シナリオ

学園が狙われたけど俺がスーパー強いので無事でした

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●………………という風になりたい少年の独白
 悪の組織は実在する。
 一見平和に見えるこの街にも、俺達の知らない所で悪の組織が暗躍して、世界征服の準備を着々と進めているんだ。
 この学校の生徒だけを見ても、昨日まで札付きのワルだった奴が急に物分かりがよくなったり、逆に弱気だった奴が堂々とするようになったり、昨日まで地味可愛い女子だったのが美少女全開になったり。
 他にも学校やこの周辺で謎の改築工事が多発したり、深夜まで灯りが付いていたり、超常現象の研究家が頻繁に出現したり……。
 世の中はどんどんおかしくなっている。
 次に何が起こるのかわからない。
 せめて俺は自分と自分の周りの人達を守れるよう強くなろう。
 といっても出来ることは、動画サイトを見て空手を学ぶことぐらいだが…………。

●√能力者はスーパー強いので以下略
「私は討伐対象ではないぞ」
 √EDEN某所。複数人の√能力者達が取り囲んでいる、直径180cm程のサイケデリックな模様のヒトデが言った。彼は怪人ではあったが、今や悪の組織に仕えることをやめ、√EDENの守護者となった穂照・カイセである。
「これから私が語るのは、簒奪者が学校を乗っ取り、学校ごと悪の組織に仕立て上げてしまうという予知だ……。
 何と言う組織の仕業なのかはわからん。
 だが何であれ、悪の組織が誕生してしまうことは阻止せねばならん。力を貸してくれるか?」
 そう懇願したのちに、カイセは√能力者達がするべきことについて語りだした。
「狙われているのは√EDENに存在する、|郷権《ゴーゴン》中学校。ここで悪の組織の構成員が暗躍しているはずだ。君達はそれを明らかにし、それを止めるのだ。
 学校に潜入して捜査するのが一番いいだろう。他にはネットで調べたり、オカルト雑誌の記事を見たり、周辺で聞き込みをするなど……詳細は任せる。郷権中学校は制服の着用が任意となっているので、服装は一般的なものなら不自然はない。中学生に見えるかどうかは別として……。
 悪の組織の活動の証拠を突き止めれば、目撃者を消そうとして襲ってくるだろう。君達はそれを返り討ちにし、そして自ら事態の収集をするほか無くなって現れる首謀者を倒すのだ」
 ここまで言ってカイセは一息ついて、また続けた。
「以上だ……郷権中学校は√EDENにあるため通常の移動手段で向かってもらう。では頼んだぞ」

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第1章 冒険 『怪しい事件』


 時刻は朝。
 |郷権《ゴーゴン》中学校の校門は坂の上にある。今日も生徒達が元気に、あるいは眠たげに登校していた。
 その様子におかしな所は見受けられない……。
 しかし悪の組織が暗躍しているのならば、一見しただけではわからない何事かが確かに起こっているのだ……。
明日真・スミコ

 |郷権《ゴーゴン》中学校の通学路にある交差点の一つで、明日真・スミコが警官の制服姿で、黄色い旗を持って交通整理していた。
 そんなのは地域課の一般お巡りさんの仕事であるし、そもそもここは管轄ではない。その上、本人にやる気がなかった。通学する中学生にも内心、恨みもないのにやれ世の中の生産に寄与しないだの信号見てないだの悪態をついている始末だ。
 ではなんでこんな事をしているのかと言えば、情報収集のための擬装である。
「学校は楽しい? そう言えば最近新しい先生が来たとか聞いたけど、どんな人かな?」
 スミコはフランクに中学生に話しかける。新しい先生が来たかどうかは実は知らない。最近起きた変化について話させる試みだ。
「えっとね! 新しい先生はね! ちょーイケメンで外国の有名大出のエリートなの! それでね……」
 本当にいた。ミーハーな女生徒にこれでもかというほど語られたが、しかし関係あるとは思えなかった。
(ハズレか……しかしよくもまあこれだけ無駄に口が回るもんだ……)
 だが、聞き込みは根気と忍耐がいる作業だ。そして現状においては有力な情報は喉から手が出るほどの価値がある。めげずに続けるべきだった。
「……あの……警察の人ですか……?」
 スミコが苦闘しているうちに、向こうから話しかけてくるものがあった。
 特に特徴らしい特徴もない少年だったが、その表情は悩みの存在を訴えていた。
「どうしたの?」
 ストレスと苛立ちを100%遮断して聞く。
「最近、学校の周りが変な気がするんです……」
 そして少年は話した。昨日まで札付きのワルだった奴が急に物分かりがよくなったり、逆に弱気だった奴が堂々とするようになったり、昨日まで地味可愛い女子だったのが美少女全開になったり、と生徒の急激な変化を目にしたこと、そして学校やこの周辺で謎の改築工事が多発したり、深夜まで灯りが付いていたり、超常現象の研究家が頻繁に出現したりということだった。
「何か……嫌な予感がするんです。まるで……悪の組織が暗躍しているみたい……だなんて。あっ変ですよね、こんなこと言うなんて。すみません。それじゃ」
 少年は逃げるように立ち去っていった。

 初めて有力な情報らしい情報を手に入れたスミコは、その後も聞き込みを続ける。
 少年から聞いたことを念頭に置いて聞き込みを続けると、どうやら同じようなものの目撃例は他にもあるようだった。

「げ‥‥‥朝から、悪徳警官」
 スミコは突如として誰かがそう言うのを聞いた。誰なのかはわかっていた。こんなことを言うのは一人しかいない。
「あ、あら、お嬢ちゃん‥‥‥きょ、今日もお元気ね」
「いや、何処よここ。あんたの管轄じゃないでしょう。っていうか何してるの。あんた地域課でも交通課でもないでしょう」
 なるほど殺人事件と交通整理を一緒に業務とするような警察官はいない。
「さすが、名推理」
「いや常識よ、私がそんなこともわからないと思うの」
 現れた10歳の少女は志摩・モモコ。スミコの√能力によって召喚されたAnkerである。そして、IQ180の名探偵であり、天才的な悪知恵の持ち主。
「実は……」
 スミコは今までの経緯を説明した。
「学校で悪の組織が暗躍してるって前提があるなら、その少年が語ったことはある程度は的を射てると考えていいでしょう。まず生徒の性格が変わった件。これは外的要因によるものである疑いがあるわ。そうすることで都合がいい誰かがそうさせた可能性がある。この場合はそれを悪の組織と結びつけてもいいと思うわ。工事にしても灯りにしても関係があると考えましょう。そうすれば怪しい場所が絞れるでしょ。あんた大人なのにそんなこともわからないの? さあわかったら移動よ。捜査は足でしょ」
 一瞬でこれだけの考察が出力された。
「え、待って。メモさせて」
「覚えなさい。さあ行くわよ」
 モモコとその子分は駆け出した。
 歯車は動き出す──。

紅河・あいり

 圧倒的な存在感を示す少女が廊下を歩いていた。
 黒い髪に赤い瞳、肌は白く、眼鏡をかけた少女。
 整った容姿はクールな印象を与えている。
 通りかかれば生徒達の誰もが振り向き、その姿に目を奪われた。
 彼女は紅河・あいり。
 √能力「インフィニット・アイドル」により、煌めくオーラのスーパーモードに変身している。といっても格好は普通だ。郷権中学校に潜入中、情報収集に都合のよい、好印象を与えやすい状態となっている。
 聞き込みでは、あいりは美少女なので、どうも他の美少女のことも連想してしまうらしく、最近話題になっている美少女のことが耳に入ってきた。
「|輝霊・美絵里《かがち・びえり》さん。つい最近までは地味で、よく見ればかわいい、程度だったけれど最近になって突然イメチェンして、人目を惹き付けるような華やかな美少女に変身、性格も内向的だったのが社交的になったのよね」
 自称、美少女に詳しいという女子生徒はそう語る。
(……しかし、それが悪の組織とどういう関係が。
 とはいえ、性格が突然変わるなんて不自然と言えば不自然……)
 そう、思えなくはなかった。
 なので彼女がいる茶道部へと体験入部に向かう。
 部活に入れば潜入捜査もしやすいだろう、と思ってのことだった。

