シナリオ

桜花救出戦

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 河津桜は満開を迎えていた。人々はまだまだ寒い中にも、春の空気を感じてどこか浮き足立っている。

 その日、とある街の公民館のホールでは河津桜祭りが行われていた。地域の人々が集まり、祭りを楽しんでいる。

 穏やかで平和な休日、老若男女問わず祭りを楽しむ様子を、観察するかのように見下ろす影がひとつ。

「おゆきなさい」

 彼女の言葉と共に背後から目玉を思わせるドローンがいくつも浮かび、それは勢いよく降下していく。

 柔らかな春の日の光景は、一瞬にして戦場へと変わるのであった。

●●●

「嫌になるでありますな」

 忌々しいという感情を隠しもせず、|江田島・大和《えだじま・やまと》(探偵という名の何でも屋・h01303)は、集まった√能力者達を見渡す。

「予知が遅れたであります。既に事件は発生している。場所はここ、とある街の河津桜祭りの会場であります」

 どこからか持ってきたのか、ホワイトボードに地図を張り出してそこにある公民館に大きく丸をつける。

「戦闘機械群の侵攻により、既に死傷者も出てる。その上奴ら、何が目的やら、公民館内に避難してきた人々を包囲して『無駄に時間を掛けている』んでありますよ。まぁ、こっちとしてはそのおかげで、少しでも救う人間が増える時間が出来たと言うべきでもあるんでありますが」

 フゥとため息をこぼしてから大和は目を細め、

「貴殿らへの依頼は戦闘機械群を蹴散らし、籠城している人々を助け出すこと。どっかに指揮官は隠れているようだけど、こいつに関しては今回は放っておいてもよし、あくまでも人命救助最優先であります。ここは既に戦場となっている、公民館に逃げ込めなかった人々の中に生存者や隠れている者もいるかもしれない。余力があるなら、彼らの救助も頼むであります」

 貴殿らの健闘を祈ると大和は慣れた仕草で敬礼をするのだった。

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第1章 集団戦 『レギオン』


ウルト・レア

 穏やかながら賑やかな桜祭りの会場はすっかり荒れ果て、瓦礫の山、そして倒れる人々、コンクリートを汚す赤黒い血、開かれていた公民館の入口は固く閉ざされ、その周囲を黒い目玉を思わせるドローンが何十機と飛び交っていた。

 戦争というものに程遠い日本において、そこは正に戦場と呼べる様となっており、その上空に輸送機が現れる。

「予知に拠れば公民館周辺を包囲しているようだ」

 輸送機内、ずらりと並んだ12体の量産型WZの前でウルト・レア(第8混成旅団WZ遊撃小隊長・h06451)が告げる。薄暗い機内、鉄の臭いが鼻についた。

「小隊を4分割し、公民館周辺にそれぞれ降下し防衛を行う。
 事前の予知によれば敵の種類はレギオンのようだ。
 包囲されないように、周辺の地形を利用することを忘れるな。
 エネルギーバリアの展開、電子戦は有効だろう。
 弾薬は気にせず使い切れ。」

 飛ばされる指示にWZ達は身動きひとつなく沈黙で返す。それを見ながら、ウルトは目を細め

「また、民間人もいるようだが…
 ここは√EDENだ。あまり気にする必要はない。
 余裕があれば救助しろ。」

 それは余力がなければ切り捨てるということ。一見して非情にも聞こえることではあるが、現状、最優先は公民館の防衛である故の指示だ。指揮官である以上、冷静に状況を判断し、被害を抑えながらその場で行える最大限の事を指示するのが、ここでのウルトの仕事である。

「私は輸送機に残り、上空より敵の指揮官機の位置を探知する。」

 ちらりと計器を見やる。

「目標地点だ。降下を開始しろ。」

 ゆっくりと輸送機の後方が大きく口を開いた瞬間、|決戦型WZ遊撃小隊《レイダー・スクワッド》は戦場へと降り立っていくのだった。

●●●

 公民館周辺ではレギオン達が浮遊し、取り囲んでいた。

 だが、奇妙なことにそこから踏みいろうとしない。中にいるのは、レギオンたちにとっては無力な民間人である。本気を出せば即制圧も可能だと言うのに。

 まるで、中にいる人間の様子を観察するかのように、レギオンは周辺を飛び回る。
 
 だが、それが不意に崩れた。凄まじい銃声と共に、レギオンの一角が破壊され崩れる。赤い目が、新たに現れた乱入者達に向けられ、即時反撃を行う。それが同時に四箇所、ウルトの指示により公民館周辺の防衛に来たWZ達の急襲であった。

