浅草駅に生えた浅草ダンジョン
●√ドラゴンファンタジーより持ち込まれた遺産
「な、何これ……!?」
とある√能力者は気づいた。普段利用している浅草駅が、ダンジョンになり始めている事に。
「まさか、これって!」
そう気づいたのも僅かに遅れ、ダンジョンはその魔の手を伸ばしに浅草駅内部から拡張し始めている。既に一面ダンジョンの土の壁でいっぱいの浅草駅。このままでは、浅草の平和が危ない!
●|未来予知《ゾディアック・サイン》で観えたもの
「とゆう訳でな、浅草駅を中心に誰かが√ドラゴンファンタジーから持ち込んでしもうた遺産でダンジョンが発生してしもてるねん!」
星詠みとして、濱城・茂音(HATAKEの伝承者・h00056)は己の該当する星座である双子座から読み取ったらしい未来を告げる。
「とりあえずまずダンジョン探索が必要みたいや。邪悪なインビジブルがわんさかおるから、そいつら撃破してもろて! そうすると後に出て来る大ボスの戦力を削ぐ事が出来んねんな。その後は√ドラゴンファンタジーのモンスターと戦って……まあ、場合によっては遺産持ち込んでしもうた悪い√能力者懲らしめにいけるんとちゃうかな。皆のやり方次第やけども」
その『悪い√能力者』が見つけられるかどうかは、キミ達次第だ。
「まあ悪い√能力者見つけられんでも、最後にダンジョンの『核』になっとるボスモンスター倒せたらダンジョンは崩壊していくさかい、そんな難しく考えんでもええよ! それじゃあ、うち応援してるから頑張ってね!」
そう言って、現地へと√能力者達を送り出す、茂音だった。
第1章 集団戦 『暴走インビジブルの群れ』

「わぁ、浅草駅がこんなになっちゃって……。ぼくは結構馴染みのあるところだから、ダンジョンになんてさせっぱなしにはできないよ」
|希海《のあ》はダンジョンになった浅草駅を見つめる。見ての通り、どこからどう見ても土壁の洞窟になっていた。
「よし、張り切って核を壊しにいこう!」
そう言いながらダンジョンに入ると、早速『暴走インビジブルの群れ』と出くわす。その数も多く、希海は少し引き気味に暴走インビジブルの群れが撃つポリューションレッドの着弾地点を見極め、√能力を発動する場所を選定する。
「こういう敵には、こいつに限る」
√能力《決戦気象兵器「レイン」》を発動し、暴走インビジブルが密集した瞬間に300回のレーザー光線で攻撃していく。
『……!』
攻撃を潜り抜けていた暴走インビジブルの群れはポリューションレッドを放つのを試みるも、希海は耐えようとする。
「(大丈夫、攻撃を受けてもぼくはやれる)」
疑心暗鬼になりながらも、レイン砲台のトリガーは離さない。
「だから、ぼくは……ぼくを信じる!!」
無事に耐えきった希海は、300回のレーザー攻撃を打ち終え、無事に最初の群れを上手く討伐する事に成功したのだった。
レオは買い食いをしながら浅草駅の近くを通りかかったはずだった。だが、そこにあったのはダンジョン。
「(√EDENを歩いていたはずだけどなぁ)」
この状況について√能力者から聞くと、既に星詠みが未来予知していた案件であった。ならばと、協力する事にしたレオ。
「食後の腹ごなしもかねてサクッと制覇してやるであります」
暴走インビジブルの群れはブルータルファングを発動し、移動速度を3倍にし、貫通と威力2倍のインビジブルの牙を生やして赤い霊気を纏いながらレオに襲い掛かる。
「(どうせ近づいてくるなら……、今であります!)」
√能力《禍祓大しばき》を発動したレオは、牙を剥いた暴走インビジブルの群れに思いっきり卒塔婆を振り下ろした。
『……!!』
思わずよろめく暴走インビジブルの群れ。
「赤い霊気纏ってるので、分かりやすいでありますね!」
