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天使化事変【少女N編】

#√汎神解剖機関 #天使化事変 #羅紗の魔術塔

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 #√汎神解剖機関
 #天使化事変
 #羅紗の魔術塔

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 走る。
 走るべきだ。
 走らなくてはならない。

 だから少女はひたすらに走っていた。
 そうしなければならない。
 何故ならそうでもしなければ、自分という存在は跡形もなく消えてしまうから。
 そうだと少女は信じている。

 少女は善良である。
 たったそれだけが唯一の取り柄でもあった。

 だが、その結果がこれである。

「はぁ、はぁっ!」

 少女は善良である。
 だから誰にも|助けを求める事ができない《・・・・・・・・・・・・》。
 自分の存在が誰かに迷惑をかける事を良しとはしなかった。

 だが、それでも少女は「もしかしたら…」と祈る。

 もしかしたら誰かが自分を救ってくれるかもしれない、と。

「───あっ!?」

 それも、ただの夢物語なのかもしれないが。



「√汎神解剖機関のヨーロッパ各地で、老若男女問わない「善良な人々」が、突如として「天使化」する事件……私が見たのはその一遍に過ぎない訳だが」

 星詠みであるアステリオス・ハシェット(h03394)が静かに、貴方達を見つめる。

「感染者はオルガノン・セラフィムなる存在に変貌するが……彼女は完全なる「天使」となったようだ」

 オルガノン・セラフィムは「天使」を捕食する。

「それだけではないな……彼女、いやここでは「少女N」とでも呼称しよう。
 少女Nが逃走を計っていたのはオルガノン・セラフィムだけでは無い。
 もうひとつ…… ヨーロッパの秘密結社『羅紗の魔術塔』が関係しているらしい」

 貴方達の目的は、この少女Nを守り抜き逃走の手助けをすること。

「そのために、敢えて戦闘を避けることも視野に入れるべきだろう。
 さぁ、行きたまえ。
 健闘を祈る」

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第1章 冒険 『路地裏を駆けるもの』


平坂・新九郎
徒々式・橙
敷石隠・船光

「まためんどくさい病気もあったもんだな……」

 平坂・新九郎(h01365)はポツリと呟いた。
 彼の視線の先には、目的の少女Nと仮称された少女が何者かに終われ走っているのが見える。
 新九郎が少女Nの追っ手をよく見ようと目を凝らしていると、どこからかエンジンがかかる音がする。

「鎌鼬達、対象の邪魔になるものは跳ね飛ばせ!
 夜叉よあの子の護衛は任せたぞ!!」

 敷石隠・船光 (h04570)だ。
 彼はカゼキリ1300H2Rに跨り少女Nを追う。
 追っ手は次々と御霊や鎌鼬達の逃走の補助や護衛にやられていく。

「さて、欧州観光としゃれこまさせてもらおうかな」

 欧州特有の狭く複雑な道も、彼の腕にかかれば造作でもない。

「すっげぇ……」

 その様子を眺めていた新九郎だったが、すぐに気を引き締めて、敷石隠同様に少女Nを追いかけると共に彼女の追っ手を足止めする。

「まずは追手の数を減らしとくか」

 新九郎は少女Nの追っ手の足を足払いする。
 体制が崩れたところで、新九郎はさらに鎖で追っ手達を捕え、一人一人の頭を殴りつけ気絶させる。

「おや、誰かが助太刀をしてくれているようだね?」

 新九郎の気配を察知した敷石隠が僅かに顔を後ろにそらす。
 追っ手がこちらに追いついてしまう、という不安は取り除かれた。ならば今ここで少女Nに追いついてしまおう。
 敷石隠は1300H2Rから振り落とされないように、グッと腕に力を篭める。

「そこのお嬢さん、お急ぎならば乗っていくかい?」
「え?」

 敷石隠が少女Nに追いつくのは簡単なことであった。
 「天使」化したとはいえ、彼女は全良な…自分達√能力者とも違うただよ少女だ。

「アレから逃げているんだろう?」

 少女Nが後ろを振り返る。
 新九郎や鎌鼬達によって、少女Nの追っ手はもう追いつくことができずにいた。
 少女は藁にでも縋る思いで、敷石隠の1300H2Rに手を伸ばす。

「『刀匠月岡船光が打ちし軍刀の付喪神、人呼んで敷石隠船光。我が身一振りの太刀故にこの身をもって四方を切り祓い、清めん。』
 ここより内は我が神域、荒ぶる天使や人の及ばぬ場所だよ……」

