シナリオ

【欧州天使事件】暗き森の中の光輪

#√汎神解剖機関 #天使化事変 #羅紗の魔術塔

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 #√汎神解剖機関
 #天使化事変
 #羅紗の魔術塔

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 ――汎神解剖機関のヨーロッパ某所。
 年端もいかない少年が、森の中を必死に走ってゆく。
「ここは街の人から絶対に入っちゃ駄目って言われてるけど……」
 異形と化した少年を、街の大人達は必死に匿って逃がしてくれた。
 彼らが『天使化』した少年を『羅紗の魔術塔』と呼ばれる独自の秘密組織から守るために。
 そして奇しくも、少年が迷い込んだ森はあらゆる霊障が起こることで有名な『悪霊の森』であった……。

「老若男女問わない『善良な人々』が、突如として「天使化」する事件が予知された」
 |連取《つなとり》・|佐《たすく》(不死身の強面系百面相おじさん(婚活中)・h02739)が星詠みの力によって、新たな事件を予知した。
「天使化っつーのは『善なる無私の心の持ち主のみ』が感染するとされるヨーロッパの風土病でな、人心の荒廃した現代では既に根絶したものと思われていた。しかしだ、今回、心が純粋な少年が天使化しちまった。この天使化は殆どの場合、感染者は『オルガノン・セラフィム』という怪物に変貌するんだが……この少年は怪物にならず、真に「天使」と化したんだ……つまり肉体は美しく異質な存在に変貌したが、理性と善の心を失っていない存在ってわけだ」

 この『天使』は今のところ√能力を使えないようだが、もはや一般社会で過ごしていくのは困難だ。
 しかもオルガノン・セラフィムは『天使』を捕食しようと襲ってくる。この少年が住んでいた街も、秘密組織『羅紗の魔術塔』の奴隷と成り果てた『オルガノン・セラフィム』の群れに破壊されてしまった。

「その『羅紗の魔術塔』なんだが、どうにも厄介な相手らしい。太古より続くヨーロッパ魔術士達の記憶を織り込んだ『羅紗(らしゃ)』を身にまとい、それを媒介にして戦う羅紗魔術士をメインとした勢力だとか。彼らは自国利益の為に汎神解剖機関と対立しており、今回もオルガノン・セラフィムを奴隷化すべく現れるぞ。もちろん、『天使』を発見すれば天使を奴隷化しようとするだろうな。送り込まれてくるのは強大な羅紗魔術士にも注意を払ってくれ」

 まずは少年が逃げ込んだ『悪霊の森』に入り、少年を捜索しなくてはならない。
「ありとあらゆる霊障がみんなを妨害してくるはずだ。ポルターガイストや幻影なんかは当たり前だと思ってくれ。彷徨う悪霊達をなんとかすれば、自ずと少年の居場所はわかると予知されているぞ。そういえば、ヨーロッパの森まで近くの公衆男子トイレの個室のドアから行けるらしいぞ。こういうとき、√能力の境界渡りは便利だよな。それじゃ、頑張ってくれ」

 佐の声援を受けた√能力者は、指定された公園のトイレの個室のドアから√汎神解剖機関のヨーロッパの深淵の森へ出発してゆくのだった。

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第1章 冒険 『絡みつく不快な霊気が澱む地』


アリス・グラブズ

 |アリス・グラブズ《繧ウ繝溘Η繝九こ繝シ繧キ繝ァ繝ウ繝?ヰ繧、繧ケ $B%"%j%9(B》(平凡な自称妖怪(悪の怪人見習い)・h03259)は予知の内容に憤慨していた。
「さすがに公衆トイレの個室のドアからの出発はどうかと思うわ! |元の姿《異形形態》で入ったから問題ないとけど!」
 エメラルドグリーンの体表をうねらせる蛸のような触腕生物が憤る。確かに誰もいないとはいえ女性が公衆男子トイレに押し入る光景は見られたくないのだろう。それ故の異形体での境界渡りであった。
「で、ここが悪霊の森? なんだか湿気が多い場所ね?」
 昼間だというのに陽の光は全く差し込まず、湿った腐葉土の地面からカビ臭い湿気が辺り一面に発散される鬱蒼とした森は、それだけで人を遠ざけるに十分だろう。
「霊障が酷いらしいから、こういうときは現地の物を食べて体をなじませなきゃ! ってことで襲われないためにも、そこら辺の木々や違和感なんかを食べよっと! いただきま〜す! 縺�◆縺�縺阪∪繝シ縺呻シ�」
 アリスは√能力『ごはんのじかん』を発動させ、周囲半径24m圏内の自然界の物質をまとめて触腕で絡め取って口元に突っ込んでみせた。
「むっ、もっ……さすがヨーロッパね! 日本とは岩や木々の味が違うのね!」
 しっかり味わった後に、アリスは本来の自らの身体性能を解放した。
「うんうん、匂うよ、最近ここを動物じゃないナニカが通ったね。多分、天使の男の子の匂いだよね? そして……うん、聞こえる! あの子、寂しくて泣いてるみたい。可哀想に……」
 アリスは地球外からやってきた『外来種』であり、人間とは感覚器官の鋭さが雲泥の差で優れているのだ。故に身体性能を取り戻した今の彼女なら、森全体の生命の営みをすべて把握できてしまうほどに敏感な聴覚と嗅覚を発揮できる。
 故に、森の霊障もアリスにとっては単なるアトラクションにすぎない。
「石が勝手に飛んでくる! おもしろーい! えいっ!」
 ポルターガイストによって飛んできた石を触腕でキャッチしてモグモグ、更に身体能力を強化!
 ならば、と悪霊達は幻視を発現させるのだが……。
「人間と視覚情報の量が違うんだよ。そんなの無駄だわ」
 幻視をすぐに見破ると、なんと悪霊を触腕で掴んでみせるアリス。
「そういえば悪霊って食べられるのかな? 実際こうして掴めるんだし、ちょっと齧ってみよーっと!」
 こうしてアリスが通り過ぎた森のルートは、悪霊達が激減して何故か浄化されていたそうな。
「なんか……出汁醤油に浸したグレープ味のこんにゃくゼリーみたいな味と食感がするのね、悪霊って……」
 なお、あまり美味しくなかったらしい。
 

