シナリオ

胸の奥に雪が降る

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 4月の東京地方に雪が降っていた。異常気象と言えばその通りなのだが、気温は氷点下まで下がり、道行く人々の息は白かった。いつもなら通勤電車がせわしなく行き来する駅には人だかりが出来、出勤できないサラリーマンが愚痴を言うそばで、高校生らしき少年がこれなら学校行かなくても許されるだろうと笑顔で言っていた。戦闘機械群の策略だった。局地的に気候を変える研究の一環として√ウォーゾーンに影響のない場所で実験をしているのだった。とは言え雪である。雪国に生まれたものには懐かしく、それでいて苦労した記憶も一緒にある。それでもどこか愛おしくもある、雪が降っていた。

「事件を予知しました。東京地方のとある街に4月だと言うのに大雪が降ります。その混乱の中戦闘機械群が街を荒らし回り、大きな被害を出してしまいます。みなさんには大きな被害が出る前に戦闘機械群を倒して欲しいのです」
 木原・元宏(歩みを止めぬ者・h01188)はいくつかの近接武器の画像をスクリーンに映す。
「武芸十八般と言う言葉をご存じでしょうか。武人が収めるべきと言われた武芸の事です。今回最初に現れる敵はその武芸で使われる十八般兵器の力を受けついでいます。剣や槍、弓などを使ってくると言うことですね。敵はすでに街中に展開していますので、見つけ次第倒していってください。どうやら槍、矛、棒など長物を好むものが多いようです。人によっては長い間合いへの対策が必要かもしれませんね」
 元宏はそう言うと一呼吸置く。雪の画像をスクリーンに映すと続きを話し始めた。
「雪は敵を倒しきるまで降り続けます。ですので少なく見積もっても数十センチは雪が積もってしまうでしょう。またとない機会ですから敵を倒し終わった後で雪遊びなどしてもいいかもしれないですね。√EDENがその痕を忘れれば雪は消えてしまいます。遅くとも次の日までにはきれいに消えているでしょう。これで説明はおしまいです。みなさん、よろしくお願いします」
 そう言うと元宏は√能力者達を送り出した。

「雪が心を凍らせてくれればいいのに。そうすれば……」

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第1章 集団戦 『畫眉鳥』


見下・七三子
ミラルティ・セルリオーヌ

 しんしんと雪が降る。そういう風景だった。冬の北陸や北海道ならありふれた光景だっただろう。風もないまま緩やかに天から降り注ぐ雪は全てのものを覆い尽くそうとしているかのようだった。駅前の人だかりはだんだんと消え、家に帰る人や駅前で時間を潰す人達、止まったバスに乗れずにぼやくおじさん、ゲームセンターやカラオケに向かう学生などの姿が見えていた。多くの人が体験したことがない雪だ、どこか楽しげな人が多い。人通りのなくなった通りには『畫眉鳥』達が立ちあたりを警戒していた。雪を降らせるだけがこの作戦の全てではない。他勢力を混乱させ、自分たちに有利な条件で戦うための実験だった。彼女らはそのために極地での演習を済ませている。

「近接専門なんですよねえ、私。ですが、集団戦でしたら得意分野です。そろそろちゃんと春になってもらないと、困りますしね。しっかり役目を果たしましょう」
 ビルの中から畫眉鳥達の様子を窺いながら見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は呟いた。ビルの前の道路には槍を構えた畫眉鳥が数体、殺気を放ちながら練り歩いている。
「敵にはリーチがありますから、初撃を躱すことにまずは専念しましょう」
 そう言うと七三子は行動を開始する。

