シナリオ

ホカホカしてヒンヤリして狙われて!?

#√ドラゴンファンタジー #喰竜教団 #完結済み作品

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 #√ドラゴンファンタジー
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●√EDENにて
「こんにちは、星詠みの│鳴宮響希《なりみや ひびき》です。みんな、いつもたくさんの依頼をこなしてくれてありがとう。今回は…ああ、先に言っておくけど、ドラゴンストーカー案件だよ。今から説明しますね」
 白い犬(透き通った手足はこの世のものではない証明である)が響希のまわりをふよりふよりと浮く中、響希は特に気にすることなく説明をはじめる。
「先日、√ドラゴンファンタジーで社交会の襲撃事件があったの、覚えています?防衛に行ってくれた人も何人かいたから覚えている人、いると思うんだけど…。
 実は、その社交会の主催さんから、教団から参加者さんたちを守ってくれたお礼として…天然温泉つきのお宿の宿泊券をいただきました」
 ひらりと見せたのは、高級そうな紙封筒。真っ赤な封蝋に浮かぶ模様は貴族しかつかえない判のものである。
「宿の一部の部屋をみなさんの為に貸し切ってくれるそうです。社交会に参加していない人もぜひいらしてくださいとのことなので、交流も兼ねて誰かを誘ってもいいかもしれないね」
 宿は一人部屋から複数人入れる大部屋まで用意されている。どの部屋からも√ドラゴンファンタジーの雄大な景色を見渡せられる良い部屋。部屋に備え付けられているのは、いい香り漂うひのき風呂。
 大浴場に行けば、石作りの天然掛け流し露天温泉に、打たせ湯、壺湯、寝転び湯、ジェットバスといった様々なお風呂に、高温サウナと塩サウナと水風呂と外気浴用のベンチなど、といわゆる「整う」ための設備が備えられている。気分によって色々楽しめそうだ。
 ただし、大浴場に行く時は必ず水着着用で。ついでに男女混浴はできないのでそこは注意だ。(もしもあなたが性別不明ならば…それは良識の範囲での個人の判断に任せることにする。)

 ーーと、そこまで説明したところで、響希の顔が少しだけ真剣になる。
「ここから、なんだけど。宿に泊まりに来ている一般のドラゴンプロトコルを狙う喰竜教団の姿を詠むことができました。温泉の近くには不思議な洞窟があってそこに温泉で熱った体を覚ます人が多いらしくて、温泉ですっかり気が抜けたところを狙って攫おうとしているみたい。
 その中には教団の教祖の姿も朧げではあるけど確認できています。温泉で日頃の疲れを癒すだけでも十分だけど、もしも余裕があれば、教団の討伐もお願いしますね」
 そして、帰ってきたらぜひ温泉の感想を聞かせてね。
 そう言って、響希は白い犬と共にあなたたちを見送るのだった。

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第1章 日常 『わくわく温泉ファンタジー』


●温泉に入ろう、そうしよう!
 さぁ、温泉宿である。
 √ドラゴンファンタジーの首都のひとつから電車を乗り継いで2時間ほど、更に迎えのマイクロバスに乗って1時間揺られあと、社交会主催が招いた温泉宿にたどりつく。
 山の中に建てられた大きな旅館。旅館の名前を告げる看板の横には本日の宿泊者様一覧という掲示が。何人かの一般人の名前や企業が書かれている中、『レイナード・ガードナー様ご招待御一行様』という文字列を見かける。それがあなた達であることはすぐに分かるだろう。

「皆様、ようこそお越しくださいました」
 仲居らしき妙齢の女性がにこやかな笑顔であなた達を迎える。綺麗に整えられた髪、項から足先まできっちりとした着物姿。仲居の中で特に上の立場の者だろう。
「お持ちの招待状を見ればわかります。皆様、ガードナー様のご招待ですね。この日を大変お待ちしておりました。首都からここまでおつかれでしょう。本日お過ごしいただくお部屋に早速ご案内させていただきますね」
 さあ、みなさん。と仲居が声を掛けると、次々とスタッフが現れて、貴方たちを宿泊部屋に案内してくれるだろう。

 部屋を確認して、荷物を預けたら…。
 早速、温泉に入りにいこうではないか!
白・琥珀

●いいことした後の温泉は最高!
「おお、貸切温泉か!良い事はやっておくもんだな」
 ホクホクとした顔で招待状を受け取る白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)。
 と、同時に、琥珀はジィッと星詠みの顔を見つめる。
「…社交会の事も星詠みあっての事だから、星読みの坊主も楽しめりゃいいんだが」
「そう言ってくれて嬉しいです。でも…僕はここで星詠みとしてお仕事しないと。
 お休みの日に、改めてシロさんと一緒に行こうと思います。ね、シロさん?」
 星詠みである響希は今回の事件が無事に収束するまでは星詠みを続けなければならない。チラリと響希が視線を動かした先には白い犬がいて、肯定するかのようにバウバウと吠えた。
『俺たちの事は気にするな』ーーそう語りかけているようだった。

 そんなやり取りを経て、琥珀は温泉宿にいた。今回は男性の姿である。
 個室の檜風呂もなかなかに魅力的だったが、まずは大浴場に向かう。男性用の水着に着替え、己の本体である勾玉は水気厳禁なので貴重品入れに厳重にしまう。長く美しい白髪をきっちり一つにまとめると大浴場への扉を開いた。

 入浴前の湯浴みと掛け湯を済ませたら、琥珀はそのまま露天風呂に足を運んだ。外には緑色の生える観葉植物たちが植えられ、石作りの露天風呂はなかなか風情を感じる。
 琥珀は露天風呂のお湯に足を入れるとそのまま真ん中まで移動し、その体を一気に沈める。
「ーーはぁあああ…」
 ため息に近い、脱力しきった低い声が露天風呂の中で響く。これまでにたまりに溜まった疲れが一気に吐き出されたような。
「…温泉は、やっぱり、いい…」
 見目麗しい姿にはあまり似つかない言葉。仕方がないのだ。琥珀は、並の人間とは違い、悠久の時を過ごしてきたのだ。本体は紀元前生まれだし、この体もゆうに二千年以上も共にしている。多少のガタなど来ていてもおかしくないはず、なのだが。それでもこうして在ることができるのは、きっと琥珀の努力の賜物なのだろう。
 今、このひと時だけは、琥珀の癒しの時間になっていることだろう。
 温泉に身を委ねる琥珀の顔は、とても幸福に満ちていたのだった。

エアリィ・ウィンディア

●ひさしぶりの休暇
「おーんせん、おーんせん!」
 意気揚々と、水色のワンピース水着を揺らしながら大浴場に向かう少女がいた。
 青い髪と大きな瞳が印象的な、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)だ。ひさしぶりにのんびりできる!と招待状を受け取ってニコニコと笑顔を浮かべていた。
(まぁ、あとを考えたらのんびりしすぎるのはダメだけど…)
 若干11歳の少女にしてはちょっと大人寄りの考えがよぎってしまうけれど、今はそれは置いておいて。今日はリフレッシュすると決めたのだ。少女は大浴場へつながる扉を開けた。

