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海水浴にはまだちょっと早いぞ?

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「怪異が関係している事件の発生が見えました……恐れ入りますが、皆さんの力を貸してください」
 容貌は平凡だが、やや病的に白い肌が目立つ十六歳の男子、観王寺・透(人間(√EDEN)の霊能力者・h01836)が、やや口籠りながらではあるが、常になく改まった口調で告げる。
「事件が発生するのは、とある海浜地域です。夏場には海水浴場が開かれるようですが現在は主にサーファーの人たちが集っています。ところがここに凶暴化した鮫が多数出現して人々を襲います。そしてこの鮫たちは、どうやら凶悪なインビジブルの集合体『意馬心猿』に操られているようなのです」
 なぜ『意馬心猿』なのに馬や猿ではなく鮫を操るのかはわかりません、と、透は溜息混じりに告げる。
「急いで現地に駆けつければ、惨劇が起きる前に鮫を制することができます。凶暴化しているとはいえ普通の鮫ですから、√能力を使えば簡単に何とでもなるでしょう。容赦なく倒して漁業関係者に引き渡してもよし、呪縛を解いて逃がしてやるもよし、です。ただ、鮫が出現するのは昼間ですが、その夜に『意馬心猿』が海から現れて配下を倒された復讐をしようとします。そして『意馬心猿』を倒すと、今度はプラグマ直属怪人『キツネプラグマ』が激怒して襲ってきます。どうも『意馬心猿』に鮫を操らせていたのは『キツネプラグマ』らしいのですが、何でそんなことをしたのかはよくわかりません」
 本来『キツネプラグマ』というのは大都市をも一撃で消滅させる力を備えた戦略級怪人……の分身体という噂もある相当に強力な怪人なので、事件のスケールと黒幕の力が不似合いなのですが、出てきてしまうものは仕方ないとしか言いようがありません、と、透は再び溜息をつく。
「そういうわけで、黒幕が意外なほどの大物のため、かなりの危険が予想されますが、それでも惨劇を放置するわけにはいきません。どうか充分に気をつけて、よろしく対処をお願いします」
 そう言って、透は深々と頭を下げた。

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第1章 冒険 『恐怖のサメ!』


惟吹・悠疾
カシム・ディーン
花丘・ありす

「……意外に大勢、てんでんばらばらに海に入ってるんだな」
 星詠みが指定した海岸に到着した人間(√EDEN)の妖怪探偵 × フリークスバスター惟吹・悠疾 (レベル20 男)は、かなり大勢のサーファーたちが結構な沖合まで泳いで行き波に乗って戻ってくるのを見やって、少々思案顔で唸る。
「まだ鮫は出てきていないようだが……」
 できれば先に陸へ逃げてもらいたいが、さて、どう誘導するかな、と、悠疾が呟いた時。
「わはははははははは☆わはははははははは☆わはははははははは☆ わはははははははは☆」
「な、なんだ!? なんだ!?」
「おい! あれ! 鮫じゃないか!?」
 いきなり沖合で誰か(声からすると女の子らしいが)が途方もない大笑いを始め、そしてどかーん、と大きな鮫が海面から宙に飛び出す。どうやら海中から何かに突き上げられているらしいが、次から次から出てくる数が一匹や二匹ではない。
「わはははははははは☆わはははははははは☆わはははははははは☆ わはははははははは☆」
「おめーは何をやっていやがるんだぁぁぁぁ!?」
 謎の笑い声と宙に突き上げられる多数の鮫に仰天したサーファーたちが波に乗る間もなく陸へと泳ぎ逃げる中、人間(√ドラゴンファンタジー)の戦線工兵 × |古代語魔術師《ブラックウィザード》カシム・ディーン (レベル20 男)が憤然とした声で叫びながら沖へと向かう。
(「……√能力者か? なんか聞いたことのある声のような気もするが……」)
 声には出さずに呟きながら悠疾はカシムの後を追う。実はこの二人は先日の依頼で出会っているのだが、カシムが界導神機メルシーこと『メルクリウス』に搭乗していたので悠疾は|搭乗者《カシム》の顔を見ていない。
 そして沖合で、悠疾とカシムは銀髪の美少女が大声で笑いながら鮫を宙に突き飛ばしているという異様(?)な光景に出会う。海中と海上を激しく動き回っている(更には鮫の陰になる)のでよくわからないが、どうやら少女は水着も着ていない素裸のようだ。
(「な、何なんだ、この子は? √能力者じゃないよな?」)
 当惑する悠疾を尻目に、カシムは銀髪美少女を怒鳴りつける。
「何笑ってるんだ!? 何で素っ裸なんだ!? 何で鮫を宙に飛ばしてるんだ!? おいっ!?」
「それはもう今のメルシーはメルシーVだぞ☆伝説の予言書に記されているのだぞ☆」
 銀髪全裸美少女メルシーV(?)は平然として応じ、カシムは対照的に険しい表情で唸る。
「訳わからねー事言ってるんじゃねーよ!? とりあえず服は着ておけ!?」
「服を着るなら浜に上がって網を破かないといけないのだぞ☆それは漁民さんの迷惑なのだぞ☆それに、そこの人は女の子の服を吹っ飛ばす痴れ者さんだから意味ないのだぞ☆」
 メルシーの返答を受け、カシムは初めて悠疾がいることに気づいたらしく別人のような丁寧な口調で告げる。
「おや、貴方はマガツヘビ討伐の時の……今度は鮫退治に来たのですか? それともまさか女の子の水着をふっ飛ばしに……」
「違う! 違う! 別に俺は常時おっ……あの√能力を使ってるわけじゃない!」
 もしかして、この子はあの界導神機が変身してるのか、と複雑な表情になりながらも、悠疾は周囲を見回してカシムに告げる。
「目的はあくまで鮫退治だ。そっちの子が力任せに鮫をふっ飛ばしてるみたいだけど、それで鮫が大人しくなるのか?」
「ならないのだぞ☆これはノルマでやってるのだぞ☆伝説の予言書の記述に従ってるのだぞ☆」
 メルシーがあっさり答え、それじゃダメじゃん、と、悠疾は額を抑えて唸る。するとそこへ水着姿の少女、人間(√EDEN)の護霊「フレンズ・オブ・ワンダーランド」 × フレンズ・アクセプター花丘・ありす (レベル16 女)がやってくる。
「サメさんいっぱいなのーっ! こんないっぱい暴れたらたいへんなのーっ!」
 極めて真っ当な危機感を抱いて、ありすは√能力「|気狂いのお茶会《ティーパーティフォーム》」を発動。お茶会の招待状をぴゅんぴゅんと飛ばす。本来は相手を指定して飛ばすことができるはずなのだが、多くの鮫を素早く止めようと意気込んだありすは、うっかり√能力者たちにまで招待状を出してしまう。
「あー、ごめんねーっ! みんなはよけてねーっ! お茶会呼ばれると動けなくなっちゃうからーっ!」
「な、なんですか、それは!?」
 慌てた声を出しながらもカシムが危うく避け、悠疾とメルシーもそれぞれ飛んでくる招待状を避ける。
 そして単純な打撃ではなかなか参らなかった鮫たちだが、お茶会の招待状を当てられるとてきめんに行動不能になって動けなくなる。さすが√能力は伊達じゃないな、と、悠疾は感心する。
「それで、この鮫、どうするんだ?」
「お茶会で呪縛とけてるかなー? とけてるならサメさん逃がしてあげたいのー」
 ありすが告げ、カシムがうなずく。
「それでは行動不能を解いてみてください。襲ってくるようなら雷撃弾で痺れさせます。逃げるようなら逃がしましょう」
「わかったのー。お茶会終わりなのっ♪」
 ありすが行動不能を解くと、鮫たちはそのまま一目散という感じで沖の方へと逃げていく。
「……無益な殺生はしないで済んだな」
 悠疾が呟くとメルシーが応じる。
「予言書にも書いてあるのだぞ☆メルシーVは相手を叩きのめすだけで殺さないのだぞ☆」
「……それで、あんなまだるっこしいことやってやがったのか」
 再び乱暴な口調に戻ってカシムが呟いた。

 

第2章 ボス戦 『意馬心猿』


 とある海岸の沖合にいきなり出現した凶暴な鮫の大群が、大笑いする裸の銀髪美少女と少女のお茶会招待状によってあっさり(?)撃退された、その夜。
 ちょうど鮫が迎撃されたあたりの沖合に、何だかもやもやとした巨大で奇怪な亡霊のような存在が出現した。
 朧気で幻覚のようにも見える「ソレ」は、しかし、実在の脅威であると主張するかのように、聞く者(一般人)の背筋を凍らせるような不気味な声で叫ぶ。
「イーバー!……シーン!……エーン!」
 なるほど、だから見たところ馬でも猿でもないのに「意馬心猿」と呼ばれるのか。(納得)
 ちなみにトナカイは「トナー!」とは鳴きません。(意味不明)
 
カシム・ディーン
ヘカテイア・オリュンポス
花丘・ありす
惟吹・悠疾

「イーバー! シーン! エーン!」
 深夜の海岸に奇怪な声が響き渡る。
 一般人なら耳にしただけで昏倒しかねない禍々しい声だが、凶事の予知を受けてこの地に赴いてきた√能力者たちにとっては、倒すべき敵の出現を前もって知らせる声となる。
「でも! だからってそんな呼び方しないと思うのっ!」
 なんか納得がいかないらしく、人間(√EDEN)の護霊「フレンズ・オブ・ワンダーランド」 × フレンズ・アクセプター花丘・ありす (レベル17 女)が叫ぶ。
 一方、銀髪美少女(さすがに現在は全裸ではなく何だか神官っぽい服を着ているが、なぜかやたらにカラフルなパラソルをさしている)に変身した界導神機メルシーこと『メルクリウス』を同道する人間(√ドラゴンファンタジー)の戦線工兵 × |古代語魔術師《ブラックウィザード》カシム・ディーン (レベル20 男)は、|界導神機《メルシー》相手限定の乱暴な口調で会話をしている。
「いやなんだよ此奴ら!? ポケ〇ンかよ! ウー〇ーイーツかよ!?」
「ほんと良く分からないメル☆いつもより余計に回っておりますメル☆」
 パラソルをくるくる回しながら平然と応じる|銀髪美少女《メルシー》にカシムは吐き捨てるような調子で告げる。
「おめーも便乗してんじゃねーよ!?」
(「……いったい何が何にどう便乗してるんだ? 昼間は伝説の予言書とか言ってたが……」)
 沖合に現れた怪異『意馬心猿』よりも隣の|二人組《カシム&メルシー》に気を取られつつ人間(√EDEN)の妖怪探偵 × フリークスバスター惟吹・悠疾 (レベル20 男)が声には出さずに呟く。
(「どうも気になるんだよな、この二人……特に、あの女の子のセリフ……どっかで聞いたことがあるような、ないような……」)
 俺自身の記憶じゃないかもしれないが、と、悠疾は内心でいくつもの記憶を探るが、そこへ「我を無視するなあああああ」というような感じで『意馬心猿』の声が轟く。
「イーバー! シーン! エーン!」
(「意馬心猿……確か仏教で煩悩に囚われて落ち着かない有様を現す言葉だったな……そう言われると、この連中の前で煩悩全開の√能力を披露しちまったことのある身としてはややこしいが……」)
 また痴れ者呼ばわりされるかな、と、悠疾は|銀髪美少女《メルシー》をちらりと横目で見るが、|界導神機《メルシー》は意にも介さず|搭乗者《カシム》相手に目一杯意味深(?)な提言をする。
「ご主人サマー☆此処は一つメルシー達神機シリーズが全盛期だった頃に…ル・ファなんとかと一緒に戦ってぎりぎり倒した恐ろしい魔獣王の力を使おうよー☆」
「なんつー不吉な事言ってるんだおめーはぁ!?」
 カシムが叫び、不吉なのか? と悠疾は耳をそばだてる。ありすだけは真面目に沖の『意馬心猿』を見据えているが、まだ行動に出るには遠いようだ。
 そして|界導神機《メルシー》は平然と言葉を続ける。
「因みにぎりぎり倒したと言っても魔獣王はそのままあっさり逃走したぞ☆こっちには追う余力がなくてぼーぜんと見逃したぞ☆」
「全然倒してねーじゃねーかぼけぇ!?」
 腹立たしげに叫んだカシムだが、ちらりと沖合に『意馬心猿』に目を向け、一転して低い声になって告げる。
「…仕方ねぇ…メルシー…呼べ」
「分かったぞご主人サマ☆来たれ叡智と創造を誇る鋼の魔獣もといメタルちゃん☆君の出番だぞ☆」
 どうにも軽い調子で|界導神機《メルシー》が言い放ち、√能力「|模倣超越魔獣召喚機構『鋼』《メタルチャンショウカン》」を発動する。
 すると。
「やあ。メタルヴァルガーくんだよ。通称は鋼の魔獣じゃなくて鉱の魔獣だけど、音は同じだから気にしないよ」
 どうにも気の抜けるイケボで告げながら|銀髪美少女《メルシー》の掌に乗るような大きさの「ワイヤーで形作られた目玉の魔獣」がひょこんと出現する。
「……何だこのワイヤー目玉?」
 目が点になったカシムが訊ねると|銀髪美少女《メルシー》は平然とした調子で答える。
「これは魔獣王の四天王の能力を模倣した魔獣だぞ☆今のメルシー達だとこんなだけど本来はもっと凄いかもだぞ☆」
「本来というか、僕らはもともと「力の化身」だからね。引き出す力の大きさによって、大きくも小さくもなるよ」
 淡々とした口調で「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」が説明する。
「そして僕は「変成」を司る魔獣だから、力の大きさはあまり必要としないんだよ。この大きさでも、それなりにお役に立つよ」
「変成の魔獣? 創造じゃないのか?」
 なぜか自分でもよくわからない衝動を感じて悠疾が訊ねると「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」は淡々と応じる。
「何もないところから存在を創造するのは大変なことなんだ。僕の力の根源|魔獣王《オリジナルヴァルガー》ですら難しい。僕にできるのは、ある存在の総エネルギー領を変えることなく別の存在に組み変えることなんだ。そういうわけで、ええと、あそこにいる霊体を他者に影響を与えることが少ない存在に変えればいいのかな?」
「……ええ、その通りです。お願いします」
 カシムが丁寧な口調になって告げ|銀髪美少女《メルシー》が「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」を掌に乗せて高々と掲げる。すると「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」から沖合の『意馬心猿』に向かって一条の光が飛び、そして『意馬心猿』の声と動きがぴたりと止まる。
「……石化したのか?」
 カシムが呟くと「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」が応じる。
「惜しい。石化ではなく結晶化だよ。この状態ではあの霊体は何の能力も発揮できないけど、何かのはずみで結晶化が解ける可能性もあるし、あんな|場所《ところ》にあんな|存在《もの》があると邪魔だよね。|現在《いま》の僕には|物質《もの》を力任せに破壊することはできないけれど、君たちにとってはそれほどの難事ではないと思うよ」
「わかったなの! なんかわかんないけど倒さないとなのはなんかわかった! なのっ!」
 半分以上あっけにとられて結晶化した『意馬心猿』を見ていたありすが叫び、√能力「|トランプの兵隊《プレイングカーズ》」を発動。事前に招集しておいた12体のフレンズ「トランプ兵」を出陣させる。
「兵隊さん、おねがいなのっ!」
 ありすが命じる(?)と「A(エース)」から「K(キング)」までのトランプカードのうち「Q(クイーン)」を欠いた12体(ありすが「Q(クイーン)」という見立てらしい)のうち「K(キング)」と「J(ジャック)」がありすの護衛に残り、10体が結晶化した『意馬心猿』へと攻撃を仕掛ける。結晶化した『意馬心猿』は「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」が告げた通り反撃どころか身動き一つしないが、かなりの強度があるようで「トランプ兵」が攻撃してもなかなか砕けない。
 そこへカシムが丁寧な口調で訊ねる。
「ありすさん、僕も攻撃します。味方には属性付与ができるのですが何がいいですか?」
「ありがとなのー! 「火」以外なら何でもいいのー!」
 ありすが叫び、カシムはうなずいて√能力「|竜眼魔弾《ドラゴンアイズバレット》」を発動する。
「光属性…は結晶体とは相性が悪いか? ならば思い切って闇属性付与だ。万物の根源よ…竜眼よ…我が呼びかけに応え…万物を司りし竜の力を此処に示せ…っ…!」
 気合を籠めてカシムが闇属性の魔力弾丸を放つ。弾丸は結晶化した『意馬心猿』の胸部(?)を大きく抉り、同時に「トランプ兵」たちの攻撃に闇属性が加わって威力を増す。しかしそれでも結晶化『意馬心猿』はなかなか崩れたり倒れたりする気配を見せない。
「どの程度助力になるかわからんが……」
 呟いて悠疾が√能力「|火力全壊《デモリッションブラスト》」を発動。「トランプ兵」を巻き込まないように注意しながら「デス・ホーラー」の機関銃、ミサイル、バズーカで連続攻撃を仕掛ける。攻撃を受けた『意馬心猿』は部分的には崩れたり欠けたりするが、それでも大岩の表面を削っているような感じで、なかなか埒が明かない。
 すると、その時。
「おやおや、これは何かとても物騒な気配がするみたいだね。僕は退散させてもらうよ。さやうなら」
 不意に「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」が告げて、どろんぱっと姿を消す。同時に、天空から声が響き渡る。
「……人類に対する脅威を感知しました。これより殲滅します」
「……この声は、ヘカたん? うわ、ヤバいぞ☆」
 珍しく(?)狼狽した声を出し|銀髪美少女《メルシー》も(たぶん逃げたのではなくステルス機構を使ったのだろうが)忽然と姿を消す。そして天空から身長5mの機神、ベルセルクマシンの決戦型WZ「三界神機」 × ゴーストトーカー ヘカテイア・オリュンポス (レベル17 女)が姿を現す。
「………私と似た気配を感じますが…気のせいでしょうか」
 呟いてヘカテイアは周囲を見回し、そして結晶化した『意馬心猿』へと視線を向ける。
「……これが人類に対する脅威? 感知した存在とは力の水準が違うようですが……いや、この後ろに本物の脅威があるのでしょうか? いずれにしても殲滅いたします」
「わっ! 兵隊さん、下がるの!」
 何が起こるのかよくわからないが近くにいたらきっと巻き込まれる、と直観し、ありすが「トランプ兵」たちに後退を命じる。
 そしてヘカテイアは「トランプ兵」の後退に気づいているのかいないのかよくわからないが、√能力「|重力戦闘機構『十字路の神』《ヘカテグラビティアーツ》」を発動する。
「グラビティフィールド展開…行かせていただきます」
 丁寧だが凄味に満ちた口調で告げ、ヘカテイアは「超重力剣」を構える。
「記憶の薄い私ですが…それでも判っている事はあります。この私は知的な戦闘を好んでいた事」
 告げながらヘカテイアは「超重力剣」をぶん回し、斬るというよりは叩きつける、殴りつける感じで、結晶化した『意馬心猿』を一方的に叩きのめす。
「基本的にはエレガントに戦う事を心掛けていた事」
 そして、いくつかの結晶塊と化した『意馬心猿』を空いている方の手で掴み、叩きつけ、握り潰し、踏みつける。
「之でもお姫様の如く優雅だった気がしますね? オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラアオラオラオラオラァ!!」
 剣も拳も「超重力」を帯びているからなのだろうが、ヘカテイアは堅固なことだけは間違いなかった結晶化『意馬心猿』を文字通り力任せに粉砕し|微細片《かけら》すら残さず海に沈め風に飛ばす。
 その凄まじいとしか言いようのない戦い(?)っぷりを見やって、悠疾は声には出さずに呟いた。
(「……う~ん…俺はどうにもキャラが薄いような気がしてきた…」)  

第3章 ボス戦 『キツネプラグマ』


 怪異『意馬心猿』が無事(?)に消え去った直後。
 安堵する間もなく、夜の海にまたも奇怪な声が響く。
「おのれ、貴様ら! |妾《わらわ》が長年にわたって適当に放置……いやいや、多大な期待を籠めて|育成し《そだて》ておったインビジブル集積体を、よくも雲散霧消させてくれたな! その報い、思い知らせてくれようぞ!」
カシム・ディーン
ヘカテイア・オリュンポス
惟吹・悠疾

(「……あ~……普段は大して気にもしていないものでも、誰かに取られたりするのは気に入らないってことね…」)
 夜の海上に浮遊するような状態で姿を現したプラグマ直属怪人『キツネプラグマ』の姿を見据え人間(√EDEN)の妖怪探偵 × フリークスバスター惟吹・悠疾 (レベル20 男)が声には出さずに呟く。
(「……ここで下手に|無限の敢行《アンリミテッドオッパイダイブワークス》を使うとまた色々言われたり、碌な結果にならないような気がするな…」)
 声には出さないまま続け、悠疾は人間(√ドラゴンファンタジー)の戦線工兵 × |古代語魔術師《ブラックウィザード》カシム・ディーン (レベル23 男)と身長5mの機神、ベルセルクマシンの決戦型WZ「三界神機」 × ゴーストトーカー ヘカテイア・オリュンポス (レベル18 女)の方をちらりと見やる。
 だが、その瞬間、悠疾は決断した。常識的(?)に行動していたら彼らに比べてキャラが薄い(?)自分は単なる傍観者とか解説役になってしまうかもしれない。それは、断じて断る!
(「だが使う! 問題なのはやるかやらないかであって、結果がどうなるかなんて関係ない!」)
 すべての懸念(と理性?)を思い切りよく投げ捨て、悠疾は敢えて声に出して言い放つ。
「俺の道はおっぱいダイブと共にある!」
「え?」
 身長5mの機神ヘカテイアが初めて悠疾の存在に気がついたような様子で怪訝そうな声を出すが、悠疾は委細構わず√能力「|無限の敢行《アンリミテッドオッパイダイブワークス》」を発動。何故か都合よく女性の服だけを消し飛ばす謎のブレスを放つ無敵の|煩悩形態《おっぱいダイブモード》に変身し『キツネプラグマ』に向かって自由落下するような勢いで空中突進する。
「おっぱい・ダイーブ!」
「なななななななな、なんじゃーっ!?」
 悠疾が突進してくると同時に謎のブレスで服が吹っ飛び、一糸まとわぬ全裸になった『キツネプラグマ』が狼狽した叫びをあげる。そして次の瞬間、そのバストめがけて悠疾が全力で飛び込む。
「こ、この、痴れ者がーっ!」
 羞恥と憤怒で顔を真っ赤に染めた『キツネプラグマ』はどっかで聞いたような叫びとともに手荒く悠疾を突き飛ばし、同時に√能力「リザレクション・スーパーヴィランズ」を発動する。12体の再生プラグマ怪人が出現し痴れ者を袋叩きにしようとするが|悠疾《痴れ者》は煩悩無敵状態(笑)なのでまったくダメージを受けない。それどころか『キツネプラグマ』の趣味なのか再生怪人の大半が女性形態だったため謎ブレスで服をふっ飛ばされて悲鳴をあげて後退する。
「な、なんですか、あの狂態は……?」
 ヘカテイアが唖然とした声で唸り、実は女性が大好きなカシムはなぜかステルス機能で姿を消している銀髪美少女形態の界導神機メルクリウスことメルシーに囁く。
「おい、俺達も痴れ者にーちゃんに混ざって突撃するぞ。あわよくば都合良く裸になってる狐のおねーさんや怪人の女の子をかっさらって、美味しくいただいちまおう」
「それは大変魅力的なてーあんなのだけど☆ヘカテちゃんの前でやったら本気でヤバいのだぞ☆」
 メルシーがひそひそと小声で応じ、カシムは眉を寄せる。
「ヘカテちゃん? 誰だよ!?」
「そこにいる三界神機で、メルシーの元|彼女《カノ》だぞ♥」
 |界導神機《メルシー》の返答にカシムの目が点になる。
「元|彼女《カノ》!? |神機《おまえら》性別あるのかよ!?」
「メルシーはないけど☆ヘカテちゃんは女の子なのだぞ☆」
 ちなみに|界導神機《メルシー》は自由に生やせるぞ☆と声が告げ、サイテーじゃねーか、とカシムは溜息をつく。
 そして|界導神機《メルシー》は更にサイテーな話を続ける。
「酷いんだぞ☆メルシーが七股して後三股ぐらい追加してもいいよね☆って聞いたら☆なぜかヘカテちゃん怒っちゃってブラックホールキャノンで神殿ごと潰されそうになったぞ☆」
「……それ、てめーの自業自得じゃねぇか!?」
 だけど、そういう|事情《こと》なら確かに|界導神機《メルシー》の存在知られたら|危険《ヤバい》かな、とカシムが唸った瞬間。
 他者には聞こえないはずのカシムと|界導神機《メルシー》の会話を聞きつけたか、あるいは神機の直観(?)か。|三界神機《ヘカテイア》がいきなり裏返った声を出す。
「メ、メルクリウスぅぅぅ!? なんで貴方がこんなところに居るんですか!?」
「うわぁ☆バレた☆こうなったら逃げるが勝ちなのだぞ☆」
 いっそ潔く(?)説明も弁解も一切せず、|界導神機《メルシー》は|搭乗者《カシム》もろともその場から急速離脱する。すると当然ながら|三界神機《ヘカテイア》は凄い声を出しながら急速追尾する。
「待ちなさい! メルクリウス! ここで会ったが百年目、今度こそ我が恨みと怒りを全力で叩きつけ、貴方を叩き潰します!」
「ちょ、ちょっと待って、冷静になってください! 貴方は人類に対する脅威を殲滅しに来たんでしょう? それって、あの狐プラグマ怪人じゃないんですか?」
 凄まじい勢いで迫ってくる|三界神機《ヘカテイア》をなだめようとカシムは懸命に声を張る。しかし|三界神機《ヘカテイア》は猛然と言い返す。
「あんな|小物怪人《キツネ》は痴れ者にでも任せておけばよいのです! 思慮なし自制なし節操なしの|界導神機《メルクリウス》こそが人類に対する真の脅威です!」
「わー☆酷いぞ☆そこまで言う?」
 よせばいいのに|界導神機《メルシー》が不服そうに応じ|三界神機《ヘカテイア》はますます猛り立つ。
「そこまで言うとは、いったいどの口が言いますか! 二度と減らず口が叩けないよう、あの魔獣王との闘いで鹵獲した能力を使って貴方を完全滅壊します! 来たれ破壊を司りし闇の獣。我が身に宿りその権能を示しなさい!」
「うわあ☆これはさすがにシャレにならないぞ☆メタルちゃん、なんとかしてー☆」
 |三界神機《ヘカテイア》が√能力「|模倣超越魔獣召喚機構『闇』《ハカイヲツカサドリシケモノ》」を|界導神機《メルシー》が「|模倣超越魔獣召喚機構『鉱』《メタルチャンショウカン》」を同時発動し、神機同士の痴話喧嘩に更に模倣体とはいえ|魔獣《ヴァルガー》四天王二体が加わるという、まさに破天荒もいい加減にしろという事態となる。
「やれやれ、やっぱり呼ばれてしまいましたか」
 逃げられるものなら逃げたかったのですけどねえ、と、召喚された手乗りサイズの「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」が溜息混じりに呟き、どうにも気の抜けるイケボで|闇魔獣《ダークヴァルガー》と一体化して超重力場を纏う|三界神機《ヘカテイア》に向かって訊ねる。
「|闇魔獣《ダークヴァルガー》の力を支配する方にお訊ねします。貴方の望みは何ですか?」
「はい! 軽薄不遜無反省な|界導神機《メルクリウス》に天誅を加えて叩き潰し、自分の罪深さを思い知らせることです!」
 間髪を入れずに|三界神機《ヘカテイア》が叫び返し、それに対して「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」が無雑作に応じる。
「承知いたしました。では、その望みがかなえられるよう微力ながら助力いたします」
「え?」
 一瞬当惑した声を出した|界導神機《メルシー》を「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」は結晶に包み、ぽいと|三界神機《ヘカテイア》の超重力場へと放り込む。
「貴方の力が勝れば|界導神機《メルクリウス》を圧壊できるでしょう。僕にできるのはここまでです」
「助力、感謝します!」
 まさかの展開に|三界神機《ヘカテイア》が感動した声を出した瞬間、「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」は|三界神機《ヘカテイア》を超重力場もろとも結晶に包み、ぽんとどこかへ移送する。
「空間移送は得意ではないのですが。まあ、どうにかなったようです」
「だ、だけど、|界導神機《メルシー》は大丈夫なんですか!?」
 呆然としていたカシムが訊ねると「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」は淡々と応じる。
「|界導神機《メルクリウス》と|三界神機《ヘカテイア》は互角ですし|闇魔獣《ダークヴァルガー》の重力破壊は|鉱魔獣《ぼく》が付与した抗重力結晶で防げます。よほどのヘマをしない限り|界導神機《メルクリウス》は|三界神機《ヘカテイア》に潰されずに逃げ出せるでしょうし、たとえヘマをして潰されたとしてもほとんど瞬時に再生できるはずです。だから|界導神機《メルクリウス》に関してはほとんど心配いりません。心配なのは|搭乗者《あなた》や周囲の世界が巻き込まれて潰れることなんです……|超小型鉱魔獣《ぼく》を含めてね」
「はあ……」
 そういうものなのか、と、カシムは「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」を見やる。そして「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」は淡々と言葉を続ける。
「|三界神機《ヘカテイア》が本来どんな性格なのか知りませんが|闇魔獣《ダークヴァルガー》の力を得たためでしょう。理不尽な破壊衝動が強くなっているようです。それでも話ができるだけの理性があったから助かりましたが、衝動的な破壊の化身になってしまったら手のつけようがありません……闇魔獣《ダークヴァルガー》自体の力の大きさは、実は|超小型鉱魔獣《ぼく》と大差ないんですが|三界神機《ヘカテイア》のもともとの力が大きいですからねえ」
 今回は何とか舌先三寸で丸め込んで影響の少ない空間に移送できましたが、いつも上手くいくとは限りません、と「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」はどうにも頼りないことを言う。
「さて……そうこう言っているうちに、向こうもけりがつきそうですね……でも、配下の再生怪人が逃げたらまずいですか」
 そう言って「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」はカシムとともに移動し、尽きることなき煩悩力で『キツネプラグマ』及び配下の再生プラグマ怪人たちと延々戦い続けている悠疾の方へと向かう。
「どうします? 一、二体、お楽しみのため確保しておきますか?」
「……いえ、今回はやめときます」
 自分でも意外に思いながらカシムは「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」の厚意(?)を謝辞する。どうも|界導神機《メルシー》のことが気がかりでその気になれないようだ。
「……では」
 そう言って「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」は『キツネプラグマ』と配下の再生プラグマ怪人たちを無雑作に結晶化する。
「ひっ……」
「あ、ありゃ……」
 瞬時に結晶化した『キツネプラグマ』に悠疾はそのまま|体当たり《ダイブ》をしてしまい、一撃で粉々に砕いてしまう。それに応じたのか単なる偶然か、結晶化した再生プラグマ怪人たちも次々に砕け散る。
「ずいぶんと脆いものですね…まあ、既にエネルギー量が枯渇寸前だったようですが」
 淡々とした口調で「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」は言う。
「それに対して、あちらの方は大したものです。まだまだ延々戦えそうなエネルギーがありますよ」
「……まあ、あの人は痴れ者ですから」
 何だかすいぶん疲れたような表情で、カシムは「|超小型鉱魔獣《ミニマムメタルヴァルガー》」に告げた。 

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