「春の雪とはまた風情な…とは言っていられませんわね。まずは集団戦、油断せずに臨みますわよ」
 優雅な防寒着に身を包んだミラルティ・セルリオーヌ(死霊侯爵・h04799)が大鎌を携えながら言った。ゆるりと大通りへ歩み出ると、ブーツのスパイクが氷を噛む。
「かかってらっしゃいな、貴方がたの魂を在るべき処へ返して差し上げましょう」
 そうミラルティが言うとあたりを哨戒していた畫眉鳥達が矛を構えて駆けてくる。雪の上だというのに乱れのない足取りだった。
「私に触れられると思っているのですか?」
 ミラルティがパンッと手を叩くと雪の中から死体が起き上がる。それらが構えた槍が畫眉鳥を牽制するとミラルティは一気に歩みを進め大鎌を振るう。矛を折られた畫眉鳥達にアンデッドの槍が突き刺さった。とは言え往来の真ん中である。人目をひく事この上ない。さらなる畫眉鳥達がミラルティのまわりに集まってきた。棒を手にした彼女らは棒を支えに高く飛び上げると一気にミラルティを襲う。
「お助けします!」
 ビルの上空から飛んだ七三子がきりもみしながら畫眉鳥に飛びかかる。七三子は回転しながら蹴りを放ち畫眉鳥が飛んできた順番に頭を吹き飛ばしていく。七三子はストンと着地すると
ミラルティと背中合わせに立つ。
「なかなか派手な登場ですわね」
 ミラルティがそう言うと七三子は少しあわあわして答えた。
「そ、そんなことないです。それよりこのあたりの敵を倒してしまいましょう」
 槍を持った畫眉鳥が2人を取り囲んでいた。畫眉鳥達は流れるような動きでミラルティを襲う。呼吸を合わせ槍衾が展開されるがミラルティはしたい達に露祓いさせるとふわりと飛び上がり黒蝕月盈を横薙ぎに払う。畫眉鳥達の首がきれいに落ちた。七三子も右脚の踏み込みとともに突き出される槍をステップを踏んで避けると呼吸を合わせて懐に飛び込む。そのまま畫眉鳥の顎に拳を叩き込むと畫眉鳥は頭を揺らして崩れ落ちた。七三子は屈んだまま手近な畫眉鳥に近づくと足払いを決める。畫眉鳥が倒れ込んだところに左右のパンチを打ち込んで脳天にかかとを落とす。
「危ないですわよ?」
 七三子の背面を襲おうとしていた畫眉鳥を鎌でなぎ払いながらミラルティは言った。
「ありがとうございます」
 そういった七三子は前転しながら次の相手に近づくと立ち上がり際に拳を突き上げ畫眉鳥の顎を砕く。
「このあたりの敵は全部倒したかしらね」
「そうですねえ。他の場所も見て回りましょう」
 2人は他の場所に敵が残っていないか確かめに行くのだった。

杉崎・ひなの

「学校休みだから、のんびり刀が打てると思ったのに」
 杉崎・ひなの(しがない鍛冶師・h00171)は恨めしそうに雪を見つめる。吐く息は白いがレプリノイドのひなのには気にならなかった。寒さも気にせずに人の通った後をぐんぐんと歩いていく。雪が降りしきるおかげで周囲の音は聞こえない。しんしんと降る雪の向こうに人影が見えた、畫眉鳥達のようだ。手には長物を携えている。
「色々な武器があるわね…私もですけど」
 畫眉鳥達は素槍のようなものから複雑な形状の矛、切るための横刃がついたものなど様々な形の武器を持っている。彼女たちが持っている多様な武器に興味をひかれたひなのはふんふんと頷きながら畫眉鳥達が持つ武器を眺める。
「このまま見ているわけにもいかないですね」
 ひなのはそう言うと【アサルトダンス】を使い素体達を青白い炎を纏った刀の姿に変える。攻撃を命じた素体達が畫眉鳥に攻撃を仕掛けると畫眉鳥は持っている武器を構え突く、払うなど武器に合わせた作法で攻めてくる。それを防御役の素体が弾くとそのまま長物を掻い潜って一気に畫眉鳥に近づき小手を打つ。武器を落とした畫眉鳥が傷ついた手で突きを放つがその隙に間合いを詰めた攻撃役の素体が切り捨てる。2隊に分けた素体達が畫眉鳥達を倒していくのを見ながらひなのは特徴のある武器のデータを集めていった。
「戟、戈、矛、槍、長い武器が多いですね。他にもあると思うから別の場所も見てみようかな」
 ひとまずこの場にいる畫眉鳥を倒しきるとひなのは別の場所にいるであろう敵を探しに行った。