カシム・ディーン

 カシム・ディーン(人間(√ドラゴンファンタジー)の戦線工兵・h01897)が悪霊の森に到着すると、例のロボットメルクリウスが森の入口に待機していた。すごく目立つ。
「ご主人サマー☆ メルシーも連れてって―☆ 天使な美少年って素敵だぞ☆」
「あほかおめーはー!? 森におめーみたいなでかいロボなんぞ連れてけるわけねーだろ、アホンダラ! 兎に角! おめーは此処で待ってろ! そのまま朽ち果ててもいいからな!」
「えー☆ メルシーは滅びないぞ☆」
「知るかぁ!?」
 怒りながらカシムは悪霊の森へと足を踏み入れてしまった。
「ふふふ、メルシーはもうひとつの顔があるのDA☆」
 体高5mの巨体が七色に輝き、そのシルエットがみるみるうちに縮んでゆく……。

「つか悪霊とか魔術系盗賊のカシムさんの出番ですよね! ふんっ! √能力『竜眼魔弾』発動! 浄化属性の魔弾を装填! 悪霊や幻術を弾丸で撃ち抜けば強制ナムアミダブツだ!」

 カシムは飛んでくる倒木や怪物の幻影などを片っ端から浄化魔弾を撃ち抜きまくって消し去ってゆくのだが、いかんせん四方八方から飛んでくるのでリロードの回数が増えてくる。
「やっぱり厄介だなおい……! うお、やべぇ!?」
 リロード中の隙を突かれたカシム、泥沼に足を引き釣りこまれてゆく!
 絶体絶命!
「これはチャンス☆」
 と、ここで謎の銀髪少女が、手に握りしめていた賢者の石を魔力増幅路として念動力を発動させた!
「大丈夫!? 今引っ張り上げるよ!」
「え? 突然年上に女の子が僕の危機に駆け付けてきた……だと!?」
 凄まじい念動力で地上へ生還したカシムは、女性の腕の中へ迎えられた。
「無事だったねご主人サマ☆ さぁ、此処は熱いキスで生の喜びを分かち合うぞ☆」
「ななっ!? 突然のご都合展開だと……? これは頂きまーぁ……あん?」
 カシム、眼の前の存在の魔力波形に見覚えが遭った。
「おめーかよぉ!? 悪霊退散ンーッ!!」
 カシムは浄化魔弾を女性の眉間へ撃ち込んだ!
 額から血ではなく白金の液体を噴出させながらぶっ倒れる女性が、ヘラヘラ笑っている……。
「ぐぇぇぇ☆ ご主人サマのいる所メルシーありだぞ☆」
 すっくと立ち上がると、額の中から弾丸を指でほじって外へ排出。更に傷口を一瞬で癒やしてみせた。謎のエフェクトが背後でやかましい。
「いや前に合ったけどそれなんだよ!?」
「スーパーロボットの嗜みだぞ☆」
 ……ということで、魔力を辿って天使化した少年の行方を二人は追うのだった。

神代・神影

 |神代《かじろ》・|神影《みかげ》(泥羅夜・h05487)は悪霊の森へ立ち寄る前に、天使化した少年が暮らしていた小さな街に立ち寄っていた。そこはオルガノン・セラフィム達の襲撃を受けて、至る所が瓦礫の山と成り果てていた。
「街……天使になった子が居ないなら、壊す必要なんてなかったでしょ。奴隷化してるなら制御だって出来た筈……。まさか『お前が逃げたせいだ』とでも言うつもり……?」
 心が純粋な少年の罪悪感を煽るにはもってこいだろうな、とは神代は思った。
 怒りを抱えたまま、彼は悪霊の森の中へと分け入ってゆく。
「とりあえず、この水琴鈴に霊力を込めて鳴らす事で悪霊を祓えないか試してみよう」
 ちりんちりん、暗い森に清浄な音色が響く。すると僅かだがまとわりつく空気が軽くなった。悪いモノが周囲から逃げているのだろう。
 しかし、遠距離から飛んでくるポルタ―ガイスト投擲物が神代を狙う。
「甘いよ」
 式札から生成する刀『彼岸断ち』を振るい、即座に斬り捨てる。ついでに刀身をも音すごく伸ばして投げつけてきた悪霊へアウトレンジの刺突をかまして消滅させた。
「ふう、どこもかしこも良くないモノばかりだ。兎に角、森の清浄化のためにあてどなく歩き回ってみようかな。もしかしたら、件の少年に出会えるかもしれないし」
 刀をマチェット代わりに邪魔な枝切を斬り捨てながら、神代は直感で森の中を突き進む。
「この藪も邪魔だから切り払おう、それっ」
 すぱーんっと目の前の藪を斬り捨てると、その中から身を隠していた天使化した少年がびっくりした顔で神代を見ていた。
「ワオ……サムライ!!」
「……あっぶな。保護対象を斬るとこだった」
 