 √能力でこの辺りを、敷石隠が一時的な神域に変えてしまうのを見た新九郎はその中へ飛び込んだ。

 荒い息遣いが神域の中でこだまする。
 新九郎も敷石隠も少女Nの無事を確認しようと彼女を見ようとすると……。

「こんにちはお嬢さん。今日もいい天気ですねぇ、素敵な羽がよくお似合いで魅力的です。
 ところで、私に助けられるというのはいかがです?」
「え、あの……?」
「大丈夫ですよ。
 だって私は、その願いから生まれた未来なんですから」

 いつの間にか合流していた徒々式・橙(h06500)がソッと少女Nの手を取り紳士的に挨拶をしているでは無いか。
 不安そうにしていた少女Nは橙の優しい声によって落ち着きを取り戻していく。

「も、もしかして……貴方達、私がこうなった理由を、知っているの?」

 少女Nはしばらくしてから貴方達にそう問いかけた。

第2章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』


 少女Nの疑問にあなた達は応えていくだろう。
 知らない世界の知らない知識、常識を知った少女Nの瞳は涙で濡れている。
 それでも彼女は気丈に振舞おうとしている。

 ここは完璧に安全では無い。彼女を確実に保護できる場所へ連れて行かなくてはならない。

 あなた達と少女Nは決意をして脚を1歩踏み出す。


 追っ手は来ない。
 だが、あなた達は追っ手とは違う別の何かと遭遇してしまうのであった。
 それは、何故か少女Nを執拗に狙っていると見える。
敷石隠・船光
平坂・新九郎

「コイツら……噂の半分天使化した人間か」

 平坂・新九郎(h01365)はすぐにそれが少女Nを狙うオルガノン・セラフィムである事に気が付いた。

「悪いがそうなった以上は怪異として処理させてもらうぜ」
「同感だね。
 天からの使いというのなら、荒ぶるその魂を癒せないなら、せめて付喪神とはいえ、神と名乗る俺の身勝手で介錯させてもらうだけだ」

 敷石隠・船光(h04570)は新九郎の言葉に頷き、少女Nを庇うようにして後ろに下がらせる。

「でも……あなた達は大丈夫なんですか?」

 怖いだろうに。
 少女Nはそれでも手の震えを抑えながらあなた達に尋ねる。
 天使化する人間は、善良な人々である。その事に妙な納得を覚えながら、あなた達は少女Nに微笑んだ。

「もちろん、大丈夫だぜ!」
「右に同じく。
 ほら、その路地の影で身を隠すんだ。何かあれば大越で俺達を呼んでくれ」

 少女Nはそれでもあなた達を心配そうに見つめていたが、自分がいてもどうすることも出来ないことを理解し、言われた通りに路地の影へと身を潜めた。

「さて……夜叉、いけるね?」

 敷石隠は‪√‬能力【|護霊乱舞太刀風語《ゴリョウランブタチカゼガタリ》】を発動させ護霊「カマエタチノヤシャ」を召喚する。

「……しかし、敵の数が多いな」

 新九郎は【憑神九魂儀】で猫神と完全融合し、敵を迎え撃つ。
 オルガノン・セラフィム達はあなた達を倒さねば少女Nに追いつけないと理解したのか、少女Nを追う足を止めた。
 そして、オルガノン・セラフィム達があなた達に向かって一斉攻撃を始める。

「数は多いが……この程度、どうということはないでござる!」

 敷石隠はオルガノン・セラフィム達の攻撃を華麗に避け、新九郎と共に反撃する。
 あなた達には敵わないと、残ったオルガノン・セラフィムは一時的に撤退しようと身を翻した。

「させるか!」

 それを見た新九郎は、空間引き寄せオルガノン・セラフィムを逃さなかった。

オルガノン・セラフィムの個体数はあと少し。
これを倒せば一時的かもしれないが、少女Nの安全を確保することが出来るだろう。
あとは、彼女を保護してもらえる施設へ送り届けることが出来れば……。
十束・新貴
巫条・命
岩上・三年

 オルガノン・セラフィムの掃討戦は、ついに最終局面を迎えていた。
 その力が衰えたわけではなかったが、十束・新貴(h04096)、巫条・命(h01102)、岩上・三年(h02224)はそれぞれが己の役割を完璧に理解し、互いの技を補い合う、練り上げられた一個の戦術機構として動いていた。

