……うーん、高額なのはちょっとなあ」
 エーリカの説得に青年は少し考えたようだが、高額という事が決定打になったようだ。
「商店街なら手ごろなものがありそうだから、そっちに行ってみるよ」
「その方がいいと思います」
 そう言い、青年を見送るエーリカは確かめるかのように目を瞑り胸に手を当てると、後ろから足音が聞こえてきた。
 ゆっくりと目を開けると、木更岐・柊次朗(静かに燃える白炎・h01449)が目の前を横切った。
「時計台に行ってくる」
「気を付けてください」
 交わした言葉は短いものであったが、それだけで十分だ。柊次朗はそのまま時計台へとまっすぐに向かって行く。
「リア充撲滅……、昔噂で聞いたことはあったけど本当にいたとはな。まあ、あいつ等に忠誠を誓う連中の思い通りにさせるわけにはいかない」
 受けた依頼の内容を思い出せば、リア充――恋人にしっとの炎を燃やす組織は既に何度も事件を起こしている。しかもあの秘密結社『ブラクマ』の大首領に忠誠を誓う悪の組織。
 誰一人犠牲を出す事なく解決せねばと決意を胸に歩いていると、件の時計台が見えてきた。
「いらっしゃーい! ホワイトデープレゼントのファイナルセールやってるよー!」
「プレゼントを贈り損ねたアナタ! これが最後のチャンスですよー!」
 遠くからでも聞こえる声に誘われるように向かって行くと、怪しげな店員達は柊次朗に気付いて声をかけてくる。
「やあいらっしゃい」
「どれもいいものばかりだから見てってよ」
 そんな声に陳列されたものを見れば、説明で聞いた通り、クツキーやマシュマロなどのお菓子やアクセサリーにハンカチ、花束など様々なものを扱っていた。
「……あ、この花は確か好きだって言ってたな」
「おや、お兄さんお目が高い。この品種はこの時季あまり出回らないんですよ」
 ふわりとくすぐる花の香りに呟くと、店員がにこにこと教えてくれる。
ちらりと値札を見ると――聞いていた通りの超ボッタクリ価格。思わず二度見してしまいそうになるのを柊次朗はぐっと耐えた。
「プレゼントに人気のある花ですよ」
「バレンタインの時友達にもらったからあいつの好きな物でお返ししたいなと。でも思ってたより高くておれには手が出せなくて……」
 にこにこと話しかけられ、持ち前のコミュ力で対応する柊次朗は軽い財布を見せつつ困ったそぶりを見せると、店員達がちらりと顔を見合わせたのを見逃さなかった。
「ふむ、それならウチでアルバイトをしてみないかい?」
「人手が足りなくて困ってるんだ」
「アルバイト、ですか……」
 突然の提案に戸惑うそぶりに、どこからともなく店員は増えてくる。
「そう、アルバイト」
「次の作戦準備に人手が足りないんだよ」
「短時間に高収入! ついでにフェアの商品を半額以下で買える特典付き!」
「こんなチャンス滅多にないよ!」
「「「どうかな?」」」
 間髪入れずに聞かれる柊次朗だが、答えは一つしかない。
「お願いします!」
 おおおおお~っ!
 その一言に店員たちは声を上げて拍手をする。どうやら上手くいったようだ。
「ささ、彼がバイト会場まで案内するからついて行って」
「リア充野郎一名様アルバイトにごあんなーい!」
 言われるがままについて行く柊次朗だが、向けられた仲間の視線に小さく頷くと、アルバイト会場へと向かって行った。

