シナリオ

光る! 鳴く! 高速クジラ!

#√ドラゴンファンタジー #喰竜教団

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●ろうかもはしってよいときがある
「――まっ、に、あわ、なーい!!」
 息を切らした少年の声が聞こえる。必死になって駆けて、戻って、さらに駆けて……何度目だろうか。体力の限界が近い。
 その場で屈み、ぜえぜえと肩で息をするドラゴンプロトコルの少年。横目で見るは、トンネルの外側――深海のごとき暗い海中を、すうっと優雅に泳いでいく光体。
 巨大な鯨の姿をしたそれは、こちらを気にすることなく泳いでいく。そして……しばらくすれば、後方からまた、鯨。

「これ……どうなってんだよぉ……」
 ループしている。海中トンネルの中が。走っても走っても辿りつかない奥の暗がり。光体の鯨に照らされてなお、その闇が晴れることはない。
 冒険者たちは互いに顔を見合わせ……そして、過ぎ去っていく鯨を見つめる。海中にはきらりと鱗や目を反射させ、光を放つ深海魚――。

 仮にこのトンネルを抜け、先に辿り着いたとしても、彼らに待っているものは。

●せわをかける。
「やあ。『世話をかける』が、手を貸してくれ」
 √ドラゴンファンタジー、ある冒険者ギルドにて。テーブルの上に紙が挟まれたバインダーを置くは、ドラゴンプロトコルの青年。コンラッド・バラクロフ(|死に《生き》たがり・h06926)。

「ドラゴンプロトコルを狙った事件はまだ続いている。今回はダンジョンに挑む冒険者を狙って、『ドラゴンストーカー』が行動を起こそうとしている」
 指し示すは、とあるダンジョンだ。海の近辺にあり、示す場所の通り入れば海に関するダンジョンになっている様子である。

「おれはよく理解している。奴らの脅威を。竜を崇めると言いつつ、己が頂点に至るために行動する……」
 唇を噛むコンラッド。何かしら嫌な思い出があるようだが、それは今触れるべき問題ではない。
「まずここだ。一層は水族館にあるような、透明なトンネルになっていて。この外を、巨大な鯨が泳いでいるんだ」
 軽く絵を描いてみせるコンラッド。なかなか達者なもので、紙にトンネルの簡易的な図と、横切る鯨のシルエットが描かれていく。
「この鯨は光っていて、実体があるかは……外に出ることが出来ないため不明だが。結構な速度で、このトンネルを一方向に泳ぎ続けている。遠くに消えたと思ったら、後方から現れる」
 矢印が描かれ、くるんと入り口へ。

「こいつを追い抜かなければ、このトンネルはバチクソにループする」
 ……今バチクソって言いましたか?

「バチクソに、ループする」
 ダメ押しである。

「かなりの速度だ。おれでは……おそらく追いつけない。何らかの手段でこいつを追い抜いて、トンネルの先を見てきてほしい」
 幸い横幅はあるので、何らかの手段で速度のある乗り物を持ち込めなくもない。などと、「それダンジョンの入り口と相談しなってこと?」といった提案なども出しつつ、コンラッドは話を続ける。
「その先は予知だと、何か……深い縦穴があるようだが。詳細はわからない」
 すまないと頭を下げつつも、まあ、彼がそう言うにはたいした脅威ではなさそうだ。相当のものであれはゾディアック・サインがそれを示すことだろう。

「それで。冒険者たちが、このダンジョンで四苦八苦しているが、まあ……無視してやったほうがいい。連れて行くときっと惨事が起こる」
 冒険者の中には、ドラゴンプロトコルが含まれている。喰竜教団の関連する事件だ、彼らを安易に先に進ませるわけにはいかないだろう。

「頼んだ。きみたちのことを、信頼している」

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第1章 冒険 『アクアリウムダンジョン』


 わあきれい。普通に見るぶんにはそれはもう、深海にほど近い海を眺められる絶好の機会である。
 泳いでいく光体の鯨。それはもう、美しい光景なのだが……。

「もう……無理だわ……なんあれ……ちょっ……意味わからん……」
 トンネルの壁にもたれかかり肩で息をしてぜえぜえと。冒険者たちはすでに疲労困憊。こんなダンジョンに挑むからなんですよ、なんて身も蓋もないことは置いておいて。

 入口の広さとトンネルの広さ的に、まあ小型車両くらいなら突っ走れそうですけど。
 √能力者の素でもなんとかなりそうでもある。具体的にはSPDでダッシュ。
 鯨が全力出して張り合ってこないといいね。

 どうします? これ。
クラウス・イーザリー

 光体の鯨が優雅に泳いでいく。動作は遅く見えるものの、その巨体ゆえか速度は相当なものだ。
 すう、とあっという間にトンネルを過ぎ去り、見えなくなったかと思えば後方から現れる……情報通りの姿。
 海中トンネル、泳ぐ鯨、ここがダンジョンでなければ観光に良さそうだった、というのに、残念ながらここはダンジョン内なのである。きけんがいっぱい!
 でも何が何だかよくわからない? まあダンジョンってだいたいそういうものなんで。(大肯定)
「ええと、あれを追い抜けばいいんだね……」
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はやや残念そうに過ぎ行く鯨の姿を見ながら呟く。

 追い抜かなくて良いならばゆっくり見ていきたかったところだが、そうもいかないと、そこらでへばっている冒険者の姿を見ればわかる。
「やる気か……やる気なのか……」
 冒険者が呆れているのか疲れているのか微妙な声色でクラウスに声をかけるも、彼は返答せず――ただ、持ち込んだバイクに跨がりエンジンを入れた。
「……マ?」
 冒険者くんよ、常識にとらわれるな。使えるもんは使うよね! クラウスがドのつく素で考えついた作戦、というかね普通はこうするって。
 ギアを入れエンジンの回転を入れ――ギアチェンジ! アクセルオーバー! フルスロットル!!

