シナリオ

勝負だっ! 連休絶許明王!

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード

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●連休だああああっ!!
 日本中が待ちに待った大型連休がやってきた。
 家族連れ、友人グループ、恋人同士。多くの人で街はどこもかしこも大賑わい。
 それはこの大遊園地『ウィズミーランド』も同じようで、園内は連休を満喫するたくさんの笑顔で溢れていた。
 しかし、そんな幸せな休日に魔の手が忍び寄る。
「何が連休だよ……。やれ旅行だイベントだと浮かれやがって。それなのに俺は毎日仕事仕事仕事仕事……。お前らがのうのうと遊んでいる間、誰が社会を回してると思ってんだ」
 恨み節を吐きながらウィズミーランドを遠目に見下ろす男。
 男の両手にはそれぞれ1枚ずつカードが握られていた。
「他の日に代休あるでしょって言ってくる奴は特に許さん! ねえよ! 代わりの連休なんか! ねえよっっ!!」
 血走った目で叫び散らかす男は、そのまま2枚のカードを重ね合わせるように柏木を打つ。
 するとその体は星々の光に包まれ、見る見る内に異形の物へと変わっていく。
 大弓を持ち憤怒相を浮かべる怪人――『|射手座《サジタリウス》不動明王シデレウス』へと変身したその男は、番えられた矢をウィズミーランドの空へと向けた。
「だから全部台無しにしてやる。我こそは“連休絶許明王”。連休を妬み娯楽を嫉む者なり!!」
 高らかな名乗りと共に撃ち出される弓矢。風を切り裂きながらウィズミーランドの上空へと駆ける矢は、そこでエネルギーの帯となって分散しながら落下し、園内の各所に突き刺さった。
「我の溜まりに溜まった『|悠久《ゆうきゅう》』を矢に込めた。あと1時間で我の矢は|悠久峡擧《ゆうきゅうかいあげ》し、この遊園地は地獄の業火に包まれるのだ。フフフ……ンーフフフハハハーン!」
 恐らくは時限爆弾的な物をウィズミーランド内の各所にばらまいたであろう連休絶許明王。
 矢の設置が上手くいった事を確認した連休絶許明王は、満足気に高笑いを浮かべながら変身を解いた。
「その時を楽しみ待っているぞ! 持ち帰りの仕事でもしながらなぁ!!」
 そして傍らに置いていたビジネスバッグを手に、手近な喫茶店へと入っていくのだった。

●仕事だああああっ!!
「七楽ラーメン大盛りと唐揚げ定食お待たせしましたー! あ、皆さん来てくれたんですね! 今回の事件の詳細はそこの紙に書いてあるので読んどいてください! はーい少々お待ちくださいませー!」
 招集を受けた√能力者を出迎えたのは星詠みの太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)と店内にごった返すお客さん達。
 彼女が営む宿屋兼食堂もどうやら連休の煽りを受けて大忙しなようだ。
 そして集められた君たちが通されたテーブルの上には、なのかが予知した事件の大まかな概要が書き記されていた。

 曰く、今回事件が起こるのは√マスクドヒーローの人気遊園地『ウィズミーランド』。
 ランドマークである旧デレラ城を中心に、各所にイッツ・ザ・スモーレストワールド、ビッグワンダーマウンテンなど有名アトラクションが立ち並ぶ、√マスクドヒーロー出身の者ならば誰もが知る遊園地だ。
 そして現れた敵はシデレウスカードにより暴走した一般人。
 シデレウスカードとは、怪人ドロッサス・タウラスが市井にばらまいた変身の力を宿すカードのことだ。多くのカードアクセプターが持つ『レオペルセウス』がその代表例と言えよう。
 一人の人間のもとに『黄道十二星座』と『英雄』が描かれた2枚のカードが揃いし時、その所有者に絶大な力をもたらすと言われているが、力を正しく使いこなせるのは√能力者のみ。
 一般人が所持してしまうと、多くの場合その凄まじさ故に精神に異常をきたしてしまうという人の手には過ぎた代物である。
 そして今回、シデレウスカードの魔の誘惑に堕ちてしまった男が手にしているのは|射手座《サジタリウス》と不動明王のカード。
 彼は不動明王の堕落を罰する怒りの力を、射手座の力で園内各所に撃ち込み、一斉起爆しようとしているのだ。
 そしてその行動の根本には、大型連休を楽しむ者たちへの嫉妬が渦巻いているという。

「ふう、一段落……お待たせしました!」
 と、ここでようやく一般客を捌き切ったなのかが君たちの元に合流した。
 手にした麦茶と氷の入ったグラスをテーブルに配りながら、なのかは報告書から説明を引き継ぐ。
「そいつは自分の事をシデレウス怪人名ではなく連休絶許明王と名乗ってるようなんです。いくら自分が連休を取ることが出来ないからって八つ当たりも良いところですよね! そんなの私だって連休取れるものなら取りたいですもん! それにハッピーな大型連休を台無しにするなんて許せない!」
 怒り心頭といった様子で氷入り麦茶をごくごくと飲み下すなのか。
「という事で、まず皆さんには遊園地に散った次元爆発式の矢を見つけて破壊してもらいたいんです。連休絶許明王はなるべく多くの人を爆発に巻き込みたいでしょうから、爆発する矢が撃ち込まれた場所はおそらく人気のアトラクションの近く、もしくはアトラクションの中だと思われます」
 だが一口に園内といっても、ウィズミーランドの敷地面積は広大だ。
 一度の行動で探すことが出来る場所は1つ。どれだけ効率的な探し方をしたとしても回れるのは2つのアトラクションまでだろう。
「そして全ての矢を破壊できたら、状況を確認しに来た連休絶許明王と対面することが出来るはずです。相手は一般人といえど、今はシデレウスカードで暴走してしまった怪人。悪いことしちゃったお仕置きってことで容赦なくメッ! てしちゃってくださいね! あ、ランドのお土産はクランチチョコでお願いします!」
 そして、なのかは息巻いて君たちを送り出す。
 幸せな連休を守るため、戦え√能力者!

マスターより

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第1章 冒険 『仕掛けられた罠を解け』


百目鬼・天巫

 怪人出現の報せを受け、ウィズミーランドに一番乗りで駆けつけたのは百目鬼・天巫(真眼怪人「サイクロプス」・h02219)。
 彼女の脳裏によぎるのは今回の敵であるサジタリウス不動明王シデレウス、もとい連休絶許明王のことだ。
「……連休絶許明王………鳥じゃないんスね……」
 無意識に口をついた言葉。
 その名を聞き、言葉にする度に脳裏に何かがよぎる。
「はっ!? 何でアタシは明王を鳥って思ったんすかね? 何かのマスコットで見た覚えがあるんスかね?」
 なぜだろう? 昔すごく迷惑をかけられたような、いやむしろお世話になったような。
 そんな言葉にできない感情が天巫の胸中に渦巻いていた。
「……まっ、とりあえず連休中の遊園地をぶち壊そうとする不届者を倒すっスよ!」
 しかし、それとこれとは話しは別だ。
 天巫は閉じられた瞼越しにウィズミーランドに満ちる人々の楽しげな気配を感じとり、改めて決意を固める。
 人々の夢と幸せが集うこの場所を絶対に壊させはしないと。
「そうと決まれば、まずは……あっちっス!」
 そして意気揚々と園内を駆け出した天巫。(園内を走るのはやめよう)
 彼女が目指す場所は既に決まっていた。
(上空から矢が降り注いだのなら、高いところに多く刺さってそうスね。なら……)
「あの高層階の建物から一気に降りる……ジェットコースターってやつに乗って爆発する矢を探して壊してやるっス! いやー、どのくらい速いんスかねー。アタシのレーザーの照準がズレるくらい速度出てたららどうしよっかなー!」
 その言葉尻からは浮足立った心が透けて見えるようで。
『……』
「……はっ! 決して遊園地を楽しもうとかそうなのじゃないっスからね!? これも明王の狙いを打ち破るための作戦っス!」
 隣を浮遊する|随行型支援ユニット《プロヴィデンス》に無言で見つめられていることに気づき、天巫は思わず早口になった。
 本当に照準がブレた時は誰がそれを補助するのか分かっているのか?
 そんな言葉なき非難を|観測対象《天巫》に対し向ける|相棒《プロヴィデンス》。
 しかし予てより盲目で遊園地で遊んだことなどなかった天巫が、依頼とはいえ遊園地を自由に散策できるのだ。多少はしゃいだ所で誰が咎めることなどできようか。
 少なくとも星詠みは良かったね、良かったねと涙を流しています。
 そんなこんなで、天巫がたどり着いたのはウィズミーランド一番人気のジェットコースター、ビッグワンダーマウンテン。
 長い行列に辟易しながらもなんとか搭乗口までたどり着いた天巫は、いよいよ間近に迫った人生初のジェットコースターに胸を高鳴らせる。
「クライマックスには写真撮影があるみたいっスね! その時までにはコレ外しておかなくちゃっス」
 いつでも装着できるようにオブザーブゴーグルも準備万端。
 機関車型のジェットコースターに乗り込み体を固定するレバーも下りて、いよいよ出発進行だ。
「おお!! 思ってたより速い! わわっ! めっちゃ曲がる! 横G!」
 体を縦横無尽に揺さぶられる初めての感覚に戸惑いながらも、安全なスリルを全身で味わう天巫。
 しかし楽しんでばかりもいられない。仕事の時が迫っているのだ。
 列に並んでいた時に機関車の軌道は既に何度も確認済み。車体がビッグワンダーマウンテンの外周を走る数秒のチャンスを逃さぬよう、天巫は素早くオブザーブゴーグルを目元に装着する。
 そして、その時がやってきた。
 機関車から外の風景が見えた瞬間、研ぎ澄まされた天巫の感覚が1秒を細切れにする。
 素早く視野を巡らせ、高度を稼いだ状態から全方位を見渡せば、視界の端々に映るのは小さなエネルギー反応。
「そこだ! シャアイニングビーム!」
 そしてすかさずモノアイから撃ち出すのは微弱かつ繊細なエネルギー調整がなされたレーザー光線。
 光線は寸分違わず着弾し、連休絶許明王の放った矢を次々に破壊していった。
「よっし、お仕事完了! って、もう撮影スポット来ちゃうっスよ~!」
 こうして天巫の初めてのジェットコースター体験は慌ただしく幕を閉じた。
 不格好なピースサインの写真を勲章に、天巫は次なるアトラクションへと足を運ぶ。大型連休を楽しむ人々を守るために。

