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信仰と滅亡の睡蓮
●華咲き、音咲く、夜の宴
√ドラゴンファンタジーのとある街では、春になると行われる祭りがある。寒く静かで厳しい冬を乗り切った事を、温かく弾む心を躍らせられる1年が始まるのを祈って。その祭りは一昼夜続く。
その名は『フラワーオラティオ』。
花の祈りと名付けられた祭りには、多くの人が参加する。
ドレスコードは、”花”に因んだものをつけていること。
会場内。特別な栽培法、保存法で育て保存された生花は、満開で。会場のホールは、四季折々、古今東西のあらゆる花が満開の状態で飾られて。其処だけが楽土のようで。
楽団が演奏する優雅な音楽に、思わず踊り出す人が1人いれば、また1人と増えていき……楽団の奏でる音楽に合わせて社交ダンスも行われている。
また、様々な豪華な料理も用意されており、前菜からメイン、デザートまで数ある。一度ではきっと食べきれないだろう。見たこともない食事もあるかもしれない。
そして忘れてはならないのが、このフラワーオラティオでのみ行われる催し。
それは、ギフト交換。唯のプレゼントの交換ではない。花を添えるのだ。添えた花言葉になぞった贈り物を交換するのだ。
相手は誰でも構わない。家族、恋人、友人、お世話になった人、師匠に、弟子、仲間……。
想いを花と贈り物に載せて……。普段伝えられない言葉を花に託して。
●ニンファエラ
フラワーオラティオの会場の一部では、贈り物や花を用意できなかった者の為に、マーケットも開かれている。
色とりどりの花たちを並べる中に、小さな店が一つ。
曙色の肩まで伸ばした髪を後ろに緩く結って、青藍色のワンピースを着ている少女。
「ニンファちゃん、お勧めのお花あるかい?妻に渡したいんだが……。」
「はい!ありますよ!どんな気持ちを込めたいですか?」
そう快活に明るく話す、ニンファと呼ばれた少女もまた、ドレスコードに則って胸元には白い睡蓮を飾っている。
小さな青藍色のドラゴンの翼を小さな尻尾が、お客様に当たらないようにして……。
●√EDENの片隅で
「喰竜教団のドラゴンプロトコル襲撃事件が連続しているのは、ご存知ですか?」
そう正面から切り出したのは、|風凪・真白《かぜなぎ・ましろ》(笑顔のその裏に・h03029)。赤茶色の髪についた、どこからか飛んできた花びらをそっと指で摘み取って語る。
「|竜《ドラゴン》を崇める喰竜教団の教祖であるドラゴンストーカーを黒幕とする事件です。」
喰竜教団は、「か弱き姿に堕とされたドラゴンプロトコルを殺し、その遺骸を自身の肉体に移植することで、いつか『強き竜の力と姿』を取り戻させる」と謳って、そして有ろうことか本当に実行しているのだ。
「その標的になってしまったドラゴンプロトコルの少女がいます。名前はニンファさんって言います。曙色の髪がとても綺麗に視えました。」
「敵が狙うのは、√ドラゴンファンタジーで行われている『フラワーオラティオ』という祭りに、出店側で参加しているニンファさんの”脳”と”血液”……のようです。」
脳と血液と言って、ぐっと真白が拳に力を入れる。それを簒奪する為なら、ドラゴンプロトコルのニンファの死は些細なものだと主張していることも教えてくれる。
「まず、皆さんには、フラワーオラティオに参加してもらいます。でも、お祭りを中止しては、ダメです。気づかれてしまいます。」
それに√ドラゴンファンタジーの住人達が楽しみにしているのだ、と。
「お祭りに自然に解けあって、さり気なくニンファさんの護衛や、喰竜教団の襲撃に備えてください。……勿論、お祭りを楽しんで来ても構いません。」
それも場の空気になじむことになるから、と。
「お祭りも盛り上がった頃に襲撃があるところまでは詠めました。しかし、それ以降は分かりません。十分注意してください。それから、ニンファさんには戦う術はないので、注意してください。」
お祭りに酔いしれすぎず、本来の目的も忘れないように、と。
そうして、真白は皆を送り出した。
これまでのお話
第1章 日常 『花と音楽の夜』

『フラワーオラティオ』の門が開かれる。
