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●デカダンス
 強烈な情念によって――慾ある、邪念によって――僕はひとつのアヤマチを冒してしまった。しかし、僕は僕の所業を省みるつもりなどなく、僕は僕の為だけにやってしまったのだ。僕の中に潜んでいた邪悪が、退廃が、狂気が、これを招いたと謂うのであれば、僕はおそらく、それを受け入れる運命にあったのだろう。僕の傍らにはレディオが置いてある。レディオが流しているものは、伝播させている情報は、そうとも、まるでアルチュール・ランボー。地獄に対しての焦がれのような、ある種の、芸術至上主義だろうか。ともかく。僕は封印を解いてしまった。強き妖による|古妖の専制《デモンクラティア》を招いてしまったのだ。それが、何を齎すのかは知っている。享楽だ。僕は、殺戮の享楽と謂うものを、しっかりと、咀嚼したいからこそ……。

●垂れ流しのレディオ
「君達ぃ! ちょっと妖怪百鬼夜行で騒ぎが起きるようだ。これを如何にか解決してきてくれないかね。何ぃ? どうせお前の事だから手遅れなんだろう? だって? アッハッハ! わかっているじゃあないか。流石は君達!」
 星詠みである暗明・一五六の嗤いは不快なものではある。されど、この人間災厄は嘘を吐かない。それ故に最悪なのではあるが、ともかく。
「ラジオだとも! いや、レディオの方が良いかもしれないぜ。まあ、つまりは、情報だ。情報を殺す事は人間には難しいからねぇ。それも、既に流されてしまっては如何しようもない。何ぃ? 情報の内容だってぇ。そりゃあ君、古妖が垂らすとなれば、享楽さ、退廃さ! 手っ取り早い『殺し』の享楽ってことさ! なんだって? お前の好みじゃあないのかって? おいおい、我輩は命を大切にしてるんだ、そんな事を謂わないでくれ給えよ。まあ、精々頑張ってくれ給え。間違っても善良な妖怪や人間を殺すんじゃあないぜ?」

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第1章 冒険 『古妖の呪い』


 妖怪百鬼夜行――窮極的な温故知新の世界において、最もおそろしいものは吐故納新で在ろうか。いや、それとも違う、ある種の中間の蔓延りにこそ狂気と呼ばれるものは溜まっている。君達が迷い込んだのはひとつの色街と考えられ、だが、その色彩は『赤』の類にやられていた。散らばっているのは臓腑であった。転がっているのは頭蓋であった。からから、啼いているのは骨であった。殺戮を享楽とするので在れば、情念とするので在れば、成程、この光景も間違いではない――サア! 始まりました! このコーナー! エピキュリアンの殺戮激情について! マァ? この俺が? 態々、MCしてるんだから? 『ついて』話す必要なんかねーけどな! わかってくれる奴ぁ既に殺し合ってるんだろ! ギャハハハハ!!! 殺しは良いぜぇ? 何せ、地獄の季節が一色だ!
 妖怪達の、人間達の、殺し合った跡だけが残されていた。
 この場に存在しているのは君達だけ。
 君達は――何故だろうか。
 如何しようもなく狂いそうで、如何しようもなく殺したくなる!
 耐えなければならない。耐えて、古妖の居場所を特定しなくてはならない!
 さぁて? お便りが届いてるぜ。
 ええっと……ラジオネーム……おまわりさんからのお便り!
 なんだよこの名前!!!
四之宮・榴

 間違いを赦してはならない。
 情報だ。狂気と称される情報が、殺意と呼ばれる妄執が、情念の獣となって駆けていく。その粗っぽさの反面、ノイズもなく、ひどくクリアなのはある意味で古妖の性質を示しているのか。……ラジオ? ……レディオ? 柘榴みたいな惨状の中で、カーペットを踏まないように『往く』四之宮・榴はまったく慣れてしまったご様子だった。なら……スピーカーを探すのが……壊すのが、良いのでは? 正解ではないか。大正解ではないか。しかし、もしも『それ』が今回の黒幕の策で有ったのならば、如何するのか。……それこそ、願ってもないことですね。それに……殺人衝動と謂われましても、僕は、自死の衝動の方が強いので……。ギャハハ! 俺がMCをやってるってのに、マゾが混ざってるなんざ想定外だぜ! ……誰が、マゾですか。誰が。思っていたとしても、そういうのは、口にしない方が良いですよ。……此方の位置が、僕の存在が、把握されているのでしょうか? なら……想像しているより、近いところに潜んでいるのでは? まあ、それもですけど、僕は正直、興味がないのです。
 狂っているのか、狂っていないのか、そんな|前提《こと》は置いておいて、オマエ。何も感じないと謂うのは如何なものか。まるで、人間性を投棄したかのような、まるで、効率だけを求めているかのような、そんな、解決策。……僕の変化については、あとでも考えられます。死体、遺体……これらは、しっかりと埋葬して、行きたいです。囁きによって万が一までも消え失せたのだ。故に、人間らしさにもう一度、しがみつくと宜しい。……これは。転がっていた耳朶、その付近に横たわっていたのはイヤホンであろうか。……温故知新、でしょうか。どうやら、今回の黒幕は『大多数に伝える』のが、得意なのかもしれないです。手招きされた捕食者がイヤホンを啜っていく。啜る音に紛れていたのは、果たして、犬のような殺気であったのか。……生き残っている妖怪様が、いたのですか。
 牙が|深海《にく》にはじかれた。
 もちろん、反撃の『は』の字などせず、捕縛の方を試みる。
 ここで、殺してしまったら……黒幕様の、思い通りですから。

物部・武正

 MCの選択したものは令和におけるヒット曲か。血塗れ、臓物塗れ、そんな惨劇の中で聞く『愛』がテーマの歌とは中々に冒涜的であろう。続いてのお便りは……? おい、誰だってんだ。俺の放送にけち付けようってやつは? ああ? 能力者だぁ? ンなこたぁわかってんだよ! MCが憤慨している理由、それは、成程、きっと同族嫌悪の類に違いない。ウェ~イ、ラジオネーム・チャラ男ですよ~! お便りの中でも存在感を放っているのは外星体チヤラヲ。その喧しさは途轍もなく『狂気』の沙汰すらも辟易とさせるものだ。ゴキゲンなMCど~もど~も。なかなかイカスじゃん? まあ? この光景はどうかと思うケド。自分だけが楽しいラジオはラジオじゃねーし、それに、オレみてーなチャラ男にいちいち怒ってちゃあこの先やっていけねぇぜ? リスナーみんな死んじゃったら、お便りもらえないジャ~ン。アァ? テメェいい加減にくたばりやがれ! 死んだらそこらへん漂ってんだし、お便りもスムーズに届けられるんだよ! そんなカリカリしてたら焦げちまうぜ、ウェ~イ! そもそもオレに構ってる余裕あんの?
 今日のテーマじゃ、オレが送れるお便りないからダメ。殺戮が享楽だなんて宣うけれども、もっと享楽的な事があるのではないか。それこそ、カワイ子ちゃんとお酒を飲むとか? やっぱオシゴト以外で「殺したい」と思ったことなんかないしぃ? 「必要かどうか」でしか判断できないしぃ? ハッ! そうかよ! テメェにはステッカーやんねぇからな! え? もらえないのヤダ~。オレもラジオ出た~い。駄々をこねるではないか。我儘な外星体ではないか。これにはMCも頭を抱える以外にない。
 ……あ、乗っ取ればいいのか。聞き捨てならない台詞が飛び出した。MCの耳がぴくりと動く。その首洗って待ってろMC!!! MCの座は殺してでも奪い取る――! なんだ、しっかりと影響を受けているではないか。その殺意を古妖に叩きつけると宜しい。ま、いっか~! さあ、始まるぜ。『チヤラヲのオールナイトEDEN』!!!
 この楽園はぜってぇ失くさねぇかんな~~~!!!

ルトガルド・サスペリオルム
マスティマ・トランクィロ

 悪意はない。悪意はないのだ。だから、何処で失くしてしまったのかも、
 わからない。わからなくていい。
 |回転《マワ》れ|回転《マワ》れ、マンドレイク。引っこ抜かれるよりも前に、只、狂ったように|回転《マワ》ると良い。椿太夫の姿形を想いながら、可哀想は可愛いものだと囁きながら、クリアな狂気に耳を傾けると宜しい。わたし、カタツムリさん! 今日はコーヒーカップに……あら? 伯父様、コーヒーカップがないわ! 代わりに、おまわりさん! 今、おまわりさんって言ったかしら? わたし、おまわりさんがしたいわ。やっぱり時代はコーヒーカップではなくておまわりさん! 伯父様、知ってる? 知らなくても、そう思うはずよね! 今度やりましょう! ルトガルド……僕は、コーヒーカップは、もう十分楽しんだから……? おまわりさん? 巡査の愛称のことだと思ったけれど……? お座敷遊び? そういう遊びがあるんだね。ええ、伯父様! おまわりさんはおあそびよ! それと、伯父様、わたしはルルド! ぐるぐる、くるくる、カタツムリーグ制覇に向けての練習、その最中でもお名前の訂正だけは忘れない。そうだね、楽しい遊びなら是非。仕事が終わってからまた今度。まあ、伯父様ったら、頭が固いのね! そんなにも硬いなら、きっと、あんまり、割れることなんてないのかしら? 僕の頭を西瓜か何かと勘違いしていないかな? 西瓜と頭部の違いを幾つか答えよ。そんなことより伯父様、綺麗な景色ではないわ。まるで|玩具《●●》が🌈を吐いているかのよう! 清掃が行き届いてないみたい! カタツムリさんは這おうともしない。水溜まりを前にしてぼんやりする、子供のようなイメージ。
 それにしても酷い光景だね。きゃっきゃと、燥ぐカタツムリさんのお隣で紳士的なご対応だ。いくら余所見が得意だからって、この惨状、受け止める以外に術はない。生きている人――は、もう居ないかな。ルトガルド、足を滑らせないように気をつけて。伯父様! 伯父様! わたし、カタツムリさん! ナメクジさんみたいに、ドジなんてしないわ! でも、あら、何故かしら。なんだか……とっても……殺したいわ! 困ったわ!!! 不意に飛び出した殺意の宣言。これには流石の伯父様も吃驚するほどか。ルトガルド……? 話せば解るとは言わないけどね、少し落ち着こうか。君、今自分が、カタツムリさんとしても、とても恐ろしいことを言っている自覚はあるのかな。わたし、カタツムリさん! 自覚はあるわ! わたしは正気よ! あの『頭だけカタツムリさん』、これを我慢しろって言うのは、少し無理な相談ではないかしら? うずうず、うずうず、カタツムリさんがマンドレイクを踏んじゃった。あら! こんなところに居たのね! でも、野菜を殺したってたのしくないわ!!! ぴぃ、と、逃げていったマンドレイク。残ったのは災厄と紳士だけ。ところで……伯父様。伯父様って、殺しても死なないのよね!
 √能力者は一種の『不死』ではある。いや、死ぬには死ぬのだが、復活する事は容易なのだ。ならば、いっそ、能力者同士で、狂気を慰め合うというのは『あり』なのかもしれない。それなら殺しても良いのよね! 伯父様、黙って殺されてくれたほうが、死んでくれたほうが、良いと思うのよ。そうでないとわたし、ナメクジさんを殺してしまうもの!!! ナメクジさん……他の人を……? いや、それはだめだ、それは、いけない。たとえ、頭だけのカタツムリさんが赦したとしても、僕が、赦せない。じゃあ……こうしよう。ルトガルドが僕を捕まえられたら、好きに殺して良いよ。もちろん、僕は筆も早いし、駆け足だって速いから、そう簡単には捕まえられないけどね。コーカスレースも目を回す、命を懸けた追いかけっこ。果たして勝者は吸血鬼か、インサニティなカタツムリさんか。良いわ! わたし、カタツムリさん! 伯父様を捕まえて殺すの!!!
 かけるべきは命か、或いは、血か。此処は紳士的ではなく、能力者的に、つかずはなれずを意識すると宜しい。見つけるべきは『変化』だ。ラジオから流れているMCの声、もしくは、殺戮の痕跡に混じった患いの……。それにしても、どうやら僕はあまりこの狂気の影響は受けていないみたい。……と、思っているのが既に狂気なら、打つ手がないけどね……。気づいてはいけない。理解してはいけない。カタツムリさんの感染のように、声を掛けてはいけないのか。伯父様! 伯父様!!! 伯父様が死んでくれたら、めでたしよ! 通り縋った奇妙建築、そこにはひとつ、アンテナが嗤っていた。