 ですが残念ながら。
「(あ、これ効果ない……?)」
 そうなんですよ、肉体自体の速度は乗り物にはあんま関係なくってぇ……。(やたら厳密判定)

 なおこの鯨、シルエット・サイズ的にイワシクジラと思われます。
 最高時速60キロメートル以上――即ち。バイクの法定速度だと「トントン」ぐらいである!
 いや早いよね。鯨、すっげすっげ。
 まあ文明の利器は素でも早いんで! 法定速度? 知らんな! 公道じゃねえもん! ブチ抜いてやらぁと加速すれば追い抜けそうだ……が。

 言った気がする。そう、鯨が全力出して張り合ってこないといいねって。

 低い鳴き声が聞こえた。途端速度を上げる鯨。さっき最高時速は~とか言ったって?
 知らんな! バイクの最高時速、超えやがった!
 ――となれば。
 やっぱ信頼できるのって、自分の脚っすよね。ね!
 クラウスはバイクを律儀に脇に駐車させて――走り出す。一般人相手なら鯨も余裕だろう、だがこちとら√能力者。最高時速となれば当然、常人を超える。具体的に言おう!

 120キロくらい出たわ。

 鯨を、追い抜いた。途端、遠く暗がりになっていた視界が開け、次の階層に繋がっていると思われる扉が見えた。
 扉へと辿り着いたときには、鯨の姿は後方へとなって……立ち止まり、息を切らしながら、クラウスは過ぎ去る鯨を眺める。――扉が消えていないことを確かめて、彼はふうと息を吐いた。
「……良い勝負だった」
 相当疲れたが、それでも良い気がする。鯨と速度で張り合える機会、普通はないですからねえ~!

和田・辰巳

「この手のダンジョン初回以外アウトとか徐々に速度上がるとかあるからな……」
 突破者はひとまず一人出た。とはいえこちらから見ればまだトンネルの奥は暗がりが広がっているままだ。和田・辰巳(ただの人間・h02649)は泳ぎ去っていく輝く鯨を見ながら……そうスピードを上げて泳ぐようにはなっていないな、と頷いて。

「さっさと走るか!」
 陸上部を|無礼《なめ》るなよ。よし!! 中学生!! まだ「はやいとかっこいい」が通用するお年頃!! 鯨が後方から現れる光を目安に――スタートダッシュを決めた!!

 それを見てまるで並走するかのように、僅かにスピードを上げた鯨。優雅に泳ぎながら輝くその体……体? これそういやなんで光ってるんだ? 実体はなさそうとはいっても魔法か何かかな? などと思考に余計めなことが入りつつも、辰巳を追い抜こうとしているそれを横目でちらりと。
 ダンジョンギミックのひとつである、意思は……ほんのりあるかもしれないが、ともあれ全力を出してくることもある――ならば!

「はっはっは……大丈夫!! こちらには風の精霊と重力が味方についてるんですよ!」
 そう、あの、|わたくし《地の文》もびっくりしてんですけどね。

 なんか……このひと、素でヤバいんですよね。
 足を一歩深く踏み込む。風駆けの靴――風を操り速度を上げ、宙へと躍り出る一歩。鯨の鼻先より前へ。これだけでは終わらない。辰巳の足元に現れるは超圧海淵流――これ! これですよ!! これでーす!!
 深海の圧力を、加速度に変換!! かんたんなかいせつをします、かんたんでなければわたくしが死ぬため。
 みなさんも当然ご存知ですよね。メントスコーラって。あれもまた圧力が掛かるからこその噴射威力があるわけです。

 はいコレの深海ってどのくらーい!?

 マリアナ海溝。
 そんなところの水圧を召喚したら、どうなる?
 わからんのか。

「飛ばすぜ! うっかり死なない範囲で!」
 うっかり死ぬ想定しないでくださる!? こんな|ダンジョン《シナリオ》で死なれますと蘇生後が気まず過ぎると思いますが!?

 さてはてその速度、鯨追い抜くどころじゃあないでな。たった一瞬で光体は遥か後方。辰巳自身ですら反応するのが遅れるほど。すぐに目の前に見えるは、次の階層への扉――を。
 風駆けの靴で蹴破り。深海の水圧で制御してようやく止まり。その奥の壁ギリギリどころか、ちょっと壁面をへこませながら止まったのであった。

 ……遥か遠くから鯨が泳いでくる。「こんな勝負乗るわけねぇじゃん?」とでも言いたげなゆ〜っくりとした……あまりにのろのろとした泳ぎで。
 ナメているのではない、視界から消えた時点でこいつは、早々に諦めたのだ――!