 ――とにかく√能力者と天使化少年の邂逅は無事に果たせたのだった。

叢雲・颯

 叢雲・颯(チープ・ヒーロー『スケアクロウ』・h01207)は暗くじめじめした悪霊の森の中を進んでいく。
「ふむ……怪異や悪霊が渦巻く森か。厄介だな。一般社会で怪異が起これば それは『異変』として目立つ……だが、ここではそれが当たり前。捜査の障害になる可能性が高いな。ならば……」
 颯は怪異鎮圧弾丸『杜鵑』を義手に装填し発火させる。更にルート能力『案山子の潜入』を発動させると、隠密潜入体勢を取って移動を開始した。移動力と戦闘力が3分の1になるが、そのかわりに肉眼以外のあらゆる探知を無効化できるのだ。
「いちいち相手していられないからな……」
 颯は木々に身を隠しながら悪霊の群れを掻い潜りつつ、少年の痕跡を探す。
「ここにいるのはほぼ悪霊や怪異の非実体存在……ならば、逆に物理的足跡がれば、それは羅紗の魔術師か少年の物しか残らないはずだ」
 木々を分け入った痕跡や足跡を辿ってゆくと、颯もまた他の√能力者達とともに少年の下へ辿り着くのだった。

第2章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』


 天使化した少年はひどく怯えながらも、自分の街の様子を気にかけていた。
「街の人達は僕を匿ったばっかりに、オルガノン・セラフィム達に街を破壊されてしまいました。皆さんの安否が気がかりでなりません……」
 真に純粋で善良な存在こそが、天使化してもオルガノン・セラフィムにならずに自我を保っていられる。まさに目の前の少年はその最たる例と言えるだろう。

 だが、そのオルガノン・セラフィムがとうとう悪霊の森にまで押し寄せてきた。
 奴等に自我はなく、集団で狩りをする猟犬のような存在に成り下がっている。
 しかも相当な数が押し寄せているため、こちらも【6人以上の徒党を組む必要がある】だろう。
 急ぎ仲間に声をかけて駆けつけてもらうことに期待するほかない……!
アリス・グラブズ

 アリス・グラブズ(平凡な自称妖怪(悪の怪人見習い)・h03259)は天使化した少年を怖がらせないように人間の姿で接していた。
「わ! たくさん来たね! 危ないから下がってて!」
「でもあなたの身に危険が及びます……! 一緒に逃げましょう!」
 少年はアリスの身を案じて手を引いて森の奥へ逃がそうとする。本当に心根優しい少年である。
 しかし、√能力者のアリスには戦う力がある。√能力で『別個体のワタシ(本来の姿)』を襲ってくるオルガノン・セラフィムの数だけ召喚すると、爪やはらわた若しくは口で組み付いてくる相手を取り込み始めた。
「やっぱり敵は天使君を狙ってきてるみたいね? だったらワタシタチは天使君を取り囲むようにガード! 囮で得物を引き寄せて狩ってゆくわ! 爪はこちらも爪で受け止めて、蠢くはらわたは触腕で絡めとり、別個体の『ワタシ』に異様な開き方をする口で嚙みついた所をこちらもみんなで集ってガジガジ齧るの!」
 まるでオルガノン・セラフィムが狩られるために存在しているかのように錯覚するほど、鮮やかなアリスの狩猟方法は押し寄せる敵を次々と駆逐してゆく。
「あら? この『ワタシ』はもうボロボロで駄目ね? それじゃあ……えいっ!」
 本体であるアリスは瀕死の別個体の『ワタシ』を敵のド真ん中へえ投げ入れる。着弾した瀕死の個体から肉片が飛び散り、オルガノン・セラフィム達を侵食して自壊させてゆくのだ。細胞そのものが敵を食らっている……!
「やっぱりおとり漁は楽でいいわ! 入れ喰いってやつね!」
 敵を食らうたびに肌の血色が良くなるアリスの様子に、天使化した少年は絶句して一言も発せずに固まっていた。

