この噺には種がある。
●仕掛けとオチは解釈次第
特殊捜査四課の|異能捜査官《カミガリ》、|柳《やなぎ》・|依月《いつき》(h00126)はオカルト関連の動画を発信する配信者としての|一面《かお》を持っている。顔出し系でありながら彼が刻武館大学の学生だと視聴者は知る由もなく、ましてや√能力者・本人自身も|怪異《ネットロア》なんてことは想像の余地すらないのだ。
本日は彼の配信者としての姿、|冥月《めいげつ》・リョウとしての様子を見てみよう。これを読む貴方もまた、いち視聴者の立場として。
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生配信の予約時刻から待機ラグ約1分。その間にもコメント欄には視聴者の挨拶が飛び交っている。見やすく編集された動画もいいが、やはり生放送の臨場感は空気感が違う。
暫くして黒背景にチャンネルロゴだけの待機画面がパっと実写に切り替わり、目元だけ出した黒髪の青年が映し出された。髪との境目が見えない黒マスクで口元を隠し、ジャケットに和装を着こなす男こそ、このチャンネルの主。
「……お、始まった。視聴者諸君お待たせー、冥月リョウのオカチャン、今日は生配信だ」
わこつ、こんばん、おつおか~、etcetc……リョウの登場にコメントの流れも一気に速まる。適当に定番の挨拶をしてから、彼は前置きも短く今日の話題を話し始めた。
「今日の話は『ヒサルキ』、知らない奴は後で|目の前の箱《パソコン》で検索しとけ~」
【コメント】
├逆から読んでもわかんない
├名前っぽい
├地名じゃね?
…
「あんま|有名《メジャー》な話じゃねぇからなぁ。んじゃ早速解説からするぞ~」
間延びした喋り方から一転。語り口は静かに、穏やかな声音と起こったとされる話を淡々と述べ始める。この朗読に近い口調も人気を支える一因で、界隈では中堅規模の登録者数を維持している。
「最初の書き込みは皆大好きオカ板、時期は2003年の話……墓地を取り囲む柵に、一匹、二匹と毎日のように生物の死骸が串刺しにされる事件があった。最初は性質の悪い悪戯かと思われたそれも、虫からトカゲ、モグラに猫に兎と段々デカくなっていく」
【コメント】
├胸糞案件
├こわ
├悪戯にしても度胸ある
…
「墓地の管理人は保育園の経営者でもあった。墓地と保育園は近かったし、園児が何か見ていないか聞いてみたのさ。噫、先に言っておくと経営者は園児を疑ってるわけじゃないし、経営者がトチ狂ってたってオチでもねぇからな。安心しとけ」
それは安心できる要素なのか? と疑問に思うかもしれないがこのチャンネルではいつものこと。動物の死や理解不能な現象が地雷だとか、そんな繊細な者はわざわざ見に来ない。
「園児からは有益な話が聞き取れた。それが『ヒサルキ』。園児はみーんなヒサルキを知ってたが、誰も姿を説明できない。何なのかも言えない。ガキだから分かんねぇとか、そういうのとも違う。大人が見たって話はない」
【コメント】
├集団幻覚だろ
├犯人わかんないまま?
├何を見たんだよ
…
「話を辿っていくと、昔ヒサルキを描いたって園児がいたんだと。でもそいつは急に一家して引っ越した。引っ越す前、園児は両目に包帯を巻いてたが理由も言わずに去ったから結局何も分かんねぇまま。描かれたヒサルキの絵も出てこない。
哺乳類が串刺しにされる日が続いて、ニワトリでデカいのは終わり。今でも虫程度は刺さってるってよ」
【コメント】
├犯人卒園した?
├まだ刺さってんのか~い
├柵の高さにもよる
…
「ここからは俺の考察。同時期に『ヒサユキ』って書き込みもあって混同されるケド、そっちは明晰夢がどうこう言われてるから一旦置いといて、だ」
明るい口調に戻ったリョウはチャンネルのキモとも言える段階へ。一般に強い科学的根拠はさておき、より俗物的な民俗学的観点と解釈で。
「多分、最初は本当に誰かの悪戯だったんじゃねぇかな。大人でも子供でもさ。で、それを見た別の誰かが競うように段々デカいのを刺していく。意地の張り合いだ。……この話に鳥が刺さってたって話がねぇのは捕まえられなかったんじゃねぇかな。ニワトリは飛ばないからノーカン。
それで、次から次へ柵に生物が刺されてくけど園児はヒサルキがわからない。何故か? 刺してる奴が毎回が違うからだと思うんだよなぁ」
【コメント】
├引越し園児どうなったん?
├てか警察動けよ
…
「そう、ヒサルキはみんな知ってるけど説明できない。それは最初にヒサルキを描いた園児しか”本物”を見てないからって説はどうだ? そしてその園児は元から眼が悪かった。ヒサルキが人間か、それ以外かの区別もつかないくらいに。で、串刺し犯は総じてヒサルキと呼ぶ文化がついた」
くすりと笑い、短い雑談をして配信終了。結局ヒサルキとは? それは依月も知り得ぬこと。
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発生からして信憑性の薄い伝承も、信じる者がいる限り、いつか本物になるのかもしれない――。