言うなればリズムゲーのような状態だ。ジャストタイミングで卒塔婆を振り下ろすレオを見て、暴走インビジブルの群れはやや距離を置く。
「にゃっはー! それにしてもこういう急な事態でもしっかり対応するなんて流石ボク、超すごいでありますなぁ〜♪」
自信満々に、るんるんと喜びながら自分が超すごいという事を知らしめてやったレオであった。
「(コイツラは……魚か? ……やっぱり焼いたら美味いんかね?)」
|穿《ぽち》は首を傾げて訝しむ。
「(ま、ダンジョン化してんなら、ちょっと強めに動いても問題はないよな?)」
そう、今浅草駅はダンジョンになっている。多少壁を崩したりした所で浅草駅が丸ごとぶっ壊れるとか、そういった事は無いだろう。恐らく。
「よし、お前ら全員焼き魚だ!」
√能力《灼熱地獄の一爪》を発動した穿は、高温に発熱させた爪の攻撃を敢えて外す。するとどうだろうか、周囲の気温がみるみるうちに上がっていく。
――まるで|灼熱地獄《●●●●》のように。
『……!』
暴走インビジブルの群れは、ブルータルファングの赤い霊気を纏うまでもなく茹っていく。即席のグリルとなったダンジョン内で焼きインビジブルになり始めた者達から順番に牙や爪で仕留めていく穿。
「なるべく減らしといた方が良いんだよなコイツラは?」
仕留めて目線の先では、焼けたインビジブルがジュウジュウと音を立てている。
「(……オレは別に魚も嫌いじゃないが、美味いんかねコイツラ?)」
実食やいかに。まあ、エネルギー源になるぐらいなので少なくとも焦げた肉よりはマシなのかもしれない――。
一方、ニコルは各所で戦う仲間達を援護していた。
「知らない場所ではないので、早く解放したいですね」
卒塔婆を振り回しているレオの周りに集まる暴走インビジブルの群れに対し、√能力《エレメンタルバレット『雷霆万鈞』》を発動し、レオを帯電で戦闘力強化させて帯電卒塔婆にさせたりしながらも雷の爆発でいくつもの暴走インビジブルの群れを吹っ飛ばしていた。
「残りはボクに任せて下さい!」
素早くショットガンめいた精霊銃【Dazzling Blue】から弾をぶっ放すニコル。
そして次は『レイン』を撃ち終えた希海のサポートに入り、疑心暗鬼がしばらく抜けない希海の代わりに現場に新しく沸いてきた暴走インビジブルの群れを【Dazzling Blue】の援護射撃で吹き飛ばしていく。
「援護します!」
こうして各地を回っている間に、暴走インビジブルの群れは確実に数を減らしていた。
「(これで全部倒した……よね?)」
辺りを見回すと、その先に居たのは――。
第2章 集団戦 『ボーグル』

『うがぁ……ッ!!』
√能力者達が、目線の先に捉えたのはボーグル。√ドラゴンファンタジーに住まうモンスターである。
どうやら、確実に危険は排除出来ているようだ。それでもボーグルが現れ敵襲は止まらない。ならば、ボーグルを倒した先に核があると考えるのが妥当だろう。
――さて、どうするか。
「さすが群れは数が多いね」
ニコルは精霊銃【Dazzling Blue】を構える。
「本物の狩猟者はどっちか教えてやるであります」
レオは早速√能力《|神千切《カミチギリ》・カゲヌイ》を発動し、神速の疾走をして影を纏い、移動速度を上げていく。
『うががぁ!!』
『うがるる……!!』
――ボーグル達は臨戦態勢だ。だが、移動速度を下げて探知されにくくなる集団の狩りを始めたとはいえ、常に視界に捉えていれば問題はない。すれ違いざまに纏めて3匹程喰い千切っていく。
『がっ!?』
ポイズンニードルを飛ばそうとするボーグル、そこで先手必勝とばかりにニコルが√能力《エレメンタルバレット『雷霆万鈞』》を発動し、雷の爆発で一気に片付けていく。
「ぶっとべぇ!」
『うが……!!』
帯電の強化を得たレオはペースを上げ、したたる血を追って手負いのボーグルを追いかける。
