SISTER JUSTICE - Begins -
それは晴れた日だった。
その中学校は文化祭の真っただ中。校庭にはいくつものテントが立てられて、校内は人で賑わっていた。
「みんな滞りないわね!」
これらの陣頭指揮を執ったのが、生徒会長のプラチナ・ポーラスタであった。
彼女はポーラスタ家のお嬢様。頭脳明晰、文武両道。おまけにさっぱりした快活な性格が、どんな人をも惹きつける魅力である。
そんな彼女も、今日は中学最後の文化祭とあって、より一層気合が入っていた。
「ここまで大きなトラブルはありません。流石会長!」
「えっへん!」
プラチナが胸を張る。文化祭はトラブルなく成功する――はずであった。
――どぉん。
校庭で何かが爆発した。
続けて悲鳴が聞こえてくる。プラチナが急ぎ駆けつけると、その光景に愕然とした。
校庭の中心で、ごうごうと炎が燃え上がっていたのだ。
プラチナは咄嗟に状況を判断すると、放送テントのマイクを手に、大声で叫ぶ。
『皆さん、校庭で爆発事故が起きました! 校内の先生、生徒は落ち着いて避難してください!』
放送をしながら考える。黒煙の中に隠れていたもの、あれは間違いない。
『繰り返します……』
ぶつり。放送が途中で途切れた。スピーカーが壊れたのだ。
「余計なことをするんじゃないよ」
女の声。その声の主は、炎の中から悠然と近付いてきていた。
エナメルのボンテージスーツを着込み、鋭利で長い爪をゆらりと動かす。
「あなたがあれをやったのね……!」
その問いかけに、女は当然というように鼻で笑う。
ここにいる誰もが――大人達さえも理解不能な状況に混乱している。今この場で事態を把握しているのは、プラチナだけだ。
(「私がやらなきゃ……!」)
転がっていた鉄パイプを拾い上げて、プラチナは女を見据えた。
「えぇいっ!」
がぁん、と鈍い音が響く。だが。
――女が笑っている。まったくの無傷であった。
「あ……」
ずん。腹部に激痛が走った。女の爪がプラチナを貫いたのだ。
「ごほっ……っ!!」
身体が熱い。全身が動かない。
ずるりと爪が抜け落ちて、プラチナは地面へと倒れこんだ。
(「まだ戦える……」)
そう思っていても、身体は言うことを聞いてくれない。ぼやける視界の中、悔しさがこみあげてくる。
(「動いて、動いてよ私の身体……!!」)
その願いも虚しく、意識が遠のいてゆく。
――暗い。
――何も聞こえない。
――私は……死ぬの?
(「まだ……まだ私は……」)
一筋の涙が伝って、地面に落ちた。
その時。
何かがプラチナの指に触れた。
暗く沈んでゆく世界の中で、その指先にあるものから『光』を感じ取る。
カード……タロットだろうか。いつの間に手元にあったのだろう。
だが、そんな疑問よりも大切なことがあった。
|理解《わか》る――。このカードが、私に力をくれる。
残る力を振り絞りカードを掴んで、その絵柄を確かめる。
「『正義』……私の、なすべきこと!」
「……立ち上がった?」
女が意外だという風に呟いた。
致命傷は与えた筈だ。だが、プラチナの瞳には強い闘志が宿っている。
口の中の血を勢いよく吐き捨て、プラチナはカードを構える。
「変身!!」
その掛け声とともに、カードが輝いた。
その光はプラチナの全身を包むと、プラチナの姿が変化してゆく。制服が眩い輝きとともに華やかなドレスへと形を変え、銀の髪を金色に染め上げる。
そして、瞳がガーネットのように変わり、プラチナはにこやかに笑ってみせた。
「これが私の力……」
大きく変わった身体をぐ、ぐ、と動かしてみて、すぐにプラチナは自信たっぷりに笑う。
「戦い方は……わかった!」
「お前たち!!」
女が叫ぶと、周囲に全身タイツの戦闘員らしき者達が現れる。
一斉に襲い掛かる戦闘員たちに対してにやりと笑うプラチナ。拳を一振りすれば、戦闘員たちが一斉に吹き飛ばされていった。
「ちっ……!!」
女が焦り、爪を構える。プラチナは自信たっぷりな笑顔のまま手を伸ばせば、その手に剣と銃が握られる。
「そこよっ!」
プラチナの銃撃が、爪を弾き飛ばした。続けざまにプラチナは大地を蹴って、一気に女に肉薄する。
「さっきの仕返しよ」
きらり。剣が煌めいた。
「一昨日来やがれ!」
「あ、ああああああっ!」
一閃とともに、女が切り裂かれた。
――その後、消防車がやってきて、火事は消し止められた。
きっとプラチナの戦いはすべて忘れられ、単なる事故として処理されるのだろう。
変身を解いてその様子を見送ったプラチナは、夕焼けの下でカードを見る。
描かれているのは『正義』のカード。このカードが与えた力で変身した姿は紛れもなく『魔法少女』であった。
それこそが、運命……。それを感じ取って、プラチナは小さく呟く。
「正義……私の正義は――」
これが、魔法少女『タロット・シスターズ』、『シスター・ジャスティス』の始まりであった。