死体漁りの|女神達《ノルン》と愉快な遠足
『……聞こえ…いるか……役立…ずども……』
既に、その機体は限界だ。通信機器からは辛うじて聞こえる最後の命令。
『エー…ヴァーガ…は転んで死んだ……伝記に…そう書いておけ!』
『総長! ダメだ、総長ーーッ!!』
彼女の叫びも空しく、エーリヴァーガルは崩落し爆散した。
「ようこそ、√ウォーゾーンに魂を惹かれた√能力者諸君。概要を始めよう」
ここはある廃工場の中。設計図面上では描かれていない扉が一枚。不自然な二本の支柱に扉だけがある。普通に考えればこの扉を開いても反対側に出るだけだが……実際は√ウォーゾーンへと繋がる扉になっている。
「今回の行き先も第49WZ中隊『クラップヤード』駐留地だ。ああ、別に知ってなくてもいい。以前にも送ったことがあるだけだ」
かつての新型WZ実験部隊である大型工廠。今は死体を継ぎ接ぎしたデッドマンが、継ぎ接ぎのWZを運用し守っている。地上部分はWZ用の整備ハンガーで、地下には農園もある居住区が詰め込まれている。
「ここのWZ部隊は基本的には戦闘経験のある全員デッドマンで運用されているのだが……どうにも新鮮な死体の在庫が尽きたらしい。手足とかは余裕があるが……内臓の、特に脳の在庫が問題のようだ」
たとえデッドマンであっても明確な急所である脳は戦闘機械群にとっても破壊優先度が高い。次いで胴体は当たる面積が広いが、貫通なり切断なりされれば致命傷になる。腐敗も早い。
「ヘッドショットで殺されるということもあるが、脳だけ摘出して持って行く戦闘機械群も居るのでな……脳はどうしても不足する。だから、死体の回収が任務だ」
立体映像で今回の戦場を映し出す。
「戦闘機械都市『アンダーテイカー』人類側の拠点として使われていたが、つい先日戦闘機械群に奪われたばかりだ」
地下に深い構造ではあるが、WZの運用を前提としているので通路も部屋も広い。稼働するエレベーターもあるので探索には困らないだろう。
「先に言っておくが、生存者は居ない。死体だけだ。ただ、妙な事に戦闘機械群が駐留している様子は無い。ここを落とした奴が大型空中戦艦だからかも知れんが……普通に考えれば罠だろう」
取り返しに来た人類を殲滅する罠、にしては見え透き過ぎではあるが。
「それでも火中の栗を拾わねばならない。クラップヤードのデッドマン整備施設はここの新鮮な死体を素晴らしいデッドマンに作り変えてくれるだろう」
それがいい事か悪い事かはともかく。どの道ここはそう言う|世界《√》だ。
「クラップヤード中隊からも戦力は出る。今回も四機編成だが、前回の様に二手に分かれたりはしない。リーダーは熟練のデッドマンなのだが……残り三人が問題でな」
四機のWZの立体映像を表示する……中型三機と、超大型が一機。
「このデカいのがリーダー機『エーリヴァーガル』だ。こう見えて完全後方支援型でな。まあ、この巨躯で前線に出られてもいい的なんだが」
映像のエーリヴァーガルが|展開《・・》した。ただでさえ大きい機体が縦と横に広がり、高さ7Mを越える。
「機体のコンセプトは歩く基地。WZの燃料、弾薬補給に簡易修理機能まで備えた戦線維持支援機体だ。機体の大半を占める格納部に他WZを格納し、補給と整備を素早く行う事が出来る。また、機体上部のコントロールユニットには大型ビーム砲、パルスフィールド、多連装ミサイルランチャー、可動アームシールドを装備している」
格納部の上に接続されたWZにそれらの武器は集約されている。本来は非人型の大型WZで機動力を生かした強襲機だったが、この整備機能に接続された事で本来の機動性は失われている。
「この機体はそもそも未完成品でな……いくら何でも大型化し過ぎた事と、移動する基地の必要性自体が問われて製造中止になった。しかし、開発は8割方完了していて、クラップヤードの工廠に放置されていた物を技術者たちが暇を見て完成させた一機のみが存在している。これに乗るには超大型WZの操縦センス、機体整備の腕、戦術と戦略の両方に通じる知識など、必要なものが多く、今の担当者以外には誰も乗りこなせない代物だ」