「ふっ……やっててよかった陸上部!!」
 今の、陸上部判定でいいか? いいかぁ。
 今時の中学生は宙を走るし、深海圧で自分をロケットにもできます。辰巳くんだけかもしれんな。

ディラン・ヴァルフリート

「……ふむ」
 ディラン・ヴァルフリート(|虚義の勇者《エンプティ》・h00631)は顎を揉む。先行した√能力者たちがとんでもない速度で鯨を追い抜き突破していくのを、ぽかんとした顔で眺めている冒険者たち。
 気にしないが吉と言われたのだ、これ以上、あちらに意識を向ける必要はない。警戒すべきは鯨の挙動だ。だが……。

 ……あのぅ、ディランさん??「轢かない程度の留意」って|わたくし《地の文》びっくりしちゃった……。いや轢く可能性あるのは事実、巻き込みすぎない、いい感じの位置から始めましょう!

 ――|翔刻《ロア》。ディランの周囲へ現れ、鯨の輝きを追い抜き、疾く飛翔する騎竜の群れ。その一匹へと騎乗し、泳ぐ鯨と並び飛ぶ。

 トンネル内を飛ぶ騎竜に気がついたか、鯨がスピードを上げる――ムキになったわけではない、追いつかれたら追い抜けと、その程度のノリで生きて(?)いるのだ、ここの鯨は。
 自身の分け身である竜化分身、各々の速度は当然ディランと同等だ。しかし|彼ら《分身》には特筆すべき特徴がある――。
 |速さ《SPD》? いや、そちらもなかなかなんですけど。それだけなら鯨も勝利できそうな感じでしたがね……ところがどっこい、ディランさん、|出力《POW》特化なので。
 いや現時点で213!? 何か、何かが起きているに違いない――!

 ……さて、今回は速度に注目しよう。竜化分身は同乗者の|基礎能力《レベル》を1.2倍に引き上げる。
 この上でリミッター解除などをしてみせれば――そうですね。常人の話はもうしなくてもいいですね。
 鯨なんて、超えますよね〜〜!!

 速いとはいえ限界がある鯨と、スタミナが切れた分身からトップスピードを出せる分身へと乗り継ぎ、最高速度を落とさないまま飛翔するディラン。その速度と羽ばたきによる風が、トンネル内に暴風を引き起こす。後方から何やら悲鳴が聞こえた気がするが問題なかろう。気にしない!! 最初に決めたし!!
 分身とはいえ自分自身を使い捨てにするという倫理的にヤバげな行為も問題、ナシ! ヨシ!!

 自身の速度を上げたうえで追いつかれ続ける……それどころか、追い抜かれつつあることに気付いた鯨が、低く鳴き声を上げる。しばらくディランの速度と張り合い続けていたが……とうとう諦めたらしい。速度を落とし、光体がゆっくりと後方へと引き下がっていく。
 そして、次階層への扉……ん? 扉壊れてない? ――が見えたところで、ディランもまた速度を落とし、終着点へとたどり着いたのであった。

「……問題は……此処から、ですね」
 ユーモアには疎いのですが。なんて思ってますがね。
 ……ユーモアよりやばいもん見たので、そのままいきましょうかディランさん。こっから先もどうすんのか見てえや!!

御剣・峰

「あの光る鯨を追い抜いていけと――」
 透明なトンネルの向こう側、過ぎ去る鯨。尾がゆったりと海水を掻けば、輝く粒子が水中に散っていく。鯨としては泳ぐ速度が早く思えるのは、この光体が持つ鯨の|かたち《種類》由来だろう。
 低い声で唸るように鳴きながら泳ぎ去る鯨。なるほど。御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)は状況を把握しこくりと頷いた。

「脚力の勝負か。面白い」
 ――ようやく真正面から鯨に挑もうってひとが出てきましたよ鯨さんよォ!! とはいえ小細工なしだと苦戦必至の鯨である、挑んだ冒険者達がそこらでへばっているのだから、ひと目見てすぐにわかるものだが。
 まあ一応、一応邪魔にならないところには居ますよ、居ますけどね?
「(彼らが邪魔するなら弾き飛ばして進めば良いだろう)」
 峰さんちょっと思考が邪悪寄りだよお!! 安心してください邪魔しませんできません!! まあ巻き込まれるぶんにはこちらも知らぬところですね。え? フラグ? 何の話っすか?

 どんなものであれ、勝負ならば負けるわけにはいかない――やるのならば、全力だ。
 身体のリミッターを外し。全力魔法を用いて自身の肉体を徹底的に、速度に特化したものへと強化していく。ただ速度を上げるだけでは体のほうがついてこない。体の強度も同様、耐えきれるように引き上げて。
 ――踏み込んだ。

「――どあぁ!?」
 なんか……悲鳴が聞こえましたね。何でしょうね。
「ん? なんか当たったか?」
 いまちょっと冒険者に掠った感じです。まあいっか。泳ぎ始めた鯨をあっという間に追い抜くが、それに対して鯨、案の定速度を上げ並走しようと峰の背後につく――!

