シナリオ

簒奪のメリークリスマス

#√ウォーゾーン #√EDEN

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 #√ウォーゾーン
 #√EDEN

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●天の御使いの
 √EDEN。楽園と称されし地。
 昼間の教会に煌めくは、大きな大きなクリスマスツリー。
 たまたま通りすがった者、ぼんやりツリーを眺める者、スマホで写真を撮る者。
 十人十色の反応であるが、みんな何処か嬉しそう。
 クリスマスが今年もやってくる。
 それだけで、不思議と心は浮足立ってしまうものだ。
「ね、バザーの開始時間まだだっけ」
「今は……13時40分。あと20分だね」
 教会の主催で開かれるクリスマスマーケットは、相応の賑わいを見せている。

 ゆえに。簒奪者にとっては非常に都合が良かった。
「こちら偵察隊。|資源《・・》を発見しました。速やかに確保に移行します」
 少女型飛行ユニットが編隊を組み、空から教会付近へと迫り――。

●駆動音響く
「武力を以て人々を簒奪していく……。√ウォーゾーンでは簒奪者の派閥によって『生きたままの人間』すらも資源とみなしているようですね。これが、ゾディアック・サインから得た予知の光景です。けれども」
 視えた以上、覆す可能性は残されていると兵藤・空(h00405)は√能力者達に告げた。

 惨劇の舞台として予知されたのは、とある街の教会が主催のクリスマスマーケット会場だ。
 しかしながら、簒奪者が他√よりなだれ込んで来ている地点は、街からやや離れた山道にあるらしく。
「街に接近される前に敵の集団を殲滅してしまえば、悲劇は防げるはずです」

 もっとも、懸念もある。
 敵は教会を襲うと予知された少女型ユニットらのみなのか、それとも援軍が待ち受けているのか。詳細な情報は得られなかったのだ。
「仮に援軍が現れるとしたら、少女型ユニットと合わせて相当の数を殲滅しなければなりません。或いは、此度の作戦を率いるボス格が出てくる可能性も。いずれにせよ、戦い抜かねば未来の悲劇を止めることは叶いませんが」

 見事、簒奪を止められたなら、クリスマスマーケットの会場へ足を運んでもいいだろう。
「クリスマス関連のグッズの他、飲食物も用意されているようですね。いろいろ見てみれば、お気に入りが見つかるかもしれません」
 きっと√能力者達を待っているのは、笑顔の溢れる未来と信じて。
「さて。現場に繋がっているのは、この道の先です……ご武運を」
 空は、向かうべき方角を指し示す。

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第1章 集団戦 『ナイチンゲール』


タマミ・ハチクロ


 青空を背景に、簒奪者が飛んでゆく。
 12体の敵を見上げて、タマミ・ハチクロ(h00625)は歯噛みした。
(「いいでありますか、簒奪者共。教会とは主の体。御心を伝える、暖かく聖なる場所。そして、クリスマスとは主の降誕を祝う祭日」)
 その期間は病める√も健やかな√も、皆が穏やかに過ごせる時間のはずなのだ。
「――それをぶち壊しに来るんだ、生きて帰れると思うなでありますよ」
 シスター服の少女は指揮を執る。
「招集、少女分隊。オーダー、敵飛行ユニットの殲滅」
 彼女の決意は固かった。
「一機も生かして返すなであります」
 父と子と聖霊の御名によりて――十字を切って、部隊を送り出す。

 全隊『フェザーレイン』展開。『TMAM896』射撃姿勢。
 刹那、空を征く敵部隊が軌道を変える。
 少女分隊の存在に気付いたのであろうが、僅かに遅く。
「撃てぇぇ!!」
 放たれたレーザー射撃と拳銃の弾幕により、半数が翼を失い墜ちてゆく。
 追撃の好機だ。
「肉体リミッター解除、特攻の許可を与えるであります! 全隊、突撃ぃ!!」
 タマミ自身を先頭に少女分隊が空へと上がる。
 翼を広げるその様は、さながら天使の軍団を想わせた。
「死んでも奴らを――」
 挑むは、格闘戦。
「――蹴り墜とすであります!」
 タマミの限界を超えた一撃を食らい、簒奪者がまた一機、翼を失った。