ツバクロ・イットウサイ
ゼロ・ロストブルー
白神・明日斗

「随分と広い公園なのね」
 ツバクロ・イットウサイ(シャイニングミストブレイカー・h01451)は公園に到着するなり、ぐるりと見渡した後に感想を口にした。
 緑が多く、都会の喧騒も遠い。のんびり過ごすには良さそうだが、今はお預け。
「時計台で悪の組織がプレゼントの即売会をしているから、そこに向かおうとしている人を行かせなければいいのよね」
 確認するように依頼の内容を口に出しながら時計台に向かう人影を探していると、自分と同じ年頃の青年が急ぎ足で向かっているのが見えた。
 かなり急いでいるようで、あっという間に見えなくなってしまいそうだ。
「あっ、待ってください! 止まってください!」
 慌てて追いかけて声をかけると、気付いた青年は立ち止まって、こちらへと振り返った。
「何か用ですか?」
「あなた、時計台へ向かっているの?」
 その質問に青年は驚いたような顔をする。
「よく分かったね。さっき変な恰好の人からプレゼントの販売をやってるって教えてもらったんだよ」
 やはりか。
「ホワイトデーのお返し?」
 聞くと青年はそうだと頷いた。
「プレゼントは買ったんだけど、彼女が喜ぶか不安で渡せなかったんだ。あそこだとブランド物や人気アクセサリーもあるって変な恰好の人が言ってたから……」
「大丈夫よ」
 不安げに話す青年にツバクロはきっぱり言い切った。
「確かに何を贈るかは重要かもしれないけど、一番重要なのは彼女さんへの気持ちよ。あなたが真剣に選んだ物なら絶対に喜んでくれるよ」
「そうかな……」
「大丈夫、信じて」
 真摯な言葉に青年も思い直したようだ。
「そうだね、ありがとう。君のおかげで考えが変わったよ」
「彼女さんとお幸せに」
 手を振り青年を見送るっていると、二人の男がこちらに向かってくる。
 自分と同じように依頼を受けてやって来た白神・明日斗(歩み続けるもの・h02596)とゼロ・ロストブルー(消え逝く世界の想いを抱え・h00991)だ。
「状況は?」
「いま一人引き返してもらった所よ。……これから二人目ね」
 すれ違いざま向けられた明日斗に言葉を返したツバクロは時計台に向かっている少年の元へと駆けて行った。
「ホワイトデーにプレゼントを買い忘れた恋人を狙った事件か」
「恋人を妬む悪の組織なんて理解できないな。さっさと怪人倒して解決しようぜ」
 状況を手帳に書き留めたゼロは時計台へと向かうと、明日斗も後を追う。
 しばらく歩き時計台が見えてくると、遠目からでも怪しい恰好の男達が声を上げて客を呼んでいた。
「俺は仲間に情報を共有したいから、バイトを辞退してアジトまで追跡しようと思う。明日斗くんは?」
「ゼロが追跡なら俺は囮だな。頼んだぜ」
 歩きながら言葉を交わした二人は、偶然一緒に向かう事になった他人同士を装って時計台へと到着する。
「いらっしゃい」
 気さくに声をかけてくる店員は怪しい恰好をしている以外はごく普通の男のように見えた。
「ここでホワイトデー用のプレゼントを販売していると聞いたんだが」
「そうそう。何か怪しい恰好の奴が言ってたぜ」
 二人からの声にぽんと手を叩いた男は笑顔を見せるとゼロと明日斗へと話しかけてくる。
「ただいま絶賛販売中だよ。今日が最終日だから是非買ってくれよ」
「ふうん……」
 適当な相槌をうった明日斗も陳列された商品を見るが、ずらりと並んだそれよりも、つい値札に目がいってしまった。
 高い。高すぎる。
 品質はどれも折り紙付きのものばかりと聞いていたが、どれもこれも超ボッタクリ価格。この価格で本気売れると思っているのだろうか。
「かなり高いな」
「やっぱ高いよね。さっき来たリア充学生さんもそう言ってたよ」
 はっきり言ったゼロに店員が肩をすくめると、大きな段ボールを抱えたスタッフらしき怪しい恰好の男達が片付けの準備を始めているではないか。
「あれ、もう撤収時間だっけ?」
「そろそろ撤収しないとボスに怒られるって」
「あー、そうだったか。機嫌そこねると面倒だし、じゃあ撤収――」
 このままでは完全撤収されてしまう。明日斗は慌てて目の前にあるギフトボックスを一つ手に取ると、思いつめたような声で店員に訴えた。
「これ欲しいんだけど、高すぎる。値引きできないか?」
「値引きねえ。ボスが設定した値段だから値引きはできないけど……代わりにアルバイトをしてみる気はないかな? 短時間で高収入、商品を半額以下で買える特典付きだよ」
「やる!」
 明日斗が即答すると、店員はゼロに視線を向け、
「そこのお兄さんは?」
「俺はやめておこう。これから用事があるんだ」
「用事があるなら仕方ないね」
 あっさり断られたのを合図にするように撤収準備に取りかかり始めた。
「片付けが終わったらバイト会場まで連れていくから、ちょっと待っててね」
 公園内で呼び込みをしていたスタッフらしき男達も戻って来て撤収準備を進めると、あっという間に終わってしまった。
「それじゃあバイト会場まで案内するよ、ついてきて」
「頼む」
 バイト会場にスタッフ達と向かって行く明日斗をゼロは見送ったが、このまま見送りはしない。仲間へ情報共有する為に場所を特定せねば。
 気付かれないように距離を取りつつ、ゼロは明日斗と怪人達の後を追うのだった。

第2章 集団戦 『戦闘員』


 公国から離れた場所にある工場地帯の一角。
 工場に偽装したアジトの地下では、短時間高収入というアルバイトの誘いに乗った男達が重労働を課せられていた。
「オラオラ! もっと力を入れて回せー!」
 変な恰好をした男一一戦闘員が手にする鞭がびしゃんとアスファルトの床を叩くと、その音に驚く男達は巨大な石臼についた持ち手を握り重い石白を回す。
 重労働はそれだけではない。
「ひいた粉があふれそうだぞ! お前達さっさと運ばないか!」
「雑に扱うな! 丁寧に混ぜろ!」
「何やってるんだ! 麺はひと玉づつ丁寧に並べろって最初に説明しただろ!」
「段積みは1 0までだ! それ以上は崩れる危険があるから禁止!」
 鞭の音が幾重も響き、戦闘員達のどなり声が隅々まで届くさまを、二階の踊り場からまとめ役である怪人は見下ろしていた。
「フフフ、恋人へのブレセントを贈る為に働く愚かな男達。早くからちゃんと準備をしておけばよかったものを」
 咲き誇るバラの香りを楽しみながら見下ろしていた怪人であったが、小走りにやって来た戦闘員の声にチラと視線を向ける。
「マンティコラ・ルベル様」
「どうした」
「石臼を担当していた男が足を痛めたと訴えていますが、いかがしますか?」
「足を痛めた、か……」
 バラを手に怪人ーーマンティコラ・ルベルは思案するも、判断は早かった。
「けが人を働かせては作業効率が悪くなる。手当を施し、足を使わない場所へ配置して代わりの要員に石臼をひかせろ。状態が良くなったら元の場所に戻せ」
「はっ!」
 指示を受けた戦闘員はさっと腫を返して戻っていく。
「次の作戦に向けてのノルマまでは程遠い。もっと働かせねば……」
 小きくつぶやき、マンティコラ・ルベルは再びバラの香りを楽しみながら、汗を流して働く男達を眺めるのだった。


 二章ではアルバイトの誘いに乗った人々に麺づくりらしき重労働を強いる戦闘員との戦いになります。
 能力者の皆さんはアルバイトの勧誘に乗って重労働をしているかもしれないし、後を追跡してアジトに潜入しているかもしれません。
 隙をついて戦闘員達をやっつけてしまいましよう!
 アジトには重労働を強いられている人達がたくさんいますので、避難誘導をするのもいいですね。
 なお、 マンティコラ・ルベルは高みの見物とばかりに戦いには参加しません。
桐谷・要
数宮・多喜