だからこそ遠慮なく使い潰せるのでもあるが。
「まあ、これの担当は熟練者だからいいんだが、今回の問題は残り三人の方だ」
エーリヴァーガルの映像を消し、中型三機のWZを拡大する。
「高機動強襲型WZ『スクルド』装備評価試験用汎用型WZ『ヴェルザンディ』総合支援型WZ『ウルズ』の三機。前面しかまともな装甲が無いスクルド、全てにおいて器用貧乏なヴェルザンディ、接近されたら終わりの鈍亀ウルズ。これでも腕利きが乗れば活躍するんだろうが……最初に言った通り腕利きのデッドマンの在庫が尽きているのでただの人間、接続不良で記憶喪失のデッドマン、実戦経験の無い技術屋デッドマンとまあ、全員新兵のような物だ」
そもそも一人生身が混じってるし。
「他は出払っているか本陣の守りをしなきゃならなくてな……現状この任務が出来るのはこの四機に限られている。そもそも罠を踏む抜きに行く訳だしな。ここで実戦経験を積ませれば腕利きになる……かも知れない。この三機はチームアップ前提として編成されている。今回で戦果が上げられれば続投する事になるだろう」
上がらなかったらどうなるかって? 聞くまでも無かろうよ。
「そこで√能力者諸君の出番という訳だ。彼女達……ああ、見た目的には三人とも10代後半の女子、二人死んでるが……彼女達チーム『ノルン』を援護して立派なチームとして運用できるように鍛えてやってくれ」
新兵を使い物になるようにするのも目的ではあるか。
「まずは基地内を探索し、目当ての|物資《したい》を見つけて来るといい。敵はこの基地内のどこかに隠れているので、このタイミングで叩いてしまってもいいのだが……敵を探そうとすると物資回収の方が疎かになってしまうだろうな。そもそもの目的は物資回収の方にある。戦闘になれば危険ではあるが、新兵に実戦経験を積ませるなら丁度いいかも知れない」
現れる敵は弱めで丁度いいのではあるが、実戦である以上戦死の可能性はある。
「回収した死体はエーリヴァーガルに積み込むといい。死体袋も用意してあるから忘れずに持って行くように。他にも使えそうな物があったら遠慮なく頂いていくといいだろう。仮にこの基地を取り返そうとしても運用できる人員が足りないのでな」
GIRIRIRIRIRIRIRINNNNN!! と、けたたましく目覚まし時計のベルが鳴る。RINと手で押し込んでそれを止めると、こんこんと一枚の扉を叩く。
「時間だ。さあ、戦場を始めよう」
第1章 冒険 『物資不足を解消しよう!』

●可動前線補給基地WZ『エーリヴァーガル』
7mの巨体を持つWZ。移動可能な補給基地と言うコンセプトで作られた機体なので直接戦闘能力こそ高くはないものの、火力支援可能な長距離ビーム砲と、周囲の僚機ごと保護するパルスフィールド、多連装ミサイルランチャー、大型シールドアームを装備している。
この機体の真価は前線での補給と機体整備を可能にした事にあり、7mの巨躯は他のWZを内部に収めて簡易整備を行うためにある。
だが、いくら何でも大型化し過ぎた事と、移動する基地の必要性自体が問われて製造中止になった。しかし、開発は8割方完了しており、クラップヤードの工廠に放置されていた物を技術者たちが暇を見て完成させた一機のみが存在している。
機体性質上パイロットは技術者でもある必要があり、歩く地獄の異名を持つデッドマンの専用機となっている。
●高機動強襲型WZ『スクルド』
大出力のブースターと前面だけ厚い装甲を持たせた強襲特化型WZ。背部に大型バズーカ、両脛部に使い捨てロケットランチャーをマウント。手持ち武装として大型ショットガン、パイルバンカー内蔵シールド、ヒートサーベルと実弾武装のみで統一されている。これはジェネレーター出力を全て駆動系に回すことで高機動を確保しつつ、各種武装を使い捨ててパージする事で重量を減らし、より高い機動性を発揮する為である。
更に、ただでさえ前面以外が薄い装甲を全てパージする事が可能で、フレーム剥き出しになりながら高機動力を発揮する事も可能になっている。