叢雲・颯
モコ・ブラウン
日南・カナタ
広瀬・御影

 叢雲・颯(チープ・ヒーロー『スケアクロウ』・h01207)は事態の深刻さを察知すると、一度彼女は自身が所属する八曲署『捜査三課』に戻って応援を要請していたのだ。
 そして颯は仲間とともに、再び悪霊の森へやってきた。ただし、そこには大量のオルガノン・セラフィムの群れが殺気立って徘徊していた。
「カナタくん、みーくん、モコさん。来てくれてありがとう」
 木の幹に身を隠しつつ、来てくれた三課の仲間達に挨拶する颯。彼女のもとには、天使化した少年も身を震わせて茂みの中に隠れていた。
 颯の足元の腐葉土の中から顔を出すのはモコ・ブラウン(化けモグラ・h00344)。
「よー、楓ちゃん。報酬は弾んでくれるんモグよなぁ?」
 そんな軽口を叩きながら、モグラは一瞬でボブショートの気だるげな女性へ変身した。こんな口振りだが、仲間の助けにはいの一番に駆けつけたいと願う秘めたる熱い心の持ち主である。
 颯は三課の仲間達に今回の事件の状況を手早く簡潔に伝えると、広瀬・御影(半人半妖の狐耳少女不良警官・h00999)は目を丸くしながら頷いた。
「成程。成程?」
「みーくん、理解できてる?」
 不安げな颯の表情に、御影は笑顔で即答した。
「敵をぶっ倒すニャン!」
「認識は間違ってない! ヨシッ!」
 思わず片足をあげて指差し確認をしてしまう颯である。
 そして今回の応援で唯一の男性、日南・カナタ(新人警視庁異能捜査官カミガリ・h01454)は小声で元気よく敬礼してみせた。
「叢雲先輩! 応援に来ました!」
「カナタくんもありがとう。では、みんな、作戦通りに。行くぞ!」
 颯はヒーローお面の電光レッドマスターのお面を顔に装着すると……あえて『目立つ』べくオルガノン・セラフィムの目の前まで駆け出した!
「とぉう!!」
 両手を伸ばした新体操めいたジャンプ! 軽やかに空中で回転し、腐葉土の不安定な足場にも関わらず微塵もブレずに着地! 体幹が強い!
「オルガノン・セラフィム! 無垢な少年を襲う、その貴様らの蛮行!! ブッダが許しても……俺は許さん!!」
 特撮番組めいたセリフとともに繰り出される、無駄に洗練されてる無駄な動作が多すぎるキレッキレのポーズを披露して敵の注目を惹きつける!
 セリフよりもボディーランゲージのほうがうるさい!
「貴様らを裁く俺の名は!! 電光! レェェッド・マスター―!!」
 事前に仕込んでおいたラジカセの再生ボタンを押すと、戦闘BGMが流れ出す!
 ポージングのあとに再生ボタンを押すというひと手間のお陰で、絶妙にシュールな空気が流れてゆく!
「さあ少年! 危ないから後ろに隠れるんだぁぁ!!」
 なぜか語気が強い! しかし少年の事を言及したため、オルガノン・セラフィムは目の前のヒーローよりも獲物に興味が移ってしまう。
「わぁ……! 先輩、それ余計な一言ですよ……!」
 敵の注目を浴びたカナタが困惑しながらも、すぐさま少年を保護するべく動き出す。
 少年に自身のオーバーコートを渡して、頭から被って貰うように伝えると、カナタは少年の頭を優しく撫でて告げた。
「追手は君を狙っているからね、だからこれで姿を隠してて」
 実際はオルガノン・セラフィムを倒す所を見せたくないから、という配慮もある。
(見た目は怪物だけど、オルガノン・セラフィムって元は人間だったんだよな……)
 自我と理性を失っているとはいえ、そんな存在を抹殺しようとしている状況にカナタは躊躇を覚えていた。
(叢雲先輩だって、きっと心のなかでは葛藤しているはずだ……だからヒーローという体裁で、心を鬼にしてるんだ……)
 キレッキレなヒーロームーブの意味を彼自身はそう解釈した後、急いで戦場に戻ってきたカナタは衝撃を覚えた。
「うおおおおおーーーー! ジャスティスパアァァァァンチ!」
 そこには、自身の義手・義足を妖気を放つ漆黒に輝く対怪異殲滅形態に変形させて、オルガノン・セラフィムの顔面に燃え盛る火の玉右ストレートパンチを叩き込む颯の姿があった。
 まったくの躊躇ゼロ! 清々しいまでの悪即滅の精神! そして動作がうるさい!
「……ははは」
 思わず乾いた笑いが出てしまうカナタ。
 そこへやってきた御影が神妙な面持ちで尋ねた。
「どうしたのかワン、かなた君? 2晩煮込んだカレーでお腹壊したときみたいな……『あのカレー、すごく美味しかったけど食中毒になるんだな……」っていう悟りを開いた時の微妙な表情してるニャン?」
 御影はカナタのサポートに徹するべく、彼の背中を守るように動くべく近付いてきた。
 正義の味方の助けをするのも、正義の味方だからだ。だからカナタの心のケアも御影にとってはヒーロー行為の一環だと考えたのだ。
 対してカナタは口角を上げて語りだす。
「いや、元人間の怪物相手に、叢雲先輩は躊躇なんてせずに殴り殺してるんで。あの人の徹底したヒーロー像が……ちょっとカッケーなぁって思っただけですよ」
「成程、わからん。って、ちょっと、流石にオイタが過ぎるって」
 瀕死になったオルガノン・セラフィム達に祝福が降り注ぎ、10分間傷が全快してしまう。それを防ぐために御影は√能力による射撃で他√から敵を狙撃してみせた。不可思議な軌道で放たれた弾丸は敵の頭部を粉々にふっとばしてヘッドショット!
「即死しちゃえば傷が癒えることはないワンね?」
 ワンショットワンキルを徹底してゆく御影は、颯が悪目立ちしてくれているおかげで狙撃し放題であった。
「モコ君やカナタ君に敵の意識が向かないよう派手に…とは思うけど、かえで君が十分目立っているワンね、これ」
「やっぱ先輩はすごい! そうだよね、今守るものははっきりしてるんだから迷う必要なんてないよね!」
 何かを吹っ切れたカナタもまた、√能力でオルガノン・セラフィム達に震度7相当の振動を与えて高度を阻害。他の仲間がとどめを刺しやすくするサポートに徹したのだ。
 そんな中、カナタや御影にハンドサインを送って行動を指示し続けているのがモコであった。まさに影の指揮官である。
「さすが、颯ちゃんは目立つモグねぇ……堂々としてるモグ」
 どんな場所でもいつも通りの颯に思わず笑みが溢れるモコ。
「敵の注意を惹きつけてくれるおかげで仕事がやりやすいモグ……。そして、ふむ。カナタくんもそれに影響されてか吹っ切れているみたいモグ。一皮むけたようで何よりモグね。みーくんの一撃必殺も助かるモグ」
 仲間の成長と活躍を見定めながら、戦況をハンドサインで逐次コントロールしてゆくモコ。戦闘指揮官としての技量はずば抜けているようだ。
 そしてモコ自身も隙を見て敵の背後から銃を乱射!
 こちらに攻撃する敵には『モグラ先制射撃』でカウンターしヒット・アンド・アウェイ。戦場を撹乱するのだった。