「(まぁ、気のせいだろう。私はどこも怪我してないし)」
 いや峰さんは無事でもたぶんアッチは怪我してると思います。が、この先に待ってる例の喰竜教団教祖様に出会うよりはずっとマシ! なはず!
 放たれた一本の矢の如く疾走る彼女に並び、泳ぐも、追い抜けない事を察したか。鯨は悔しげ鳴き声を上げながら、泳ぐ速度をじわじわと落としていく――すると目の前に現れるは、次の階層へと続くぶっ壊れた扉である。

 もはや鯨が追いついてくることはない。最後はゆったり、歩きながらの到着であった。しかし相当なスピードで突っ込んだやつがいるな? 峰もワンチャンそうなるかもしれなかったが、もはや鯨、追い抜かれることに慣れてきたか……。
 なんか途中で交通事故起きてましたけど、こっちが気付かなかったし、あっちも速度的に気付いていないでしょうし、大丈夫大丈夫。セーフ!! 良いランニング感覚!

 さて、次に待ち受けるは星読み曰く穴案件、縦穴があるだとか。
 覗き込んでみようか、開け放たれた扉の先を。

第2章 冒険 『ディープホールへの挑戦』


 縦穴である。

 確かに、縦穴である。――底の見えないほどの暗闇に満ちて、きらきら浮かぶ海月だとか、泳ぐマンタの光影だとか。壁に張り付いているのはヒトデ。どれもこれも金色に輝いて、僅かでも動くたびに光の粒子を発している。

 実に美しい光景だ。だからこそ違和感がある。
 この穴……深い。のは当然なのだが。どう見ても、海水で満たされてはいないのだ。
 少しでも手を差し込めばわかることだろう、何も掴めずに手が空を切ること。そして、壁面の岩場にへばりつくヒトデやウニ、イソギンチャクだのを見るに、複雑なうねりを描いている。ただの落下ではどうなるか、もちろんお察しだ。
 だが周囲にはロープなど紐状のものを引っ掛けられるような取っ掛かりは存在しない。まず、底まで長さが足りるかも問題である。

 一応は、底が見えている――正確には、光り輝く何かが、底にぽつんとあるようだが。その先に開けた空間があることも、光の反射からなんとなく察することができるだろう。

 問題は……穴の中でぐるぐると旋回している、サメらしき魚影である。

 おしらせしましょう。ええ……もうわかっていますよね!
 サメども、ちんたらしてると食いにきます!!
 あのサメたちをどう往なして、かつ、安全に下まで降りるか。頭と体を働かせましょうか!!
クラウス・イーザリー

 サメだーー!!
 ……失礼。一回挟んでおきたかったんですよ。

「(穴の底まで飛び降りるのが一番楽そうなんだけど……)」
 普通の穴ならば、√能力者なら普通に落下していっても多少は軽減できるだろう、だがうねりがある、出っ張っている岩場もある。考えて降りなければ正直死もありえる。サメもいるしな。
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は穴を覗き込みながらも、そのあたりの策をしっかりと練っている様子だった。探知妨害用の装置を起動し、穴の中にいる生物に勘付かれないよう隠の徒で気配を消して、穴に飛び込んだ。
 ジェットパックを用いた空中移動である。気配を消しても噴出する気流は隠し切ることができないので、あくまで気休め程度になるだろうか。のんびり降りていればサメが寄る。マジで追ってくる。もっかい言う、追ってくる。よし。
 ジェットパックの起動時間に気を配り、真っ直ぐな箇所は自由落下しつつなるべく素早く底へと降りていく――。ちょっと気をつけないと恐ろしいことになる高さなので慎重に!! まじめだなあ。

 そして問題のサメと距離が近付いていく。幸いながら、まだサメは気がついていない――が。
 気流の流れには気がついたようだ。それはそう。おうなんだなんだ流れが変わってきたな、文字通り……といった雰囲気でざわついているように見えるサメの群れ。やっぱり気付かれたかと取り出すは。

 ――ビスケット!
 干し肉とかそういうのじゃなかった。ほんわかしてしまいました。ぽいっと遠くに投げられ、出っ張った岩場に落ちるビスケット。割れました。その匂いにつられて泳いでいく光体のサメ。かわいいですね。においに敏感!!
 ふたつになったそれに気を取られているうちに落下して、サメの間をすり抜け……ようとしたところで、ちょっぴりその体に触れてしまった。でけぇからさ……。

「うわっ、と!」
 なんやなんやとパニクりかけるサメ、その鼻先をぐっとグローブで押し返す。そう鼻先、そこ! そこを触られると止まっちゃうんですよね思考が! 不思議な生態! ともあれ殴るほどの混乱具合ではなかったか、無事にサメは「?」といった感じで宥めすかされ、群れをすり抜けて底へと辿り着いたのであった。

 そこに広がっているのは、海底洞窟だろうか。――底に見えた輝きは、鯨らしき巨大な骨が沈んでいたから、らしい。あの鯨、死んでもこのように光り続けるようだ……。

御剣・峰

 奇妙な気流の動き。まるで潮の流れのようだ、と。海中に良く似た空洞を見て考える御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)。
 ほんとにそうなんすよねって事実をさらっと察して頂けて何よりですマジで。海水がない、生物が光り輝く何かで出来ているが、海流と似た気流が発生している。独自の生態系を持つ小さなブルーホールだ。しかし。
「さて……なんとかなるだろう」
 ――とか言いながら、迷いのない自由落下!
 降りる方法いっちばん物理なんですよねーー!! 大丈夫考えて降りてるのでなんとかなるなる!!
 なるか? なるって言ってた。(|潮の流れ《成功度》くんもそう言っています!)
 そう、峰さんにとってはまったくもって不可能ではない! ので! レッツ自由落下!!