 輝霊・美絵里は確かに可愛かった。
 誰もが認める美少女と言っていいだろう。茶道部なので和服姿だったが、それがまた似合っていて、落ち着いているのに華やかさがあった。
「紅山です、よろしくお願いします」
 あいりは偽名を名乗った。身分の証明は求められなかった。容姿やアピール力にに気を使ったおかげで、歓迎されていた。
「茶道に興味はあるのですが、ただ私にもできるか不安で……」
「大丈夫ですよ、誰でも始めは初心者です。茶道は作法が難しいけれど奥が深くて、とても面白いのよ」
 案内しているのは、美絵里だった。
「それに……あなたには特別な何かを感じるわ。才能というか、華というか……もしよければ部活が終わった後、少し時間ある?」
「何か……やるのですか?」
「特別な才能を感じた人だけ、誘っているのだけど……」
 どうやら、煌めくオーラが効を奏したらしい。
 美絵里の誘いを受ければ、彼女はあいりだけをある場所へと案内することになる。

ジナ・ムゥ・マナミア

「悪の組織ですって?プラグマの仕業ね!(キリッ」
 何かあれば大体元凶にされることが多いプラグマだが、今回はおそらく本当にプラグマか、その傘下の仕業である可能性が高い。
 そんな鋭い推理をした──根拠の有無はおいといて──ジナ・ムゥ・マナミアは、まず行動するにあたって、最初にしたことは0.625秒念じることだった。
 そして完成する、|郷権《ゴーゴン》中学校の制服を着たジナ・ムゥ・マナミアが。
 入学するわけでもないのに制服姿になるには、こうするのが一番手っ取り早かった。
 学校に潜入するにあたって、ジナは制服の着用が任意であると聞いても、
「絶対着る!」
 の一点張りで(お制服着とけば在校生だって言い張れますし、何より他所の√のお人間様のお制服なんてハイカラに決まってますわ、というのが理由だ)、まず制服姿になることから始めなくては気が済まなかった。
 どう見ても10歳ではあったが、ギリギリ許容範囲だったのか校内を歩いても怪しまれることはなかった。
 そして自由に校内を歩き回れる昼休み時に、ジナは校内掲示板(彼女の言うところの校内お掲示板)を見に行く。
 異変の兆候が乗っていてもおかしくない、と考えてのことだった。
 早速一番目立つ記事に目を通す。

「絶対啓蒙新聞

 私、|英雄塚《えいゆうづか》・|鋭麗《えいれい》は、昨日までは非常に優れてはいたがただの人間だった。しかし今は違う。高次元よりの知恵に触れ、神に選ばれし真の英雄となった。今や愚昧なる諸君に叡知を授ける偉人である。|郷権《ゴーゴン》中学校の諸君は私の言う通りにせよ。学校は学業を行う所であり、それは優れた人物となって、社会に貢献するためである。しかし人は生まれながらにあまりに無知蒙昧である。それゆえに高次元より知恵を授けられなければならない。かくあらなければ人類のさらなる発展を未来に望むことはできないであろう。ただしこれは一度に多くの人間には行えない。ゆえに希望を募る。希望するものは英雄塚・鋭麗まで」

(このお学校……割ともう終わってますわ~~~~~~~~!)
 この|誇大妄想《メガロマニア》を盛大に炸裂している記事を見たジナは奈落の底へ落とされる心地がしていた。
 こんなものを堂々と掲示板に貼るとは。
 表向き平和な学園だったが、ところがどっこい、事態は思ったより深刻なようだ。

「君、熱心に記事を読んでいたね!」
 さらに悪いことにジナは誰かに声をかけられた。
 髪がボサボサの地味な生徒ではあったが、目の輝きは強く、そして何より、気持ち悪い程に堂々としていた。
「どうだい、君も叡知を授かってみないか!」
「ま……まさか……あなたは……」
「そう、私が英雄塚・鋭麗だ」
(もう少し心の準備を~~~~!)
 展開が早すぎる。
 SAN値がピンチだ。
(し……しかし……これはまごうことなき異変!
 どう致します……ジナ……。
 貴女は魔法少女になったのでございましょう……!)
 なったというか、それに化ける狸だが。
 ともかく、この人物について行けば、異変の真相に近づく手がかりは得られる可能性があることは確かなのだ……。

不破・鏡子

「うん!」
 不破・鏡子の前には、どのようにして手に入れたのか、|郷権《ゴーゴン》中学校の制服があった。
 学校の生徒でもないのに手に入れるのは簡単ではなかっただろうに、今回の事件に対する意気込みが感じられる。
 14歳の彼女はそれを着れば完全に|郷権《ゴーゴン》中学校の生徒。とはいえさすがに授業には出られないから、昼休みの時間帯を狙って学校をうろつく。
 情報収集の場所として選んだのは、女子生徒達の社交の場……学食だった。
 話し好きな女子生徒達が噂話やら恋バナやらに華を咲かせているのを見て、鏡子も自然な流れで輪に入る。
「こんにちは! 私最近転校してきたのだけど、今アツい話題って何かある?」
「へー転校生! 今はね……」
 外交的で常に刺激に餓えている彼女達は、何の疑いも持たずに鏡子を輪の中に迎え入れた。
 彼女達の話は、ほとんどがたわいのない物だったが、鏡子は話の中で気になったことや重要そうなことを選んで、鏡子自身のことについては上手いことぼかしながら、詳しく聞いていった。
 
 ……何やら。
 長い間姿を見せない生徒がいるとか。
 それは異世界に迷いこんだからだとか。

 そういう物騒な話題も中にはあったが、悪の組織の暗躍に関係があるのかどうかはわからなかった。

 授業が始まってしまえば後はどこかに身を隠さなければならない。
 次に活動できるのは放課後だろうか。

 そんな中、潜伏先を探そうと屋上に通じる階段にいたところ、大柄な男子生徒が鏡子のもとに来た。
「君、こんな所で何をしてる。どこのクラスだ?」
 顔は真剣だ。授業中だというのに、自分が授業に出ていないのはいいのだろうか。
「え? ……やだなー、サボリよ。先生には黙っといてくれない?」
 こんな所にいるのを見られた以上はサボリと言う他なかった。
「君こそ授業いいの?」
 もっともであるはずのことを聞いてみる。
「学校の事を熱心に聞いていたな。本当にこの学校の生徒か?」
 しかし向こうは質問には答えずに、鏡子に掴みかかろうとしてきた。
「無視しないでよ、何するのよ!」
 鏡子は身をかわすが、向こうは確かな動きで鏡子を捕まえようとしてくる。
 撃退することは出来るだろうが、今、目立つのはまずい。

 その時だった。
 突然、屋上に通じるドアが開いたかと思うと、ブリキのバケツが男子生徒の頭を覆った。
「逃げるんだよ、こっちだ!」
 そして屋上から駆け降りてきた誰かが鏡子の手を引き、走るよう促す。
 鏡子は、それに着いていくのが一番良いと判断し、そうした。