アーシャ・ヴァリアント

 加速していく、倍加していく。濃厚な狂気が狂気に後押しされ、荒ぶるものへと進化していく。我慢に我慢を重ねていたのだ、おあずけを食らってしまったのだ。これ以上の『まて』は、文字通り、頭がおかしくなりそうだ。
 ――アタシは、もっと、見つめていたいのよ。
 アタシは、ほしくて、見つめたくて、どうしようもない。
 たっぷりとシャワーを浴びた脳髄、空隙ひとつも逃さない。
 有象無象が――当たり前の精神どもが――狂気に抗えと騒ぐ中、オマエは『ドラゴン』らしさを身に宿し、コクコクと、首を縦に振ってみせた。うんうん、ぶっ殺すのは気持ち良いわよねぇ。ぶち殺すのは、最高にスカッとするのよねぇ。ギラギラと、グラグラと、地獄の窯を彷彿とさせる、滾りの類がオマエの双眸に揺らめいた。……こういう、俺様最高みたいな、俺様イケてる、みたいな、調子乗ってる奴の臓腑引き出して、灰にしてやるのはさぞかし気持ち良いと思うわ。つまりは、自分の事を強いと思っている輩に対して、否を叩きつけるような、そういう『もの』にこそオマエは娯楽を見出しているのだ。……と、いうわけで。雑魚には用はないから、殺す気にもならないから、さっさとMCのところまでかっ飛ばしていくわよ。真より、芯より、吹き上がった竜漿は黄金色、決して褪せないこの迫力はオマエの闘争心にも位置付けられる。はん、この程度の狂気が――この程度の、クリアな教唆が――アタシに効くわけないじゃない。垂れ流しにしていたMCも感嘆としていた。……テメェ、俺が仕掛ける隙間もねぇとはな。いったい、どんな魔法が掛かっていやがる……! 無視だ。無視してしまえ。無意味だ。無駄な行為と嗤ってやれ。彼方に映っているのは――脳裡を埋め尽くしているのは――愉しそうな、義妹の顔。はぁ……早く帰ってイケナイ事とかしたい気分、おまわりさんはお呼びじゃないわね。……|義妹《サーシャ》とやるなら、話は変わってくるんだけど。
 箱入り娘よりも丁重に、催眠魅了を友とせよ。

花喰・小鳥

 破裂した花束の中心で、転がりまわった。
 幻惑の草に隷属して、眩惑の園に身を投じて、正直になろう。
 荒縄のような――絞殺するかのような――ある種の、蛇行こそが、オマエの存在を表現するのに相応しいのかもしれない。ゆっくりと、ゆっくりと、肺臓へと飲み込んだ煙草の味。情け容赦なく侵してくる、冒そうとしてくる、このクリアな狂気については如何様に思惟をしているのか。殺したいだけで、誰かを殺したいわけじゃない。鉾を揮った先にあった盾、互いの強烈さに困惑するかのような――漂う紫煙を眺めながらの、独白。いや、毒を吐く。誰でもいい。何でもいい。惑わせるなら、人を惑わせる赤色が視たい。すぅ、と、空隙に這入り込んだ|囁き声《ウィスパリング》。ズキズキ、ズキズキ、頭が痛い。きっと煙の所為だ。煙をたらふく食んだ所為で、おもたい眩暈さえもやってくる。慣れているオマエでも耐え難い、何よりも邪悪な――地獄の季節の一色。ならば、無意識に|興奮剤《エクスィテ》を使っていたって、打ち込んでいたって、しようのない沙汰。上へ、上へと、昇るかのような心地の良さ。たとえ頭痛がしていても、眩暈がしていても、恍惚を辿れば皆おなじか。……ア……アァ……。狂気が退いていくなんて、ありえない。むしろ、近寄ったのか。
 陶酔している。酩酊している。連鎖をするかのように。
 求めるものは殺戮ではない。欲するものは血塗れではない。熱っぽい身体からこぼれた吐息、雲のように|幻覚《み》えたのか。甘い、甘い、音の底で、瞳は濡れたような赤へ。ぞくりと、ズキズキが、じんわりと悦を孕む。ああ、この際、もっと変わってくれたのなら――それが良い。あの星詠みなら、あの男なら、浪漫が足りないなどと、嗤うかもしれないけれど。善良なひとを殺してはいけない? 玩具にしないで。それこそ、あの星詠みやこの場にいる能力者なら……欠片として、欠落として、問題ないだろう。鼻腔をつついた草の蝕み、脳味噌が痙攣するかのようで――おいしいです。
 雀のように、蚯蚓のように、うっとりと。
 土をほじくって、埋めるような。

國崎・氷海風

 話を聞くつもりなどない。薄っぺらい情報に興味などない。
 もっと深淵な、デカダンスな、退廃の汁気とやらを暴かんとせよ。
 ――名前は不要だ。必要なのは道具である。
 クリアな狂気の狭間にて――やかましい軽口の隙間にて――這入り込もうと試みたのは人間のカタチをした災厄か、或いは、災厄のカタチをした人間か。蠍のような、蛇のような、世界を傾けそうなほどの容姿を湛えたオマエ、如何様な想いを携えて往くのだろうか。ふぅん、殺戮、殺戮ねぇ……。享楽をするのは結構だ、喜悦を貪食するのはむしろかかってこいだ。しかし、この惨状とやらはまったく、面白みに欠けている。殺戮はアイツの分野で俺の分野じゃないんだよねェ。まあ、要するに、簡単に言ってしまえば……俺の美学に反するってわけ。大勢を巻き込んで『消費』するなんて勿体ない。人類を一斉にスープと見做すなど、上等な肉への冒涜とも考えられた。一人、一人をじっくりと“愛したい”じゃない? だから今回は止めさせてもらうよォ? お眼鏡に適ってくれ、そんなふうにお祈りをしていたら、きっとスパイスにぶつかって終う。と、いう訳でぇ、レディオを、この、美学を知らない野郎の喚きを、とめるとしようか。
 続いてのお便りは此方! ラジオネーム、スパイスはもう懲り懲りさんから! 何々? あるお店で購入した香辛料がやめられません? 如何したら良いのでしょうか? ハッ! ナンセンスな店だ! 香辛料ってのは用は薬物みたいなモンだろ? そんなもんに頼らずとも、人間ってのは、知的生命体ってのは、殺しっていう手っ取り早い享楽が――。わかっていないのは『MC』の方だ。右の腕を伸ばしてやった、そうしたら、ヤカマシイ声色諸共『狂気』が消失する。なぁに、俺には本命がいるからね、些細は要らない。古妖を殺したいなぁ俺は。だってその方が楽しいし、より、盛り上がってくれるでしょォ? 早く味わいたいけど……はてさて、何が出るのやら。食前酒くらいは欲しいところだねェ。赤子のように可愛らしく、濃縮されてしまった、ただ一人の為の、殺意。

野分・時雨

 失血するつもりはない。目覚めの為に。
 季節巡りと地獄巡り、何方が愉しそうなのかと問われたら、牛と鬼、頭の中に何を入れ込む。むず痒くなりそうな光景に、殺戮の後の光景に、いったい何者が後悔を垂らすと謂うのか。後の祭りに参加したところで狂気の残滓、角を濡らしたところで何になるのか。真っ赤! 春だから? 春は桃色じゃないの? 暖かくなると変な人出てくるって言うよね。かつての悪童の、かつての部分とやらを、じっとりと舐ってくるこのクリアな戯れ言。嗤っているのか、笑わせてくれるのか、まったくMCサマは忙しなく動いてくれている。うるせ~ラジオどっから流れてんの? いっそ鼓膜を潰してしまいたい。いっそ聴覚を殺してしまいたい。蝸牛さえ、平衡感覚さえ、残っていれば戦闘に支障はない筈だ。しかし……情報を蒐集するなら鼓膜、頼みの綱を滅ぼす事など赦されない。……濃度が高そうな場所にいるかな。狂気のより『ある』エリアにいるかな。うろうろ、ぶらぶら、たとえ牛歩と罵られようと、この一歩一歩は確実な黒幕へと辿り着く術であれ。おっと、インサニティさんがひとり。殴りかかってくるのならば磔の刑、もちろん、正気に戻るまでの処置とせよ。
 正気を保つなら――蜘蛛の糸を手繰るなら――やはり痛みか。眠気にも効果的な万能の薬、オマエは如何様に己へと齎す。きっと、古妖との戦闘は避けられない。避けられないから、四肢を切断するほどの『もの』ではダメだ。されど、テキトウな切り傷などでは中途半端。ならば、使用すべきは――爪楊枝のような――なんだか、腹が鳴いている。肚が啼いているのだから、肉を食むべき……? 呑まれかけた瞬間に、剥がせ。
 一枚、一枚、丁寧に、爪を!
 手も足も無くなってしまったら、いよいよ、皮膚へ。
 いた~い。正気なのかと水を掛けられたなら、これも一種の狂気だと思うかもしれない。でも、この行為だって、痛みだって、何もかも古妖のせい。ラジオのせい。反芻している余地などないし、悶えている暇すらもない。ラジオスターを始末しなくては。ラジオスターの悲劇を、死を、今ここに! 血の雨の予報、ぼくにだってわかる。