 己自身の身体能力を極限まで研ぎ澄まし、気流を読みつつ落下しながら切り立った岩場へと着地し、下方にある次の岩場へと移っていく峰。
 簡単にこなしているように見えて、それは熟練の業である。強引に見える手段だが何よりも……手っ取り早い!!

 だがある程度の安全を確保する都合上、当然サメとの|接敵《遭遇》も避けられない――! 峰が降りてくる気配を感じ取ったサメが、様子を窺おうとして泳いでくるものの……。
「失礼ッ」
 先手必勝!! (まだ)なにもしてないサメの鼻っ面を殴り飛ばした!! まあ油断したらす~ぐ噛みついてくるから仕方ないっすねコイツらね!! きょうぼうでかわいい。
 だが峰はそのままサメのエラに手を突っ込み、近付く地面へのクッションへとするために下敷きに――!
 なんてことを! なんてことを! しかしそこは丈夫なサメだ。なんで丈夫かって? サメだからです。ともあれ光体とはいえ、その体はしっかりと衝撃を受け止めた。
 無傷で着地した峰と、それはもう見事に利用された輝くサメ……。エラから手を離された直後はぴくぴく痙攣していたが、そのうち意識を取り戻したようで、慌てて上空へと逃げていく。
 峰がそれを追うように視線を上げれば、なるほど星のある夜空にも負けず劣らずの輝きだ。上から見たときの輝きも相当だったが、下から見ても良い光景である。

「ふむ。中々に面白い経験だった」
 普通ならこんな経験、するはずがないのだ。それこそダンジョン内でしか味わえないような落下と光景。二度あるかもわからないようなアトラクション(?)……だが。

「またやってみるのもいいかもしれんな」
 ……えっ? 正気っすか……?

ディラン・ヴァルフリート

 奥深い穴を覗き見て。
「これが……此度の穴、という事ですね」
 呟くディラン・ヴァルフリート(|虚義の勇者《エンプティ》・h00631)の視線の先には、宙を泳ぐ光体の魚たちの姿。通ってきたトンネル、その外の鯨と同じく彼ら独自の生態系を作っている。
 浅瀬にいるような生物から、底にいけば行くほどに深海魚のような光影が僅かに……。サメへと関わるだけでもバランスを崩しかねない、無闇に傷つけるわけにはいかないだろう。
 ……さっきすごいことしてたひとがいたきがしてましたが、それはべつのはなしなので。

 自らの翼で飛べはするが。まだドラゴンストーカーの気配はないものの、一応喰竜教団案件だ。警戒は怠らないほうが良いだろう。それに、泳ぐサメの脅威だって存在する。
 自らの肉体を異形化させ竜へとかたちを変え、そうして思うが儘に、落下を選んだ。強化されている肉体だ、多少の傷は問題ない。丁寧に落ちていく。本来落ちることに丁寧も何もないが、今回はそれが適応されるちょうどよい機会だ。

 当然のように様子をみようと泳いでくるサメ――だが。その群れに。正確にはそれらの脳に対して。|響刻《ロア》――ぐらりとゆるやかな振動!!
 あっ外を傷つける気はないけど内臓はわりといいかなって思ってらっしゃる!? まあこのくらいなら大丈夫ですが!!
 |あたま《のうみそ》がくらくらしているサメの群れを抜けて、容易に底へと着地するディラン。輝くクジラの骨が鎮座する底……その奥は海底洞窟だ。この奥にドラゴンストーカーがいるのなら、竜の姿を持つ自分が適任だ。確りと奥を視るが、まだ彼女の姿は見えない。

 しかし。僅かながら覚えていて、疑問に思っていることが、ひとつ。
「……我が前世ながら、サメを加虐していた経緯が謎ですね」
 いぢめてたんだ。そういう表現するんだ……。

「料理にでも凝っていたのでしょうか……」
 顎を揉むディラン、なるほどサメも調理法によっては美味しく頂けますからねえ! フカヒレおいしい、身もうまくやればおいしい!! 今回のサメは……光りまくってるので。捌こうともどこがどこだかわからない。
 よかったというべきか、最初から解体される予定もなかったのでそれはそれと思うべきか。
 正気を取り戻して泳ぐサメたちがそそくさ、やや上へと逃げようとした……気がした。

和田・辰巳

「あいたたた。ちょっとめり込んじゃった……」
 ちょっと。ちょっとで済んでよかったです。勢いやべえのをなんとか制御してみせたので……!!
 穴の側で座り込み、少し脚の調子を気にするのは和田・辰巳(ただの人間・h02649)。さっき扉カチ割っておりましたので。
 いや本当な~にしてんだァ~!? 速さを求めた結果だよォ!!