リズ・ダブルエックス

「兵器が元になった存在、という意味ではベルセルクマシンから派生した私も同じだと言えるでしょうか。相手側の土俵や、気象的な悪条件に付き合うつもりはありません。冷兵器の武芸が相手ならば、レーザー兵器の戦術でお相手しましょう。殲滅戦の開始であります!」
 リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は上空より街の様子を窺いながらそう呟いた。畫眉鳥達は残すところあとわずか、2,3小隊と言ったところだ。リズは手始めに手近な敵部隊の元へと移動するとLXMを照射して敵の殲滅を狙う。手始めに1体の畫眉鳥が胸を穿たれて倒れた。その上に雪が積もっていき姿は見えなくなる。もちろん、血の跡などない。残った畫眉鳥はビルに長柄武器を引っかけながら登ってくるがリズを狙うには高さが足りない。
「いい的ですね」
 リズはそう言うと高火力型のレイン砲台で飛び込んでくる畫眉鳥を撃ち抜いた。胸を貫かれ落下していく畫眉鳥は雪の上に音もなく叩きつけられると降ってくる雪の中に消えていった。
 残るはあと1小隊、リズは残る1隊を見つけるとレインを撃ち込むがそれを見越していた畫眉鳥達は物陰に隠れるとお互いの武器を梃子にしてリズに向かって飛びかかってきた。上空まで飛び上がり槍を投げると槍はリズを襲う。リズはシールドを展開して槍を止めようとする。畫眉鳥の投げた槍は六角形のシールドに刺さった後で地面へと落ちていった。リズは【決戦気象兵器「レイン」・精霊術式】で自在に動くレーザーで隠れている畫眉鳥達を狙うと畫眉鳥達があぶり出されてきた。畫眉鳥達も必死で抵抗する。次々に槍が投げ込まれる。シールドを越えてきた槍の一本がリズの頬をかすめた。リズはLXMとレイン砲台から一斉射撃を行う。
「これで終わりにしましょう」
 無数のレーザーに撃ち抜かれた畫眉鳥達は雪の下に消えていった。

第2章 ボス戦 『機械兵団の走狗『エリー』』


 街に一時的な静寂が訪れた。雪はまだ降り続いていたが戦闘機械群の姿は見えない。いるのは一人の人間の少女だった。ただ、その少女、『機械兵団の走狗『エリー』』は戦闘機械群の先兵だったが。
「私が出るしかないようですね。機械達に私の、いえ、人類の価値を認めさせるために」
 その表情は凍ったようにどんな感情も表してはいなかった。その氷の奥にあるものは窺い知れない。この街に降る雪のように心を覆い尽くすものが消えたとき彼女が何を言うのかはわからない。わかっているのはただ一つ、彼女は敵であり倒さなければならないという事だ。
 雪は今だ降り続いていた。
見下・七三子
ミラルティ・セルリオーヌ
杉崎・ひなの

