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燃え上がる

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●とある、廃工場にて
 その現場には、嫌な匂いが漂っていた。ガソリンの匂いに混じった、”肉の焼けた”匂い。真っ黒に炭化したその物体から漂うその匂いは、その周囲を通った人々の鼻腔を擽り、その結果、この|物体《焼死体》が見つかった、次第である。
 その現場は、凄惨なものであった。炭化した遺体、ガソリン臭がわずかに残るポリタンク、地面に落ちたライター。
 警察は、現場の状況、および目撃証言がなかったことなどから、自殺と断定。調査を終了した。

●今、ライブハウスで
「……」
 💠 |長峰・モカ《ながみねもか》((売れない)(自称)イタズラ女芸人・h02774)は、悲痛な表情を浮かべてただ押し黙っている。
「……ごめんね、少し言葉が出なくって」
 そう言って、まとめてあった資料を君たちにくばる。
「被害者は、葵さん、女子高生。遺体の損傷が激しく、かろうじて燃え残った身分証明書から判明した、とのこと。現場はとある廃工場。死因は焼死。周辺にガソリン臭のするポリタンク、そしてライターが落ちていたことから遺書などの直接的な証拠はないが警察は状況証拠から自殺と断定、調査を終了した……」
 モカは、その言葉を振り絞る。
「ただ、彼女のいた高校では少し印象が違っていてね……?」
 なんでも、彼女は自殺をするようなタイプでは、無いのだという。
「……もちろん、全て胸の内に溜め込んでいて、それが爆発した…… なんてのもあるから、一概に信用できるものでは無いのだけど、その学校で情報を集めることは十分有意義なことだと思うのよね」
 彼女は風紀委員長を務めており、その関係から話を聞けるかもしれないし、クラスメート、先生などからも話を聞けるかもしれない……。彼らの言葉から、真実が明らかになるかもしれない……。
「私がこの星を詠んだということは、簒奪者にも関係しているはず……。みんな、気をつけてね」

●少し前、学校にて
「事件の真相判明に、ご協力お願いします!」
 校門前、今日も一人の少女がチラシを配っている。焼身自殺のことに関して書かれたチラシに目を配る人は誰もいない。
 そのチラシを配る少女の胸元。その名札には、「理沙」と、書かれている。

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第1章 冒険 『学校で情報収集』


四之宮・榴
フォー・フルード

●13時45分ごろ、屋上に向かう階段にて
「……ええと、この階段かな……」
 |四之宮・榴《シノミヤ・ザクロ》(虚ろな繭〈|Frei Kokon《ファリィ ココーン》〉・h01965)は、一人校舎内を彷徨っている。一刻も早く、”安全地帯”へ……。しかし、その”安全地帯”こそ、到達には多少の困難を伴うものである。具体的には、入り口から少々遠い。そう、屋上である。
 この階段を登れば……「おい、そこのお前!」
 榴の視線の先、一人の男。
「生徒から報告があってな……。見知らぬ男を見かけた、と。少し来てもらおうか」
 その男性教員は、榴に手を伸ばす。その手が、彼女の手を掴もうとした刹那。
「まぁまぁ先生、落ち着いてください、自分の知り合いなんですよ……ここは僕の顔に免じて許してくださいよ」
 ほんの少し空気が止まる。教員の手を掴んだ一人の少女。「あ、ああ……それならいいが……」
 少女は榴に小さくウインクをして。そのままその手を掴んで屋上まで駆けていく。
 カチャリ。
「……ふぅ、ここまで来たら安心ですかね。大丈夫ですか? 榴さん」
 ヴン、と音がした、気がする。その目の前には、|フォー・フルード《狙撃兵型のベルセルクマシン》(理由なき友好者・h01293)。
「あ、ありがとうございます、フォー様……」
 ブリーフィングで見かけた、気がする顔に少しだけ安堵する。
「榴さんは……これからですよね。自分、理沙さんに少し話を聞いてきました。少し、情報交換しましょう。その方がスムーズです」
 なるほど、闇雲に拾うよりは、情報がある方が確かに有益かもしれない。