神代・神影

 神代・神影(泥羅夜・h05487)もオルガノン・セラフィムの群れと遭遇すると、すかさず√能力によって、式札から生成した異国の黒装束を纏う。更に式札から棺型の火器兵装『パニッシュメント』を生成すると、兵装下部に備わったミニガンから弾丸を乱射して弾幕を張った。
「個々の判断能力がそんなに高くないのは幸いかな……。それでも、この数は脅威だけど」
 オルガノン・セラフィムの群れは互いの頭上に祝福を降り注がせ、10分間だけあらゆる傷や状態異常が瞬時に超回復する恩恵を獲得した。これにより、即死以外は実質上ダメージ無効になってしまう。
 故に神影は回復力よりもダメージが上回るように、弾幕を張って敵へ絶えずダメージを与え続ける。
 だがオルガノン・セラフィムは数で神影と天使化した少年を徐々に圧倒し始めた。
「マズイかも。このままじゃジリ貧だね」
 不利を悟った神影は、少年の前に『パニッシュメント』を突き刺して盾代わりにすると、自身は√能力で強化された移動速度と2倍の近接攻撃力を誇る『獣化の貫手』でオルガノン・セラフィムの皮膚を次々と刺し貫いていった。
「うん、急所を打ち抜けば流石に回復が間に合わずに息絶えるね。即死攻撃、大正解だね」
 攻略法が分かれば神影の有利は揺るがない。神影は凄まじい足捌きの速度で森を駆け巡ると、一体、また一体とオルガノン・セラフィムの急所を貫手で潰して少年を守り抜いてみせるのだった。

カシム・ディーン

 カシム・ディーン(人間(√ドラゴンファンタジー)の戦線工兵・h01897)は周囲に現れたオルガノン・セラフィムの群れを見て、何故か額の汗を拭う仕草をしてみせた。
「此奴らがやべー天使か……成程な、怪物そのものじゃねーか。くっ……善なる心の塊であるカシムさんも、危うく感染するところだったぜ!」
「善なる神様のメルシーも危うく天使になっちゃうところだったぞ☆ おお、怖い怖い☆」
 隣でわざとらしく身体を震わせる白金の神の少女ことメルクリウス。
 だがカシムは彼女の正体を知っている。
「おめーはロボだろうが!? つか神様!? おめーみてーなスットコドッコイのどこが神様だぼけぇ!!」
「ロボだって美少女になったり神様になったりする事もあるんだよ、ご主人サマ☆」
「自分で美少女とか言い切るのかよ、世話ねぇな!?」
 嫌味を言い放つカシムは、敵が身に付ける黄金の生体機械による先制攻撃をどうにか避けながら逃げていた。森の木々が遮蔽物となり、黄金の生体機械の射程を遮ってくれているのだ。だが、先制攻撃を行ったオルガノン・セラフィムは隠密化し、その姿をくらませてしまった。カシム達は姿が見えない敵に取り囲まれる状況に陥ってしまう。
「ちっ……数が多いな。おいメルシーとかいったな? なにか打開策はねーのか?」
「んー……あるけど、対軍撃滅機構は……使えないか☆ ざぁんねん☆」
「てめーが何をやろうとしたか分からねーが、それはぜってーやめろよな!?」
 嫌な予感がしたカシムはメルクリウスへ釘を差した後、銃器に変化した賢者の石とカシムカスタムで念動光弾と凍結弾を乱射する! 更に、√能力で高まった身体能力で飛び回り猛攻を仕掛ける。
「急に身体のキレが増しただと……これもおめーの力か……!?」
 驚くカシムへ、メルクリウスは笑顔で首を横に振った。
「ちがうってば、これはご主人サマの力だよ☆ 確かにこの能力はメルシーに起因してるけど、それもまたご主人サマの力でもあるからね☆ メルシーが居ればご主人サマは神を超え、悪魔も倒せるぞ☆」
「……ちっ……そういうなら、僕の役に立って貰うからな!」
 カシムは見えない敵を倒すべく、全方位に凍結属性の念動光弾を乱射することで敵を寄せ付けない。背後から迫る敵も、今はメルクリウスが対応してくれている。
「勿論メルシーは役に立つよ、ご主人サマ☆ 今からメルシーの凄い所見せちゃうぞ☆」
 メルクリウスは√能力を解放し、その手に輝く大鎌を具現化させた。
「ハルペー・オブ・ヘルメース! うりゃー☆」
 そしてその鎌剣を巨大化させると、射程内20mの敵全員を真一文字に斬り裂いて蹂躙してみせた!
「天使は神様の下僕だぞ☆ 下剋上は許さないよ☆」
 不思議なことに、周囲の巨木を一体切り倒さずに敵の身体だけ引き裂いたメルクリウスは、もう1回その場でくるりんぱとターンする。姿を隠したオルガノン・セラフィム達は、輝く大鎌の刃から逃れられずに刈り取られて絶命するのであった。