もう、ここまでなっては集団狩猟もしている場合ではない。移動力が下がったボーグルは更に1匹、2匹と喰い千切られてゆく。
「さて、どっちが得物かな?」
ニコルの制圧射撃により、ボーグルは行き場を無くしていく。その間にも嚙み千切っていくレオ。
『がッ……がッ……!!』
『うがッ……!!!』
ボーグル達は恐怖心でよろよろと下がった移動力で逃げ惑っていた。反抗にとポイズンニードルを飛ばす個体も居たが、|狩猟者《ハンター》がどちらか分かった現状、これは気休め程度である。
「さあ、もっとかかってくるでありますよ!」
戦闘力も下がったのでボーグル達は誰も出る気がしない。
「ならば……こちらから行かせてもらうであります!!」
レオが千切っていくたびに怯えるボーグル。
「モンスターの群れって言っても、まさかこの程度じゃないよね?」
明らかにリードしているのは√能力者側だった。その現状を知り、中には隠れるボーグルも居る程だった。
「さあ……出て来るでありますよ!!」
ボーグル達は今、出て来る気が無いようだ――。
「核までもうひと踏ん張りってところなのに、邪魔しないでほしいな」
希海はボーグル達と対峙し、少し睨みつけた。
「まぁ、やるっていうならやるよ。√EDENに悲しみは持ち込ませないんだから」
√能力《決戦気象兵器「レイン」》を発動した希海。集中して降るレインのレーザー光線にボーグル達は慌てふためく。しかし獣たる彼らは諦める事なく耐えていく。
ならばと、同じ個体に更に濃縮した大量のレーザー光線を降らせる事により、集中砲火を受けたボーグルはその場で倒れていく。
「思ったより耐えたね。少し殲滅力は下がるけど、この方向で行こうか」
続けて塊になって耐え合っているボーグルの集団へとレインの照準を向ける。来るぞと互いに身を合わせたボーグル達だったが、全個体あっという間に倒れていった。
と、そこでレーザーが途切れる。
「300発使い切ったみたいだね……後はどこにいるかな?」
確実に数を減らし、残ったボーグルを探す希海であった。
『うぐぁぁ……』
怯えるボーグルの声を聴きつけたニコル。
「あ、こんな所に居たんだね。いい加減全滅してくれないかなぁ?」
引き続き、精霊銃【Dazzling Blue】を構えたままボーグルの方向へ前進するニコル。それに気づいたボーグルは戦意喪失状態なのか、逃げ惑う。
√能力《エレメンタルバレット『雷霆万鈞』》を発動して一発ドカンと命中させると、近くに隠れていたボーグルも、よろよろになりながら釣られて出て来た。
「待てっ!」
全滅させるまで核には辿り着けない。とにかく、ボーグルを追って、撃ち続ける。
『あが……ぁ……』
最後の一匹が息絶え、全てのボーグルを倒し切った時、とうとうダンジョンの奥からズシリ、ズシリと音がし始めた。
「これは……」
耳を澄ませる。ズシリ。ズシリ。どんどん大きくなっていく音に神経を尖らせ、集中すると――目の前に既に現れていたのが、『堕落騎士『ロード・マグナス』』である事に気づくのにそう時間はかからなかった。
第3章 ボス戦 『堕落騎士『ロード・マグナス』』

『我が力よ、この者達に裁きを……』
堕落した騎士。元は英雄レベルの強さだったのだろう。
『裁きを……。裁きを……』
だが、今はもう堕ちてしまったモンスターに過ぎない。
『鉄槌を……喰らわせてくれよう……!!』
『堕落騎士『ロード・マグナス』』を倒せば、浅草駅に出来たダンジョンは消え失せる。いよいよ、最後の試練だ。
「堕落した英雄かぁ……」
ニコルは堕落騎士『ロード・マグナス』に精霊銃【Dazzling Blue】の銃口を向けた。
「モンスターの割に大層な名前でありますね、まぁボクの方がもっと超すごいでありますが」
