これは“ ”の話なんだが
●これは友達から聞いた話だけど
友達が通っていた高校の近くの交差点は、昔から事故が多いことで有名だった。
見通しが悪いとか事故が起きやすい原因はあったんだけど、決定的な理由は分からなかったの。
特に夕方、日が落ちかけた頃が一番事故が起こりやすくて、友達はなるべく近寄らないようにしてたんだって。
だけど、ある日、部活の練習で帰りが遅くなってね。いつもなら遠回りするんだけど、その日はどうしても外せない用事があったから、友達はその交差点を通ったの。
信号を待っていたら、ふと気配を感じてね。振り向くと、同じ高校の制服を来た少年が横に立っていたんだって。
『信号、青だよ……』
少年はそう言って、信号機を指差した。
見れば、いつの間にか信号が赤から青に変わっていた。
おかしいな。友人は首を傾げた。
その信号は青の時に音が鳴るタイプなんだけど、いつもなら聞こえるはずの音がしなかったんだ。
『渡らないの? 青だよ』
少年がまた言って、笑った。
その笑顔がなんとなく薄気味悪くて友人が視線を落とすと、その子の足元が真っ赤に濡れていた。
『渡ろ、渡ろ……青信号は渡らなきゃ』
ぐいと友人の手が引っ張られた。少年が友人の手を掴んでいたんだ。
振り払おうとしたんだけど、身体はどんどん車道に引き摺られていく。
「や、やめて。助け……ッ!?」
助けを呼ぼうとして、友人は気付いた。
道路のあちこちに影みたいな裂け目ができていて、そこから何本も黒い腕が伸びていた。それが友人の身体のあちこちを掴んで引っ張っていた。
『君も同じ……僕と同じになるんだ……』
少年の頭からは大量の血が垂れていて、顔を伝って流れた血で片方の瞳が真っ赤に見えた。その少年の身体にも黒い腕は纏わり付いていた。
暗く深い赤が友人をじっと見つめていた。
逃げたくても足が言うことを聞かない。なくなったみたいに腕の感覚が無い。
『……ごめんね』
片方が血に染まった顔、髪の毛の隙間から少年のもう片方の瞳が見えた。
ネオンのように光る青い瞳。それが友人を見つめて瞬いたの。
その時、けたたましいブレーキの音がして――。
気が付けば友人は病院のベッドの上にいた。
あちこちに包帯が巻かれていたけど、幸運にも腕の骨折くらいで済んだみたい。
警察の話では、信号が故障してて、友人が渡った時は本当は赤だったんだって。運悪くそこに突っ込んできたトラックに友人は撥ねられたんだ。
でもね、一緒にいたはずの少年の姿はなかった。ドラレコにも監視カメラにも写っているのは友人一人だけ。
後で聞いたんだけど、昔あの交差点で事故があったんだって。信号が故障していて、渡ろうとした少年がトラックに撥ねられて亡くなったんだ
その子の顔は、あの時友人が見たあの少年と同じ。
綺麗な青い瞳が片方、血で真っ赤に染まっていたんだって――。
●これは怪異の話だ
「警視庁の四季宮だ。先日の交通事故について話を聞きに来た」
昼食を終えて少々眠気も出てくる頃。欠伸をしていた中年の警部補は、突如訪れた二人組に驚きを隠せなかった。
一人は堅苦しいが服を着て歩いているようなスーツ姿の刑事。
年の頃は三十前後だろうか。その警察手帳に記されている階級は警部。一般的な警察官では定年まで勤め上げてやっと届くかどうかの地位にいる、いわゆるキャリア組のエリートだ。
そんな存在がなぜ交通事故というありふれた事件のことを調べているのか。
「青川南三丁目、通称青川高校前交差点。3月20日18時38分、同月25日19時08分、そして31日18時53分に起こった三件の事故だ」