「アルバイトの誘いに乗った男達が重労働をさせられている。情報通りだね」
 潜入に成功した桐谷・要(観測者・h00012)は物陰からアジト内で行われている行為を目に、ぽつりと呟いた。
 広いアジトの至る所で男達が働かせられている様子を数宮・多喜(f03004?・h01794)も見ていたが、ふと違和感に気が付いた。
 戦闘員達が目を光らせる中で巨大な石臼を回したり、挽いた粉を運んだりと厳しく働かされている男達をよく見ると、こういう状況ではお馴染みの手かせや足かせがつけられていないのだ。
「普通なら逃げられないように重りのついた足かせの一つでもつけるものなんだけどねぇ」
「妙に律義な組織みたいだし、作業効率を重視したのかもね」
「そんなもんかねぇ」
 要に言われて妙に納得してしまった多喜だが、男たちの行動を制限するものが無いという事は、戦闘員たちをどうにかすれば救出は難しくはないという事だ。
「どうやって救出するかい?」
 戦闘員と男たちと戦闘に参加しないというマンティコラ・ルベルを交互に見ながら多喜た問うと、意見はすぐに返って来る。
「戦闘はあまり得意じゃないからサポートに回ろうかな」
 これで決まりだ。
 多喜の手には既にフルフェイスのヘルメットがあるも、まずは相手の行動原理を理解する事からだ。
「やあ」
 気さくに声をかけながら近くの戦闘員へと歩いていくと、驚く事に即座に敵意を向けられる事はなかった。
「あれ? 勝手に持ち場を離れちゃだめだよ」
「ちゃんと持ち場の担当に一声かけた?」
 悪の組織だというのに意外とまともな戦闘員の反応に情報を引き出せそうだと思ってしまったが、多喜の存在に気付いたマンティコラ・ルベルはそれを許さなかった。
「お前たち何をしている! 侵入者をさっさと始末なさい!」
「え? 侵入者?」
「す、すみません! 今すぐ対処します!」
「侵入者だー!」
 マンティコラ・ルベルの鋭い声に襲い掛かろうとする戦闘員達を前に多喜はひとりふたりと攻撃を受け流し、さらに続く新たな戦闘員の部隊の攻撃も上手く躱していく。
 数は多いが、新規戦闘員部隊ということもあってか反応速度は落ちているようだ。これなら攻撃も上手くいくだろう。
「いくよ!」
 攻撃をすべて対処し、衝撃波を一気に放つと戦闘員はまとめて派手に吹っ飛んだ。
「ぎゃあっ!」
「うわあ!」
 悲鳴を上げて吹っ飛んだ戦闘員だが、他の戦闘員たちも戦いに気付いてぞろぞろとやって来る。
「無断侵入はよくないぞ」
「穏便に帰してあげたいが、マンティコラ・ルベル様のご命令だ」
「ちょっと痛い目にあってもらうが覚悟して欲しい」
 言いながら繰り出される攻撃を受けては流し、打ち返しては反撃し、気付けば多喜の周りを戦闘員がぐるりと取り囲んでいた。
「こんなにいるなんてねぇ」
 多すぎる敵に囲まれてしまい、あまり良くない状況ではあるが、一方で悪くない状況でもある。
 スムーズに脱出させる為にできるだけ敵を引きつけなければ。
「覚悟するのはそっちの方だよ」
 衝撃波を多喜が放った頃、要は重労働を強いられていた男たちの元へと向かっていた。
 派手に多喜が戦っている事もあってか、戦闘員たちの意識は完全にそちらへと向いている。
「おい、侵入者だってよ」
「マジかよ」
 大急ぎで侵入者の元に向かって行く戦闘員たちは物陰を進む要も侵入者だとは気付かない。
「そこのお前、戦闘に巻き込まれたら危険だから安全な場所で待機していろ」
「そんな所にいたら怪我するからな」
「……すみません」
 申し訳なさそうに謝るも、戦闘員たちはあっという間に行ってしまった。
 自分に注意が向けられていない今がアルバイトの誘いに乗った男たちを救出するチャンス。
 ばたばたと慌ただしく戦闘員たちが駆けまわる中を目立たないように移動していくと、巨大な石臼に辿り着いた。
「大丈夫かい?」
「あ、ああ。なんとか大丈夫だけど……」
 近くにいた青年へ声をかけると、かなり労働がきつかったらしく汗をびっしょりとかいていた。
 青年と共にこの石臼を回していた男たちの表情はどれも疲れ切っているようだが、ケガをしている様子はない。
「侵入者がどうとか言っていたみたいだけど、何かあったのかな?」
「君達を助ける為に仲間が注意を引きつけているんだよ」
 その返しに青年は驚いたようだ。
 信じられないという顔をする青年の不安を取り除くように語りかけ、周りにいる男たちにも声をかけると脱出できると知り、よろよろと立ち上がった。
「大丈夫かい? 彼らは強いようだけど」
「僕達なら大丈夫だよ。さあみんな、早くここから逃げるよ」
 戦いの音を耳に男達を誘導する要は、トラブルに遭遇することなく出口まで無事にたどり着く。
「助かったんだな、オレ達」
「ありがとう」
 感謝の声を受けた要だが、多喜はまだ戦っており、衝撃波で吹っ飛ぶ戦闘員の下で救出すべき人たちもまだ残っている。
「僕は残っている人を助けに行くから、君達はできるだけ遠くに逃げるんだよ」
 男たちにそう言葉を残した要は踵を返すと、再び救出に向かうのだった。

