希望をたぐり寄せて
大きな川沿いにその街はあったはずだった。ゴーシンの街は川の渡し場をもとに大きくなった街だった。行き交う旅人が一時の宿を求めて立ち寄る街であり、大都市圏への流通の要ともなってきた場所だった。戦闘機械群が現れてからも早くに奪還され交通の要として機能してきていたのだが、つい先月、巨大な工作機械がいくつも現れ街のまわりを堤防で覆った。ゴーシンはあっという間に湖に浮かぶ島になった。沈まずに済んだのは街の住民達による必死の努力のおかげだった。だが、そのおかげで資材が尽きた。流通によって成り立っていた街が切り離されたのだ、その影響は計り知れない。食料も残り少なかった。
「√ウォーゾーンの街が水攻めにあっています。みなさんには街を開放するため、水攻めを行っている戦闘機械群の打倒をお願いします」
木原・元宏(歩みを止めぬ者・h01188)はそう言うと湖の上に浮かぶ目のような街を映した。
「街の名前はゴーシンと言います。大きな川のそばにあり、古くは街道沿いの宿場町として栄え、近年は流通の拠点となっていました。まずは他√からか空から街に入って、戦闘機械群が残した痕跡を見つけてください。街の近くには街を水攻めにした工作機械の残骸があります。街の中に戦闘機械群が放った偵察用の小型ドローン、虫型の探知メカなどが入り込んでいるのでこれらを捕獲して調べても良いでしょう。今回の敵はたくさんの目や耳を放っているようです。情報統制型の敵なのか、それとも何か理由があるのかわかりませんが、そこから敵に繋がる情報が得られるでしょう。情報とは双方向で行き来するものですから」
次に元宏は街の小道に並ぶ小さな店を映した。
「ゴーシンには鹵獲したり都市の跡地で拾ってきたジャンク品を扱う商店街があります。敵の弱点がわかったらそこへ行って弱点を突ける武器になるパーツを探してください。その場で加工してもらってもいいですし、自分でパーツから組み上げてもいいと思います。その後で敵の指揮官と戦ってください」
元宏は少し表情を険しくする。
「ただ、気をつけて欲しいことがあります。最初にうまく情報を取れなかったり派手にやりすぎて敵の目をひいた場合は戦闘機械群が街を襲う可能性があります。その場合は戦闘機械群への対策が取れず、指揮官との戦闘を有利にできなくなるでしょう。状況の説明は以上です。どうか街を救ってください。よろしくお願いします」
元宏はそう言うと√能力者達を送り出した。
第1章 冒険 『敵の痕跡を解析せよ』

ゴーシンの街は大きな通りにたくさんの倉庫、冷凍施設、トラックが止まるターミナルがいくつも見える流通基地だった。港町とは違う陸の交通の要所、これが√EDENなら大きなデパートや商業施設、映画館などが並んでいる活気のある街だったろう。ところがここは√ウォーゾーンなのだった。テナントビルに入っているのは軍用品や銃器をを扱う店や戦闘用の薬を扱う薬局、サイボーグ用の診療所などだ。それでも食料品やおもちゃを扱うところもある、普段なら他の街よりも恵まれているはずだった。
「此処がゴーシンの街、立派なところで御座るな。しかし状況が状況、あまり活気はなさそうで御座る」
別√から街に入った夜雨・蜃(月時雨・h05909)は街を眺めてそんな感想を抱いた。蜃はまずは街のことを知るところからはじめようと街を散歩しはじめた。
「派手に動けないなら、まずは地道に行くとするでありますかね。何事も、地理の把握は大事であります」
こちらも別√から街に入った江田島・大和(探偵という名の何でも屋・h01303)も左目の義眼を使って情報を集め始める。まずは守るべき街の地形を把握することから、そして敵のヒントがありそうな場所を見つけられれば御の字、大和も街を歩きはじめる。
「私にはこういった状況に丁度いいスキルがある。【ダーカーラミー】でカメラの類に察知されないよう侵入しよう」
ルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)は探知を無効にする√能力を発動すると街へと近づく。コンクリートの堤防に囲まれた街は大きな瞳のように急ごしらえの湖の上に浮かんでいた。元々川にかかっていた橋が湖面の上に見えているのは奇妙な光景だった。湖面の上には戦闘機械群が飛ばしたと思われる探知用のドローンがいくつも浮かんでいる。
「……さすが、見渡してみると探知メカが至る所に配置されているじゃないか。スキルで感知されないとは分かっていても不安になってしまうね」
蜃は街を一回りした後で情報収集メカの採取をはじめた。路地裏に身を隠しながら飛んでいるドローンや虫型の探知メカを探す。
「先程歩き回っていたうちに、怪しそうなものは目をつけておいたで御座る」
蜃が目をつけていた古い配電盤を調べると虫型の探知メカがコロニーを作っている。どうやらバッテリーの充電と通信の傍受のためらしかった。蜃はそのうちの数匹をワイヤーで捕まえるとうーむと唸る。
「しかし、この様な小さな機械でよくやる。こやつの電源はどこで切るのでござろうか」
「おや、いいところに。私もいくつか見つけたよ。お相手が情報収集するなら、こちらも対抗させてもらうだけさ」
やって来たルーネシアが蜃に声をかける。街に着いたルーネシアは【ダーカーラミー】を使いながら街を回って虫探しに勤しんでいたのだった。
「いくつか拝借しても怪しまれないかな? これだけばら撒かれているなら、いくつか壊れたり故障してるかもしれないしね。
1つや2つくらい誤差さ、誤差」
ふふんと鼻歌でも歌いそうな感じでルーネシアが言う。
「拙者、商店街に行って、その道の詳しい者に相談しようと思うで御座る。分析できれば反撃の糸口となる可能性がある、協力してくれる者もいるでござろう」
「なるほど、渡りを付けておこうと言うんだね。なら私もそうしようか」
街を歩き回っていた大和はおあつらえ向きに古い建物を見つける。見通しのいい丘にあるビルだった。ここからなら街の変化がよくわかるだろう。大和は追憶を使い建物の持ち主の記憶に問いかける。
「なにかね?」
「ここを沈めた奴を懲らしめる代わりに情報をもらえないでありますか? 最近偵察用小型ドローンや虫型探知メカなんかを見かけたことがあったら教えて欲しいであります」
大和が訪ねるとその「記憶」は思案する様子を見せた。
「そうだね。私が知っているのは人の集まるところにたくさん虫のメカが飛んでいることとそれらが人の様子を観察していることかな。特に諍いを起こしている人や悲しんでいる人のそばを飛んでいることが多いね。何か興味でもあるのかもしれないね」
「ありがとうであります」
大和はできた弾丸をポケットにしまうと虫探しに出かけた。
「ずいぶん変わったものがあるで御座るな」
その商店街、ジャンク屋が軒を連ねる場所に着いた蜃はそんな感想を漏らす。
「そうだね。ここなら詳しいものがいる可能性は高そうだ」
ルーネシアも肯く。蜃は小型のドローンやコンピューターを扱う店を見つけて店主に相談を持ちかけた。
「これは街を飛んでいた戦闘機械群の探知メカで御座る。これをなんとかすれば敵の情報がわかるのではないかと思うで御座るがいい方法はないでござろうか? 街の沈み具合を測るなら上空からの偵察で十分な筈、他にも監視しなくてはならないモノがあるのでござろうな。記録を見れば、それがわかるかも知れぬで御座る」
「そうだな。こいつをハッキングして持っているデータを抜き出すとか、こいつが通信している戦闘機械群の回線に潜り込むとかだな。やってもいいがちょっと時間がかかるぞ。お代はこいつをいくつかもらえたらそれでいい。バラせばいろいろ使えそうだからな」
蜃とルーネシアは持っていた虫メカを店主に渡した。そこに大和がやって来る。
「ハッキングするなら我輩も手伝うでありますよ」
店主は大和を見ると言った。