 どこをどう走ったのか、校舎の外の目立たないスペースに、鏡子は連れてこられていた。
 ……目の前には囲いに覆われた、建設中の建物がある。
 鏡子を連れてきたのは、抜け目のない顔立ちのすばしっこそうな男子生徒だった。
「ごめんな、急に連れてきちまって。でもこうするしかなかった……今のあいつはやばいんだ」
「……どういう事?」
「あいつは……|勝戦《かちいくさ》・|凱《がい》っていうんだけど、……昔はいいやつだったんだけど中学校に入ってからワルになっちまってさ。いや、それだけだったら良かったんだけど、最近になって急に大人しくなって教師の言うこともよく聞くようになったと思ったら、普段は無表情で何考えてるかわかんない奴になっちまって。
 さっきだって、わけもわからず絡まれただろ。授業サボってただけの奴に、自分もサボってたにもかかわらず喧嘩売るなんて、普通じゃないだろ」
「そうね……」
「あいつは時々そういう意味不明なことをする奴になっちまった。暴力だって時々振るう。ワルだったときも振るってたけど、今みたく意味のわからない振るい方じゃなかった」
「一体、何があったの?」
「わからねえ。けど、そんな風に急に性格が変わっちまった生徒が何人かいる。噂じゃ、みんな|目眩釜《まぐらがま》のカウンセリングを受けたとかって話だが」
「|目眩釜《まぐらがま》って?」
「知らないのかよ、新任教師の目眩釜。生徒のカウンセリングを時々するんだが、その時に『自分を変えたいか?』と聞いてくるんだそうだ。ほんとかどうか知らないけど」
「そうなの、気になるわね……ところであなた、屋上で何をしていたの?」
「え、サボってたに決まってるだろ。なんか最近の学校、怖くてさ。授業も何かやばいことされそうで」
 鏡子は、授業中はその少年の勧めるサボりスポットに身を隠すことにして、放課後にその目眩釜先生の元に、カウンセリング希望と言って向かった。
 グロテスクな名前に反して整った容貌の若い教師であったが、決して印象は良くなかった。特に、どこか品定めをするような目でこちらを見ていたことについては……。
「そうか。構わないよ。では早速、カウンセリングを始めようか」
 喋り方は丁寧だったが、もはや印象は覆らなかった。

金菱・秀麿

「|郷権《ゴーゴン》……かぁ。確かギリシャ神話に出てくる怪物の三姉妹の名だったな」
 夕暮れ時。金菱・秀麿は、|郷権《ゴーゴン》中学校の校舎を怜悧な瞳で見上げていた。
 実際のところは、昔この一帯を開拓した郷なにがしという人物に由来するらしいのだが。
「……それにしたって、遊び心がありすぎやしないかねえ」
 校門には蛇の髪を生やした女の首の像が至極真面目に飾られていたし、何なら校章もそれがモチーフに見える。さらに言えば学園祭は「ゴーゴン大祭」と呼称されている。
 ……まあ、そんなことはどうでもいい。
 彼の刑事としての嗅覚と本能が、なにか辛気臭いものを感じ取っていた。
 ものぐさそうにだらしない黒髪をいじりながら、行動を開始する。
 彼の行動方針は、教師をターゲットにした聞き込みだった。
 そのため教師の業務が終わる時間まで待ち、帰る所に接触して、話しかけることにした。

 やがて校門から教師とおぼしき女性が出てくるのを見つけた秀麿は、早速話しかけた。
「すみません、こちら周辺地域での青少年の非行・犯罪調査を行っておりまして。こちらの取り越し苦労だと良いんですがね。
 最近、御校で様子がおかしい生徒さんがいるなら、
 どうか、隠さずに教えていただけませんか?」
 手慣れた様子で警察手帳を見せ、聞いた。
 女性は疲れているのか、どこかぼんやりした様子で、「はぁ……」と応えた後、
「長いこと休んでいる子もいますけれど、基本的には皆良い子ですよ。私達も各家庭の事情までは踏み込めませんので、把握しきれていないことがあるのは否めませんが……」
 どうも、何も知らない様子だ。
 返答としておかしい所はない。
 秀麿は礼を言って、その教師と別れる。
 ……それにしても、疲れた顔をしていた。

 次の目標を待つか、と思った矢先、視界で何かが動いたのを察知した。
 すぐさまその方を確認すると、誰かが走って逃げていく所だった。
 明らかに自分から逃げている。
 怪しいとしか思えなかったので、後を追った。
「おい、何で逃げる?」
 追い付くのには苦労はしなかった。何の訓練も受けているとは思えない。その人物の肩に手をかける。
 それは丸眼鏡をかけた髪がボサボサの男だった。抵抗しない意思表示なのか、両手を頭上に上げている。
「とんでもねえ旦那。あっしは怪しいもんじゃござんせん」
 生まれてくる時代を間違ったかのような喋り方だ。
「あ、あっしはただ、この界隈で超常現象の研究をしてる|者《モン》でさぁ。何も悪い事ぁしてやせん。神に誓って」
「超常現象~~~? こんな所で何が観測できるってんだ」
 胡散臭いことこの上なかったが、事件に関係がある可能性も考慮して、一応聞いてみる。
「この学校には昔っから色んな噂があるんでさぁ。夜な夜な叫び声が聞こえるとか、幽霊が出るだとか、夜中に学生が集まってUFOを呼んでるだとか、異世界に繋がる場所があるだとか……」
 最後のものに関しては、真実である可能性はあるが一般人なら記憶してはいられないはずだ。
 十中八九、噂好きの中学生が面白がって流したものだろうが、万が一、改竄されたはずの記憶が何かの弾みで思い起こされたら……こういう噂話の中にも真実が含まれていることもあり得るのかもしれない。
「それより旦那、ここで何かあったんですかい。事件ですかい」
「守秘義務だ、それは教えられないよ」
「行方不明じゃありやせんか!?」
 男は出し抜けに言った。表情は真剣だ。
「……いや、実は。あっしは最初仲間と一緒にここに来たんですがね。その仲間が忽然と姿を消しちまったんでござんすよ。今に至るまで再会できてねぇんです。警察にも知らせましたが、手がかりなしで……その捜査なんじゃねぇかと思った次第で、へえ」
「ほぉ……そうか。心配なのはわかるが、お前さんは帰った方がいい。自分も行方不明になりたくはないだろう」
 秀麿は思わぬ事を聞いた事に驚きつつ、実は危険に首を突っ込んでいるかもしれないその男を諭した。
「あっしは仲間が心配で心配で……でも確かにその通りだ。あっしにゃ何にも出来ねえ。刑事さん、どうかこの事件を解決してくだせえ」
 それだけ言って男は去って行った。
「行方不明、か……」
 秀麿は考える。そういえばさっきの教師も、長い間休んでいる生徒がいると言っていた。もし学校に潜んでいる悪の組織の構成員が、何らかの理由で人を拉致しているとしたら。
(……であれば、監禁している場所があるはず)
 校内なのかもしれないが、校内で一般人に知られないように出入り禁止にされている場所などあればすぐにわかる。
 ……というか、あからさまに怪しいものがある。
(校舎の横に今まさに建設中の建物があるじゃないか……)
 校内の警備はザルもいいところだ。簡単に侵入できる。
 その建設中の建物の前に行ってみると、囲いがあり、その出入り口の所には新教室棟と書かれている。
(…………人が出入りした形跡がある。まあ当然か…………)
 その時間、工事はしていなかったが。
(今、踏み込むのは止めておくべきだ。一人じゃ、もしかしたら俺でも行方不明者の仲間入りになる可能性がある)
 秀麿は、この中に敵が潜んでいる可能性を考慮する。
 それほど大きくないが、この建物が別√に繋がっている可能性もある。
(ここは、待つか…………)
 仲間と合流し、万全の状態で踏み込む。
 もしくはここに仲間が潜入している状態で踏み込む。
 それがよいと思われた。
 今は、待つ時だ。