●8時30分ごろ、校門前
「あ、理沙さん!」
 ガヤガヤと喧騒が、彼女の声をかき消していく。しかし、|ターゲット《理沙》がここにいるというのは、一番確実だ。無視され続けている彼女にとっては声をかけられただけでも驚きである。
「え、あ、はい……ええと、あなたh」
「あなたの調べてる……? 事件について話を聞きたいの! お願いできますか?」
 フォーのかぶるEOCマント起動。これは、登校する生徒の姿をモンタージュした物を映し出し、擬態化できる代物だ。声色などは変わらないが、視覚情報というものは強いものだ。少しぐらいは補完できる。
「葵は、私の幼馴染で……」
 昼休み、とある空き教室。フォーの相槌の中、理沙は口をひらく。
「最近、彼氏ができた、って言ってた。彼女、すごく真面目で、恋愛とかとは無縁だったんだけど……」
 彼女の表情は、悲痛なものに変わる。
「……あの時、止めていたら良かったの。その彼氏、少しチャラい、というか……。葵、あの日も『彼氏に呼び出されたから』って、深夜に出てったみたいで……。だから、きっと彼氏が……」
 ここまでわかっているなら、なぜそう声を上げないのか……? フォーは、そう問いかける。
「ダメなんです…… 証拠がないんです。葵のスマホにも呼び出されたような形跡もないし、私バカだから、どうしたら良いかわからなくて…… だから、こうやって情報を集めてたら何か方法が見つかるかも、って……」

●14時ごろ、屋上
「なるほど……」
 フォーの言葉に、榴がつぶやく。なんだろう、おかしくはないはずなのに、ところどころに、違和感が浮かぶ。
「……榴さんもそう思いますか? 彼女の話を聞いていると、なんだか少し違和感を感じるんですよね、それが何かはわからないんですが……」
 フォーは、思ったことを真っ直ぐに話す。少しでも、榴に伝われば。
「ー感覚を拡張するー」
 25体の小型無人兵器「レギオン」が、解き放たれる。半径25m、だいたい校舎全体はカバーできるだろうか。
「葵さんってさ、あのギター持ったセーラー服の人に絡まれてた……?」
「違う違う、そっちじゃなくて、風紀委員長の方……」
「あー、彼氏ができたって言ってたっけ」
「いい気味ー! 風紀委員長だからって、偉そーだったじゃん!」
「でも、死ぬのはやりすぎというか……」
「それでも、嫌いな人はいっぱいいたじゃん! それでくるしくなっちゃったんじゃね?」
「でも、彼に呼び出されたって聞いたけど」
「あー、廃工場で呼び出されたって噂だっけ、その彼氏趣味悪いねー」
「そういえば、その彼氏さん、理沙とも会ってるの見たって人、いたな……」

鷂・天文

「私、こう言うものですが。お話伺えますか?」
 警察手帳を手に、|鷂・天文《はいたか・あもん》は職員室で聞き込みを開始する。
「あぁ、警察の方ですか。先ほど不審な……はいいのか。まぁ、なんでもお答えしますよ。答えられることなら」
 先ほどの男性教員が、柔和な笑顔を向ける。人当たりの良さそうな好青年といったところか。
「葵さん……ですか。惜しい人を亡くしましたよね……」
 ふと、水滴が机に落ちる。やはり、普段通りに過ごそうとしても、自分の学校の生徒が焼身自殺、と言うのは相当ダメージがあったようだ。
「それで、彼女のことを伺いたいのですが……」
「そうですね、教員の信頼は大きいと思います。風紀委員長ということもあり、校則も守りますし、真面目なタイプでしたから。でも、ここ1ヶ月は変わったと思いますね……」
 ちょうど、”彼氏ができた”と言い出した頃。ガラリと性格が変わる……ということはなかったが、少しずつ変わっていったようだ。たとえば、ほんの少しだがスカートの丈を短くする、とか。ピアスの穴が空いている、とか。まぁ、彼女がそんなことするなんて、という驚きはあったものの、普通の女子高生としてはないことはないので、まぁスルーしていたという。
「なるほど、少し前から素行が、と。それで、理沙さんについても……」
「理沙ですか? あいつがまた何かご迷惑をおかけしましたか?」
 いや、そんなことはないのですが……と慌てて制止する。しかし、間髪入れずにそんな言葉が出てくるのは。
「葵さんの幼馴染って聞いてますけど本当ですかね? 本当に正反対ですよ。素行は悪いし無断欠席は日常茶飯事、繁華街で男と歩いてた、なんてのも普通に聞く話ですね。なんかチラシ配ってますけど、何を考えているのか……」