●●●

 輸送機内、WS達がレギオンの包囲を崩しはじめた瞬間、ウルトはそれを見ながらもレギオン達にハッキングを仕掛けていた。

 彼がここに残ったのは戦場の把握並びに指示を出すためでもあるが、同時に隊長機の索敵のためでもあった。

 √EDENのエネルギーを送らせたくは無い、忘れる力の強い√EDENは、例え死傷者が出たとしても大きな自然災害か事故としてしか残らない。故に、その被害は無視をして。

「……」

 ハッキングをしかけているレギオン達はあえて泳がせている。WZ達が公民館周辺の防衛につき始めるの見ながら、ウルトは隊長機索敵を進めるのだった。

クラウス・イーザリー

 まだ、全滅していないのは不幸中の幸いと言うべきかな……と、戦場と化した元お祭り会場を見やりながらクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は呟く。

 向こうが何故これだけ"無駄"に時間をかけているかは分からないが、今はそれを考えている場合では無いと、公民館の方ではなく逃げ遅れや隠れている生存者の方を探すことにする。

 ちらりと見やった公民館は、別の√能力者の手により救援が入ったことも確認済、ならば自分は手が伸びない部分に手を伸ばす。

 すっと片手を僅かにあげると、レギオンスウォームを発動し、現れたレギオン達が飛び始める。敵もレギオンを使うが、今回は攻撃より探索だ。一人でも多くの生存者を救うために。

「……いた」

 逐一入ってくるレギオンのセンサーによる情報により、生存者を見つけてそちらへ向かって走り出す。途中、当然ながら敵側のレギオンの邪魔が入るがそれも想定内。

 装備者に随伴する半自律浮遊砲台であるファミリアセントリーと、構えたレイン砲台で必要最低限の動きで撃ち抜いて突破する。時間をかける訳には行かない、今は殲滅はしなくていい、それよりも生存者だ。

 レギオンのセンサーが感知した場所へたどり着くと、幼い子供が泣き叫び、そんな子供を母親らしき女が抱きしめて震えていた。子供を庇ったのだろう、母親の腕からは血が溢れその周囲を敵側レギオンが囲み今にも撃ち抜こうとしている。

「させるか!」

 強く地面を蹴って、親子を包囲するレギオンのうちの一体をレイン砲台で、それに倣うようにファミリアセントリーが更にもう一体を撃ち抜き、それによって出来た空白を切り抜け、親子の前に躍り出ると自身のレギオンも使用してあっという間に敵側レギオンを排除する。

「あ、あの……」
「大丈夫ですか?」

 そっと膝をつけこちらを呆然と見やる母親の顔を見る。怪我をしているが幸い致命傷では無さそうだ。これなら、手当をすれば歩くことも出来るだろう。

「すぐにここから逃げましょう。安全な場所まで俺が護衛します」
「ほ、ほんとに……?助けに、来てくれたんですか……?」
「もちろんです」

 頷きながら手早く母親の傷を手当する。後で医療機関への受診は必要だが、移動程度は出来るはずだ。

「あ、ありがとうございます、ありがとうございます!」
「いいえ、さぁ、行きましょう」

 泣きながら礼を言う母親を促し、子供を抱き上げて進む彼女の周辺を自身のレギオンでガードしながら進む。まだ助けるべき生存者はいる、一人でも多くの人を助けなければ……

「お兄ちゃん、助けてくれて、ありがとう」

 親子を安全な場所まで送り届け、またも戦場へ向かうクラウスに、助けられた子供が涙目で笑う。

 それに、クラウスは僅かに小さく口元を緩め、そしてすぐさま戦地へと舞い戻るのだった。

木原・元宏

「防衛戦ですか……」

 戦場と化した、元は楽しいお祭り会場であったはずの場所を見渡しながら、|木原・元弘《きはら・もとひろ》(歩みを止めぬ者・h01188)は強く右の拳を握りしめた。

 守れる命があるのなら
 できる限り守りたい

 そう思いながら戦場へと足を踏み入れる。

 ちらりと周辺を見やりながら歩き進む。その『右目』は忙しなく生存者を探し出そうと動き出していた。敵の詳しい探知能力こそ不明だが、奴らの群がるところに生存者が隠れている可能性が高いと踏みながら。