祇屋・瑠宇子

 |郷権《ゴーゴン》中学校の昼休み。
 ……校内を、ギャルが歩いていた。
 目茶苦茶目立つ。しかし、いてはおかしいという程のものでもないので、咎められるということはない。
 ギャルというのは際立った存在だから、そうでない者からは距離を置かれがちだ……少なくともこの学校ではそうだった。
「この学校、ギャル少ないのなー」
 祇屋・瑠宇子はひとりごつ。それは別に問題はなかった。人が寄ってこないのも好都合である。
 人の寄り付かない場所を見つけ、瑠宇子は√能力を発動した。
 インビジブルに生前の姿を与え、知性を与えたうえで協力させる、ゴーストトークを……。
「デュフフフフ拙者一昔前のオタクゆえギャルの良さはよくわからんでござるな。やはりバニーガールが一番萌えるでござる」
「えーしょっぱなからこんなん出るー?」
 実体化したインビジブルは実に口調から連想される姿そのままである。
 どんな死に方をしたのか気になるがさておき。
「ヤバそうな奴でござるか。それなら人を誘拐している奴らを見かけたでござる」
「マ?!」
 インビジブルは四六時中そこらを漂っているわけだから、誰もインビジブルの目からは逃れられない。
 しかもゴーストトークで実体化したものは最近3日以内の目撃内容について協力的かつ正確に説明する。
「三日前にそこの建物から出てきた集団がひとりでフラフラしていた人を拉致したでござるよ」
「ちょ、クリティカルすぎん?」
「さらに言えばそこの建物に、昨日下校時間を過ぎてから工事もしてないのに何人か出入りしているのを見かけたでござる」
「はー、そんなのまでわかるんかー……」
 瑠宇子は言われた建物を見る。
 囲いのある、建設中の建物だ。どう見ても関係者以外は入れないが、強攻手段を駆使すれば中に入れなくはなさそうだ。
 瑠宇子はこの後何度もゴーストトークを試みようとしたが、人目があるため、そう何度も行うことは出来なかった。
 敵に見つかれば√能力者であることが一目瞭然だったので、慎重に行う必要がある。
 そうして慎重に時を選び、何度か行った所、やはり最初の一人が言っていた建物が問題であるということでもう間違いなかった。
 同じところにいるインビジブルが見ているものなら、全て同じになるのは当然のことではあったが。
 なお、見える光景が違う場所では特に情報は得られなかった。
「あとは頭数揃えて殴り込むだけだね……ま、今は工事中だから無理だけど。
 中で何してたんかもわからんけど、これは情報交換すりゃわかるっしょ」
 得るべき情報は、揃ったようだ。

第2章 集団戦 『戦闘員』


 |郷君《ゴーゴン》中学校での悪の組織の暗躍を暴かんとする√能力者達は、新たなる段階へと進もうとしていた。
 そのうちの何人かは、学園の人間に接触し、下校時間を過ぎた時間になって会いに行く約束をしていた。
 |輝霊《かがち》・|美絵里《びえり》、あるいは|英雄塚《えいゆうづか》・|鋭霊《えいれい》、または|目眩釜《まぐらがま》教諭。
 それぞれ待ち合わせの場所は違ったものの、同じ時間に、例の建設中の新教室棟の前に集まった。
 その様子を、それぞれの捜査と情報共有により、この場所の調査が必要であるという結論に至った、他の√能力者達が、突入の準備をして見ていた。

  目眩釜が鍵を開け、建設中の建物に一同を招き入れる。建設中でありながら、中身はほぼ完成していた。その教室のドアの一つをくぐると、√能力者達は、その先が別の√であることを悟った。
 一つの部屋、部屋の中にまた部屋がある。その部屋の周囲はガラス張りになっていて、中の様子がわかる。寝台と、何か複雑な機械に繋がった大きめのヘルメットのような機械。
 √能力者達は、状況的にそれが『洗脳装置』であることがわかる。
「喜ぶがいい。君達はこれから高次元の叡知に触れる」
「ここで理想の自分に生まれ変われるのよ」
 英雄塚・鋭麗が、輝霊・美絵里が言った。

 勿論、黙って洗脳などされるわけにはいかない。
 √能力者達はここで抵抗する。

 すると、その部屋にあるもう1つのドアが開き、大人数が雪崩れ込んできた。
「デプラヴィティー!」
「デプラヴィティー!」
 それは、奇声をあげながらアクロバットな動きで一行を取り囲む全身タイツの集団だった。
 ……どうみても、悪の組織の戦闘員だ。

 目標が暴れても大人数で取り押さえられるように、この部屋は広く作られているのだと、一行は理解する。
 ここなら自由に暴れまわることが可能だろう。

 外の√能力者達はその部屋のドア越しに、何かが起こっていることを察した。
 突入するなら今だ。

●状況説明
 各PCの立ち位置は、それぞれの第一章の終わりを参照してください。
 接触したNPCに着いていかず、後から突入することにするのもありです。
 どちらにしてもリプレイではほとんど扱いに差はありません。
 この章から参加される方は、√能力者の場合はどちらかを選ぶことができますが、Ankerの方はNPCに連れてこられたという形になります。
明日真・スミコ
カンナ・ゲルプロート

「‥‥‥何、食べてるのよ?」
「‥‥‥ん、あんパン。糖分がボクのIQをブーストすんのよ」
「何を、非科学的な」
 戦いの前に、速やかな栄養補給を。
 夕日を眺めつつ、明日真・スミコは志摩・モモコにそう答える。
 あんパンは携帯性にも優れ味も美味と、賞味期限の短さにさえ気を付ければ優秀な携行食だ。
 たとえIQのブーストに効果がなかろうと、そもそもIQが必要なのか疑問であろうと、その行為には意味がある。
 それを見ながらカンナ・ゲルプロートはパック血液(トマト味)を啜っていた。陽キャを|自認する《自らに課した》彼女は、ここは同行者に陽気に話しかけるべきかと一瞬思ったが、飲み物を啜りながら喋るのは困難だし、中身を知られてもまずいと思ったので、結局話しかけるのを止めておいた。
(陽キャは、またの機会に……)
 今回はそういうことにしておこうと自分に言い聞かせていると、複数の人影が現れた。見張っている建物に入ろうとしている。
 中に入っていったのを見届けた一行は、周囲に誰もいないのを確認して、中へと踏み込んだ。