青木・緋翠

「失礼します。この度はご愁傷様です……」
 |青木・緋翠《あおきひすい》(ほんわかパソコン・h00827)は、その目に涙を浮かべる。
「恐れ入ります…… あの子も幸せ者ですね、こんなに来てくださって……」
 葵の自宅、仏壇の前で手をあわせる。焼身自殺というのは、精神的にも肉体的にも苦しい。業火に焼かれる……とはいうが、ガソリンの炎は高々300度……。ただその身を焼かれ、灰にもなれず、その肉が焦げる匂いと共に、永遠とも思える時間を過ごすのだ。
「……あの子、どうして自殺なんて……」
 仏壇の前、|葵《彼女》の前でその母親はつぶやく。自らの手で、その身を焼き切るというグロテスク……。受け入れようとしても。受け入れられない……。
「お気持ち、お察しします…… 俺も、とても信じられなくて……」
 素直な言葉が、口から湧き出る。それで、調べてるんです。彼女が、自殺だったのか。
「そう、ですね…… スマホ、ですか……」
 そのスマホには、彼女の全てが詰まっている。そう、彼女が隠したがっていたことも、全て。

「>|復元《decode》 物品に宿る記憶……」
 彼女の部屋、だった部屋。真面目な彼女らしく、飾りっ気のあまりない、でも少し女の子らしさが垣間見えるその部屋。その部屋が、一瞬だけ光り輝く。
 その光の向こう。一人の少女が、立っていた。成功、なのか。
次の瞬間には、その少女は廃工場に足を向けていた。 

第2章 集団戦 『被害者』


 彼女の記憶、は廃病院に。君たちも、その”記憶”とその現場に着くだろう。
「……あなたたちは……?」
 どこからともなく、声が聞こえる。その声は、その”記憶”から。
「死にたくない。死にたくなかった。でも、”あの人が”……!」
 悲痛な声。心からの声が、廃病院に響く。
「……もう、誰も信じない。あなたたちも、きっとそうなんでしょ?」
 葵は、君たちに牙を向ける。信用させるのか、戦うのか。
 君たちは、どちらを選ぶ。
それは、スマートフォンの、記憶。
呼び出される、直前。
また、別の呼び出しがあったらしい。
廃病院に、来て下さい。

でも、それから先は、思い出せない。
誰が、彼女を?
フォー・フルード
四之宮・榴
青木・緋翠

「くっ、あっさり逃げられるとは……」
 青木は、一人そう呟きながら走っている。説得する間もなく走り出すだなんて、想定外だった。しかも実体化するだなんて。もしや、何か別の……。
「反省は後です! 急ぎましょう、見失ってしまう前に!」
 フォーと榴も合流し、その足を動かす。しかし、3人の足が向かうのは、廃病院。見失ってしまったか……? しかし、その視線の先。手術室だろうか。|彼女《葵》は、その寝台に座っている。
「………………」
 その少女は、彼らを一瞥し、その視線を元に戻す。何も、話すことはない。
「あ、青木緋翠と申します……。葵s「来るな!!!!!」」
 3人の、その足が止まる。気迫で押し込められたか。いや、違う。彼女の視線、声、その全てが3人の足を、いや、全身を麻痺させる。
「これは……、√能力!?」
 榴は、自分の推察を思わず声にしてしまう。どういう理屈かはわからないが、青木に呼び出されたことで、そういう能力を一時的にかもしれないが、身につけてしまった……のかもしれない。
「あ、葵さん…… お、俺たちは…… 」
 キッ、とその言葉に睨みつける。それは、気力か、意地か。青木の言葉はまた途切れてしまう。しかし。その瞬間は唐突に訪れた。
「お、落ち着いてくだs…… 危ないっ!」
 榴の足は、動くようになっていた。その意識を手放さんとする葵を抱き抱える。同時に周囲には花が咲き乱れる。柔らかな空間が無機質な廃病院を覆い尽くす。
「ん……」
「あ、目、覚めましたか?」
 ニコリ。三者三様の笑顔が葵を包み込む。
「安心してください。俺たちは葵さんの味方だから……」
「はい、自分も味方です。教えて欲しいことがあるんです」
 フォーは、そのボディを晒す。
「もちろん、信じられないかもしれません。自分はいくらでも傷つけてもらっても大丈夫です。どうせ、機械なので」
 葵も、その言葉に聞き入る。その気持ちは計り知れない、それとも、体力が戻っていないのか。
「僕は同じ女性ですし……。歳も近いです。被害者の貴女様を、攻めたり……しません。話しにくいなら、僕だけにでも、いいです。お話し、しませんか?」
 ニコリ。榴の瞳は、優しく彼女を包み込む。この場を覆い尽くしている、花畑のように。