シャル・ウェスター・ペタ・スカイ

 すれ違う家族の笑顔を軽く目で追いながら、シャル・ウェスター・ペタ・スカイ(不正義アンジャスティス・h00192)は事件を起こした男について思いを馳せる。
「うーん、星詠みちゃんがオトナな考えであって、絶許明王になっちゃった人は普通の思考の持ち主さんなんじゃないかなぁ〜」
 皆が楽しみにしている連休を奪うのは許せないと怒りに燃えながらも、自身は休みも取らず働き続けていた星詠み。
 そして√能力者である以上シャルもまた連休とは無縁な生活を送っている1人であり、彼が共感するのは星詠みよりも、どちらかというと連休絶許明王の方だった。
「誰だってお休みはほしいもん。ただやり過ぎはよくないよね。うん、おかしなイタズラをしちゃうのはシデレウスカードっていう変な力が悪いの。罪を犯さないよう、止めてあげなきゃね!」
 シャルの胸中にあるのは『罪を憎んで人を憎まず』の精神か。はたまた、自分も大好きなイタズラを正当化する方便か。
 そうこうしている内にシャルがたどり着いたのは彼がウィズミーランドで乗ったことがある数少ないアトラクションの一つ、ビッグワンダーマウンテン。
 あの頃と同じようにビッグワンダーマウンテンの麓にできている長蛇の列を確認し、シャルは周囲を注意深く見渡した。
(やっぱり人が一番密集してるのはアトラクションの中より、アトラクション待ちの列だよね。人に被害を与えるならこの近くに爆弾を設置すると思うんだけど……)
 しかし目視で確認できる範囲にはそれらしき物はない。
 ならば、とシャルが次にアプローチをかけたのは周囲に浮遊するインビジブルだ。
「キミキミ、ちょっとボクに付き合ってくれないかな?」
 シャルが選んだのは特に熱心そうにアトラクションの周囲を周回していたインビジブル。
 そのまま人目のない所でゴーストトークを使用し情報を聞き出そうと目論んでいたシャルであったが、しかし流石のウィズミーランド。どれだけ細い路地であっても全く無人の通路などは見当たらない。
 そのためシャルは仕方なく比較的人が少ない通路までインビジブルを連れてくると、インビジブルを胸に抱き壁に手をついた体勢でゴーストトークを発動させた。
「ふぇ!? え、っと、これはどういう状況ですか?」
「ああ、女の子だったんだ。ごめんね、悪気はないんだ」
 インビジブルが人の姿として顕現する瞬間を隠すために、彼女を壁際に追いやり自身の体で他者からの視線を遮る。
 結果として、所謂壁ドンの体勢となったシャルと少女。
 いきなり実体化したことも然ることながら、|美形《イケメン》と至近距離で見つめ合っている状況に、少女は顔を真赤にして狼狽えていた。
「ごめんってば。なにも危害を加えるつもりはないよ。ボクは悪者からこの遊園地を守る為に、空から降ってきた光の矢を探しているんだ。熱心にランド中を飛び回っていたキミなら、なにか心当たりがあるんじゃないかな?」
「えっと、それならビッグワンダーマウンテンの周り、西部エリアに何本か落ちてきたのを見ました。それで気になってこの近くを飛び回ってたんです。あの、もしよかったら私にも協力させてください! 大好きなウィズミーランドが襲われるのをただ黙ってみてられません!」
 ゴーストトークの効果で協力的に情報を提供してくれる少女。
 しかもどうやら彼女は熱心なウィズミーファンだったようで、この時間帯に特に人が多く狙われやすそうな場所を園内マップにチェックしてくれた。
「暑くなってきたこの時期は水系のアトラクションが集客が強いんです。スプラッシュ山は特に人気ですね。セレブの海賊も外せません! それからドリンクとかアイスを提供するお店も大人気で!」
 |某《なにがし》特有の早口で解説を挟みながら、縦横無尽にマップにマーカーペンを走らせる少女。
 そして見る見る内に真っ赤に染まっていくマップを見てシャルは苦笑いを浮かべるのであった。
「協力ありがとう。この情報は仲間にも伝えておくね。きっと皆役立ててくれると思うよ」
「はい! がんばってくださいね!」
 激励の言葉と共にインビジブルの姿に戻り再び空に登っていく少女を見送って、次にシャルが目指すのはビッグワンダーマウンテンからほど近い西部ランドのレストラン通り。
 昼時が近いこともあり、ここも例に漏れず、どの店も大いに賑わっていた。
「なるほどね。確かに人気スポットはアトラクションだけじゃない、か。やっぱり専門家に聞くのが一番だね」
 熱い講義をしてくれた少女に感謝しつつ、周辺を散策するシャル。
 そして程なくして、彼はレストランの壁面から不自然に生えているオブジェクトを発見した。近寄ってみればそれはどう見ても矢の形をしており。
「みーつけた♪ ちょうどお腹が空いてきた頃合いだったんだよね」
 上機嫌に矢を引き抜けば、それにはシデレウスが込めた上質なエネルギーが満ちておりシャルの食指をくすぐる。
「食べれそうな形はしてないけど、まあおなか丈夫だからいけるいける!」
 そしてシャルはどこからともなく愛用の料理道具を取り出すと、あっという間に矢に込められた不動明王の怒りのエネルギーを解体し食材へと変貌させるのであった。

クルス・ホワイトラビット
白神・ビビ

 多くの観光客で賑わうウィズミーランド。
 中でもここ『幻想ランド』はおとぎの国のような可愛らしい建物が並び、ウィズミーキャタクターとの触れ合いアトラクションも豊富で、そこかしこで家族連れの笑顔が行き交っていた。
 しかしそんな中、仏頂面を崩さない子どもが一人。
「ビビに釣られて来てみたら、とんでも無い事になってるじゃないか……遊ぶ時間を奪うなんて、全く、とんでも無い輩だね」
 大きな丸メガネを押し上げてクルス・ホワイトラビット(物語の語り部・h02054)は静かに息を吐き出した。
 パートナーがどうしても! と駄々をこねるので連れてこられた彼だったが、どうやら事態は俄に深刻なようだ。
 これほど多くの人が集まっている中で爆発が起きようものなら、引き起こされるパニックは甚大だろう。なんとしても阻止しなくては。
「悲しき社畜の気持ちはお察しするけど、他者の幸せを奪ってまで得る幸せが本物かと言えば、一時の愉悦でしかないし。虚無しか残らないと思うんだけど」
 それなのに、そこまでして他者の幸せを否定したいものなのか。それとも、そんな事すらも分からなくなるほどに大人が抱く嫉妬というのは強烈なものなのか。
 どちらにせよ、クルスにはまだ理解できないことだらけであった。
 ただ一つ分かることがあるとすれば、それは、大人とは多くの子どもが思っているような成熟した生き物ではないということ。時には子どものように感情を爆発させて怒ったり笑ったりすることだってあるのだ。
 そう、例えば彼女のように。
「デートっ、デートっ、遊園地デートなんて王道だねぇ! 何に乗る? 何食べる? 手を繋いで最後は観覧車でキスとかロマンチックじゃない? って、もう!アタシの話殆ど聞いてないだろ?」
 視線の先にいる白神・ビビ(豊穣と富の白蛇・h06528)が満面の笑みを浮かべながらこちらを振り返る。
 クルスよりも一回りも年齢が上だというのに、そのはしゃぎ様は子ども顔負けだ。
 頭には来園早々に購入したマスコットのつけ耳を付け、首からはキャラクター柄の大きなタンブラーを下げ、両手にはそれぞれチュロスと風船。
 コレ以上ないほどにウィズミーランドを満喫している連れの姿にクルスは、大人とはいえこんなものなんだよなぁ……とまた一つ成長と達観を得るのだった。
 ちなみにその買い物にはクルスも否応なく巻き込まれており、ビビが装備しているウィズミー満喫セット(ンニーちゃんVer)とおそろいの物(ンッキーver)をクルスも装着させられている。可愛いけどウサギ耳と付け耳が干渉して邪魔そうだね。
「はいはい、キスはしないし遊びに来たわけでもないよ。ここには事件の対応のためにきたんだから」
「え? 事件だって??」
 どうやらこの子、依頼を受けたことすら忘れて満喫していたご様子。
 それだけクルスとの遊園地デートを楽しみにしていたという事なのだろうが、そもそも騒ぎを未然に防がなければデートを続けることも出来はしない。
 そしてクルスに改めて事件の詳細を聞いたビビは表情を一転、ここにはいない犯人にメラメラと怒りを燃え上がらせた。
「逆恨みして開き直った社畜風情が、人様のデートを邪魔するなんざ傍迷惑極まりないね。有名人の浮気といい勝負じゃないか。許さないよ!」
「その例えにはコメントしづらいけど、状況を理解してくれたならよかったよ。はぁ……とりあえずボクは避難誘導の準備をするよ。爆弾を止められたとしても、その後はウィズミーランド内で戦闘になるかもしれない。お客さん達には悪いけど身の安全には変えられないからね」
 折角の遊園地を満喫しているところに水を差すのは少し心が痛むが。
 そう思いながらもクルスは淡々と√能力を発動し、周囲のインビジブルに干渉していく。
 怪しく揺らめくモルフォ蝶に誘導されるように集まったインビジブルたちは園内の花壇に根を張ると、お喋りな草花へと姿を変えた。
「さあ、教えておくれ。ここから人を逃がす時はどの経路が一番安全でスムーズかな? それと空から降ってきた矢を見かけた子がいれば教えてほしいんだけど」
 園内を飛び回っていたインビジブルならそういった情報にも詳しいだろうと踏んで情報収集に励むクルス。
 一方、その場に取り残されたビビは不貞腐れながらも自身のやるべきことを探し始めた。
「はいはい、それが終わるまでデートはお預けね。じゃあ、アタシは皆が避難誘導に応じてくれるよう警戒心や緊張を解いておけばイイかな」
 そしてビビは自慢の長く美しい乳白色の長髪をかきあげ、あらゆる状態異常への抵抗力を鈍らせる芳香を振りまきつつ周囲を練り歩いた。
 そしてビビによる『魅了』の状態異常にかかった一般客たちは、無自覚の内に彼女に付き従うように園内を列をなして歩き始める。
「ああ、骨抜きにしちまったらごめんよ。その時は、クルスをダシに振らせてもらうから。その時は彼氏ヅラしてくれるかい? ふふふ」
「馬鹿なこと言ってないでそのまま誘導を続けて。案内はボクがするから」
 並みの男なら一発で落ちる破壊力を持った悪戯っぽい笑み。それをつっけんどんに躱して、クルスはビビと一般客を先導するように歩き始めた。
 そしてお喋りな花たちから教えてもらった安全なルートを辿りつつ、周囲に目を配る。
「ああ、ここだ。ちょっと待ってて」
「えー! また置いてけぼりー?」
 クルスがタタッと駆け出した先にあったのは、時計を持ったウサギと不思議な世界に迷い込んだ少女とのお茶会をモチーフに作られたくるくる回るティーカップ。
 アトラクションの周りをぐるりと見て回れば、カップの一つに突き刺さった矢を発見し、クルスはウサギの脚力で跳躍すると素早く矢を引き抜いてみせた。
「さっきの子たちからここに矢が落ちるところを見たと聞いてね。ついでに回収しに来たのさ」
 事も無げに言ってのけながら、手の中で矢をポキっと真っ二つに手折るクルス。
「さっすがぁ。アタシ頼りになる男は大好きだよ」
 そしてそんな自慢の彼氏(仮)の勇士をさも自分のことのように誇らしく思いながら、ビビはささっとクルスの真隣に駆け寄った。
「ところで、ビビ……もう少し離れてくれないかな?」
「まあまあ、手を繋ぐくらいならイイだろう? また勝手に走っていかれたらアタシ今度こそ悲しくてないちゃうよぉ? それとも、熱〜く、腕を組ませてくれるのかい?」
 なんてことを言いながら勝手にクルスの左手に自身の右手を絡ませ、いわゆる恋人繋ぎをするビビ。
 そんなどこまでもアクティブ方向にマイペースな連れに溜息を付きながら、しかしそれ以上嫌味を返すのも面倒だと、クルスは黙ってその密着を受け入れるのであった。