第3章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』


 羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』は本来、自らが出向くことを考えていなかった。
 しかし、あれだけのオルガノン・セラフィムの群れを難なく退けた√能力者達に興味をそそられた。
「天使化した少年とともに、能力者のサンプルが欲しいですね。きっと強力な天使が生まれるでしょう」
 アマランスは√能力者を殺して生体兵器に仕立てるつもりなのだろうか?
 天使化した少年を守る√能力者達は、いきなり現れた羅紗の魔術士との直接対決に強制突入するのであった……!
カシム・ディーン

 カシム・ディーン(人間(√ドラゴンファンタジー)の戦線工兵・h01897)は、唐突に鼻をくすぐる香りに目を細める。
「戦場に似つかわしいいい匂い、これは……?」
「ご主人サマー☆ 美味しそうな鮭が取れたからちゃんちゃん焼き作ったぞ☆」
「おめーは何やってるんだよ!? まぁ食うが? ……まぁ美味いな」
 カシムは戦場で呑気に食事をしている。食べれば食べるほど、カシムの思考が冴え渡ってゆく。
 食事を提供したのは、カシムにつきまとうメルクリウスだ。彼女は人間の姿をしているが、すぐに本来の姿である巨大なロボに変身する。
『さぁ……メルシーの中へ乗るんだ、ご主人サマ……☆ ハァハァ……』
「なんでそんなに興奮してんだよ!?」
 それでもカシムは素直に乗り込むのだった。
 この一連の流れを羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』は虚無の表情で見守っていた。
「私はどんな感情で見守ればいいのだ? 攻撃してよかったのか?」
 虚しく思いながらアラマンスは10秒瞑想して、自身の記憶世界【羅紗の記憶海】から【知られざる古代の怪異】を1体召喚する。召喚された怪異はアラマンスと同じ行動を採る。
「ロボといえど単独、数ではこちらが勝っている」
 挟撃してメルクリウスへ魔法弾を連射するアマランス!
 メルクリウスは爆発!
「的がデカいだけで大したことないな……む?」
 アラマンスは自身が放った魔法弾が全て命中していないことに気が付いた。そしてメルクリウスの姿が消えている!
「消えた、だと……? うグッ!?」
 戸惑うアラマンスの背後に、いきなり鋭い痛みが走る!
「畜生……エロい体のお姉さんだが、ぶちのめすしかできねーなんてよぉ!」
『メルシー的にも分からせたかったけど、叩き潰すしかなさそうだね……』
 メルクリウスは自身の身体に光学迷彩魔術を施し、視界と気配を消して2回攻撃を放つ。
 √能力で範囲攻撃かつ2回攻撃を放つことで、敵の人数などお構い無しに大鎌を振り回すメルクリウス。
「圧倒的だな! 生体サンプルはおめーがなりやがれ!」
 カシムはアラマンスを攻撃しつつ、その魔力を奪ってゆくのだった。

アリス・グラブズ

 アリス・グラブズ(平凡な自称妖怪(悪の怪人見習い)・h03259)は歓喜した。彼女は空腹に我慢できず、かつより美味なる獲物を欲していたからだ。
「あら! 大物が釣れたみたい! アナタ、アラマンスっていうの? 美味しそうな名前ね!」
 屈託ないい笑顔と凶暴な食欲を同居させるアリスに、アラマンスは初めて目の前の存在が異物であることに気がつく。
「私を食べようというのですか? まさか、同族……?」
「まぁ! 失礼しちゃうわ! アタシをあんな安っぽいお肉と一緒にしないでよ!」
 カンカンに怒り出すアリスは、自分の同位体……地球外生命体である本来の姿の別個体を呼び出す。
「でも齧るにはちょっと活きが良すぎるかな! もう少し弱らせてみよう! だから手伝ってね、もう一人の『アタシ』!」
 緑色の粘液を滴らせながら、触腕を振り回す『アタシ』。
 これにアラマンスも召喚物で対抗する。
「なんですか、その生物は……!? ええい、私を守りなさい!」
 奴隷怪異「レムレース・アルブス」を召喚し、攻撃技「嘆きの光ラメントゥム」を放つように命令するアラマンス。怪光線がアリスと『アタシ』に容赦なく襲い来る。
 だがアリスはこれを近くに生えていた巨木を引っこ抜き(!)、まるで日傘代わりににして光線を遮ってみせたではないか!
「レディーのお肌をそんな強い光で傷つけようだなんて野蛮だわ!」
 アリスは引っこ抜いた巨木を振り回す! それだけで周囲を薙ぎ払う強力な歯に攻撃を繰り出してみせる。更に遠心力をつけた巨木をアラマンスとレムレース・アルブスへ向けて投擲!
「えいっ☆」
 掛け声はカワイイが、巨木が着弾した箇所は地鳴りとともに土埃がもうもうと舞う大惨事に発展している!
「ゲホゲホ……ッ! なんて怪力なのでしょうか! ハッ!? レムレース・アルブス!?」
 アラマンスは巨木の下敷きになった下僕怪異に目を疑った。更に、巨木のしたから蠢く『アタシ』が下僕怪異ごと巨木を咀嚼し始めたではないか。
「何が起きているのですか!?」
 あまりの力技の連続に、アラマンスは恐慌してゆく。だが本当の恐怖はここからだった。
「捕まえたわ! さあ、アナタが! 泣いて! 誤るまで! ぶつわよ!」
 人間のそれとは到底思えない握力でアラマンスの手首は少女に握り潰されかかっていた。そして容赦なく何度も拳を叩きつけるパウンド攻撃が繰り出される!
「がっ! うごッ!? や、やめ……おえぇ……!」
「まだかな♪ 早く弱らないかな♪ 上手く弱ったらどこから齧ろうかしら♪」
 アリスは笑顔が続くのだった。