「か、彼に、最初は呼び出されたんです、廃工場に……」
 ぽつり、ぽつり。葵の言葉が、紡ぎ出される。その声色に笑みはない。
「その、時は…… 私も彼氏ができて、舞い上がっていましたし、呼び出されたのも嬉しい、って気持ちしか、なかったです。今思うと、なんであんなところに呼び出したんだろう、とは思いますけど……」
 うんうん、と頷く。3人の心持ちは別かもしれない。しかし、表に出るリアクションは変わらない。
「私が、こっそり家を出ようとした時……。連絡が来たんです。|ここ《廃病院》に、来てくれ、って。ちょうど、時間としても間に合うなと思って、向かったんです。そこで、この部屋に呼び出されて……ツっ……」
 葵の顔が苦痛で歪む。思い出そうとすることを拒むのか。
「大丈夫、大丈夫ですから…… 。ワタシはただ──アナタがどうしたいのかを聞きたいだけなのです」
 一見、冷たく聞こえそうな、その言葉。しかし、真実には違いない。
「無理はしないで大丈夫ですよ、呼び出した相手はわかりますか?」
「す、すみません…… 誰に呼び出されたか思い出そうとすると、頭が……」
 青木の言葉に、葵はしゅんとしてしまう。もちろん、大丈夫ですよ、気にしないで、とは言っているものの、自分が思い出せないことに悲しみの表情が浮かぶ。
「ここに来たら、誰かとこのベッドでお話し、して…… 腕にチクッと何かが刺さったと、思ったら、意識を失って……」
 言いにくいなら、言わなくてもいいんですよ。誰からともなく、そういった。
「次に気がついたのは、熱のせいでした。どこかは見えていなかったんですが、廃工場、だったんですね。そこで、熱い、熱いと苦しみ、もがいた、と思います。その時、ほんのわずかに聞こえたのは、二人で話してる、みたいでした。一人は、多分、彼氏だと思います。もう一人、女の人は……いつっ……」
 
 

ツバクロ・イットウサイ
エイル・デアルロベル
シェラーナ・エーベルージュ

「痛っ……!」
 |被害者の少女《葵》は、顔を顰めて頭を抑える。
「あぁ、無理をしなくても大丈夫ですよ。話せることだけで良いのです。私たちはここにいますからね」
 エイル・デアルロベル(品籠のノスタルジア・h01406)の微笑みが、ほんのわずかにではあるだろうが彼女の心を和らげる。
「そうですよ、わたくしたちはあなたの味方です。少しお話ししましょう?」
 ツバクロ・イットウサイ(シャイニングミストブレイカー・h01451)も、そう言葉を続ける。
「にゃ〜にゃ、にゃにゃにゃ、にゃ〜にゃ!」
 |黒猫ちゃん《シェラーナ・エーベルージュ》(ルンバ乗りの黒猫・h02970)もそう言っているようだ。

「ぐっ……がぁっ!」
 葵が、その腕を振り下ろす。明らかに、敵意を持って。それでいて、悲しげに。その衝動を抑え切れないのだろう。その叫び声は、避けてくれ、と言わんばかりに殺意を含んでいた。
「チッ、これは……、やるしかないですねっ!」
 エイルは、その肩に手を乗せてそうつぶやく。その手の下からは、赤い液体がどろりと流れ落ちている。葵の爪にも、赤い液体が付着している。
 チャリン。
 そんな音がして。エイルの胸元からキセルで葵の手を叩く。
「グゥッ!」
 葵は、その手を押さえへたり込む。
「にゃっ!」
 その間にエーベルージュの右手が、葵の体をてしてし。それと同時に葵の精神は落ち着いていく。√能力を抑える能力である。
「落ち着きましたか?(にゃにゃにゃ、にゃにゃーにゃ?)」
 エイルとエーベルージュの笑顔に、葵が顔を赤くする。
「ご、ごめんなさい…… け、怪我は……! あんなこと……」
「ああ、これですか? 大丈夫ですよ」
 ニコリ、と笑いながらその押さえている手を外す。
「あ、あれ……」
「この通り、”傷なんてありませんから”、大丈夫ですよ。安心してください」
 ”仕込みキセル”。かつて暗器として使われた歴とした武器である。武器であるということは。アンティークカウンターが、使えるということ。これぐらいの傷は無視しても良いのだが、心配はさせたくないのだろう。
「おっと、そろそろわたくしの出番でしょうか?」
 イットウサイの、その言葉と共に、雷が鳴り響き、空が雲で覆われる。
「出よ! |神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》!」
 黒雲が割れ、そこから|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》が姿を表す。ふふん、と自慢げのイットウサイ。
「彼女の記憶を、戻してあげてください……!」
 よかろう……という声が聞こえたような気がした。いつの間にか空は晴れ渡り、雷鳴も亡くなっていた。
「どう、何か思い出しました?」
 葵の顔を、覗き込む。
「そ、そうですね、さっき話した通りなんですけど……」
 葵は、改めて話し出す。
「呼び出された時に聞いた声、ですよね……。あれは、彼氏と、もう一人……」
 意を決して、話し出す。
「はい、思い出しました、もう一人の声、それは……」