疑問を遮るように昂生は矢継ぎ早に事故の日付を並べる。メモも見ずに時刻まで正確に述べる昂生の姿に、これがエリートかと警察官は背筋を伸ばして居住まいを正した。
「しかし、あれは只の交通事故で事件に不審な点は」
「それはこちらで決めることだ。速やかに当該事故の資料を出すように」
縄張り意識なのか、言いよどむ中年警部補の言葉を、眉間に皺を寄せた昂生が冷厳に撥ねのける。鋭い眼光に、警部補がひぇっと情けない声を上げた。
「おいおい、四季宮さん。あんまり苛めてやんなよ」
隣にいた青年がひょいと身を乗り出し、肩越しに昂生の顔を覗き込む。警部補へと向けていた昂生の視線が、すっと青年へと向けられる。眉間に刻まれていた谷が更に深くなり、ついでに数も増えた。
「あの、そちらの方は?」
「俺は柳依月。警視庁の刑事だ」
これ見よがしに警察手帳を振っている青年の格好は、袴にロングジャケット、その上にさらに長羽織といった和洋折衷の服装で、刑事というには少々風変わりだった。
割り込んできた依月の身体を、昂生はぐいと肘で押しのけて睨みつける。
「話は俺が聞く。こいつのことは置物とでも思っておけ」
「つれないこと言うなよ、相棒♪」
「相棒じゃない!」
からかって楽しんでいるような依月の飄々とした声。昂生の方は怒りを見せているが、それは嫌悪というほどではなく、単に軽口をスルーできない生真面目さの現れなのだろう。
ノータイムで交わされる漫才のようなやり取りに、中年警部補はしばし目を丸くしていたが、警視庁から来たおっかない警部の気が逸れているうちにと、そそくさと資料室の鍵を取りに行った。
壁一面に書類棚が収められた資料室、経年劣化で薄汚れた灰色のクロスを照らす無機質な蛍光灯の白の下で、昂生は分厚いファイルに綴じられたコピー用紙をめくっていた。
「……妙だな」
資料から視線を上げ、昂生は指を組み合わせる。ふと視線を横に向けると、依月が壁に寄りかかって携帯電話を弄っているのが見えて、何回目かも分からぬしかめっ面になる。
苦言を呈そうと口を開きかけた昂生の横で、依月の瞳が微かにチラつく。
「そう、だな。『事故死した地縛霊が仲間を呼び込もうとしている』って言う割には、共通点は場所だけ。被害者の目撃情報もチグハグだ」
「何だ、調べ終わったならさっさと言え」
さらりと口にした依月の結論は自分と同じ。怠慢を問い詰めてやるという矛先を失い、昂生はファイルを閉じる。
「……で、結局何だと思う?」
携帯電話をコートのポケットにしまいながら、依月が問いかける。
「十中八九、怪異の仕業で間違いない。まず証言は違えど被害者全員が不審な人影を目撃している。そして現場近くの監視カメラのデータに該当する人物の映像はない。お前のように動画に写り放題の怪異もいるが、基本的に地縛霊の類いはカメラに写らないものだ」
「配信、見てくれてるのか?」
「監視のためだ。くだらん内容に興味はない」
にぃと弧を描いて持ち上がる依月の眉に、昂生の声がぴしゃりと叩き付けられる。ちぇと唇をとがらして、わざとらしく肩をすくめてみせる依月を意に介さず、昂生は立ち上がる。
「何にせよ、怪異ならば倒すだけだ」
昂生が肩にかけている大型ケースに手を添えた。中に入っているのは対怪異用特殊装備。捜査段階から使用を想定し、既に使用許可申請を取ってあった。
「だけど、今すぐ退治するのはマズくないか」
「何だと?」
「怪異の中には復活するものもいる。これは俺達もそうだけどな」
「お前は怪異だが、俺は違う。一緒にするんじゃない」
「まあまあ。とにかく闇雲に倒すのは根本的な解決にはならない。そうだろ?」
「……む」