木更岐・柊次朗
如月・縁

「おい、手が止まってるぞ!」
 戦闘員の鋭い声が飛ぶ。
「す、すみません!」
「お前の作業が止まると後の工程も止まるんだ! しっかりしろ!」
「は、はいっ!」
 怒鳴られた男が手を早めるも、慌てた作業は雑になってしまう。
(「結構過酷な労働を押しつけてやがる……」)
 彼がまた怒鳴られないように雑に並んだ麺を並べ直しながら、柊次朗は作業を監視する戦闘員を鋭く睨んだ。
 巨大な石臼で粉を引き、人力で粉を混ぜ、完成した麺をひと玉づつまとめてケースに並べていく。
 製麺作業の目的は気になるが、まずはここの人達を逃がす事が最優先。事を起こすタイミングを待ちながら柊次朗も男達ともくもくと作業を続けていると、向かいで手を動かす男と目が合った。
「大丈夫か?」
「ありがとう、大丈夫だよ」
 声をかけると、先ほど怒鳴られた男は汗をぬぐいながらも作業を続けている。
 監視の目もあり頻繁に声をかける事は難しいが、重労働させられて色々と追い詰められは精神にも影響が出かねない。
 周りで重労働を続ける男達に声をかけながら、出来るだけ戦闘員の配置や建物内の構造などを把握しながらも作業を続け――、
 その時はやってくる。
「何をしている! 侵入者をさっさと始末なさい!」
「え? 侵入者?」
「す、すみません! 今すぐ対処します!」
「侵入者だー!」
 マンティコラ・ルベルの鋭い声に戦闘員の鋭い声が大きく届くと、離れた場所から戦いの音が響き出した。
「ぎゃあっ!」
「うわあ!」
 悲鳴と共に攻撃を受けた戦闘員が柊次朗たちの方へと吹っ飛んでくる。男たちを守ろうと前に出て構えを取ると、目の前に女神が現れた。
 ばさり!
 顕現した|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》の羽ばたきひとつで別方向へと戦闘員は飛んでいき、代わりに現れた女神――如月・縁(不眠的酒精女神・h06356)が柔らかな笑みを向けてくる。
「怪我はなさそうね」
「助かった」
 ふわりとウェーブヘアを揺らす縁へと感謝を伝えると、優しい声が返って来た。
「ここは私に任せて、あなたは皆をここから逃がして」
「新手の侵入者だ!」
 鋭い声に縁が振り返ると、戦闘服を危険な蛍光色に輝かせた戦闘員がものすごい速度でやってくる。もちろんそれは柊次朗にも見えていた。
「急いで」
「出口はこっちだ! さあ早く!」
 周囲にいる男たちを急かすように出口へと向かって行く柊次朗を見送る縁の表情は変わらない。
「侵入者め、覚悟しろ!」
「……っ!」
 移動速度と攻撃回数を上げた戦闘員の特攻モード攻撃をあえて縁は受けた。
 脱出を図る人々の時間を稼ぐ為に受けた痛みに思わず眉を寄せるも、重労働を強いられた男性達の辛さに比べれば痛いうちには入らない。
「侵入者が増えているではないか! さっさと倒しなさい!」
「す、すみませんマンティコラ・ルベル様!」
「今すぐ倒します!」
 わらわらと集まって来る戦闘員たちはみな速度を上げた特攻モードで縁へと襲い掛かって来る。
「くっ……こっちよ!」
「そっちにいったぞー!」
「追え! 追いかけろー!」
 幾重も受ける鋭い痛みに耐えながらチラリと視線を向けると、脱出すべく出口へ向かう柊次朗たちはあと少しだ。
「こっちよ、こっち!」
 できるだけ時間は稼ぎたい縁は次から次へと移動を続けた。
 巨大な石臼の周りをぐるぐる回って、特攻モードの戦闘員達の攻撃を躱し続け、動き続けるコンベアの上をひとっとび。
 長い追いかけっこが続く中、出口へ向かう男性の一人がつまづき、大きくよろめいた。
「大丈夫か?」
 誘導していた柊次朗はよろめいた身体をとっさに支えると、男は今にも倒れそうなほどに疲弊しているようだった。
「重いものをずっと運んでいたから、身体がもうボロボロで……」
「あなた達には大切な人がいるんだろう、その人のためにもこんなところからは脱出しないと!」
 力強く柊次朗が言葉を向けると、弱音を口にした男もこくりと頷いた。
「そうだね、ここから早く脱出しよう」
「あそこが出口だ、あと少し頑張ってくれ」
 その言葉に男たちが見れば、出口はもう目の前。
 万が一の戦いに備える柊次朗を背に男たちが脱出していく様子を戦闘員に囲まれた縁は攻撃を受け流しながら見ていた。
 ひとり、ふたり……全員。
 柊次朗が誘導した男たちはすべて脱出できたようだ。
「逃げてばかりももう終わり。反撃よ」
「なんだと?」
 脱出完了の合図と同時に戦闘員達に囲まれた縁の頭上に現れるのは、神聖なる竜。
 ばさっ! ばさりっ!!
「うぎゃあーっ!」
「わーっ!」
 誰も傷つける事のない願い――重労働を強いられていた人たちを守る為の願いを叶えた|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》は戦闘員たちをまとめて吹っ飛ばすと、大きく翼をはばたかせた。