第3章 ボス戦 『孫破』


「そのもう一人は……」
「あら、ここにいたのね?」
 葵の言葉の前にもう一人の声が立ち塞がる。
「廃工場にいると思ったが…… こっちにいたとはなぁ?」
 一人の男も、そこにいる。
「理沙……」
「私ね? あんたのこと大っ嫌いだったのよ。だからね? 彼に頼んで絶望させてあげようと思ったの」
 理沙の声が、廃病院に響く。
「彼がね? 協力してくれるっていうから、話を聞いてもらってね? ねー、ダーリン♪」
 葵の彼氏であろうその男の腕に、理沙が抱きついている。
「あー、ほんといい気味! 私のこと見下してたんでしょ!? 本当にサイコーの気持ちね! あーっはっはっh」
 その言葉が、急に途切れる。彼の腕には、理沙”だった”ものがこびりついている。
「ふぅ、めんどくせー女だったが、こいつで全力が出せるぜ。さぁ、殺りあおうぜ?」
 そう言って、孫破は君たちと対峙するのだった。
四之宮・榴

 ……報われない。榴は、冷たく目の前の男を見つめている。
「さぁ、|遊ぼう《殺りあおう》ぜ? 最初はてめえからか? ま、誰からでもいいけどな!」
「……おいで」
 榴のその言葉は、冷たい。こんなことは、あってはいけない。誰も救われない、ということがあっては。
「言われなくてm」
「|貴方様《てめえ》じゃ、ないです…」
 そうつぶやくと、榴の背後には|羅鱶《ラブカ》が佇む。
 
 あってはいけない。真犯人はわかった。が、動機が”殺されてしまった”。
 あってはいけない。生きて罪を償わせるべきだった……。
 あってはいけない。誰も救われないということは……。
「……だから、僕は、貴方様を…叩き潰します」
 冷たい視線は、孫破に向けたまま。
「面白えじゃん、やってm」
「……いけ」
 孫破に、300本もの三尖頭歯が襲いかかる。グチュ、と生肉を噛みちぎる音がして。しかし、それと同時に、榴にも|その刃《鮮やかに燃え盛る火炎玉》が牙をむく。
「ぐっ……がぁっ!」
 それは、誰の言葉だったか。引き寄せて、ガード。カウンター。もちろん、その身にダメージが来ることは、承知の上だ。それでも、その胸の奥にある不快感が、突き動かす。腕を、頬を、その炎を掠める。しかし、”それだけですんでいた”。
「て、てめえ、やるじゃねえか……」
 孫破は、その肩に手をやる。羅鱶の咀嚼音が、響く。赤く血が滴るその肉は、さぞ美味しいことだろう。