 あえて目立つように通りのど真ん中を、いっそ無防備と思えるほどの堂々とした様子で歩みを進めながら、こいつも生存者かと近寄ってきたレギオンを大剣で一気に切り伏せた瞬間、『右目』の視界の端をレギオンが通り過ぎてゆくのを見付けて、もう一体、自身に向かってきたレギオンを斬り伏せながらタッ!と強く地面を蹴る。

 数十mほど進んで行っただろうか。当然ながらこちらでもレギオンが向かってくるが、それも通り過ぎざま切り伏せる。こいつらに構っている暇は無い。

『右目』がそれを捉えた。

 数十体のレギオンが、瓦礫の隅で怯えて縮こまる女子高生らしき人間の周囲を『ゆっくり』と取り囲んで、じわじわと嬲るようにミサイルを撃ち込もうとしている様子が。

「させるかっ!」

 木原の右手が【灰色に輝く】。その瞬間、血を蹴る彼の体はひどく軽くなり、一気にレギオンの元へ届かせると一体をすぐさま斬り伏せた。

「……?!」

 突然の乱入者に、レギオン達はすぐさま迎撃モードへと変わり、女子高生は呆然と目を見開く。レギオン達は、先程女子高生を囲んだ時とは思えぬほど俊敏に乱入者を倒そうと木原へミサイルによる攻撃をしかけるが、それが掠めるのも気にせずにレギオンたちを一気に斬り伏せていく。

 やはり、わざと『ゆっくり』嬲るように取り囲んでいたのかと、わずかな違和感を感じながらも、女子高生を取り囲んでいたレギオン達を倒し、そっと座り込んでいる彼女の前に片膝を着いた。

「大丈夫ですか?助けに来ました。まずは呼吸を整えて、そう、ゆっくり。必ず守ります」
「うっ、ぐすっ!」

 木原が救援者だとやっと認識し、飲み込めたのだろう。自身が助かったのだと女子高生が泣きじゃくり始めるのに、周辺を鋭く警戒しながらも、木原は優しく声を掛け続けるのだった。

神鳥・アイカ

「せっかくの桜祭りの会場をぐちゃぐちゃに…許せない!頭に来た!!」
「範囲が広い、でも先ずは公民館を取り囲んでいる『レギオン』をどうにかしないと!!」

 ギリっ!と強く唇を噛み締め、たんっ!と軽やかに地面を蹴ると|神鳥・アイカ《かみとり・あいか》(邪霊を殴り祓う系・h01875)は勢いよく走り出す。向かう先は、レギオン達が取り囲んでいる公民館、ほかの√能力者たちの活躍により確かに数は減らしているが、まだ殲滅とはいえない。

 レギオンも当然ながら神鳥に気づいて向かってくるが、神鳥はそれを視認するとさらにスピードを上げつつ、両手を構える。

『さぁ行くよ!!』

 高速で振り抜かれる手刀が、近くにいたレギオンどころか、離れた箇所にいたものまで問答無用で叩き落とし、ガシャっ!と玩具が壊れるような音がして沈黙する。

 それを確認する暇は無いとばかりに、駆け抜けながら出会ったレギオンはたたき落とすことを専念するが、やはり違和感が付きまとった。

「数は嫌になるぐらい要るけど、いったい何が目的?もしかして何かを探してる?」

 やはり数の割に一般人の被害が少なく感じたのだ。当然、被害は少ない方がいいにしろ、不気味さは感じられる。だがそれよりも、今は救援が先だ。

「はぁ!」

 公民館の周辺のレギオンをたたき落としながら、何体かが他の場所へ飛んでいくのを見てそちらへかけ出す。レギオンの探索能力は高い、故に、奴らを追いかければ生存者がいるはずだ。