これは一理ある指摘だった。Ankerと呼ばれることもある執着を持つ怪異を完全に倒すことは難しい。闇雲に倒すだけが解決策ではないというのは、武闘派集団が殆どの特四でも認めざるを得ない事実だった。
「まずはさ、一番の関係者に話を聞いてみようぜ」
「警察の調査は完璧だった。他に誰がいる?」
被害者、書類上の加害者である運転手、目撃者。それら全ての証言はファイルに収められているはずだ。
「いるじゃないか。一番大事なのが」
怪訝な顔をした昂生に向かって、依月は手袋を嵌めた腕を突きつけた。手元でブレスレット代わりの数珠が擦れてカラカラと音を立てる。
依月が手首をくるりと返す。その指先が、調書の証言の一つを差す。
そこに書かれていたのは、被害者が目撃したものについてだった。
●これは俺の弟の話なんだが
夕暮れ時が迫る交差点は、昼と夜、人と怪異の交わる場所だ。
うっすらと青とオレンジが混ざり合う中、ぽつりと灯る歩行者用信号機の光に横断歩道の白が妙に鮮やかに映し出される。
ここ数日で頻発して発生した事故のせいで、通りに人通りはない。
だが、たった一つだけ。人ではないものがいた――。
「お、いたいた」
チカチカと点滅する青信号。その下に佇む朧気な光を指差し、依月が微笑む。
描かれた白線のような髪が声に反応してゆるとうねり、赤と青の光が瞬く。
そこにいたのは少年、少女、青年、女性、赤子、老人、動物――およそ交差点を通り抜けるありとあらゆるものに似て、そしてそのどれとも似ていない『何か』だった。
涙の痕のようにも見える一カ所が垂れた丸眼鏡。レンズの下からおそるおそる窺う瞳が二人を映して揺れ、不安げに結ばれた唇が綻んだ。
「あ、あの……どちら、さま、です?」
青年の形をした口から少女のような高い声が零れたかと思えば、一瞬後にはその姿が輪郭を揺らめかせて変わっていく。ずっと点滅したままの青信号。その光に合わせて年老いた女性の口が獣の鳴き声のような唸り声を含ませた。
「警視庁刑事部特殊捜査四課の四季宮だ。お前に話がある」
銀と金の後光を放つ記章。片手を大型ケースに当てたまま、昂生は警察手帳を突き出した。
「お、はな……し?」
「そうだ。最近立て続けに起きた事件は、お前の仕業か?」
単刀直入に繰り出される質問――というより尋問か。昂生の言葉に、『何か』は煙のように震える。
「ぼ、ぼくは……わ、わから、ない……」
ふるふると首を振る、その度に額に長く垂れた髪の毛の隙間から血の気の失せたように白い肌と青い瞳が見え隠れしていた。
「ぼく、は……なに、も、知らない。でも……きっと、ぼく、を……轢いた人が、い、るんだ……」
青年――少女の頭上で輪光がくるりと回る。太い光の筋に混ざる規則的な途切れ。その形に昂生は先程見た事故の写真を思い出していた。
「なるほど。自分が被害者とでも言いたいわけか」
昂生の刑事としての感覚は、この怪異の語る言葉を冷静に判断していた。しかし怪異である以上、存在するだけで人間への脅威となる。
もしコイツが無害であっても……コイツに気を取られているうちに、別の何かが忍び寄ることも考えられる。だから――と、昂生はいつものように愛用の得物に手を伸ばした。
「続けろ。お前は何だ?」
「ぼくは、轢かれた……ん、だよ。あの|雨《晴れ》の|朝《夜》に、ここで|大型トラック《オートバイ》に|跳ね飛ばされて《潰されて》、|赤《青》信号が、光ってて……」
様々な声が、口々に自身に起きたことを重ねていく。その語りは各声ごとにチグハグで曖昧。話にならんと顔をしかめる昂生の横で、依月がくすりと笑った。
「何がおかしい」