「…葵様が、救われますように」
 そう、言葉が溢れた。

フォー・フルード

「……あぁ、なるほど」
 フォーは、そう独言る。ああ、よかった。こうなれば、ことはシンプルだ。ただ、目の前の敵を倒せば良い。そう、シンプルだ。
「て、テメェ、そんなもんで倒せるとか思ってんじゃねえぞ!」
 その肩を抑えながらも、目の前の的が吠えている。ただ、これを撃てば良い。
「……先に謝っておきます、葵さん」
「てめ、シカトこいてんじゃ」
「自分は救いも慰めも与えられません」
「おい、いいかげn」
「ですが迅速に悪夢は終わらせます」
 放出するのは、弾丸。未来予知の、弾丸。異波共振化サポートAI「magic trick」は、孫破の行動を全て白日の元に晒す。
「ちぃっ! こいつチョコマカと!」
 |空白《EOCマント》からフックが吐き出される。孫破が気づいた頃には、鉛玉がそのボディに突き刺さる。それは、さながら宙を舞う曲芸師のように。さながら大地を駆ける戦士のように。常にその行動の先をよむ。常に、一歩先へ。常に、思考を進める。
 距離は、常に一定に。前に来たら後ろへ、右に来たら左へ。しかし、鉛玉だけは距離を詰めていく。グフ、とその炎の化身は真っ赤な液体を吐き出す。

ヒルデガルド・ガイガー
青木・緋翠

「これが、葵さんの意思なのか、どうか。それはわかりません。しかし」
 青木は、スマートグラスとトンファーガンを構えながら、一人思案していた。
 葵は、なぜ”ここにきたのか”。復讐したかったのか? それとも、信じたかったのかもしれない。どちらにしても。応報のFDに変われば自らの力も使って復讐を果たしたと言えるのかもしれないだろう。しかし、実感があるだろうか。しかし、ただ一つ、言えることがあった。
「何にせよ、悲しみを増やす彼氏さんには倒れて貰わなくてはいけません」
 目の前の青年に、口から赤い液体を垂らす孫破が吠える。
「洒落せえ、てめえらは燃やす。ゼッテー燃やす!」 
「あら、奇遇ですね? 私も放火殺人犯は捨て置けませんね。”自らの炎”で灰になっていただきましょう」
 ヒルデガルド・ガイガー(怪異を喰らう魔女・h02961)は、そう呟く。
 愚かな……と聞こえたような気がして。周囲を、暗黒の呪詛が覆い尽くす。次の瞬間には、大量のメスが宙を舞う。
「へっ! そんなもん!」
「おや、じゃあ、これも足したら、どうでしょう?」
 避けた先に、トンファーガンが火を吹く。その弾丸は、孫破の行動範囲を徐々に狭めていき。メスの|舞踏《ロンド》は、徐々にその円を小さくし、孫破に襲いかかる。赤い線は全身に。滴る液体はその床を染める。
「……まだくたばんじゃねえぞ?」
 ガイガーが見ているのは、また別の√。その√には、また別の孫破。
「へっ、耐えてもらわねえとな!」
 次の瞬間には、衝撃。そのボディに、脳天に、霊波が襲いかかる。避けることで精一杯だろう。
「ぐっ、て、テメェ、舐めてんじゃねえゾッ!」
 その手には、鮮やかに燃え盛る火炎玉。その赤い揺らめきは残像として消え。その熱い線はガイガーに向かって。
 その距離は、残り5mmまで。赤い球体は二つに割れる。そのボールを受け流し、ガイガーの手には斬霊刀「黄泉」。
「てめえ、それでやったと思ってn……ぐふっ」
 さっきより、多くの血をはいて。
「知ってるか?放火殺人ってのは滅茶苦茶罪が重いんだぜ? 死刑にならないのが幸いってレベルだ。もっとも俺様はテメェなんぞ死刑程度で済ませる気はねぇけどな!」
 罪の重さ、それは、「麻痺」と「毒」。その体を大地に沈める。
「て、テメェ……!」
「おっと、危ないですねぇ……」
 炎で包まれたそのフィールドは、もう戦えないように。光ディスクと銃撃により。危険地域に変わる。危険なら、「立ち入れなくして仕舞えば良い」……。そういう発想である。
「さて、そろそろ処刑の時間だぜ?」
 二人が、一人の男を見下ろす。
「これ以上、悲しみは増やさせません」
 青木が、トンファーガンを構える。至近距離。物理攻撃も、できる距離。
「よぉ、”こいつ”でぶちまけてやれよ」
 ”「サプライズ・フューチャー」”。強制進化。その手のトンファーガンは、威力を増していく。具体的には、目の前の男を”屠ることができるぐらい”には。
 それは、一瞬だった。弾丸、電撃、打撃。全ての処刑が終わる。声も出ない。苦しまずに散って行ったのは、よかったのか。それは誰もわからない。
 葵は、愛していた男の末路を見ていたのか。それは、誰もわからない。
 全てが終わった時、消えてしまっていたのだから。
 

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