 雪にも重い軽いがある。寒いところならさらさらとした雪が降るだろう。細かく飛んで行くそれはきれいだ。冷たければ服を濡らすまで溶けることもない。ただ、その分厳しい。東京に降る雪は重い。例え積もるほどだとしても。この実験では凍えるような凍てついた雪を降らせることが出来なかったようだ。重たく鈍い灰色をした、憂鬱で冷たく、湿った雪が積もっていた。エリーはその雪を受け、大通りへとやって来た。√能力者達は戦闘機械群を殲滅して『敵』の司令官を探していた。そう、探していたのはエリー、その人なのだった。
「なかなかいいデータが取れました。さて…」
 杉崎・ひなの(しがない鍛冶師・h00171)は珍しい武器を見られた喜びの表情を浮かべていたが冷たい顔をしたエリーを見て表情を引き締める。
「機械達に人類の価値を認めさせるため、と来ましたわね。貴方の事情は存じ上げないけれど、私達も黙ってやられるわけにはいかなくてよ」
 ミラルティ・セルリオーヌ(死霊侯爵・h04799)も強気に言い放つ。
「そうでしょう。ですが、私にも私の生き方が、願いがある!」
 エリーはそう言うと全身に雷を纏わせる。それが決意なのか、諦念なのかはわからなかった。それでも奮い立たせるように雪空に雷が鳴り響く。
「……雷……麻痺かあ……。可能な限り、貰うのは避けたいところですけど。いつも通り、ヒットアンドアウェイで乗り切りましょうか。……こう、普通の能力者と大差ない姿をした女の子を殴る蹴る、は気が引けますが。私はただの下っ端戦闘員。気を抜くと負けちゃいますからね。申し訳ありませんが全力でお相手いたします」
 見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)はビリビリと震えるような空気を感じながらそう言った。一瞬の沈黙の後、動いたのはエリーだった。一気に距離を詰めると手近にいた七三子に電気を帯びた拳を突き立てようとする。
「いけません」
 ひなのが【ジャミングダンス】を使いエリーの間合いを割って突きを放つ。エリーはその切っ先をすんでのところで躱すと拳をひなのの方に向けるがひなのも腰を滑らせて避ける。エリーの拳は雪面に叩き込まれそこに雷が落ちる。
「その雷撃、厄介ですわね」
 ミラルティが死霊術を使い雪の下にアンデッドを呼び出し槍衾を築く。エリーは地面から立ち上る槍の群れを電場を作って反発する磁力で飛び上がって避ける。そのまま全身から電撃を放つ。
「覚悟では負けない!」
 そんなエリーの声を聞きながらひなのが言う。
「機械に、私の…?あなたは、ヒトなのですか。機械より劣っていると思っているのですか?」
 電撃を受けて焼けた頬で表情を変えずに。
「機械には勝てない。のうのうと生きているお前達にはわからないだろう。物言わぬ機械の怖さを、迷わぬものの怖さを」
 エリーはそう言うと雪の降る空から無数の雷を降らせる。
「自分は弱い、とわかっているからこそ、前を向けることもあるんです」
 七三子はそう言ってエリーの足下に潜り込み足払いを仕掛ける。エリーが飛んで躱すのを見るとそのまま回転して回し蹴りを放つ。
「うるさい! 私の苦しみがわかってたまるか!」
 感情的になったエリーは大ぶりに右手を振り七三子を狙うが慎重に行動を読んでいた七三子は冷静にスウェイで躱すとエリーの顔面に拳を突き刺す。
「く!」
 距離を取った七三子を苛立たしげに追ってなおも拳を振るエリーだが雪に体が取られて思うように動けない。
「この戦いを通し、凍てついた貴方の心を溶かして差し上げますわ」
 ミラルティの詠唱が悪霊の亡霊を呼びエリーを苛む。
「違う。私は諦めたんじゃない。生き残ることを選んだだけだ」
「それがあなたの苦しみかしら?」
 ミラルティは鎌を掲げてゆっくりと近づきながらそう言った。一瞬言葉に詰まるエリー。
「私は人形ですが、ヒトの価値は素晴らしいと思います。機械もそうだと思いますが、創造するのは苦手ですから。データの中でしか応用が出来ない。戦えない。相手の笑顔が何なのかも分からない。私は笑顔はまなみに教えて貰ったから分かる。でも、あなたは感情を表してないけど…相手の感情が何を表しているのか知っている。それだけで羨ましい」
 ひなのがエリーの残した雷に刃を当てながら斬りかかる。ビリビリと強烈な電撃がひなのとエリーを包む。エリーの拳とひなのの刀が交差した後、2人は雷に打たれたように震えた。
「感情など、無ければいい、のに」
 雷に打たれ苦しげにあえぐエリーは今だ戦うことをやめない。フラフラとひなのに近づいていくエリーをミラルティの大鎌が襲った。腕を引き絞り一気に鎌を振り抜くとエリーの胴に深い傷が開く。流れる血は赤かった。
「まだ人であるなら、思い出せることもあるでしょう」
 ミラルティはそう言って鎌に付いた血を飛ばす。
「正義ってなんですかね。ヒーローってなんでしょうね」
 そう呟くと七三子は正面からエリーを殴り飛ばした。その表情は仮面の下に隠れてわからない。
「そうやって隠していられれば良かった」
 そう言うとエリーはゆっくりと雪の中に倒れた。

第3章 日常 『全力雪遊び』


 エリーを倒すと雪はきれいに止んだ。気温も徐々に上がっているようだ。彼女の心は解けたのだろうか。それはわからない。それはそうとここにはまだ雪がたくさんある。気温の変化と忘れようとする力のためこの雪も明日には消えてしまうだろう。せっかくの雪景色だ、雪を見るのも、雪だるまを作るのもいいだろう。季節外れの雪を楽しんで欲しい。
見下・七三子
杉崎・ひなの
杉崎・まなみ