「あんた、その体で戦うだけじゃ無さそうだな。よしわかった。手伝ってもらえないか? 俺は虫のデータをサルベージする。あんたは回線に枝を伸ばしてくれ」
「わかったであります」
大和が回線に潜り込んで敵の情報を探るとわかったことがいくつかあった。敵の指揮官は感覚器官、カメラやマイクなどを持っていなく情報は飛ばしている端末から得ていること。目的は人々に絶望など負の感情を与えてそれを観察すること。そのためにいたずらにゴーシンの街を追い込んでいること。
「早いな。俺の方も終わったよ。街のヤツらが争ってるところや塞ぎ込んでいるところばかりが映ってるな。それに、そういう人間が多い区画の情報、嫌なヤツだな」
大和は同意するとハッキングした結果を伝えた。
「タチの悪い相手のようでありますな。でも相手が自分の目を持たないことはわかったであります。それを利用すれば戦いやすくなるでありますよ」
第2章 日常 『ジャンクストリート』

ゴーシンの街のジャンク街で敵の情報を調べた√能力者達はジャンク街で敵の対策をはじめた。
敵の指揮官は感覚器官を持っていない、目や耳や鼻が無いようにカメラもマイクも持っていない。情報は使っている虫メカやドローンから得ている。戦うときも自分ではなくそれらのメカに頼る。つまり、情報を遮断したり、誤った情報を伝えることで敵を惑わせることができる。
情報を遮断できるジャマーやハッキングして誤情報を敵に送り込む通信機器とコンピューターがあれば敵を弱体化できるだろう。
有効な道具を作ったり手に入れることができれば次の章でプレイングボーナスを得やすくなります。ジャンク屋から完成品を買ってもいいですし、素材を買って作っても大丈夫です。他に何かアイデアがあればもちろんそれもいいでしょう。
ジャンク街のとある店の前、静電気と埃の匂いを漂わせながら、小さな機械がカタカタと音を立てていた。小さなおもちゃを改造したそれは、立派なジャマーだった。今はこの店の中を探知できないようにしていた。
「ふーむ。成る程、あれら偵察機全てが敵将にとっての五感そのものだったとは。こちらの状況はすぐに把握されてしまうわけでござるな。確かに通信の遮断や、誤った情報を流すことができれば、敵の動きは止まりそうでござる。監視の目があるので、表立ってではなく、裏で進めなければならぬでござるな」
夜雨・蜃(月時雨・h05909)は店の中から街の様子を眺めながらそう言った。よく見ると小さな虫型のメカがときどき横切るのがわかる。
「自身の感覚器を切り離すなんて、私には怖くて出来ないけどねぇ……これも合理化なのかな。お相手の考えている事はよく分からないね」
ルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)は捕まえた虫型メカを見ながらそう言った。指先大のそれはカメラ、マイク、バッテリー、発信機を備えた高性能な感覚器とも言えた。ルーネシアがジャンク屋の店主に相談すると、偵察機が使っている周波数は簡単にわかった。通信に使いやすい帯域はある程度絞られてくる。それは敵味方関係なく同じ物理法則に支配されている。
「それは嬉しいね。電波干渉が狙える。ジャンクの電子レンジとかからマイクロ波を出す部品を取り出して小型のジャミング装置でも作ってみようか」
ルーネシアがそう言うと、店主はそう言うものを扱っている店の場所を教えてくれた。
「妨害電波発生機、用意するとしたら規模はどのくらいのものが必要でござろうか…。大規模なものが必要になるなら、商店街の方々に協力を要請する必要があるでござるな」
「そうだな。この街全体をジャミングするならかなりのものが必要だろうが、あんた達だけなら半径数メートルくらいがマスキングされればいいからそんなに出力はいらないな」
蜃の質問に店主はPCでシミュレートを走らせながらそう答える。