 エアリィもまた湯浴みなどを済ませてから、外に出る。
「わあ…!露天風呂、すごい…!」
 まず目の前に映ったのは石作りの露天風呂。メインに据えられている事もありダイナミックな印象を受ける。その近くでトトト…と水滴が連続して落ちる音がする。防水加工された看板には『打たせ湯』という文字が書かれている。
「ええと、確か…滝みたいなものだっけ?おもしろそー♪」
 露天風呂はとりあえず後にすることにして…まずは打たせ湯に向かうことにしたエアリィ。恐る恐る身を寄せてみると、エアリィの肩と背中に向かって勢いよく水滴が落ちていく。
「うわわわわわわ」
 成人ならちょうど良い感触だが、小柄な少女にはちょっとくすぐったいらしい。
「へ、変な感じー!で、でも慣れたら、ちょっと気持ちいい、かも…??」
 少しだけ不思議な感触を楽しんでから打たせ湯のコーナーから離れる。さて、次はどうしよう?と思ったらハウス型のコーナーを見つける。
「ん?塩サウナ?」
 興味を持ったエアリィはそのまま塩サウナに入っていく。じんわりとしたサウナ室の中央には大量の塩の山とそれを流すためのお湯溜め、サウナの端にはプラスチックの椅子が用意されていた。すでに一人の女性がサウナを利用をしていた。エアリィに気づいた女性はにこりと微笑む。
「…あら、こんにちは、お嬢さん。塩サウナの使い方知ってる?」
「こんにちは!えっと、確か塩を擦り込むんだっけ?」
「そのまま塩を擦り込んだらお肌が傷ついちゃうわ。肌の上に塩をそっと乗せて、サウナの熱で溶けるまでじっと待つの。大体10分くらい、かしら。乗せている塩が透明になるまで溶けたら、あそこにあるお湯で流して…最後に出口にあるシャワーで綺麗にするのよ。」
「へぇ…!そうなんだ…!!」
 女性からの教えに従って、早速エアリィも実践。塩サウナは通常のサウナより比較的温度が低めのため、年若いエアリィでも過ごしやすい。塩を肌の上に乗せて椅子に座ってジィッと待っているうちに、塩が溶けていき、じんわりと汗が垂れていく。
「あ、そろそろ良いかも。あんまり長くいるとのぼせちゃうわ」
 あらかた塩が溶けたところで、女性と共に塩を洗い流し、出口のシャワーを浴びると、入る前よりもずっと爽快な気分を味わえた。なんて、気持ちいいのだろう!
「わ、すごくスッキリ…!それに、お肌がツルツルだー!美容にいいんだね!」
「ふふ、サウナの魅力を教えられたようでよかったわ…それじゃあ私はこれで。そうだ、あそこに外気浴用のベンチがあるから水分とりつつ休むといいわよ」
 そう教えて、女性は他に行きたいところがあると伝えて別れを告げる。エアリィはお礼の言葉をそこそこに、教えてもらったベンチに腰を下ろした。サウナと外では気温差は大きく感じる。だがその気温差が心地よく感じた。時折拭いていくる風がありがたい。
「ふー…休憩休憩…♪」
 この休憩が終わったら次はどのコーナーに行こう?
 エアリィの温泉巡りはまだまだ続きそうだ…。

凍雲・灰那
ルーシー・シャトー・ミルズ

●「わーい温泉だー!」
ーー……。
「…の、前に。部屋に荷物を置かないとな」
「そうだねぇ、荷物を置いてスッと休も」
 ひとしきり声をあげてスッと冷静になった凍雲・灰那(Embers・h00159)の隣で、ルーシー・シャトー・ミルズ(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)がふわっと笑う。
 そこに仲居に呼ばれた若いスタッフが駆け寄ってきて、「ようこそお越しくださいました。お荷物、お持ちします。お部屋ご用意していますのでご案内いたします」と言葉を紡いだので、二人はありがたく荷物を預けて案内を受けることにした。
 案内された部屋は畳と木の香りがする立派な部屋だった。主室と呼ばれる広間にあたる部屋にはちゃぶ台を囲むように座布団が敷かれており、ちゃぶ台の上には心ばかりの緑茶のティーバッグと湯呑み、そして数種類の茶菓子が大きな漆の器に入っていた。ポットは入口すぐのところに設置されているようだ。そして、窓に面した広縁には二人が向かい合って座れるハイテーブルとハイチェアが用意されている。
「ザ・旅館って感じがしていいよねぇ」
「うんうん、旅館ってこういう部屋だよな。ちょっと広縁で菓子摘んでくか?ルーシー」
「わーい!ルーシー、お菓子、だーいすき!」
 ふわふわとした笑みを浮かべるルーシーと、部屋の良さに大満足の灰那。二人はお菓子を広縁を持っていき、まずは部屋とお菓子を堪能して……

●「わーい温泉だー!」※TAKE2
「それさっきも言っ……はははっ!!」
 部屋とお菓子をしっかり堪能した二人は水着に着替えて大浴場にやってきた。
 ルーシーはどうやらツボにハマってしまったようで、しばらく悶えてしまっていたが、なんとか息を整えて落ち着かせた。目の端にはうっすらと涙を浮かべていた。
「…なァに笑ってんだルーシー?」
「ははっ、いいね、おねーさんのそういう元気、だぁいすき。あたしもいっぱい元気になれちゃうなぁ」
「そうかよ?まぁ、いいや…さっさと身体洗って湯船浸かろーぜ」
「うんうん、そうしましょ」
 どうやらそこまでルーシーのツボに刺さるとは思っていなかった模様の灰那はポリポリと頬を掻きつつ、ルーシーを促す。二人はそれぞれ身体を綺麗に洗い整えると、早速露天風呂を堪能することにする。
 大浴場のメインである露天風呂は石作りの立派なものだった。源泉掛け流しということもあり、すでに多くの温泉客がその湯を堪能しているようだった。二人も空いている場所を見つけ、そこに身体を沈める。
 己の身体の全てを温泉に委ねた瞬間、二人の腹の底から、大きなため息にも近い、深い深い声が響いた。
「…やっぱ、風呂は良いな…この、身体の奥底まで熱が染み渡る感覚…じんわり温まる気持ちよさは格別だぜ…」
「…ほんと、あったまるよね〜…とても心地がトレビアンでしょう?」
「ああ…ルーシーはどうだ?溶けてないか?きひひっ」
「ふふ〜…あたしも思わず溶けちゃいそ…」
 冗談のつもりだったが、ルーシーがあまりにも自然に返すので、思わず灰那はルーシーを二度見する。そんな反応を見せる灰那にルーシーはイタズラっぽく笑った。
「冗談冗談、身体がお菓子で出来てるけど、種類は自由に、比率は5%から100%まで変えれるし」
「なんだ、驚かすなよ…でも、それだと…お前さんは、サウナはちと厳しそうだな」
「あー…サウナは、確かにそうかも?試したことはないけどそれこそ溶けちゃいそうだなぁ」
 そして、お互いふぅ…と息を吐くように露天風呂を堪能する。これまでの苦労や疲れが、温泉に溶けていくような、流れていくような。聞こえてくるのは、風の音と観葉植物の擦れる音と、お湯の流れる音溢れる音。微かに人の会話が聞こえるくらい。それ以外の「雑音」は、ない。