白帽・燕
勢尊・暴兵
明星・暁子

 年齢イコール彼女イナイ歴の尊・暴兵(10日の火曜日・h05543)は依頼を受けた事をひどく後悔していた。
 悪の組織に騙され働かされている奴らを助けてきて欲しい、ついでに怪人も倒してくれと頼まれて来たはいいが、悪の組織に騙された奴らが憎きリア充野郎と知ってしまったからだ。
 アジト内では男たちが巨大な石臼を回して粉をひいたり、袋に詰め込まれた重そうな粉を運んだりと何やら重労働を強いられているようだが……。
「リア充どもめ、いいざまだな」
 思わず口に出てしまった。
 リア充どもは愛する彼女の為に、苦しみの中でも消える事のない想いが胸の内で輝いているのだろう。あまりの重労働に耐えきれず膝を突いたり、監視する戦闘員からひどい扱いを受けても男たちは必死に働いていた。
 そんな様子は『公共の場でイチャつくカップルは殺さねばならない』という強い執念に何故かさいなまれている暴兵の心をひどく苦しめる光景であった。
 血がにじまんばかりに拳を固く握りしめていると――、
「ただならぬしっと力を君から感じられるのだが、まさか君は……同志かい?」
 物陰から見ていた暴兵に気付いた戦闘員が声をかけてきた。
「同志……?」
「ああ、君からはリア充を憎む我らと同じ気配を感じる」
 そう言い戦闘員が力強く頷くと、一人また一人と他の戦闘員たちもやって来る。
「ウェルカム同志」
「リア充死すべし慈悲はない」
「リア充はこの世に存在してはいけないのだ!」
「しっとの炎を滾らせろ!」
 リア充を憎む戦闘員たちの声に、暴兵の内から言葉がにじみ出す。
「リア充全て殺すべし」
 おおおおおおおおーっ!!
 大きくはないが力強い声に戦闘員たちは歓声と共に割れんばかりに手を叩く。そんな一連の流れを白帽・燕(声義疾行・h00638)は遠くから眺めていた。
 重労働を強いられている男たちをアジトから脱出させるべく自分が囮を務めようと考えていたのだが、暴兵が戦闘員たちの注意を十分すぎるほど引きつけてしまっている。
「今まで一度も成功した事がない?」
「あー、あるある。運が向かないんだよね、オレたちってさあ、ホラ、アレじゃん?」
「君も色々思う事あると思うしさあ、話聞くよ?」
 ものすごく盛り上がっているが、すべての戦闘員の注意を引きつけている訳ではない。当初の予定通り自らが囮になったとして、いったい誰が男たちの救出を行うのか。
 どうしたものかと悩んでいると、がしょんがしょんと重々しい足音が燕の方へと近づいてくるので振り返ると、戦闘準備を整えた身長200cmの恐ろし気な鉄十字怪人――明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)がやって来た。
「状況は把握しました。わたくしが囮を務めますから、あなたは働かされている人たちをアジトの外へ逃がしてください」
「じゃあ囮はアンタに任せたよ。アタシは救出に向かうね」
「頼みます」
 燕と言葉を交わした暁子はそのままがしょんがしょんと目立つようにアジトの中を進んで行った。
 音を立てて進む怪人はとても目立つ。少し進んだだけで働く男達が目を向け、戦闘員も何事かと驚いた顔をした。
「あー、あー。テステス、マイクテス」
「な、なんだ?」
「怪人……か?」
 言いながら近づいてくる暁子を不思議そうに見ている戦闘員たちだが、
「ふーしぎ、まーかふしーぎ、どぅーわー」
 唐突に歌い出した暁子の洗脳ソングによって不思議摩訶不思議魔空間へと放り込まれてしまった。
「遠い昔、はるかかなたの銀河系で……」
 おもむろに荘厳な語り口で紡がれる脳を侵食する洗脳ソングによって生み出された空間はとんでもない効果を生み出したのだが、その内容も壮大だ。
「くっ、なんなんだこの空間は!」
「よく分からんが特攻モードにチェンジだ!」
「自律浮遊砲台ゴルディオン、攻撃開始!」
 戦闘服を危険な蛍光色に輝かせた特攻モードもなんのその。暁子に随伴する半自律浮遊砲台が火を吹いた頃、燕は男たちの元へすいと飛んで行く。
 先行した仲間がある程度の人数を逃がしてはいるものの、まだかなりの人たちが残されている。戦闘員たちの注意が引きつけられている間に残り全員を脱出させなければ。
 石臼を越え、ひいた粉を袋詰めしている男たちの元にたどり着くと、彼らの上をぐるぐる回る。
「うん? こんな所に鳥が?」
「いや、あれは燕じゃないか?」
 こちらに気付いた男たちが燕を見上げて不思議そうな顔をするが、屋内にいるのは確かに不自然だ。なので出口を探すようにあちこち飛び回ってから、背の高い少年の肩にちょこんと乗った。
「わっ」
 突然の事に青年は驚いたが、肩の上で歌うように鳴いて飛びたった燕が何かを教えるように飛んだ様子に他の男たちも何かを感じ取ってくれたようだ。
「あの鳥、もしかして出口を見つけたのかな?」
「真っ直ぐに飛んで行くし、きっとそうだよ」
「追いかけよう」
 男たちが飛んでいく燕を追いかけていく。時折、小さく旋回したり、積まれたパレットに止まったりしながら自分を見失わないように燕は飛んで行き――、
「出口だ!」
「これで出られる!」
 出口の表示に男たちは喜びながら外へと向かって行った。
 次々に脱出する様子を目にした燕だが、まだ仕事は残っている。
「今だゴルディオン、総攻撃!!」
「うぎゃー!」
「うわああっ!」
 1号機から3号機まで全ての半自律浮遊砲台が戦闘員たちへと照準を合わせた一斉射撃に戦闘員たちはばたばたと倒れていく。
「さて、もうひといきだね」
 残された男たちを脱出させるべく、燕は翼を羽ばたかせた。