「でも、大丈夫! 今度は降りるだけみたいだから!」
 と、いうことで。次も穴事案でございます。覗き込む深いその先……あら~。泳いでいるのはただの魚だけではなく、大きめのサメ。
「……サメかぁ……」
 サメども、今までだいぶ好き勝手されているので。ぐるぐる、ちょっと警戒を強めている様子である。旋回する彼ら……しかしそんな中でも、降りねば始まらない。
「これ物落としたら下にいる人大変ですよね……」
 |きみ《辰巳》、本当にそういうところだぞ。誰かさんの声が聞こえた気がしたが、それはそれ、これはこれ。宙を蹴り、風駆けの靴で滞空時間を稼ぎながらゆっくり降下していく。
 周囲を用意した式神にて警戒しつつ――幸いなことに、敵対意識を持つ生物はここにはいないようだ。
 サメ以外。
 またなんか来たぞとばかりに近付いてくるサメだが……今回は! なんと!
 辰巳により|久々理《注連縄》で拘束され、エラまでしっかり縛り上げられ、のたのたしながらぷかぷかと浮くことになったのであった。みんなぜんりょくだなあ。追っかけられてもよかったんですよ!!
 そうしてあっさり対処されたサメたちの群れを通り過ぎ、辰巳は壁面にへばりつく生き物たちへと目を向ける。底に降りれば、広がっているのは星空のような海底洞窟。

 イソギンチャクやらがへばりついているクジラの骨を眺めながら、辰巳は考える。
 そういえば、なんで光っているんだろう。
 とっても今更ですけど、ほんとに今更ですけど、なんか光っているんですよね。
 インビジブルというには形がしっかりとしていて、触れてみれば確かにヒトデの質感が返ってくる。だいぶ固めのモチ。まる~い星型をしたカワイイフォルム。ダンジョンのギミックのひとつだとは思われるが、本当に生物として成立しているのだろうか?

 そのヒトデをぺりっと剥がす辰巳。え? ポケットに入れる。ええ?
 ……持ち帰るんですか!? ど、どうなっても知りませんからねっ! あとでただのヒトデになっていても知りませんからねー!?
 ただのヒトデになったら、ちゃんと飼ってあげてくださいね……。

第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』


 ようやく辿り着いた底でございます。

「お前たち、竜には劣るが綺麗ね?」
 ……優雅にお待ちでございます!
 洞窟の奥、輝くクジラの骨を椅子にして、きらきらふわふわ漂うクラゲとお戯れだったドラゴンストーカーさん。青い肌を金色の光が包むのはそれはもうお綺麗……なんですけど。
 なんか喧しい音が聞こえていたはずですが、元から冒険者たちが騒いでいた声も、響いていたのであろう……油断たっぷりであった。

「……なっ」
 目が合いました。しっしと寄ってきていた光体生物を手で払いのけて、√能力者たちのほうへゆっくり歩いてくるドラゴンストーカー。

「……ようやくお出まし。待ちくたびれていたところ」
 事実だろうが、ちょっと取り繕ってない??
「結局、あの弱き竜は「来なかった」……いや、来れなかったのですね。構いません……この徒労の分、お前たちで憂さ晴らしといこう!」
 皮膜の翼を広げ、大剣を構えた彼女。本気のツラをしているが……この空間。なんと!

 チョット・崩れやすいので、お気をつけてくださいね!!
和田・辰巳

「可愛らしい所もあるんですね。人を襲わなければ尚良いんですが……」
「かわっ……絆されんぞ! 人間ごときが、弱者の代表が、このわたしに何をほざくか!」
 和田・辰巳(ただの人間・h02649)よ、結構にチャラいナンパみたいなことを言ってはいないかい。いやでもそんなもんか、美人だもんなドラゴンストーカーってさ。|わたくし《地の文》好みでございます。

「貴方の方が余程弱いでしょう」
「なっ……」
 どストレートがぶっ刺さる。言葉の棘とは時に肉体的ダメージよりも大きいのだ。
「だって邪法に手を出してるのに何回も倒されて目的達成も出来てない」
 うぐ。ドラゴンストーカーが唸る。それはそう~。だってマジで収穫ないっすからね。
「悪に折れる心も弱い、結果も伴わない。恥ずかしくないんですか」
 そうだ。彼女の行動……√能力者にことごとく阻止され続けている! まず星詠みが察知した事件については、もはや徹底的なまでにボコられるのが常!!
「はっ……|恥ずかしくないもん《羞恥を覚えていては真竜にはたどり着けない》!」
 本音と建前が逆になりました。かわいいですねェ~!
 そうして困惑するドラゴンストーカーをよそに展開される久々理と式神。召喚札が張られたそれが太さ様々で空間へと張り巡らされる。はっと気がついたときには遅く――。

「……これは……√能力じゃないな!?」
 それに勘付かないようなドラゴンストーカーではない。だが彼女はそれを『ブラフ』であると認識した。本命の√能力発動までの時間稼ぎだ、と――容赦なく断ち切りながら久々理を切り裂きつつ迫る。
 だが、しかし。

 それって『自動販売機』を召喚する札っていう意味不明なものでしてね。

「うぐぅ!?」
 ごつん。
 というにはちょっと重い音が空間によく響いた。何が起きたか? そうです。自販機が、上から、落ちてきました。頭を打ったドラゴンストーカーの前に鎮座。もうあったか~いが少なくなってきたそれ。
「なんっ……何だ、これはッ……――!?」
 ついでとばかりに四方八方から圧縮された水流で突っ込んでくる自販機!! えっなんだこれ。|わたくし《地の文》もびっくりの戦法取らないでくださる!? 自分へ近づけさせないよう、距離を取れるように式神に持たせた札からも現れ突き飛ばされるドラゴンストーカー……!!