「……まぁ、でも」
 不意に、ルーシーが言葉を紡いだところで、灰那はルーシーの方に向き直す。
 いつの間にか灰那の顔を見つめていたルーシーは、彼女に向けて綿菓子のようなふわふわな笑顔を浮かべて見せる。
「こんな風に溶けちゃいそうなくらいの穏やかな幸せが…いっちゃん好きだよ、あたし」
「……そォかい。溶けれちゃ困るが、幸せにゃ存分に浸っていきな」
「ふふ、そうする〜」
 そして、またお互い、静かになる。
 そうして、お互いしっかり満足するまで、露天風呂を堪能し続けるのだった。
 
 

シンシア・ウォーカー

●レッツ・トラベリング!
 星詠みから招待状を受け取ったシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は、とてもワクワクしていた。そう、とてもワクワク。顔から溢れるくらいのワクワク。
「件の社交かいの騒動には関わっておりませんが、ここはしれっと混ざっておきましょう。
 だって温泉行きたいんですもの!旅行は私の原動力!」
「あ、あはは…喜んでもらえたら、よかったです。楽しんでいってくださいね?」

 温泉宿の部屋に着いたところで、貴重品以外のものは一旦部屋に置いて、シンシアは早速大浴場に向かった。個室に備え付けられている檜風呂も気になるのだが、そこはまた後ほど。今は日の出ている内に大浴場に向かい、さまざまな設備を楽しみたいーーというのがシンシアの考えである。
「こんにちは!大浴場に行きたいのですが、水着をお借りできませんか?」
 大浴場に向かう前にシンシアは総合ロビーに立ち寄る。するとスタッフがラミネートされたA4サイズほどのカードを渡される。借りられる水着は男女それぞれ3種類ほどあるらしく、そこから選ぶらしい。おすすめは誰でも着やすいワンピースタイプのものであると伝えられると、シンシアは素直にそれを選ぶことにした。自分に合ったサイズも指定すると、スタッフは丁寧に袋に入れられた水着を貸してくれる。
「ありがとうございます。お借りいたします。あ、あと…」
 水着を受け取りつつ、シンシアは最も聞きたかったことをスタッフに尋ねる。
「あ、あの、湯上がりにお酒……じゃない、フルーツ牛乳とかあったりするのでしょうか!」
 大人っぽい姿をしたシンシアから飛び出したのは、なんと可愛らしい疑問。
 スタッフはそんなシンシアを微笑ましく思いながら、「もちろんご用意ありますよ。湯あがりすぐのお酒はあまりおすすめできませんが、美味しいお酒もありますからね」と答えてくれるのだった。

 シャワーや湯浴みは簡単に済ませ、金の髪はお風呂の湯につかないように結い上げたシンシア。彼女が早速向かったのは、大浴場のメインである露天風呂である。
 早速シンシアは露天風呂に足をつけ、そのまま全身を露天風呂に委ねる。例外なく、シンシアも「はふぅ…」と声が漏れてしまう。
 そして、利用客たちの隙を見て、√ドラゴンファンタジーの景色を眺められる位置を見つけてそこまで移動すると、改めて温泉を堪能する。
「私の冒険者生活の原点といっていい√ドラゴンファンタジーの景色を楽しみながら湯に浸かれるなんて……幸せですねーー!」
 幸福に満ち溢れたシンシアの声が大浴場中に響き渡るのだった。

第2章 集団戦 『鉱石竜「オーアドラゴン」』


●教祖と鉱石竜
 ここは、√能力者たちがお世話になる温泉宿から少し離れた洞窟。
 温泉で火照った身体を冷やすために訪れる冷所的場所。テイクアウトしてきた飲み物と合わせれば冷却効果はより一層強くなる。
 洞窟は距離はあるもののほぼ一方通行。U字型にゆるりと曲がりながら、元の出入り口に戻っていく。実に簡単な構造。
 ……のはずなのだが……
 よくよく見ると、洞窟の端には、不自然に開けられた横穴がいくつもあった。

「ふふふ…」
 どこかの横穴の奥。
 そこで、青白い肌の女が不敵な笑みを浮かべている。そして傍には、同じように青い身体の鉱石竜たちがわらわらと蠢いていた。
「ふふふ…貴重なドラゴンプロトコル様がこんなにいらっしゃるなんて…!こんな場所でぬくぬく過ごしているくらいなら、我らの願いのために身を捧げて頂けなくては…温泉で清めた身体ならより優れた糧となるはずです…!」
 正直何を言っているかわからないが、とにかくドラゴンプロトコルならなんでもいいらしい。
 そして、女ーー教団の教祖は歪んだ笑みを浮かべる。
「さぁ、鉱石竜たち。ドラゴンプロトコル様たちを我が元に連れてきなさい…!!」
 教祖の一声で鉱石竜たちが、それぞれの横穴から飛び出していく。

 数分の後、冷え切った洞窟から、利用客たちの悲鳴と助けを求める声が響き渡るーー!
=== ===
【第2章:補足説明】
第1章では素敵なプレイングをありがとうございました。
第2章は鉱石竜「オーアドラゴン」たちとの集団敵戦です。
不規則に開けられた横穴からオーアドラゴンがどんどん出てきます。
純粋に戦闘していただいて大丈夫ですが、たくさんの横穴から教祖「ドラゴンストーカー」がいる横穴が見つかると第3章の判定がちょっとだけ有利になります。
プレイングの余裕があればぜひ…アイデア、お待ちしております。
=== ===
白・琥珀
シンシア・ウォーカー
エアリィ・ウィンディア

●旅に「偶然」はつきもので
 温泉ですっかり癒された√能力者。だが、人々の悲鳴や助ける声が聞こえてくるものなら現場に駆けつける。それが彼らだ。
「……あっ!?」
 それぞれが洞窟入り口に到着したところで、とある3人の声が重なった。彼ら彼女たちは、同じ旅団に所属している知り合いだったのだ。
「シンシアさんに、琥珀さんも一緒だったんだ!」
「館で見知ったお二人と会えるとはっ!偶然ですね!」
 お互いの存在を確認して嬉しそうに手を取り合うのはエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)とシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)。
「若い嬢ちゃんたちが温泉とか結構渋いな」と白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)もころりと言葉を転がす。
「温泉はまず大浴場のでかい風呂だな。普段は入れない湯船に入るのがいいだよなぁ」
「いいですよねぇ…それと他にもいろんな温泉がありましたね…エアリィさんはどんなのに入りました?」
「あたしは打たせ湯とか露天風呂とかかなぁ。あ、塩サウナにも入ったよー。お肌すべすべになっちゃった♪」
 そうして磨きたての肌をパアッとお披露目するエアリィ。それを見てシンシアは嬉しそうに、琥珀は微笑ましそうに笑う。
「あ、そういえば琥珀さん、あのお宿、お酒あるらしいですよ。終わったら一杯行きません?」
「酒か…ならまずは終わってからだ、な。なんだい、こんな爺でも誘ってくれんのかい?」
「あ、いえ、逆ナンとかではなく!?ですが…是非いきましょう!」
 この後の約束を取り付けて、3人は洞窟の奥へと進んでいく。