 ……そして今、戦闘員達が中の仲間達を取り囲み、今まさに戦闘が起ころうとしていた。
 扉を開け放ち、中に踏み込む。
「何、この部屋? ちょっと、お話、聞かせてもらっていいですか?」
 スミコは警察手帳を一瞬見せたがすぐに仕舞い、警棒を構える。
 悪の組織は警察組織など恐れないことはわかっているからだ。
 だが、個人の力量までは、この限りではない。
「皆さんごきげんよう!」
 同時に踏み込んだカンナ。声は高飛車さを示し、問答無用に蹴散らす構えだ。
 戦闘員達はすぐさま二人を囲み込む。
 スミコとカンナは背中を向け合い、互いの視覚をカバーする。そして両側面にはカンナの使い魔|蝙蝠《ロキ》と|黒猫《エレン》を配置し、 180°の視界を確保する。
「デプラヴィティー!」
「デプラヴィティー!」
 戦闘員達は奇声をあげ、一斉に襲いかかった。
 スミコに向けては短剣による攻撃が来る。乱戦となるからか、銃は使わないようだ。
 合気術を納めているスミコは相手の攻撃を的確に見切り、警棒を両手で押さえ防御しつつ相手の出方を見る。
 敵は√能力により、命中率と反応速度を上げてきていた。ならば、取るべき戦法はカウンター重視だ。
 わざと隙を作って攻撃を誘い、それを払って顔面や間接に警棒を叩き込んでいく。
 冷静に、的確に、可及的速やかに制圧する。
 日本のお巡りさんの実力を、鮮やかに見せつけた。
(むふ‥‥‥警察っぽいでしょ。少しはボクを見直した?)
 今の光景をモモコにも見せたい所だったが、さすがに危険なのでこの場には同行していない。
 一方、カンナの方は周辺の敵に|影技《シャッテン》で突きや斬りをお見舞いしていた。
「あっは、面白いカッコー。それドンキで売ってる? お幾ら? 今度罰ゲームで使うから教えてよ」
 軽口を叩きながら突き刺し、斬り払う。
 √能力「|鏖殺する影《シュラハトシャッテン》」により|影技《シャッテン》の攻撃範囲は半径20m内全てに及び、しかも二連擊をお見舞いできるようになっていた。
 今カンナは完全に狂暴さが表に出ている。
 陽キャの出番はだいぶ後になりそうだ。
「積極的に前に出るのよ、お巡りさん!」
 狂暴ではあったが、仲間に指示を出す。
 繋がりは重んじる。陽キャなので。
「わかったよ、お嬢ちゃん!」
 それにしても年下に世話になることが多い(※カンナが実は百歳近いことなど知らない)と感じつつスミコは前に出る。
 カンナの広範囲への攻撃はスミコの周囲をに群がる敵に対する牽制となり、結果としてスミコが積極的に攻勢に出るきっかけを作った。
 敵の中には服の色が蛍光色に変わり、特攻モードに変わるものもいたが、カンナは空中に逃げつつ|影技《シャッテン》で牽制し近づかせない。そういった敵はスミコが見つけ次第優先して叩いていった。
 警察官と|影使い《実は吸血鬼》の異色コンビは、次々と敵を薙ぎ倒していく。

紅河・あいり

「ここで理想の自分に生まれ変われるのよ」

「理想の自分に生まれ変われる……。その機械、すごいですね。
 それで、なれたのですか?  理想の自分に」

 輝霊・美絵里の言葉に対して、紅河・あいりは、よく響く声で問うた。
「もちろんよ、紅山さん。私は以前は引っ込み思案で、自分に自信が持てなかった。けれどここで生まれ変わったの。もう以前の私じゃない」
「それって只の思い込みなのでは?」
「え?」
「その機械のお陰じゃなくて、素質は元々あったんです。プラシーボ効果です」
「でも私は本当に地味で、目立たなくて、何の取り柄もない女の子だったのよ」
「自分の力で変わる努力を放棄して、諦めていたからです。それを、機械の力で生まれ変わった?
 それも違うと思います。自分を否定して、理想の自分を決めつけて、他の多くを見失っただけ。
 あの機械が何なのか、私にはわかっています。
 要するにあれは洗脳装置、そして全ては悪の組織の陰謀。
 もう分かるわよね。ええ、新入部員の紅山さんは仮の姿なの」
 あいりはそこまで言って、眼鏡を外す。
 そこにいるのはもはや正体を隠していた少女ではない。
 紅河・あいりという、自らの意思と行動で造り出された芸術作品だった。
 無言で突きつける──変わるとはこういう事だと。

「お喋りはそこまでだ」
 目眩釜が割り込んでくる。それと同時に、戦闘員達が部屋に雪崩れ込んできた。
 あいりは美絵里を見る。彼女は黙ってうつむいていた。その様子から、変化は伺えない。

「デプラヴィティー!」
「デプラヴィティー!」
 ここからは問答無用だ。戦闘員達はあいりにも襲いかかる。
 あいりはシルバーバトンを掌で回転させ、襲いかかってくる戦闘員達に応戦する。
 軽やかなステップが敵を翻弄し、すれ違い様に敵を切り裂く。次々と襲いかかる戦闘員は、どんどん増えてくるようだった。
 こんな時だというのにあいりは、
(まるでイベントに集まってくれたファンのようだわ……)
 などと連想していた。
 熱意こそあるものの、ベクトルは真逆だ。
 あいりは少し距離を開けると、左手の人差し指を天井に向ける。
 そこに宿った力を、クールなポーズとともに敵の集団に突きつける。
 力は広がり、大勢の戦闘員を巻き込んだ。
「デプラヴィティー!」
「デプラヴィティー!?」
「デプラヴィティー!!」
 そこから戦闘員同士が乱戦を始めた。
 ……ハプニング発生である。
 √能力、ユニティ・マインドによって敵味方の識別を狂わされたのだ。
 さらに味方に対しては別の効力が及ぶ。
 アイドルたる彼女の存在が士気を高揚させ、戦闘力を上げるというものだ。
 戦場を支配するディーヴァのステージは続いていく。

ジナ・ムゥ・マナミア

「喜ぶがいい。君達はこれから高次元の叡知に触れる」

(…うわ! 見るからに無理矢理洗脳とかしちゃうタイプの絡繰ですわ!)

 10歳のタヌキでも解る。
 ジナ・ムゥ・マナミアは英雄塚・鋭麗の興奮した言葉を半ば聞いていなかった。
「ちょっと貴方! お待ちなさい!
 高次元の叡智とやらもだいぶゴリ押しですのね!?」
  もう真面目に聞いている必要はないだろう。ジナは啖呵を切る。
「当然だ、高い次元から我々の次元に来るものは一方通行! 我々はそれをただ享受すればよいのだ!」
「いやいや、それはさすがに疑問の余地がございますわよ!」
 などと反対の意を示している間に戦闘員達が雪崩れ込んでくる。
「デプラヴィティー!」
「デプラヴィティー!」
「ああっ! トドメとばかりに何かおハーブティーみたいな鳴き声の戦闘員も出てきましたわ!」
「デプラヴィティー!」
「No! depravity! 」
「デプラヴィティー!」
「Nooooo! depravityyyyyy!!!」
 一人やたらと発音がネイティブな奴がいて、他の奴らの発音にキレていた。
「発音とかどうでもいいですわよ!? もうこちらも大人しくする必要はないですわね!」
 ジナは一歩、力強く踏み出す。そして!
「オルタードロンパクト…テイク・ザ・シェイプ!」
 ジナがコンパクトに手を触れると、心地よい効果音と共に華やかなエフェクトが発生。
 1ヶ所ずつ服が、魔法少女のコスチュームに変わっていく!
「…悪しき|運命《さだめ》もドロンと変える!」
 ラディカルソートヴァーを掲げてポーズを決め、完成!
「魔法少女めたもる☆ジーナ!」
 シャキィィィィィィィィン!!!
 ジナ・ムゥ・マナミアはお調子者で能天気、脳筋気味な化け狸の(恐らく)お嬢様。だが、いざ戦いとなれば「魔法少女めたもる☆ジーナ」へと華麗に変身し、果敢に敵に立ち向かうのだ!
 臨戦態勢の魔法少女を目の当たりにした戦闘員達は、その役割を果たさんがため、群がっていく。
「さあ! 覚悟なさい悪党ども!」
「デプラヴィティー!」
「デプラヴィティー!」
 |ラディカルソートヴァー《卒塔婆》を構え威嚇するめたもる☆ジーナに、戦闘員達は数を頼みにして襲いかかる。
 となれば、やるべきことは明白。
「まとめて薙ぎ払う! |過積載霊ブン回し《ゴーストオーバーロード》!」
 ラディカルソートヴァーと|オルタードロンパクト《祭壇》に奉納したインビジブルを解き放つ。
 インビジブルの大群は、津波のように襲いかかっていった。
 それらは人海戦術で畳み掛けようとする戦闘員達を押し流し、吹き飛ばしていく。
 広範囲の攻撃は数で押そうとする戦闘員達に対し効果を発揮した。
 かくして、かれらはかれらの役割を果たしたのだった……ヒーローに薙ぎ倒される、という役割を!