「おい! 待てッ、待ちなさい! お前――√能力を、使えェーッ!!」
「え……しませんけど」
 影の中を進む呪影業、ドラゴンストーカーをひっ捕らえその大剣を拘束する。
 √能力なしでほぼ完封されるとはいったいどういうことなんだ……。今回の彼女がちょろいからかな?
 いや普通にこんなことされたらどうしたらええんだってなるわな。何してくれてんだァーー!?

ディラン・ヴァルフリート

「|目移り《浮気》……ですか」
 じと。見慣れぬ海竜に驚き、ややぎこちない笑顔を浮かべるドラゴンストーカー。あまりに暇すぎて光体の生物たちと戯れていたなどとは言い出せるような雰囲気ではない……。
「わ、わたくしは決して! そのようなことは!!」
 光体生物を手で追い払いながら、「本当に浮気でもしたんかおまえは」といった風に狼狽える彼女をよそに『|猟刻《ロア》』を発動するはディラン・ヴァルフリート(|虚義の勇者《エンプティ》・h00631)。
 大剣を構える隙もなく懐に入り込まれたドラゴンストーカー。だが遅い。慌てて距離を取る彼女へと叩きつけられる斬撃――射程が長い!!
「なッ!?」
 周囲が崩れないよう注意しながら放たれたそれが、ドラゴンストーカーの体を傷付ける。その身に感じ取った重力に違和感を覚えるも、彼女は既にそれを気に留めていられる状況ではない。
 地形を崩せば有利を取れるだろうが。そして誰かがきっと壊しちゃうんでしょうけれど。そこは一応と、現地生物が――ふよふよ漂うクラゲやらが逃げる時間くらいは稼ぐ配慮を……。いや、ゆっくりだなあ、あのクラゲ。
 などと、ディランが視界に入ったそれのことを考えている間に、距離など関係ないと悟ったか己の脚を竜化させ、ディランへと迫るドラゴンストーカー。――だが、その脚を念動力による金縛りが挫く!

 こけた。
「……何をしているのですか」
「なんっ……挫いたのはあなたでしょう!?」
 それでも追撃を加えるのがディランだ。真面目に相手にしてるとたいへんですからね。増した重力にもめげずに立ち上がるドラゴンストーカーだが、そこへ加わる素早い振り抜き。
 ド真面目である。本当に、ド真面目である!!
 これが正しい戦いっちゃ戦いなんですけど!!
 次の一撃もなんとか受け止めた彼女、重くなる体に歯ぎしりをするも、その次に繋がった大剣の振り抜きには流石に対処できなかった。重量と怪力の暴力によりふっ飛ばされるドラゴンストーカー――!

「その身は……全て移植したものと伺っていますが」
 ほんっとに真面目に。剣を地面へ立て、体勢を立て直そうとする彼女へと声をかける。ツギハギだらけの彼女の肉体。明らかな油断があったとはいえ、今回はとびきり鈍くみえる――が、いや、まあド重力が体にかかってんだよって言ったらそうなっちゃうんですが。
「……あなたの意思は、何処に宿って残っているのでしょう?」
 竜の力を蒐集し。真の竜へと成ろうと思い至った理由――。

 彼女は口を割らない。明らかな上位者として立つ竜へと歯ぎしりをして。
「わたくしは――わたくしです」
 強がりを言ってみせた。ほんとに今回は強がりなのでゆるしてやってよぉ!!

クラウス・イーザリー

 もはや慣れたもんである。
「(何かちょっとヤバそうだな……?)」
 何が?
 対峙しているドラゴンストーカーが、ではない。この空間の話である。ていうかなんで自販機とか落ちてんですか? ってのはそっとしとこう。
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)くんさあ、だいぶ慣れて……きちゃったね。こういうノリ。
 √能力があろうと死ぬときは死んでインビジブルってどこかしらにぶっ飛ばされるのが√能力者!!
 自然災害(と故意の破壊)には流石に勝てない。なんなら最近は絶対死あるぞマジでなって案件すら出ている。気を付けて戦わないと……とか思いつつ。

「チッ……本当に厄介なこと!」
 苛立った様子でクラウスに近接し大剣を振るうドラゴンストーカー。背後へ飛び退き射撃で牽制し、しっかりと距離を保ちながら彼女の動きを観察する。
 傷ついてきたとはいえまだまだ元気そうだ。となればきちんと相手をしてやるのが筋というものだろう。みんなまじめだなあ。
 ドラゴンストーカーの頭上を飛び越え距離を取るクラウス。銃へと装填するは火炎弾――大剣を手に半ばがむしゃらに疾駆する教祖、その体へと弾丸を打ち込む!
「あっ、つい!? ちょっ……!」
 燃え上がる彼女の体。炎を払おうとして動きが止まる。
 ……ちょうどよい感じの鍾乳石っぽいものが上のほうにみえるなあ。どうします?
 今クラウスくん、危なくはないですけど。まあ、せっかくなので。せっかくなので、ね?