第3章 ボス戦 『ウーサー・クロノジャッカー』


「お前達、何をやっている! 男たちが逃げてしまったではないか!」
 マンティコラ・ルベルは声を荒げたが戦闘員のほとんどが能力者達によって倒されてしまい、残る数も数えるほど。
 そんな状況に激昂するマンティコラ・ルベルだが、激昂しているのは一人ではなかった。
「何をやっているって……アンタもでしょうが、マンティコラ・ルベル!」
 かつこつと足音を響かせ近づいてくる気配に振り返ると、怒声を飛ばす怪人――ウーサー・クロノジャッカーがこちらへやって来ているではないか。
「次の作戦に向けて準備を頼んだっていうのに、様子を見に来ればこのザマ。何やってるのよ!」
 くねくねと腰を振りながら近づいてくるウーサー・クロノジャッカーは、言いながらくねくねと近づいてくる。
「ウーサー・クロノジャッカー様、これは――」
「言い訳なんて聞きたくないわ!」
「も、申し訳ありません……!」
「これだから女はキライなのよ!」
 慌てた言葉をぴしゃりと一喝され、マンティコラ・ルベルは畏まったように頭を下げた。
「まあいいわ。アンタは次の作戦に行ってちょうだい」
「よ、良いのですか?」
「良いも悪いもないわよ! 戦闘員もロクに指揮できないアンタがここにいても足手まといなのよ! アンタの尻ぬぐいをアタシがしてやるんだから、さっさと残った戦闘員と一緒に次の作戦の場所に行きなさい! 早く!」
「……はっ」
 ヒステリックな声に頭を下げたまま、ウーサー・クロノジャッカーは残った戦闘員たちとアジトを後にすると、残ったのはオカマっぽいウサミミ怪人と能力者たち。
「さて、よくもやってくれたわね」
 ばさりと長い髪を払いウーサー・クロノジャッカーは腰に手を当てて言うと、ぱらりとトランプが宙を舞う。
「アタシたちの作戦を邪魔するヤツはイケメンだろうと誰だろうと許しはしないわ、覚悟なさい!」
 くいっと手を腰にポーズを決めたウーサー・クロノジャッカーは能力者たちへと襲い掛かるのだった。


 三章ではイケメンが大好きっぽいボス怪人、ウーサー・クロノジャッカーとの戦闘になります。
 この章から参加される方は加勢にやって来た追加ヒーローみたいな登場とかするとカッコいいと思いませんか?
 怪人を倒せば今回の事件は一件落着! です。
エイル・イアハッター
ガザミ・ロクモン
七州・新

「さて、ワタシの相手は誰かしら?」
 ばさっと髪を払ってポーズを決めたウーサー・クロノジャッカーであったが、くねくねと腰を振ると、その度に鋭く空を切る音と共にぎらりと輝く得物が飛んでいく。
 腰を振りつつ避けた攻撃は、ひとつ、ふたつ――いつつ!
「アナタね?」
 くるっと振り返って指を指した先では、ガザミ・ロクモン(葬河の渡し・h02950)が戻ってきた5枚の円月輪を手に身構えている。
「ホワイトデーに悪事を働くなんて許せないです」
「女なんかにプレゼントを贈ろうとするのがいけないのよ! 忌々しい!」
 ヒステリックに言い返したウーサー・クロノジャッカーがジョーカーのカードを手にすると、次の瞬間、カードがガザミの武器へと変化したではないか。
「ふふ、まぁるくてステキな得物ね。いくわよ!」
「……っ!」
 一気に距離を縮めてくるウーサー・クロノジャッカーの攻撃をガザミは両腕の縛霊手で受け止め、創造された円月輪を自らの円月輪で打ち払う。
 がっ! がぎん! ぎいんっ!
 打ち合う音に火花が散り、重い一撃を叩き落とす。
「大きくて硬くて強い男のコは好きよ!」
「ぐ、っ!」
 腕を覆う形状の巨大な鎧型祭壇で踵落としを受け止めたガザミは、振り払った次の瞬間には飛んでくる円月輪も撃ち落とすと、それはジョーカーのカードに戻って掻き消える。
 今が攻撃のチャンス。
 ――しゃん!
「きゃっ!」
 打ち合うガザミの円月輪の一つがウーサー・クロノジャッカーの頬を掠めると、紅線が走り流れる血が顎を伝ってぽたりと落ちた。
 ダメージを与えたものの、もう一撃を叩き込みたいところ。
「このアタシに一撃を入れるなんて。強い男のコは好きよ!」
「――魂なき者、ここに」
 流れる血をぐいと拳でぬぐっていると、聞こえてくる声と気配に視線を向ける。
 石臼の物陰から姿を現したのは、七州・新(無知恐怖症・h02711)だ。
「そんなところに隠れていたのね! んもう、せっかくのイケメンがもったいないわ!」
 並行世界の自分たちと完全融合したウーサー・クロノジャッカーの分身体が攻撃を放ち、空間を引き寄せようとすると――、
「あらやだ!」
 新が創造した手乗りサイズのゴーレムに驚いた拍子に空間を引き寄せる能力を止めてしまった。
「それアナタが作ったの? いいセンスしているわね!」
「敵から褒めてもらえるなんて光栄ですね」
 手のリサイズの小さなゴーレムがぴょんと飛び跳ねると、新の竜漿兵器がウーサー・クロノジャッカーの身体を捉えた。
「今です!」
「えいっ♪」
 新と手乗りゴーレムの攻撃をくねくねと腰を振りながらウーサー・クロノジャッカーが避けると、分身体との攻撃をお返しとばかりに放ってくる。
 鋭く躱せそうにない一撃だが、新に直撃する前に飛び出した手乗りゴーレムが受け止めた。
「いいコンビメーションだわ! でもアタシ達のコンビネーションも完璧よ!」
 分裂体とポーズを決めてそのまま攻撃に突入したウーサー・クロノジャッカーを新と手乗りゴーレムがそれぞれ攻撃を繰り広げる中、エンジン音が聞えてくる。
「飛ぼう! エアハート!」
 魔導バイク『エアハート』に跨り、エイル・イアハッターアジト(陽晴犬・h00078)がアジト内に飛び込んてきた。
 ウーサー・クロノジャッカーの周りをぎゃりっと大きく回りながら、エイルと魔導バイクは駆けていく。
「なに? なになに?」
 突然現れたバイクに驚くウーサー・クロノジャッカーであったが、エイルは気にせずエンジン音を響かせ、アジト内を縦横無尽に駆け巡る。
「こっちだこっち!」
 石臼の周りをぐるっと回り、
「どこ見をてるんだ?」
 ベルトコンベアーを大きくジャンプし、
「ここだって! ほらほら!」
 積み上げられたパレットの山をひとっとび。
 アジトの中を駆け巡る黒い流線形はツバメの如く飛び回るが、翻弄されるウーサー・クロノジャッカーもだた振り回されてばかりではない。
「うふふ、かわいいコね。アタシも頑張っちゃうわよ」
 ――ふう。
 胸を強調するように深呼吸ひとつし、瞑想すると、魔の前の空間がぐにゃりと歪む。
 何事かとハンドルを握りながら見ていると、エイルの視界に飛びこんでくるのは、見覚えのある――いや、自分が今跨っている魔導バイクだ。
 あれに乗っているのは、まさか。
「そう、アタシの記憶世界から召喚した悪堕ちしたアナタよ♪」
「悪堕ちした俺だって?」
 オオォ……ン!
 驚く間もなく怒号に近いエンジン音を轟かせ、召喚された自分がエイルめがけて襲い掛かってきた。
 己とのチェイスにちらりと見ると、想像した事もない姿の自分が追いかけてくる。加速する魔導バイクに追いつこうとする魔導バイクもどこか形や色が違う。
 どんな人生を送ればあんな表情をするのだろう。
「ほらほら早く逃げないと捕まっちゃうわよ♪」
 二人のエイルの追いかけっこを楽しそうに眺めているウーサー・クロノジャッカーだが、気を取られて肝心な事を忘れていた。
 エイルに肉薄し、悪堕ちしたエイルの攻撃が放たれようとしたまさにその時。
「今だ!」
「――え?」
 その声に後ろを振り返ると、得物を手に斬りかからんとするガザミと新。
「あらやだ、アナタ達を忘れてたわ!」
「戦っていたのに忘れられているなんて心外です」
「何にも邪魔はさせない」
 手乗りゴーレムと共に新が構えた竜漿兵器を大きく振ると、ガザミが変形させた5枚の円月輪が鋭く弧を描く。
「ぎゃあっ!!」
 攻撃に構える余裕さえないガザミと新の一撃にウーサー・クロノジャッカーは大きくよろめいた。
「ふふ……これも作戦だったのね」
「当たり前だぜ!」
「カワイイ顔して可愛くない作戦、悪くないわ!」
 召喚された自分から逃げ切ったエイルはエアハートの上でにっと笑った。