叢雲・颯
日南・カナタ
モコ・ブラウン
広瀬・御影

 傷だらけの羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』に立ちはだかるは、八曲署『捜査三課』メンバー4人だ。
「生体兵器ってどの視点からもロクなもんじゃニャイと思うけどねぇ」
 広瀬・御影(半人半妖の狐耳少女不良警官・h00999)はあくびをしながらアマランスへ告げた。
「みーくん達をサンプルにしたいなら、それは無理な話だワン」
 これに相槌を打つモコ・ブラウン(化けモグラ・h00344)。彼女は以前にもアマランスを撃破した覚えがあった。
「またお前モグか、アマランス……」
 相手は目を細めて訝しむ。やはり予想した通り、モコのことは覚えてない。恐らく前に倒したアマランスは質量のある幻影なのか、他の怪物へ自分の姿と記憶を植え付けた偽物だったのかもしれない。
「そろそろ諦めて欲しいもんモグな? 生体サンプル? ハン、寝言は寝てから言うモグね?」

「本当にそうですよーー! この期に及んで勝機があるかのような強気発言……! 自分の置かれてる状況、理解できてます!?」
 日南・カナタ(新人警視庁異能捜査官カミガリ・h01454)はアマランスの頭をグルグルと円を描くように指差す。まるで可哀想な思考と知能の持ち主を憐れむかのように。
「大体、能力者のサンプルが欲しいって……今までボコボコにされてまだそれ言うメンタルが逆に尊敬しますよ、何が失敗なのかも理解できていない残念な方なのですか!? って、いやいや! 逆にあんたが身柄を拘束される側なんだかんな!」
 カナタは懐から警察手帳を相手に突き出す。
「|警視庁異能捜査官《カミガリ》ナメめんな! 大人しく投降するなら……ってやっぱりそんな気さらさらにないか!」
 奴隷怪異「レムレース・アルブス」を召喚し、羅紗から輝く文字列を放ち、
更には10秒瞑想して、自身の記憶世界【羅紗の記憶海】から知られざる古代の怪異を1体召喚するアラマンス。
「こちらも切羽詰まってるのは理解しているのです。全力で参りましょう」
 アラマンス、持てる全能力者で『捜査三課』を襲い始めた!
 これに咄嗟にモコが地中にいるモグラたちに呼びかけた。
「お前ら!出番モグよ!」
 すると、いきなり地中から30匹近くのモグラ部隊が地上に顔を出す。
「「キューイ!」」
 揃った鳴き声を発したあと彼らは地中へ潜る。それっきり音沙汰がなくなってしまうが、モコは作戦通りだと笑みをこぼした。
「先輩方、少年は俺が守ってますので思う存分やっちゃってください!」
 対して、カフカは天使化した少年を守ることだけを念頭に置いて行動する。カフカ自身に襲ってくる怪異レムレース・アルブスは√能力『ルートブレイカー』で無効化!
「ちょっと邪魔だ!」
「グオォォォ……!?」
 レムレース・アルブス、カフカと融合しようと近付きすぎたのが仇となってしまった。カフカが右掌で触れた√能力はどんなものでも無効化される、それが召喚物だった場合、目の前から完全に消滅する!
「お兄さん、すごいです!」
 目を輝かせる少年へ、カフカは笑顔を見せて勇気付けた。
「大丈夫だからね。絶対守るからね」
 少年は大きく頷くと、カフカに張り付いてそばから離れまいと必死に身を隠すのだった。
「なんか面倒なモノがでてきたニャン! 注意するワン!」
 御影はアラマンスの攻撃を仲間に知らせると、√能力で発射した弾丸を絶対死角から放ち続ける。
「その瞑想、どこまで続くかニャン?」
「ぐっ……神聖な瞑想の最中になんてことを!」
 召喚した怪異を盾に使おうとも、御影の弾丸の軌道は世界を超えて死角へと届けられる。故に物理的な遮蔽物など無意味なのだ。更に瞑想を阻害されたことで、召喚物の性能もだだ下がりだ。
 この展開を唯一、静観し続けていた叢雲・颯(チープ・ヒーロー『レッドマスター』・h01207)は何かに気が付いた。