 タッタッタッと瓦礫を軽やかに飛び越えながら進んでいけば、レギオンが取り囲むのは幼い少年、泣きながら怯えているのを見つけて、神鳥はスピードを上げて一気に少年の周囲のレギオンをたたき落とす。

「大丈夫?!」
「ひっく!うえええん!!」
「よし、もう大丈夫だよ。安全な所までボクが連れていくからね」

 自身が助かったのだと安堵の泣き声をあげる少年を優しく抱き上げて、神鳥はまたもかけ出すのだった。1人でも多くの人を救うために。

暁・千翼

「ここが、現場……」

 元桜祭り会場を見渡しながら|暁・千翼《あかつき・ちひろ》(幻狼の騎士・h00266)は歩き出す。

 周囲のレギオンはだいぶ数を減らし、戦闘音も少しずつ小さくなっているが、ゼロではない。とはいえ暁が向かうのは戦闘がメインで行われている公民館ではなく、その周辺、逃げ遅れた人々の救援だ。

 意識を集中させ、ゆっくりと歩き進んでいく。レギオンは公民館の方に集結しているのか、敵の数は少なかった。

「……っっ!」

 不意に、暁の耳が規則的に何か叩くような音を拾い上げた。タッと弾けるように駆け出していけば、そこには瓦礫の山、その影に血を流して倒れながらも、なんとか片手に持った瓦礫でコンクリートを叩いている女性がいた。さっき拾い上げた音は彼女のものだったのだ。

 崩れた瓦礫が突き刺さったのか、その腹部は真っ赤に染まり自身では動けない様子……、最後の力を振り絞って、瓦礫を叩き、助けを求めていたのだろう。

 傷は酷いが、生きている。これなら……

「……大丈夫。さぁ、眠れ。今のは全て夢だったんだ」

 彼女の傍らに膝をつき、そう優しく囁きながら√能力を発動させる。それは彼女の傷をゆっくりと癒していく。【忘れようとする力】が作用し、何も無かったかのように。

 そしてそっと女性を抱き上げると、暁は安全な場所をめざして歩き出すのだった。

第2章 集団戦 『バトラクス』


 √能力者達の活躍により、レギオンは大多数の数を減らし、残り少ないものもゆっくりと撤退していく。

 これならば公民館の人々を救助できるだろうと思った矢先、公民館周辺が砲弾によって攻撃され、大きな爆発を起こした。

 公民館の中の人々が悲鳴をあげて怯える。

 爆煙の向こう、姿を現したのは丸みを帯びたフォルムを持つ『バトラクス』。奴らは兵装を構えて進撃してくるのだった。
ウルト・レア

 他の√能力者達が救助に動いてるのにほっと内心安堵しつつ、それに一番に気づいたのは上空より監視を続けていたウルト・レア(第8混成旅団WZ遊撃隊長・h06451)であった。公民館を囲んでいたレギオンの撤退、それと入れ替わるように現れたバトラクスによる砲撃に一瞬目を見開くも、すぐさま戦場に注視する。

「公民館に集めたあとに砲撃型で攻撃するのが目的…?
回りくどいな…どういう事だ…?」

 そう、あまりにも回りくどい。殺すのが目的であるのなら、一般人相手ならばレギオンで十分、バトラクスを投入するにしてももっと早く行うだろう。敵の目的は見えないが、この状況を放っておく訳にはいかない。被害があまりにもデカすぎる。

 すぐさまハッキングとジャミングを仕掛ける。バトラクス達のミサイルの着地点をずらす為だ。目標は瓦礫群、倒壊の心配すらもはやないほど崩れてしまった建物へ。

「WZ小隊は、防衛ラインを維持しつつ、敵砲撃型に対して火力制圧開始」

 そうしながら指示を飛ばす。指示を飛ばされた小隊がガチャリと自身の兵装を構え、バトラクス達へと突撃を開始する。

『敵をここで止めろ!撃ち尽くせ!』

 |最終攻撃命令《アサルト・オーダー》により、WZ小隊の銃撃音はどんどんと大きくなり、バトラクス達が大きく揺らいだ。だが数はまだ多い。それなのに、どこか、手加減されているようにも感じる。