「いや。なあ、名前を聞かせてくれよ……お前の名前だ。それを言えるか?」
「わからな、い……。ぼく、がだれか、わすれちゃった……」
こくりと首を傾ける仕草に嘘はないようだ。地縛霊なのだから執着以外の記憶が曖昧でもおかしくはない。
「そうか。それじゃ、お前の話をもっと聞かせてくれよ」
「……ぼく、の? ぼくは、あの時、青信号を……渡ったんだ。それなのに信号が、壊れて、て……撥ねられた」
少年の口から言葉がぽつぽつと語られる。
「そうだ。お前は急いでいた。だから赤信号を無視して渡ったんだよな」
「う、うん……そうだよ、それで轢かれたんだ」
「飛び出した子供を助けようとして、咄嗟に飛び出したんだよな」
「そう……だ……、放っておけなかった……」
「自分を捨てた恋人を待っていた。それでふらっと車道に出たんだよな」
「ええ、そう。あのとき……道路の向こうに見えたの、本当、よ……」
依月の話す内容は毎回違う。しかし、その全てに『何か』は頷いていく。答える声のトーンは話毎に違い、別の語り口で様々な身の上話が続けられる。
「ちょっと待て。こいつの話は全く整合性がない。それに――」
延々と続く語りを、昂生が破る。
先程警察署で確認した資料の内容を思い出し、昂生は視線を鋭くさせて『何か』を睨みつけ、疑惑を口にしようとする。
「四季宮さんっ!」
その先はまだ早い。依月が制止しようとしたが間に合わない。
――この交差点で、これまでに死亡事故は一件も報告されていない。
棘のように鋭い言葉が空気を穿った。
その穴から冷たいものが溢れて流れ出したように、周囲の温度が下がったような感覚がした。
「……え? でも、ぼく、ここで……たしか、に……」
穿たれた穴に侵食されるように『何か』の声が震えだす。元々朧気な輪郭が更にゆがみ、交差点中に広がるように漂っていく。
交差点の四方向に設置された信号機がチカチカと無秩序に点滅を始めた。
「それ、じゃ……ぼ、くは……なに……?」
ゆらりと、それはいつの間にか交差点の中央に佇んでいた。
うっそりと垂れた白の隙間から、青と赤が明滅する。
横断歩道の白が途切れたところから、無数の黒い手が伸びて辺りを覆う。
「ちっ! 本性を現したか」
いち早く昂生が身構える。道路を蹴って足元から伸びてくる黒い手から逃れると、シリンジシューターを持ち上げ、引き金を引く。
カシャと軽い破裂音。その音を号令に注射器が鎌首をもたげるように一斉に飛びかかっていく。
「……信号、赤だよ」
掠れるような声が空気を揺らす。
その声に交差点の信号機が点滅する。赤く浮かび上がる光輪に触れた注射器の動きが凍り付いたように空中で止まる。信号が青に変わると同時に注射器は動きを取り戻し、地面に落ちて中の薬液を飛び散らせた。
「なるほど。怪異の分際で交通法規を利用するか……。おい、同時にやるぞ!」
昂生が依月に呼びかける。
交差するもう片方の信号は青。怪異にはある種偏執的な理で動く者がいる。怪異の力が信号、もしくは交通法規に干渉するならば、「止まれ」の別は「注意して進め」だ。両方の攻撃を止められる確率は低いだろう。
「了解だ、相棒」
「監視役だ!」
この状況でも律儀に訂正を入れてくる|昂生《相棒》に苦笑し、依月は「ま、暴走は止めてやらないとな」と、口の中で呟く。
続け様に放たれる銃声、そこからややずれて依月の黒髪がぞろりと靡く。
「だめ、だよ。止まらなきゃ……ぼくみたいに轢かれる、よ?」
青い目が瞬き、虚空から現れた巨大な車体が銃弾を弾き飛ばす。ならばと、昂生は車体の下をくぐるように地面すれすれに鎖を伸ばす。霊力を帯びた鎖が地面から伸びる腕ごとそれの足首を絡め取り、地面に縫い付ける。