エウフェミア・アンブロシア

 混ざりものの悪夢、無意識からくる痛痒。
 失せものを探すように、誰かの失せ物に執着するように。
 暴力的なまでに――突発的なほどに――背中を押されてしまったのだ。背中を圧迫されて、ツボをやられて、そのまま、虚空へと墜ちていくかのような眩暈感であったのだ。……殺意ですか。感じたことはあっても、覚えたことはないです。いえ、私に向けられていたのは殺意ではなく、もしかしたら、別の、もっと性質の悪い『なにか』だったのかもしれません。せっかく、天使として自由を、天使として不自由を、与えられたのだ。これを満喫しないなど、それこそ、出来損なった彼等彼女等に失礼とも思えた。ええ、私は、殺意というものを、何故か、きちんと理解をしています。耳朶を擽っているのはラジオではない。MCとやらの軽快な、お喋りではない。……きみは無垢だと。この場でも歩けるのでは、と、「おためし」だそうで。まったく試されている事にすらも気付かなかったのか、この鈍間め。……センセのうそつき。アッハッハとした哄笑が、高笑いが、ギャハハのひとつも残さない。みんな、おかしい。この街並み、私が歩いていいところじゃない。私だけ正気? なんだか、私が、あの時のオジサマみたい。そう、きっと私の方が、今はおかしいのかも。こんな、私だけが、わたくし、だけが……わたし……? 真っ直ぐ歩けない。バランス感覚を失くしてしまって、お店の看板か何かしらに、お呼ばれする。……うぅ。
 防衛本能は――影は――ちゃんと、我慢してて、だまってて。どうしても、だめなときだけ。酷使をすべきは貰い物ではないのか? わざわざ、自分の心身を捧げるとは、天使らしい。足を軽く狙え……なんて、センセは囁いていましたが。私は、他人の足を引っ張るつもりなんて、これっぽっちもありませんので、そのように……。さあ、探せ。粗を探せ。おおよそ、無垢には出来ないが。仰られたので、やる他なし。
 すゝめ、すゝめ、開花のすゝめ、だ。
 そうします、ああ、そうします。
 痒い。痒いな。かゆい……。
 へちゃ、へちゃ、導のように、アマルガムのあと。
 あ……思い出し、ました。私……私。
 其方側に、行きたかったなあ……。

梅枝・襠

 これが正気なのだとしたら、この世の中、頭の大きい奴が勝者となる。
 天からの声だ、地からの音だ、啓蒙にやられたオツムがひとつの言の葉に執着する、いや、終着をする。オリジン・ティーに必要なのは角砂糖とジャム! ジャムジャムと騒がしいマウス・ケーキをぶん投げてやれ! どうしてか人間お茶にして飲みたい気分! ああ? 頭のおかしいウサギだって? ネズミのくせに生意気なこと言うんじゃないよ! あたしはいつだって正気だよ。狂ってるかどうかなんて、レースしているかどうかなんて、考えることが馬鹿らしい。馬鹿ばっか!!! え? 考えることは大事だよ。大事に決まってる。どうやらヒントは……? ぐぅるり、目の玉を回転させてからのストップ! レェ~ディオにあるらしい。よく聞こう! この無駄に長い耳をかっぴらいて、そのまま、イェーガー人のように静粛に!!! おうおう、イェーガーって誰だよ、教えてくれよ帽子屋!!!
 閃いた!!! 話題は変えない。何をスッ転んでるんだ、ネズミ野郎! 心の友がノッてくれないとあたし、またしても目玉が回っちまう! ともかく? 頭がおかしい人がよりたくさんな方へ行こう! 狂人がたくさんいるとこが親玉に違いない! あん? なんだって? アリス・ボールで遊べないなんて退屈だ? 馬鹿言うなよ!!! アリスがボールになんかなるわけない! さては狂人だね!!! より真っ赤な道へ! 赤こそ至高! 道を赤く塗れ! できないなら首を――はねるのはあたしの仕事じゃないよ? 代わりに跳ねてやろう! びよん! びよん!
 切れ味良さそうなギロチンではないか。真っ赤に染まった刃ではないか。仕事を押し付けるな! おかしいウサギ頭なんて地面に叩きつけてやる!!! アリスボールはないがウサギボールは実在していた。大抵のものはぶつければ直るんだよ!!! この頭がおかしい! この脳味噌がおかしい! あたしはおかしくないよ。
 これにはMCもドン引きだ。黙ってしまう以外にない。
 なんにも聞こえないけどね、さては、耳までおかしくなったのかい?
 パンの耳のように千切れ!!! 叩きつけろ!!!

クラウソニア・ダニー・ヴェン・ハイゼルダウンタウン

 ゆらり、ゆらり、空隙が真に『すきま』なのであれば、継ぎ接ぎにする事も容易と思えた。奇妙建築の幾つかを抜けてひとり、いいや、複数人、死人はまったく歩みを止めようともしない。ふむふむ……いい景色じゃねェか。己の為に態々、真っ赤な絨毯を用意してくれたのだ。ものを拾うのがクセになっている獣のように、ひとつひとつを品定めしていくと宜しい。血沸き肉躍るってヤツだろ? 俺ァ好きだぜ、こういうの。どっかの申モドキの所業よりかは、成程、人間的だろうか。そこらじゅうに転がる腕やら頭蓋やら足やら、臓物の類は間に合っているかもしれねェが、全部俺のモンにしちまってもいいンだろ? 何せ俺ァ、そういうのをツギハギしてできてんだ。お人形ごっこは他所でやってくれないか、テメェみたいなのがいると白けるんだよ。MCさんからの辛辣なツッコミも無視して一本、いただいてしまえ。あぁ、寄せ集めの石に……意志や意思に繋いで、「生体兵器」とでも宣おうかァ? 洒落てンだろ? 冗談にも洒落にもなっていない。殺戮が齎す享楽は「ちゃんと死んでくれなければ」意味などない。……むかつくなぁ、おい。スナイパーだろうと、誰だろうと、今の段階では黒幕さんを探すのは難しい。難しいが……邪魔をしてきそうな生き残りさんは見つかった。腕とか足とか……生かさず殺さずってのは案外、簡単じゃァねェが……。俺はこれでもスナイパー。御茶の子さいさいってことで、問題ねェよ。ん?
 些か狂気に欠けるって? そらぁそうだろ。俺の居場所じゃ、俺の世界じゃ、死体がそこらに転がってんのも、人が欠片になってんのも日常だ。ついでに、それを道具にする事だってよくあるモンだ。こんなのを異常とでも言う気だったのか? 面白くない男だと、面白くない死体だと、MCは悪態を散らかすのみ。ロマンの欠片もないと、そう、唾を飛ばすだけか。狂気語るなら、この中でバンクシーみてェな絵でも描くんだなァ。
 謂われなくともやっていた。
 誰も彼もが惨状となり、絵具の役をやっていた。

第2章 集団戦 『キミコイ』


 頭蓋骨を伴侶とする。
 レディオが――狂気が――孕んだもの、人間や妖怪、善良な存在以外にも影響を及ぼす。ふらふら、くらくら、宙を泳ぐかのようにしていた彼女達。ぴたりと、君と目が合った。……あなた。可愛らしくて、かっこういい、そのような、あなた。如何か、私と一緒になってはくれませんか。故意である、そのまま、恋をした。頭蓋にだけ情念を塗りたくっていた何者かの再現。いいや、その、何者かよりも純粋な――深淵な――愛の告白。
 お傍に居させて、お邪魔しないから。
 人魚の肉を喰ったなら、その者は不死を得ると謂う。
 では、その逆であったならば、それは不死だろうか。
 ああ、クリアな狂気が蔓延している。
 まさしく、深海のように、虚空のように。
四之宮・榴
花喰・小鳥

 強烈な毒気に慣れてしまったのか、ふっくらと可愛らしい芥子にお呼ばれされてしまったのか、或いは、フクフクと嗤う副流煙とやらに飲み込まれてしまったのか。兎も角、四之宮・榴の頭の中は――普段とまったく変わらないし、普段以上に冷静であった。……やっぱり、なんとも思わない。思わないのはオマエだけだ。宙を泳いでいる彼女等にとって、その科白は熾烈なひび割れに等しい。……もちろん、お断りします。貴女様より、花喰様の方が……美しく……可憐だから。この言の葉には、この本音には、人魚は当たり前のように、しかし、お隣の人間災厄とやらにも届いたのか。ちら、と、榴の瞳が捉えた。いや、きっと、捉えてくれと、無意識に小鳥が囀ったのだと、そう記そう。微笑みだ。情をうつすかのようにして――似たようなものだと思惟していても、なんとなくだけで終わらせる。ねえ、榴。あなた、そんなにも、人を誑かすのが上手だったのかしら。ゆらりと、考えさせない為の紫煙。もうもうと、盲目と――巻こうとしているのが、まるわかりか。
 ……花喰様……? ……人の心よりも、深海を想っている方が、はるかに僕らしいです。ですので……あんな毒婦みたいな、椿太夫みたいな、人魚はいりませんね。お邪魔をしないと宣うならば、我慢しますと歌うのならば、それを貫き通してくれないと意味などない。……これが、ナンセンス、と謂うものでしょうか。見えやしない。見せようともしない。そのクセ人の話を聞かないとなれば、嗚呼、度し難さも倍増と解せた。……では、均すとしましょう。僕は、これでも、舞台を整えることは得意なのです。感知が出来ないだけだ。まさしく台無し。恋に愛にと撫でられても、ぞくりとするだけ矛盾なのだ。嗚呼、鯨が啼いている。泣いている者に対しての無慈悲として――アヤマチとしての鯨飲であった。
 たとえば天女、何者かの影として振る舞うのであれば、相応の覚悟とやらが不可欠と謂えた。プロのサキュバスとしての情念は何処か眼球への一滴に近しい。榴ばかり見ていたら寂しいです。寂しくて、寂しくて、私、あなたを殺してしまいそう。身を投げるのではなく、肉を捧げよ。この程度の痛みであるならば……爪痕であるならば、なかなか、悪くはないのではないか。聳えた|傾城花《アルラウネ》――根っこ、繋がっているのは鼻腔で在ろうか。傍にいるだけで満足なんですか? じっと、見ているだけで、満足なんですか? 離せない、嗚呼、放せない。磔刑こそを芳香とした瞬間、一切は汚染される他なし。
 切断されるよりも、捕食されるよりも、何故だろうか。今は、チョウチンアンコウのような災厄に釘付けだ。捕食者が尾鰭の相手をしている間にも、啜られたがりの性根とやらが価値を孕むか。花喰様……それは、僕にも、効果があるのでは、ありませんか……? 嗚呼、やってしまった。しかし、私なら、満足できない。欲して、触れて、五感ですべてを味わって――突きつけた判決、天獄へお逝き。いい声ですね。ええ、本当に、いい声です。
 鳥籠の中、もしくは、水槽の中、脳髄は何方を好むと謂う。

國崎・氷海風

 ひとつひとつ丁寧に、露出をさせる。複数のスパイスを混ぜ込んでやれば、あとは、火にかけるだけ。ぼうぼう、茫々、何処か遠くにでも逝くかのような。夜闇によく馴染む龍の|煙《えん》、永遠を倣っているかの如くに、美しく……。
 ――クラゲを愛でていた方が、幾らかマシとも思える。
 鍋の底に仕込んだ蛇蝎、毒虫を餌としていたのだから、より濃厚な『愛』とやらを口遊むのか。恋……恋ねぇ? それはきっと綺麗なものなんだろうけど、それはきっと乙女の心なのだろうけど、君と俺とは似ているみたい。だけど……。同族嫌悪の類に近かった。人を喰ったかのような、喰って終ったかのような、両者であった。やっぱり、お相手は君じゃないんだよねぇ。アッサリとフラれてしまった、拒絶されてしまった人魚がひとつ。涙を流そうとしてはいたが、成程、悲しき獣は『拒絶』を知らない。さてさて、愛するにも値しない、弄ぶにも値しない、君たち……君は、さようなら、だ。何処まで行っても、さようならだ。人生とはつまり『そういう』儚いもので在れ。果敢な彼女に絶望をプレゼント。いや、これは最早、オマエからのプレゼントにすら『なって』いない。三文だったか、六文だったか、希望は既に完売か。
 暗黒――包まるかのように、突き放すかのように、何もかもは水泡なのだと、塊を泣かせる。愛はたった一人から欲しいもんだよ全く。上手くいかないもんだねぇ? それとも、俺も上手に出来ないだけかな。……なんて、俺も狂気に、少し犯されていたりして。焼き魚の食べ方も生魚の食べ方も一緒なのだ。即ち――頭からのがぶり。あいにく、俺にはそんな、丈夫な顎はなくってねぇ。さてさてそれも、また、一興――みち、と、割れた部分から味噌がこぼれる。スパイスの使い方次第では米にもパンにも合うだろうか。君たちを殺す事には、変わりがなかったねぇ。それじゃあ、俺は手折りにでも行くかな。

アーシャ・ヴァリアント

 たっぷりと竜漿の中を泳がせる。マンボウみたいな面をして、此方を見てくれたのか。衝突する前に死を悟る彼女等――いっそ、首を落としてくれと騒ぐ。
 深く、深く、呼吸をした。
 独特な臭気と謂うものが――なまぬるい、悪辣とした情念が――脳裡を巡って仕方がない。人魚の群れが口にしている、接吻しようとしている事は、成程、確かに拗らせの窮極系ではあったのだが、それ以上を知っている『身』からしたら、雑魚にひとしい。ふふん、アタシが格好良いとかよくわかってるじゃない。でも、アタシはアンタに興味ないし、ただの敵だから、その願いは聞いてあげられないわ。それに……そう何度も頭蓋を露出させられるなんて、御免だし。ほんのちょっとだけの嫌悪感も、プラスな感情に押し退けられた。知ってるかしら。アタシの|義妹《サーシャ》は結構嫉妬深いから、アタシが誰かといると焼きもちを焼くのよね。可愛いでしょ。かわいい……かわいい、だなんて、そんな。私たちを前にして『他の誰か』に『かわいい』なんて……。人魚どもは如何やら義妹程度には嫉妬深いと見えた。だが、これは最早狂気の領域ではなかろうか。どっちが先なのかすらも考えられない。……アンタが盲目だって事は、痴れている事だけは、アタシにもわかるわ。スウ、眠るようにして、人魚の群れが掻き消えた。
 って……お断りしたら隠れちゃうわけ? ストーキングされるのも、ピーピングされるのも、お断りよ。駄々をこねるよりも強く、地を均すほどに強く、震撃とやらを魅せてしまうと宜しい。ま、アンタが何をしたってアタシはお見通しよ。アタシを見ていたいんなら、それこそ、千里眼でも持ってくることね。頭隠して尻隠さず。竜頭蛇尾の鑑として――連中を暴いて、晒すといい。そんなのでアタシから逃れようなんて甘すぎっ。こっちの水が甘いのであれば、沸々、煮ころしてやるのが正解か。丸焼きにしてやるわ。煮魚と謂うには脂のノリが凄まじい。死なないのは間に合ってるのよ、鈍いわね。
 溜息、それだけ。

物部・武正

 自分を覆い隠している、正体を失くしたフリをしている。
 サングラスは触らせない為に。されど、障ってくる者は多いのだ。
 夜間――酒気に中てられ、二軒、三軒と求むるかのような強欲さだ。格好いい男の子と可愛い女の子、持て囃す事こそがオマエに与えられた使命か。ウェイウェイwait.レディー・ファーストは勿論だが、その前に、まっすぐに見つめてやるのも紳士の務めだ。カワイイね、キミ。まァ、オレは|外星体《オレ》の感性を『一般常識』としてはまったく信用していないワケだケド。コレでもいっぱいお勉強したからね、コレでもいっぱい痛い目に遭ってきたからね、いい子ですからタケちゃんは。ノリの良さはウリだが成程、決して軽薄というワケではない。オマエはオマエでちゃんと、チャラ男はチヤラヲでちゃんと、地球の規模と謂うものを把握してはいるのだ。一方的なのは真っ当なラブじゃないぜ? ラジオもラブも、その他も、受け取る側の姿勢が、気持ちが大事ってワケよ。……貴方の何処がチャラいのでしょうか。貴方の何処が軟派なのでしょうか。何方かと謂えば貴方は、慎重派なのでは、ないのでしょうか。ウェッ!? この場合――オレが今すぐ覚悟を決めちゃえばイイ話ではあるが、そいつは、ちょっと、チャラが過ぎる。なんだか、可愛いわね、貴方も。そんなに決められないなら、私たちがリードしてあげる。いいや、今はレディーよりレディオだ! あのバッドなMC野郎をバットでぶっ飛ばして、オレがMCになる!!!
 傷のひとつまでお揃いだなんて、ロマンチックなお誘い。だけれども、人魚と外星体ではまったく、似せる事なんて出来やしない。ってワケで、またねレディー。塊が形作られるよりも素早くハチェット。闇を孕むかのように、星を隠すかのように、オマエは別れを告げた。『チヤラヲのオールナイトEDEN』にお便り送ってね。え? 頭がないとお手紙の内容考えられない? 申し訳ない。でも、採用されたらクマのリサちゃんステッカーをプレゼント~! お友達にも教えてね!
 尾鰭よりも背鰭よりも、もっと鋭利な用心深さ。

ルトガルド・サスペリオルム
マスティマ・トランクィロ

 踏みつけられたお野菜さん、その行方だけはおそらく、吸血鬼も災厄も、挙げ句は神も解せないのだろう。翻弄をされたかの如くに、狼狽を強いられたかの如くに、宙ぶらりんな現実は何処か御伽噺の亜種とも思えた。わたし、カタツムリさん! 良いところに、良いところで、なんだかかわいくないのが現れたのね、伯父様は命拾いをしたのね。わたし、今からこの『かわいくないの』を殺すわ! ごきげんようお魚さん、ごきげんようナメクジさん、今日も必ず良い日になるわ。でも殺すわ! 狂気に狂気が注がれて随分と嬉々ではないか、自らの危機にびくんと跳ねたお魚。それでも尚、お魚さんは訴える。ええ、貴方は、カタツムリさんはかわいらしい。でも、いくらなんでも、可愛くないなんて、謂われたくはないのよ。誰だってそうだ。何者だって、そうだ。でも、カタツムリさんほどの『かわいい』が謂うのだ。カタツムリさんからしたら、カタツムリさん以外は『ふつうとその他』である。
 嗚呼……よかった。いや……良かったのかな? でも、簒奪者を斃すのは人間や妖怪を殺めてしまうよりは良いことだからね。存分に暴れて良いよ、ルトガルド。だけど、自分が言われて嫌なことを、他人に謂うのはどうかと思うんだ。吸血鬼さんからの、紳士さんからの、尤もなご意見だ。わたし、カタツムリさん! 伯父様の言っていることが、よくわからないわ! 伯父様! わたしはルルドよ、間違えないで! ほら、ルトガルド。ルトガルドにも、言われたら嫌なことがあるじゃないか。伯父様のいぢわる! 意地悪云々は置いておいてそろそろ殺してしまうと好い。カタツムリさんの楽園にお魚さんは要らないのだ。
 傍になんていさせないし、お揃いもだめよ? ひとつになんてもっとだめ。わたしは良いけどあなたはだめ、絶対にだめ、あなたは『カタツムリさん』になんてなれないわ。ずるずる、ずるずる、引き摺ってきたのは金属バット。そこにはくるくるとしたエネルギーが蓄えられており、何処かの玩具を彷彿とさせる。わたし、この子本当に嫌いだわ。たくさん、たくさん、殴って殺すの! この殴打には流石お魚さんも這う這うの体、溶け込むようにして、お隠れになった。あら? 逃げ隠れしようとしているの? 見えなくても殴るだけだし、あなたはもう、立っていられないはずなのよ!
 蝶々の鱗粉にでも中てられたのか、目眩み、ひっくり返る。
 ほんの少しだけ、ほんの僅かにだけ、吸血鬼は同情のようなものを抱いてしまった。それは、見えていようとも、見えていなくとも、しっかり人魚が目を回している所為か。……うっかり前に出ると僕まで殴られそう。それに加えて、もう、化粧を直している余裕なんてない。フラフラ、フラフラ、クラゲのようにすり抜けてきた一匹を串焼きにしてやれ。人魚の肉……不死はさておき、美味しいお肉としてなら、興味がなくはない。でも……ルトガルドが余計に、ご機嫌斜めになりそうだから、今日はやめておくけど。あと、ちょっとこの人魚酸っぱい臭いがするし……。ぼんやり、思いついたのは鰆の一文字。なんだか、春だしね。利き腕じゃなくて良かったと呟く、さて、転がっているのは誰のお肉か。
 ちょっと伯父様? 落とし物でもしたのかしら? 顔色がよくないわ! ぐしゃ、と、力いっぱい頭蓋割りだ。お祭り騒ぎに浮かれて滂沱、漿液をシャンプーの代わりとせよ。その頭蓋骨と心中したら良いんだわ。壊してあげる、壊してあげたの! それで、伯父様! この子ちっともかわいくないわよね? 馬の骨なの!
 髄まで啜る価値もなく、只、災厄の回転の中で、キャンディを失くす。
 ルトガルド、そんな言葉を遣うのはあんまり関心しないな。心配しなくてもカタツムリさんのほうが可愛いよ。伯父様! 伯父様なら、わかってくれると思っていたわ。カタツムリさんには馬の骨なんて要らないの! ……ルトガルド? 僕の話聞いて……。
 わたし、カタツムリさん! 今日は魔導書でも殴ったの!