 街は寒かった。雪が積もるくらいなのだ、東京にしては寒すぎるくらいだろう。しかも4月なのだった。桜と一緒に雪が降る事なんてこんなことが無ければ無いだろう。白とピンクが入り交じるように降っていた。戦闘機械群の残した傷跡は雪の中に埋もれ、雪とともに消えていくのだろう。季節外れの大雪、観測史上最大の異常気象、そんな風に記憶に残っていくのだろう。
「こんなまとまった雪を見るの、私初めてです! ……うう、でも寒い……。戦ってた時には気になりませんでしたけど、じっとしてるとこう、楽しむどころじゃない寒さです……」
 我に返るとまわりの状況に気づいたりするものだ。見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は思い出したかのようにやって来た寒さに身を震わせた。それでも初めて見る雪山に目を輝かせる。
「……せっかくですし、何か作ってみようかな。……定番ですけど、雪だるまとか。せっかくですし、大きいのが作りたいですね。人手を呼んで……と」

「まなみ。こっちだ」
 戦いが終わってほっと一息ついていた杉崎・ひなの(しがない鍛冶師・h00171)のもとにやって来たのは杉崎・まなみ(ひなののAnker・h00662)だった。
「うわー凄い雪だー…あ、いたいた、ひなのちゃーん」
 まなみは雪の中に立つひなのちゃん、凛としてるなぁと思いながら手を振る。その笑顔を見たひなのは顔をほころばせる。やっぱり感情はあった方がいい、そう思いながらひなのはぼんやりとまなみの顔を眺めた。
「ん? どしたの?」
 まなみが聞く。
「ううん、なんでもない」
 ちょっとだけばつが悪そうにひなのが答える。
「これだけ積もってるならさ、雪だるま作ろうよ」
 2人は近くにある公園に向かった。

 公園に着くと戦闘員の集団がせっせと雪だるまを作っていた。軽く上気した頬で白い息を吐いているのは七三子だった。晴れた空の下戦闘員達の黒い服が映えていた。白い雪の上で一生懸命巨大な雪だるまを作っている様を考えると七三子はふふりと笑顔になった。
「……戦闘員集団が巨大雪だるまを作ってるのって割とシュールですけど……」
 それを見つけたまなみが笑顔で声をかける。
「こんにちは! 大きな雪だるまになりそうですね」
「ええ、せっかくなのでとびきり大きいのを作ろうと思って」
 七三子がそう言う。明日には消えてしまうとしても、今を楽しむのももいいものだろう。
「世話になったな」
 まなみのとなりにいた日なのがキリリとした顔で言うと七三子も答える。
「こちらこそ、ありがとうございました」
「ここなら大きいのが作れるよ。私達も作ろう!」
 まなみにせかされると一緒に雪だるまを作り始めるひなの。初めは小さな雪玉も転がしているうちにずいぶんと大きくなってくる。
「感情って、無い方がいいのかな」
 ぽつりと呟いたひなのにまなみが笑顔で答えた。
「ん? 急にどうしたの?」
 ひなのはまなみに会ってから、感情というものを知り始めてきたのだった。そして、もしもいつか人形に戻らなくてはいけなくなるかもと思っていた。それを考えるとなんとも言えない恐怖が胸に浮かぶのだった。
「んーでも、会ったそのヒト?たまたま強かったのが機械なだけって気もするけどなぁ」
 硬い表情をしたひなのを励ますように、まなみは目一杯の笑顔を浮かべる。
「だって…今どっちにも勝ってここに居る、お人形さんやみんなが居るじゃない。えへへ」
 そんなまなみの言葉を噛みしめるように、ひなのは胸をなで下ろす。

「みなさん、そろそろ仕上げですよ」
 七三子がそう言うと戦闘員達が元気よくかけ声を上げた。程なくして、とてもとても大きな雪だるまがいい顔をして公園に鎮座することになった。その声に応えるようにまなみが手を振る。
「こっちも出来たよ。とっても大きいね!」
 さすがに戦闘員達が力を合わせて作った雪だるまに大きさでは負けるが、それでも立派な雪だるまが出来ていた。 ひなのとまなみは笑顔で見つめ合った。2人が作った雪だるまに負けないくらいいい笑顔で。空は青く、雪は白い。いつも晴れているわけでもない、雪の下に埋もれて凍えることもあるだろう。それでもその地面の中では種が芽吹いているものだ。それはいつか芽吹くだろう。誰かの心の中でも。

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