「いっそのこと、水没する前の栄えていたゴーシンの街の映像を流してやれば混乱するでござるかな。もしかしたら落ち込んでいる街の人達の、気付け薬にもなるかもしれぬでござるな」
「それをやるなら回線をハックした方がいいだろうね。うちにあるものよりももう少し高性能なコンピューターと発信機が必要だな」
「わかったでござる。拙者これから情報収集と材料集めに行ってくるでござる」
店主はそれまでにある部品でできるところまでやっておこうと言って蜃を送り出した。
ルーネシアが電子レンジの部品をもらってきて小型のジャミング装置を完成させた頃、蜃がジャンク屋に帰って来た。
「おお、早かったな。ジャマーの方はできてるよ。あとはハッキングマシンだけだ」
「これで大丈夫でござるか?」
蜃が商店街を回って集めてきたパーツを店主は調べる。
「ああ、いいものを手に入れられたようだな」
「水没する前の映像を見せてあげたらやる気を出してくれたでござる。やはり希望は大事でござるな」
店主はふん、と肯くとパーツを組み込んで調整をはじめる。しばらくして別の端末に水没前の映像が勝手に映り込むようになった。
「ボタン一つで使えるようにしておいたよ。周波数も自動設定、自動変調だ。道具ってのはな、使いやすいことが一番大事だからな」
「ありがとうでござる。これで敵を欺けるでござる。忍法蜃気楼でござるな」
蜃がそう言うと、ルーネシアが物憂げな表情で言った。
「それにしても人の負の感情を収集しているとは良い趣味をしている。その為にわざわざ街1つを追い込むとは……そこまでの熱意があるなら、別の事にぶつけてほしいものだね」
準備はできた。決戦の時はすぐそこに迫っていた。
第3章 ボス戦 『絶望の天秤を揺らす黒の指手・ノクターナ』

ゴーシンの上空から黒い影が降りてきた。多数のレギオンを従えたそれはゆっくりとゴーシンの街に降りてきた。
「私の試みを妨害しているのはあなた方ですか?」
『絶望の天秤を揺らす黒の指手・ノクターナ』は周囲のレギオンのスピーカーから声を出した。その目は閉じ、耳は聞こえないが彼女はこのあたりの状況を全て把握していた。つい先ほど、彼女の『目』を欺くためのものが作られたこと以外は。
「もう少しでこの街は絶望と狂気に包まれたはずでしたが、あなたたちを排除すればそれも叶うでしょう。人が人を疑う様は良いものです。あなた方も私に追い込まれ、絶望の顔を見せてください」
ノクターナがそう言うと、周囲を飛んでいるレギオンが光を発した。
空中に留まって動かないノクターナはレギオン達を駒のように動かす。自分が王だとでも言うのか、盤面に広がる戦局を手足のように引き連れた戦闘機械群を通してみているのだった。
「来たか……負の感情を見てみたいとはいえ、随分と大掛かりな仕掛けをしたものだ。私はこれ以上、絶望と狂気に駆られた人々なんか見たくはなくてね。それを仕掛けようとしている君は私の意思で排除させてもらう。人を呪わば穴二つ。絶望を求めた君は絶望の中で死ぬんだ」
ルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)はノクターナを真っ直ぐに見据えてそう言うと帽子のつばに軽く触れる。【ダーカーラミー】が発動してルーネシアの姿は見えなくなった。
「隠れたからと言って私からは逃げられませんよ。読み合いとはそう言うものです」
ノクターナはレギオン1小隊を左翼に展開すると威嚇射撃を行う。
「わざわざ降りてくるとは、拙者達の行動は中々気に入ってくれた様でござるな。そういうお主が、この街を攻め落とそうとする将軍に相違ないか?」
夜雨・蜃(月時雨・h05909)がそう尋ねるとノクターナは瞳のない顔で微笑む。
「ええ。私はこの盤面の王、決して負けることは無い者です」
「いつでも実力で制圧する自信があったにも関わらず、今まで降りてこなかったのは…その言葉通りの様でござるな」