白紅・唯案
神楽・更紗

「なかなか手ごたえのあるコたちだったわね」
 頬を伝う血と汗をぬぐいながら息を整えていたウーサー・クロノジャッカーだが、近づいてくる能力者に気付いたようだ。
「あら、次のコが来たのかしら?」
 イケメンかカワイイ男の子とのバトルを期待していたようだが、姿を現したのは半人半妖の銀毛九尾の狐――神楽・更紗(深淵の獄・h04673)。
「妾が相手だ」
「キャンセルよキャンセル。アタシ女は嫌いなの! イケメンかカワイイ男のコを――」
 女性が大嫌いなウーサー・クロノジャッカーのヒステリックな声を更紗の鋭い一撃が遮った。
「黙れ」
 それは静かな怒り。
 放たれた拳は顔面を正確に捉えていたが、敵もそう簡単に殴られてはくれない。さっと躱され頬を掠めるだけにとどまったが、本気を出させるには十分であった。
「女の割にはできるようね」
「その減らず口を今すぐ止めろ」
「ふふ、止められるものなら止めてみなさい」
 召喚した配下妖怪と共に繰り出す更紗の攻撃をウーサー・クロノジャッカーは素早く捌くと、ジョーカーのカードで配下妖怪を創造して反撃に躍り出る。
「さあお行きなさい!」
 創造された妖怪を不思議道具で蹴散らすと、飛んでくるのは鋭い回し蹴り。
「シャアッ!」
「っ!」
 素早く身を低くした頭上を攻撃が唸り、素早く召喚した配下妖怪に攻撃を指示して自らも攻撃を叩き込む。
 更紗の攻撃がひらひらと舞う蝶のようであるのに対し、ウーサー・クロノジャッカーの攻撃は蜂を彷彿とさせる鋭さであった。
 二人の戦いは続き、到着した白紅・唯案(おしまい・h05205)はそれをしばらく見守っていた。
「揉めてて草。|敵《アンチ》殴ればええんか?」
「揉めてないわよ! あいたっ!」
 思わずツッコミを入れたウーサー・クロノジャッカーはうっかり回避しそこねて攻撃を受けてしまったようだ。
「アンタのせいで攻撃受けちゃったじゃないの!」
「ま、しゃーなし、手貸したるで」
 がしがしと面倒くさそうに頭をかきながら歩き出すと、並行世界の自分たちと完全融合したウーサー・クロノジャッカーが分身体で攻撃を仕掛けてくる。
「普段はアイドルへの提供曲だけ書いとるんやが……今日は特別や、いあんちゃん直々のセルフカバーを披露したるぞい」
 さも面倒くさそうに攻撃をばしばし躱して受け流し、
「あー……この曲はインストなんでMCやるンゴ。みんな大好き(?)いあんちゃんだぞい。今日はアンチをコンデンサマイクで殴っていくやで」
 コンデンサマイクから綴られるのは、過去に唯案がやかしてしまった話。
 人を殴りすぎたせいで調子を悪くしたマイクからハウリング気味に聞かされてしまったそれは、とにかく本当に凄まじくとんでもないやらかしであった。
 あまりの内容にウーサー・クロノジャッカーも動揺するほどだ。
「あ、ありえないわ! そんなやらかし……許されていい訳ないでしょ! 信じられない!」
 身震いするウーサー・クロノジャッカーだが、あたりはいつの間にか唯案が語った内容を反映したギャグ時空に変わっていた。
「キャー! い、嫌よこんな空間!」
 先ほどまでの強者っぷりはどこへやら。
 ギャグ空間に耐えきれずパニックに陥っている今がチャンスだろう。
「くらえ!」
「きゃあっ!!」
 チャンスをうかがっていた更紗の一撃をまともに受けたウーサー・クロノジャッカーは大きく吹っ飛ぶと、その勢いで石臼を砕き、壁にめり込んだ。
「ぐはっ……!!」
 大きなダメージに血を吐き、壁から抜け出たウーサー・クロノジャッカーが抜け出そうとしている中、歌うだけ歌って満足した唯案はくるりと踵を返してしまう。
「今のでいいフレーズ思いついたわ~サンガツ」
 すたすたとまっすぐ出口に向かっていると、血まみれのウーサー・クロノジャッカーが抜け出した。
「よ、よくも……よくもやったわね……!」
 ふらつきながらもしっかりと立つと、戦いに終止符を打つべく能力者がウーサー・クロノジャッカーへと近づいていた。