 洞窟の中では悲鳴が響き渡り、鉱石竜「オーアドラゴン」たちに追われ逃げ惑う人々がいた。その中には教団が狙うドラゴンプロトコル族の者もいた。今のところそのまま拐われてしまった者はまだいないようだった。
「んー…なんか竜みたいなのが多いなぁ…そして、この…『いかにも何かあります!』って横穴が気になる…」
 エアリィの視線の先には多くの鉱石竜、そして鉱石竜たちが出入りする不自然に穿かれた横穴たちが数多く。
「む…なら、それぞれ役目を分けるか。前にこいつらと遭遇したことがあったが、|俺《コハク》は鉱石じゃないから興味を引かないらしい…俺があいつらを何とかしよう」
「では、私が囮となりますね…エアリィさんは調査をお願いします!」
「わかった!頼りにさせてもらいますっ!
……それじゃあ、いくよ!」
 それぞれの役割を把握したところで、3人は一斉に行動を開始する。

 まずは動いたのは琥珀だ。自らの本体である勾玉に言葉を送り込むと、たちまち鞭に変化する。鞭となった己の本体を手に取ると、近くにいた鉱石竜たちに叩きつけた。叩きつけられた竜がギャウ!と叫んだ瞬間、他の鉱石竜たちもこちらが振り向く。
「こんだけわさわさドラゴンが湧いて来るなら、鞭をぶん回しても壁にぶつかったり邪魔にならんだろ」
 ドラゴンプロトコルたちを襲いかかっていた竜たちの興味もあなたたち√能力者たちにすり替えられたことで、彼らは寸でのところで避けることができた。すかさず、シンシアが声を上げる。
「みなさん、ここは私たちに任せて急いで逃げてください!」
 凛としたはっきりとした声に襲われていた人々はハッと我に返り、シンシアの誘導に従っていく。
「あ、ありがとう、勇気のある方!」
「どうかあの竜たちを倒してください!」
 口々にそう告げて、人々は慣れない浴衣姿のまま走っていく。彼らが襲われる危険性はひとまず去ったようだった。
 グルル…と鉱石竜が唸ると同時に、青い体から湯気が漏れる。ガゥっ!と叫ぶとともに打ち出されたのは赤く爛々とした鉱石。それは竜の体内で熱せられた鉱石の弾丸だった。着弾とともに内包されたエネルギーが弾け、爆発を引き起こす。
 囮役を買って出たシンシアは火炎の弾幕に怯むことなく、鉱石竜たちに突っ込んでいく。己の見切りの良さと逃げ足には自信があったからこそ、彼女はこの役割を受け持ったのだ。素早く動き回るシンシアに対し、四足歩行で寸胴な鉱石竜の動きはうまく合わせられずにいた。そのままレイピアで鉱石竜を次々と振り払っていく。
「ーー来なさい、お前たち!」
 高らかに宣言すると、シンシアの周りで漂っていた|死霊《インビジブル》たちが一斉に動き出す。不自然に穿かれた横穴のどれかにドラゴンストーカーがいるのは確かだ。どの横穴にいるのか突き止めるために、シンシアは|死霊《インビジブル》たちを放ったのだ。

 一方で、エアリィもまた、【高速詠唱】で素早く詠唱の言葉を紡いで、|精霊交信《エレメンタル・コンタクト》を試みていた。目の前にいるインビジブルたちを精霊の姿に変化させた上で問いかける。
「ねぇ、精霊さん、教えて。青白い肌の女の人…見なかった?もし見かけているなら、どこにいるか教えてもらえると嬉しいんだけど…」
 エアリィが問いかけるとインビジブルたちが透けた身体を震わせ、光の筋を残しながら、いくつかの横穴に導いていく。何度か出入りしているのかはたまた複雑な通路があるのか…そこまでわからない。シンシアが送り込んだ死霊たちも同じような反応だった。
「…複数あるって、こと?」
「こちら側を撹乱させようとしているかもしれないな。…他に仲間もいるようだし、もしかしたらあちら側が正解を見つけ出すかもしれない」
 精霊にお礼を伝えた後、エアリィが情報を共有をしている中、琥珀がぶんっと鞭を振るうと、鉱石竜が吐き出した赤熱の鉱石を素早く絡めとる。それを見た鉱石竜がわずかに怯んだ。彼らの怯み顔を一瞥した後、琥珀はそのまま赤熱の鉱石を投げ返し…青い竜たちが亀のようにひっくり返っていく。
 だが、どれだけひっくり返しても吹っ飛ばされても、次々と新たな鉱石竜たちが横穴から湧き出ていくようだった。
「さて、エアリィさん、シンディさん。まだこいつらは遊び足りないようだ」
「…みたいですね、一気に片付けませんと」
「だね!どんどんぶっ飛ばしていくよー!!」
 息を整え、あるいは武器を構え直し、3人は鉱石竜たちとの戦いを続けるのだった。
 教祖の居場所の特定は、未だ、わからずのまま。

ルーシー・シャトー・ミルズ
凍雲・灰那

●氷炎混じりて〜お魚さんを添えて〜
 温泉のおかげですっかりホカホカいい気分。だけど、そんなこと敵陣営はそんな事情も状況も考えている訳なくて。
「はぁ…人が気持ちよく温まってるってェのによ…」
 助けを求める声が聞こえて来たのなら動いてしまいたいのが、√能力者ならではの|性質《サガ》であると言われたらそれまでではあるが、凍雲・灰那(Embers・h00159)の顔はとても不機嫌だ。
 そんな表情になってしまうのも仕方ない。つい先程まで、ルーシー・シャトー・ミルズ(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)とまったりのんびりと露天風呂を堪能し、癒されている最中だったのだから。
「……無粋な真似しやがって。やるぞルーシー」
「そうだねぇ、やりますかあ。折角なら、楽しい気分のままがいいよねえ」
 苛立ちの表情を浮かべたまま灰那と、ああいつものお姉さんだなぁとほんわりと思っている様子のルーシー。ざばっと露天風呂から上がると、早々に着替えを済ませ、現場である冷たい洞窟へ向かう。