星宮・レオナ

 乗客達の歓声と水しぶきを伴って滑り落ちていくジェットコースター。
 それを眺めながら、星宮・レオナ(復讐の隼・h01547)は今回の事件を起こした男に思いを馳せていた。
「まぁ、職業によっては連休とか関係無いのは家が喫茶店だったから分かるけど、小さい子供達の楽しい思い出を台無しにする様な行いは見逃せないんだよね」
 客商売を始めとして、世間がお休みを取る時期に忙しくなる職業というのは案外多い。
 レオナの実家もその類だったようで、彼女は大型連休中も忙しく働いていた両親の姿をずっと見てきた。当然家族と行楽に出かけたりといった経験も少なく、クラスメイトの土産話しを羨ましく思ったことも1度や2度ではないだろう。
 そういった意味では連休絶許明王の気持ちは分からない訳でも無い。
 しかしそのやっかみの先に待っているのが、家族との思い出を汚され涙にくれる子供たちだと思うと、レオナはいても立ってもいられなくなった。
「うん、やっぱり許してはおけないよね。家族との幸せな思い出を守るためにも、急がないと!」
 決意を新たにレオナは視線の先、ジャングルを船で冒険するアトラクション――密林クルーズを見据えた。
 本日は快晴なので水系のアトラクションは大人気、とは先に潜入した仲間が提供してくれた情報。その例に漏れず長蛇の列を作っている密林クルーズの順番を待っている間にも、レオナは爆弾探索の準備を着々と進めていた。
 【Summon!!】
 モバイル形態のマグナドライバーにミスティカ・キーを差し込むレオナ。すると認証の電子音と共に召喚された|ロックビースト《小型の動物型メカ》達がレオナの足元に続々と整列していく。
「ウルフはアトラクション周辺を、ファルコンは空から情報収集をお願い。そしてフロッグは私と一緒にアトラクション内部を探索するよ。じゃあ皆、お願いね」
 てきぱきと指示を飛ばせば、ロックビースト達はその場で了承の宙返りをして各陣の持ち場に移っていく。
 そうこうしている内にも行列は進み、ようやくレオナの順番が回ってきた。
 同乗者と共に舟に乗り込めば、案内役のキャストが笑顔と共に迎え入れてくれる。
「密林クルーズへようこそ! これから皆さんには危険がいっぱいの密林を探検してもらいますよ! これが人生最後のアトラクションになっちゃうね。さあ、順番を待ってる人達に手を降って別れを告げましょう、バイバーイ!」
 ユーモア満点に乗客達を盛り上げるキャスト。その見事な語り口に、依頼をこなしに来たはずのレオナも思わず頬が緩みそうになる。
 しかしそうも言っていられない。純粋にクルーズを楽しみたいという気持ちをぐっと堪え、レオナは指だけでフロッグに指示を出した。
 するとフロッグは乗客の足の間をすり抜けて、水中を探索するために船から脱出。船を先行する形で水の中へと消えていった。
(密林クルーズ……思ったよりも草木が生い茂ってて、本当のジャングルみたいだ。これじゃファルコンが空から探すのは難しいな。ボク自身の目で探さないと)
 自らアトラクションに乗り込んで正解だったと自賛しながら、船に揺られること数分。
 レオナはワニやゴリラ、カバといった迫力満点な動物達とキャストの軽快なガイド(という名の誘惑)に負けることなく密林の隅々に目を凝らす。
(ん、あれは……見つけた!)
 そして船がやってきたのは先住民のゾーン。槍を構えて船を威嚇する先住民人形の一体に突き刺さっている矢を見つけたレオナは、急ぎ上空を旋回していたファルコンに回収の指示を飛ばす。
 更に遺跡ゾーンの暗がりに紛れて船に飛び乗ってきたフロッグからは水中に突き刺さっていた矢も受け取り、これにて回収任務は達成だ。
「さて、後はこの矢を処理するだけなんだけど……」
 無事に船から下り、回収した矢を手の中でくるくると回すレオナ。
「下手に刺激して爆発させるわけには行かないよね。それならっ!」
 そして軽く気合を入れると、レオナは手に握った矢を空に向けて力強く放り投げた。
 更に飛んでいく矢めがけて本来の形に展開したマグナドライバーの銃口を向けると。
「君らを探してたお陰でガイドさんの話しを半分以上聞き逃したんだ。その恨みは受けてもらうよ」
 静かな怒りと共にトリガーが引くレオナ。撃ち出された誘導弾は放り投げた矢に寸分違わず着弾し、ウィズミーランド上空に小さな花火を作り出した。
 無事に役目を果たしたレオナであったが、しかしその表情は晴れない。
「あぁ、勿体ないことをした。アトラクションには何度も乗れるけど、ガイドさんとは一期一会なのに……今度はプライベートでちゃんと満喫しに来ようかな」
 新たな決意に燃えるレオナ。
 しかし、その為にもまずは今回の事件を引き起こした張本人、連休絶許明王を倒さなくてはならない。
 連休を楽しむ子ども達の笑顔の為、そしていつかの自分の休日を守る為にレオナは再び駆け出すのであった。

朝霞・蓮
朝霞・風

 ウィズミーランド中を駆け回る√能力者達。
 彼らの間で続々と爆発矢処理の報せが飛び交う中、今ここに2人の新たな戦士達が夢と希望の国に舞い降りた。
「大人になるって怖いね……」
 今回の事件の首謀者――連休絶許明王の荒ぶり様を聞き、顔を青ざめさせるのは朝霞・蓮(遺失の御子・h02828)。
 少しずつ大人の階段を登り始めた10歳の少年にとって、夢も希望もない大人の姿はショッキングに映ったことだろう。
 それに対し彼の妹である朝霞・風(忘失の竜姫・h02825)は兄に対し、ねー、と相槌を返すと。
「連休がなくなるのはとても困る。大人になりたいってたまに思うこともあるけど、こういう話を聞くと大人も大変なんだなー……って」
 と、どこか他人事のような反応だ。
 まあ実際他人事なのではあるが、まだまだ明るい未来を信じる7歳の少女にしてみれば辛い現代社会も遠い世界の出来事と同じ。
 そのまま辛い思いをせず一生健やかに過ごしてくれ! とは彼らを送り出だした星詠みの言葉だ。
「そんなことより、僕達も矢を探さないと、でしょ」
 そう言って兄の手を引いて歩き始める風。
 幼くとも風もまた立派な√能力者。目に見えない漠然とした不安に恐怖するよりも、今目の前にある危機に立ち向かおうとするその姿は立派なものだ。
「蓮、あそこのスプラッシュしてそうなマウンテンが楽し……怪しそう」
 そして風はウィズミーランドでも特に人気な絶叫アトラクションを指差して目を輝かせ……あれ今楽しそうって言いかけた?
「スプラッシュしてそうなマウンテン……なんてスプラッシュしてそうなマウンテンなんだ」
 蓮君もあんまりボカシの弱い名称を連呼しないでね。いやボカシとかないですけど! あれは列記とした『スプラッシュしてそうなマウンテン』って名前のアトラクションですけど!
 閑話休題。
 蓮と風が仲睦まじく手を繋いでやってきたのは、園内を流れる大きな川が特徴的な『小動物カントリー』のエリア。
 仲間たちからの報告によると既にウィズミーランド内の粗方のブロックは探索し終えているようだが、その中でもまだ矢が見つかっていないエリアがあり、それがこの『小動物カントリー』であった。
 そして到着早々に風は水しぶきを上げる名物アトラクションに向かおうとし始めたものだから、蓮は慌てて妹を静止する。
「風は単に遊びたいだけでしょう? ここはもう少しちゃんとエリア内を見て回ってから」
「でも報告だと矢は殆どアトラクションの中で見つかってるんだって。やっぱりここはアトラクションを楽しみながら爆弾がありそうなところを探すのが最善手だよね」
「いや、それらしい事言ってるようで、しっかり“楽しむ”って言っちゃったよね?」
「そうと決まれば、れっつごー」
「聞いちゃいないんだもなあ」
 マイペースな妹に半ば強引に引っ張られる形で列に並ぶ蓮。
 だが不本意ながらも並んでしまったからには、アトラクション内で効率的に爆弾を探す手段を模索するのが真面目な彼の良いところ。
 そんな蓮が用意した手札は『竜漿魔眼』。視界に捉えた者の隙を見抜く能力だ。
「爆弾が仕掛けられていそうな場所が隙としてみえるといいのですが」
 一抹の不安を抱きつつも、遂に2人の順番は巡ってくる。
水しぶきを上げて出発したコースターは軽快なBGMを引き連れて洞窟のエリアへ。
「見て蓮、あのウサギが主人公なんだよ。それで狐と熊が悪者で、でもなんだかドジっぽくて可愛いね」
 動物型の人形たちが織りなす物語を楽しみながらアトラクションに揺られる風。
しかし一方の蓮はというと、爆弾を見逃してなるものかと目を見開いて辺りをキョロキョロと見回すので精一杯。
 そんな彼の姿は端から見ればまるで初めてのジェットコースターに緊張する子供のようで、同乗する大人達から密かに微笑ましい温かな視線が向けられていた。
(うーん、だめか……。竜漿魔眼は無生物には作用しないんですね。むしろ一般のお客さん達の隙にばかり目が行って集中が乱されてしまう……)
 これが竜漿魔眼の1つの明確なデメリットであった。
 竜漿魔眼は言うなれば自身の知覚範囲を広げ、五感に生物の隙を感知することに特化した感覚を付け足す能力。
 周囲に戦闘の心得が無い者が密集している場合だと、竜漿魔眼がもたらす知覚範囲はむしろノイズになってしまうようだ。
 そうこうしている間にも、アトラクションはいよいよクライマックス。
 茨の森に突き落とされるウサギの視点を追体験するかのようにコースターは急斜面の滝を一気に駆け下りて、ひときわ大きい水飛沫がコースターを襲った。
「蓮、危ない!」
「うわあ!」
 そして爆弾矢探しに熱中していたため、不意を突かれてその飛沫をまともに受けてしまう蓮。しかも風が危ないと言いつつも兄の体を引き寄せて盾にしていたため、蓮は余計に全身ずぶ濡れになってしまった。
「うう……今日は牡羊座は厄日でしょうか?」
「たのしかった、すごく。また一緒に乗ろう、ね」
 濡れ鼠になり、しょんぼりモードに入ってしまった蓮。
 一方の風はというと、そんな兄など意にも介さず、無表情ながらもどこか満足気な様子で彼の手を引いた。
「蓮、あそこ」
 そして彼女が指さしたのはジェットコースターが最後に落下する大滝。その茨のモニュメントの中に、茨の棘に紛れるようにして僅かに矢の先端が覗いていたのだ。
「蓮が水飛沫から守ってくれたおかげで、あの矢に気づけたの。でもあそこに刺さっていたら僕の剣じゃ届かないから」
「いや、風が無理やり盾にしたんじゃ……まあいいでしょう。最後くらいは美味しい所をいただきますか」
 なにやら妹に良いように乗せられてしまっている気がしないでもないが、それでも頼られ礼を言われるのは悪い気がしない。
 蓮はそこはかとなく誇らしい気分のままに精霊銃を引き抜き、モニュメントに紛れた矢に狙いを定め、引き金を引く。
 そして撃ち出された弾丸は寸分違うことなく矢を捉えると、大気に満ちる水の精霊の力を借りて爆発力を封じ込めたまま矢を完全に破壊してみせたのだった。
「ふう、これで爆弾矢は全て破壊できたでしょうか」
「まだだよ。元凶が残ってる」
「そうだったね。さて、そろそろ奴も異変に気づく頃です。もう一仕事いきましょうか!」

第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』


 ウィズミーランドに隣接し園内を一望できるホテル。
 今回の事件の元凶たる男はその屋上に不法侵入し、時限爆弾矢の起爆を今か今かと待っていた。
「ふふふ、さあ始まるぞ。連休を破壊し尽くす最大級の連鎖爆発が! 大型連休の象徴たるこの遊園地を破壊し、夢と希望などこの世には存在しないということを証明してくれる!」
 そうは言っても、あの、あまりシナリオでメタなことは言いたくないんだけど、実のところ大型連休はもう数日前に終わってるのですが……。
「な~~~にを腑抜けたことを言っている! GWが終わっても夏にはお盆休みがある。秋にはシルバーウィーク、冬には年末年始と四季折々の連休がこの先も待ち構えているんだぞ! そしてライブもコンサートもオフ会も大会も大型生配信も、世の中の楽しげなイベントは全てカレンダー通りに開かれるんだ。叶うことなら俺だって参加したいさ! だが無情にも大型連休は俺を世間から置き去りにしていく! こんな理不尽あって貯まるか! 故に俺は大型連休に復讐する!!」
 暴論を喚き散らし、血走った目で虚空に雄叫びを上げる男。
 シデレウスカードの齎す暴力に魅せられ、嫉妬に狂うあまり人の心を失った哀れな社会人の末路がそこにはあった。
「さあ、時間だ。時間だぞ。くくく、5秒前! 4,3、2,1! 絶許ぉおお!!」
 ウィズミーランド中に響き渡らんばかりに高らかに告げられたカウントダウン。
 しかしその雄叫びは観光客たちの楽しげな声にかき消され、虚しく宙に溶けていった。
「な、なぜだ! なぜ爆発しない!?」
 まさかの事態に男は大いに困惑し取り乱す。そして両手に2枚のシデレウスカードを握りしめると、叩きつけるように合掌し、再度その身に異形の力を宿した。
『Sagittarius×FudouMyouou!!』
「こうなれば最早回りくどい手は無用! 我が手ずから幾千幾万の裁きの矢を撃ち込んで連休を破壊してくれようぞ!!」
 サジタリウス不動明王シデレウス――連休絶許明王の姿に変じたその男は、背に担いだ大弓を担ぎ上げる。
 そして憤怒の力を凝固させた矢を大弓に番えると、ウィズミーランドに再び打ち込もうと狙いを定めるのであった。

 だがウィズミーランドに程近い場所で急激に膨れ上がった邪悪なエネルギーは、√能力者にしてみれば恰好の目印だ。
 急行せよ√能力者! 哀れな社会人に救済の鉄槌を下すのだ!

※敵ユニット情報
『連休絶許明王』
 憤怒相を浮かべた筋骨隆々な大男。身に付けているのは腰蓑と矢筒、そして手にした大弓のみであり、防御を捨て力の全てを破壊力に回したかのような出で立ちをしている。矢筒の中には貯めに貯めまくった悠久の力が満ちており、それを消費することでほぼ無尽蔵に矢を生み出す事ができる。鳥ではない。
 戦闘時は選択された√能力の属性に応じ、以下の3種類のルート能力に似た異能を駆使し戦う。

POW:|裁帝十一連弓《さいだいじゅういちれんきゅう》
 指定地点から半径レベルm内を、威力100分の1の【爆発する矢を11回に分けて射撃する事】で300回攻撃する。

SPD:|悠久昇華《ゆうきゅうしょうか》
 敵に攻撃されてから3秒以内に【大弓から放つ悠久の速射】による反撃を命中させると、反撃ダメージを与えたうえで、敵から先程受けたダメージ等の効果を全回復する。

WIZ:|示威打鉾《GW(じーだぼ)》
 【鉾のように巨大な矢】による近接攻撃で1.5倍のダメージを与える。この攻撃が外れた場合、外れた地点から半径レベルm内は【連休絶許地帯】となり、自身以外の全員の行動成功率が半減する(これは累積しない)。
シャル・ウェスター・ペタ・スカイ

 ウィズミーランドに破壊の矢を撃ち込もうと、大弓に力を貯める連休絶許明王。
 しかし突如、その背に声がかけられた。
「やっほー、イジワルに来たよ!」
 まるで友人宅に遊びに来たかのような気安さで、シャル・ウェスター・ペタ・スカイ(不正義アンジャスティス・h00192)は連休絶許明王に語りかける。
「き、貴様、何者だ!」
 対する明王は、まさか立入禁止であるはずのホテルの屋上に人が来るとは思ってもおらず、思わず勢いよく振り向き、その声の主を凝視した。
 番えた矢の先端を突きつけながら、注意深く|侵入者《シャル》を睨みつける連休絶許明王。
(ああ、やっぱりこのヒトは怪人の力を得てしまっただけの普通の人間さんなんだ。もし悪の組織の訓練された怪人さんなら、折角エネルギーを貯めてた弓をこっちにむけたりなんかしないもん)
 連休絶許明王は尊大な態度と口振りをしているが、その所作は戦闘素人丸出し。
 そしてシャルは本当ならばそんな一般人とは戦いたくはなかった。ただ真面目に社会生活を頑張って疲れてしまったヒトを『罪人』呼ばわりしたくなどなかったのだ。
 しかし遊園地を楽しむ多くの人々の命を守る為には、力付くで彼を止めるしか手が無いこともまた、シャルは知っていた。
 だからこそ。
「ボクはイジワルが趣味のドラゴンなので! ただイジワルをしに来た迷惑ドラゴンってことでヨロシク!」
 シャルは連休絶許明王にズビっと指を突きつけ、渾身の笑みでイタズラを宣言した。
 これから自分がすることは殺し合いではない、ただのイタズラ。
 誰よりも自分が笑顔になるためのイタズラなのだ。
「ふっざけるなああ!!」
 しかしその無邪気な笑みが逆鱗に触れたのか、明王は威嚇のために向けていた矢をシャルに向けて射ちだした。
「おまえアレか迷惑系配信者ってやつか! そんな陽キャぶった雰囲気だけで社会生き残れると思ったら大間違いだぞ! 社会人なめんなあっ!」
 なにやら喚きながら、フラストレーションのままに矢を放った明王。
 凄まじい勢いで迫る光の矢は、しかしシャルの体に当たる事なく霧散した。彼の右手に宿るアンチアンニビテッドが迫りくる異能を無力化したのだ。
「心外だな。ボクは配信者じゃないよ。ただの迷惑系」
「余計に質が悪いわ!」
「でも、ボクのイタズラは愛あるイジワルだよ。キミを害したりはしない。ただ台無しにしたいだけなんだ」
 ケロッととんでもないことを言ってのけるシャル。
 矛盾にまみれている事は自分でも百も承知。でもこれがシャルの本心であり真実だった。
「あああああ!! 気に食わん……最近の若い奴は全員気に食わん!」
 しかしそれが相手に通じるかどうかは別の話し。
「連休に浮かれる愚民共に鉄槌を落とす為に貯めていた力だが……いいだろう。そこまで我の邪魔をしたいなら、まずはお前から粉々にしてやる。喰らえ裁帝十一連弓!」
 激昂と共に再び放たれた光の矢。
 更に連休絶許明王は続けざまに弦を引き絞り、二の矢、三の矢をシャルに向けて間髪入れずに撃ちだした。
 しかし相手がそう来る事など、煽り慣れたシャルには手に取るように分かっていた。
 明王が最初の矢を放つのと同時に素早く跳躍していたシャルは、屋上に立ち並ぶ貯水タンクを蹴った反動で一の矢を躱しながら更に前進。
 続く矢も送風ダクトを足場にパルクールめいた動きで紙一重で躱しつつ突き進めば、もう明王は目と鼻の先だ。
「はいタッチ。とりあえず矢を撃つのは禁止ね!」
 満面の笑みで連休絶許明王の耳をつねり上げるシャル。
 それと同時に、ウィズミーランドを破壊するために貯められていたエネルギーはアンチアンニビテッドによって即座に分解されていった。
「イダダダダ! 我の十一連弓が三連弓になってしまったではないか!」
「いいじゃない。三連だって貴重だよ」
「そういう意味じゃないわ! もう!」
 ええいとシャルを振りほどく明王だったが、全ては後の祭り。
 また一からエネルギーを貯め直さなければならないと辟易の表情を浮かべる明王に、シャルは満足げに笑みを返すのだった。