木更岐・柊次朗
風間・颯斗

「このアタシがオンナの攻撃を受けるなんて……悔しい! 悔しいわ!」
 体のあちこちについた瓦礫の破片を払いながらウーサー・クロノジャッカーは柊次朗からの鋭い視線と気配に気付いたようだ。
「あら、お口直しに来てくれたのかしら? メガネのイケメン君」
「どんな目的でこんなことをしていたのかは気になるが、この作戦はおれ達がぶっ壊してやる。覚悟するのはお前達の方だ!」
「いい目をしているわね。嫌いじゃないわ」
 罪のない人を騙して強制していた重労働を思い出し、怒りの感情を言葉に重ねたが、ウーサー・クロノジャッカーは強い決意をばさりと払った髪と一緒に流してしまう。
「どんな目的かですって? ふふ、アタシ達の目的なんて『リア充撲滅しねしね団』なんだから聞かなくても分かるんじゃない? メガネ君……っ!」
 がっ、!
 一気に距離を詰めた柊次朗の拳を打ち払い、ウーサー・クロノジャッカーはにい、と笑う。
「……っ!」
「なかなかいい一撃ね。惚れ惚れしちゃう!」
 返す手で放たれる手刀を受け止め、狙ったカウンターが直撃するも、即座に攻撃が柊次朗めがけて飛んでくる。
 仲間達の攻撃をあれだけ受けていたというのに、まだ戦えるのかと息をのむ柊次朗であったが、限界は近いのかもしれない。
「さすがのアタシもそろそろヤバイから、ちょっと本気を出しちゃうわよ!」
 頬を伝う血をぬぐいながらの言葉はおそらく本心だろう。一気に畳みかけようと地を蹴ると――、
 攻撃をアカシックレコードから召喚された悪堕ちした自分が迎え撃つ。
「――!」
「……使えるものなら使わないとな」
 言葉なく襲い掛かる闇堕ちした自分の攻撃を能力で二倍にした耐久で耐える。
「……悪堕ちした自分か。奴等に洗脳されたか、完全に絶望したってところか。見ていてあまり気持ちのいいものではないな」
 耐えながら言葉を吐き出していると、ふいに銀糸が風に強く揺れた。
 力強く吹くそれは、屋内をたゆたう風にしては強すぎる。
「助太刀にきたぜ!」
 風を纏った風車の付喪神、風間・颯斗(くるり風のひととき・h03154)が砕けた巨大な石臼の上で大きく風を起こすように両手を動かすと、更に強い風が吹き荒れた。
「風を起こすイケメンなんてステキだけど、今は来て欲しくなかったわね」
「おっと、それは残念!」
 ごおうっ!
 強烈な竜巻にウーサー・クロノジャッカーと闇堕ちした柊次朗は吹っ飛ばされないように耐えるのが精いっぱい。
「嫌な風ね!」
 あまりの風にウーサー・クロノジャッカーが耐えている間に召喚体が掻き消えた瞬間を見逃しはしなかった。
「今だ!」
「……っ、がっ!」
 ノーガードの胴を打つ一撃は凄まじかった。
 ごふりと血を吐き前のめりに倒れそうになるのをウーサー・クロノジャッカーは耐えた。だが、次はないだろう。
 仲間達の攻撃今までの自分の攻撃、そして今の一撃。重なるダメージは甚大な筈だ。
「さて、とどめといこうじゃないか。――くるり回れ風の輪! ひとひらの風で全てを束縛せよ!」
 瓦礫をとんと飛び越えて来た颯斗は柊次朗の前で神器へと姿を変えた。
「俺を使ってくれ」
「いいのか?」
「その為に来たんだぜ!」
 体のあちこちから血を流すウーサー・クロノジャッカーはまだ戦う意志を失ってはいない。
 とどめを刺すなら、今しかない。
「ま、まだよ……このアタシが、負けるなんて、ありえない……!」
「さあ、アイツが攻撃を仕掛けてくる前に!」
 ごおおおお……っ!
 瞑想しようとするウーサー・クロノジャッカーを神器が起こす超旋風束縛がそれを妨げる。
「柊次朗君!」
「ああ、これで最後だ!」
 どう、っ!!!
「……っ!!!!」
 颯斗の力も重ねた柊次朗が叩き込んだ一撃は、ウーサー・クロノジャッカーに残された全てを打ち砕いた。

「ま、まさか、このアタシが……負けるなんて! イケメン相手でも悔しいわ!」
 血まみれのウーサー・クロノジャッカー最後の力を振り絞る。
「でも覚えてらっしゃい! 光あるところ影あり、リア充あるところ我ら『リア充撲滅しねしね団』あり!! 次はイケメン相手でも負けないわ!!」
 どがあああぁぁぁんっ!!!
 そこで力尽きたのかばたりと倒れると爆発の中に怪人の姿は掻き消え、倉庫には戦った者達だけが残された。

 こうして戦いは終わり、ホワイトデーを利用し騙された者達を救う事ができた。
 だが、忘れてはいけない。
 ホワイトデーが終わったとしても、しっとの炎は24時間365日!!
 カップル――リア充がいる限り、悪の軍団は再びその姿を現すだろう。

 頑張れ能力者! 負けるな能力者!
 戦えぼくらの能力者!!

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト