星を詠み、混血を悪戯に否定する|妖《もの》
「人間との交わりは妖怪を腐らせる……今こそ我ら古妖が復権し、妖怪の宿業を示さねばならぬ!」
「そうですか……知っての通り、定められた星の運命を捻じ曲げることこそ、わっちの楽しみでございます」
√妖怪百鬼夜行。
その某所で封印から解き放たれた二人の|王権執行者《レガリアグレイド》たる古妖が会談を行っている。
「まぁ、このまま人と妖が交わり続けたら……」
「腐りきった未来しか待っておらぬ」
そう断ずるのは『鬼獄卒『石蕗中将』』……古妖の一種である地獄の獄卒であり、卓越した呪術を人妖交わりし世界を否定せんとする者達に好んでその力を貸す生粋の『妖怪純血至上主義者』だ。
今回、鬼獄卒が協力相手に選んだのはもう一人の√妖怪百鬼夜行における|王権執行者《レガリアグレイド》である『星詠みの悪妖『椿太夫』』……異名の通り、簒奪者の星詠みたる古妖である。
「わっちが作戦指揮を執り、そちらが√EDENに乗り込んで戦線指揮、でありんすね?」
「然り、腑抜けた√EDENの人間など万単位で刈り取ってくれるわ」
そう言って鬼獄卒は踵を返し、√EDEN侵攻の準備に取り掛かる。
「確か、もうすぐ√EDENのインビジブルが暴走するとの事だな」
「ええ、わっちが見たなら……あちらの星詠みも察知している事でしょう」
太夫の言葉を聞いた中将は、微笑を浮かべるのであった。
「√妖怪百鬼夜行の|王権執行者《レガリアグレイド》が手を組み、√EDENに侵攻しようとしているぞ」
フンス、と胸を張った様子で星詠みの吸血鬼であるティファレト・エルミタージュ(|真世界《リリー》の為に・h01214)は集まった√能力者に対して説明を行っていく。
よく見ると、肩が震えている……その要因は恐怖というより緊張だろう。
「東京都の郊外で暴走インビジブルの群れが発生するんだが……それを回収して|王権執行者《レガリアグレイド》の一人である『鬼獄卒『石蕗中将』』は東京に攻め込もうとしている。まず、このインビジブルの群れを撃破する事で東京侵攻を阻止するんだ」
しかし淀みなく説明自体を行い、ティファレトはタブレットを用いて次の説明に移る。
「暴走インビジブルの群れを掃討したら、身を隠した『鬼獄卒『石蕗中将』』の痕跡を辿ってもらう事になるが……より多くの暴走インビジブルの群れを撃破したなら、『鬼獄卒『石蕗中将』』と直接対決する事も可能だ」
その場合、かの鬼獄卒を撃破した後……√能力『星詠み乱れ花』を応用してもう一人の|王権執行者《レガリアグレイド》『星詠みの悪妖『椿太夫』』は『鬼獄卒『石蕗中将』』の撤退を強制執行。
事前の盟約があったのか、太夫は√能力者の不死を利用して『鬼獄卒『石蕗中将』』を取り込み強化するという予知が成されている。
「勿論、程良く暴走インビジブルの群れを撃破して鬼獄卒を撤退止まりにする事で太夫を強化していない状態で撃破する事は可能……いずれも、現場に赴くお前達に一任する」
そうしてブリーフィングを〆るとティファレトはスマホで通話を行い、集会場となる施設の前に複数台のタクシーを招集するのであった。
第1章 集団戦 『暴走インビジブルの群れ』

「俺はダーインスレイヴの付喪神! 抜けば敵がなんであろうと切り捨てるぜ!」
最初に今回の戦場に到着したのはジョン・ダーインスレイヴ(魔剣ダーインスレイヴの付喪神・h03615)……√エデンの北欧神話に伝わる魔剣、ダーインスレイヴの付喪神だ。
伝承の通り、一度鞘から抜いてしまうと、生き血を浴びて完全に吸うまで鞘に納まらないといわれた魔剣の代表格のひとつであるジョンであるが……
「でもよお。俺は剣だから使い手次第で鈍にも魔剣にもなれる――なので、俺の代わりにある人に剣を握らせてみたぜ!」
迫り来る暴走インビジブルの群れを相手に、ジョン……魔剣ダーインスレイヴを握った人物は一閃……
ジョンの√能力『古龍降臨』により、太古の神霊「古龍」……恐らくは件の魔剣が血を啜ったファフニールであろう。
邪竜を纏う事で、移動速度が3倍になるだけでなく装甲を貫通する威力2倍の近接攻撃『霊剣術・古龍閃』が発動可能になった『彼ら』は、暴走インビジブルの群れを切り裂いていく――
「俺の剣が、真実を斬り裂く!」
赤き汚染を与える√能力『ポリューションレッド』の爆破攻撃による呪詛を切り裂き、反撃として振るわれる『霊剣術・古龍閃』がまた一体の暴走インビジブルを斬滅する。
その光景は、暴走インビジブルであろうとも恐怖を刻み込むには十分だったのだろう……奴らの動きが鈍っているのを、ジョンは確信する。
「俺の一撃が、混沌とした戦場に秩序をもたらす」
一閃が放たれる毎に、暴走インビジブルによる混沌は律される。
「敵の動きが鈍り、俺の存在が彼らに恐怖を与える」
だからこそ、かの魔剣は宣言する。
「これが、正義の味方としての俺の役目だ」
「最初は暴走インビジブルの群れ……殲滅力の勝負、だね」
陽気さが『欠落』した少女である|浅儀・斗鳴《あさぎ・とな》(燃える陰気少女・h03286)は、自身の護霊である『ビッグディッパー』を招来。
七色七様の拳大の球体の集まりであり、|斗鳴《とな》の霊波との交信で行動する護霊は√能力の発動により更なる動きを見せる。
「落として、ビッグディッパー……『セプテントリオン』」
斗鳴が独自に開発したオリジナル√能力は、ビッグディッパーから放たれる七種の攻撃……それらを300回攻撃という形で暴走インビジブルの群れを殲滅していく。
更に言えば『ビッグディッパー』は群体型の護霊。
それぞれ独自行動を行わせる事で、より広範囲に『セプテントリオン』による殲滅が可能となる。
「となは後方から状況を見て、ビッグディッパーと交信して指示を出すよ……出来るだけセプテントリオンを撃ちたいけど、ここで力を使い果たさないように気をつけないとね……」
陰気な口調でこそあるが、√能力を手に入れた事により今までの引きこもり日常とは違う日常を|斗鳴《とな》は夢見ている。
その為、√EDENを守る戦いについてはやる気に満ちているのだ。
「行くよ……ビッグディッパー」
再び己の護霊に命令を下し、√能力『セプテントリオン』を発動。
無軌道に√能力の連発を行わず、必要最低限の回数で最大効率の殲滅を意識しながら|斗鳴《とな》は戦場を駆けていくのであった。
「痕跡を辿るには、ちょっと群れが多いかも……なら、わたしは暴走インビジブルの群れを引き付けてお片付けするよ」
|保稀・たま《ほまれ・たま》(スきなコとスきなコト・h02158)は暴走インビジブルの群れが出来るだけ多くいるところに突撃。
武器を構え、レイン砲台を連射しながら立ち回っていく。
「わたしたちの√EDENで、そううまくいくと思ったら大間違いだっていうの、教えてあげる!」
たまはレインメーカーの√能力『決戦気象兵器「レイン」』を発動。
空に伸ばした彼女の手のひらを指定地点にして、狙いを定めた暴走インビジブルの群れにレーザー射撃を行っていく。
「っと!――状態異常にはほっぺたつねって、激痛耐性で耐える!」
暴走インビジブルから放たれた√能力『ポリューションレッド』に対しては、たまは痛みを自身に与える事で対応。
「今の爆破……この身体が赤く染まるの……かっこよくない?!――かっこいいわたしの身体がやっぱ最高のモチベでしょ」
更に自尊心を高める事で蝕む精神の異常を跳ねのけていく。
「あとで絶対最高のセルフ撮影会だね。そのためにも……さ、次は誰かな?」
瞬間、たまのレイン砲台から√能力によるレーザー光線が300発射出される。
その光の瀑布により、暴走インビジブルの群れの一つが一掃され……演出する様にその跡地からたまは現れる。
「(……敵をよく見て、何か役立つヒントが出てくるようにしてみるのも、立派な戦術だからね)」
自らを誇示する様に立ち回りながら、たまは随時暴走インビジブルの群れの様子を観察していくのであった。
「やれやれ、たまにいるんだよねぇー、そういうの……聞かされる混血の身にもなってほしいもんだーねぇ」
心底呆れかえった声色で、|天華宮・六花《てんげのみや・りっか》(雪花ひらひら・h02640)は溜息をつく。
天花宮家と言う由緒正しい祈祷師のお嬢様であり、混血であるが種族的には妖怪……昔々、雪山で好き勝手してた雪女のご先祖様と豪雪災害を止めるためにやってきた人間の祈祷師が燃えるような恋をした結果の果てに、六花は存在している。
「まずは、とにかく有象無象を蹴散らしてやれば良いわけかな? わかったわかった、まーかせといてぇー」
彼女はお嬢様ではあるが、同時に√妖怪百鬼夜行にて抹茶フラペをキメる様な今どきの女子でもある。
故に『鬼獄卒『石蕗中将』』……人と妖が交わらぬ世界を目指す|王権執行者《レガリアグレイド》の言い分は完全に理解の外であり……
「まずは呪符をちょいちょいーっとばら撒いてやってその妖力で氷塊をいくつか生成。そこに私自身から霊力のビームをどん!」
即ち……√能力『|反射衛星霊力波《プリズムリフレクターオカルティックビーム》』の発動。
霊力の光線を用いた通常攻撃……雪女の妖力で氷塊を生成した後、霊力ビームを撃ち込んで拡散・反射させ範囲掃射する術が、2回攻撃かつ範囲攻撃となって暴走インビジブルの群れを一掃する。
「名付けて反射衛星霊力波ってなもんだーねぇ。最近の祈祷師はビームも出せるんだよ……さて、コレだけ派手にやってあげれば、本命も釣れるんじゃない?」
取り出した抹茶フラペチーノに口を着け、休息がてらに糖分を補給しながら……人妖の祈祷師は面倒くさそうに呟く。
「おいたする妖怪にお仕置きするのも天華宮のお仕事だからねぇ……たまには実績作っておかないと、だ」
「遅れて来ちまったな。まあいい、残党処理も立派な仕事だぜ」
発生した暴走インビジブルの群れが殆ど殲滅された中、最後に現場へとやってきたのはヒイラギ・リナ(冥土送り・h03326)。
一見すると無愛想なメイドである彼女だが、その正体は家主から秘密裏に雇われた暗殺者で、夜な夜な家名に楯突いた愚か者を狩っている職業暗殺者だ。
「……ハチェットで事足りる」
鈍い音と共に、使い込んだハチェットが暴走インビジブルの一体の首を刎ねる。
足元でのたうち回っていたそれは、一度大きく跳ね……静かになった。
「いいザマだ」
言葉が紡がれたその刹那、ヒイラギは大きく身体を翻して飛び上がり、そのまま重力に任せてハチェットを打ち下ろす。
「ケッ……『オートキラー』」
下ろす。下ろす――先程ヒイラギの背後から迫っていた数匹の暴走インビジブルは、一斉に真っ赤な霊気を纏って突撃してきたと同時に……それを読んでいたヒイラギによって斬首され、肉体を切り刻まれていく。
「当たるかよそんなバレバレなの。暗殺のアの字もなってねーよ」
首を失った暴走インビジブルの群れはどしゃどしゃと倒れ伏し……やがて、戦場には一匹も残っていなかった。
「さて、次は……ところでコイツらの首ってどこにあンだ?」
ハチェットを担いだ後、ふと疑問に思った事を口にしながらヒイラギは次の戦場へと向かうのであった。
第2章 ボス戦 『鬼獄卒『石蕗中将』』

「――おのれ! 貴様らにも星詠みがいるとはいえ、ここまで迅く殲滅させられるとは……!」
文字通りの『鬼の表情』で、√妖怪百鬼夜行の|王権執行者《レガリアグレイド》が一人『鬼獄卒『石蕗中将』』は√能力者達を睨む。
「邪魔をするな、√妖怪百鬼夜行は正常な状態ではない……人と妖が交わらぬ正しき世界の為に、その命とインビジブルをよこせ!」
鞭を取り出し、式神を呼び出しながら戦場の環境を書き換える呪術を展開しながら鬼獄卒は君達に襲い掛かる――!
「強そうな敵……や、やれるかな……? 強い相手には真正面から挑むのは危ないよね……隙を作れるように動いていかないと」
|浅儀・斗鳴《あさぎ・とな》(燃える陰気少女・h03286)は√妖怪百鬼夜行の|王権執行者《レガリアグレイド》との戦いに、流石に緊張している様だ。
となると、今回は√EDENを守る√能力者の特権が一つ……連撃を用いて斗鳴は戦っていく。
「星の為、落ちて弾ける、七つ星……『落星・北斗七星』」
彼女は護霊使いとして護霊「ビッグディッパー」を招来。
少し離れた所で指示を出しながらビッグディッパーに指示を出していく。
「ビッグディッパーを相手の周りに纏わせて、撹乱しながら攻撃していくね」
護霊とは、相手との融合による消滅死亡……道連れによって多くの簒奪者を葬ってきた存在。
ましてや√能力者の護霊は、融合消滅による死から遡行できるのだ。
「面妖で面倒な……獄卒鞭!」
鞭を自身の足元へと打ち、周囲を『獄卒の刑場』へと環境改竄していく『鬼獄卒『石蕗中将』』。
それに対して『ビッグディッパー』は七色七様の拳大の球体の集まりとして、護霊使いの斗鳴を護衛。
次に斗鳴を狙って振るわれた鞭を払いのけ、そのまま反撃として連撃による√能力『セプテントリオン』で反撃していく。
「……『魔獄刑場』!」
七種類のダメージを受けた鬼獄卒は、次に自身の周囲の戦場を血を思わせるどす黒い赤色に輝く『魔獄刑場』へと改竄。
攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にした上で呪術を用いながら鞭と軍刀を振るっていくが――
「相手の注意がそれたら距離を置いて、同じように撹乱と攻撃をしていくだけだよ」
斗鳴はそれも読んでいた、と言わんばかりに『ビッグディッパー』へと命令。
大きな隙が出来た……受けるダメージが2倍となった『鬼獄卒『石蕗中将』』へと標準を合わせ……再び√能力『セプテントリオン』を発動する。
「疲労やダメージの蓄積で動きが鈍ってきたりした時には勝負に出たいと思うよ……落として、ビッグディッパー」
瞬間、威力を落としたことを代償として放たれる300回の『ビッグディッパーから放たれる七種の攻撃』が、鬼獄卒の|王権執行者《レガリアグレイド》を包み込み、相手は呪術による防壁で抑え込もうとするが……何分、√能力自体ではないのでそのまま押し切られて七種の攻撃による瀑布に飲み込まれる。
「私が持ってる大技のセプテントリオンで一気に ダメージを与えたい、な……!」
陰気な口調に、熱を込めて……斗鳴は自身の護霊『ビッグディッパー』に己の√能力を注ぎ込んでいくのであった――
「先ずは数的有利を取る。幸い、纏めて叩ける能力はある」
ヒイラギ・リナ(冥土送り・h03326)はそう言って迫り来る鬼獄卒の√能力『魔獄刑場』に対抗するべく自身の√能力『|水棲冥人《マーメイド》』を発動。
威力を減衰する代わりに300回の攻撃として放たれる『水の礫』を前に、|王権執行者《レガリアグレイド》は鞭を振るって弾き飛ばしながらも多々良を踏む。
「鬼の頭目にゃあんまし効かねーだろうが、嫌がって下がってくれたら御の字だ」
「小癪だぞ、人間!」
「ハ、雨晒しなら、屍を晒すぜ?」
空に向かって片手で大きく円を描き、何となく範囲を絞り込むヒイラギ……その目的は鬼獄卒ではなく。
「式神か!」
「もう遅い――『|水棲冥人《マーメイド》』!」
式神どもの真上から、再び300発の水の礫が降り注ぐ。
それらは『鬼獄卒『石蕗中将』』諸共巻き込んでいき、彼の式神を殲滅していく。
やがて式神が全滅した|王権執行者《レガリアグレイド》へと向け、挑発の言葉をヒイラギは送る――
「流石に痛えだろ。巻き込めたやつは放置、残りは協力して狩っていくぜ――さあさあ、順番に首を差し出しな」
「調子に乗るなよ!」
激昂し鞭を振りかぶってヒイラギに襲い掛かる『鬼獄卒『石蕗中将』』……対して、メイドの職業暗殺者は微笑を浮かべたまま使い込んだハチェットを用いて鞭の一撃を受け止め、返す刃で反撃していくのであった。
「雁首揃えて他の√に攻め込むたぁ、古妖の連中はシケたことやってんなぁ……せっかくご足労頂いたことだし、俺のアートをご鑑賞頂いてから、ご退散頂くとするか」
|橘・創哲《たちばな・そうてつ》(人間(√妖怪百鬼夜行)の不思議美術商店主・h02641)――「物体が勢いよく破壊される姿」に「美」を見出している美術商は、心霊テロリストとしての√能力『愉快犯爆弾魔』を発動。
「子分がいるのが面倒だが、良い感じに仲間割れしてもらえれば楽になりそうだ」
取り出した檸檬型の『怪異腹腹時計』を用いて、相手に不破の胤をばら撒いていく。
「この上官殿はホントに信用出来んのかい?」
「何を……き、貴様ら!?」
炸裂した『怪異腹腹時計』は、式神鬼……|王権執行者《レガリアグレイド》の√能力『石蕗妖鬼衆』によって呼び出された配下へと『疑心暗鬼』の状態異常を付与。
すぐさま、効果は発動し『鬼獄卒『石蕗中将』』の命令を式神鬼は聞かなくなっていく。
「子分が使い物にならなくなったら、あとは本丸だな――」
自ら作成したガラス細工を変化させた爆弾を活用して戦闘を行う√能力者である創哲は、特製の檸檬型の『ガラス細工たち』を取り出す。
それらを石蕗中将に投げつけて――『起爆』する。
「俺の作品と共に爆発するアンタの姿。中々イカしてんぜ!」
「き、さまァァァ!!」
爆風に飲み込まれ、吹き飛ばされた地を転がりながら怨嗟の声を漏らす鬼獄卒。
対して硝子細工を扱う心霊テロリストは、意に介さず次の『作品』を声の主に投げつけていくのであった。
「わたしは動き続けて視線を奪うよ!」
最後に『鬼獄卒『石蕗中将』』の前へと躍り出たのは|保稀《ほまれ》・たま(スきなコとスきなコト・h02158)。
フリルのブラウス、ひらひらのスカートにアイドルソングの歌唱……たまの特徴的なスタイル、即ちアイドルとしての特性を活かし、鬼獄卒の注意を引いていく。
「ええい、けったいな……!」
「手拍子どうぞ、ぱーんぱぱん、へい!――実はこれ、仲間たちの攻撃命中サポートなんだ」
そう言いながらたまは飛来する鞭……√能力『獄卒鞭』の攻撃を受けても狂気耐性で耐え凌ぎ……そのまま、声を出していく。
「みんなのため√EDENのため……攻撃が通るように祈りながら、視線を奪い続けるの!」
ワンドを頼りに立ち上がり続けるたま。
その姿は正に戦う乙女――そう書いて『戦乙女』である。
「ワルキューレは最高に可愛いんだから! ――頑張れるんだから!」
だからこそ、たまはレゾナンスディーヴァとしての対並行世界決戦歌唱能力を駆動。
鬼獄卒相手に、言語能力や知性の有無、次元の壁さえも超えて響き渡る歌唱攻撃を食らわせる――
「が、おのれ……!」
鬼獄卒が着いたのは、膝ではなく背。
即ち、完全なダウンである。
「だが、後は任せたぞ星詠み――」
「させないよ」
√能力『|ビクッとシャウト《ギァァーーーーッ》』、発動。
爆発に匹敵する声量の突発的大声を倒れ伏した|王権執行者《レガリアグレイド》の傍で放ち、鼓膜だけでなく聴覚を司る器官をも破壊していくたま。
これにより、古妖の星詠みの取り込み強化を妨害するのであった――
第3章 ボス戦 『星詠みの悪妖『椿太夫』』

「……耳が、聞こえない……!」
取り込みの直前、鬼獄卒は音響系√能力により聴覚を破壊された。
其れがただの音響系√能力であったら問題はなかっただろう。
だが、その聴覚破壊を成したのはレゾナンスディーヴァ――言語能力や知性の有無、次元の壁さえも超えて響き渡る歌声を持つ『対並行世界決戦歌唱能力者』の√能力によるもの。
これにより、取り込んだ『星詠みの悪妖『椿太夫』』の聴覚にも著しい影響が出てきたのだ。
「だが、星詠みはある。これで……」
それでも尚、五感の内の一つが機能不全に成りつつも星詠みの古妖は√能力者に挑む――
プレイングボーナス:聴覚に支障が出ている所を突く。
「最後の戦いだね……全力を出し切る……」
|浅儀・斗鳴《あさぎ・とな》(燃える陰気少女・h03286)は自身の護霊『ビッグディッパー』に指示を出し、古妖の|王権執行者《レガリアグレイド》『星詠みの悪妖『椿太夫』』に挑む。
今回彼女が取った戦術は一つ……最初から『ビッグディッパー』を相手の周りに浮遊させ、√能力『セプテントリオン』を発動する事。
「落として、ビッグディッパー」
「――『星詠み乱れ花』……!」
迫り来る『ビッグディッパーから放たれる七種の攻撃』……それらが威力を殺す代わりに、300回攻撃となりて飛来していくるが――
星詠みの|王権執行者《レガリアグレイド》は、予め実行していた『星詠み作戦』を用いてその攻撃を『失敗』に変えていく……
「その後は相手の視界を遮るようにビッグディッパーを動かすだけ……そして」
確かに『セプテントリオン』の攻撃は『椿太夫に命中させる事』は『失敗』した。
そう――『椿太夫に『セプテントリオン』を命中させる事』は、だ。
「……そして、簒奪者も√能力じゃないと殺せない訳じゃない……だから」
瞬間『椿太夫』の頭上から『セプテントリオン』で作り出された瓦礫が降り注ぐ。
聴覚に支障が出ていた『椿太夫』は、その事を察知することが出来なかったのだ――
「ッッッ……耳がキーーーーーーン……てしてるけど、手伝いに来たよ! たまちゃん!」
|王権執行者《レガリアグレイド》『椿太夫』の√能力を、割り込むように√能力『ルートブレイカー』で打ち消しサポートするのは、|神鳥《かみとり》・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)。
|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》にしてルートブレイカーであるアイカにとって、フィジカルを活かした戦いは大の得意だ。
「あは、どんなもんだい……ぇッ……? なんか言った?」
「こちらも、聞こえないのです……!」
惑わしの妖気を宿す椿花……『椿太夫』の√能力『九重椿』が、ルートブレイカーによって打ち消されていく。
そのままアイカは破魔等の効能を乗せた蹴りを叩き込む。
反撃に対してはオーラを展開し、霊的防護で対応。