不破・鏡子
金菱・秀麿

 目眩釜が輝霊・美絵里、英雄塚・鋭麗らと、潜入した√能力者らを連れて、√マスクド・ヒーローの洗脳装置のある部屋に通じる扉を開けようとしていた、その直前。
「ごめんなさい、私ちょっとお手洗いに……」
 不破・鏡子が、その足を止めた。
「ん? ……大事なことなんだ。後にしなさい」
「いっ、いえ、それは無理です。
 この教室ですよね、済ませたらすぐに入りますから……」
「待ちなさい、君」
「ごめんなさい!」
 目眩釜の静止を振り切り、鏡子は凄まじい速さでその場から走り去った。
 一方、金菱・秀麿は、仲間と共に死角に身を隠し、様子を伺っていたが。
 突然鏡子が走って向かって来たので、拳銃を向けた。
「私は味方よ!」
「おっとこりゃすまん。中にいなくて良いのか?」
「着替えないといけないのよ」
「着替えだって!? わかった!」
 秀麿は後ろに行けとジェスチャーする。
 背後で鏡子が着替えているのが気配でわかった。
「……もういいわ」
 秀麿の前に、黒い獣耳のような突起の付いたフルフェイスヘルメットで顔を完全に隠し、彼女が言うところの「肌の出過ぎた」ヒーローコスチュームを身に纏った鏡子が現れる。
「さあ、突入しましょう」
 何かしらの感情を持たれる前に鏡子は行動を起こそうとする。
「いや……もう少し様子を見てからだ」
 秀麿はあくまでも冷静に、鏡子を諭した。

 例の教室のドアの前まで来る。
 やがて中が騒がしくなったので、一行は頷き合って突入した。
「待ちなさい! 思い通りにはさせないわよ!」
「警察だ、大人しく手を上げろ!」
 ドアを勢い良く開け、勇ましく構えを取る鏡子と、拳銃を構える秀麿。
「デプラヴィティー!」
「デプラヴィティー!」
 中にいた戦闘員達は、素早く突入してきた者達を取り囲んだ。
「……コイツら奇声を上げてばかりで聞いちゃいねぇ」
 秀麿は警告が用を成さないことを悟った。
「当然よ! 悪の組織だもの!」
 マスクド・ヒーローの鏡子はこういったシチュエーションへの適性がある。
 若さに任せて突っ走った。
 手近な一人にグラップルで掴みかかると、怪力で体勢を崩し、投げ飛ばす。戦闘員の体は軽々と浮いて空中で一回転し、床に叩き付けられた。
 それは僅かな間だったが、数を頼みにすることを得意とする戦闘員達はその間にも鏡子を囲む人数を増やす。
「だるまさんがころんだ!」
 その時場にそぐわない言葉が秀麿の口から発せられたかと思うと、鏡子の周囲の戦闘員達は動きを止めた。
 叫ぶことにより視界内の全対象を麻痺させる√能力、チョコラテ・イングレスだ。秀麿は仲間が視界に入らない位置取りを確認して実行している。
「にしても全身タイツたぁ、昭和の特撮コスプレにしても気合が入り過ぎてるなぁ……」
 秀麿はその様子を見て感想を口にした。√汎神解剖機関とはその辺り、趣が違う。テンションが高い。
 体力の消耗を避けるため、鏡子が囲みから離脱したら解除し、カミガリ式M60で牽制射撃を行う。
 そこから鏡子が再び敵陣に突入し、跳躍しての蹴りを一閃。
 その威力は戦闘員を軽々と吹っ飛ばす。その間も鏡子に敵は群がってくるが、それに対して秀麿が少し離れた位置から鏡子の近くの敵を射撃する。
「油断するなよ格好はアレだが、連携はえらく整ってる。このままじゃマズい」
「了解、深入りは避けるわ!」
 大人の冷静さと若者の情熱が互いを補い合う。
 何もかも違う二人の連携は、戦闘員のそれにも劣らず、次々と敵を薙ぎ倒していく。

祇屋・瑠宇子
針氷・萌子

 突入に備える√能力者達は、教室の中が騒がしくなってきたのを悟った。
 今こそ突入する時だと判断する。
「とりま、派手に行こうか」
 祇屋・瑠宇子は、腕に付けていたミサンガを引きちぎる。
 すると突如、その場所に瑠宇子と似たようなギャルが一人現れた。
「んんっ? るーこまた呼んだな」
「ほーこ、よろー」
「しゃーない、手伝ってやるか」
 瑠宇子に応えたギャルはロケットランチャーを両手に構える。
 呑み込みが超絶早い。
 彼女は針氷・萌子、瑠宇子の心の友でAnkerだ。√能力・ズッ友フォーエバーにより呼び出された彼女は、一時的に√能力者となっている。
 ギャル二匹はスキンシップをベタベタしながら状況を説明したりされたりする。
「はいはい、来てくれてあざー。なんか先にそれっぽい奴ら入っちゃってマジメンディーなんだわ」
「りょ。ほーこちゃんくらいフッ軽なダチはそうそう居ないから感謝するんだぞ」
 周りの味方には何言ってんだかわからない言語で状況を説明する瑠宇子と理解する萌子。
「そんじゃーちょっとあの扉そのミサイルでぶち破って」
「わり、もう開いちまってたわ。遅れてらんねー」
 二人は既に突入した仲間達に、説明をしていた分一瞬だけ遅れて部屋の中に突入した。
 萌子は突入するや否やその方向に味方がいないのを確認すると、ミサイルランチャー「右美」と「左男」を(名前通りの手に持ってるかわからないが)派手にぶっぱなした。
 ミサイルがそこかしこで爆発し、戦闘員達は派手に吹っ飛ぶ。
 ここは√マスクド・ヒーローのどこかなので、|郷権《ゴーゴン》中学校への被害は出ない。安心だ。
「よっし、ほーこちゃんに出来んのはここまでだ」
 一時的に√能力者になってるだけであり、ミサイルランチャーをぶっぱなす以外戦いの手段はない萌子は部屋から出る。
「あざー。後はあーしに任せて」
 変わって前に出る瑠宇子。
 インビジブル制御の技で死霊を呼び出し戦わせるのだ。
「ハァァァァァァァァァ…………」
 実体化した死霊は拳法漫画のアニメみたいな声とオーラを出して敵に向かう。
 その姿はウサギの着ぐるみだ。
「アタァァ────ッ!!!」
 怪鳥音を出して敵に突き・蹴りを繰り出していく。
 使っているのは中国拳法でも一子相伝の暗殺拳でもなく、空手だ。
 戦闘員達はそれぞれに様々な分野で超一流の人々だったはずだが、その妙なウサギの着ぐるみ・ピョンたんに打ちのめされる。
 いきなり打ったミサイルランチャーの威力に怯んだからか。それともギャル二匹が醸し出した何かしらのアトモスフィアのせいなのか。
 ともかく敵は蹴散らした。
 これが友情パワーだ!

第3章 ボス戦 『外星体『ズウォーム』』


「所詮、借り物の戦力ではこんなものか……」
 そう言ったのは|目眩釜《まぐらがま》だった。
 その時点ではほぼ全ての戦闘員が戦闘不能となっていた。
 ただならぬ気配を放つ目眩釜は、√能力者達を前にして、その姿を少しずつ変えていく。整った容貌の男性の姿から、頭は肥大化し、昆虫に似た形になり、体色は光沢のある青へと変わり、目は大きく金色に光る。着ていたスーツは白く発光する透明なものへと変化し、その全身は異星から到来した異形の姿となっていた。
「地球の者たちよ、私の邪魔をするというならここで排除させてもらう」
 その者は、外星体ズウォームは冷徹に言い放ち、一行を迎え撃った。

 |輝霊《かがち》・|美絵里《びえり》と|英雄塚《えいゆうづか》・|鋭麗《えいれい》は、部屋の隅で震えていた。この二人には少なくとも戦う力はなさそうだった。
明日真・スミコ
金菱・秀麿
ジナ・ムゥ・マナミア

「こ、これは、お巡りさんのお仕事、逸脱してないか?」
 明日真・スミコは目を丸くして頭を掻く。だが逸脱というなら、敵に限った話ではない。 
 今はその逸脱っぷりを最大限発揮する時だ──√能力者としての。
 後で書くであろう報告書のことを気にしながら、ケースから拳銃を抜き右手に装備、左手には警棒を、そして口には警笛を加える。

「ようやく、首謀者殿とご対面かぁ。
 色々と尋問したい事があるんだが……大人しく捕まっちゃくれねえよな」
 金菱・秀麿はカミガリ式M60を構え、臨戦態勢に入る。刑事として、悪を裁くというのは当然の事だ。地球外生命体が|警視庁異能捜査官《カミガリ》の管轄外かどうかなど問題ではない。

「ただの先生じゃないと思ってたけど、ズウォームだったのね!」
 正義を執行する警察官ふたりに、正義の魔法少女が並ぶ。
 ジナ・ムゥ・マナミアは、今こそ華麗に敵に立ち向かう時だと知る。
 必要ならば、少女だって勇敢さと武威を示す。
 それはどの時代でも、どの√でも変わらない。
「つまり残るは貴方だけ、観念なさい!」

「侮るなよ正義の味方ども。私にはもとより、単独でこの任務をやり遂げる展望と覚悟がある」
 ズウォームがそう言って右手を掲げると、周囲に合計九基の光線砲が出現する。
 一人に対して三基がその砲身を向けていた。
「何人でかかってきても同じことだ!」

「おっと、させるかよ!」
「狙わせはしないわよ!」
 秀麿とジナが動いたのは同時だった。秀麿の|霊震《サイコクエイク》がズウォームの足場に震動を起こさせ、ジナが発した煙幕が視界を遮る。さらに木葉分身で|的《ダミー》を増やす。
「その程度の事で、外すと思うのか?」
 ズウォームはまるで動じず、光線砲を発射した。
 薄暗い室内に白い光が迸る。スミコ、秀麿、ジナにそれぞれ三条の光線が襲う。
 それは冷や汗ものの光景ではあった……だが身をかわした三人は、光線を避けることに成功した。余裕ぶっていてもズウォームは妨害によって狙いをつけることが相当困難になっていたようだ。
「さぁ、今の内に外に逃げるんだ」
 秀麿は座り込んでいる二人の生徒に呼び掛ける。駆け寄って助け起こしている余裕はない。ズウォームにカミガリ式M60を向け引き金を引く。弾丸を受けた箇所を大きく仰け反らせながらもすぐ立ち直って秀麿に向かっていた。
「抵抗は止めろ! 残念だがお前さんは既に包囲されてるぜ。
 本庁まで大人しくご同行願おうか!」
「笑止な……いくら集まろうと無駄なことだ!」
 秀麿の勧告に対してズウォームが言い放った直後に、空気をつんざくような甲高い音が鳴り響く。それに一瞬遅れて、鳩の群れがどこからともなく現れ、頭にまとわりついた。
「む、なぜこんなにも小型生物の群れが」
「余裕ぶんなよ、宇宙犯罪者」
 その隙にスミコが手の届く距離まで近寄る。鳩は、吹くとなぜか周囲の動物を集める不思議道具の警笛でスミコが呼んだものだ。
 そして日本のお巡りさん最強の武器が炸裂する。
 閃光と炸裂音が止まないうちに、スミコは警棒と体術の攻撃を合間に挟み、装填されているだけの弾丸をすべてズウォームに撃ち込む。
 スミコの踊るような|拳銃連撃《ガン・カタ》が、綺麗に決まった。
「ぐふう……! ……ふっ、悪あがきはよせ」
 余裕ぶるのは止めないが、確実に効いている。
 ズウォームは反撃に転じようとしたが、その身体は上手く動かない。
 その眼前にはジナが魔法少女の衣装を煌めかせていた。
 彼女が|邪霊金縛り《スペクターバインド》によりズウォームの身の自由を封じていた。
「その野望ごと叩き潰してやるわ!」
 轟音をあげて、|ラディカルソートヴァー《卒塔婆》が繰り出される。
 ジナの|真剣狩霊連撃《マジカルコンボ》が炸裂した。
 振り下ろし、突き上げ、横薙ぎ……|マジカルな《マジカルではない》魔法少女の打撃がズウォームを滅多打ちにする。
 勢いを乗せた突きがズウォームの鳩尾を捕らえると、その勢いのまま洗脳装置のある部屋に吹き飛び、ガラスを粉々にして中に突っ込んだ。
 ジナは倒れこんだズウォームに向かってラディカルソートヴァーを突き付け、ぴしゃりと言った。
「何の目的か知らないけれど、悩める中学生にあんなことをして悪の道に引き込もうとした罪は重いわよ!
 きっちり反省なさーい!!」

祇屋・瑠宇子

 外星体ズウォームは立ち上がり、なおも自らの悪事を阻止しに現れた√能力者達に向かう。
 その前に、祇屋・瑠宇子は立ちはだかり、その悪を糾弾すべく口を開いた……。
「えーなんなん? 人んち土足で上がり込んで好き勝手してんの邪魔すんなってマジシャバじゃん。ありえんてぃ、そーいうのNだわー。当然みたいな感じでデカい顔してんのなぁぜなぁぜ?」
「……?……なぜだ……この地域の言語には完璧に対応しているはず……?」
 何言ってんだかわからなかったので困惑するズウォーム。
 瑠宇子が言ったのは「人の家土足で踏み込んで好き勝手してんの邪魔すんなとかダサい。ありえない、NGだわ。当然みたいにデカい顔してんのなんで?」程度の意味だったが、瑠宇子の言い回しはズウォームが装着している地球語翻訳機の日本語データの中に含まれていなかった。
「……お前も外星体なのか?」
 挙げ句、地球外の存在と誤認された。
「外星体違うし。とりま、アーシはしごでき能力者なのできっちりボコっすわ」
 瑠宇子は口調は軽くとも真剣な顔になり、精神を集中させる。
 すると屋内であるはずなのに旋風が巻き起こり、瑠宇子の眼前の空間に凝り固まった闇が渦巻く。その周りを電光が渦巻いていた。やがて、闇の中から何かが現れる。
 ウサギの着ぐるみだった。
 成人男性サイズのそれはズウォームの前で仁王立ちする。

   我 が 名 は ピ ョ ン た ん

 言葉ではなく、存在感が語った。
 在るというだけで存在を物語っていた。
 無表情なウサギの顔がズウォームに向いている。

(何だ……この…………何?)
 形容しがたい。だが圧が凄い。
 ズウォームは脅威と見て光線砲を召喚すると、ピョンたんに向けて発射した。
 一条の光線が放たれる。ピョンたんはそれに対し、腰を落として腕で払った。
 ピョンたんはカラテの使い手であり、ナンカスゴイワザマエの称号を手にしている。カラテには、タイ=サバキと呼ばれる究極の防御法が存在しており、その技術の前には、光すらねじ曲がる。
 光線砲の光ですらそれは例外ではなく、ピョンたんの腕によって逸らされ、壁を焦がすのみで終わった。
 ズウォームは背筋を冷たいものが走るのを感じた。
 
   お ぢ パ ワ ー 全 開

 ピョンたんの足が地を蹴ると目にも止まらぬ速度でズウォームに肉薄した。瞬く間に、正拳がズウォームの鳩尾を捕らえる。
 体をくの字型に曲げたズウォームに上段蹴りが炸裂し、地に伏せしめた。
 そしてその腹部を、地面が揺れるほどの勢いで踏みしだく。
「ぐふっ…………!」
 ズウォームはしばし、言葉すら失ってその姿勢のまま全身を震わせ固まった。
「ワザマエ!」
 瑠宇子が労いの言葉をかけると、ピョンたんは残心の姿勢をとり、実体化を解除して死霊へと戻る。
「どーよ、ピョンたんのカラテは」
 そして瑠宇子は勝ち気に言うのだった。
 その言葉に答えるものはない……しばし場を静寂が支配するのみ。

不破・鏡子
紅河・あいり

 外星体ズウォームは尚も立ち上がる。悪を成さんとする意思を挫くには未だ至っていない。そこに、正面からまた、正義を行わんとする者が挑みかかる。
 不破・鏡子はフルフェイスヘルメットの内側から睨みつけ、言った。
「わざわざ異星から来てもらった所恐縮なんだけど、早々にお引き取り願いたい所ね。
 悪の組織と結託して子供を洗脳しようなんて存在、この地球じゃ迷惑も良いトコなんだから!」
「ふっ。お嬢さん……この計画もこの|地球《ほし》がより良くなるためなのだよ、私の邪魔はしない方が懸命だ!」
 ズウォームはなおも理性的な口調で、臆することなく応える。
「邪魔も何も、ちょっかい出してきたのはそっちじゃない」
 その言葉に紅河・あいりは異を唱えた。
「自分にはできない。それって無意識に陥りがちな自己暗示よね。
 理想の自分というのは、そんな後ろ向きな自己暗示を破るひとつの方法だと思う。
 でもね、それを利用して学校を悪の組織に仕立てあげるってのは認められないわ」
 生徒の洗脳し手足として操った事を、あいりは糾弾する。
「不安定な年頃だからこそ、操るのも容易なのだよ。遅かれ早かれ全ての√はプラグマに支配される……今はこの学校の番だというだけだ!」
 ズウォームはその先駆けにとばかりに二人を消し飛ばそうと、二基の光線砲を召喚する。
「遅い!」
 しかし、同時に鏡子が駆け出していた。
 俊足のダッシュが一気に距離を縮め、跳躍して光線砲そのものを踵で蹴り下ろし、地に伏せさせる。
 そしてもう一基は、輝きを帯びて回転しながら飛ぶ何かがぶつかって、上向きに倒れた。
 それはあいりの手の中に戻る。
 その時には、あいりは輝かんばかりのオーラを放つ、無限大の可能性に満ちたアイドルとして、気高く咲き誇っていた。
「声が届く距離で、発射されるまで待つと思っているの?」
 美しい声が戦いの始まりを告げる。切れのある動きで手にした武器、インフィニティバトンを振るうと、衝撃波が発生しズウォームの肉体を斬り裂いた。
「何だと……!」
 その一撃は、ズウォームの虚を突いた。
「今度はこっちよ!」
 その間に、鏡子が手の届く距離まで近づいている。
 拳の一撃から腕を掴み、一本背負いで投げ飛ばす。そして床に叩きつけられた敵をまた拳で打ち、破壊刃を抜きざまに切断、直後にまた拳打を入れる。
 |百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》がズウォームの体力を削っていく。
 だがズウォームは何度目かの攻撃を転がって回避し、距離を取る。
 そこには先の戦いで倒された戦闘員が倒れており、そこまで来るとズウォームは戦闘員が腰に着けていた光線銃を拾った。
「ネガ・マインド・ウェポン!」
 戦闘員の、自分を倒した者達との因縁が、その武器をネガ・マインド・ウェポンへと変えていく。
 自分を追いかけて力強い走りを見せる鏡子に対し、その恐るべき武器を向けた。
 対して鏡子は攻撃体制に入っていたが、リーチは短く、このままではズウォームの攻撃の方が先に当たる。
「さらばだ、ヒーローよ」
 そして、その引き金に力が込められた。
「……何っ?!」
 だが、それは飛来する何かによって弾かれる。
 闇を切り裂いて煌めきながら飛ぶ、あいりのインフィニティバトンだ。
 ズウォームはなおも距離を取ろうとするが、弧を描いて戻ってきたインフィニティバトンが、その背中に突き立った。
「ぐあああ……!」
「これで終わりよ!」
 鏡子は跳躍し、空中で体を一回転させて踵での蹴撃を見舞う。
 重甲型爆芯靴に仕込まれた爆薬が爆発し、凄まじい威力を生んだ。
 その一撃がズウォームの体を吹き飛ばし、部屋の壁に叩きつける。
「く……おのれ……いずれまた……」
 喉から絞り出した声を最後に、ズウォームは動かなくなった。



 √EDENを守らんとする能力者達により、|郷権《ゴーゴン》中学校への悪の組織による侵略行為の主犯であった外星体ズウォームは倒された。
 その後の調査により、建設中を装っていた新教室棟では、長い間休んでいたという生徒や、行方不明になっていた自称超常現象研究家のほか、数人が監禁されていたのが発見された。幸いにも命に別状はなく、かれらは洗脳が中途半端であったり、やがて怪人に改造するための素体とみられていたりといった理由で監禁されていたのだった。
 生徒の何人かは洗脳され、外星体ズウォームの手足となって動いていた。教職員なども全員が軽い催眠術を受け、悪事の邪魔にならないよう操られていた。
 洗脳・催眠はすぐさま解けはしなかったが、命令を下していた外星体ズウォームが居なくなったため、やがて忘れるための力が働き、事件があったことも合わせて忘れられていくだろう。
 |勝戦《かちいくさ》・|凱《がい》は元の不良に戻った。|輝霊《かがち》・|美絵里《びえり》は明るく社交的で華やかだった自分が性に合わないと、元の地味な少女に戻った。|英雄塚《えいゆうづか》・|鋭麗《えいれい》はその名を名乗るのをやめ、もとの名である|市井《いちい》・|小市《しょういち》へと戻り、目立たない学生生活を送った。
 こうして学園は、事件の起こる前の姿へと戻っていった。
 ……だが、ある時、|郷権《ゴーゴン》中学校に通う少年の一人がこんな事を思った。

(悪の組織は実在する。
 そう思えるだけのことを、いつか経験したような気がするが、よく思い出せない。
 ……だが、それが俺の思い過ごしであったとしても、この考えを無駄にしたくはない。
 だから小説のネタにしよう。
 学校が悪の組織に狙われるが、人知れず学校に通っているヒーローが、それを秘密裏に阻止する話。
 タイトルは……)

「学園が狙われたけど俺がスーパー強いので無事でした」

(……これで決まりだな!)

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挿絵イラスト