 十束は一瞬のためらいもなく、八七式霊動拳銃を抜き放ち、残存するセラフィムたちの動きを牽制する。
 鋭く、正確なその銃撃は、敵の移動を封じるだけでなく、味方の布陣の余地を広げる布石でもあった。
 その動きに合わせるようにして、巫条が静かに姿を現す。彼女の足取りは緩やかでありながらも、確かな目的を帯びていた。そして童話「アリとキリギリス」の語りを始めた。
 すると空間は一変する。
 現実の構造がゆっくりと変質し、視界に映る景色は絵本の中のような、非現実的で幻想的なものへと変化していく。空気は軽くなり、地面は柔らかな草に覆われ、遠くではキリギリスのようなものが音を奏でていた。
 その変化を見た岩上は、即座に判断を下す。
 これならば――と。
 彼女が召喚したのは、重厚な機構を持つヘビー・ブラスター・キャノン。通常であれば市街地など狭隘な場所での使用は制限されるべき兵器だったが、この空間では周囲の構造物を気にする必要がない。むしろ、存分に力を解き放つことができる状況だった。

 オルガノン・セラフィム達は、重兵装の出現に、本能的な恐怖を感じ取ったのだろう。残された個体たちは一斉に退却を図る。
 しかしその背を、十束の銃が追う。正確に足元をかすめる霊動弾の連射は、敵の逃走を封じ込めるだけでなく、その心を更に追い詰める効果をも持っていた。

 岩上は構える。狙いを定める。
 次の瞬間、巨大な音と共にヘビー・ブラスター・キャノンが火を吹いた。その一撃は次々とオルガノン・セラフィムの身体を貫いていく。巨大な火柱のようなエネルギーが彼らを包み込み、跡形もなく焼き尽くす。その火線からこぼれ落ちた敵を、十束が冷静に仕留めていく。
 もはやセラフィムに逃げ場はなかった。

 やがて最後の一体が地に伏すのを確認し、巫条はそっと‪√‬能力を解く。空間がゆっくりと元に戻っていく。現実の景色が再び広がり、絵本のような風景は霧のように消えていった。
 だが、そこに残された余韻はあまりにも濃く、まるで夢から覚めた直後のような違和感だけが漂っていた。

 そして、その光景を見ていた一人の少女Nが、力が抜けたようにその場に崩れ落ちていた。彼女は何も知らない。戦いの只中に巻き込まれた無力な存在だ。その瞳は広がりきったまま、三人を見上げていた。恐怖、驚愕、そして…戸惑い。何が起きたのか、何故自分がここにいるのかすらわからず、世界の現実が足元から崩れていくような感覚だけが残っていた。

 彼女は元来、特別な力を持たぬ存在だった。
 だからこそ、彼女を放っておくことはできなかった。

 あなた達は慎重に、だが正直に、少女Nに説明を始めた。自分達が何者であり、何と戦っていたのか。
 そして、彼女に今、何が起きているのか。その身に宿るものが何であり、なぜオルガノン・セラフィムが彼女を狙っていたのかを、隠すことなく伝えていく。

 少女Nは最初、その言葉のすべてを拒絶した。理解などできるはずがなかった。
 人間ではなくなってしまった…そんな非現実を、どう受け入れればいいというのか。しかし、目の前の三人の眼差しは真剣で、何より温かかった。そこには偽りも、押しつけもなかった。ただ、彼女のこれからを真剣に見据える意志があった。

 少女Nは、深く、ゆっくりと息を吐く。
 そして、気づかぬうちに肩から力が抜けていた。現実を受け入れるしかないのならば、せめてこの人たちの言葉を信じよう。
 そう、心に決めた。ただ、最初の一歩。その静かな決意だけが、少女の中に芽生えていた。

第3章 冒険 『*奇妙な現象が起こっている。*』


 しばらく少女Nと休むことにしたあなた達。
 だが、すぐにそこに星詠みから聞いていた「羅紗の魔術塔」のアマランス・フェーリーの気配を感じとる。
 少し危険な道ではあるが、この奇妙な現象が次々起こるこの道を駆け抜けるしかないらしい。
早乙女・伽羅
哘・廓
高柳・源五郎
敷石隠・船光
平坂・新九郎

 嫌な気配が、空気の揺らぎに混じって背後から這い寄ってきた。
 その違和感に気づいた瞬間、あなた達は一斉に振り返る。
 そこにはまだ何の変化も見られないはずなのに、肌の奥が粟立つような、ぞわりとした感覚が確かに存在していた。

 少女Nは、そんなあなた達の挙動を見て首を傾げていた。だが、その様子がただごとではないことに気づくと、すぐに言葉も出せないままに足を止める。
 あなた達の視線の先、そこから忍び寄っているこれは、おそらく「羅紗の魔術塔」に属するアマランス・フェーリーの気配なのだろう。
 まさかここまで執拗に追ってくるとは思わなかったが、その執念深さと苛烈さを思えば、十分にあり得る話だ。