クルス・ホワイトラビット
白神・ビビ

 シャルが行動に移る少し前。
 ホテルの屋上にたどり着いたクルス・ホワイトラビット(物語の語り部・h02054)は、その小さな身体を物陰に隠しつつ、こっそりと連休絶許明王の姿を観察していた。
「あいつがデートを台無しにしてくれた張本人だね。いよーし、パンパンにしちゃる」
 そしてその横から一番槍を決めようと息巻いて身を乗り出したのは白神・ビビ(豊穣と富の白蛇・h06528)。
 クルスとのウィズミーデートを邪魔された事に余程腹が立っているのか。青筋を立て拳をポキポキと鳴らすその姿は、いかにも怒髪天を衝くといった様子だ。
「ちょっと待って」
 しかしそれに待ったを掛けたのは他ならぬクルスだった。
 静止の言葉を聞いたビビはすぐさまUターンし再びクルスの横に膝をつく。
「ビビ、ボクの指示があるまで動かないで」
 なんだか大型犬みたいだなぁ、という感想を胸にしまいつつビビに目線を合わせ耳打ちをするクルス。
「作戦はこんな感じ……頑張ってくれたら、一緒に写真ぐらいは取ってあげるよ」
「ほんと!? りょーかいっ! アンタはアタシの脳味噌で、アタシはアンタの手足だ。|神経回路《アンタの心》のままに、思う存分使ってくれよ」
 そしてビビもまたその言葉にパァっと目を輝かせながら、暫し状況を窺うのだった。

 そしてシャルによる|イタズラ《ファーストコンタクト》が成功したタイミングを見計らい、遂に2人が動き出す。
「随分厄介な攻撃をするんだね。でも、キミの事はだいたい理解できた」
「まだ我を邪魔する不届き者がいたか。所詮貴様らものうのうと連休を享受する側の人間だろう。ああそうに決まっている! 許さん!」
 勝ち誇った笑みを浮かべながら物陰から歩み出るクルス。
 対するは計画を台無しにされ怒り心頭の連勤絶許明王。
 最早なりふり構わずといった様子の明王はどこからともなく鉾と見紛うばかりの巨大な矢を取り出すと、大きく上段に振りかぶりながらクルスに向けて突進した。
「我が|示威打鉾《ジーダボ》の錆となれい!」
「自慢の連弓が使えなくなったら接近戦か。だったらいっそ動きを封じてボコボコにしてあげるよ」
 しかし、クルスがただ無防備に敵前に姿を晒すなどある筈もない。
「社畜の幸福、虚偽の安寧。一滴の僥倖に|釘付け《行動不能》になるんだね」
 そして丸メガネを僅かにずらし蒼い瞳が怪しく輝いた瞬間、連休絶許明王の眼前にはある筈もない景色が広がっていた。
「こ、ここは、デパートの、屋上?」
 そう、連休絶許明王が立っていたのは今や残存数も少ないデパート屋上のミニ遊園地。
 少し古ぼけたゲームコーナーや小銭で動く|ヴォイテク《熊の乗り物》、ヒーローショーの幟が立っている催事スペースなど、どこか懐かしさを覚えるその景色を注意深く見回すが、視界に入るのは楽しげに歩く家族連ればかり。
「くそ、幻術か。どこまでも人をコケにするのが得意な奴らだ! こうなれば幻術ごと一体を薙ぎ払って……!?」
 怒りのままに矢鉾を振るおうと手に力を込める明王。
 しかし直後に違和感に気づく。
 見れば、その手に握られていたのはプラスチック製のオモチャの剣。それどころか手が人間の、それも小さな子供のものに変わっているではないか。
 そして手の中のオモチャの剣が奏でるビロビロというチープな音を聞いた瞬間、連休絶許明王の脳裏に鮮明に記憶が舞い戻ってきた。
「……思い出した。ここは昔、俺がガキだった頃に連れてきてもらったデパートの屋上だ。そうだ、今日はずっと楽しみにしてたヒーローショーの日じゃないか!」
 途端に童心に帰り、一目散に催事スペースに駆け出す連休絶許明王だった少年。
 しかし現実にはミニ遊園地もヒーローショーなどもあるはずもなく、連休絶許明王が向かう先にいたのは獰猛に牙を剥く白蛇の姿だった。
「ビビ、遠慮はいらない。いくら殴ったって蹴り飛ばしたって痛いだけで死なないんだ。その上いくらボコボコにされても幸福な夢を見続けてしまう心理的な苦痛のおまけつき。生き地獄をこれでもかと味合わせておやり」
 対象を|夢《幸せな記憶》の中に閉じ込めるクルスの√能力、『Alice・in・Heaven』。
 その術中に嵌まった連休絶許明王に対しクルスは無慈悲な宣告を告げた。
「いいの? アタシ結構怪力だよ?」
 一方のビビはというとシデレウス怪人とはいえ、無防備な人間相手に自慢の怪力を叩き込むことに抵抗がある様子。
「……ま、いっか! コイツのせいでデート台無しにされた恨みもあるし、アタシの持ち得る攻撃方法を駆使して心置きなくぼっこぼこにしてやんよ!」
 しかしその躊躇は本当に一瞬だった。
 そもそもこの場で誰よりも怒っていたのは他ならぬビビだったのだ。
 今更振り上げた拳を叩き降ろさない理由がない。
「それじゃあ骨の髄まで痺れさせてぶっ壊してあ・げ・るっ。|失恋・激昂乙女《ハァァァトッ・ブレイクッ》!!」
 無邪気に駆け込んでくる連休絶許明王に繰り出したのは渾身のアイアンクロー。
 一説によるとヘビが獲物に噛みつき締め上げる力は200Kg以上にもなるという。
 そんなヘビの顎を思わせる握力で頭蓋を握りしめられれば、いかにシデレウス怪人といえどもただでは済まない。
「がんばれー! ヒーロー!」
 しかし、今まさに頭部からミシミシと音を立てている連休絶許明王は未だ幸せな夢の中。
 そんな姿を少しだけ哀れに思ったビビは、せめて一撃で終わらせてやろうと腕を振り下ろし、コンクリートが砕け散るほどの勢いで明王の頭部を地面に叩きつけた。
「いい悪夢《ユメ》、見れたかな? それにしても思ったより優しかったじゃないか」
「まあ、ボコボコにしてやろうと思ってたけど、このザマじゃねえ……。でも仕事は果たしただろ? ふふっ、写真の約束、忘れないでおくれよ?」
「……覚えてたか」
 言いつけを守らせるためとはいえ墓穴を掘ったか、とバツの悪い表情を浮かべるクルス。
 そんな彼に駆け寄るビビの脳内は既にどんなシチュエーションでツーショットを撮るかでいっぱいで、連休絶許明王への怒りなど綺麗さっぱり消え去っていた。

朝霞・蓮
朝霞・風

「ぐ、うぉおお……なんだったのだ今のは……」
 叩きつけられ床に突き刺さった頭をやっとの事で引き抜いた連休絶許明王。
 うずくまり痛みに悶えてた彼だったが、不意に感じた気配に視線を上げる。
 そしてすぐ傍らに立っていたのは2人の少年少女。他でもない朝霞・蓮(遺失の御子・h02828)と朝霞・蓮(遺失の御子・h02828)の兄妹である。
「ねぇねぇ、次の祝日は7月の海の日らしいよ。6月は何を糧に生きていけばいいんだろう」
「え、じゃあ次の3連休は2か月近くも先!? 途方もないね……。風もそんなに気を落とさないで。生きる糧なら私が一緒に探してあげるよ」
「……いや、べつに。平日は普通に学校で友達と遊ぶだけだけれども」
「じゃあなんでこの話題振ったのさ。フォローし損だよ」
 兄妹の息のあった漫才めいたやりとり。
 一度はノックダウンされた連休絶許明王が起き上がるまでの間、2人は暇つぶしにと取りとめもない世間話を交わしていたのだ。
「お前ら、何を呑気に立ち話している……?」
 2人が自分を倒しに来た連中の仲間だというのはすぐに分かった。
 しかしこの子どもたちは自分に追撃するでもなく呑気に傍らで雑談を続けている。状況を飲み込めず連休絶許明王はただただ困惑するばかり。
「あ、復活したんですね。すごい益荒男だ……夢の国でまさか筋骨隆々な漢を見ることになるとは」
 冗談みたいな体勢で地面に突き刺さっていた状態から見事復活を果たした明王に賛辞を送る蓮。
「ああ、本当に、さっきの奴らもその前の奴も……近ごろの若い奴らは気に触るガキばかりだ! そんなに大人をバカにして楽しいか!」
 しかしそれを皮肉と受け取った連休絶許明王は激昂。
 大きく飛び退くと大弓に何本もの矢を同時に番え、2人に対し一斉に撃ち出した。
「誤解しないで。私達は戦いではなくあなたを説得しに来たんです。とはいえ、おとなしく話を聞いてくれるとも思っていませんでしたけど」
「蓮、下がって。ここは私が」
 蓮の前に歩み出て、身の丈よりも大きな太刀を腰だめに構える風。
 風は迫りくる矢の群れを睨みつけると、それらの軌道を瞬時に看破し勢いよく抜刀。
 居合の剣筋で一の矢を切り落とし、更に返す刀で二の矢三の矢も切り捨てて完全に無力化してみせた。
「なんか、バッティングセンターみたいだね」
「くっ、舐めやがって!」
 ならば、と次なる矢に手を伸ばす連休絶許明王。
 しかしその手を一発の銃弾が掠める。蓮が放った牽制射撃だ。
「聞いて下さい。ここで大型連休を爆破したところで第二第三の大型連休が現れる……この戦いに意味はないんです」
「いやある! 我はこれより先、連休の度に何度でもそれを爆破する。いずれ世界が連休を恐れるようになる日まで、何度でもだ! そうすれば自ずと世界から連休は消えてなくなる!」
 血走った目で抗議の声を上げる明王。
 それに対し風は連休絶許明王に真剣な面持ちで頷いた。
「休めないのは嫌だ。気持ちはわかる、うん。でもそれをよりによって夢の国でされるのは困るよ!」
「分かっていないな。シンボリックな場所を爆破するから意味がある。お前は言ったな。次の祝日は海の日だと。ならば、7月に狙うは陽キャ共で溢れかえる海水浴場だ!」
「そんな……だったら!」
「これ以上の問答は無駄だ。所詮子供には分かり得ぬ世界が」
「いっそ会社に復讐した方が!」
「あるの……は?」
 子供からの説得など歯牙にもかけるつもりもなかった連休絶許明王。しかし風から飛び出た一言に、流石に一瞬思考が停止する。
 その隙をついて口を開いたのは蓮だ。
「そうです! 連休を享受するためには真の黒幕である上司を打ち倒して社畜達を救済するほかない……そう。つまり真の敵はこの社会そのものだったんだ!」
「な、なんだってー!!」
 迫真の説得に思わず声が上ずる連休絶許明王。
 だが、言われてみれば確かにそうだ。
 なぜ自分に連休がないのか。それは自分に仕事があるからだ。
 ではなぜ仕事があるのか。それは会社があるからだ。自分に労働を強いる社会があるからだ。
「そうか……そうだったのか」
 禅問答のように思考の渦に飲み込まれていく連休絶許明王。
 我ながらヘイトの逸らし方が雑だな、と自嘲していた蓮だったが、その予想以上の効果には逆にビックリ。
「11歳の社会に出てない学生の戯言だって一蹴されるかと思ったけど、言ってみるものだなあ。……あとは風、任せた」
 一方の風も、つい勢いで説得の舵切りを派手に間違えた自覚はあった。
 しかし兄から後詰めを任されたからには今更後には引けない。それに先程の言葉は少なからず子ども目線から見た本音でもあったのだ。
「さいむしゃをてきせつにこんとろーる出来ないさいけんしゃがわるい。と、おもうよ。だから、自分が子供だった時のことを思い出して、これからもがんばろ?」
 うんうんと唸り頭をひねる連休絶許明王に優しく手を差し伸べる風。
 債務者や債権者と言った子供とは思えない語彙が飛び出た気がするが、そんな疑問など最早涅槃の向こう。
 風の微笑みに如来の慈悲を見た連休絶許明王は、本当に自分が弓引くべき敵は誰なのかを心に決めた。
「そうだ。我が射抜くべきはこの社会! 会社も祝日も全てを爆破して、我がこの世界の神に、いや仏になる!!」
「うん、がんばれ!」
 ああ、完全に道を違えた。
 自分たちの説得のせいで、より見境のないモンスターを生み出してしまったような気がしてならない蓮は、とりあえず出来上がった一件落着な雰囲気を壊さないよう微笑みを浮かべながら、その背に滝のような汗を流すのだった。
 早く来てくれ大人の人。
 今度こそこの|社会が生み出した怪物《疲れた大人》に引導を渡すのだ。

百目鬼・天巫
星宮・レオナ

「あそこか!」
 ウィズミーランドにホテル。その屋上部から立ち昇る邪悪な気配を察知した星宮・レオナ(復讐の隼・h01547)は勢いよく駆け出しながら、腕に巻いていた通信端末を本来の姿――秘鍵覚醒銃マグナドライバーに展開した。
 次いで取り出したるは地球に生きる猛獣たちの力を内包した|神秘の鍵《ミスティカ・キー》。
 そしてレオナは改造人間の凄まじい脚力で空高く跳び上がると、空中で銃の弾倉装填部にミスティカ・キーを差し込んだ。
「変身!」
 【Change! Magna Falcon!】
 引き金を引くと共に空に響きわたる秘鍵の守護者の覚醒音。
 撃ち出された大鷲型のエネルギー体がレオナを包み込み、その華奢な体に真紅の装甲を纏わせ、彼女を大空の戦士――マグナファルコンへと変じさせた。
「これ以上ウィズミーランドを襲わせはしない。ここには子どもたちの夢と希望が溢れてるんだ!」
 そしてマグナファルコンは赤き鋼の翼を広げると、その身を大空へと舞い上がらせる。

「連休が、俺を壊す。そして俺が社会を壊すんだぁ……!」
 一方ホテルの屋上では、度重なる襲撃と説得により今や破壊の権化と化していた連休絶許明王。
 その姿を目の当たりにし、ホテルの屋上まで駆け登ってきた百目鬼・天巫(真眼怪人「サイクロプス」・h02219)は怒りよりも先に憐れみを覚えていた。
「連休を憎みすぎると、こんな風になっちゃうんスね……。現在社会の闇か、それとも……いや、この人がこんな風になっちゃったのは『プラグマ』のせいっス! 間違いないっス!」
 そう、彼もまた悪の怪人に唆され道を踏み外した哀れな一般人。
 ならば自分のすべき事はぶん殴ってでも彼を止め、正気に戻すことだと決意を固め天巫は連休絶許明王の前に飛び出した。
「そこまでっス! あなたの気持ちも分かるけど、それでも、休みの日を楽しんでいる人たちに当たるのは間違ってるっス!」
「まだ来るか……だが、更なる悟りを得た我を止められる筈もない。今や我の力は最高潮だ!」
 連休絶許明王の言葉の通り、彼の体から迸るエネルギーは最初に感知した時とは比べ物にならないほど膨れ上がっている。
 どれほどの憎悪が彼をこれほどのステージに押し上げてしまったのか。それを慮ることは出来ないが、しかし天巫にも負けられない意地があった。
「必ず救けるっス……。サイクロプス!」
 決意と共に自身の中に眠る護霊の名を叫ぶ天巫。
 腕を大きく広げ、両手を強く握りしめながら胸の前で拳を強くぶつけ合わせる。
 鳴り響く鉄塊音。
 次の瞬間、天巫の姿は黒鉄色の重装甲に身を包んだ異形――真眼怪人『サイクロプス』に変貌していた。
「貴様、怪人であったか! ならば何故我に敵対する」
「力を得ても心までくれてやった覚えはないッスからね! クラッシュパンチャーオン! さあ、いくっスよー!」
 両腕に装備した巨大すぎる|手甲《ガントレット》を起動し、真正面から連休絶許明王に向かっていくサイクロプス。
「笑止! バカ正直に向かってくるとは、的にしてくれと言っているようなものだ! 我が裁帝十一連弓の前に砕け散れい!!」
 対する明王は大弓に番えた11本の矢にエネルギーをチャージし次々に射出。
 撃ち出された矢は空中で分裂し、空を埋め尽くさんばかり光の雨が屋上に降り注ぐ。
 しかし、そんな事では巨人の足は止まらない。
「おらおらぁ! そんなところで矢を放ってもアタシが全部叩き落としてやるっス!」
 クラッシュパンチャーを振るい矢を叩き落としながら、じわじわと連休絶許明王に近づいていくサイクロプス。
 しかしそれでもその圧倒的な被弾回数と、着弾する度に起こる小規模な爆発は確実にサイクロプスのスピードを削いでいた。
 だがこの時、誰も気づいていなかった。
 彼方より飛来するもう一人の戦士が戦場に迫っている事を。
「見つけた!」
 幾度となく爆発が起こり、炎と煙で覆われた屋上。
 マグナファルコンは強化された猛禽類の視力でその煙の中から弓を構えた怪人の姿を見抜くと、銃に装填していたミスティカ・キーを引き抜きベルトへとスロットイン!
【UNLOCK!】
 全身に高まるエネルギーを漲らせ、ベルトからはエンジンを思わせる重い駆動音が鳴り響く。
 そしてそのままマグナファルコンは翼を畳み、急降下の姿勢をとった。
 更にマグナシューターから牽制射撃を行い、連休絶許明王の注意を空に惹きつける。
「ちっ、新手か!? ええい、悠久昇華!」
 上空という思いもしなかった方向からの攻撃に一瞬怯んだ明王。
 反射的に空へと弓を向け素早く矢を撃ち出すが、空から迫る赤き大鷲は尚もスピードを上げながら向かってくる。
「な、なぜ止まらない!」
「この程度……平和を奪われる痛みに比べたら!」
 そう、レオナの目に灯る炎はかつての後悔。そしてそこから生まれた新たな決意。
 家族との穏やかな時間を奪われる人間はもう自分だけで十分だ!
 その不退転の決意が彼女の羽をより一層強く羽ばたかせる。
「く、狂ってやがる!」
 放った矢は確かに相手を射抜いている。何度も何度も。それなのに止まらない。
 そんなマグナファルコンの姿に恐れを抱き、一心不乱に空に向けて矢を射続ける連休絶許明王。
 しかし彼は恐怖のあまり忘れていた。
 自身の背後から、もう一人の|怖いもの知らず《バーサーカー》が迫ってきていたことを。
「今がチャンス!」
 こちらの爆撃が止んだ事を察したサイクロプスは、両腕を地面に付き立て、勢いよく敵めがけて“自身を殴り飛ばす”。
 そして強化したパンチ力を機動力に変換し暴力的な加速をみせたサイクロプスは、空中で再びその拳を連勤絶許明王に向けて突き出した。
「殴りまくるっスよぉ! オラオラオラオラオラオラァ!!」
「しまっ、ぐあああああ!!!」
 荒れ狂う鉄拳の|暴風雨《ストーム》。
 それにまともに飲み込まれた連休絶許明王は、まともに吹き飛ぶことすら許されず、嵐のような拳撃に翻弄される他なかった。
「トドメ……。これで決めるよ!」
 そして空から迫るマグナファルコンもベルトのスイッチを力強く叩き、攻撃に耐えながら溜め続けたエネルギーを開放!
 【Full Charge!!】
「理由は何であれ人様に迷惑をかけるなああーーーッ!!!」
 空に燃えるような光の羽の軌跡を残しながら叩き込んだ渾身の浴びせ蹴りがラッシュに悶える連休絶許明王に突き刺さり、その体をコンクリートに深々とめり込ませた。
「ぎっ、ぎゃああああああ!! 俺は、俺はただ、休みが欲しかっただけなのにいいい!!」
 断末魔の叫びを聞き、即座に飛び退く赤と黒の戦士。
 そして一瞬の静寂の後、ホテルの屋上に一際大きい爆発が巻き起こるのだった。
「それが本当の望みなら、最初から素直にそうすればよかったのに。いや、そうもいかないのが大人っスか……」
「それでも、子供の夢と希望を奪うのはこの世で最も重い罪の一つって事も覚えとけ!!」
 爆発の跡地に残されたのは炭と化していくカードと、それに未練がましく手を伸ばすボロボロの男。
 それに向けてレオナは一括を浴びせると、積み重なったダメージのキックバックに大きくふらついた。
 しかしすかさず天巫が手を伸ばし、レオナの体を支える。
「あなたも無茶するっスね。でも格好良かったっス!」
「はぁ、はぁ……ありがとう。でも、まだ終わってない」
 そう、連休絶許明王はあくまで唆された一般人。
 黒幕を倒さなければ、今回の事件は真の解決を迎えることはない。
 そしてその影はすぐそこまで迫っていた。

第3章 ボス戦 『『ドロッサス・タウラス』』


 日暮れを迎え、ライトアップにより一層華やかさを増していくウィズミーランド。
 しかしどんな場所にも闇は存在するものだ。
 ここはウィズミーランドから汽水域を隔てた先にある臨海公園。
 その海岸で空を彩る光に追いやられた影が憎らしげに揺らめく。
 そしてそこから染み出した闇がじわじわと広がると、それはむくりと起き上がり徐々に獰猛な雄牛の形を成していった。
「サジタリウス不動明王シデレウスまでもが倒れたか。|双子座《ジェミニ》の審判までもう幾日もないというのに、我が作戦がこうも尽く阻まれるとは……おのれ√能力者共め」
 闇を通じてこの場所まで赴いたドロッサス・タウラスは忌々しげ夜空を眺めた。
「斯様に明るく照らされては偉大なる星界の力も大地には届かぬではないか。大地を這いつくばる人間如きが星々を汚すなど烏滸がましい!」
 星の一粒すら見えない夜空に怒りを募らせるドロッサス・タウラス。
 そして傍らに突き立てていた金棒を担ぎ上げると、徐ろに光の射す方へと歩き始めた。
「今の我は虫の居所が悪い。サジタリウス不動明王シデレウスの意思を継ぐ訳では無いが、腹いせにあの光の群れは叩き壊しておくとしよう……。ついでに我に歯向かう羽虫共も駆逐してみせようぞ」
 猛る星界の力を漲らせつつドロッサス・タウラスが川岸の縁に辿り着く。
 川幅は500m足らず。ゾーク12神の力を持ってすれば、一足に飛び越えることなど容易な距離だ。
 そしてその奥に見えるはの人々の夢を湛えた希望の国。
 彼奴がその国の門前に辿り着くより早く、再び駆けろ√能力者!
 もう一度、人々の平和な連休を守り抜くのだ!

※戦闘情報補足
 戦場は臨海公園の川岸。
 √能力者たちは突如として現れた邪悪な気配に気付くか、もしくは星詠みからの連絡を受けたことで再び現場に急行します。
 ウィズミーランド内は現在夜のパレード中で、間もなく打ち上げ花火も上がろうかという頃合い。
 そのため園内には未だ多くの人が残っていますが、賑やかなため戦闘による音などが人々に影響を及ぼすことはありません。
 また第2章と第3章の間には数時間の間があったため、負っていた負傷などは完全回復しています。なんなら少しだけですが園内を楽しむ事もできたでしょう。
 基本的には現場に到着したシーンからリプレイを執筆いたしますが、園内で遊んでいた所から現場に急ぐ様子をプレイングで描写いただいても一向に構いません。
 それでは、引き続き当シナリオをお楽しみください。
朝霞・風
朝霞・蓮

 心地の良い夜風を受けながら、朝霞・蓮(遺失の御子・h02828)は傍らに眠る朝霞・風(忘失の竜姫・h02825)の髪を軽く撫でる。
 彼らがいるのは臨海公園のベンチの上。
 連休絶許明王を倒した後、蓮と風は折角だからと園内を満喫し、ついでに色々とお土産も買い込んでいた。
 そしてその間にお眠になってしまった風をおぶって、蓮はここまでやってきていたのだ。
(風が起きた時、まだ園内だと帰りたくないって駄々をこねるからなぁ。それに私も臨海公園から見るウィズミーランドの夜景と花火が気になってた。風が寝てくれたおかげで早めにウィズミーを出ることが出来たし、ある意味ナイスタイミングだったね)
 その代償として両手にお土産背に妹という、休日の家族サービス中のパパもビックリの強行軍スタイルで臨海公園までやってきた蓮。
 しかし幸せそうに寝息を立てる妹の顔を見ていたら、そんな疲労も溶けていくようで。
(色々あったけど、2人で来られて良かった)
 ナイトパレードに彩られる夜空を見ながら、蓮はそんな事を思うのだった。
 しかし不意に眼の前の景色に猛々しい雄牛の角がフレームイン。
(なんか、いるわぁ……)
 川岸まで歩いていくその影を慌てて追いかければ、その姿は見紛うはずもないドロッサス・タウラス。
 嘗て全ての√能力者が予知で見たシデレウスカード事件の真の黒幕の登場に驚きながらも、蓮は素早く腰のホルスターから銃を引き抜いた。
「この野郎! シデレウスの説得する方向性を間違えたせいで、かえって彼を強化してしまって怒られたんだぞ! 責任を取れ、責任を!」
 ドロッサス・タウラスにとっては全く覚えのない濡れ衣であったが、蓮にとってはそんな事どうでもいい。
(いや大元を辿ればドロッサス・タウラスが男を唆してシデレウス怪人にすることがなければ怒られることもなかったはずだから、やはり濡れ衣ではないのか? いやそもそも自分だけ怒られたのも納得がいかないというか……いやそれはお兄ちゃんだからしょうがない)
 一瞬の内に脳裏を様々な事が駆け巡るが、それは蓮の頭の回転の速さの証左。
 まずは牽制にとドロッサス・タウラスの足元を狙って撃ち放った弾丸は狙い違わず奴の爪先を掠め、その進行を押し留めた。
「貴様……√能力者か? ふん、運が悪かったな。こんな所で一人で我に出くわすとは」
 対するドロッサス・タウラスは金棒を手に振り返り、蓮を威圧する。
 先程戦った連休絶許明王とは……いや、これまで戦ったどの怪人よりも強大なそのオーラに気圧されつつも蓮は笑っていた。
 相手は風の存在にまだ気づいていない。
 なら自分が成すべきことは。
(隙を突き弱点を作る。風が攻めるための弱点を)
 右目に竜漿を集中させて相手を凝視する。
 ドロッサス・タウラスはその巨体に反して驚くほど隙のない構えをこちらに向けていたが、それでも相手が生物である以上隙を完全に無くすことは不可能だ。
 青く燃え上がる視界越しにドロッサス・タウラスのか細い隙の糸を見抜いた蓮は、そこめがけて精霊銃を叩き込む。
「ちっ!? 童のくせにやるではないか。我が体に傷を作るとは」
 狙いすました一撃が鋼の体を穿ち、その腹部に凹みを作る。
 しかし弾丸はそこで止まっていた。
「が、軽すぎるな! 我が体に満ちる星界の力の前に斯様な攻撃は無力とし知れ。さあ今度は我の番だ!」
 一喝を上げ、凶悪なスピードで向かってくるドロッサス・タウラス。
 その蹄が地面を蹴るごとに土埃が上がり、それだけで奴の膂力の凄まじさが伝わってくるようだ。
 まともに食らったら自分の小さな身体はただでは済まない。そう直感する蓮であったが、しかし彼は逃げなかった。
 特性の弾丸を装填し、一歩も引かず銃撃を当て続け、相手の傷跡を1mmでも大きく広げる。それこそが自分の、兄の役目だと自身に言い聞かせて。
「無駄無駄無駄ぁ!」
 そして遂にドロッサス・タウラスの振り上げられた両腕が目前まで達した。
 その時。

「なにしてるの?」

 一閃。
 その名の如く、風のように2人の間に割り込んだ少女が振るう斬撃。
 予想だにしていなかった新手の不意打ちに虚を突かれたドロッサス・タウラスは大きく仰け反り、攻撃を振り下ろす事なくその場を後退した。
「なんで銃を撃ってるの? 蓮? 交戦中?」
 口の端に涎の跡を残し、寝ぼけ眼で蓮を見つめる風。
 彼女の記憶があるのはウィズミーランド内で蓮がお土産を選んでいるところまで。そこから先は覚えておらず、気づいたら夜のベンチで一人眠っていたのだ。
 急な場面転換に驚いたのも束の間、すぐ間近から聞こえてきた耳馴染んだ銃撃の音。そして兄のピンチを予感した風は急いでここまで駆けつけたのだ。
「ところでパレードは? 花火はもう終わっちゃったの? 一番楽しみにしてたんだけど」
「質問攻めの最後がそれ? ……花火はまだだよ」
「ちょっとホッとした」
 答えによっては鉄の牛を斬った後、返す刀で蓮も折檻してやろうかとも思っていたが、どうやらその必要はなさそうだ。
 しかし、このままでは花火どころではない。
「早く戦闘を終わらせないと……!」
 そこからの行動は速かった。
 刀身が遠い空のイルミネーションを反射し、きらめく斬撃がドロッサス・タウラスを何度も打ちすえる。
 刃が通らずとも、その猛攻はタウラスをその場に釘付けにするには十分な威力と速度を伴っていた。
「腹にある銃創を狙って! そこが脆くなってる筈!」
 すかさず情報を共有しながら、徐々に広がっていくドロッサス・タウラスの隙の穴を目で追う蓮。その手に握られているのは元素の力が収められた錬金符だ。
「関節、眼窩、筋の隙……今なら狙い放題だ!」
 そして雷の錬金符の力を開放し、発動したのは【エレメンタルバレット『雷霆万鈞』】。
 スパークする銃身から撃ち出した弾丸は、またも狙い違わずドロッサス・タウラスを打ちのめすと、その体を追撃の雷が雁字搦めにする。
「ぐ、おおおおお!! ガキ共がっ、調子に乗るな!」
 怒りに震えるドロッサス・タウラス。
 だが風にとってそんな事はどうだっていい。だって何よりも優先されるべきは花火なのだから。
「なんとしても、打ち上げには間に合わせてみせる!」
 行動の宣言。そして上着を脱ぎ捨て自らの防御力を落とし、電撃によって精細さを掻きデタラメに振り回されるタウラスの蹄を正面から刀で弾く。
 複数の不利な工程を経る事で力を増す風の最大火力、【屠竜宣誓撃】。
 単身で使うには難しいこの技も、蓮がいれば怖くない。
「たああああ!!」
 裂帛の気迫と共に、屠龍大剣の大振りがドロッサス・タウラスの腹部にめり込む。
「お前が無駄だと嘲った私の銃弾の、真の力を喰らえ!」
 瞬間、ドロッサス・タウラスの腹部が爆ぜた。
 風の体に付与された電撃がドロッサス・タウラスの腹部の銃創――そこにめり込んでいた竜星弾に引火したのだ。
 8倍の威力に膨れ上がった斬撃とゼロ距離で巻き起こった爆発。
 兄妹の見事な連携は遂にその頑強な鎧を打ち砕き、タウラスに甚大なダメージを与えるのだった。

シャル・ウェスター・ペタ・スカイ
百目鬼・天巫

 きらびやかな光が夜闇を幻想的に照らし出し、楽しげな音楽が見る人達の心を沸き立たせる。
 ウィズミーランドが誇る一大イベント、|光と音の魔法《ナイトパレード》は今まさにクライマックスを迎えつつ合った。
「うぉー! 綺麗なパレードっスね!」
 それを眺め、感嘆の声を上げているのは百目鬼・天巫(真眼怪人「サイクロプス」・h02219)。
 連休絶許明王も討伐し、天巫はようやく掴み取った念願のウィズミータイムを満喫していた。
 アトラクションやレストランなども巡り、夜までしっかりと遊び倒していた彼女であったが、不意にその耳に微かな爆発音が届いた。
「おっ! そろそろ花火の時間………いや、違う?」
 しかし空を見上げても花火らしき物はどこにも見当たらない。そして次の瞬間には通信端末が振動し、星詠みからの緊急招集を天巫に知らせた。
 そう、今しがた天巫が耳にした爆音は川向うで始まった戦いの音だったのだ。
「ってぇ! なんでいっつも良いところで邪魔が入るっスか!」
 怪人の鋭い聴覚で爆音の方角を瞬時に割り出し、大急ぎで走り出した天巫。
 手に握ったゴーグルを目深に被れば、その身に護霊の力がみなぎっていく。
「もう怒ったっス! 折角のパレードも休日をぶっ壊す奴は、アタシがぶっ飛ばしてやるっス!」
 そして天巫は人々の注意がパレードに向いている今なら多少無茶なことやってもバレはしないだろう、と大きく飛び上がってウィズミーランドの外壁を越え、憎き敵が待つ戦場へと急ぐのであった。

「ぐぅ……舐めてかかるには些か手強い相手であったか」
 先の戦いで腹部に手痛いダメージを食らったドロッサス・タウラス。
 しかしこの程度で諦めてなるものかと奴は再度川向うへの進撃を開始しようと跳躍し――空を漂う雲に叩き落された。
「な、なに!?」
 当たり前だが、√マスクドヒーローにおいても、雲に質量などあるはずもない。
 それなのに跳び上がった自身の体は雲を突き抜ける事が出来なかった。
 いや、そもそも雲がこんなに低空にあることすらおかしい。
「またも……小賢しい強襲か!」
 そう言っている間にも、雲は数を増やしながら地上のドロッサス・タウラスに向けて迫ってきている。
 そのありえない挙動に√能力の気配を感じ取ったタウラスは、全身に星界の力を漲らせ交戦の構えを取った。
「この程度の妨害、叩き潰してくれる!」
 星界の力をその身に宿し、無敵の金属の雄牛へと姿を変えていくドロッサス・タウラス。そして鼻息荒く星炎のブレスを吹き出せば、迫りくる雲の群れは尽く霧散していった。
 だが奴はまだ気づいていなかった。
 空に揺蕩う奇妙な雲と自身の放った炎に紛れ、急速に飛来する赤き瞳の存在を。
「おらおらぁ! 邪魔するやつはぶっ飛ばすっス!」
 瞬間、ドロッサス・タウラスの見上げる夜空に七色の光が弾ける。
 その光にタウラスが僅かに怯んだ一瞬の隙をつき、開眼モードを開放した天巫がその巨大な拳を雄牛の鼻っ柱に叩き込んだ。
「なにっ!?」
「そん硬そうな身体もアタシの拳で何度でも何度でもぶん殴って、砕いてやるっス!」
 更に天巫は休む間もなく怒りのラッシュを繰り出し続ける。
 外界からの干渉の一切を無効化する無敵の姿となったドロッサス・タウラスの前には意味のないようにも思える行動であったが、気迫のこもった拳は徐々にタウラスの顔から余裕の色を削り取っていた。
「ま、まずい。これ以上の被弾は……!」
 そう、この姿の弱点は連続被弾。
 干渉を無効化する度にドロッサス・タウラスが溜め込んだ星界の力は大きく削がれ、それが底を尽きると完全に無防備になってしまうという両刃の剣。
 |強襲《アンブッシュ》からの息もつかせぬ連撃で見る見る内に星界の力を消費してしまったタウラスはたまらず変化を解除し、その場から大きく飛び退いた。
「はい、そこ♪」
 しかしそこに待っていたのは再度の雲による不意打ち。
 地を舐めるようなありえない軌道で群がってくる雲に身動きを縛られ、ドロッサス・タウラスは思わず目を見開く
 そして、その驚愕の顔を見下ろしながらシャル・ウェスター・ペタ・スカイ(不正義アンジャスティス・h00192)は満足げな笑みを浮かべた。
「イタズラに驚く人の顔を見るのはやっぱり楽しいね。どんなイルミネーションやパレードよりも。何度見たって飽きないよ」
 上空に陣取り、そこに生み出した雲の上に寝そべって外界を見下ろしていたシャル。
 そしてシャルが生み出したぷちクラウド達に向けて指揮者のように指を振るった瞬間。
「ぎっ、ぐおおおおおおお!!」
 ぷちクラウド達は内部にとどめていた雷を一斉開放。無敵化を解いたドロッサス・タウラスに渾身の電撃を浴びせ、その体を麻痺させることに成功した。
 だがここで止まるほどゾーク12神、ドロッサス・タウラスも軟ではない。
 まとわりつく雲を薙ぎ払うと、大地を踏みしめ、地面に向けて金棒による渾身の一撃を叩き込む。
 そして瞬間、奴を中心に世界が一等星の如き光に覆われた。
「そこか!!」
 ドロッサス・タウラスが繰り出したタウラスクラッシャーの光が、空に隠れていたシャルの隠匿を暴きだす。
「わー、バレちゃった!」
 だが、対するシャルは尚も余裕の笑み。
「ボクにばかり集中してて大丈夫? 怖ーい怪人さんがすぐそこまで来てるよ!」
 シャルの言葉にハッと視界を下に下ろすドロッサス・タウラス。
 その視線の先。
 光の向こうから迫りくる真眼怪人サイクロプスは既に標的をその拳の圏内に捉えていた。
「ふんだ! 光で目眩まししても、アタシには………このサイクロプスは見通してやるっス!」
 目眩ましなど無意味。星の光が力を半減させても、それ以上の力を振り絞れば、それも無意味。
 天巫は鉄腕を腰溜めに構え、ドロッサス・タウラスに吶喊する!
「―――ぶち抜け、サイクロプス!」
 繰り出したのは無防備な腹部を穿つ渾身のアッパー。
 余力を出し切っていたドロッサス・タウラスにそれを回避する術は最早なく、奴の体は鉄塊の衝撃に空高く弾き飛ばされた。
「む、無念……!」
 先の戦いで腹部に刻まれていた亀裂がサイクロプスの拳撃によって瞬く間に鎧の全身に広がり、その体の内側から幾筋もの光が漏れ出す。
 それと同時に夜空に打ち上がる始める色とりどりの花火。
「くっ、最期まで我を馬鹿にしおって!! おのれえぇぇ……」
 そしてドロッサス・タウラスがあげた断末魔の叫びと大爆発は、夢の国の魔法にかき消され、静かに夜空に消えていくのであった。

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