「……気に食わないな」

 まるで観察されているかのような動きを上空で感じ取りながら、ウルトは舌打ちをしつつ、それでも更なる突撃命令を飛ばすのだった。

神鳥・アイカ

 鋭い音、空を走る光、そしてその直後に聞こえてきた爆発音に、人々を避難させようとした|神鳥・アイカ《かみとり・あいか》(邪霊を殴り祓う系・h01875)は一瞬そちらへ目線をやるも、すぐさま前方へと戻す。

「砲撃ッッッ!?
なんでこのタイミングで、公民館の人達を殺そうと思えば『レギオン』にやらせれば…」

 やはりおかしい動きだ。まるでじわじわと嬲り殺しにするかと思えばいきなりの砲撃、いくらなんでも回りくどすぎる。

「もしかして、コイツら、ボクらの『戦闘データ収集』が目的?」

 どこか観察するような動きもあったし、ありえないことでは無いだろう。だが、今はそれより、と首を振る。こいつらが公民館に一斉に砲撃でも行えば守りきれない可能性も出てきている。

 ぐっと全身に力を込め瞳を閉じる。ふわり、と神鳥の身体に鳥のインビシブルが重なり、その両手がひらりと白銀の羽を散らす【翼】へと変わる。手刀の比喩ではなく、真実、彼女の両腕は翼へと変わっていた。

「さぁ!こっちだ!!」

 あえてバトラクス達の間近を突っきるように飛翔する彼女に引かれ、公民館への進撃を開始していたバトラクス達のいくつかが彼女の方へ方向を変えて追いかけてくる。

 光が戦場を舞う。本物の鳥のように飛ぶ神鳥のすぐ側をバトラクス達の砲撃が掠め、地面を抉るがそれは彼女の動きを阻害することは無い。引き寄せにより、着弾位置は変えている。どこに着弾するかが分かれば、鳥の飛翔を阻害することは無いのだ。

 ガシャンガシャンとバトラクスたちを引連れ、ある程度公民館から離れた神鳥は、ここなら公民館の人々を巻き込むことは無いと判断して一際高く飛翔する。

 バトラクス達がガシャっ!と銃口を構えそちらを追跡して見上げるがその先には太陽……、強い光がバトラクス達のセンサーを遮った瞬間、隊列が崩れる。

「はああっ!!!」

 急降下した神鳥のキックがバトラクスの一体を吹き飛ばして、着地と同時にもう一体を回し蹴りでほかのバトラクスも巻き込んで吹き飛ばす。めきっ!と直撃を食らったバトラクスの装甲が凹んだ。

「さぁ!かかってこい!」

 バサッ!と白銀の翼が翻り、光を受けて羽が舞う。あえての大立ち回り、バトラクスたちを引きつけるように神鳥は力強く飛ぶのだった。

木原・元宏

 公民館周辺のバトラクス達は何十体かは、仲間によってひき付けられたが公民館を取り囲むもの達がゼロというわけではない。

 まだ残るもの達が包囲し行進してくる。それは絶望の音、公民館に身を寄せる人々が怯え、互いに抱きしめ合う。いきなりおかしなロボット達に襲われ、助けは来たけれど状況は悪くなる一方に感じる。ああ、やはり助からないのだとパニック寸前の中、公民館から飛び出したひとりがバトラクス達のど真ん中で大剣を振り下ろした。

「お前たちの相手は僕だ!!」

 そうあえて声を張り上げたのは|木原・元弘《きはら・もとひろ》(歩みを止めぬ者・h01188)。彼はバトラクス達の数体を大剣で斬り伏せたあと、公民館の入口に戻るとガチャりと大剣を構え、入口から中にいる人々を見やった。

