シナリオ

まちマルシェin√ウォーゾーン

#√ウォーゾーン

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 #√ウォーゾーン

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●作戦会議室(ブリーフィングルーム)
「こういう催しがあるらしい」
 綾咲・アンジェリカ(誇り高きWZ搭乗者・h02516)が卓上にすべらせたのは、1枚のチラシであった。見ると「まちマルシェ」と書かれている。場所は……√ウォーゾーンのとある街である。
 会場となる広場では多くの屋台が出ておなじみの軽食を販売するほか、キッチンカーや野外炊事車までも集まり、ポテトフライだのクレープだのカレーだのを提供する予定らしい。
 他にフリーマーケットもあり、そこでは手作りのぬいぐるみや一点物のアクセサリー、はたまた使わなくなった家具や衣類なども販売される。あるいは、手作りのナイフや一点物の改造銃、はたまた使わなくなったロケットランチャーや野戦服なども販売される。
 なんとも√ウォーゾーンらしい……のだろうか?
「あいにくと、誘い合って出かけようというのではない。それならば、ブリーフィングルームに集まってはもらわない。
 まぁ、興味が湧かないわけではないがな」
 苦笑するアンジェリカ。
「会場を含めたこの街を狙って、戦闘機械群が襲来する。戦闘機械どもは人々を抹殺するつもりのようだが……そうはいかない。
 皆は襲い来る敵機を迎撃し、街を守ってもらいたい」
 表情を引き締めて一同を見渡したアンジェリカ。
「しかし、まちマルシェそのものを中止にするわけにはいかない。あれはあれで、物資の無駄のない流通という意味合いはあるのでな。
 まちマルシェを成功に導きつつ、敵の襲来とともに素早く撤収させる。そして襲い来る敵を撃破し、その部隊を指揮しているレーヘンゲレート『テオディツェ』を倒すのだ。
 これは、人々の日常を守るための大切な戦いだ。さぁ、栄光ある戦いを始めようではないか!」

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第1章 冒険 『物資不足を解消しよう!』


東雲・グレイ
クラウス・イーザリー
アリエル・スチュアート

「へー。√ウォーゾーンでも、こういった催しが行われているのね」
 アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)はそう言って、人々で賑わっている広場を見渡した。
「ずいぶんと賑やかだね」
 東雲・グレイ(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)もチラシを手に、
「あちらがフードコート、フリーマーケットは向こうか」
 と、目指す方向を指さした。
 彼女たちの狙いはフリーマーケットである。会場は老若男女を問わず、出店する者と買い物する者、それぞれで賑わっていた。
「うん。本当に、活気があって、平和で……」
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は眩しげに目を細めて、人々の顔を見渡していた。√ウォーゾーン出身の彼は、この街が普段、いかに危険かわかっている。しかしだからこそ、この光景には心が和んだ。
「機材のパーツ探してみたかったし、ちょうどよかったわね。いろいろと、使えそうな機械のパーツが欲しいわね」
 アリエルはそう言うものの、いつ襲撃があるかわからないのも事実。ドローン『フェアリーズレギオン』の一団を呼び出して、周囲の警戒に当たらせる。
「私はこの空気、好きですけどね」
「そう? やっぱりオルレアンは、√ウォーゾーンと性質が似てるのかしら?
 ま、ひとまずは買い物するとしましょう」
 フェアリーズリーダー『ティターニア』とそんなやりとりをしながら、あちこちの店を覗いていく。
「私の『パワードシャープシューター』にも、いい改造パーツがあるといいな」
 グレイが手にしているのは、銃口から銃床までなんと3mを越える巨大なスナイパーライフルであった。普通に考えれば大騒ぎになるか……あるいは逆に、そんな代物が本物と思われないか、どちらかであろうが。
「さぁさぁ、見て行って見て行って! 長砲身型のバトラクスが装備していた部品を流用して作った、三連装ロングレンジライフルだ。抱えて使うにはちょっと重いし長すぎるから、トライポッドもつけるよー!」
 などと、見た目くたびれたサラリーマンにしか見えないバーコード頭のおじさんが呼び込んでいるような場所なので、誰も騒がない。
「おぉ……このロングバレル、かっこいい……」
 グレイがそれに食いついた。
「お、見る目があるね、お姉さん。
 こいつを、お姉さんのライフルに流用? そうだな、規格は合いそうだから、バレル交換すればいけなくもない……かな?」
「でも、ちょっと値段が、ね」
「そうかい? これでもほとんど材料費だけなんだけどなぁ」
「なら……あ、そこのフレシェット弾。悪いけどそれ、ドローン用に何個かつけてもらうのはどう?」
 と、狙撃用の『スナイプスポッター』と見た目は殆ど変わらない自爆用ドローンをグレイは示した。
「ははは、上手いなぁ。う~ん……」
「俺も、なにか探してみようかな」
 アリエルもグレイも買い物を、あるいは冷やかすのを楽しんでいるようだ。クラウスもなにか面白いものはないかと、辺りをキョロキョロと見渡した。
 やはり装備は、使い慣れたものがいい。その点では十分に足りているのだが、使うかどうかはさておき、そういう面白い武器を見ていくのは楽しい。
「……買いすぎてしまわないように、気をつけないとな」
 そんなクラウスを呼び止める声がした。
「おにいさーん! そこのカッコイイおにいさーん!」
「……俺?」
「そうですよー、功績軍団章の似合いそうなおにいさん!」
 店番をしている女学生たちが、クラウスを呼び止める。覗いてみるとそこは、
「うちらが作ったハンドメイドの銃とかあるんで、見てってくださーい」
 ということであった。
「へぇ」
 やたらとデカい銃を手に取ってみるとそれは、30ミリ機関砲弾を(ムリヤリ)装填できるようにした代物であった。
「……1発撃ったら吹き飛ばないかな、これ」
 自分の手が。
「そのへんはちゃんと品質保証しますよー。マガジン1個分までは大丈夫」
 そのあとは知らない、ということだ。
「じゃあ、こっちはどうですかー? 小銃から撃てる、粘着榴弾。アロマオイル入りー」
 など、なかなか個性的なものをオススメされた。
 女学生たちのエネルギーには圧倒されるクラウスであったが……こんな日常を戦闘機械群に奪わせるわけにはいかないと、決意は新たになる。
「そうだね。これだけ面白いものをむざむざ破壊されるのは残念だよ」
 「戦果」を見せ合ったグレイは微笑しつつ、
「狙撃位置なら、あそこだな」
 と、広場の端にあるオブジェを確認した。なんとかいう芸術家のデザインらしいが、なにしろ√ウォーゾーンのことだ。形といい配置といい、案外、もともとそのために設置しているのかもしれない。
 アリエルも、
「これ、アクセラレータですって。ティターニア、あなたにも搭載してみる?」
「あいにく、そのような得体のしれないチップを積む趣味はありません」
 などとやり取りしつつ散策していたが、
「……公爵、買い物をお楽しみのところ申し訳ありませんが、そろそろ終わりのようです」
 AIが警告を発すると、
「そう」
 と呟いて、目を細める。
「ならば、迎撃準備を固めましょう」

水垣・シズク
ヨシマサ・リヴィングストン

 少し時間は遡って。水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)とヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)、すなわち第435分隊のふたりは、人が集まり始めた頃の広場へと向かっていた。すでに商品を並べ終えている参加者もいる。
「おぉ~、まちマルシェ……いいっすね!」
「オシャレな感じでいいですね!」
 ヨシマサもシズクも揃って歓声を上げた。
「こういうイベントごとは、ぜひ大事にしたいですね」
「そうですね。シズクさんが一緒に来てくれて、心強いっす」
 父親に手を引かれながら歩いている男の子を振り返りながら、ヨシマサは笑みを浮かべる。彼も√ウォーゾーンの出身であり、こういった時間がどれほどに貴重かは、十分に承知していた。
 彼らは出店する側である。ヨシマサは手作りの小さいオモチャロボットなどを用意し、
「私は足を用意しましょう!」
 と、請け負ってくれたシズクのカーゴドローン『神輿』に載せて示されたブースへと向かっている。
 休日のお出かけを楽しんでいる人々を見やりながら、そのシズクは自分の姿を見下ろした。
「……今の服装、キッチリしすぎてて怪しくないでしょうか?」
 社会人のたしなみでもあるビジネスカジュアル、そして羽織るのは汎神解剖機関の白衣なのだが。
「あ~」
 と、ヨシマサが首をひねった。
「やっぱり、変ですか?」
「いや、そうではなく。シズクさんの服、確かに√ウォーゾーンの服にしては綺麗ですもんね」
 まるで戦地のように、野戦服やストライドスーツを着ている者が闊歩しているのである。多少、違和感があるかもしれない。とはいえ、別に気にするほどではないのだが……。
「気になるようなら、古着のコートでもどこかで調達しましょうか」
「……面積の少ない服でなくても、大丈夫です?」
 ちょうど、横をピッチリとしたストライドスーツ……しかも肩を露わにしたデザインのそれ……を着た女性たちが通り過ぎ、それを横目に見たシズクが問う。
「大丈夫っす!」
 ヨシマサは慌てて声を張り上げた。
 商品を並べ終えたところで、まちマルシェ開始の園内放送があった。パラパラとした拍手、歓声とともに、人の流れが加速する。
「見せてもらって、いいですか?」
「えぇ、どうぞ」
 ヨシマサが顔を上げると、そこにいたのは先ほども見かけた父子であった。
「これ、恐竜?」
「そう。あ、ちょっと見せてごらん」
 ヨシマサが腹にあるスイッチをいれると、恐竜ロボットは首を振り振りしながら歩き出した。ヨシマサが横から手を叩くと、恐竜は振り向いて移動方向を変える。
「わぁ!」
 男の子が歓声を上げて、自分も手を叩く。右に左にと自分が動き回って、恐竜が追いかけて来るさまを見ては笑った。
「いやぁ、なんだか懐かしい雰囲気のオモチャですね。つい覗かせてもらいました」
 父親がしみじみと呟く。
「そうっすね。むかし玩具を作っていた企業も、すっかり軍事企業になっちゃったところも多いですし……なかなか、こういうオモチャが手に入る機会も減っちゃいましたしね」
 ため息混じりのヨシマサ。周りには軍用品を扱っているブースも多い。本格的な火器や装備の類は、噴水の向こう側に集まっているようだが。
 話しているうちに、男の子は今度は貨物車のオモチャに興味を持ったらしい。エンジン音を響かせて動く貨物車を眺めている。
「なるほど。『また今度も』、こういう物を持ってきても、喜んでもらえるかもしれませんねー」
 接客をしつつ、シズクは今後のためのニーズを聞き込むことにも抜かりはない。
 そう。「また今度も」、このイベントがつつがなく行われるように。

品問・吟

「さぁて、腹が減っては戦はできぬと言いますからね!」
 胸を張る品問・吟(見習い尼僧兵・h06868)が出店したのは、
「ずばり、お団子屋さんです! さぁ、いらっしゃい!」
 明るく元気が吟の持ち味。道行く人々を呼び込むことにもなんのためらいもなく、遠くまでその声はよく響いた。
「レイ、団子屋だってよ。うまそう」
 焼き網の上で焼かれる団子が、その香りを辺りに漂わせている。ちょうど、演習帰りらしく小銃を背負った学徒兵たちの一団が通りかかった。彼らが、その芳しい香りを素通りできるわけがない。
「ほんとだ。ひとつください」
「私もー」
「はいはーい♪」
 たちまち店の前には人だかりができて、団子は次々と少年少女たちの手に渡されていく。焼き網の上からはあっという間に団子がなくなったが、
「大丈夫。先生に手伝ってもらって、いーッぱい作ってきましたよ!」
 と、吟は新しい串を焼き網に並べていく。
 ところが、だ。
 最初に店を発見した少年……友人たちからはダンと呼ばれていたが、彼が串を持っていない。
「いや……じつは、持ち合わせがなくて」
「そういうこと。じゃ、なにか物と交換でもおっけーですよ。よければ、思い入れなんかも聞かせてもらえれば」
「思い入れ……そうだ」
 ダンが懐に手を突っ込む。
「これ、射撃訓練で初めて、ど真ん中に命中させたときの薬莢。記念に取っておいたんだけど……これで代金になりますか?」
 上目遣いに差し出してくるダンであったが、吟は慌てて手を振った。さすがに、そこまでのものを受け取れはしない。代わりに弾を1発受け取る。
「私の作ったヤツはちょっぴり歪かもですが……あ、味に大きな違いはありませんから!
 でも一応、訳あり品で少しお安く……ということで」
 そう言って、ダンに串を手渡す。
 彼らから訓練のことや学園生活のことなど、いろいろと話を聞いた吟は、
「ふふ」
 と、微笑む。√ウォーゾーンにはあまり詳しくないが、こうして交流が広がるのは、楽しいことだ。
「この世界のこと、いーっぱい教えて下さいッ」

見下・七三子
レオン・ヤノフスキ

「すごいですね、レオンさん。私、マルシェ初めてです!」
 見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は辺りを見渡して歓声を上げた。
「こんなに活気があるんですね」
 団子の串を手にした学徒兵の一団が、その横を通り過ぎていく。
 レオン・ヤノフスキ(ヴァンパイアハンターの成れの果て・h05801)も楽しげに出店を見渡しては、
「なかなか賑わってんなぁ。物資が乏しいって聞いてたが、こりゃ掘り出し物でもあるんじゃねぇか?」
 と、口の端を持ち上げる。
「期待できますね。お仕事は忘れちゃダメですけど、ちょっと見て回りませんか?」
「おう! どうせこのあとは戦闘機械どもとの戦いなんだ。仕事前にちょっくらデートしても、鉢は当たんねぇだろ」
 ふたりは並んで、ときおり腕を組みながら店を回っていく。
 はしゃいだ子供たちとぶつかりそうになった。レオンは七三子の手を引いて身体を引き寄せ、
「気をつけろよー」
 と、子どもたちに声をかけたが。
「お」
 その時に興味を引く店を見つけたらしく、七三子を促した。
「ふふ、お供します!」
 レオンの手を握ったまま、七三子もあとに続く。
 そこは銃火器を扱っている店のようだった。
「見せてもらっても、いいかい?」
「……どうぞ」
 寡黙な店主が、ジロリとふたりを見る。並んでいる銃器は古めかしいものではあったが、よく手入れが為され、丁寧な修理の跡も見えた。
「へぇ……」
 レオンは店主に断ってから、銃身が切り詰められたショットガンを構え、ハンドグリップを前後させた。シャカッと小気味の良い感触である。
「たいしたもんだ」
 √EDENにあるものと比べ、これらにはさしたる先進性があるわけではないが……命を預けるに足る武器なのは、間違いない。
「見下、こういうのはどうだ?」
 続いて手に取ったのは、小ぶりの拳銃である。それは七三子の手にちょうど収まる大きさである。
 それをしげしげと眺め、構えてみたりもした七三子は、
「遠距離攻撃の手段として、こういうのもいいかな……」
 と、何度か頷いた。集団戦格闘者である彼女が日ごろ頼みとしているのは、己の鉄拳であるが。
「だろう? これなら、スーツにも忍ばせられる。
 ショルダーホルスターは……あっちか? よし、探してみようぜ」
 店主が顎で示した隣の店に向かうレオン。こちらは装備品が主のようだ。
 いろいろと見て回ったふたり。
 しかし七三子はまだ、辺りをキョロキョロと見渡している。
 まだなにか探しているのかと、レオンが声をかけようとした時。
「あッ!」
 七三子は声を上げ、通りを横切ってその店へと駆け寄った。そこは食器類を扱っているようだったが……。
 軍からの放出品らしい無骨な器が大半を占める中、七三子の興味をひいたのは優美なシルエットのタンブラーであった。
「これ、ですか? うひ、私が作ったもの、一応並べさせてもらったんですが……すいません、なんだか、場違いなものを」
 と、店番をしていた女は恐縮していたが、
「いえ、素敵です」
 七三子はそう言って、タンブラーを手に取る。やはり√ウォーゾーンは金属加工の技術に長けているのだろうか。それとも、この職人の技か。
 七三子が特にそれに目をつけたのは、タンブラーがペアになっているためでもある。
「レオンさん。これ、今日の記念にどうでしょう?」
「おぉ、いいな。……となると、いい酒も注ぎたくなるな! 秘蔵のウイスキーでも、どっかにでてねぇかな?」
「いいですね、探してみましょう」
「せっかくの機会だからな。多少値が張っても、買っておきてぇ!」
 楽しい時間は、もう少し続くようだった。

ソフィア・テルノーバ

「わぁ、なにあれ」
 演習帰りらしい女生徒たちが、思わず声を上げて立ち止まった。
 そのブースは、立ち並ぶ出店の中でもひときわ目を引いていた。立派な看板が掲げられ、パンフレットやPOPで飾られているのだ。
 看板を見ると、「MHF」と書かれてある。
 ソフィア・テルノーバ(使命は人類防衛・h01917)の製造元であり、彼女自身が代表のひとりを務める会社である。
「なになに……?」
 女生徒が看板の下に書いてある文言を読むに、MHFとはデジタルデバイスやデジタルウエポン、はたまた少女人形やウォーゾーンの製作を行っている企業……とのことであった。
 もちろんソフィアがここまでするからには、出店に際しては社長の許可を取っている。
「ようこそ、MHFのブースへ。ぜひご覧になってください」
 と、ソフィアは女生徒たちを誘った。
 会社の展開しているSFAブランド。そのレーザーライフルやレーザーサーベルを、女生徒たちは興味深げに眺めている。
「ねぇカナ! このライフル、カナにぴったりなんじゃない?」
「そうね。あ、こっちのカラーとペアで使えばお洒落かも」
「わかるー! チームで同じストラップとか、つけてさ」
「いいね」
 などと、さすが√ウォーゾーンの学徒兵。まるで服でも選ぶように賑やかであった。
「なかでも、今回おすすめなのはこれね。人間の皆さんには、割引しちゃいます!」
 そう言ってソフィアが示したのは、最近発売されたばかりのデジタルデバイスであった。
 とはいえ、流石に最新型。おいそれと女学生たちのお財布では手が出せない。
「まぁ、そうかも。……そこで」
 うんうんと頷きつつソフィアは、
「今回は『試供品』ということで、無料でお渡ししてもいいわ」
「えぇッ? ……いいんですか?」
 カナと呼ばれていた女生徒が、デバイスを手にしたまま困惑の表情を浮かべる。
「えぇ。これくらいは私の権限でできることだし、使ってみた感想を聞かせてくれるなら」
 ソフィアが目を細めると、女生徒たちは歓声を上げた。

第2章 集団戦 『お掃除ロボット『DSN205型0番台』』


 それまで広場に穏やかなBGMを提供していたスピーカーが、突如として激しい警報を鳴り響かせた。
 来たか!
 まちマルシェを楽しんでいた√能力者たちはすぐさま緊張を取り戻し、集まっていた群衆を広場の外へと導いた。あるいは、武装を整え戦闘準備に取り掛かった。
 さすがは、いつ戦場となるかもわからない√ウォーゾーンの住民たちである。出店していた者たちもすぐさま荷物をまとめ、撤収を始めている。
 お掃除ロボット『DSN205型0番台』どもはそこに向け、人間たちを一掃すべく迫っていた。
東雲・グレイ
クラウス・イーザリー

 店を開いていた男も女学生たちも、警報が鳴り響くやすぐさま撤収、そして避難を開始した。
 『パワードシャープシューター』を抱えて駆け出す東雲・グレイ(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)の背に、
「あとは任せたよ、お姉さん!」
 と、男が声を掛ける。
 そしてクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)に向かって女学生たちは、
「頑張ってね、おにいさーん!」
「カッコイイところ見せてねー!」
 コロコロと笑いながら、荷物を担ぎ上げた。
「逞しいな……」
 その背中を見送り、クラウスは頼もしく思う。こんな苦難に満ちた世界に生きながらも、彼女らは明るさを失わない。
「あの子たちが撤収するための時間を稼ぎながら、戦おう」
 クラウスが『レイン砲台』を展開させる間にも、敵は迫りくる。
「メイドフォーメーションパターンAですの!」
「人間どもの作ったガラクタは、ぜんぶお掃除してやりますの!」
 などと言いつつ、お掃除ロボット『DSN205型0番台』は剣を抜いた。
「ガラクタは、お前らのほうだって」
 広場の端にあるオブジェに登ったグレイが、ライフルを構える。スコープを覗き込みつつ、展開した『スナイプスポッター』からの情報をもとに、わずかに狙いを修正。
 放たれた銃弾は狙いを違うことなく、お掃除ロボットの頭部を吹き飛ばした。
「ッ!」
 攻撃に気づいた敵が、すぐさま散開する。
「メイドフォーメーションパターンZですの!」
 バックアップ素体を周囲に放ち、『メイドセンサー』で狙撃手の位置を探る戦闘機械ども。
 中には樹木に模したオブジェに身を隠す者もいたが、
「……そんな位置に隠れても、意味ないって」
 素早く装填され放たれた次弾は傍らにある石柱で跳ね、またしても敵を貫いた。
 さらには、
「掃除されるのは、お前たちだよ」
 クラウスの、亡くなった戦友の形見でもある『レイン砲台』は、彼が守りたかったであろう日常を守るために、光を放った。
 300発ものレーザー光線は1発の威力こそ低いものの、次々とバックアップ素体どもを捉えていく。ついにその装甲を貫通され、素体どもは火を吹いた。
「お掃除の邪魔ですの!」
 剣を閃かせて襲い来る、お掃除ロボットども。
 ここから先に行かせるわけにはいかない。クラウスは『スタンロッド』を抜いて、振り下ろされる剣を弾いた。
「生ゴミの処理から始めますの!」
 戦闘機械どもが次々に襲いくるが、
「――凍てつけ、凍てつけ、凍てつけ。この世全ては雪の中、凍る世界でさようなら」
 グレイは再び狙いをつけ、敵の足元を狙って引き金を引いた。氷属性の弾丸は着弾した周囲の分子を凍結、崩壊させる。お掃除ロボットどもは脚部を破壊されて、よろめいた。
 それでも隊列を組んで襲ってこようとした敵群の前には、ドローンが飛び出る。それは敵前で自爆し、内部に満たされたフレシェット弾が敵に襲いかかる。
 混乱する敵を、クラウスは『スタンロッド』で打つ。高圧電流がお掃除ロボットの全身を駆け抜け、配線の焼き切れた戦闘機械は白目を剥いて崩れ落ちた。
 厳しい世界で明るく生きている住民たちを「掃除」なんて、させない。

アリエル・スチュアート
品問・吟

「お仕事は完遂しますの!」
 お掃除ロボット『DSN205型0番台』は同胞を何機も失いながらも、怯むことなく襲いかかってくる。それは戦闘機械の常とも言えるが……。
「なんですか、あのあざといメイドどもは」
 アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)が操るドローン、そのリーダー機に搭載されているAI『ティターニア』は、憤慨していた。
「あの……なんでそんな怒ってるの?」
 アリエルが問えば、
「このニアちゃん様もメイドですから」
 と、AIはいけしゃあしゃあと答えた。
「あんなフレンチメイドはメイドとして認められません。メイドはクラシック一択です」
「いや、丸っこいレギオンが、なにを……。だいたい、貴女たちの製造国だって、ね」
「ぷッ」
 漫才のような掛け合いに、品問・吟(見習い尼僧兵・h06868)は思わず吹き出した。
 学生が射撃訓練に明け暮れ、戦場に出るという現実。その重苦しさを、アリエルはものともしないではないか。
 そして吟の手の内にあるのは、1発の銃弾である。ダンという学徒兵からもらったそれを見つめつつ、吟はこの√ウォーゾーンに思いを馳せる。この重い現実の中でも、人の営みは続いている。
る。
「……そして、輝いている。
 敵がなんであれ、やることはただひとつ。彼らを、この世界を、明日につなげるために……出陣です!」
「そうね。蹴散らしてやりましょ」
 アリエルは『ティターニア』以下、ドローン『フェアリーズレギオン』たちを展開した。
「敵の数が多いです。群れの中に飛び込んで、まとめてお相手します!」
 吟がそう言って、地を蹴って飛び出す。
「わかった。援護するわね!」
 アリエルも魔導槍を掲げつつ、ドローンたちを操る。
 すると『ティターニア』も、
「お任せください」
「うん、任せた。さぁ行きなさい! 小さき機械の妖精たち!」
 妙にやる気なAI。アリエルが彼女らを放つと、ドローンたちは一躍、敵へと躍りかかった。ドローンはペアを作って敵を狙い、ミサイルを放つ。着弾したミサイルのひとつが、敵の片腕を吹き飛ばした。敵は残った腕で剣を握り切り払ったが、ドローンはそのギリギリをかいくぐってなおも敵に肉薄し、再びミサイルを放つ。その背後からも、ペアとなるもう1機が攻撃を仕掛けた。
「ぎゃ……ッ!」
 悲鳴を残し、お掃除ロボットは吹き飛んだ。
「……やけに攻撃的な気がするわね、『フェアリーズ』」
 アリエルが首を傾げる。
 ともあれ、その援護を受けて吟は敵中へと飛び込んでいた。
「二口女といえば、蛇のように伸縮自在の髪の毛。皆さん、当然ご存知ですよね?」
 人妖『二口女』である吟。その灼髪は蛇のように蠢いてお掃除ロボットどもに襲いかかる。
「知ってました? 私の髪は、こーんなこともできちゃいますよ!」
 髪はお掃除ロボットの首に絡みつき、ギリギリと締め上げる。その力たるや、なんと戦闘機械を持ち上げ、地面に叩きつけるほどであった。首関節が砕け、力を失うお掃除ロボット。
「お仕置きですの!」
 縦横無尽に駆ける吟を捕縛せんと襲い来る、お掃除ロボットども。しかし吟は髪で掴んだままの敵の残骸を盾とし、剣は虚しくそれを貫いただけに終わった。
「二口女の権能、お吟ちゃん自慢の乱れ髪。まだまだご覧あれ!」
 吟は当たるを幸いの勢いで、敵中を暴れ回った。

見下・七三子
レオン・ヤノフスキ

「わ、思いのほか大群ですね!」
 見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は襲い来るお掃除ロボット『DSN205型0番台』どもを見渡して、思わず声を上げた。戦闘機械どもは列を成し、続々と広場へと迫っている。
 しかしレオン・ヤノフスキ(ヴァンパイアハンターの成れの果て・h05801)はニヤリと笑い、
「どんな厳ついメカが来んのかと思ったら、こらまたえれぇかわい子ちゃんじゃねぇか!
 1体くらい持ち帰りてぇとこだな」
 などと嘯く。
「……あの胸元、どうなってるのかな? ちっとだけ破ってみたり」
 などという邪な考えが頭をよぎるが、
「うーん、かわいいお嬢さんの見た目だけに、余計に圧が……ちょっと怖いですね」
 隣では七三子が真剣な眼差しで拳を握りしめているので、慌てて不埒な考えを捨てる。
「見下の手前、マジメにやるしかねぇか~」
「レオンさん?」
「いや、なんでもねぇ! それで?」
「銃は買いましたけど、まだ練習できていませんし……いつも通り、近接戦闘で」
「わかった。任せろ」
「はいッ!」
 鋭く声を発した七三子が、広場の石畳を蹴る。
「お前から掃除してやりますの!」
 お掃除ロボットどもは剣を振り上げ、隊列を組んで襲い来る。が、七三子は一気に敵の懐に飛び込んで、下から突き上げるような蹴りで、敵の顎を打ち砕いた。鉄板を仕込んだ革靴の威力、そしてそれ以上に七三子の技の切れは凄まじい。下顎を吹き飛ばされた敵は、火花を散らしながら仰向けに倒れる。
「おのれ、ですの!」
 お掃除ロボットの剣が左右から襲いかかる。しかし闇を纏った七三子は後ろに跳び、代わってレオンがその前に出た。
「試し撃ちだ」
 買ったばかりの『ソードオフ・ショットガン』。そのハンドグリップを前後させて弾丸を装填し、構える。
「たっぷり味わってくれや!」
 血属性の散弾が敵群を襲った。それらは着弾とともに激しく爆発し、人間に擬態した肌を焼く。樹脂の剥げた機械の地肌を見せながら、戦闘機械どもは崩れ落ちていった。
 それでも、敵は数が多い。
「お掃除を増やすんじゃないですの!」
 などと、崩れ落ちた同胞を踏みつけにしながら取り囲んでくる。しかし、√能力者はひとりではないのだ。七三子とレオンは互いに背中を預け、敵に相対している。
「いい連携だ。……なーんか、見下には心を読まれがちだからよ~。そのせいか?」
「レオンさん!」
 ちょうどレオンの側背に回ろうとしていた敵に、七三子が鉄拳を叩きつける。その頬は、いつもより紅潮しているように見えた。
「信頼できる人と一緒に戦うのって、ちょっと楽しいですね!」
 と、息を弾ませて微笑む七三子。
「レオンさんの背中はしっかり守ります、お任せください!」
「……俺の血が注入されて、ハッスルしちまったかな?」
 首を傾げるレオン。
「今ですの!」
 お掃除ロボットどもは弾切れと見て飛びかかってくるが、
「おっと、もうひとつあるんでな」
 もう1丁のショットガン、こちらは√EDEN製。至近距離からの射撃が、お掃除ロボットの頭部を吹き飛ばした。

ヨシマサ・リヴィングストン
ソフィア・テルノーバ
水垣・シズク

「お、こっちにも来ましたね~」
 どこか呑気に、ヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)が彼方を見やった。
「さぁ、急いでください」
 そう言って、オモチャを見ていた父子や周りの出店者たちに避難を促す。
「あなたは?」
「こっちがボクたちの仕事ですから」
 そう言って、避難経路を示すヨシマサ。住民たちも勝手知ったるというべきか、迷いなくそちらに足を向けた。
「オモチャ、大事にするね!」
 いちど振り返った男の子が、大きな声で言った。ヨシマサも水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)もにこやかに手を振り、それを見送る。
「私も一緒に戦うわ!」
 ソフィア・テルノーバ(使命は人類防衛・h01917)が駆けつけた。これで、第435分隊の3名が集結したことになる。
「戦闘は苦手……ではあるんですが。
 ま、今回はヨシマサさんにソフィアさんもいますし、負ける気がしませんね」
 と、ふたりの顔を見ながらシズクは微笑んだ。
 しかしヨシマサは浮かぬ顔である。
「いえ、万が一ですが、危険物が残っていると大変なので……」
「だったら、そっちは任せるわ。私が時間を稼ぎましょう。
 心配ないわ。私専用の武器は、すぐ取り出せるところに置いてあるから」
 周囲に並べたSFAブランドの装備品を示しつつ、ソフィアは請け負った。
「かかって来なさい。こっちもガンガン攻めるわ!」
 特注モデルのレーザープリンタ『SFAレーザービルダー・O9』から生成した煙幕と閃光弾が、お掃除ロボット『DSN205型0番台』どもの中央で弾けた。
「ゲホッゲホッ……!」
 などとわざとらしく咳き込むのは、人間を擬態しているからである。
「汚れを増やすんじゃないですの!」
「汚れを、元からお掃除ですの!」
 と、お掃除ロボットどもは襲いかかってくる。
 しかし、煙幕を放った時点でソフィアは一気に間合いを詰めている。『SFAブーストランナー』が、その鋭い加速を可能にしていた。
 『SFAスクリュートライデント』を構えるソフィア。ソフィアの武装はいずれも、彼女専用に調整が施された特注品である。限界まで性能を突き詰めたがゆえにピーキーなそれらに完全適応し使いこなせるのは、ソフィアだけ。
「その力を味わいなさい」
 繰り出されるトライデントの鋭鋒。それはお掃除ロボットの胸部装甲を易々と貫いた。
 しょせんは擬態。同胞が斃れても戦闘機械どもは平然と襲い来るが、トライデントを大きく振って深々と刺さった敵の残骸を弾き飛ばしたソフィアは、
「できる限り破壊して、ヨシマサさんやシズクさんが困らないようにしなくちゃね」
 と、渾身の力で薙ぎ払った。今度は数体の戦闘機械が吹き飛ばされる。
「メイドフォーメーションパターンZですの!」
 敵はこちらを捕縛せんと取り囲んでくるが、ヨシマサのレギオン『スウォーム・シーカーVer.1.5.2』が、そしてシズクの放った小型無人兵器とが、輪の外から襲いかかった。
「通達、次の指示を最高優先度で実行せよ」
 主であるシズクから指示を受けている無人兵器。その指示は兵器に寄生した下級怪異に与えられたものである。
 怪異たちはそれを忠実に実行し、呪詛を付与した小型ミサイル群が、戦闘機械どもを襲う。
 そしてヨシマサのレギオンは攻撃用アクティブ形態『シーカーズ・フレアVer.1.0.52』となって襲いかかった。
 敵の包囲が崩れたと見るや、再びソフィアは敵群に躍りかかる。
 すぐに、ヨシマサとシズクも駆けつけた。
「大丈夫だったですか? 全部β版だから、バグったらごめんね~って感じだったけど……うまくいってるみたいっすね」
 戦況を見たヨシマサが、「うんうん」と頷いた。
「こういうとき、自立思考してくれるのは便利ですよねー。眷属諸君、よく頑張って働きましたね」
 と、シズクは眼鏡の下の右目を細める。
「それで? 撤収と避難は大丈夫だった?」
 ソフィアの言葉に、ふたりは苦笑しながら視線を交差させた。
「それが、出店者の中にナパーム弾を持ち込んでた人がいまして……シズクさんに運んでもらいました」
「正確には、イォドにですけれど」
 シズクのAnkerである。決戦型WZと合体したそれに、人々が避難する方向とは逆のところに運び出してもらった。
「それは……大変だったわね」
「まぁ、なんとかなりましたから。あとはサクッと行きましょ~」
「さぁ眷属諸君、もうひと頑張りですよ!」
 呆れるソフィア。ヨシマサとシズクは再び『スウォーム・シーカー』を放ち、シズクの指示によって下級怪異たちはミサイルを放った。
「これで、最後かしら?」
 あちこちで聞こえていた戦闘の音が、いつしか小さくなっている。ソフィアはトライデントを閃かせて突進し、防がんとするお掃除ロボットの剣を弾き飛ばした。トライデントが、敵の首を抉る。お掃除ロボットは「解体」され、活動を停止した。

第3章 ボス戦 『レーヘンゲレート『テオディツェ』』


「なんということ……計算はまだ、不十分だったということ?」
 配下を失った『レーヘンゲレート『テオディツェ』は、表情こそ変えぬものの大いに戸惑っていた。大いなる存在に到達できぬ、己たちの矛盾。それはあらゆる数式を解析し、真理を追求し続けることで解決できるはずであったのに。
 その計算が、大いに狂った。
「……√能力者という要素を除けば、あるいは」
 マントを翻したテオディツェは、指揮棒を手にしながら広場へと近づいた。
東雲・グレイ
クラウス・イーザリー

 広場に踏み込んできたレーヘンゲレート『テオディツェ』は一度、指揮棒で自らの手をピシリと打った。
「……√能力者を、排除する」
 その姿を捉えたクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、
「あいつが、指揮官か」
 細く息を吐き、『スナイパーライフル』を構えた。
 照準を覗き込んでいるのは東雲・グレイ(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)も同様で、『スナイプスポッター』を放ちつつ白い狙撃銃を構えている。
 引き金を引いたのはグレイの方が先だった。
 放たれた弾丸は狙い通りにテオディツェの脳天を貫く……はずであったが、まさに着弾するほんのゼロコンマ数秒で、敵は首をひねったではないか!
「まさか。あれを避ける?」
 それでも敵の被る帽子は飛び、頭部をかすめた弾丸は何らかの損傷は与えたはずであるが。致命傷と言うには、遠い。
 テオディツェはレギオンを無数に周囲を展開させると、その完全数値化演算装置で、グレイの位置を捉えた。
「追え」
 まずい。舌打ちしつつ、グレイは次の狙撃ポイントへと位置を変える。
「相手はレギオン使いか」
 敵のレギオンはグレイを追い、囲もうとしている。クラウスは改めて呼吸を落ち着け、引き金を引いた。
「……ッ!」
 放たれた弾丸は、テオディツェとレギオンどもとの中間に着弾した。その周囲に紫電が走り、敵戦闘機械とレギオンとが、ビクリと身を震わせた。
「く……!」
 よろめくテオディツェが周囲に視線を巡らせる。その目はクラウスの姿を捉え、クラウスにもレギオンは襲いかかってくる。
 1機は撃ち落とし、もう1機を抜いた『電磁ブレード』で打つ。放たれた電磁パルスが、レギオンの内部回路を焼き切った。
 しかし、もう1機が……。
 刃を向けようとしたクラウスであったが、敵の砲口は、今まさにレーザーを放たんと輝いていた。
 結果として、レギオンはそのエネルギーを放つことなく爆散した。グレイの放つ弾丸に貫かれたのである。
 戦況を見やるテオディツェが呟く。
「やはり、√能力者を計算し尽くさなければ」
 その方法のひとつが、破壊し殺し尽くし解析することとでもいうのだろうか? テオディツェはグレイに向け、無数のレギオンを放った。レギオンどもが放つレーザーは嵐のように、グレイを襲うのだ。
 そんな物を浴びてはたまらない。
「そんな攻撃は見えている」
 レーザーが放たれる直前、グレイは長大な『パワードシャープシューター』を構えたまま跳躍し、構えた。レーザーは虚しく石畳を焼き溶かしただけである。
 『スナイプスポッター』がレギオンどもと交差する。放たれた弾丸はドローンに取り付けられた『サテライトバウンサー』によって跳ね返り、レギオンどもの隙間を縫って、その奥にいるテオディツェの胸に食い込んだ。
 レーザーが襲い来るが、そのときにはすでにステルス迷彩を纏い、グレイはその場所にはいない。
 なおもレギオンどもの演算装置を用いてグレイを追おうとしたテオディツェではあったが、その足元に再び、紫電の弾丸が放たれた。
「この街の人たちのささやかな、でもかけがえのない日常は奪わせないよ」
 静かに、しかし強い決意とともに、クラウスは引き金を引く。

見下・七三子
レオン・ヤノフスキ

「指揮官まで女の子か」
 レーヘンゲレート『テオディツェ』の姿を認めたレオン・ヤノフスキ(ヴァンパイアハンターの成れの果て・h05801)が肩をすくめる。その顔をジッと見上げてくるのは見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)で、
「な、なんだ?」
 レオンはたじろいだ。
「レオンさん。さっきのメイドロボさんに、一瞬悪いこと考えてましたね? まさか、今度も」
 すると指摘されたことでかえって開き直れたものか、
「へへ、わりぃわりぃ。かわいい子を見るとつい、な!」
 と、レオンはあっけらかんと答える。
「もう。戦闘中だっていうのに、マイペースですね」
「戦いを忘れたわけじゃねぇから、許してくんな♪」
 だが、口では咎めることを言うようでも、レオンの常と変わらぬ様子は、かえって余計な肩の力を抜いてくれたのだ。七三子の顔には微笑みが浮かぶ。
「さぁ、他の連中も気張ってくれちゃいるが、俺たちふたりでもボコろうぜ!」
「はい!」
 ふたりは左右から、テオディツェを挟み込むように襲いかかる。
「せっかくなので、さっき買った銃、試してみようかな。昔、いちおう習いはしたんですけど……」
 七三子が懐から抜いたのは、先ほど手に入れた拳銃である。テオディツェが襲来する前に調整は終えてあるし、
「お、早速使ってみるかい?」
「撃ち方とか、おかしかったら教えてくださいね」
「ご要望とありゃ、手取り足取り教えてやんぜ~?」
 と、レオンの指南も受けてある。
「つっても、そう難しいもんじゃねぇよ。ちゃんと両手で構えて、しっかり狙えば……」
 それを思い出し、七三子は片目をつぶって照準を合わせる。
 こちらに気づいたテオディツェはレギオンどもを放った。レギオンは七三子を狙って襲いかかってくるが……。
「それ以上近づくと……蹴ります」
 その前に、銃声が響いた。テオディツェの脇腹を捉えた弾丸は激しく炸裂したが、
「……損傷、軽微。計算通り」
 テオディツェは気にもとめずに指揮棒を振り上げ、煙幕に紛れる七三子の姿をレギオンどもに探らせる。
 それらが放つレーザーを避けつつ、
「ヒビ、あれでよかったですか?」
 と、七三子は声を張り上げた。
「上出来だ! 煙幕で目隠しまでしてくれるたぁ、大した支援能力だぜ! さすが、元戦闘員ってか?」
「初心者に毛が生えた程度ですよ」
 謙遜する七三子。
「それよりも、レオンさんの格好いいお姿、期待してます!」
「おう、存分に期待してもらおうか!」
 煙幕を突っ切って、ショットガンを構えたレオンが一気に間合いを詰める。
 たしかに、損害は軽微。脇腹の装甲にはわずかにヒビが入っただけ。
「だが、同じところにこいつを喰らえば、どうかな?」
 犬歯をむき出しにして笑ったレオンが、脇腹に銃口を突きつけた。
「こいつは効くぜぇ?」
 スラッグ弾が、ヒビの入った装甲を粉々に粉砕する。弾丸は血属性のそれへと変じて、オイルの流れる敵の体内を暴れまわった。
「これ、は……ッ!」
 テオディツェはたまらず、膝をつく。

ヨシマサ・リヴィングストン
ソフィア・テルノーバ
水垣・シズク

「やは、り……計算がおかしい。√能力者が、不確定な要素となっている……排除せねば」
「いや、計算と合わないから実態の方に働きかけるって……あなたがたの理念と矛盾してません?」
 よろめきつつ立ち上がるも、変わらず脇腹から機械油を流し続けるレーヘンゲレート『テオディツェ』。その呟きに、水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)は呆れたように反論した。
「そのモデル化、根本的に間違ってるような気がするんですけど」
「あはは」
 するとヨシマサ・リヴィングストン(朝焼けと珈琲と、修理工・h01057)は「わかる」とばかりに笑い、
「シズクさん、たぶんあれは学者じゃなくて、強引なエンジニアの考え方ですね~。想定通りに動けば、最終的にはなんでもヨシ!
 ……ッてやつですよ」
「そうなんです? 完全機械へと到達せんとするような輩が、そんなのでいいんです?」
 釈然としないシズクではあったが、ここは学会ではないのだからと、それ以上のツッコミはやめておく。
 テオディツェは無数のレギオンを放ち、それどころではなかったからでもある。
「機能を停止しろ」
 おびただしいレーザーが襲いかかり、√能力者たちは慌ててそれを避けた。レーザーは石畳を剥がし噴水を破壊し、なんとかいう芸術家が設計したというオブジェを粉砕する。
「あのレギオンが、かなり厄介ね」
 コンクリートの細片と化したオブジェの陰から飛び出しつつ、ソフィア・テルノーバ(使命は人類防衛・h01917)は自分用に最適化されたレーザーサーベルを構える。
「ちょっと私に考えがあるから、そっちを先に終わらせるわ」
「なら、援護します」
 シズクの背後で、決戦型WZ『神楽』が立ち上がった。
 待て。シズクが搭乗していないのに、どうやって?
「イォドが起動させてくれているのであれば、話は早いですね」
 シズクなしで起動したそれは、彼女のAnkerである『イォド』が合体したものであった。故に、『神楽』と呼ぶのは適切ではない。機神『建御雷』と呼ぶべきであろう。
「イォド、出番です。そのままソフィアさんのフォローに回ってください」
 『建御雷』が機銃を構え、敵群に向けておびただしい銃弾を放った。その弾丸は、怪異に汚染されたスクラップである。レギオンどもが次々と火花を上げて墜落する。
「レギオン、変形。オムニス!」
 しかしテオディツェが指令を飛ばすと、残ったレギオンどもは青色に輝き始めた。そのまま人型に変形し、これまで以上の速さで戦場を飛ぶ。
 砲門の数は変形前の4倍はある。おびただしい数のレーザーが襲いかかり、『建御雷』はシズクをかばって立ちはだかった。
「く……これは、きついですね」
「お待たせ!」
 しかしソフィアが声を張り上げたのも、そのときである。
「大量生成の準備はできたわ! さぁ、作戦を始めましょう!」
 稼働した『SFAレーザービルダー・O9』が生成したのは、大量の小型機械群である。それらはオムニスどもの中に飛び込むと、軍隊アリが獲物に食らいつくように手当たり次第に破壊していく。オムニスどもはそれを狙ってくるが、もとより攻撃後は自爆するように設計されている。その爆発がさらに敵を傷つけた。
「主戦力を破壊すれば、攻撃は弱くなるはず。みんなで畳み掛けるわよ」
「了解っす~。相手にも相手の考えがあるんでしょうけど、まぁボクも、想定通りに動いてはやらないんですけどね!」
 ヨシマサは笑いながら、光線銃でオムニスどもを次々と撃破していく。
「的は大きい方が、当たりやすいですしね!」
「イォド、斬機刀を!」
 シズクが命じると、『建御雷』は背負うほどに巨大な剣を抜いた。
「対機械魔術がどこまで有効か、試してみましょう」
 それは十分に有効で、『建御雷』はオムニスどもを斬り捨てながら、テオディツェへと迫った。
「く……」
 首を振ったのは、なぜ自分の計算通りにいかないのかという困惑であろうか。
 それでもテオディツェは指揮棒を手に、立ち向かってきた。
「ちょっとあの指揮棒、厄介そうですね」
 ヨシマサが銃のストックをしっかりと肩に当てた。それは瞬く間に装甲撃砲装置へと変形していく。
「そこ、だね~」
 正確無比な狙撃は、テオディツェの手首に命中した。それは誘爆を招き、テオディツェの手首、肘、二の腕、そして肩までもが次々と爆発して吹き飛んだ。
「あ、あ、あ……!」

アリエル・スチュアート
品問・吟

「よぅし、あとは強敵を残すのみ!」
 レーヘンゲレート『テオディツェ』を見据えて力強くガッツポーズを見せた品問・吟(見習い尼僧兵・h06868)ではあったが、
「まぁ、いちばん大変なとこが残ってるという意味でもありますが!」
 と、警戒は怠らない。
 しかしテオディツェはすでに多数のレギオンと、自らの右腕を失っている。『完全数値化派閥』の長はしきりに首を傾げていた。明らかに、この苦戦に戸惑っていた。
「皆の力が合わさった結果ですね。そこに私たちの力を加えれば、きっと突破できるはず!
 そうですよねアリエルさん!」
「えぇ、そうね。
 さあ、行きなさい、小さき機械の妖精たち!」
 アリエルは大きく手を振って、ドローン『フェアリーズレギオン』たちを放った。
「く……!」
 敵も負けじと、レギオンどもを放つ。
 散らばるレギオンどもがレーザーを放ち、襲いかかってくる。
「こうしてレギオン戦をするのは、√能力者になってからは初めてね」
 アリエルは魔導槍を握りしめ、詠唱を開始した。高速で紡がれた魔法を放ってレギオンどもを退けつつ、妖精たちが飛び込む隙を作る。
 レーザーの弾幕が弱まった隙をついて、吟は尼僧服の裾を翻しながら突進した。
「私はウォーゾーンたちみたいに、計算とか作戦とかはちょっぴり苦手です。
 なので……」
 吟の赤い髪が、蛇のようにうねる。それはレギオンどもに絡みつき、締め上げた。
「やることは突撃あるのみッ! 思いっきりぶち当たります! 無謀なのは、承知の上です!」
 レギオンどもをなぎ倒しながら、テオディツェへと迫る吟。
「私を、倒せるものか……!」
 流れ出る機械油は止まらない。それでもテオディツェは指示を飛ばし、レギオンどもはまたしても青く輝き始めた。人型戦術兵器『オムニス』へと変形した敵群は、前に数倍する火砲でこちらを狙ってくる。
 アリエルは妖精たちを下げ、『フェアリーズフィールド』を展開してそれを防いだ。バリアを貫通したレーザーはなく、アリエルもドローン空母も健在である。
「オムニスには、警戒が必要ね」
「変形……なるほど、その手が」
「……なにが?」
 感心するようなAIの物言いに不穏なものを感じて、アリエルは眉を寄せる。
「いえ、こちらの話です。公爵がアンのために買ったパーツを悪用しようなど……考えてませんよ」
「それは、考えてるモノのセリフよね?」
「今は、問答している場合ではありませんよ」
 引っかかるものはあるが、一理はある。敵の砲門は、再びこちらを狙って輝きを増している。
「オムニスを減らして、テオディツェ本体に集中攻撃よ!」
「了解です」
 妖精たちは2体でペアを作りつつ1体の敵を囲むようにしてミサイルを放った。左右からミサイルを受けたオムニスの1体が爆ぜた。
 そして、ミサイルの1発はテオディツェの肩で炸裂した。機械油に引火し、肩口から炎が上がる。
「さぁ、行きますよッ!」
 吟が飛び込んだ。
「人間ごときが……ッ!」
 テオディツェは残った左腕で指揮棒を拾い上げ、打ち付ける。激しい痛みに、吟は顔をしかめた。鎖骨に、少なくともヒビくらいは入ったかもしれない。
 しかし吟は手を伸ばし、敵戦闘機械の腕を掴んだ。
 ただ掴んだばかりではない。その手のひらには『第二の口』が開いていた。
「うえぇ、美味しくない……ッ! お、思った通りの鉄の味と硬さ!」
 その口は機械の腕に喰らいつき、人間に擬態する軟性の樹脂も装甲も、その下の機械油のパイプや配線までも、噛みちぎっていた。嫌な金属の味を、吟は嫌でも感じた。
「でも、ここは根比べの時間です!」
 レギオンどもは、アリエルの妖精たちが撃墜してくれている。吟は口中に広がる金属の味に吐き気を覚えながらも、喰らい続けた。
 再び振り上げられた指揮棒が、吟の額を打つ。しかし、そこに力はまったくこもっていなかった。
 崩れ落ちる戦闘機械を引き剥がし、吟は「口」を拭った。
「守り抜きましたよ……!」

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挿絵イラスト