レオは自身が超すごい事をかの元英雄に知らしめるべく、√能力《|全力狩猟モード《クイチギリウサギ》》を発動し、喰い千切る捕食力を中くらい、指や爪で引き裂く力を大きく、脚力を少々上げていく。一方の堕落騎士『ロード・マグナス』は鎧と完全融合し、空間引き寄せ能力を発動しながら斬りかかってくる。
『裁きの……時間だ……!!』
と、そこでニコルが√能力《エレメンタルバレット『雷霆万鈞』》を発動して雷属性の爆発で英雄の剣の動きを止め、レオは√能力《|神千切・カゲウチ《カミチギリ》》を連撃で発動し、英雄の剣よりも超すごい爪と喰い千切り能力、そして帯電の強化を得て堕落騎士『ロード・マグナス』の懐に入り込む。
「道を間違えたっていうならそれを正さなくちゃいけないねぇ!」
ニコルがにやりと笑った。
帯電を得たニコルの爪と喰い千切りで倒れる堕落騎士『ロード・マグナス』は即座に蘇生するも、目の前に居るレオはバチバチと帯電を得ながら余裕しゃくしゃくといった顔で立っていた。
「お前が何回蘇生できるかためしてやるであります」
『この者共は……!!』
何かを言いたげにうつむく堕落騎士『ロード・マグナス』。
「英雄ってだけあってタフだね!」
ニコルは、援護射撃を開始する。それと同時に、いくらでも喰い千切っていくレオの攻撃に、堕ちた英雄の甲冑を越え、瞳の奥に飛び散る血が、英雄から光を失わせていた。
堕落騎士『ロード・マグナス』は剣で応酬するうちに、英雄の誇りであった剣はほころびてゆく。
『おのれ……よくぞ我が剣をもずたずたに……!』
蘇生が出来なくなった英雄は偽りの聖剣を作り出し、エレメンタルバレット『雷霆万鈞』に似た電撃を偽りの聖剣から射出する。
「おっと!」
「今の脚力なら余裕であります、こっちへ!」
少し上げておいた脚力が功を成して、レオはニコルと共に避けていく。そして、偽りの聖剣が壊れるとついに堕落騎士『ロード・マグナス』は手段を失くし、その場に立ち尽くしたかのように見えた。
『我を追い込んだ事……褒めてやろう……だが……!』
「だが? もう満身創痍っぽく見えるけど」
ニコルの問いに、堕落騎士『ロード・マグナス』はほころびた剣を天へと掲げる。
『我が聖剣は不滅なり……貴様らを裁き終えるまで……我の剣戟は止まらぬ……!!!』
「それ以上ダメージを受けても良いっていう宣戦布告でありますな?」
『そう捉えても構わぬ……我が身が滅びようと!! 裁きは終わらぬ……!!』
――英雄は、いつしか正気を失ってしまっていた。
だが、彼の身にある騎士道精神による『裁き』は、滅びてはいなかった……という事だろう。
堕落騎士『ロード・マグナス』の、最後の攻撃が始まる――!!
「これが最後の試練か……ダンジョンってこういう英雄すらモンスターにしちゃうんだから、少し怖いな」
希海は堕落騎士『ロード・マグナス』を見つめ、決心する。
「ともかく、こいつが核なら、容赦はしないよ」
剣を構え、英雄としての誇りを掲げ周囲の物を引き寄せ始める彼の者に対し、レインを集約させ【ストームブリンガー】を左手に生成し、構えて対峙する希海。
『我の力……受けてみよ!!』
堕落騎士『ロード・マグナス』が引き寄せに引き寄せて剣を振りかぶった瞬間、希海は√能力《ルートブレイカー》を発動し、右掌で鎧へと触れる。
「その力、消えなよ」
一気に瓦解していく鎧。剣も先程まであった闇の輝きを失う。
『な……!』
そして、ストームブリンガーを鎧の隙間へと刺し込むと、英雄は悲鳴を上げる。
「浅草は返してもらうよ」
『――ァァッッ!!!』
膝から倒れて、そのまま消滅していく堕落騎士『ロード・マグナス』。それと同時に、浅草駅の姿は元へと戻っていく。
浅草の地に平穏が戻った事を確認した√能力者達は、それぞれ安堵や喜びの表情を浮かべながら、いつも通りの日常を続けるのだった――。