 そうして、安心させるように小さく微笑む。

「みなさんはそこにいてください。
 そこが一番安全です
 こいつらは僕達が引き付けて倒します
 絶対にみなさんを襲わせたりしません」

 その力強い言葉と、覚悟を決めた瞳に、パニックに陥りそうになった人々がぐっと互いを抱きしめて頷く。ここがいちばん安全、彼が、守ってくれる。

 それは確かに人々にとっての希望だった。絶望の中、その光は強い。

「『斬る!』」

 バトラクスの一体がミサイルを構えた瞬間、ザッと一気に踏み込んだ木原がその装甲諸共、バトラクスを一刀両断に斬り伏せる。

「させはしない……ここを攻撃したいのなら、僕を倒すことだ!」

 声を大きく張り上げる。自分に集中させるために、人々を守るために。力強い声とともに、その大剣は振り下ろされた。

クラウス・イーザリー

「次はこいつらか……」

 現れたバトラクス達のいきなりの攻撃に、今度は公民館ごと中の人々を殺す気なのか、とクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は鋭く目を細めて公民館の前に立ち塞がる。

 近くまで来ているバトラクス達は、他の√能力者達の手により、離れたり、攻撃を受け散り散りになったりしている。ならば自分が行うべきは、こちらへ進むバトラクス達を防ぐことだ。

 ガチャリと構えられるは、決戦気象兵器「レイン」……、それをすぐさま発動させれば、レーザー光線が無数の筋となって、まだ遠くにいるバトラクスたちを撃ち抜く。一撃一撃は弱いが、それが300発ともなれば、その威力はバトラクス達の一部を吹き飛ばすことも可能だった。

 そのまま攻撃の手を緩めずに更なる追撃を行うため、ファミリアセントリーとレイン砲台をすぐさま展開し、更なる攻撃を加えていく。もちろん、敵側とて簡単にやられるつもりはなく、それぞれが音を立てて砲撃を加えようと構えるが、それよりも早くクラウスが構えたレーザーライフルが奴らを撃ち抜き攻撃を阻害する。

 バトラクス達が機銃掃射を行うにはクラウスがいる場所は遠すぎる、当然ながら砲弾による流れ弾もあるが、それはクラウスが張ったエネルギーバリアで弾かれ、見当違いの方で爆発した。

「……それにしても、奴らの目的はなんだ?」

 攻撃の手を緩めないまま、奴らを指揮している指揮官の方へ視線をやる。どうにも手の読めない相手だ。あまりにもやっている事が回りくどすぎる。

「最優先は人命救助だけど……」

 念の為、奴にも注意を払っておくか……と呟きながら、クラウスは新たなバトラクスをレーザーで撃ち抜くのだった。

レティア・カエリナ

「本当に私が行かないとダメなんですか?」

 嫌なんですけど、絶対嫌なんですけど、オペレーターしてたいんですけど!とレティア・カエリナ(量産型WZ「レデンプトル」・h06657)がげんなりした顔で言うが、残念ながらその要求はあっけなく却下されたのだった。

 もう敵も残り少ないしぃ、このままここでお菓子ボリボリしてタブレットで遊んでる間に終わりそうなのにとぼやくも、何度も命じられれば行くしかない。それが軍人としての役割である。

 はぁとため息をついてWZへ乗り込む。

「全計器グリーン、レティア・カエリナ、出撃します!」

 こうなったら対空ミサイルでさっさか片付けてしまおう。幸いにして、向こうは対空タイプでは無い。ましてや

『空は私のフィールド。マルチロック…全弾発射!』

 WZが空を切る。それは飛行機雲を描き、多目標追尾ミサイルがガチャガチャと音を当てて装填される。目標は下で蠢くバトラクスたち、上空には対空装備をしていない奴らの攻撃は届かない。言ってしまえば、体のいい的だ。

 レティアの操縦するWZからミサイルの雨がバトラクス達へ降り注ぐ。当然ながら、守るべき公民館に着弾させるようなヘマはしない。

 地上のバトラクス達がミサイルで吹き飛ばされるのを確認し、レティアは終わったぁ!帰還帰還!と輸送機へ向かうのだった。

第3章 日常 『桜の木の下で』


 バトラクス達は大半が破壊され、そして撤退をしていった。結局のところ、向こうのリーダーも目的も分かりはしなかったが、被害は最小限に抑えられたということだろう。

「にしても、竜巻だってよ」
「まさか、日本で竜巻でこんな被害があるなんて」

 √EDENでは早くも忘れられる力が働き、人々の記憶は『訳の分からない機械達の襲撃』から『竜巻による自然災害』へと認識が変わっている。それでも、√能力者達によって確かに彼らは守られたのだ。