 しかし、ここを抜けた先には少女Nを保護してくれるはずの汎神解剖機関がある。
 そこへ辿り着くことができれば、この騒動から少女を一時的にでも遠ざけることができるはずだった。

 この道は奇妙な現象が頻発する区域で、曲がり角一つごとに異質な空間が顔を覗かせる。
 だが、その奇妙さが逆にアマランス・フェーリーの足止めになるかもしれないという一縷の希望を、誰もが心の片隅に抱き、その道へ足を一歩踏み入れる。

 敷石隠・船光は、冷静に周囲の状況を見極めると、静かに自身の√能力を発動させた。

「九十九繋ぎの密儀のその神髄」

 その言葉と共に彼の本体と護霊は溶け合い、緑の雷のような光を纏って巨大な機械神像へと姿を変える。その名も【機動夜叉風斬大権現】。
 従来の物理法則すらねじ曲げるかのような存在感を放ちながら、ライムグリーンに輝くその姿が空間を圧倒していた。

「考えるより速さと力で突破した方がいいだろうからね」

 敷石隠のその判断に、あなた達もすぐに頷く。
 確かに、この道を非力な少女Nを連れて抜けるのは困難だが、敷石隠の能力があれば突破できる可能性は高くなるはずだ。
 ならばと、狐の悪神へと変貌していた平坂・新九郎が一歩前に出る。

「なら、俺が先導する」

 その一言が合図となり、あなた達は各々の持ち場を定め、少女を中央に守る隊形を取る。
 新九郎が先行し、敷石隠が神像の中に少女を収容、残りの者が周囲を警戒しながら進行していく。

 道は不気味な静けさを保っていた。しかし、それも長くは続かない。新九郎は進みながら、何か別の気配が混じっていることに気づく。

「この気配、魔術か……まだなにかありそうだ」

 突如として、道の先から影のような存在が飛び出してくる。
 形を定めぬまま這い寄るそれらは、この地に巣食う小規模な怪異。アマランス・フェーリーとは無関係だろうが、いずれにしても厄介な存在であることに変わりはなかった。

 新九郎が素早く反応し、一体、また一体と怪異を粉砕していく。しかし数が多く、消耗も少しずつ蓄積していく。
 背後の少女Nを連れている敷石隠が追いつく前にすべてを処理できるかどうか、微妙なところだった。

 その時、静寂を切り裂いて拳の音が響いた。
 黒髪をなびかせ、無言で現れた哘・廓が、鋼のような拳で怪異を一掃していた。無駄のない動きと迷いのない意志。彼女の加勢は、まさに天の助けだった。
間髪入れず、別方向から声が飛ぶ

「こちらだ!」

 道はいくつにも分岐していたが、その声を頼りに進めば迷わず進める。
 声の主は猫又の早乙女・伽羅。その導きに従って進むと、突如として視界に出張販売車が現れた。

 運転席からひょっこり顔を出したのは、高柳・源五郎。
 商人風の風貌ながら、ただ者ではない気配を纏っている。

「おや、お急ぎのようですね?
 送っていきましょうか?」

 屈託のない笑顔で申し出る彼に、あなた達は一瞬だけ視線を交わし、少女Nの護送を託すことを決めた。

「本当にありがとうございます……。負けないでください、もっとお礼がしたいからっ」

 少女Nの瞳には、恐怖ではなく希望が宿っていた。その想いを無駄にするわけにはいかない。

 少女を乗せた車が走り去ると同時に、まるでそれを見計らったかのように、美しい女性が姿を現した。
 アマランス・フェーリーだ。滑らかな髪を揺らしながら、あなた達に向けて冷たい視線を送ってくる。
 だがその目には、奇妙な諦めの色が浮かんでいた。

「これは……勝ち目がないな。
 おそらくは、このままあの“天使”を追っても、協力者が次々現れるばかりだ……星詠み達め、余計なことを」

 彼女はそう吐き捨て、背を向けた。

「“天使”化した人間は、まだいると聞いている」

 その言葉を残し、アマランス・フェーリーは静かに姿を消す。

 終わった。
 そう誰もが思った。
 だが、それはただの幕間に過ぎない。

 “天使”と呼ばれる存在を巡る争いは、まだ序章。
 「羅紗の魔術塔」の動きも、天使達の変貌も、その全てが新たな火種となって燃え広がろうとしていた。

 あなた達は、その未来を迎え撃つ覚悟を胸に、車の進んだ方角へと足を踏み出す。
 少女を送り届け、次なる戦いへと進むために。

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