野分・時雨

 化けの皮を剥がされたとしても、正体を暴かれたとしても、人魚どもの惚れ具合は変わらない。たとえ傷つけられたとしても、たとえ殺されたのだとしても、それも一種の愛情なのだと人魚どもは解釈をするに違いない。かっこいいですって。照れる~。きっと、誰でも良いワケではない。きっとそれなりの理由から『添い遂げたい』と歌っているのだ。告白されたの初めてかも! 爪を剥いで来た甲斐が『あった』と謂うものだ。正気にしがみついて来た甲斐が『あった』と謂うものだ。実はぼく、肉より魚派でして。それでも良い……? 色気よりも食欲だとでも、花より団子だとでも、口にしたいのか。ごくりと鳴らした咽喉、牛鬼の心や如何に――貴方が、何を想ってくださっても、構いません。私は、貴方が私のことを考えてくれている、この事実だけで、気を失ってしまいそうになるのです。いっそ意識を失くしてくれたなら、三枚おろしも楽だったと謂うのに。度し難さが加速する程度か。
 伝説がどうあれアナタを味わってみたい、それが、ぼくに赦された唯一の感情でございます。まったく、ずるいものだ。ずるい対応の、対処の方法ではないか。能力を揮わずに向かっていき、只、曲刀を繰り出す。刺身に必要なのは醤油だと、アナタは、断言するのでございましょう。まるで、染みていくのが、滲んでいくのが、美しいと、描くように。傷ひとつまで揃いが良いとは。中々に情熱的。男冥利に尽きる殺し文句でございましょう。愛に溺れるだけで良い。如何して、水の塊で窒息をするのだ。勿体ない。
 いざ、実食――霊力を孕んだオマエの速度、最早、盲目な人魚では捉えられない。お揃いが良いのなら、一緒が良いのなら、ぼくが『それ』を演出しましょう。ひと撫ですれば文字通りの盲目。これでお互い、見えやしない。望みのお揃いの傷です。……ああ、素敵な人。でも、目を潰されてしまったら、貴方が見えないのでは、ありませんか? 見えなくたって構わない。何故なら既に――俎板の上だ。
 お肉はあんま、美味しくないね。
 ……次は、おいしく、なってみせます。

梅枝・襠

 お茶を濁す為に不可欠な得物だ。獲物を黙らせてやるのに丁度いい。
 三月のウサギが兎に化ける為、一から教育させられたのか。
 誰の所為なのかと問われれば、誰の仕業なのかと囁かれたなら、そんなもの、ネズミの沙汰に決まっている。ネズミが何もかもに飽き飽きして、何もかもに怠惰をして、一抜け、なんて宣うものだから、このザマなのだ。ああ、忙しい忙しい。忙しくて、目が回る。おしまいだ! これだから時計の針ってのは嫌いなんだよ! あーーーー! 頭蓋骨だ。頭蓋骨ってなんだっけ。あたしは知ってる。途轍もなく、度し難く、頁をひっくり返すのがお得意な三月のウサギだ。脳みそのつまってない頭だ! あ? あたしの頭がからっぽだって謂いたいのかい? 莫迦にしやがった!!! そんな帽子屋の方がすっからかんなんじゃないのかい? なら中にジャムでも塗るべきだ! 頭は帽子ではなくそれを欲している!!! ……貴女は……最初から、気が触れているのでしょうか。人魚どもの疑念も尤もだ。誰の頭がおかしいって? あたしの頭は味噌に漬かってるんだよ、頭蓋骨と違って! 今なんの話し? 話題を変えよう。……私の方が、目が回るのですが……? 死んだ柘榴に文句を謂うな。
 変えて然るべきだ。塗りたくって𠮟るべきだ。あたしもあたしが好きだよ! え? 黙れ、小娘! あたしは生魚もブージャムも嫌いなんだ。泳ぐのも嫌いだ! ワニに食われるからね。あ、でも、ジャムは好きだよ。ジャムジャムしやがれ! 不意ではなくやってきた獣語り、指差したタイトルは、成程――因幡の白兎。
 いでよ|死霊《ザクロ・パイ》、今夜は馳走だと告げている。鰐の姿を倣ったジャムジャムどもがジャブジャブ、人魚の腸を食い千切っていく。もちろんあたしは! ワニからも逃げる! 遠方からの殴打とは奇怪な状況ではないのだろうか。ああ、忙しい忙しい!!! べちゃと切断されたザクロ・パイの破片。この部位ってさ。あたしが食べても問題ない? ジャムにつけて食べよう! たべ、た、たべた!!!
 絞め方が成っていないのでは?
 うーん、腐ってるね!!!

和田・辰巳
長峰・モカ

 |蛇《くちなわ》の口から直接、果実を与えられたかのような患いだ。釘を打ったのか、釘を打たれたのか、何方にしても、両者、元の通りには戻れない。色褪せていた宙は最早、玉虫よりも綺麗なものだ。物々しい雰囲気も何処かへと失せ、ああ、実におそろしいほどの絆であった。もう、結婚を誓った人がいるんだ。心の中で思い描いた彼女のこと。輝いた指輪が現を、今を、きっちりとした正体を最愛としたのか。目移りする暇なんてない、浮ついている場合ではない。浮いているのは、泳いでいるのは、人魚どもだけで十分だ。……僕は、僕が思っている以上に、重たい男なのかもしれません。奇妙建築聳えるこの√にて純愛を捧ぐ――レディオの彼方、何者かの悪態すらも、霞のように喪失するのか。
 あら……私に何か御用かしら? 虚構だ。|虚構《フィクショナル》が存在をしている。莫迦みたいな話ではあるのだが、それこそ、人魚どもにとっては一番星に等しいのだろう。くすくす、そんなんじゃ、私を誑かす事だって、スキャンダルに追い込む事だって、出来やしないね。勾玉のブレスレットを掲げるよりも左薬指、その誓いとやらを見せつけてやれ。……貴女、貴女も、そうなのね。私を、私達を、勝手に魅了してくれるのね。ふふ、それじゃあ、静かなところに行きません? わかりきったお誘いだ。わかりきった、見え見えの罠だ。でも、人魚どもは――君に恋をしているのだから、理解しているからこそ、釣られる。ずるいひと。ずるいひと。貴女は、本当に、嘘吐きね……。
 祝福なのだろうか、呪いなのだろうか、たとえ、後者だとしても、永遠の類に違いない。……任せてください。モカさんが、繋いでくれたのです。僕が此処で倒さなければ――確実に、モカさんに危険が及んでしまう。まあ? 私は|虚構《フィクショナル》だから、危機に陥っても問題はないんだけどね? お道化ている、お道化ているだけ。きっと、目の前の『ひと』は――僕を全力で信じてくれている。霊剣士として、暗殺者として、今ある手札で最善を尽くそう……。人魚はまったく鈍間であった。
 宙――空――上方より、青色の瞳が『虚構』を観察していく。位置からして――逆算して――其処を『とおる』と定めたのなら、即座に『影』を添えていく。十分だ。見えないのであれば攻撃を、罠を、置いておけば問題ない。かかった……。達磨さんよりも転ばせて、あとは解体ショーと洒落込むと良い。風を繰るかのように、鎌鼬のように。
 ふふふ、さすが|和田君《大切な人》……。
 惚れ直すのに時間は要らなかった。
 なんとも真っ赤な、可愛らしい女の子ではないか。
 奇襲は完璧だ。射出された海水が人魚の肚を抉り、蹲ったところ、上段での一撃。……そんな、ことを、する貴方も……私は、愛せています。その愛が、情念が、本物だったとしても、割り込みは絶対に赦されない。大地に叩きつけられ身動きが取れない人魚。さあ、断頭だ。活け造りには必要かもしれないが――この状況下では生ごみに等しい。
 ふふ……私の出番はなさそう。
 ……モカさんには指一本、触れさせません。

ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ
エウフェミア・アンブロシア

 王様が好んで呑んだのだ、王様が欲して乾したのだ。
 どろどろ、どろどろ、蛹の中身。
 壮大なまでの――広大無辺なまでの――マッチポンプこそが、何者かにとっての玩具だ。大海へと、水溜まりへと、吐き捨てられたアマルガムが最初に出会った悪辣のように、鈍った頭の片隅に、不意に痒みがやってくるのか。私は……私のような存在は、あなたたちにとって、何者かにとって、相応の相手ではない自覚があります。まるで、無理やり引き起こした眩暈。無垢で在るが故に、そのやり方さえもわからないが、わからないが故の性質の悪さとやらを孕んでいく。応えてあげたいです。手を差し伸べて、あげたいです。でも、だめなんです。縛られているのか、封じられているのか、まったく、天使と呼ばれるものは翼の使い方もなっていない赤子なのか。センセ、センセ、見ているのでしょう。|センセ《メルクリウス》……助けて。お母さんもお父さんもいなくなった。なら、誰に縋りつけば良い。
 どうも『助けて』などと呼ばれたのなら、利用されたのなら、どこまでも! スーパーヒーロー着地をご存知かね|きみ《エウフェミア》。……センセ、呼び出したのは私ですが、その、大きな声を出されると、クラクラします。なに? 知らん? そうか、生まれが『あちら』だったか! センセ、私、今にも倒れてしまいそう……。まあなるほど理解!! 純たるきみでも、天使であるきみでも、中々に苦しいようで。蹴り込んだのはわたくし? 頭痛の種もわたくし? 知らん。向かったのはきみ! 利用したのはわたくし!! そうだとも、聞いての通り、見ての通り、いつだってきみはおもしろおかしい……。夫婦漫才の方が幾らかマシである。夫婦喧嘩の方が、まだ、喰える。……わたくしでは、殺しかねない状況だったので。予定通り呼んでもらい、助かるというものだ! アッハッハ! センセ、そろそろ、待ちくたびれているようです。なによ、なによ、二人して世界を創ったりなんかして。ずるい。ずるいよ。私達も、愛したり、愛されたりしたいのに。盲目と目隠し、何方に軍配が上がるのかを悪役目線で愉しむとよろしい。防衛本能はあった方が良い。さあ、見るべきだ。見て、聞いて、触れて、掻き毟るように。
 ねえ、お願いです。私を、知ってはくれませんか。私、もう人魚にはなれません。錆びて、沈んでいくだけの、出来立てほやほやの、開花ですので。ふらふら、ふらふら、中毒にでも陥ったかのように人魚どもが泳ぎ出す。アッハッハ! なにかね、きみ、誘蛾灯のまねごとが上手ではないか。塞がるようにして、嘲笑うようにして、出現する戦闘員の群れ。水銀がこぼれていく。それを水面としたならば――情念はしっかりと輪郭をなぞられる。示したか! 示したならば、全力だ。邪魔をするものから、盲目なものから、片付けてやれ。わたくしのそばに立ちたいとなれば、相応の振る舞いを身につけたまえよ、彼女のように! 切り取られても、抉られても、毒は毒なのだから、喜べやしない。
 錆鉄の味がする羽蟲です。ですので、如何か、食べる事だけはオススメいたしません。それに、一緒に沈むこともできません。なにせ、私は、あなたたちよりもずっと、深く深くに沈んでいるのですから……。やれやれ、きみ、あの時からまったく変わっていないな。まあ、視線はいくらあってもいい。きちんと、前に立ってやろう。前に立って、あの時のように『して』やろう。金魚、金魚、どこまで泳ぐ。母胎の底にまで辿り着けたのか。
 アッハッハッハ!!! 水銀だ。生体濃縮されてしまっては、そんなもの、食めるワケがない。何もかもが侵されたのだ。冒されたのだから、食物連鎖も死滅である。それで? 喰ったのかね? ご愁傷様! わたくしも、そっちのも、あなたも、これにて全滅か! センセ、センセ、お邪魔をしないと言っています。ふたりで羽蟲をしますか。センセの耳元で、脳の中で鳴く、羽蟲になりますか? 何を謂ったって無駄だ。毒殺をされている。消滅死亡をさせられている。……わたくしは、それは、いや、ですので。
 きみ、「いや」と口にしたのかね。大きな一歩だと思わんか?

第3章 ボス戦 『レディオデーモン・フリークエンシー』


 地獄の季節は一色だ――されど、その一色こそが多々と分かれる。
 退廃的なまでの消費時代において我々は破滅を謳歌する他になく、
 殺戮者の享楽こそが、主義の中心で在るべきか。
 それに回想を抓んだところで――クリアな狂気がやってくる。
 良いところだってのに、随分な事をやってくれるじゃねぇか!
 悪くねぇぜ? そういう、混沌とした連中の方が、こっちとしても燃えてくる。
 業火を成しているのか、劫火を孕んでいるのか、これを、エログロナンセンスの『幕開け』としたならば、それこそ冒涜の沙汰と解せよう。
 俺は|ラジオの悪鬼《レディオ・デーモン》、その片割れ、フリークエンシー。宜しく頼むぜ、クソッタレなリスナー諸君!
 膨大な情報が――邪悪なインビジブルが――雑に消費されていく。
 これが正体だ。これが、古妖の正体だ。
 |古妖の専制《デモンクラティア》の目覚めを今。
國崎・氷海風

 必要なのは知識と経験だ。背後を取り、骨を舐るかの如く。
 頭蓋を割るのは後でもいい。殺してやるのも最後でいい。
 今はじっくりと、享楽を味わうべきだ。消耗させて、やるべきだ。
 誰でもいいから殺したかった。そんな、罪人の言い訳も、此処まで極まればナンセンスなものだ。誰も彼もが害意に塗れて、情念に擁されて、騒がしい。菓子のようにチープな甘さを彷彿とさせる|頽廃《デカダン》にいったい誰が頭を垂れよう。……誰彼構わず殺すっていうのは、やっぱり、アイツの分野だと思うんだよねぇ。面構えだけを見たならば、装いだけを眺めたならば、果たして、似た者同士なふうにも認められるのか。いや、まったく。お互い、一緒にされたくはないねぇ。だから、俺は此処で君を殺す一端となろう。だって……その考え方、共感出来ないんだもんねぇ? ……テメェ。俺もテメェと一緒にされるのは嫌なんだよ。テメェみたいな、陰湿な野郎は――いつか報復されるのがお似合いだぜ! 溜め込まれたフラストレーション。ぶち破るかのように雄叫びをあげた。
 随分と幼稚ではないだろうか。厄介なまでにオコサマめいて在るのではないか。結局のところ『独裁したがり』な裸の王様ごっこなのではないか。君は天辺から爪先まで、自分の事にしか興味がないんだねぇ。攻撃を『する』との意志だ。その意思の隙間を縫うようにして『絶望』とやらがやってくる。俺以外にもたくさん、いるんだし、今回は遊んだって良いだろうねぇ。ぶわりと暗黒が舞い――闇が満ち――より濃厚な、欲求不満へと蹴り落とす。ただ、君をいたぶりたいだけ。ただ、君を虐めてみたいだけ。それ、君だけの特権じゃないからね? ……クソがっ……舐めやがって……テメェはなんもわかっちゃいねぇよ……! 何もかも、俺だけでしているんじゃねえってな!
 大罪だ。一分間の理性も台無しだ。
 レディオデーモンはオマエの在り方に、少なからず、嫉妬をしている。

和田・辰巳
長峰・モカ

 オマエこそが剣なのだと、盾なのだと。
 神の肚の上で踊る――仏の貌の前で嗤う――極めて悪質な冒涜的な行いに|被害者《神》は果たして文句を謂うのか。いいや、おそらくだが、神よりも、神を崇めている者の方が怒りを露にする筈だ。まるで神話に対して吐き捨てられた、唾、これを嘘になど出来るものか。……この惨劇を引き起こしたのがこいつなら、この地獄を作り出したのがこいつなら、絶対ここで倒す。たとえ、僕自身が倒れる事になったとしても、ここで、確実に斃さなければならない。……おうおうおう、何でわたしに許可なく覚悟決めちゃってんの? 地獄に行くってんなら、奈落に落ちるって言うんなら、どこまでも一緒にが基本だろうが。さぁ、行こうぜ”相棒”――? 如何やら人間災厄「フィクショナル」、既に『役割』に身も心も捉えられているらしい。いや、此処はテレビではなくラジオなのだ。外見から入ったって意味などないと謂うのに。ああん? わたしのやり方にケチ付けるってのか? 素晴らしいほどのヤンキーではないか。不良少女はいつまでも現役である。……どこまでも付いていくよ。”相棒”……。仲良しなのは結構だが君たち、完全にレディオデーモンを放置してはいないか。テメェら、イチャイチャしやがって。俺を前にして随分と余裕じゃねぇかよ。ぱらりら、ぱらりら、音が鳴る。ある種の唯我独尊が――龍が――背中とやらに這っていた。
 星の残滓、永遠の誓い――握り締めた勾玉が齎したのは『虚構』ではない煌めきだ。バイクはないけどね、わたしには、この|速度《スピード》があるのさ。あんたが音速だろうと、何だろうと、それは、ラジオの波でしかないってわけだ。重要なのは『撹乱』である。たとえ、相手にダメージを与えられなかったとしても――それに関しては彼に任せてしまえば良い。はーっはっはっは、遅い遅い遅い!!! ぶち、と悪鬼の脳内で何かしらがキレた。テメェ……テメェも、俺の事を舐めてんのかよ! まったくグロテスクな有り様だ。紫煙に塗れて私怨を吐き散らかすとは、本当に、消費するのが得意らしい。
 痛いのはいやだ。触られるのも、障られるのも、心の底からいやだ。いや、この感情も虚構なのかもしれないが、兎も角、災厄の精神は察せられてしまった。……は? お前がモカさんに触れていいわけないだろ。ブレスを貰うわけにはいかないが、物理的な、鬼の膂力については別問題だ。腕の一本くらいなら――モカさんを護る為ならば――喜んで。これくらい心配無用ですよ。痛い、痛いが、相棒の姿を見ていると……揺れる黒髪、真剣な相貌を見ていると……一切が憧れに、焦がれに変換される。カッコイイな。僕も「そうありたい」……テメェ! 成程な。俺のブレスが効かねぇわけだ……。
 もう一度だ……何度でも、だ。
 血反吐の友とされようが、吠えてやるのが美しい。
 不意を打つ為に這わせておいた『影』が役に立つ。二度と、何処にも行けないように、悪鬼の姿を完全に捉えた……捕らえた。綿津見神に請い願う――嗚々、うねる大海。鬼の肢体を打ちつけた。さっすが相棒! よくやったぜ! 不良少女に必要なのは暴力であった。さあ、あの、いけ好かない野郎に――フルスイングを決めてやれ。そっちこそ! やるじゃん! 狂気が脳髄に宿ると謂うのなら、さっさと潰してやれば好い。

ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ
エウフェミア・アンブロシア

 反吐とヘドロの違いについては――最早――精々が、色とりどりな『もの』で在ろうか。千鳥足のクセをして、目を隠しているクセをして、随分とした托卵の沙汰ではなかろうか。成立してしまった。成功してしまった。何もかも上手に出来た為の、味の占め方。或いは絞め方とやら、まったく怪人らしい約束の仕方ではないか。お喋りクソ野郎のお出ましだ!! 誰がお喋りクソ野郎だァ!? テメェにだけは謂われたくねぇ!!! 自己紹介どうも、ならばこちらのも如何かな、錬金賢者メルクリウス! はん! なぁにが賢者だ! テメェなんざ俺と同等か、それ以上のクソッタレじゃねぇかよ!!! ぎゃあぎゃあ、があがあ、類は友を呼ぶなどと謂うけれども、三人集わずとも喧しいとは頭痛の種か。どっちも、うるさい……。これも、「いや」かも……しれません。アッハッハ! わたくし、どうも頭痛とやらには縁がなくてね。所謂、スパークと謂うやつさ。で、そっちのは気にしなくてよろし――? センセ、センセ、嗤ってる場合じゃないので。私、逃げていいですか? 天使は毒されても天使だ。こうも五月蠅いのだから、蠅よりも素早く遁走して終えば良かったものを。何を逃げようとしている、よぉく、聞きたまえ我々の言の葉! 教育教育! これには愈々めまいがした。センセ……いぢわるを、しないでください。
 耳を傾けても、脳髄を揺さぶられても、嗚呼、ああ、うるさい現実に変わりはない。うしろ、隠れてますね。隠れたところで『そこ』に存在している事は丸わかり。バレバレだと指差されたならば|防衛本能《かれ》の出番だ。行ってきて、足しに、なると思う。まあ、センセ、楽しそうだから、あんまり邪魔はしたくないのだけれど……センセは、忘れっぽいので。予想はしていた。想像は出来ていた。しかし、いざ、直面するとなったなら……。銀色と謂うものはあまり、精神によろしくない。きもちわるくて、背中が、ムズムズする。
 アッハッハ! それで? わたくしを相手にするのだから、その『持ち物』の厄介性を存分に発揮できるとは思わないことだ。それでは――参ろう! 参っているのは悪鬼だけではない。散々、気を散らかされているのは悪鬼だけではない。おっと、これは失礼。わたくしとしたことが『フォロー』するのを忘れていた。とはいえ……アレらに梃子摺るような妖でもなかろう……。ええい、クソッタレが! よくも俺の放送を邪魔してくれたな! ……私を呼び出すとは、かなり追い込まれているみたいだけど……これは、召喚するタイミングが……! 影に足元掬われたか、青々としている、アンプリチュード。
 ねえ……悪魔さん。お喋りって大切? それがないと、生きていけない? 天使は何故だろうか、召喚された|悪鬼《ほう》に言の葉を投げかけた。……お喋りがないと生きていけない、そういう事では、ないのですが。しかし、お喋りをした方が楽しく生きられるとは思いますよ。欲望のはけぐち、を、ひとに、勝手に作って……ふたりで、あそんでいるのでしょうか。ならそれは、いけないことでは……。いけないこと? ええ、いけないことですよ。だから、愉しいのではないのですか。あなたのお友達も同じようです。
 おい! アンプリチュード! なにテメェまでお喋りしてやがる! アッハッハ! きみ、わたくしが話そうとしているのに、その態度はおかしいのではないか。うん? いけないこと……いけないことか! どう思う? きみたち。
 我々、いけないことをしているらしい!!!
 センセ、センセ、お願いですから。
 変な顔しないで。センセ。無視しないで……!
 へんなこといわないで……。
 アッハッハ! 悪く思うなよ。
 これが「本業」だ。

アーシャ・ヴァリアント
カーシャ・ヴァリアント

 切り刻むならば666回だ。
 剣と魔法が存在しているのだ。物理的なものと精神的なものが攻撃性を孕んでいるのだ。ならば、呪詛の類が――お呪いの類が――√を跨ぐ事くらいは、当たり前の事なのかもしれない。フワフワと、フヨフヨと、不可視であったそれが、真っ蒼な火の玉を引き連れて何処かへと向かっていた。視線の先に存在しているのは死霊その他が好んでいそうな|寂れた神社《デートスポット》とも考えられよう。尋常の民では決して『見る』事のできない『それ』がおもむろに取り出したのは――五寸釘。御神木に近づいたのなら『やる』事はひとつ。ぐっと握り締めた木槌。さて、この怒りと悲しみを誰の為にぶつけると謂うのか。ひとつ打ってはお姉ちゃんのためっ、ふたつ打ってはお姉ちゃんのためっ。勇ましくて格好良いお姉ちゃんは負けたりしないし、障害があったら、たとえアタシが消滅したとしても、取り除いてやるんだからっ。いいや、違うわね。アタシが残っていないと、あのクソ女をぎゃふんと謂わせられない。そう、いつか、消してやるんだから。消して、アタシのお姉ちゃんを取り戻すのよ……! 対象は不定ではあった。このままでは中途半端なお呪いでしかなくなるだろう。されど、嗚呼、カーシャ・ヴァリアントの思いは……想いは、何者だろうと阻めない。きっと、ラジオの音よりも、情報が伝達するよりも、素早く正確に届けられるに違いない。アタシは、絶対に、アタシのお姉ちゃんを諦めない。諦める事が出来たなら、とっくの昔に成仏してるわよ。丑三つ時の本格派、これは確実な作戦の成功を意味するのだ。
 おうおう、そこの嬢ちゃん。俺を相手にするってんなら、中途半端な気持ちは赦されねぇぜ。それに、これは俺の勘だけどよぉ。嬢ちゃん、顔色が悪くなってねぇか? 何を謂っているのか、何を謂いたいのか、アーシャ・ヴァリアントには一切が解せなかった。はあ? アタシの顔色が悪いですって? なんか燃えてるところ悪いけど、なんか、心配してるところ悪いけど、アタシはアンタなんかに興味、これっぽちもないのよね。無い筈だ。興味なんて欠片としてない筈だ。そうとも、記憶なんてのはまったく、無くなっている筈なのだ。だと謂うのに、如何してなのだろうか。怒りと憎しみと、恐れが混在している、筆舌に尽くし難い感情に抱擁をされそうな。……さっさとぶっ飛ばして帰りたいんで大人しく死んでくれない? やれやれ、自分の心にすら、自分の感情にすら、気づけない赤子じゃないか。いや、違うな。赤子の方が幾らか、ちゃんと、感情の表現が出来てるぜ……! |醜悪な美の極致《グロテスク》への変身を試みたレディオデーモン、さて、唐突にやってきたのは『不全』の二文字か。……なんだ? 何が起きてやがる。何も、起きやがらねぇ……?
 アーシャ・ヴァリアントが最初に攻撃したのは古妖の顔面であった。顔面に爪痕を残した後、文字通りのズッタズタにしてしまうと宜しい。……クソが……俺に何かしやがったな。テメェじゃねぇ。テメェに憑いて……! 問答する気は欠片としてない。最後に繰り出した必殺の蹴りは――頭蓋を砕くのに十分な威力か。ああ、そうそう、その眼鏡ダサイからやめたほうが良いと思うわ、胡散臭い。獣だ。獣のような臭いが、紫煙に紛れていた。

花喰・小鳥
四之宮・榴

 夢と現の狭間で何を見た。
 流れるような、垂れるような、紫煙と紫煙のぶつかり合いが、眩暈以外に何を起こすのか。慾に目が眩んでいるのは常日頃からで、成程、一切合切が故郷のような仕業と謂えよう。……慾にまみれた顔をしています。呟きが、囁きが、何処に刺さったのかと問われればお隣か。ラジオの悪鬼は――レディオデーモンは――ギャハハと哄笑をするだけだが、オマエ、お隣さんの感情とやらは如何に。……殺戮に……興味は、ないのですが……。殺戮に興味がない事くらいは把握されている。だが、しかし、それよりも――まったく、気が触れていない事に思考を裂くべきか。此処まで、何も感じないのは……慾を出せないのは……僕は、不感症と謂う……やつでしょう、か? おいおい、なぁにしけた面してんだよ。そんなんじゃ、連れの方が参っちまうぜ、テメェ。……ええ、そうなのかもしれません。ですが、僕は、リスナーになった記憶が、ないのです。記憶が無かろうと、記録されて無かろうと、悪鬼が『有る』とした瞬間、オマエはリスナーなのだ。……ところで、貴方様には、対がいるのではありませんか? 色合い的に。ほう……なんにも考えてねぇと思ったら、しっかり考えてるじゃねぇかよ。赤鬼も青鬼も泣く事はない。欠片として優しくないのだから御伽噺にすらも成りはしない。……花喰様のお邪魔はせず、僕は、僕のできることをしましょう。
 柘榴の味を確かめるよりも、嗚呼、熱い視線とやらに中てられたならば、意識は強制的に掻っ攫われる。きっと、榴はいつも通り。彼女がいつも通りなのであれば、私も、私の役割を全うしなければ勿体ない。欲望を満たせるならば、丁度いい機会なのではなかろうか。私のことは気にしなくても大丈夫です。返された視線は|醜悪な美の極致《グロテスク》。もわりと、紫煙を冒涜するかのような|吐息《ブレス》が空隙を埋め尽くした。無敵なんて浪漫に欠けますが……その、誘惑はずるいと思いますよ。|天獄《やいば》で裂いたブレス、その僅かだけでこのザマだ。歓喜せよ――消費するならば、この痛みだ。
 痛みこそが快楽ならば、それこそ|恋人《●●》のようだ。痺れた頭を揺れしていると、その横から悪鬼へと飛ぶ一枚。……花喰様が、それを、望まれている事はわかっています。ですが……僕も、仕事ですので……。ざくりと、貫通した|恋人《タロット》。あぁん? テメェ、良いところだってのに、釘を刺すんじゃねぇよ。吶喊してきたレディオデーモン、想像していた以上に感情の起伏が激しいようだ。……ちょっと、羨ましいかも、しれませんが。お触りは禁止です……! 深海からの|捕食者《きみ》による受け流しが決まれば、嗚呼、十分だ。反撃を喰らわせた瞬間に――喰らうもののおねだり。
 よい子には刺激が強すぎたでしょうか?
 もっと、もっと、欲しい。欲しいのだから、迫るしかない。抱きつくように、巻きつくように――ゆっくりと、臓腑を突き刺すように。散々に痛めつけられて、甘い声で囀ったけれど――枯渇して気絶なんて、だらしないです。
 ……俺は刹那に生きてんだよ。

野分・時雨

 冗句の混じった垂れ流しだ。
 何者かへのレターである。
 喧嘩だ、喧嘩だ、大喧嘩だ。江戸の時代の風物詩すらも√妖怪百鬼夜行では娯楽となる。何処かの住職の怒鳴り声が、嗚呼、未だに頭の中で反響をしているかのように。うるさいな。ぼくは今からお仕事なんだから、全部、もらっていくからね。随分な言の葉ではないか。この大騒ぎは、さて、何日前の事であったか。時が変わって今現在、牛鬼の目の前には悪鬼のひとつ。ご自慢のレディオに腰かけて狂気の類を孕んでいる。レディオスターさ~ん。声だけでなく、直接MCさんに会えるなど滅多にない機会では? 嬉し~い。サインもらおうかな。この一言に、さりげない接近にレディオデーモンは嬉々として応えてくれた。ほう。テメェ、思ってたよりもわかる奴じゃあねぇかよ。サインなら幾らでも書いてやるからな。色紙だろうとなんだろうと、持ってきやがれ。じゃあ……卒塔婆にサインください!!! 素敵だ。まったく素晴らしい、冒涜的なお言葉ではないか。これにはレディオデーモンも手放しでの大喜び。やるじゃねぇか! そうそう、|頽廃《デカダン》ってのはこういう、グロテスクもんが要なんだぜ! 血文字で構いません。懺悔でもおっけいです。あん? そりゃ如何いう意味――? 足元を掬ってやれ。救ってやれ。羂索でのちょっかいは如何に。
 厄介な吐息ではあった。面倒臭いブレスではあった。故に、天地をひっくり返すよりも前に『それ』の息切れとやらをじっくりと待つ。エログロナンセンス。煩悩・無常・空といったところでしょうか。まさに迷いのない世界の凝縮……迷いどころか混沌だよもう。もうもう、もうもう、うるせぇ野郎だ。テメェが思っている以上に世界は、俺達のようなものを望んでんだよ……! そうでしょうか。ラジオスターはビデオに殺されたかと思いましたが。残念ながら、ビデオは無いので……。卒塔婆で我慢してください。
 無法地帯ではないか。無法地帯だからこその、所業ではないか。
 ぶっ叩け! これは慈悲だと告げてやれ!
 ここは文化の停滞する百鬼夜行。古き良きものをありがとうございます!
 ……テメェ……おぼえてやがれ……!