「ナイス! 相棒!」
呪髪で牽制をしていた依月が口笛を吹く。「いい加減にしろ!」と言う昂生の怒号を無視して、依月のブーツが地面を蹴る。違法駐車の車の屋根を踏んで、街路樹の葉を散らし、高く飛び上がる。
黄昏の空に漆黒の染みが張り付いたように見えた。見上げる青と赤の瞳が瞬くも、真上に信号はない。
「きみ、は……なに?」
「お前と同じものだよ」
戸惑いが依月を捉える。それに薄く微笑みを返し、依月は黒髪を蠢かせた。白と黒の髪が絡まれ、交差点の上に縞模様を描く。
次の瞬間、呪髪が怪異の四肢を貫く。動きだけを止めて、急所を避けて――。
小さな悲鳴を上げて怪異が動かなくなる。
「よくやった。これより怪異を駆除する」
近付いてきた昂生が腕を振り上げる。昂生の身を蝕む蛇神、霊ですら断ち切る牙が顕現し、怪異へとどめを刺そうとする。
「四季宮さん、待ってくれ」
それが噛み潰される寸前、依月が振るった仕込み刀が牙を受け止める。青い傘布が地面に落ちて転がり、横断歩道の白線の上に斜め線を描いた。
「……何のつもりだ。これは危険な怪異だ」
邪魔するならお前ごと斬ると、昂生の腕に力がこもる。仕込み刀の刃がパキと軋んだ悲鳴を上げる。
「嫌だ。こいつは俺の弟……妹? まあいいや、弟にする」
「……は?」
突拍子もない答えに昂生が言葉を失う。その隙に依月は呪髪を解き、それを牙の下から逃す。
依月は片手で携帯電話を取り出し、画面を向ける。『冥月リョウのオカルトちゃんねる』というタイトルの動画が再生され、軽快な声と共に都市伝説が語られる。
――交通事故で死んだ地縛霊が新たな犠牲者を誘い込む。よく聞く話だよな。
「俺がちゃんと世話するから」
逃した赤と青の明滅が止み、食い入るように画面を見つめている。
それを横目で確認し、依月は相棒へ言葉を届ける。
「おいペットじゃないんだぞ……というか、そのようなことが許されるわけ」
冗談めかした言葉であればあるほど訂正せねばという気持ちがはたらく。昂生の生真面目さ故、牙から毒気が抜けて行く。
――交通事故は安全な現代社会における最も身近な恐怖だ。だからこそ、それを畏れる人達の心が怪異を語る。
互いに睨み合う二人の間で、語りは終わりかけていた。
めまぐるしく曖昧だった『それ』の輪郭が徐々に固まり、配信で語られていた少年の姿に収束していた。
「決定。お前は今日から柳弥月……俺の弟な!」
「おい!?」
動揺する昂生を他所に、『それ』――柳弥月がこくりと頷いた。
依月は動画をスクロールし、出だしまで戻した。
スマホの録音を有効にし、そして最初の語り出しを上書きする。
――これは俺の弟の話なんだが。
●これはぼくの話だよ
ぼくの名前は弥月……柳弥月。
兄さん……ええと、柳依月の弟だよ。
交通事故に巻き込まれた地縛霊……という怪異?
兄さんが、ぼくをそう見たから、そう言ったから――。
ぼくは弥月になったんだ。
あっちにいるのが、兄さん……と、人間の監視役。
人間……四季宮さん、は、いつも怒ってる。
特に兄さんといるときは、いつもそう。
兄さん、は、楽しそうなのに、ね? おかしいね?
今は、ぼくが何なのか……それを書いてるんだって。
報告……記、録……?
それをしたらいいんだって。ぼくのために、も……人のため、にも。
四季宮さん、怒りながら字を書くの……器用だ、ね?
ぼく達は……怪異。
誰かに語られることで、記録されることで……。
“ ”は、ぼくになる。
そうだよ。“ ”は、ぼく。
柳依月の弟で、四季宮昂生が記録する、怪異『交通事故の地縛霊』――柳弥月。
――それがぼくだよ。