 洞窟ではすでに先に到着していた他の√能力者たちが戦闘や調査を行っているようだ。避難誘導も済んでいるようで、人的被害の可能性はどうやらない様子。彼らと同じように、二人もそれぞれ行動を開始する。
 動き出した二人の足音に気づいた鉱石竜が振り向き、ウガァっ!と声を上げる。一匹の咆哮に、他の鉱石竜たちも返事をするように振り向き、一斉に襲い掛かろうとした。
「洞窟、か…まァ、戦場選びのセンスはそう悪かねェぜ?
……相手がオレでなけりゃ、だが。さァ、土竜叩きの始まりだ」
「ふふ、おねーさんの気合いたっぷりだぁ〜。それじゃあ、私も〜…げーむすたーとっ!」
 鉱石竜たちに突撃したのは、灰那だった。アイスブルーを溶かした灰の髪を揺らしながら、彼女から放たれたのは、焔の精たち。赤く燃える妖精たちを素早く指示を送る。
「うろちょろされんのも癪なんでな。出てきた傍から焼いてやれ!!」
 灰那の言葉を受けて、焔の精たちが動き出す。洞窟内を軽やかに動くと鉱石竜たちにむけて熱線が放たれる。熱量識別管理の効果もあり、鉱石竜の動きは手に取るように分かり、狙いを定めるのは容易だった。
 熱線によって背の鉱石がジュッと焼かれるとギャウっと声が上がる。対抗するかのように別の鉱石竜が己の体熱で高温化した鉱石を吐き出し、次々と灰那を狙った。広いとはいえ、ここは洞窟の中。行動範囲はどうしても絞られる。全ては回避できず、灰那の衣服が燃え落ち、肌を焼く。痺れるような火傷の痛みを感じながらも、灰那の顔はどこか余裕そうだ。
「氷に強いなら、火に弱い?…そう思うか?残念。
オレは、どっちにも強い。」
 灰那の口角が少しだけ上向く。それは、自信と強さの表れ。火炎にも氷結にも耐性のある灰那に、今現在発生している事象について恐れるものはない。
「炎と冷気はオレの領域だ。てめェら蜥蜴風情に手古摺るかよッ!さっさと住ねッ!! 焔の精共ッ!燃やしまくれ!!」
 鉱石竜に負けじと灰那の声が洞窟内に大きく響くと、焔の精たちが彼女の声に応えるかのように大きく動き出す。移動速度は加速し、熱線はより太くなり鉱石竜たちを確実に焼き貫いていく。妖精の熱に耐えられずに倒れていく仲間を見て、他の鉱石竜たちがわぎゃと戸惑いの声を上げるが、負けじと声を上げた。

 時、同じくして、ルーシーはというと、灰那が戦闘に徹している間に、調査役を受け持っていた。
 己の√能力で呼び出した|お魚さん《インビジブル》を索敵用に仕上げ、それぞれの横穴に次々と放っていく。
「さあ、見つかるかなぁ?」
 ルーシーたちが索敵を進めている間にも、灰那と鉱石竜との戦闘は激しさを増していく。だが、焦っている様子はない。ルーシーがいかに灰那を信頼しているのかがよくわかる。
 すると、とあるお魚さんがルーシーの元に飛び帰ってきた。どうやら、一部の横穴たちが共通の出入り口になっていて、そこから別の空間に繋がっているらしい。その別の空間にーー、|教団の教祖《ドラゴンストーカー》が待ち構えているようだ。
「あら、なんて優秀なお魚さんたち!ありがとうねえ」
 時間はかかったが調査を終えたルーシーも、灰那の戦闘の支援に混じっていく。にこにこほわりと綿菓子のような甘い笑顔を浮かべながら。
「お姉さん、お待たせ〜!ドラゴンストーカーの場所わかったから、あとはこの子たちを一気に倒すねえ。突撃〜!!」
 パパンと手を叩けば、捜索で大活躍してくれていたお魚さんたちが次々と繋がれ一つの塊になっていく。洞窟の通り道ギリギリの大きさの巨大な大玉になると、そのまま鉱石竜たちのところへものすごい勢いで転がっていく。まるで、ボウリングのような勢いのまま、ピンに見立てられてしまった鉱石竜たちが次々と吹っ飛ばされていく。
「おー、ナイスだルーシー!」と、灰那はひゅう!と声を上げる。
「で、見つけたんだって?」
「うん、いくつかあるけど、とりあえず近くのある方に急いでね〜。あ、他の人もよかったらおいで〜!」
 いくら倒されても消されても、鉱石竜たちは無尽蔵に湧いて出てくるようだ。ルーシーは灰那や他の√能力者たちに声をかけると、自分の近くにある一番近くの横穴まで導いていく。
 穿かれた横穴には魔法陣が描かれており、光を放ちながら鉱石竜を生み出しているようだ。その鉱石竜をとりあえず倒してから、ルーシーをはじめとする√能力者たちが魔法陣へ飛び込んでいく。

 しばらく、いや一瞬の時を経て、√能力者たちは別空間へ移転するのだった。

第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』


●突き止めた先にて
 |喰竜教団の教祖《ドラゴンストーカー》の眉間に皺が寄る。
「……ま、また、お前達、ですか…!!」
 彼女の赤い瞳に映るのは、鉱石竜達を掻い潜り、召喚魔法陣を見つけ出し、そこから逆侵入したことで彼女の場所を突き止めた√能力者達の姿。
 彼らの姿を見て、教祖は狂乱の声を上げる。彼らに倒された記憶が、次々と呼び起こされたのだろう。
「ああ、どうして!どうして!!」
 鋭く貫かれるような、ヒステリックな声を上げ、青白い肌は怒りなのか悲しみなのかブルブルと震え上がる。
「私達は、ただ!無垢なドラゴンプロトコル様達をいただいて、真竜に至りたいだけなのに!そんな純粋な願いを、想いを、目標を、展望を、欲望をッ!
 何故!何故!!いつもいつもいつもいつもいつもぉっ!!邪魔するのですかッ!」
 カルトな教団の教えに狂わされた教祖は髪を掻き乱しながら、その背に背負う大剣をぶんと抜き、威嚇するかのように√能力者達の眼前に振り下ろす。

「……もう、いい」

 赤い瞳は暗く澱む。瞳が滲ませるのは、√能力者への怒りと復讐心。
「そこまで邪魔をするのなら、容赦はしません。我が身に喰われるか…我が崇高なる剣を持って切り刻まれてしまいなさいッ!!」
 青肌の教祖がそう吐き捨てると、貴方達に向かって攻撃を開始しようとする。
 さぁ、このお話の、最後の戦いが始まる。
シンシア・ウォーカー
白・琥珀
エアリィ・ウィンディア
凍雲・灰那
ルーシー・シャトー・ミルズ

●狂乱と、戦え。
 冷え切った空気。誰かが呼吸する度、冷たい空気は白く濁る。
 澱ませた赤い瞳のまま、√能力者たちの姿をぎりりと睨みつけ、攻撃行動を始めようとするドラゴンストーカー。だが、貴方達もまた、彼女に対してそれぞれ想いを抱いていることだろう。