会場となっているのは、領主の館の、天井の高い広いホール。楽団の音楽が始まる。会場の中に飾られた花が、ふわりと甘い香りを贈る。開かれた門を待ち望んでいた人達がくぐり、あっという間に会場は埋め尽くされる。
太陽の光、聖なる光を一身に受けたような長い金髪を揺らす。その髪には、青を基調とした、白いフリルのヘッドドレス。そして、ドレスコードとして、青い薔薇を飾って。『不可能』『存在しないもの』の象徴だった青薔薇。
碧色の瞳がうっとりと会場を観て、弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)はカツンとブルーのヒールを高らかに鳴らして、堂々と会場の中心に向かって歩き出す。
結希の凛とした姿勢。フリルをふんだんに使い、青と白、白百合と十字架の意匠のコントラストを奏でたドレスにもまた、青い薔薇。
「あれは、青い薔薇……!」
「素敵っ、初めて見たわ!」
結希の耳に届く参加者の言葉。嬉し気にふわりと純白の翼が膨らむ。
(青薔薇の花言葉は、かつては神秘。そして今は、『夢叶う』『神の祝福』)
結希の青い薔薇にはそんな花言葉が。そうして、もう一つ。
「『奇跡』。まさに誰かを救う為に訪れるのに相応しいですよね?」
そう誰に語るでもなく、結希は、しいて言えば花々に語り掛けるように。思いと祈りを花に乗せるお祭り。溢れる色彩にうっとりし、食事も気になる結希だが。
今は楽団の華やかな音楽が響くホールの真ん中に、カツカツ、カツンと出る。社交ダンスを踊る人々からも注目を集める。
スッと青と白のドレスを両手の指を揃えて摘まんで、片足を後ろに引き、膝を軽く曲げてお辞儀。それは気品溢れるカーテシー。
(相手がいなくても十分。)
自信と気品に溢れる微笑みを浮かべ顔をあげて会場に広げ、そして、楽団の奏でる音楽の出だしに合わせてステップを刻む。カツンと静かに靴の音が響く。
ひとりで、自由に、マイペースに。それは会場の未だ咲ききっていない蕾を綻ばせるように。観客の熱を盛り上がらせるように。
ワン、ツー、スリーでくるりとターン。結希は会場に大きな青薔薇と白薔薇が咲くように舞って見せて。災いを払い、幸いを呼ぶ花と風、そして翼の舞いとして。
ほぅ……と見惚れた声をあげたのは誰からだろう。
「ふふふ……少し、我儘を聞いてもらいましょう。」
結希は、音楽に合わせるように|神聖竜詠唱《ドラグナーズ・アリア》を謳う。すると、|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》が顕現する。
観客も音楽も、くるくる廻り踊る結希と|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》に見惚れる。
(空から、天井から、花びらを舞い踊らせてください。)
ドレスの十字架の意匠が淡く輝く。それは神の愛の象徴、守護の象徴。
誰も傷つけることのない願いを|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》は聞く。
(もう一つは、純白の鳥の羽根も舞い踊らせて。)
会場にふわりと風が舞う。温かく優しい風は、四季に囚われない花をふわりと舞い上がらせ、そうして上から降り注ぐ時には、結希の背にある翼と同じ純白の羽根と共に降り注ぐ。
同時に舞うドレスの白百合の柄は『純潔』『無垢』『威厳』。今の結希を表すかのような花言葉。
「わぁ!綺麗!」
「おぉ……奇跡みたいだ。」
天使と花が舞うような記憶に残る舞踏会の様に、風に舞う花びらの様に、靴音高らかに鳴らして、気品の音色を奏でて、優雅に身を翻して。
トン、と音楽と共に結希は止まり、再びカーテシーをすれば、会場中から拍手喝采が沸き上がる。
会場の熱がわっと上がるのを感じた。
「お祭りお祭りっ♪綺麗なお花においしそうなご飯が待ってるー♪」
会場の熱を体の芯から感じながら、上機嫌で弾むように歩くのはエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)。いつも通りの魔法剣士スタイルもきっちりときめて、ローブマントを翻して。胸元にはブルースターの小花を少しだけ纏めて飾り。
『幸福な愛』『信じあう心』な花言葉。
穏やかな青色が示す安らぎと静かな幸福感、咲き揃う様子が互いに支え合っているように見える事から、この二つの花言葉の由来と言われている。
「おすすめの軽く食べられるものを教えてくださーいっ♪」
「はは、元気な子だ!どの料理も一流だよ。そうだね……。」
近くにいた老紳士に勧められたカナッペをエアリィは珍しそうに見て、悩んだ。
それから、クミンを混ぜて焼いたクラッカーに、魚をハーブでマリネしたものを乗せたカナッペを頬張りつつ、会場のマーケット部門を訪れる。
曙色の髪の少女、ニンファを見つける。
「こんにちわ。」
「はいっ、いらっしゃいませ!」
曙色の髪を揺らしてニンファが振り返ってエアリィに近づく。
「ええとね、お母さんにお花をプレゼントしたいんだけど、どういうのがいいかわからなくて……。」
「お母さんにですね、任せてください!お母さんはどんな人ですか?」
自慢の母の事を聞かれて、ほわりと嬉しくなるエアリィ。
「お母さんは、優しくて笑顔が素敵で、見ていると、とってもほわってしちゃうの。だから、そんなイメージのお花はあるかな?」
「……なるほど。それなら……ガーベラとカタバミ、それにカスミソウを添えましょう。」
大きく赤いガーベラ2本を囲むように白いカタバミを飾って、隙間を埋めるようにカスミソウを入れてリボンで纏めるニンファ。
「ガーベラとカスミソウには『優しさ』『感謝』が、そしてカタバミには『母の優しさ』という意味があるんですよ。」
受け取るエアリィは、そこに確かな温もりを感じた。
大事に花を抱えたエアリィの横から、彼女を倣うようにクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)が「こんにちは。」とニンファに声をかける。
胸ポケットに1輪だけ挿したネモフィラを見て、ニンファは挨拶を返しつつ、「失礼します。」と言って、そっとネモフィラの花をクラウスの胸ポケットに追加して飾る。
「なんだか、張りつめているように見えたので、ネモフィラも一人だと寂しいかな、と。ネモフィラは『あなたを許す』そして『どこでも成功を』と言う願いがあるので、一緒なら大丈夫です。」
そうニンファに言われて、クラウスは驚いたように、そして華やかになった胸元に手を添える。
確かに、最近起こっている色んな事件で心の糸がずっとピンと張っていたかもしれない。それが表に出ているとは……。群生したネモフィラと、会場の色とりどりの光景に、ふと心の糸が緩むのを感じた。
「ありがとう。俺も花を選んでもらっていいかな。」
ニンファにそう告げると、喜んで!と返ってきた事にホッとする。
「親友に感謝の気持ちを込めて贈りたいんだ。」
「感謝の気持ちですねっ。」
「太陽のように明るくて、元気で前向きで。そんな人に似合いそうな花、あるかな。」
「ありますよ!」
ガサゴソと多くの花の中に、小さな背が隠れる。
クラウスは親友の事を思う。贈りたい相手、彼はもうこの世にはいないけど……。
「お墓の前に供えたら、喜んでくれるかな……。」
ぽつりとクラウスが呟く。小さく、それは会場の熱気と音楽にいとも簡単に掻き消される位に小さく。
遠くを見るように記憶を辿っていると、はい!っと、ずいと花束を差し出される。
「このピンクの大きいお花はガーベラで、『前向き』の意味があります。それから、こっちはカンナ。苦難を乗り越えた人の熱意から『情熱』『快活』の花言葉があります。」
「なるほど、彼みたいな花言葉だ。」
クラウスが受け取り、代金を置いて、礼を言いニンファの店から少し離れようとすると、ニンファが声をあげる。
「忘れ物です!『悲しみは続かない』ですよ。」
そう言って渡されたのは、ヒペリカム。別名オトギリソウと言われる丸くて赤い実をつけた植物だった。
「こんにちは、お花を買わせてもらえますか?」
ニンファの店に出来た列に並んで、順番を待っていたのは隠岐・結羽(人間(√EDEN)のサイコメトラー・h04927)は、少し緊張した面持ちでニンファに声をかける。ぎゅっと服の裾を掴みつつ、ぎこちなく微笑んでみる。
それにニンファは、花が咲かんばりの笑顔で答える。
「はいっ!喜んで!」
ニンファの笑顔に、ふっと初対面の人に声をかける緊張が和らぐ結羽。しかし、緊張が全て溶けたわけではなく。
(こんな小さな子を食い物にしようなんて、許せるわけがありません!)
これから襲撃してくるだろう喰竜教団の事を思い、そう胸の内で引き締める。まずは、彼女の信用を得ようと交流してみようと考えた。ニンファの笑顔を見れば、人懐っこい、コミュニケーションを取りやすいのは、火を見るよりも明らかだった。
普段、青いヘアピンを付けている位置に付けているのは、白い桔梗のヘアピン。緩いウェーブのかかった金髪をそっと指で上げて、並ぶ花をみる結羽。
「すごいです、ね。こんなに沢山のお花を売るお手伝いをしているなんて。」
「お手伝いじゃないですよ、本業です。私、一人なので。両親はもういなくて。だから、これが仕事で生きがいです!」
両親がいないと言いつつも、そこにニンファの寂しさはあっても悲しみはなかった。
「強いですね。すごいです。」
自分より幾らか下の年齢だろう彼女の強かさに結羽は、見習いたい、とそっと思った。そんな彼女はどんな花を選んでくれるだろう。
「この季節に咲いている、贈り物にぴったりなお花をくださいな。」
「この季節に……それなら、ちょっと大きめですが、ライラックが時期ですよ。」
青、ピンク、紫、白、赤と、枝先に固まるように咲いている小さな花の群を指差し、それから一つ、白のライラックを手に取るニンファ。
「白いライラックは『無邪気』『青春の喜び』を意味します。お姉さん、青春が始まったばかりって感じがしたので、白にしました。白がお好きなのかな、とも。白い桔梗を付けていますし、白い桔梗は『誠実』『気品』『清楚』。清楚でピュアなんですね!」
「ぴ、ピュア……っ!青春の喜び……は、確かに、そうかもしれないです。」
ピュアという言葉に、心がキュッとなり、頬が熱くなる。自分がピュアなのか、それは結羽も考える。が、青春の喜びは確かに感じていた。高校デビューを狙っているのがバレたのかもしれない。そんな色々な感情を隠すように結羽は次の話題を出す。
「白い桔梗は好きな花なんです。えと……あなたとおんなじ色ですね?」
「ニンファって言います。お揃いの色ですね。睡蓮は『信頼』『優しさ』『清純な心』『信仰』など多くの花言葉があって、私も好きなんです。お花も綺麗で!」
にこっと笑って、このライラックは5つに花の切り込みが入っているのでラッキーライラックですよ、と渡してくれたニンファに結羽は、頭を撫でたり、ぎゅってしたい感情が溢れる。可愛い、健気、強か、褒めたい。そんな感情が溢れて……。
(我慢です、流石に手を出してはいけない、いけない……!)
ブンブン首を振ってお礼を何度も何度も行って、付かず離れずの位置に待機するのだった。
(教団だか何だか知りませんが、絶対に守って見せますよ!それが、力を持っている私の責任ですから。)
「ニンファちゃんが守れるように、です!」
フラワーオラティオの門が開かれる、更に前の話に戻る。
家の宝石箱から、シルバーとゴールドの細かな装飾のされた、豪奢過ぎず、シンプルすぎない、ちょうど良いバランスデザインの指輪を朝霞・蓮(遺失の御子・h02828)が取り出す。刻まれたエンブレムは蓮の花。
シルバーで掘られた蓮は、白の蓮を連想させる。その花言葉は『純粋』『清らかな心』。これがフラワーオラティオの場に合いそうだ、と。右手の人差し指にそっとつける。インデックスリングは集中力が高まると言われている。これから起こる事件に集中できるように、と。
フラワーオラティオの門が開かれてから……おおよそ2時間。
蓮は、フラワーオラティオの会場近くの時計下で待ち続ける。指輪の位置を直してみたり、磨き直したり、時計を見てはため息をつく。会場からは喝采と、花の香と、楽団の音とが外まで響く。
「ごめん、待たせたよ。」
「集合時間からもう2時間……。」
待たせた、と言いつつも焦った雰囲気なく、左手を軽く上げて蓮に近づくのは朝霞・風(忘失の竜姫・h02825)。灰色の髪を揺らして、現れる。