マスティマ・トランクィロ
ルトガルド・サスペリオルム

 撲った方が強いのだ。撲る方が得意なのだ。
 窓の外――ぬくぬくと、部屋の中から|観察《●●》した『それ』は如何様な等活であったのか。何度も何度も起き上がる、生き返ってしまう、彼等彼女等に、仏は視線を投げようともしない。何故ならばお地蔵様、誰が見たって微動だにしないのだから、そう思われたって仕方がないのだろう。蜘蛛の糸は罪人が行った、小さな小さな善にすぎない。嗚呼……良いね。なんだか、人生を楽しんでいそうで。ただ……周りを狂わせるのは迷惑だからやめてほしいな。心の底からのお願いだ。紳士的な、絶対にないだろうけども、一応、諭しておこうと思った結果である。あぁん? テメェ、よくもまあ、そんな上から目線で説教をしてくれるじゃあねぇかよ。テメェはもうちょっと、その目の玉で、見る事をした方が良いと思うがな……! 太陽の光を反射するかのように、太陽の表面を模倣するかのように、紳士は息を吐いた。僕もマンドレイクもさっきルトガルドに殺されかけたからね。まあ、伯父様! あのお野菜はちゃんと逃げてくれたわ! 伯父様だって、殺されてくれなかったわ! そんなことよりあなた、どうしてどんなに楽しそうなの? 楽しいの? わたしより楽しそうかもしれないわ! それはダメよ。わたしより楽しいことをするなんて、それはとってもいけないことなの! これも殺すわ!!! そっちの嬢ちゃんの方が『わかってる』じゃねぇかよ。なあ、面の皮の厚い紳士さんよ。テメェも少しは素直になったら如何だ? ……僕は『めでたし』で終わる話が好きなんだ。めでたし、めでたし、で終わる話が好きなんだよ。じわりと、等活が怯えている。底の底から浮き上がったのは、さて、叫喚ではないか。
 地獄と謂うなら――それが一色であると決めつけても――僕にも、少し心得があってね。むくりと、起き上がったのはある種の魔性であった。嘲笑うかのように吸血鬼と『同化』したのは悪魔の中の悪魔で在ろう。もし良かったら、少し味わってみてくれないかな。お口に合うと良いんだけど……。ギャハハ! 成程、良い炎だ。良い、獄炎じゃねぇかよ。だが、それでもテメェは――テメェのお行儀の良さに縋りついてるんじゃあねぇかよ! 燃える。燃える。レディオが燃える。燃えているのならば、其処に、カタツムリさんが油を注ぐ。
 伯父様が炎を使っているから、地獄を使っているから、わたしもそれにするわ! カタツムリさんは蝸牛のように移動をしない。ナメクジやマイマイカブリとは違うと謂うところを証明しなくてはならないのだ。いっぱい、いっぱい、増やしておくの。伯父様が盾になってくれてるから、もっと増やしておくの。それから、一気にあれを燃やすの!!! まるでウィッカーマンではないか。藁人形の中に閉じ込められた悪鬼、心頭滅却すれば火もまた涼しの亜種とも謂えた。……なに? 殺しても良いのが増えたのね! 大歓迎よ。
 まったく……私を召喚するのは構わないが、殆ど、敗北しているようなものではないか。真っ蒼な鬼が出現した。出現したと同時に紳士へと向かっていく。……これは……もしかして、僕と同じ強さなのかな。それって、非戦闘員と変わらないということだからね。成程……あなたは、そう解釈をしますか。ですが、生憎と私は――|片割れ《あなた》と同等なのですよ。……ルトガルド、これは僕が何とかするから、その間に本体を叩いてくれる?
 わたし、カタツムリさん!
 早くあなたたちを片付けてマンドレイクをさがしにいかなきゃいけないの!
 あとは殴り合いだ。殴って、撲って、殺した方の勝ちである。
 うん、とても楽しそうで何よりだよ。

梅枝・襠

 垂れ流しの狂気、それを真正面から受け取っても三月のウサギは変われない。右へ左へ上へ下へ、ぐるぐる、きょろきょろ、レディオデーモンのレディオを見るのか。ラジオって何? へー! レディオ。音が出るのかい? 音が出ていようとも、言の葉がこぼれていようとも、理解をしてくれない者に対しては効果なしだ。この首よりも跳ねているウサギを相手取るのは、嗚呼、悪鬼にとっても台無しに違いない。あぁん? なんだテメェ。テメェみたいな奴には興味ねぇんだよ。ナチュラルに狂ってる奴はナチュラルチーズでも食っていやがれ。え? チーズ? チーズを喰うのはネズミだけだね。そんな腐ったもの、誰が喜んでジャムにつけるって言うんだい。それより、うんうん、音でヒトを楽しませるのは良いことだ。良いことをしていると自分に返ってくるよ。けど、おかしいな……良い音楽が聞こえない。流れてる? 流れてるのはテメェの脳味噌だろうが! この※※※!!! うわ、口が悪い! 口の悪い鬼は嫌われるよ! ポンコツなんじゃないか? テメェがそうだろうが! あたしがポンコツ!? えぇ? 非常識だな!!! ポンコツには豚しかなれないってのに、そんなことも知らないのかい!? グロテスクなど知った事か、と、なんとか人類のポーズ再びだ。頭がでっかいと壊れやすいってわからないのかい? 黙れこの※※※※!!!
 壊れたものは叩けば直るんだよ!!! さっき、あたしが頭で証明したからね。証明は完了しているんだ。なに? 照明を叩いたら割れるって? 誰がそんな話をしてるのさ! ええ? さてはトンコツだな!!! 苛々としている。レディオデーモンの溜め込みは爆発の兆しすらも赦されなかった。真実のお茶はいつだってひとつ。この場合はキックだ! キック、ノック、キック!!! テメェいい加減に――うるさいよ!! えぇ?
 こんな時間に音楽を鳴らすなんてどういう了見だ!
 忙しくするんじゃないよ!!! この三月ウサギめ!!!
 三月ウサギはテメェだろうが!!!
 非常識だ! 非常識だ! 自分が三月ウサギだってわからないなんて、非常識だ!!! 非常識ティーを味わえ!!! うわっなんだこれまっず!!!

物部・武正

 人魚の活け造り、オススメです。
 メンタルクリニックのCMが挟まった。最早、聞く耳を持つ者はひとつとして『無い』のだが、CMを挟まなければレディオ的には失格と謂えよう。電話番号を流した次の瞬間――番組とやらが乗っ取られる。ウェ~イ。始まりました、『チヤラヲのオールナイトEDEN』! 地球人くん聴いてる~? え? 聴いてない? 初回はMC交代の様子をスペシャル生放送しちゃいま~す! ドカドカと土足で這入り込むのは結構なのだが外星体、ゲストの紹介を忘れてはいないのだろうか。お相手は……なんだっけ? まァ、いいや――『ラジオのラジちゃん』で~す! ああん? テメェふざけんなよ。俺の席に勝手に座りやがって。どいつもこいつも、能力者ってのは本当に、|簒奪者《おれら》と変わんねぇなぁ! エ~、ヤダヤダ。怒んないで、オレと仲良く生放送しよ~よ。水と油ではないか。猿と犬ではないか。仲良くしようと手を伸ばしたところで撥ね退けられるのがオチであった。ところでこのラジオ、何分くらい枠あんの? え? 1200秒? 具体的な数字!!!
 なァなァ、ラジちゃん。今日のテーマはなんだっけ? んだテメェ、居座る気まんまんじゃねぇか? あ~……台本見りゃわかんだろ。そうそう、『実は自慢したい趣味と特技』だよね。おいテメェ勝手にアドリブすんじぇねぇよ。今日のテーマはだな……。細かいコトはいいジャ~ン。そういやお便り来てる~? あ、来てない? それは残念。残念も何もお便り出せそうなお人魚ちゃんはもういない。二人で頑張って間を持たせよう。う~ん。ラジちゃんはなんか趣味とかあんの? 俺の趣味だぁ? 俺の趣味……。へ~、じゃあ趣味の話おしま~い。あぁん? テメェこら!!! なんも話してねぇじゃねぇかよ、舐めやがって!!! 次はオレの特技の話ね。そっちのほうがお便り来るって絶対、任せとけって。ふわりと、レディオデーモンの身体に右掌を添える。チヤラヲ・ワールドに呑まれているのだ。このくらいの接触、なんとも思わないに違いない。
 オレね~、ウインク得意なの。はぁ!? テメェ、これがラジオだって忘れたのか!? そうそう、これラジオだからリスナーのみんなに見てもらえないじゃ~ん。ってコトで……ラジちゃん、ちょっとリアクションしてくれない? そんで、みんなに伝えるってわけ。できるできる、凄腕MCのラジちゃんならできるって。拒絶も否定も赦さない、強制的な『発動』ではないか。んじゃ……見ててね。はい、キラッと☆
 なァ――レディオデーモン・フリークエンシー。
 今日のテーマはなんだっけ?
 そうそう、『宇宙』だよね。
 スタジオが――悪鬼の存在しているところが――宇宙として、その無間の具合を発揮している。もしも、悪鬼が無傷であったならば、古妖が疲弊をしていなければ、この虚空は顕現すらも叶わなかったであろう。みんな宇宙について知ってる~? まァ、知らなくていいコトもあるよね~! 無知は罪である。故に、情報を散らかすのが『金』なのかと問われたら、そうではない。知らなくてもいい事を知ろうとする、その罪深さは猫よりも凄まじい。結果、死んだのだ。レディオデーモンは死んだのだ。
 というワケで~? 本日のテーマ『オススメの晩御飯』でお便り送ってくれた方には、番組特製・クマのリサちゃんステッカープレゼント~!!!
 発狂騒ぎはこれにてお終いだ。
 地獄の季節だけは一色で、それは永久に変わらない。

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト