シナリオ

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#√ドラゴンファンタジー

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●出現するダンジョン
 天気は穏やかな晴天。気温も過ごしやすく、絶好の撮影日和である。
 写真家の彼は今日も船で島に訪れ、島に棲む兎たちを写真に収めていく。
「今日も可愛いなあ……」
 ここは多くの兎が暮らす島だ。過去には軍の実験場として機能していた島は、今や兎の島と化していた。実験場から脱走した兎が、繁殖を繰り返した結果である。
 写真家は草むらに座る兎の群れをカメラに捉えた。直後、地面が激しく揺れる。彼はカメラを取り落としそうになった。
「っな!? なんだ、地震か……?」
 顔を上げ、周囲を見渡して……写真家は信じられない光景に目を見開いた。
「な、なんだ、あれは……!?」
 島の中心に突き刺さるように出現した謎の巨大構造物。
 √能力者であれば、それが何なのか理解できるだろう。そう、ダンジョンである。

●兎の島に訪れる危機
「√EDENにてダンジョンが出現します。皆様にはダンジョンのボスを倒し、ダンジョンを破壊していただきたいのです」
 |泉下《せんか》|・《・》|洸《ひろ》(片道切符・h01617)は予知で視た内容を、集まった√能力者らへと語る。ダンジョンが出現する場所は、周囲数キロ程度の小島だ。そこには数百匹の兎が棲息し、今は観光地として人々に知られている。
「島の中心に出現したダンジョンを放置してしまった場合、島全体がダンジョン化し、そこに棲む兎たちもモンスターとなるか、ダンジョンのモンスターに殺されてしまうでしょう。観光資源を損失しますし、何より可愛らしい兎の命が失われる事態は見過ごせません」
 皆には島に船で行ってもらうことになる。到着する頃合いには、幸いにしてまだダンジョンは出現していない。ダンジョン出現まで数時間ほどの猶予がある。その間に、ダンジョン出現予定地にいる兎や観光客を、島の外縁部に避難させてほしい。
「ダンジョン出現予定地……島の中心部には、兎たちが集まる公園があります。ダンジョンが出現する前に、公園内を無人無兎の状態にしてください。そしてダンジョン出現後は、ダンジョンへと侵入し、内部のモンスターを倒すのです」
 ダンジョン内は、形成されたばかりというのもあってか、一本道の単純な構造だ。内部は岩がいくつも転がった、巨大な砂場のようになっているという。
「中にいる『バーゲスト』の群れと、ボスの『土竜』を倒せば、ダンジョンは消滅するでしょう。兎を守るためにも、どうかご協力をよろしくお願い致します」

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第1章 冒険 『信仰を試される刻』


御嶽・草喰

●狩りの前に
 穏やかな海風を受けながら、√能力者らを乗せた船は島へと到着した。
 ダンジョン出現の数時間前。|御嶽《みたけ》|・《・》|草喰《くさばみ》(草|喰《は》む狼・h07067)は、桟橋から兎の島へと降り立つ。彼の目的は、ただ一つだ。
(「ダンジョンにいるのは、喰らうに相応しい『脚強き者』だろう。ならば、狩る」)
 兎のような『脚弱き者』に興味はない。後に現れるというダンジョン、その内にいる猛獣の血肉へと牙を突き立てるべく、彼は島に訪れたのだ。狩りに集中するためにも、まずは兎や人々を避難させる。
 草喰は島の中心部にある公園へと向かい、兎の群れに目を付けた。彼が近付けば、兎たちが警戒するように耳をぴんと立てる。
「安心しろ、俺は狼だが、お前たちを喰らうつもりはない」
 だが、怖がってくれるならば都合が良い。
「ほら、あっち行け。ここはじきに、脚弱き者には危険な場所になる」
 草喰は公園を駆け回り、兎を公園の外へと容赦なく追い立てた。彼が追えば、兎たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
(「……あとは、人間にも伝えておく必要があるか」)
 ちょうど公園の入口に観光客が見えた。来たばかりであろう彼らには悪いが、お帰りいただこう。
「野犬が海を渡って現れたので避難してください」
「野犬が? それは危ないな……」
 草喰も本来は狼の姿であるが、今は人間の姿に偽装しているため、一般人から姿について突っ込まれることはない。兎に続き人も追い払い、草喰は静かに息を付いた。人を避難させる理由に野犬を使ったことに、ある種の物悲しさを感じる。自分もよく「わんちゃん」と呼ばれることを思い出した。
「……俺は犬じゃない、狼だ」
 そう、犬ではない。ニホンオオカミである。草喰は自分に言い聞かせつつ、ダンジョンの出現を待つのであった。

弓槻・結希

●しあわせのにんじん
 暖かな晴天の下、兎がぴょんぴょんと跳ねる。楽しげな彼らを、|弓槻《ゆづき》|・《・》|結希《ゆき》(天空より咲いた花風・h00240)は微笑ましく見つめていた。
「可愛らしい兎さんたち。この子たちにも穏やかな日常があって、幸せがあって、未来があるのですよね」
 飛び跳ねる様子は、まるで楽しい明日へと願うかのようだ。そんな兎たちの日常が、ダンジョンの出現によって壊されようとしている。
「私がこの白き翼を広げ、必ずや守ってみせましょう。その命だけではなく、暮らすこの場所も取り戻すのだと」
 それがセレスティアルである己の使命、ダンジョンという災いを地上に齎した者としての務めであると、結希は強く想う。不幸を払い、幸いの風を呼ぶことこそ、彼女の誇りだ。
「島の兎たちにも、暖かな風の柔らかさを感じてもらいましょう。それと、にんじんの美味しさも」
 結希は大きな籠を取り出して、人参の欠片を中へとたっぷり入れる。農家の直売所で購入した新鮮な春人参だ。冬の寒さを乗り越えて育った人参には、美味しさが詰まっている。甘さと柔らかさ、そして瑞々しさを感じてほしい。人参の欠片を地面に繋げ、籠への道を作る。
「さあ、にんじんの道の完成です。兎さん、美味しいにんじんですよ。どうぞこちらへ」
 人参に釣られた兎たちは、人参の欠片を追って、その先にある籠へと入ってゆく。ふと、一匹の兎が人参から逸れて、脇道のタンポポを食み始めた。
「あら、にんじんよりもタンポポがお好みですか?」
 結希は兎にそっと歩み寄り、人参の欠片を口元に近付けてみる。兎は人参をくんくんと嗅いだ後、ぱくりと口に含んだ。
「味を交互に楽しみたいのでしょうか。ふふっ、グルメさんですね」
 人参とタンポポ、両方をもぐもぐする兎をふわりと胸に抱き上げて、結希は微笑みを滲ませるのであった。

ヘリヤ・ブラックダイヤ

●不審な煙
 少し見回せば、道端で寛ぐ兎の姿が目に入る。兎の楽園とも言える島の状況に、ヘリヤ・ブラックダイヤ(元・壊滅の黒竜・h02493)は思考を巡らせる。
「√EDENには猫を信仰する集団がいると聞く。ネコと和解をしたり、ネコの国へと近づいたり、ネコを吸ったり……同じように兎を信仰する者がいて、もしかしたらここは兎を信仰する者たちの聖地になっているやもしれん」
 そのうち兎による兎のための兎の政治が行われたり――。
 言っていて、そんなわけがあるかと自分で突っ込んだ。どこを見ても兎だらけな光景に、混乱していたのかもしれない。
 公園に到着したヘリヤは、木立に囲われた場所へと移動する。
「√ドラゴンファンタジーならば話が早かったのだが、冒険者の身分証明も意味を為さんか。ならば、他の手段を取ろう」
 人目を避けながら煙を起こし始めた。兎たちが「何してるの?」とでも言いたげに茂みから顔を出したが、煙が大きくなるにつれ、何かを察したらしく急いで逃げていく。
「この程度で良いか。後は……」
 翼と尾も隠せる防護服で偽装し、木立から飛び出した。公園内に残っている人々へと、大声で呼び掛ける。
「不発弾のようなものよりガスが発生している! 直ちに害はなくとも有毒な成分が含まれているかもしれん。兎を連れて避難するように!」
 不発弾というワードに、観光客たちがぎょっとする。
「不発弾!?」
「大変だ、急いで逃げないと……!」
 ヘリヤの言葉には説得力があった。それは島の過去に関係する。
(「この島はかつて軍の実験場だったと聞いている。不発弾があっても不自然ではなかろう」)
 危機感の薄い野次馬が煙に近付かないよう警戒しつつ、彼女は人々と兎を公園から遠ざけるのであった。

河野・ミカミ

●ウサチャンを守るために
「ウサチャンに危機が迫ってるって聞いたら、放っておけないよね」
 兎の島に到着した|河野《かわの》・|ミカミ《みかみ》(万水・h00763)は公園へと向かった。石油王の飼い主としても、必ずや兎たちを避難させなければ。強い使命感を抱きつつ、ミカミは行動に移る。当然、観光客のことも忘れてはいない。
 島がかつて軍の実験場だったことを考えつつ、それらしい理由を導き出す。ミカミは公園内の観光客へと早速話し掛けた。
「あのねー、さっきここを管理してる人に聞いたんだけどね。軍の何か……えーと、危険物? そんな感じのものが見つかったから、避難指示が出てるんだ」
「爆弾でも見つかったのか?」
「毒ガスかもしれないぞ、そういう施設だったみたいだし。逃げよう!」
 口々に話す観光客へと、ミカミはさらに付け足す。
「あ、できたらウサチャンも連れて逃げてくれると助かるよー」
 話を聞いた観光客たちが、兎を抱き上げて公園から連れ出してくれた。
(「うん、この方向性で大丈夫だね。他の観光客にも同じように伝えよー」)
 ふと、ガサガサと茂みが動く音がする。しゃがんで覗き込めば、複数の兎が群れていた。ふわふわの子兎たちと、大人の兎が一匹、きょろきょろと周囲を見回している。
「わぁ、いっぱいいるねぇ。子ウサチャンと、お母さんウサチャンかな。これだけいると、移動が大変だよね。オレの着物に乗りなよ。乗り心地は約束するよー」
 着物に複数の兎をまとめて乗せ、そっと包み込んだ。ふんわり温かな感触が、着物越しに伝わってくる。時折覗くつぶらな瞳が、じっとミカミを見上げた。
「そーっとそーっと……ふふ、どの子もふわふわ、かわいいねぇ」
 お母さんはウチの石油王よりも小さいかな? なんて語りかけながら、ミカミは兎たちを安全な場所へと運んでいった。

第2章 集団戦 『バーゲスト』



 島の中央から兎と観光客を避難させるうちに、数時間が経過した。
 突如として青空が裂け、裂けた空間から巨大な構造物が落下する。それは公園があった場所へと突き刺さり、地震のように大地を震わせた。
 出現したダンジョンは、洞穴のような入口を開く。ダンジョン内部、無数の岩が転がる巨大な砂場には、獲物を求めて徘徊する『バーゲスト』の群れが確認できた。
ヘリヤ・ブラックダイヤ

●望めぬ共存
 島の中心に現れたダンジョン。その入口の前に、ヘリヤ・ブラックダイヤ(元・壊滅の黒竜・h02493)は立つ。
「自然発生……するようなものではないのだがな」
 √EDENにダンジョンが出現する理由としては、天上界の遺産の持ち込みが挙げられる。何者かが意図的に持ち込んだか、何かの事故で紛れ込んだか。
「まぁいい。ダンジョンがあるなら、そこが√EDENだろうと√ドラゴンファンタジーだろうとやることは変わらん。ボスを倒し、踏破するだけだ」
 踏破すれば消えるという話だ。ならば、やるべきことは決まっている。
「ひれ伏せ、獣どもよ」
 ダンジョンへと侵入し、ヘリヤは|黒竜覚醒《ブラックドラゴン・アウェイクン》を発動する。ブラックダイヤのような鱗を持つ黒竜へと姿を変えた彼女を、バーゲストたちが鋭く見上げた。
「グルルルル……!」
 バーゲストたちはその威容にも怯まず、唸り声を上げながら突撃する。角による攻撃を、ヘリヤは竜の体でどっしりと受け止めた。角を硬い黒鱗に突き通そうとするバーゲストを、ヘリヤは静かな眼差しで見下ろす。
「命知らずだな。決して屈せぬその姿勢、嫌いではないが」
 バーゲストの攻撃がヘリヤを貫くことはなかった。前脚を痛めるだけに終わるバーゲスト。そこでようやく怯んだ彼らへと、ヘリヤはブレスをお見舞いする。黒色のブレスが嵐の如く吹き荒れ、バーゲストらを黒い結晶へと変えてしまった。
「お前たちも獣ならば、強い者に恭順する本能を持っておくべきだったな」
 そうであれば、この島で生き延びることもできたかもしれない――。
 そこまで考えて、「できたか?」と自問した。バーゲストの背に兎たちがぴょこんと乗り、日向ぼっこをする風景を思い浮かべてみる。
「……意外とありではないだろうか」
 巨大な獣と小動物のふれあいは、いつだって人々の心を魅了するのだ。

御嶽・草喰

●狩りの開始
「グルルゥ……!」
 空気を震わせる唸り。バーゲストの声は、|御嶽《みたけ》|・《・》|草喰 《くさばみ》(草|喰《は》む狼・h07067)の心へと火を付ける。
「お前……『脚強き者』だな? いいじゃないか、兎などよりもずっとうまそうな奴だ」
 狩り甲斐のある獲物に、彼は金の瞳をギラリと輝かせた。
 バーゲストたちが草喰へと突進する。角突撃――前足一本を犠牲にした大技を繰り出すつもりだ。体格的にも敵が有利。さらには全身の棘が、攻撃力を底上げしている。
(「受ければ当然、ただでは済まない。当たり所が悪けりゃ死ぬ。状況は最高じゃないか」)
 |盟神摧穿《メイシンサイセン》――これより攻撃する。草喰は宣言し、バーゲストの攻撃を迎え撃つ。
(「大口真神の大親父様、見ていろ、このデカブツの攻撃を首尾よく弾いてやる」)
 敵の動きに意識を集中させた。突撃は威力こそ凄まじいが一直線。ならば、軌道を読み受け流す。
「――俺は祈った。次はお前が祈れ、さもなくば代償を払え」
 バーゲストが間近に迫った。直後、爪を盾代わりに攻撃を弾く。重い衝撃が伝わるが、気にする程のものではない。バーゲストの動揺が伝わってくる。その感情の揺れに、草喰は己の爪を喰い込ませた。
「その命、頂くぞ」
 強靭な獣の肉を切り裂くは草喰む狼の爪。その傷は心臓にまで達し、鮮血を溢れさせた。
「ガアアアッ……!」
 悲痛な咆哮を上げ、バーゲストが倒れ伏す。
 獲れたての新鮮な肉を、草喰は他のバーゲストたちへと見せ付けるように喰らった。
(「仲間を喰われ恐れを抱くか、それとも怒りに震えるか」)
 反応は様々だ。怯える者もいれば、憤怒に荒ぶる者もいる。だが、正直どちらでも構わない。
「……脚強き者よ、俺の血肉となれ」
 口元を真っ赤に染め上げて、草喰は牙を剥いた。狩りはまだ始まったばかりだ。

弓槻・結希

●花風の導き
 平和な兎の島に出現したダンジョンは、放置しておけば兎たちへと災厄を齎すであろう。|弓槻《ゆづき》|・《・》|結希《ゆき》(天空より咲いた花風・h00240)は蒼穹剣『レガリア』を凛と構え、バーゲストの群れと対峙した。
(「あの兎さんたちの為にも、この場は必ずや取り戻してみせましょう」)
 ダンジョンという災いを退けて、日常という幸せを、この翼で呼び込む為に。
「ギャオオオォン!」
 バーゲストたちが吼える。だが、結希は一歩も退くことはない。
「いざ、参ります。凶暴なバーゲストを相手に、怯んだりなど致しません」
 蒼穹剣を閃かせ、彼女は祈りを紡ぐ。|神秘の花風剣《ミスティック・ブレイブ》は、澄み渡る空の色へと暖かな風を纏わせる。天上界に在った神秘の花風と蒼穹剣は共鳴し、美しい旋律の如き風音を響かせた。
「空に咲いた花、流れた風よ。どうか、この剣をお導きください」
 バーゲストたちが結希へと迫る。彼らの突進に合わせるように、結希はステップを踏んだ。ふわり、くるりと花風と舞うように、軽やかに靴を鳴らして一息に。
 彼女自身が風になったかのように砂地を駆ける。敵が爪を増加させ、本能の赴くままに前脚を振るった。
「させません!」
 攻撃の軌道を見極め、振るわれた前脚を蒼穹剣で受け流す。爪を弾かれ、体を大きく傾けるバーゲスト。その隙を結希は見逃さない。
(「彼らも命であることには変わりありません。せめて、苦痛がないように」)
 祈りは力となり、結希へと道を示すように煌めく。
「――花風よ、どうか彼らを斬り裂いて」
 擦れ違い様、魔法剣・花信風を鋭く斬り込ませた。閃く斬撃は、バーゲストの喉笛へと深い傷を刻む。
 息の通り道を裂かれ、血を噴きながら獣は崩れ落ちた。仲間を殺され、バーゲストたちが怒りの咆哮を上げる。彼らの痛みを想いつつも、結希の剣筋が揺らぐことはなかった。

河野・ミカミ

●でっかいもふもふ
 ダンジョンは出現したが、ウサチャンの避難は既に完了済みだ。これで一安心と、|河野《かわの》・|ミカミ《みかみ》(万水・h00763)は、バーゲストたちが徘徊するダンジョン内へと足を運ぶ。
「観光客のひともいない……かな? うん、じゃあ後はー……わぁ、もふもふな子達!」
 バーゲストはトゲこそあるが、大きくてもふもふな獣であることには変わりない。目をギラつかせる彼らはいかにも狂暴そうだが、ちょっとくらい触れないだろうか。
「ねぇねぇお前達、ちょっと撫でても……」
「ギャウッ!」
「ガルルルッ!」
 そっと手を伸ばそうとしただけで、バーゲストたちは鋭く鳴いた。
「わわっ! 威嚇されちゃったぁ。やっぱり撫でるのはダメかぁ」
 残念、と呟くミカミ。これからすることを思うと少しだけ心が痛むが、仲良くできないならしょうがない。
「ここ、ウサチャン達のお家があるからさ、狂暴な子にはいて欲しくないんだよね。だから危ないものは遠くへ流してしまわないと、ね」
 |鉄砲水《テッポウミズ》を発動し、蛟の姿の水神へと転じる。水神としての権能を用い、砂場へと大量の水を流し込んだ。水は渦を巻き、洪水の如き威力を以てバーゲストたちへと押し寄せる。水流の中を突き進み、敵の何匹かがミカミへ角突撃を繰り出した。
「頑張ってるとこ悪いけど、この姿の時って攻撃が通らないんだぁ。ごめんねー?」
 あらゆる干渉を完全無効化する力が、角の貫通を阻んだ。苦闘するうちに前足が折れ、バーゲストたちは水の勢いに抗えなくなる。
「ギャウウウゥ!?」
「ガアアアァッ……!」
 激しい水の流れに押し流されてゆく彼らを眺めるミカミは、ちょっぴり寂しそうだ。
「もふもふ、したかったなぁ……」
 あったかもふもふであっただろう彼らを想像して、ミカミはそっと溜息をつくのであった。

第3章 ボス戦 『土竜』



 バーゲストの群れを掃討しきった頃、ダンジョンの奥から土竜が姿を現した。
 土竜は√能力者たちを見て、暗い眼をギラギラと光らせる。
「バーゲストどもが騒がしいと思って来てみれば、喰い甲斐のありそうな獲物がわんさかいるじゃねえか」
 殺戮を是とする土竜は、彼らを蹂躙する気満々のようだ。
御嶽・草喰
ヘリヤ・ブラックダイヤ
弓槻・結希
河野・ミカミ

●土竜を倒せ
 ダンジョンには巻き上がった砂埃と、噎せ返るような血の匂いが漂っている。バーゲストの死体が無数に転がる中、√能力者たちは土竜と対峙した。
 臨戦態勢の土竜を、|河野《かわの》・|ミカミ《みかみ》(万水・h00763)はじっくりと観察する。
「わぁ、今度は竜が出てきたね。角の形がキレイだなぁ。もふもふじゃなくても、キレイなものは好きだよー」
 だが、今回も仲良くなれそうにない。仲良くなる前に、ウサチャンを喰われてしまうだろう。兎たちのためにも、退治しなければ。
 殺気を放つ土竜へと、ヘリヤ・ブラックダイヤ(元・壊滅の黒竜・h02493)も凛と眼差しを向けた。
「ほう、只のトカゲかと思ったが、人語を解するか。只のトカゲではないらしい。トカゲがどんな鳴き声をしていようと、トカゲであることは変わらんが」
 屈強そうな『トカゲ』だ。最大の獲物を、|御嶽《みたけ》|・《・》|草喰《くさばみ》(草|喰《は》む狼・h07067)はその瞳に真っ直ぐと捉えた。
「お前は、先の奴らよりもなお脚強き者だな。なるほど、獲物がいるという点については同意する。無論、お前のことだ」
 挑発はするが、内心では理解している。こいつは単独で勝てる相手ではないと。
「俺を狩り取る気なのか? 大きく出たな」
 愉快そうに口端を吊り上げる土竜。彼へと|弓槻《ゆづき》|・《・》|結希《ゆき》(天空より咲いた花風・h00240)は断言した。
「殺戮を求め、蹂躙に進む邪なる竜。如何に強大な力を持っていようとも、決して求めるものは手に入りません」
 ダンジョンはセレスティアル……天上界がもたらした遺産の負の影響だ。だからこそ、自分が災いを退けなければと、結希は強く想う。
「手に入れてみせるさ。貴様らを殺してなァ!」
 土竜が咆哮を上げた。戦鐘の如く響くそれに、√能力者たちは一斉に動き出す。
 ヘリヤは全身へとエネルギーを漲らせ、力強く言い放った。
「井の中の蛙大海を知らずと言うが、土の中のトカゲは竜を知らんらしい。ならば教えてやろう……!」
 本日二度目の|黒竜覚醒《ブラックドラゴン・アウェイクン》。その黒鱗はブラックダイヤの如く輝き、壮麗なドラゴンを戦場に顕現させる。彼女の変身した姿を目にし、土竜がニヤリと笑った。
「ほう、教えてもらおうか!」
 自身の牙と爪を狩りの刃へと変え、土竜はヘリヤに接近する。ヘリヤは敵を視界に捉え、彼女自身の牙と爪を鋭く光らせた。
「やはりそう仕掛けてくるか」
 彼女は落ち着き払っていた。巨大な尾を大きく振るえば、衝撃が砂地を激しく荒らす。
 迫る土竜の牙をヘリヤは爪で弾いた。繰り出された爪も、尾で払い落とす。鱗の表面に『狩り尽くす刃』が傷を入れるが、この程度であれば問題ない。
「お前の牙と爪は通さん。真の竜とは如何なるものか、思い知るといい」
 竜の牙を、土竜の身へと突き立てる。
「くくっ、面白い!」
 傷付きながらも土竜は愉しげだ。
 激しく交戦する彼らの中へと、ミカミが乱入する。獣妖暴動体となり、自身の肉体を変化させた。
 首は3つ、脚も6本へと増加させる。残りはすべて腕の増加に回した。大量の腕を蠢かせながら、ミカミは土竜へと語り掛ける。
「蛟を見るのは初めてかな? いつもより体のパーツが多いけどねー」
「いっそう食い出がありそうになったじゃねえか」
 怪物然とした姿のミカミへと、土竜は牙と爪を輝かせながら襲い来る。自ら近付いてくれるのならば都合が良い。ミカミは増えた腕で土竜の体と顎を掴み、攻撃を受け止めた。伝わる衝撃と痛みを耐え抜いて、穏やかな声色で紡ぐ。
「オレのことかじってもおいしくないと思うよ。だって水でできてるからねー」
 捕食力を上昇させた首を回し、土竜の喉元へと噛み付いた。口内に広がる血の味に、ミカミは難しい顔をする。牙を喰い込ませ、筋張った肉を引き千切る。
(「ううん、固くておいしくないけど、ウサチャンのために我慢我慢」)
 肉を裂かれながらも、土竜はミカミを強引に引き剥がした。
「蹂躙するのが一番だが、命を懸けて喰い合うのも悪くねぇ!」
 後方へ飛び退き態勢を整える土竜。敵を草喰は常に目で追い、食らい付く機会を狙っている。
(「奴の攻撃はさっきの奴らよりも重く、鋭く、速い。連撃は、おそらく避けきれない。いいのを一発もらうだろう」)
 だが即死じゃなければ上等だ。この体が動くかぎり、狩りは終わらない。
(「活路は戦いの中にある。怯んでいる暇はない」)
 獲物を狙う視線に気付いたのだろう。土竜が草喰を向いた。連撃の構えを取り草喰へと迫る。
 近付いた奴へと直ちに食らいついてやると、草喰は|以血還血《イケツカンケツ》を発動した。元より攻撃を受けるのは覚悟の上。目には目を、歯には歯を、そして血には血を、だ。
 爪と鋭利な牙が草喰へと喰い込んだ。激痛に耐え、僅かに力が緩んだ隙を突いて抜け出す。だが、逃げるわけではない――反撃の一手をお見舞いする。抜け出たその脚で土竜へと飛び付き、その首元を食い千切った。
「狩られる側になった気分はどうだ?」
 血を流しながら土竜が返す。
「結論を出すにはまだ早いぜ?」
 消耗は感じるものの、完全に狩り取るまでには手数が必要か。
 だが、結希は元よりそのつもりである。
(「皆さんの攻撃に息を合わせ、さらに畳み掛けましょう」)
 彼女は蒼穹剣『レガリア』を堅く握り、土竜へと距離を詰める。すべてはこの島の平穏のため。確固たる想いを胸に、彼女は戦う。
「幸いの風を喚ぶ翼として――必ずや払いましょう」
「させねえよ!」
 土竜が叫び、神土竜をその身に降ろした。神なる土竜へと転じた彼は、結希へと土埃のブレスを放つ。ブレスの挙動を見極め、結希は白い翼をはためかせた。瞬時に舞い上がり、ブレスの隙間を縫うように空中を駆ける。翼剣『風花』の真白な切っ先が、眼前に迫る土竜を捉えた。
「完全に干渉を断つ無敵も、無限ではないのです。手数で押しきります!」
 懐へと飛び込み、青く煌めく剣閃を敵へと刻んでゆく。連続で繰り出される雷光の斬撃は、土竜の消耗に拍車を掛けた。
「チッ、まずいな……」
 土竜が呟く。思考する暇を与えず、√能力者たちは猛然と攻め立てる。
「はいはーい、大人しくしてねー!」
 ミカミの無数の手が、がっしりと土竜の体を拘束した。先のように振り払うことができない。
「くっ……離せ!」
 藻掻く土竜へと草喰が迫り、今度は胸元の肉を食い千切る。
「お前の肉、だいぶ硬いが喰いごたえはある」
 鮮やかな血が滲む肉を咀嚼しながら、草喰が率直に告げた。
 √能力者らに対し「食い出がある」と言った土竜。そんな彼が現状、『喰いごたえのある獲物』として狩られているわけだ。
「くそが……!」
 土竜は激昂するが、当初のように暴れ回る力は残されていない。
 ダメ押しに、結希は|星穹からの裁き《ステラ・ジャッジメント》を土竜の頭上へと降らせた。
「この島に住む、兎さんたちのために!」
 燦めく星光が土竜の体を焼く。かろうじて命を保つ彼へと、ヘリヤがトドメのブレスを放つ。
「終いだ。竜の力の前にひれ伏すが良い!」
 ブレスに覆い尽くされた土竜は、黒い結晶体へと成り果てた。その絶命を示すように、ダンジョンが跡形もなく消えてゆく。
「……ダンジョンは消えたか。狩りは終わりだな」
 船着き場の方向に、さっさと歩き出す草喰。
 他方、ミカミは安堵の息をつき、ほんわかと笑みを浮かべる。
「これでウサチャンたちも安心だねぇ」
「はい! 平和な日常を取り戻せて良かったです」
 結希も笑顔で頷いてみせた。もう少し、兎さんと遊んでから帰りたいところである。
 人の姿に戻ったヘリヤは、猛烈な眠気に逆らえない。一日に二度は使い過ぎたか。うさぎの群れを見つけ、その中心に寝転がる。
「ままならんものだ……うさぎに囲まれてしばらく眠るか」
 こうして兎の島の平和は守られた。
 √能力者たちは、任務終了後の余暇を自由に過ごした後、島をあとにするのであった。

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