「…ええ、またです。奇しくも…私も同じ感想を抱いております」
 柔らかな微笑を浮かべたまま、だがその声色は真剣そのもので。シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は彼女に向けて、冷静に、淡々と、言葉を告げる。
「|真竜《トゥルードラゴン》に至るための純粋な願いと言われても、やっていることはただの虐殺にしか見えないのですよ…こちらも容赦する気はありません」
 シンシアは愛用の魔導書を片手に一歩後ろへ。その隣には、精霊銃『エレメンタル・シューター』を左手に携えたエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)の姿があった。
「…貴方も、です」
 自分よりも若く幼い、美しき蒼空の色を写した少女にも、教祖は呪詛を吐き付けるかのように言葉を投げる。
「貴方も、ずっと、ずっと…っ!『|私達《喰竜教団》』の邪魔ばかり…どうして何度も邪魔をするのです…!」
「え、だって、人の命を奪おうとするのを黙って見てるわけないじゃん…まぁ、その辺は価値観の違いだと思うけど…でも…」
 ジャキ、と。精霊銃に弾丸が、精霊の力が込められた弾丸が|装填《チャージ》される音が空間内に響く。同時に、鞘から抜かれるのは、銀の剣ーー精霊剣『エレメンティア』。
 剣を掲げたエアリィは、やはり、いつもと変わらない。空のように晴れやかで、純粋で、自信に溢れた笑顔を浮かべてみせた。
「助けられる命があるなら、それを全力で守るのがあたしだからっ!」

「…『助けられる』、ですって?」

 赤い瞳がぐらりと揺れる。その瞬間、教祖の青白い体が跳ねるように翔けだした。血走った目のまま、大剣をおおきく振り上げ、シンシアとエアリィに近づいてきたのだ。
「私達こそ、欲望に塗れ汚れ切った世に放たれてしまった、哀れなドラゴンプロトコル様がたを救済する者です!貴方達は……√能力者達はッ!崇高なる私達の尊き行いを邪魔し、愛しき教えを汚し愚弄する行為を行っていることをーー何故、分からないのです!?」
 エアリィの真っ直ぐな言葉は、彼女の居場所である喰竜教団の在り方そのものを否定する言葉だった。すぐにシンシアが高速詠唱と全力魔法による光魔法を以て牽制をするが、逆鱗に触れられてしまったドラゴンストーカーに怯みはない。
 急激に接近されたために、銃撃による牽制攻撃をするものの、エアリィは咄嗟の回避が取れない。教祖の怒りの大剣が、エアリィの頭部に向かって大きく振り下される!
「エアリィさん、危ない!」
 瞬時に状況を判断したシンシアは、右手に収めていた魔導書を空高く放り投げ、そのままエアリィを突き飛ばした。そしてそのまま、エアリィを狙っていた大剣に向けて右手を大きく伸ばす。
 光を帯びたシンシアの掌は、大剣の一撃すら弾く『盾』となる。
(ーー|無効化《ルート・ブレイク》……!?)
 振りおろし攻撃が弾かれ、大剣の重心が大きくずれたことで、ドラゴンストーカーの体がわずかに揺れる。その、一瞬の隙を、シンシアは見逃さない。手に戻ってきた魔導書を瞬時にしまい、その代わりに取り出したレイピアで教祖の腹部に向かって素早く連続で突き刺した。隙のできた教祖に回避はできず、そのまま青い肌が突き破られる。
「ぐ…ぅ…っ!」
 低い唸り声をあげ、穿かれた腹部をぎゅうと押さえながら、教祖は弾急いで後方へ下がる。瞳はいまだに赤く澱んだまま、睨みつけている。シンシアは、臆することなく声を上げる。
「エアリィさんには、手を出させませんから!」
「あ、ありがとう、シンシアさんっ!」
「大丈夫か、二人とも!」
 間一髪をなんとか逃れた少女ふたりに声をかけたのは、白・琥珀(一に焦がれ一を求めず・h00174)。男性の姿をした琥珀の目は青いままだったが、あまりにも悪手で自分勝手な教祖に対して怒りを滲ませていた。
「…貴方も、ですか」と、教祖は琥珀に対しても吐き捨てる。琥珀は、その言葉に動じることはない。冷え切った氷空の瞳のまま、彼女を切り捨てるための言葉を紡ぎ返す。
「純粋な欲望をほっとけるわけねぇだろ。それが許されるなら、他人に対して好き勝手しても「純粋だから」「子供だから」とかで許されるとか、頭おかしいだろうが。…まぁ、頭おかしいから、他人を喰らって真竜になるとかトンチキ言い出すだろうが」
「それが、ドラゴンプロトコル様がたの救いで幸福であると、何度も伝えているはず、なんですがねェ…っ!」
 ニヤリ、と口角を歪ませると、ドラゴンストーカーはふたたび少女二人に接近する。彼女が次に狙ったのは、シンシア。青白い全身をシンシアに突進させたことで、シンシアの細い体が簡単に飛んでいく。
 √能力を必要としない純粋な肉弾戦なら、シンシアの能力によってその効果効力が無効化されることはない。突き飛ばされたシンシアの体は、そのまま冷たい石壁に打ち付けられる形になる。
「「シンシアさん!?」」
 エアリィと琥珀の声が重なる。重なった声が届いたおかげか、シンシアは衝撃を受けた箇所から血を滲ませながらも、ふらりふらりと立ち上がることができた。だが、打ち付けられた衝撃だろう、シンシアの息はかなり乱れている様子だ。
「あははははッ!油断しましたねぇ!!」
 形勢逆転を強く確信したドラゴンストーカーが狂ったように|嘲笑《わら》いだす。そして、その場に残されたエアリィに向けられた大剣の剣先が怪しく煌めいた。
「そこからでは|無効化《ルート・ブレイク》も、何もかも間に合わない!大切な仲間が真っ二つになるところを見ていなさい!!」
「させるか…っ!!」
 絶えず続けた高速詠唱と多重詠唱による魔力溜めによって動けずにいるエアリィを救出しようと、琥珀は己の本体である勾玉を掲げる。
「我が身に宿し月の意思よ!…ーー間に合え!!」 
 己と勾玉を重ね合わせ、琥珀の美しい姿は霊剣の一つ「須佐」の姿に変じる。瞬間、√能力【月降ろし】の発動によって空間引き寄せ能力を得た琥珀は、そのままエアリィからドラゴンストーカーを己の元へと引き寄せた。
「なっ…!?」
「見通しが甘かったな、|狂人《ドラゴンストーカー》!!」
 勝利を確信していたはずのドラゴンストーカーは、突然の、再びの形勢逆転に表情が歪む。その表情を睨みつけたまま、須佐の姿をした琥珀はそのまま己の刀身を振り下ろす。ざくりと、青白い肌に一線を走らせると、教祖が耳が痛くなるほどの甲高い絶叫を上げる。
「あ、ああああああッ!!!!どうして、どうしてどうして!?こんな奴らに!こんな、こんなッ、ああああああああッ!!」
「エアリィさん!今だ!!」
 絶叫に負けじと、琥珀もまた声を上げる。琥珀が教祖を引き寄せてくれたおかげで、高速詠唱も多重詠唱も全て終えていたエアリィ。その手には、6属性の精霊の魔力をフルチャージした精霊銃『エレメンタル・シューター』がしっかり握られていた。
 その銃を持ったまま、エアリィはその小柄な体を生かして、素早くドラゴンストーカーとの距離を詰める。
「うん!ありがとう、琥珀さん!それじゃ、いくよ…!
 六界の使者よ、我が手に集いて全てを撃ち抜きし力を!!」
 エアリィの言葉に呼応するように、今にも弾けてしまいそうな銃が激しく振動する。直後、放たれるのは、鮮やかな6色が見事に合わさった巨大砲撃ーー|六芒星精霊収束砲・零式《ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト・ゼロ》!
 砲撃直前、琥珀が瞬時にその場から素早く離れる。太く強靭な砲撃は、あっという間にドラゴンストーカーだけを包み込み、大きく爆ぜた。