 たとえ記憶に残らずとも。それでも、救われた命はここにある。

 桜まつりの会場はズタボロで、すっかり祭りという雰囲気は無くなってしまったが、散るのを免れた桜もある。

 人々の復興や片付けの手伝いをしながら、桜を楽しむのもいいだろう。これが、あなたたちの守った平和なのだと、そう心に残すために。
ウルト・レア

「お、ありがとうよ!どっかの学生さんかい?」
「はい、お手伝いに」
「助かるよ。あちらこちら、瓦礫だらけになっちまったから」

 後片付けに精を出す住人に頭を下げてから、彼らは明らかに建物の残骸では無いものを積極的に清掃していく。

 それらを持っていく先は輸送機内、彼らはウルト・レア(第8混成旅団WZ遊撃隊長・h06451)が指揮権を持つ学徒兵たちであった。

●●●

「……ふむ」

 学徒兵達への指示を出しながら、映像と戦闘データの分析を行う。やはり、どうにも動きが奇妙なのは変わらない。

 簡単に殺すことも、鹵獲することも出来たはずの市民達を『あえて』公民館まで避難させ、そこからは囲いこんで積極的な行動は行わなかった。まるで、じわじわとなぶり殺すように。

「やはりデータを取られていたのだろうか?」

 今回、敵の頭は姿を表さなかった。まぁ、とはいえ

「決戦型の戦闘データは一切持っていかれていないだけ良しとするべきか?
戦術も人類圏伝統のありふれたものであるし、特に問題はないはずだ」

 そう、重要なデータは出ていない。となれば、こちらとしても問題は無い。奇妙で些か気持ち悪いという印象は受けるが、それだけだ。

 何体か撤退したバトラクス達の信号を分析する。行き先は√ウォーゾーンだろうが、果たして追跡は可能かどうかを探ろうとしたところで、全ての信号がロストしたのに気づきため息を着く。

「ここまでか」

 まぁ、こちらの被害状況は少ない。他に√能力者達の戦闘データも取れたので良しとしようと思いつつ、ウルトは戦闘報告書に取り掛かる。学徒兵達の仕事が終わるまでまだ少し時間はかかりそうだ。これを書き切る程度の時間はあるだろう。

 輸送機の外を桜の花が舞う。穏やかな春の日差しが、無骨な輸送機を照らしたのだった。

クラウス・イーザリー

 謎は残ったけど……救える命があってよかった。と、胸をほっと撫で下ろしながら、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は『忘れようとする力』を発動させる。

 修復可能なものは修復しながら、ボロボロになった会場から物を運び出す手伝いをしていれば、そんな彼に同じく会場にいる人々が声をかけてきた。

「兄ちゃん!ありがとうよ!」
「力持ちだねぇ、助かるよ」
「いいえ」

 地元の人々がそう素直に感謝の言葉をかけてくるのに、少し照れくさく感じながら順調に物を運び出しつつ、周囲を見やる。√EDEN自体の忘れようとする力により、人々の中からあの機械群の侵攻は早くも消され始め、不運な竜巻による自然災害に成り代わってきている。彼らにとって、わけも分からないロボット達の侵攻はきっと忘れられた方がいいだろう。

 桜祭りが台無しになってしまったのは残念だと言いつつも、彼らの顔には笑顔がある。きっと近いうちにここも綺麗に片付けられ、また人々が笑顔で集う場所になるだろう。

 ふぅと物を粗方運び出して額の汗を脱ぐう。戦いは苦手では無いが、こういう地道な作業も働いているという実感があっていいなと思っていれば、

「兄ちゃん、ありがとうよ!ほらこれ、持ってきな!」
「え、あ、あの」
「いいってことよ!せめてもの礼だ。竜巻で散ったもんもあるが、残ってる桜もあるから花見でもしてきな!」