 銃声。頭上から聞こえた嫌な音。ドラゴンストーカーがはっと見上げる先には――。

「……うんまあ、何と言うか……」
 見事に頭を強かに打ち(いきててよかったね!)、自分の頭部を抱えるようにうずくまっているドラゴンストーカーを見ながら。
「待ち構える場所はもっと慎重に選んだ方が良かったんじゃないかな……」
 実にうつくしい洞穴である。生半可な冒険者はここまでたどり着けない。その点、ある程度強い竜を求めてこの場所を選んだのだろうが……すっごい速いクジラもこわそうなサメもいるので。

 何をするにも、足元はしっかり固めておくべきだ、と。
 ドラゴンストーカーの足元を打ち抜きながらクラウスは思った。
「んなッ、あー……っ!?」
 不安定だった足場が派手に崩れ穴が空き……ドラゴンストーカーは、けっこうな深さまで落ちていったようである。
 まだ生きている様子だが……しぶといもんだなあ! コメディ時空じゃなかったらたぶんもうやられてインビジブルってますよ彼女。
 覗き込もうと思えば覗き込めるだろうが、こちらが巻き込まれてはかなわない。好奇心はネコをなんたら。そっとしとこうねえ……。

御剣・峰

 み~んなまじめ!!
 御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)さんもきちんとまじめ!!

「もう何度出会ったのか忘れたが、まぁいい」
 どうしてか穴から這い上がってきたドラゴンストーカーを見ながらふん、と鼻を鳴らす峰。
「復活できなくなるまでまだ何度でも殺してやる。どうせなら鮫の餌にしてやろう」
 悔しげに歯ぎしりをするドラゴンストーカーへと、峰は堂々と宣言する。
「くぅッ……黙れっ! 餌になるのはおまえたちです!」
 ぼろぼろになった体でも立ち続けるのは流石に教祖といったところだ。が。
「後処理の面倒がなくなるからな」
 ……サメくんおなかこわしそう……。彼女なんて食べたらどうなるんですかねえ。青く光るようになったりするかもしれません。
 だがその言葉ではっとしたドラゴンストーカー。そうだ。食べるといえば!

「ふ……ふふ、そう、そうですね……喰らわれて死ぬのも、また一興……真竜に至るためならば――!」
 大剣を地面に半ば叩きつけるように立て、周囲のインビジブルを呼び寄せはじめるドラゴンストーカー――! 自分自身を食わせ、真竜をこの狭い洞穴へと降臨させるつもりである。そんなことをすればどうなるか……!

 ……あ、一応。ドラゴンストーカーさんのコレ失敗するんで、成功してたらどうなっちゃってたか説明しますね。
 ここで竜になっちゃうと、狭っ苦しい洞穴にぎっちぎちのみっちみちになって身動きが取れなくなってしまうので、まさしく共倒れとなります。こわいねえ。

 だからこそ、峰はそれを阻止するために動く。古龍降臨――「竜やその力を降ろす」事ができるのは、なにもドラゴンストーカーだけではない!
 ふわふわ漂っていたインビジブルの位置を直感で把握し、圧倒的な速度でインビジブルへと迫る峰。そのまま無慈悲にインビジブルを叩き切った! 南無三。
 無実(※喰らおうとしていたので罪はあったかもしれない)な彼らは、最適な経路と古龍の力により増した身体能力と速度により全力でぶった切られていく!
「ちょっ……ちょっと!! 何をするのです、かわいそうな事を!」
「お前を喰う羽目になる方がかわいそうだと思うのだが?」
 ちょっとわかる~。
 √EDENならばそこらへんに山程いるインビジブルだが、ここは√ドラゴンファンタジー。集めるのにも多少時間がかかるのが仇となったか――!

 残像が残るほどの速度と込められた魔力。霊刀が、ドラゴンストーカーの体を袈裟に切り裂いた。
「いい加減お前を斬るのも飽きてきた」
 ……いったい何回斬ってきたんでしょう?
 ちょっと数え……おっと……少なくとも13回!?
「そろそろ本当に死んでもらえないか? 真面目に」
 真面目に。

 真面目に……。
 ええ、あの、僭越ながらそれ、|わたくし《地の文》も同意します。それだけ斬ってりゃ思いますって……。たくさん斬った中にこんなトンチキが含まれてよろしかった!? よろしかったなら何よりです!!

 ともあれ、崩れ落ちるドラゴンストーカーの体。
 わりと暴れた√能力者のおかげで少しばかり……少し? 荒れてしまったが。
 どうやら、この美しい景色は今後も守られそうである。

 ……だって上層のクジラ、冒険者のみなさん、ぜーんぜん突破できてませんからね……。

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