●狂乱を、終わらせろ。
 エアリィ・ウィンディアの巨大砲撃により、ドラゴンストーカーの立っていた周辺大地の一部は抉られ、石壁の一部も穿かれた。パラリパラリと、削られ砕かれた岩石のかけらが落ちていく。そのくらい、彼女の砲撃の威力は強力であった。
「うッわぁ…やべぇな、あの砲撃…あンなん食らったら、流石にひとたまりもないんじゃないのか?」
 凍雲・灰那(Embers・h00159)はあまりの威力に呆然としていたが、その隣で、ルーシー・シャトー・ミルズ(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)が変わらず綿菓子のようにふわふわ柔らかな笑みを浮かべながら、現在状況を伝える。
「うーん…意外とぉ…まだ、そうでもないみたいだよ、おねーさん?」
「ン…?」
 ルーシーの言う通り、砲撃地点から何かが立ち上がる音と、砕けた石が地に落ちる音が聞こえる。あれほどまでの砲撃を受けたにも関わらず、ドラゴンストーカーは立ち上がってみせたのだ。
 だが、彼女の様子はどこか変だった。
「…ッ、あ……なんて、なんて、こと…!」
 立ち上がった彼女は、傷だらけになった青白い肌を見て狂乱の声を上げ、撫でまわし始める。まるで大切な宝物を壊された幼子のようにも見その姿はあまりにもひどく、あまりにも醜いものだった。
「ああ、なんて酷いことを!どうしてッ!!どうしてそこまでして、|私達《喰竜教団》の行いを邪魔するのです!?ああ、尊きドラゴンプロトコル様から頂いた貴重な命の証を|粗略《ぞんざい》にするなんて…!!ああああ…ッ!!」
 己の肌を壊れかけのおもちゃのように愛おしげに撫でながら、赤い瞳で敵である貴方達を睨む。
 狂っている。狂っているのだ。彼女は、もうすでに。
 教団の教えに従い命を奪ったドラゴンプロトコルはもう彼らそのものではないのに。愛しきだとか尊きとか言っているものの、彼らを彼らとして扱っていない時点で、もう。

「……知るか」

 たった、一言だった。
 灰那の短すぎる言葉に、ドラゴンストーカーの赤い瞳が反射的にギョロリと動いた。「今、なんと言った?」と訴えてかける表情の教祖のことは気にしないまま、灰那はそのまま言葉を続ける。
「手前の祈りも願いも努力も研鑽も、何ひっっっとつすらどうでもいいわ。手前が、オレの邪魔をした。それが…手前の理由だ」
 今までの、喰竜教団による狂った行いの数々もそうだが、現在の灰那にとっては…先程までの、優雅でのんびりとした癒しの時間を邪魔されたことが怒りの大半だったのだろう。アイスブルーの瞳が、突き刺すように冷たい。そして、吐き捨てるようにこう告げる。
「…ちったァ、頭に刻んで逝け」

「はッ…?な…、な…なんて、こと、を…」
「わぁ…おねーさん、容赦な〜い!」
 傷だらけのドラゴンストーカーは灰那の言葉に、呆然とし、その後沸々と悲しみと怒りが織り混ざっている様子で、血管が脈動するほどに力を込めて大剣を握り込んでいた。
 灰那の「いつも通り」の様子にふふふと楽し気に笑みを浮かべるルーシーはそのまま、表情の乱れた教祖に言葉をかける。
「ふふふ、悲しいねえ?荒れてるし、怒りはスルーされるし…世知辛い世の中だよね。まあ、それがきみの運命ってことだ。」
 ふわふわの甘い笑顔から告げられるのは、|彼女《ドラゴンストーカー》にとっては、あまりにも残酷なもの。
「そんなこと、そんなこと…ないっ!ありえな、いッ!!ありえないに、決まって、います…ッ!!」
 反吐が出るほどに忌み嫌う√能力者の言葉が真実であることを認めたくない一心が、ドラゴンストーカーの傷だらけの手が大剣を振り上げさせる。だが、彼女の全身が傷だらけな以上、誰かの血肉を喰らわない限りは、戦うことのできる時間は残りわずかであろう。
「…おい、ルーシー。動きはオレが止めてやる。盛大にぶちかましてやれ」
「え〜? 盛大っていうかまあ…やることそのものは盛大、か」
 灰那の言葉に、ルーシーは遠慮しがちに返すが、灰那の目線はもうドラゴンストーカーに向けられていた。はぁ、とルーシーは息を漏らして、それから。
「…うん、あたしの方で決めちゃうね、灰那おねーさん」

「何、二人だけで完結しているのですか?そんなに油断していたら、あっという間に刻まれてしまいますよ?」
 度重なる攻撃、あるいはこれまでを否定する言葉によって徐々に追い込まれたドラゴンストーカーは、引き攣った半笑いを浮かべながら、大剣を握り直す。
 その笑顔はもう、壊れかけていた。いや、もう手遅れなのかもしれない。
「…ああ、それとも、傷だらけの私のために、喰われてくれるのですか!?」
 足掻きと言わんばかりに、狂気に駆られたドラゴンストーカーが灰那とルーシーに突撃しようと近づく。半狂乱になって近づいてくる中、灰那はルーシーのために焔の精を招こうとした。
「…沸き上がれ、溢れよ、埋め尽くせ」
 灰の髪が揺れ、アイスブルーの瞳が瞬きする度に。シャンデリアのろうそくに火を灯すように、ボフリボフリと焔の精たちが次々と生み出される。暗い洞窟の中で行われるそれは幻想的でもあった。
「焔の精共……群れ那し、|順《まつろ》え」
 数にして、30以上。冷たい空間にて生まれた焔の精たちはあっという間に放たれる熱によって支配する。冷たく感じる要素はすでに消え失せた。

「猛る業火、虚ろなる赤。一天四界を|灰燼《かいじん》に帰せ……|炎を齎す者の軍勢《ミニオンズ・オブ・クトゥグア・スフォーム》ッ!!」

 主人の言葉に従い、焔が束となって連なり、教祖を取り囲む。彼女が声を上げようとした瞬間、高熱を帯びた赤が彼女に向かって一気に距離を詰めた。
 周囲にとどまらず、彼女の頭上から舞い降り、足元からずり上がる。彼らの動きにより、白き髪が導火線となり、鋭い靴先は溶かされ、わずかばかりの布地すら灰と同然となっていく。
 手に持っていたはずの大剣のあまりの高温によって、少しずつ確実に融解されていく。融解した大剣だったものも、握られていた手も冒されていった。
「…ッあぎゃ、あ…熱いィッ!?あつううういッ!?ああああ、やめて!!やめて!!燃やさないで燃やさないでえええええッ!!!」
 焔達との踊りに教祖は喘ぎながら足掻く。だが、焔の精達はそれを許さない。主人から静止の言葉が来ない限り、接近は終わらない。まさに地獄の業火。火刑である。
「精々、そのまま踊りやがれ。まァ……全部、下拵えなんだがな」
 高温熱に浮かされ苦悶の表情を浮かべるドラゴンストーカーに、灰那は最後の言葉を告げる。その時浮かべた灰那の表情は…ドラゴンストーカーにしかわからない。
「…終わらせてやれ、ルーシー」
「ん、りょうかーい」  
 灰那に呼ばれ、ルーシーが軽やかに動く。
 ドラゴンストーカーが焔と踊ってもらっている間に、ルーシーのための時間稼ぎと体力削りも十分すぎるくらいに完了していた。
 これ以上にない幸運を願い、必要不可欠の魔力を貯め切り、|インビジブル達《お魚さん達》から協力を仰いだルーシーに、これ以上の準備は必要なかった。
 やっとのことで焔から解放されたドラゴンストーカー。あちこちは傷だらけな上に、白髪は縮れ、青肌は黒く焼かれ、布地も武器も焼け落ち溶け落ちている。
「ゆるさ、ない…」
 息絶え絶えの中、赤い瞳はルーシーの翡翠の瞳を捉えて離さない。最後の足掻きのつもりだろう。黒く焼かれた手腕をルーシーの首元に伸ばそうとするものの、呆気なく躱されてしまう。
「…ね、ストーカーさん?いっぺん死んどこ?」
 にこり、と。優しい笑みを浮かべて。ふわふわのルーシーの唇から紡がれるのは、甘美の世界に堕ちる言の葉たち。|終焉《おしまい》の世界に招く優しい言の葉たち。
 甘く、あまく、とかされていく。
「どのみち今じゃ全部叶わないしさ…崇高だの考えないで、楽になっちゃいな?大丈夫…些細なことだって…」
 翡翠の瞳は、淀んだ赤をとらえたまま。全てを察してしまった教祖は、黒い手腕をそのままだらりと落としていく。
 それを確認したルーシーは満足気に確認してから、せめて最後は笑顔で|葬送って《おくって》あげようと思った。
 
「ーー【欠落】が、急速に満たされるだーけ」

 異空間にて、最後に聞こえたのは、両手を2回叩く音。
 それを耳にした瞬間、教祖にあったはずの【欠落】は満たされて…静かに、消えていく。
 教祖の世界の均衡が崩れて、破綻していく。


●終幕:癒しの時、ふたたび。
 |教祖《ドラゴンストーカー》が倒されたことで、洞窟中に蔓延していた鉱石竜たちの姿はいつの間にか失せていた。
 穿かれてしまった横穴までは消えることはなく、何箇所にもできてしまった横穴による崩壊の危険性があるということで、√能力者達が退避した後は黄色い規制線が貼られていた。
 貴方達の活躍により、誰一人として被害を受けることなく、喰竜教団の野望を見事破ることができたのだ。

「なんとか、終わったね…シンシアさん、大丈夫?」
「す、すみません、エアリィさん…それに、琥珀さんも…」
「いや気にするな。重傷にならずに済んでよかったよ」
 エアリィと琥珀に支えながら歩くシンシア。応急処置で巻かれた包帯の切れ端がひらりひらりと風に乗って揺れている。日はすっかり傾き、もうすぐ夕方から夜に沈んでいくかどうかだ。
 戦闘が終えてしばらくすれば包帯も必要ないほど回復するのが√能力者だからこそのメリットの一つだ。
「温泉入ったけど…洞窟で戦ったから、砂埃まみれだし汗まみれだよ…シンシアさん、今度は一緒に入らない?」
「ええ、ぜひ!もし良ければ、個室の檜風呂に入りません?まだそっちには入っていないんですよ。」
「あっ、私もまだ檜風呂は入ってない!一緒に入ろー!」
 戦いからの開放感からエアリィはニコニコと笑顔を浮かべながら、宿に続く街道を元気よく走っていく。少しでも早くあたたかい温泉に入って汗も汚れを流し切りたい、というところだろうか。そんな彼女の姿に、琥珀は「元気だなぁ」と思わず言葉をこぼしてしまう。
 ぼんやりと歩く琥珀に、シンシアはにこりと微笑んで声をかける。
「琥珀さんも、お風呂から出たらみんなで宴をしましょ?お風呂の後の美酒はきっと…いいえ、美味しいに決まっています!」
「…ああ、そうだな…。うまい酒に合うつまみも待っているもんな」 
 これから出会える最高の美酒とおつまみに期待しつつ、「二人ともはくー!」と声をあげるエアリィを追いかけていく、シンシアと琥珀である。


 温泉で流し切ったはずの汗がまた溢れ出し、綺麗に洗ったはずの髪や肌はもうベタつき始めている。灰那は、この嫌な感触がどうしても苦手だ。服の端をいくら伸ばして拭っても、その気持ち悪さはどうしても全ては拭い切れない。それがなんとも腹立たしくて、表情も苦虫を噛んだように苛ついてしまう。
「あー…ッたく。無駄に無駄に汗掻いちまっったじゃねェかよ…」
「あはは〜。戦闘してる時、ずっと焔の精を呼んでくれていたもんねえ。あたしのために、ありがとうね、灰那おねーさん」
 苛々が収まらない灰那の隣で、ルーシーはいつもと変わらないふわふわの笑顔で声をかける。彼女もまた汗まみれで、汗ばんだ肌には洋服が張り付いていた。
 隣の彼女の姿を見て、灰那は深く息を吐いて、痒そうに汗ばんだ肌を掻いてみせる。
「……ルーシー。もっぺん、風呂に入ってこうぜ」
「ふふ、そうだねえ、あたしも汗すごいから、すぐに風呂りたーい!」
「う、うぉッい!?ひっつくんじゃねェ!!」
 距離を詰めながら歩くルーシーに灰那は諌めようとするものの、決して拒否の意思を示すこともなく、そのまま二人もまた宿へ繋がる街道をひたすらに歩いていく。

 喰竜教団によって一時は危機に陥れられかけたが、貴方達の活躍によりこの温泉宿は救われた。貴方達の活躍に感謝を示すかのように、夜を告げる涼やかな風がひゅうと爽やかに吹き抜けていくのだった。

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