管・フォーティ


 山頂。
 決戦型WZ『ケルベロス』のコクピット内で、管・フォーティ(h03800)は溜息をついた。
(「はあ……」)
 何故、わからないのだろう。
 他所の√を侵略したとて、戦火が広がるだけなのに。
 彼の理屈はきっと、簒奪者どもには届かない。
(「まあ、故郷が危機に瀕しているというのに、理想論を掲げて軍を抜けた私が言えた義理ではないか」)
 長距離狩猟の体勢。
 今の『ケルベロス』は移動力と戦闘力とを引き換えに、敵からは探知不可能な状態だ。
 ゆえに、確実に仕留められる時を待たねばならない。
 ――レーダーに反応あり。
(「この動き方は……ナイチンゲールで間違いないか」)
 近付かれると厄介な相手だ。
 正面衝突は避けるべき。やはり、ライフルでの狙撃が得策だろう。
 ブラスターライフルを構え、待つ。
 3、2、1。
 敵反応、射程範囲内。
 弾丸装填、弾道計算完了、
「さて、狩りを始めるとするか」
 銃声。
 刹那、敵機が墜ちてゆくのを目視した。

フィア・ディーナリン


 武力で人を奪うのが簒奪者どもの流儀なら、それを武力で阻むのが√能力者達の流儀であろう。
「私はただ、それに則って仕事を完遂するのみ」
 フィア・ディーナリン(h01116)は地を駆ける。
 右手にマシンピストル、左手にワイヤーガン。
 機動力ならば、負ける気はしない。
 脚を止めず、駆けて、駆けて――跳躍。
 銃撃を敵に浴びせてのち、木陰に着地し気配を殺す。
 敵三機が自分を狙って降りてくるのが見えた。
(「警戒すべきは、包囲」)
 離れた位置にワイヤーガンを撃ち込み、フィアは大きく位置を変えることを選んだ。
 空に上がり、一機を撃ち。
 別の木にワイヤーガンを放ち、軌道変更。
 敵の突撃を躱し、すれ違いざまに撃ってまた一機を撃破。
(「残り一機は……」)
 墜とした二機と違い、何故だか襲ってくる気配はない。
 空中の一点に留まって――。
(「……何か仕掛けてくる!」)
 刹那の判断。既に敵機は利き手の武器の射程内。
 宙を舞いながら狙いを定めて。
「させません」
 引き金を引く。
 畳みかけるようにスタングレネードを放ち、フィアは別の木陰に身を隠す。
 音と光による攪乱効果が切れぬうちに。
「……さようなら」
 集中砲火。
 何も為せずに蜂の巣になった最後の一機が、フィアの近くに力なく墜ちた。

雪起・柊音


 簒奪者の出現は天の気紛れのようだ。こちらの事情などまるで鑑みてはくれない。
(「対集団用の装備は間に合わなかったな」)
 雪起・柊音(h03670)は今いちど、己が装備を確かめる。
 持ち込めたのは旧式のボルトアクションライフル。そして、近接用の手斧のみ。
「……まあ、いつものことだ」
 武装の感触を確かめて。息を吸って、吐く。
「やれる限りやろう」
 空を見上げて、敵を見つめる。
 狙いを定め――少年は跳躍する。
 為すべきことを為すために。

 確実に先制可能なのは、一度。
 編隊の端に位置していた敵機の頭部に銃口を突き付けて。
(「撃つだけだよ、普段通りに」)
 発砲。
 人の形をした何かでも、ヘッドショットを食らえばひとたまりもなく。
 墜ちてゆく。
 後を追うように自由落下し、着地。
 突撃してくる数機を翻弄するように木陰に飛び込む刹那。
(「優先すべきは追手……じゃない」)
 見えた。
 自分を追うことなく、空に留まった機体がいた。
 指揮官なのか、或いは……何か仕掛けてくる気だろうか。
 1秒、2秒――。
 木陰から飛び出し、空へ向かって撃ち。
 ――2.6秒。
 大木の後ろに回り込むと見せかけ、振り返り。
 すぐ後ろまで距離を詰めてきていた追手の一機の首を、手斧で刎ねる。
 続けて接近してきていた機体を撃ち、別個体の突撃を回避しつつ。
 すれ違いざま、手斧を構えれば――刃に真っ直ぐ突っ込んできた、敵機の腕が断ち切られる。
 バランスを崩したところを狙って発砲し、止め。
 もう機械音は聴こえない。
 もう殺意は感じない。
「……片付いたかな」
 空を見上げる。
 どこまでも蒼く深い冬空――其処に、先程まで影も形も無かった何者かが現れる。

第2章 ボス戦 『『ドクトル・ランページ』』


●敵ハ来マセリ
 轟音と共に着地したのは、赤髪の機械少女であった。
「次々とナイチンゲールの反応が消えていると思えば……まさか、迎撃準備が為されていたとはな」
 √ウォーゾーン出身の者なら、或いは遭遇したことがある者ならば。
「だが、都合が良い。私達は強くならねばならぬからな」
 知っているかもしれない。
 彼女こそはウォーゾーンで戦闘機械群を率いる、巨大派閥レリギオス・ランページの統率者。
「我が部隊を殲滅した手腕、謹んで学ばせていただく」
 指揮官たる簒奪者――その名は。
「ドクトル・ランページ、推して参る!」
タマミ・ハチクロ


 クリスマスは特別なもの。
 人にとって大切な概念を、どうやら赤髪の簒奪者は持ち合わせていないらしい。
「向上心があるのは結構なこと。それじゃあ大事な事を教えてやるであります、よく聞いとけドクトル・ランページ」
「……ほう?」
 静かな口調で切り出すタマミ。
 胸に抱くは信仰心――学ばせてもらうと敵がそういうのなら、確りと学んでもらおうではないか。
「『クリスマスくらい聖句唱えて休んでろ』、部下にも良く言い含めておくでありますよ」
「生憎だが、戦いの術以外には無駄と認識している」
 文字通り心無い簒奪者に、言葉は最早不要か。
「聴く耳が無いというなら、仕方ないでありますね」
 タマミは覚悟を決めた。
「――小生は戦場でメリークリスマス、であります」
 肉体、限界稼働。
 |決死の連撃《オーバードライブ》、発動。

 地を深く蹴り、タマミは踏み込んだ。
 敵との間合いを一気に詰めて、格闘戦を挑まんとする。
 一方のドクトル・ランページは。
「ふむ、どれほどの威力か……受けて立とう!」
 放つは物質崩壊光線。
 真正面から光線を受けたタマミは身体に違和感を覚える。
 まるで、指先から崩れていくような――。
(「これは……いや、小生ならば問題はないでありますね。それよりも」)
 敵に向けたままの視線。映るは、ドクトル・ランページの武装の一部が崩れる様。
 撃った本人も反動を受けるのだ、この破壊光線は。
 つまりは。
(「好都合でありますね!!」)
 己が身を顧みず、渾身の一撃を叩き込む!
 軸足となる片脚を残して、目も、腕も、腹も、背中も。
 潰せる全てを潰さんとする連撃に、流石のドクトル・ランページも驚愕の表情を浮かべる。
「な……貴様、死ぬ気か?」
「この身は所詮人形。生きて帰るつもりは――」
 そして、皮膚を潰して。
「――元より、ありませぬ、ゆえ……」
 六連撃目を叩き込み、遂に敵の装甲が砕かれた音を聴きながら。
(「クリスマスを、祝うのは……次の小生に、任せるで、ありますよ」)
 TMAM896の少女人形は薄れる意識の中、最後の力を振り絞り。
「……Amen」
 神に祈りを捧げ、戦場に散った。

フィア・ディーナリン


「貴女が簒奪者達の主人のようですね」
「如何にも」
 フィアの問いにもドクトル・ランページは律儀に答えてくれる。
 運命が違ったら、二人は気が合ったかもしれない――簒奪者と、其を迎え撃つ者でさえなかったら。
 されど、二人は戦うさだめ。
「主が自ら動くのでしたら、こちらも相応の覚悟で挑ませて頂きます」
「結構。私も謹んで学ばせていただこう」
 得物を手にフィアは駆け出す。
 そして彼女を打ち据えんと、簒奪者が尻尾状の部位をするりと伸ばす――。

 地に叩きつけられる機械の尾。
 己を狙う攻撃を機動力を生かして避けつつ、自動拳銃で攻撃を繰り返す。
「おのれ、ちまちまと……しかし、堅実ではあるな。だが」
 しばしの観察を以てフィアの戦闘スタイルを把握しきったと判断したか。
「これはどうだ?」
 ドクトル・ランページは機械の尾をぶんと振って、自動拳銃の弾を防御してのち。
「抵抗力を下げれば、少しの衝撃すらも致命傷になろう?」
 放たれるは物質崩壊光線。
 極太の光線に捉えられてしまうフィア。
 光線自体にダメージはないが、受けてしまえば打撃への抵抗力が大幅に下げられる。
 だが先行した仲間の戦いぶりで、敵自身にリスクが及ぶことも判明している。
(「撃った本人も同様の効果に蝕まれるはず。……だから、やられる前に!」)
 光線の向こうから、再び機械の尾の影が迫り来るのが見えて。
(「――今ッ!」)
 後ろに跳躍し、ぎりぎりのところでフィアは簒奪者の攻撃を躱さんと試みた。
 ごく僅か、掠めた――掠めただけとは思えぬ痛み。
 されど、狙ったタイミングは掴んだ。
「彼方より、此方に!」
 武装転送、発動。
 遠方の武器庫より手元に転移させるは、アンチマテリアルライフル。
 機械の尾での攻撃は大振りだ。ゆえに、敵が次の動作に移るまでには隙が生まれている。
 その一瞬を。
「――逃さない」
 大口径弾を叩き込む。
 敵の装甲が大きく破損する。
「なる…ど、学…が多……」
 戦闘音に掻き消され、ドクトル・ランページの声は途切れ途切れにしか聴こえない。
 何を言っているのか――いや、確かめることよりも。
(「私にできるのは……ここまでです」)
 優先すべきは己が生存。
 今は、銃の反動ですらつらい。
 ワイヤーガンを遠方の木に撃ち込み、フィアは意識が途切れる前に戦場より離脱した。

神楽坂・メイビ


 現場に到着した神楽坂・メイビ(h00530)に対し、簒奪者は。
「新手か。この私……ドクトル・ランページに新たな学びを齎しに来たか?」
 淡々とした口調で応じてみせた。
「わ!? まさか堂々と名乗りをあげてくれるとは思わなかったけど……なら、名乗り返そっか」
 礼には礼を以て返す。きちんとした振る舞いも、きっとヒロインの条件だ。
「ボクはメイビ、いやハルキゲニア――戦闘機械なんてガラクタを飲みこむ『人間災厄』だよ!」
「ガラクタとは。いやはや、見くびられたものだな」
 肩を竦めてメイビに答えながらも、ドクトル・ランページの口調は淡々としたまま。
 人のカタチをしているが、心を持ち合わせてはいないのだろうか。
「さて、災厄とやらから学ぶものはあるかな」
「ふーん。表情ひとつ変えないんだ。だったら」
 ハルキゲニアは、哂う。
「全部ボクが狂わせちゃうよ」
 幻惑する者として、簒奪者の鉄面皮を崩してみせようと。

 すき
 すき すき
 すきすきすきすきすきすきすきすき
 すきすきすきすきすきすきすきすき
 すきすきすきすきすきすきすきすき
 だ い す き

「な、あ……あ……」
 ドクトル・ランページが振り上げんとしていた斬撃兵器が地に落ちた。
「なーんだ、やっぱり。ガラクタとはいえ人格ぐらいあるんじゃない」
 メイビが直接的に手を下したわけではない。
 ただ、携帯端末から毒電波を放っただけだ。
 だがそれこそが、メイビの――ハルキゲニアの災厄たる由縁。
 心ある者は決して、彼女からは逃れられない。
「ボクなんかにやられてちゃ先が思いやられるね、おチビちゃん!」
 ハルキゲニアは、哂う。
 狂ったガラクタをその瞳に映して。

雪起・柊音


 ドクトル・ランページの出現を察知して。
 柊音は咄嗟に身を隠した。身体に染み付いた、暗殺者としての本能だ。
 深く被ったフードの奥、薄く凍てついた瞳を開き続ける。
 浅く、緩く。息を吸って、吐く。
 彼の周りだけは、戦場とは思えぬ静けさであった。
 深々と。まるで、雪の中のように――。

 少年は思考する。
 残弾僅かな己が可能な、最大限の成果はとは何か。引き金を絞るべきは何時か。
 少年は結論を導き出す。
 敵が致命の隙を晒すか、あるいは己がそれを作り出せると直感したその時だ。
 簒奪者の武装が破損し。
 破損が大きく広がって。
 其の精神が侵されて動きが止まった、今こそが。
 嗚呼、その時だ。

 ── 雷霆ノ撃ツ所 摧折セザル者無シ 萬"雪"ノ 壓ス所 糜滅セザル者無シ

 語りかけた自然霊が応じると同時、ボルトを開放。薬室へ精霊を送り込み閉鎖。
 エレメンタルバレット『雷霆万鈞』
 其は、慣れ親しんだ暗殺の所作。
 雷属性の弾丸を射出、照準の先へと――。

 * * *

 雷鳴に似た音と共に、裁きの雷に撃たれたように。
 ドクトル・ランページは空を仰いで。一度、二度、痙攣し。
「……学びは、多……しかし、私……また甦…たら――」
 言葉を零す間にも、全身にヒビが広がっていって。
 音もなく、砕け散った。

 辺りはひどく静かであった。
 其処が戦場と化していたなどと思えぬ程に。
 時刻は13時40分。
 簒奪者、殲滅完了。

第3章 日常 『ショッピングに行こう』


●Noel, Noel
 流れるは軽快なクリスマス・キャロル。
 大きなツリーの前を行き交う人々の表情は明るく。
 午後の教会周辺は笑顔と活気に満ちていた。
「これより、バザーを開始します!」

 バザーには出展者が持ち寄った品々が並ぶ。
 サンタやトナカイをはじめとした、手作りのオブジェクト。
 小さめのツリーやリース、天使やキジバトの飾り。
 他にはぬいぐるみ等のプレゼントに適したおもちゃなども。

 また、飲食物を売っている店もある。
 食べ歩きに適したチキンやターキーレッグ。
 ローストビーフやソーセージをメインとしたプレート。
 チュロスやクレープといった甘味の類。
 飲み物はビールやホットワインといったアルコールのほか、ココアやスープ等のノンアルコールも充実している。

 クリスマスマーケットが賑わう一方、教会内部は人が少ない様子。
 静かに過ごしたいならば、足を運んでみてもよいだろう。

 クリスマスは今年もやってくる。
 遍く全ての人々のもとに。
 それは、√能力者達も含めてのこと。
 さあ、今日の日をどう過ごそうか。

 ――I wish you a merry Christmas!
タマミ・ハチクロ


 |前のタマミ《・・・・・》は己が責務を立派に果たし、散っていった。
 ここからは|新しいタマミ《・・・・・・》の番だ。
 命のバトンを受け取って、初めての役目――さあ、クリスマスを祝おうではないか。

 タマミがまず向かったのは教会内部だ。
 シスターとして、彼女は祈りを捧げる。
「天にまします我らの父よ――」
 祈りの中、浮かんでは消える思い。それは、己が宿命のこと。
 タマミ・ハチクロは√ウォーゾーンにて製造されし|少女人形《レプリノイド》だ。
 死地に飛び込み、捨て身を前提として戦い続け、バックアップに記憶を刷り込まれる。
 それは人形として造られた以上、当たり前の話ではある。
「めでたし聖寵充ち満てるマリア―― 」
 されどそれは、ある種の自死だ。そして、モノであるタマミにおそらく魂は無く。
 彼女が天の国にて祝福を受けることは無いのかもしれない。
 ゆえに。
「願わくは、聖父と聖子と聖霊とに栄えあらんことを」
 この祈りは聖夜を楽しむ全ての人々の為に。
「始めにありし如く」
 そう、願わくは。
「今もいつも世々にいたるまで、アーメン」
 彼らの魂に安息が訪れんことを――。

 父と子と聖霊の御名によりて、アーメン。

(「……さて。√は違えど小生とて聖職者」)
 祈りを捧げてのち、タマミは教会の隅から視線を巡らす。
 そして、見つけた。シスター服を身に纏った、ここの職員であろう年配女性を。
「もしもし。教会で何かお手伝い出来ることは――」
 今も、臨終の時も。
 タマミは誰かの為に祈るのだ。
 たとえ彼女が、何人目であろうとも。

神楽坂・メイビ


(「いや〜、バザーが無事開催されてなにより!」)
 行き交う人の波に、メイビはさらりと溶け込んだ。
 その様は普通の少女とまるで変わらない。
 聖夜はヒトの形をした災厄すらも受け入れる。
「なに買おうなぁ……迷っちゃう!」」
 さて、クリスマスマーケットという物珍しい催しに惹かれてやってきたメイビであったが、特に何らかのお目当てがあるわけではない。
 ちょうど現在地はバザー会場。
 もしかしたら、何か掘り出し物が――。
「え、ちょ、何コレ!」
 いそいそ出店の一つに寄っていくメイビ。
 彼女の琴線に触れたものとは。
「サンタのソリ引くサメの置物って誰が買うの〜!?」
「あ、やっぱウケる? ウケるっしょ!」
 店番をしていたのは、メイビと同じ年頃のギャルの娘だ。
 防寒着でもこもこになっているが、メイクも髪もばっちり盛っている。
「キミが作ったの?」
「ん-ん、アタシは店番。アニキがこういう変なの輸入して売ってんだよねー」
 で、どうよ。
 ギャルとメイビの視線がばっちり合って――二人揃ってにやりと笑った。
「おもしろ、買っちゃえ買っちゃえ」
「お買い上げあざーっす」
「ちなみにさ、他にもオススメあったり?」
「んー……サメ系ならこういうのとか? クソダサセーター」
 メイビの財布の紐は緩い。
 ハートキャッチされたものをどんどん買っていく。
 どうせ金なら|機関《・・》から出るのだ。
 ならば、楽しまなくては勿体ない!

「ふふふ、いっぱい買っちゃった」
 あたたかなココアとクレープを手に、メイビは至極ご満悦。
 戦利品に囲まれて、ツリーを見上げていると。
「……あ」
 ふと目に入った。ツリーを挟んで向こう側、寄り添うカップルの姿が。
 何気なく一口啜ったココアは、少しだけほろ苦い。
「次は|主人公《キミ》とデートに来れたらなぁ、なんて」
 既に出会った、或いはまだ見ぬ|主人公《キミ》と。

鸙野・愛宕


(「良かった。もうクリスマスマーケットが台無しにされる心配はないんだね」)
 鸙野・愛宕(h00167)が到着した際には、既に戦闘は終了していた。
 しばらくは人の流れを眺めていたが、平和そのもの。
 簒奪の未来が在り得たことは、√能力者達のみぞ知る。
 さてさて、せっかくマーケットに来たのだ。やるべきことといえば。
「何か面白そうな掘り出し物も探してみよう!」
 それでこそ、愛宕である。
 お宝探しは彼女の個人的なトレンドのひとつ。
 いざ、クリスマスマーケットの冒険へ。

「この飾りは手作りなのかな?」
「ああ、一つ一つ端正込めて作ったものだよ」

「何かあったかいものをください!」
「はい! オススメは……」

 √EDEN。最も豊饒で、最も弱き地。
 楽園の人々との交流で、愛宕はふと簒奪者達のいた√に想いを馳せた。
(「√ウォーゾーンからの侵略……だったよね。幸い、仲間が阻止してくれたわけだけど」)
 件の世界は食料すらも貴重なのだと聴いている。
 果たして、そこに生きる人々はどんなクリスマスを送っているのだろう。
(「お腹を空かせてる子とかもいるのかな。せっかくのクリスマスだもん……良い思い出にしたいよね!」)
 バザーでの戦利品と幾らかの食べ物を手に、愛宕は立ち上がり、マーケットを後にする。
 程近くにあるかもしれない、√ウォーゾーンに繋がる道を探して。

フィア・ディーナリン


 フィアにとって、クリスマスマーケットは馴染みのない慣習だ。
 早々に撤収すべきかと一度は考えたが。
(「……折角ですし少々立ち寄ってみましょうか」)
 何かが彼女の心を変えた。
 それはツリーの灯か、教会から聴こえる讃美歌か――いや、また別の何かかもしれない。
 見えない何かに背を押されるように、フィアは人の流れに乗って歩き出した。

 活気に満ちた場所には慣れていない。
 自分には似つかわしくなく思えて、少し肩身が狭い気もするが。
(「それでも、不思議と悪くは無い気分ですね」)
 自分達が戦ったことで、この場や人々が守られたのだ。
 フィアを取り巻く喧噪は、己が手で掴んだ皆の平穏の証。
 そう、悪くない。
 人々の笑顔を間近で確認できただけでも。

 バザーまで辿り着き、フィアはふと足を止めた。
 仕える主人の手土産に、何か買ってみようか――。
(「しかし、何を選んだものでしょう……」)
 慣れないことに、良案は浮かばず。
 ひとつの店を眺めて、また次の店へを繰り返す。
 贈り物を選ぶのが、こんなに難しいものだとは。
 肩を竦め、顔を上げた先。
 遠目にも見える、大きなクリスマスツリーがまるで自分を見守っているように見えて。
(「確か、先程の店に……」)
 フィアの心は決まった。

 散々悩み抜いた末に、選んだのは小さなツリーのオブジェを一つ。
 このマーケットの中心に聳えるツリーのミニチュア版といった品だ。
 選択が間違っていないか、不安は尽きないけれど。
「ともあれ、これでようやく任務完了です」
 丁寧に梱包されたツリーの包みを手に、フィアは主人のもとへと帰ってゆく。

贄波・絶奈


「よし、来た。徒歩で来た」
 クリスマスマーケットの噂を聴いて、贄波・絶奈(h00674)がやって来た。
 さて、まずは……。
「食べ歩き、かなぁ」
 歩いたからか、きゅうとお腹が鳴る。
 おまけになかなか冷え込む日だ。何かしら腹に入れて、身体を温めたいところ。
「よし、決めた。クリスマスと言ったら、やっぱチキンでしょ?」
 足を運ぶは飲食店のエリア。
 美味そうな匂いに満ちた其処で――。

 始めは丸々としたチキンレッグ。
 ボリュームたっぷり、肉汁の旨味も上々。
 だが、まだまだ食べ足りない!
「座って食べられるスペースもあるし、追加で食べちゃおうかな」
 続いてはお洒落にローストビーフ。
 チキンとはまた違った肉の風味を、グレービーソースでお洒落に楽しんで。
 デザートには、クレープを。
 プレートに乗せるタイプのクレープは苺とホイップで飾られ、さらにはチョコソースでツリーの絵が描かれている。
 クリスマスのご馳走を楽しんでのち。

 絶奈はバザーへと移動した。
 何かちょっとした小物でも、記念に探してみようかと。
「うん、星をモチーフにしたアクセサリーとか欲しいね」
 そう。大きなツリーのてっぺんに飾られた、輝く星のような――。
「……あ、」
 イメージと現実とが噛み合った。
 絶奈と、そのアクセサリーの目が合った。
 まるで、冬の綺麗な夜空の星のような……。
「その輝き、ちょっとだけ分けて貰うとしようか」
 少女の掌に、輝く星が収まった。

同道・宙太


 だぼだぼ黒スーツをひっさげて、バザーの煌めきを見渡す少年がひとり。
「よーし! ソラはソラへの土産物を探すのであーる!」
 同道・宙太(h00903)のデカい声に人々は一瞬、彼の方に注目し――そして、また歩き出す。
 もっとも、宙太が気にした様子はまるでない。
 彼は双子の妹のことだけを考えていたから。
 最愛の、溺愛している妹。
 自分そっくりの、|ソラ《・・》。
 大事な大事な片割れであり、一心同体の存在を。
「……ふむ。黒くてカッコ良いものが好きであるからな」
 妹とは好みもそっくりだ。自分の琴線に触れたものならきっと喜んでくれるだろう。
「よし、あっちを探すのであーる!」
 人の合間を縫うように、宙太はバザーを進んでいく。
 さて、目に留まったものは。

「これくださいであーる!」
「お、坊主。気に入ったかい?」
「うむ!」
 手に取るは、サンタとトナカイのセットの置き物だ。
 なお、この品のラベルには。
「『ブラック閻魔サンタ&ファイヤー煉獄トナカイ』……恐ろしいほど完璧な土産なのだ」
 ……いや、誰が買うねんそれ? 宙太か。
 あと、クリスマスに閻魔て。いや、もはや何でもありなのが日本のクリスマスだ。
「へえ、プレゼント用か。相手、喜んでくれるといいな」
 超真剣な眼差しで会計をする宙太に、店番の青年が笑いかけてくれる。
「ラッピングはサービスだ。じゃ、いいクリスマスをな!」
「うむ、ありがとうなのだ!」
 手を振って、店を後にする。
 ご満悦の宙太。
 そんな彼に対し、ここには誰一人|妹へのプレゼント《・・・・・・・・》がそれでいいのかとツッコむ者はいなかった――。

 まあ、それでいいのだ。
 何でって? 理由はただひとつ。
「ソラのことはソラが誰より分かっているのであーる!」
 宙太に視線が再び注がれ、人の流れが一瞬止まり――また流れ出す。
 さて、そろそろ帰ろうか。
 そして宙太は、最愛の妹のためだけのサンタになるのだ!

 * * *

 クリスマスは今年も過ぎてゆく。
 簒奪のさだめなど無かったかのように。
 それは、√能力者達の存在と尽力があってこそ。
 今日も、楽園は楽園のままで。

 ――Happy holidays!

挿絵申請あり!

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