 簡単なパックに入った桜餅をずいずいと押し付けられて困惑しつつも、笑うおじさんに押し切られて、クラウスはそっと、桜餅を手に歩き出す。

●●●

 会場から少し外れて、人々の喧騒からも離れた場所に歩いてくると上を見上げた。

「……すごいな」

 満開の桜がひらりひらりと風に乗り舞っていた。√ウォーゾーンでは殆ど見られぬその光景に、つい目を奪われる。

 先程の戦闘の余波で多少花数は減っているが、残っているものも多く、戦いに巻き込まれて全部散るような事態にならなくて良かったと素直に思う。

 ひらり、ひらりと、舞う桜……、そっと目を閉じ浮かぶのは、かつての|親友《友》の姿。もう亡き親友がこの光景を見たら、一体どんなことを思い、言ったのだろう。そんなことに思いを馳せながら、クラウスは暫し、美しい桜に見とれるのだった。

神鳥・アイカ

「結局目的は分からずじまいかぁ……」

 疲れた……と河川敷に倒れるように|神鳥・アイカ《かみとり・あいか》(邪霊を殴り祓う系・h01875)が転がる。

 そのまま空を見上げれば少し傾き始めた日、けれども空は柔らかく澄んでいて、暖かな風に目を細めた。

 結果として、もやもやが残る結果、とはなった。敵の目的は不明、それでも少し離れたところから聞こえてくる賑やかな声に、自分は確かに日常を守ることが出来たのだ、と思う。

「……よし!」

 たんっ!と勢いよく反動をつけて立ち上がり、ぐーーと体を伸ばす。顔を上げた神鳥はそのままタッタッタッと軽やかに走り出した。

「考えるのは後々……あ!おじさーん!それボクにも手伝わせてー!」
「こいつ重たいぞ、大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!ボクに任せて!」

 瓦礫の山を運び出してる地元の人に元気よく声をかけて、よいしょっと瓦礫を軽々と持ち上げながら、忘れようとする力を発動させる。それで修復も行いながら、神鳥は地元の人たちと笑顔で会話をする。

 空を見上げれば、舞う桜吹雪、人的被害はそこまで深刻なものでは無かった。これならきっと、ここもまたすぐに賑やかな場所へと戻るだろう。

「お花見は夜だな、ライトアップはされるみたいだし」

 祭り自体は中止となったが、折角なのでライトアップはされ、簡単な夜店も出るらしい。うん、そこで酒でも飲みながらのんびり花見をしようと心に決めて、神鳥はせっせと動き出す。

「お仕事お仕事♪」

 鼻歌も歌いつつ軽やかに動く神鳥を追うように、ひらり、桜の花弁が舞うのだった。

木原・元宏

 世界はこうして変わっていくのかもしれないですね。そう、人々が瓦礫の山を片付けるのを見ながら、|木原・元宏《きはら・もとひろ》(歩みを止めぬ者・h01188)はそっと桜を見あげた。

 もう人々はあの恐ろしい侵攻を忘れ始めている。少しの違和感も消えていく。そうやって、見えないところで変わっていくのを普通の人はいつの間にか受け入れていくのかもしれない。

 まぁ、√能力者である木原は忘れる事は無いのだが、それでも記憶に残っていても気づかないことはあるんだろうな、と思う。

 ひらり、ひらりと桜が舞い散る。

 人の人生にも例えられるその花を見ていると、そうやって世界は回っていく、いろんな人が生まれて死んで
 
 どうせなら咲いているうちは
 生きているうちは
 精一杯生きようと
 死んだ後に忘れられるのなら
 生きているうちは憶えていられるだけ憶えていようと

 そんなふうに思うのだ。

 そっと瓦礫の山を片付けている人々に近づく。今は猫の手も借りたい状況だからだろう、親切に手伝いを申し出てくれた木原に笑いながら礼を言うと、「なら瓦礫の山を運ぶの手伝ってもらえるかい?」と崩れた建物の残骸を指さす。

「ええ、もちろん」

 ヨイショと持ち上げて、言われた通りの場所へ。ある程度手伝ったらふらりと次の場所へと。

 名は名乗らない、礼を貰う必要も無い。

 少し彼らが立ち上がる手助けをしたら、次の場所へ向かおう。

 立ち上がるのを最後まで見届ける必要は無い。だってほら、彼らの顔には笑顔が浮かんでる。まるで春の日のような、暖かな笑顔が。

 自分はまた助けを求める人の元へ。それが木原の生き方なのだから。

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