蜃が小手調べに投げた苦無は飛び交う無数のレギオンが受け止める。電撃でコントロールを失ったレギオンが湖に落ちる。ノクターナはレギオン1小隊を前進させた。
江田島・大和(探偵という名の何でも屋・h01303)は手近な遮蔽物を確保するとライフルを構えてノクターナを狙う。空に浮かぶノクターナをみながら大和は思う。
「はぁ、悪趣味なもんでありますなぁ。とはいえ、まぁ、さっさと済まそうか」
大和が引き金を引くとノクターナの頭部に向けて弾丸が撃ち出される。
「見えていますよ。あなたはゆっくり追い込まれるでしょう」
ノクターナは弾丸が撃ち出されることを予知していたように一歩横に動く。紙一重で弾丸が空中を通過する。
「一手番使ってしまいましたね。なかなかの腕前です」
レギオンのスピーカーから余裕のある声を響かせた。そこに突然現れたルーネシアが雷の弾丸を撃ち込む。ノクターナを囲むレギオンの1体に命中すると周囲のレギオンを巻き込んで爆発する。爆炎があたりに広がった。ノクターナは左右を見回すそぶりを見せる、一瞬通信が混戦したようだった。そこを逃さずに大和がノクターナの頭を撃ち抜く。ノクターナは地面に落ちたかのように見えた。
「あっけないでありますな。気をつけた方が良さそうであります」
突然大和の真後ろに現れたノクターナが重力波で大和を引き寄せると至近距離からレーザーを撃ち込む。大和は咄嗟に義体部分でレーザーを受けるが焼け焦げた匂いがあたりに漂った。
「我輩、頑丈でありますから。このまま引き付けて囮になるであります。この程度で絶望なんて、生ぬるいでありますよ」
大和はそう言うとノクターナを捕まえた。
「おぬしは『窮鼠猫を噛む』、という言葉を知らぬ様でござるな。一歩間違えば、その様な行為は燻る火種に火を付ける行為となることを…今教えよう」
蜃はそう言うと霞千靭奔りでノクターナに飛び込み、一気に斬り裂く。ノクターナは真っ二つになり地面に落ちたように見える。
「いるでござるな。死んだふりなのか、生き返るのかはわからないでござるが」
蜃がノクターナの気配を察して言う。ルーネシアと大和に目配せをすると一呼吸置いて一気に散開した。そこにレギオンの集中砲火が降り注ぐ。戦力を集中した攻撃を躱されノクターナは首を左右に振った。
「こういった戦場では、一瞬の怯みが致命傷になるんだ。私の『銀嶺』の錆になってもらう!」
ルーネシアの合図の元、視界ハッキングとジャミングが発動する。目を奪われ幻の風景を見せられたノクターナの動きが一瞬止まった。
「援護するであります」
大和がライフルを撃つとノクターナのこめかみにひびが入った。そこから火花が飛び散る。
「どこ、どこですか!」
幻の中でノクターナが呻いた。
「盤面の上にいると言うことは、死ぬことがあると言うことだね」
飛び込んだルーネシアのマチェットナイフがこめかみのひびを広げる。
「ああ、もう代わりの城はない。私が負けると」
「盤面ばかり見ていては拙者の姿を見逃すでござるよ? 今、街の人達の想いがお主の五感を断つ。覚悟せよ」
氷龍の力が迸り、蜃の刃がノクターナの頭部を真っ二つにすると今度こそノクターナは地面に崩れ落ち、動かなくなった。消えていくノクターナを見ながら、ルーネシアはため息交じりに言う。
「それにしてもある意味羨ましい性格だね。私も、故郷では狂気に包まれた人を何度も見てきたけどね……全く嬉しくなかったよ。なんてね、柄にもなく湿っぽくなってしまった。これも水攻めのせいかな?」
消えてしまったノクターナのいた場所を見ながら大和が言った。
「あのまま消えずに残っていたら、分解されてジャンク屋に持ち込まれていたかもしれないでありますな」
「部品になってしまえば大丈夫でござろうか。たくましい方々にござるからきっとなんとかするでござるな」
ゴーシンの街につかの間の平和が戻った。湖はそのまま残され堀として利用されるらしい。今は倒したレギオンの残骸から橋を作っているそうだ。