更にルートブレイカーの右手を活用し、相手の√能力を用いた防御を無効化――そのまま、痛烈なフロントキックが『椿太夫』の顔面に叩き込まれる。
「ガッ……!」
「蹴りの一撃で少しでも動きを止めることができれば御の字。後は仲間に任せるよ♪」
そう言ってアイカは離脱を開始。
迫り来る惑わしの妖気を宿す椿花が、アイカを捕えようとするが――
「無駄無駄!」
パシリ、という音が鳴り響き……『椿太夫』の異能を消去。
これが、最強の√能力……ルートブレイカー。
そこに|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》のフィジカルを合わせたのが|神鳥《かみとり》・アイカという格闘家である――
「ほいほい、お仕事のお手伝いですね……これでも表向き花のJKでしてね、あんまり長時間日常生活を離れられないんで、ぱっぱとお仕事済ませちゃいますよ」
加勢しに来たのは|四条・深恋《しじょう・みれん》(一般高校生の√能力者・h04100)……隠密や変化術を利用した情報収集、暗殺が得意分野の半人半妖たる女子高生は、√能力『写し身』を発動。
30を超える自身と同じ外見の分身を従え、星詠みの|王権執行者《レガリアグレイド》に立ち向かっていく。
「まぁ……本来は表で誰かが気を惹いて、裏でこそこそするのが一番慣れてますな」
使い込まれた包丁の一閃が、分身の数だけ『星詠みの悪妖『椿太夫』』に仕掛けられていく。
対して椿太夫の方も、香箱を召喚――√能力『惑わしの香』を発動し、疑心暗鬼の状態異常を分身を含めて深恋に付与するが――
「……『半人半妖香』――」
身体から仄かに立ちのぼる、人も妖怪も魅了する妖しい香気……それを嗅ぐ事で、深恋は正気を保つのであった。
「アイカさん、ありがとう! 本当鮮やか♪――動きを見てたらアイカさんの素早さを真似できそう♪」
|保稀《ほまれ》・たま(スきなコとスきなコト・h02158)は『大いなる星空のワンド』……祈りの強さに応じて聖なる奇跡を引き起こす、長杖型竜漿兵器を構えて星詠みの|王権執行者《レガリアグレイド》、『星詠みの悪妖『椿太夫』』へと最後の戦いを挑む。
「わたしもこの杖でフルスイング、殴っちゃうんだから!」
椿太夫の√能力『惑わしの香』に対し、多くある香の箱を逆に利用して影に隠れ、背後に回って『大いなる星空のワンド』を振り抜いていくたま。
「させませんよ?」
対し、椿太夫は虚空から香の箱を具現化――『大いなる星空のワンド』が直撃すると同時、炸裂。
疑心暗鬼の状態異常を生じさせる――
「……わたしなら忘れない」
まだだ、と言わんばかりに……静謐な祈りの言葉が紡がれていく。
「疑わらない、暴れない、嘘をつかない、残酷な真実に囚われない……」
√能力『リミットブレイク』、発動――
他の仲間達の待ち構える方へ吹っ飛ばすべく、状態異常がなんのその――『大いなる星空のワンド』を振るい抜き、椿太夫の頭蓋骨を陥没させていく。
「ごっ、ばあぁ……!?」
「この場所で育ったわたし。服も髪も全身可愛いくてカッコイイわたし――わたしたちの√EDENを、わたしの東京の未来を守る」
左腕がへし折れながらも、たまは凛然と倒れ伏す星詠みの悪妖に最後に告げる。
「分かってよね。人間に対して刈り取るなんて言葉が似合わないのを、衝撃的に教えてあげる!」
その言葉が、骨伝導イヤホンの様に椿太夫の聴覚に響き……それと同時、|王権執行者《レガリアグレイド》は白目を剥いて今は息絶えるのであった――