それにため息を大きく飲み込んだ蓮は、ただ一言だけ。
「もうフラワーオラティオが始まっているよ、2時間前に。」
蓮はそう言うと、早く入ろう、と風の手をそっとエスコートするように優しく掴む。引っ張りたい走りたい気持ちは抑えて、ここは優雅に。気品ある子供のように。
「ごめんって……。」
そう無表情に近い顔で、でも詫びの言葉を言う風は、蓮の手を振りほどかず会場に足を踏み入れた。
出迎えた会場は既に多くの人が、老若男女問わず楽しんでいる。楽団の音楽も明るく、華やかに響く。
ふと、蓮は風の装飾品を見る。
「……ない。」
「……?」
首を傾げる風に、蓮は握った手を引っ張り、マーケットの方に向かう。風に、ドレスコードの花に因んだものがない事に気づいた。
「いらっしゃい。アクセサリーをお探しかい?」
店主に軽く会釈をした蓮は、並ぶ煌びやかな、花を取り入れたアクセサリー達を見る。どれが風にいいだろう、と。
ふと、花びらが水色で中心が白い花が連なった髪飾りを見つける。ネモフィラ。
「ああ、それはネモフィラって花の髪飾りだよ。」
「これ1つ下さい。」
「あいよ!『可憐』『どこでも成功』『あなたを許す』だよ、花言葉は。」
店主から蓮は青いネモフィラの髪飾りを受け取ると、未だに首を傾げる風にそっと付けてあげた。
「珍しい。折角の祭りなのに雨が降ったら困るよ。」
「今日は1日晴れだよ。」
そう言う二人。風は華やかで可憐な印象を与える髪飾りに何とも言えない気持ちを覚える。
(花言葉は『あなたを許す』。集合時間に2時間遅れたのはさすがにダメだと思ったけど、許されたか。)
大遅刻をした風も、その贈り物に込められた“言葉”に、そっと安堵し、そして、蓮が贈り物をくれたことに、そして、その可憐なアクセサリーに嬉しさと恥ずかしさが徐々に大きくなり。
「は、早く社交ダンスをしよう。会場に紛れないといけない。」
照れているのがばれては恥ずかしい、と誤魔化す為に今度は風がホールの中心へと蓮を誘う。
(この依頼が終って帰ったら、少しはおとなしく言うこと聞くか。)
蓮も風も会場に来ていた子供達に紛れるように社交ダンスを踊ろうとした。周囲の子供達のダンスは……社交ダンスにしては自由で。でも、その楽しそうに踏むステップは、また違う華やかさがある。
蓮と風は、目を合わせて。手と手を取り合い、ステップを踏み出す。
流れるように音楽に合わせて可憐に踊る姿は、可愛らしさの中に大人っぽさがあった。
「”脳”と”血液”ってだいぶ物騒だよね……。部位以前に、やることが物騒にもほどがある……よ。」
風自身もドラゴンプロトコルだから、他人事じゃない、と。今回の依頼についてそっと述べる。
「そうだね。いかなる場合であっても否定しないと。」
丁寧にステップを踏みながら、大人顔負けのダンスをしながら、ひそひそと蓮と風は話す。
蓮はさり気なく視線を会場内の至る所に向けて、対象の少女の場所、さり気なく周囲にいる仲間達の位置を確認する。
風もまた、周囲に視線を送るようにして、会場の配置を見る。
フラワーオラティオの、祭りの熱気は最高潮に達していた。
第2章 集団戦 『ダークエルフ』

フラワーオラティオの盛り上がりが最高潮に達すると同時に、それは起きた。
会場ホールの天窓が、バリンと大きな音を立てて破られる。降り注ぐガラスの欠片が降り注ぐ。
「ドラゴンプロトコル様を喰竜教団の為に!」
そう声を合わせ高らかに侵入してきたのは、多数のダークエルフ達。着地をすると同時に武器を構える。
警備員の制止をいなして、青藍色のドラゴンの翼と尻尾を持つ少女へと視線を向ける。
「主の為に、死んでもらいます!!」
「え……!?」
突然の一瞬の出来事で固まってしまったニンファに、ダークエルフ達が襲い掛かる。