「雑兵が出てきた後に強大な敵幹部の登場……しかも敵対組織…第3勢力の介入……! これは間違いない……!」
 颯は真面目な顔で叫んだ。
「特撮ヒーローものにおける、中盤から後半の展開だ!!!」
「「ハァ????」」
 仲間もアラマンスも全員がネコミームめいた呆れた表情で颯を見詰めた。
「アイキャッチからの猛烈なバトル展開! ここはヒーローの出番だな! さて、接敵した以上は対処するのがお仕事。ということで仕切り直させてもらうぞ……むっ!? お前は何者だ!?」
「何なのですか、この身振りも声も表情もうるさい人は?」
 アラマンスが召喚物をけしかけるが、それをパンチひとつで颯は粉砕!
「子供を生物兵器だって!? そんな非道! 許すものか! みんな いくぞ!」
 いや、もう戦ってるんだって……三課はこころの中で総ツッコミ!
「真紅の電光石火! レッド・マスター!!」
 ニンジャにおけるアイサツの如く、名乗り中の妨害は実際御法度。ラジカセから流れるBGM!
「あー始まったワン。あとはレッドに任せて良さそうニャンねぇ」
 御影は颯の『通常運行』にケラケラ笑いながらアラマンスへ次元を飛び越す射撃を繰り返す。
 颯の義手に火食鳥と斑鳩を素早く装填。まずは火食鳥に点火!
 紅の業炎が腕に纏わりついて轟々と火の粉を森の中で撒き散らし始める!
「うおおおおおおおーっ!」
 能力を発動させてインファイトに持ち込む颯。召喚能力を封じるため、本体にそれらを出す猶予を与えないように超至近距離からの手数で圧倒するべきだと彼女のヒーロー敵思考が囁くのだ。高速で畳みかけると、アラマンスはあからさまに距離と取りたがる。
「疾い……! なら、こういうのはどうです?」
 アラマンスはわざと颯に殴られて後方へ吹っ飛ぶ! その隙に奴隷怪異『レムレース・アルブス』を3体同時召喚すると、自身の傷を癒やす聖者の涙ラクリマ・サンクティを講師させた。
「距離が取れないなら、敢えて吹き飛ばされればいいのです。お陰で召喚する暇ができましたよ」
「くっ、やはり強敵だ! 一筋縄ではいかないか!」
 焦る颯。だがその様子はどこかワクワクしている。
「くっ……ここで負けてしまうのか!?」
 チラッチラッと仲間へ目配せをする。特に天使化した少年へ何かを求めるように何度も視線を交わす。
 これにモコは少年の方を叩いて颯を指差す。
「大変モグ! レッドマスターがピンチモグ! 大きな声で、レッドマスターを応援してあげるのモグ!」
「そ、そうですね! ヒーローは応援パワーを強さに変換するんです!」
 カナタも咄嗟にでまかせを口にする。そしてこの状況を御影はただニヤニヤしながら見守っている。
 声援を背に受けた颯は、2つ目の√能力の発動条件を満たして底力を解放!
「ありがとう! そうだ、ヒーローは声援を正義のパワーに変えて強くなれる!」
 天使化した少年の声援により正義の闘志が燃え上がる。なお、三課の仲間を呼ぶ前に仕込んでおいたラジカセから流れる感動系BGMがエモーショナルなアトモスフィアを演出する。
「オレ達は、ここで負けるわけにはいかないんだ……! 行くぞ、アマランス! レッドマスター、スタンバイ! チャージフレイム! 勇気爆裂ッ!」
 三課の仲間がラジカセの楽曲を、颯が大好きな特撮の主題歌に変更! 特撮番組特有のヒーロー覚醒シーンで主題歌が流れるあのシーンの再現だ! しかし繰り出されたのはアンブッシュ的指2本による非道目潰し! 相反する攻撃方法! 正義とは非情なのだ!
「グワアアアーッ!」
 召喚された奴隷怪異の1体がアラマンスを守るべく颯の前に立ちふさがるも、颯の貫手めいた目潰しによって眼球どころか前頭葉まで潰されて即死に至る!
 続けてゼロ距離で2体目の奴隷怪異の頭部へ拳を叩き込み『斑鳩』を点火!
 本日3個目の√能力だ! 特殊弾丸が装填された義手がスパークめいて激しく燃え盛る!
「お前のその『倫理観』で……一体、何人殺してきたのかな? 今からお前をアノヨへ送る! 歯を食いしばれ!」
「その手には食いません、よ?」
 すぐに森の奥へ逃げ出そうとするアラマンス。だがその脚が不意に地中へ陥没してハマってしまった。
「ああ、そこはモグラ部隊で掘り進めたあたりモグ。こうなることを予見して落とし穴を掘っておいたモグよ」
 したり顔のモコがガッツポーズ! やはり戦略指揮官の才能を発揮していたのだ。
 この隙に颯は燃え盛る有刺鉄線を鞭めいて叩きつけてアラマンスを絡め取ると、投げナイフめいて退魔効果を持つ五寸釘の束を3体目の奴隷怪異へ投擲! するとなんと、対象の影を五寸釘が『縫い付けて』身動きを封じる!
「|閻魔大王によろしく言っておいてくれ《アスタ・ラ・ビスタ》!」
 伝染性粒子崩壊を起こすオーラを纏った颯の拳打がアラマンスの鼻っ柱を叩き潰す!
「ギャアアアアアアーーーッッ!!!」
 肉体が分子分解されて風化するように崩壊してゆくアラマンスの断末魔が森の中に轟く。それが止み終われば、再び深淵の呪われた森は静けさを取り戻したのだった。

「ヒーローとは素晴らしいんですね……!」
 天使化した少年はそう言い残して、焼き払われた村へ戻っていた。
 もう村人も少年を腫れ物扱いにすることはない。ヒーローの心を学んだ少年は、率先して村の復興に携わっているのだから。
「よし、一件落着だな! EDテーマを流してくれないか?」
 颯のリクエストに御影がラジカセを弄って曲を流す。
「さあ、戻りましょう。三課へ!」
「なんかお腹へったモグ。せっかくヨーロッパに来たんだから現地のレストラン行きたいモグね」
 カナタとモコも日常に戻り笑顔が咲く。
 こうして、天使化事件は『三課』が無事に幕引きをして解決したのだった。

<了>

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挿絵イラスト