また、試作の高出力ジェネレーターを搭載しているが、最大出力を一定時間出し続けると暴走して制御不能になる欠点がある。
敵陣に強襲を仕掛けてかく乱する事を主軸として設計された物の、前進にのみ極端に加速性能が高い事を始めとした癖の強い操縦性に加え、殆ど特攻用とも言える継戦能力の欠如から正式採用には至らなかった。
パイロットは学徒動員兵の人間。デッドマンのパーツ不足により特例で採用された。訓練では高い成績を出してはいるものの実戦は未経験の新兵である。
●汎用型試験運用WZ『ヴェルザンディ』
フレームその物に高い汎用性を持たせる事で様々な武装や支援装備の試験運用専門WZ。元々新規機体の評価試験として作られた前身にあたるスクラップヤードらしい機体である。とにかくどんな装備でも扱える事を目指して設計されているので作戦毎にまるっきり装備が変わる事も多い。しかし、スクラップヤードからSが抜けた後は器用貧乏な設計から誰でも乗れるが、誰も長く乗らない初心者専門機体と言う評価に落ち着く。あくまでも装備品の評価試験用に設計された機体で実戦運用は想定されておらず、製造数は少ない。
スクルドの設計後に三機一組で運用するチーム『ノルン』として再設計され、スクルドの後方をカバーする射撃と格闘による戦線維持能力を重視した中近距離機体として現在のコードネームが与えられた。
パイロットはデッドマンの女性兵士だが、接合時の不具合で戦闘に関する経験が抜け落ちている。操縦センスそのものは残っている物の実戦経験は無いに等しい。
●総合支援型WZ『ウルズ』
ホバー走行による移動力を確保しつつ、重装甲重装備による後方支援を主体として設計されたWZ。ロングレンジカノンによる長距離砲撃の他、背部にレドームを装備し広域情報収集及び電子戦も行うことが可能である。
移動力は確保した物の肥大した重量で機動性は失われており、相手に接近されたら終わりという完全後衛型機体。そうならない為の索敵能力ではあるのだが、電子戦を行いつつ遠距離砲撃の弾道計算、味方機の指揮も想定された設計でとにかくやる事が多く、実戦中にこれら全てを扱い切れるパイロットが少ない為少数生産に留まった。
チーム『ノルン』の後衛担当として再設計され、追加装備でガトリングガンを携行するようになり、多少近づかれても弾幕で押し返すことは可能になったが、重量は余計に増えている。
パイロットはデッドマンの技術士。チーム『ノルン』の立ち上げにも関わっている技術者だが、戦闘経験は無い。
なお、チーム『ノルン』のパイロットは全員十代後半の女性に見える外見をしている。
●突入する|少女人形《レプリノイド》共
戦闘機械都市『アンダーテイカー』の地上部分は消滅していた。元はクラップヤード同様地上にWZ運用設備、地下に生活区画を設けていたが、地上部分は消滅したとしか言いようがない程何も無かった。攻撃の激しさを物語る多数の大きなクレーターと僅かな鉄屑と廃材。回収する意味すらない。
『ウルズ、貴様の見解を述べてみろ』
『はい』
総合支援型WZ『ウルズ』は戦場での情報収集が主任務と言っても過言ではない機体だ。こうした状況をいち早く分析する事は大事な能力である。
『敵は大型航空戦艦と思われます。部隊展開の痕跡はありますので、応戦はしたものの文字通りの全滅……KIAと思われます』
軍隊における全滅とは開始時戦力の3割を損失した事を指す。だが、この場合は文字通りの全滅。星詠みからの情報もあり、生存者は0で間違いない。
『見れば分かる程度の情報だな。それに、まだMIAだ』
『何が、不足していたでしょうか……』
ウルズの声は消え入りそうな程小さい。初めての実戦での緊張、あまりの戦力差から来る諦観、本来非戦闘員であるはずだったのに前線に駆り出されたという状況。
『指揮を執る者が気弱になるなッ! ハッタリでも虚勢を張れ!』
エーリヴァーガルは叱咤する。それでも、今ここに居るのはお前なのだと。
『はっ、はいっ!』
『通常、艦砲射撃だけで拠点が全滅することはあり得ない。大部分は火力による蹂躙だが、それだけでこの状況は説明できない』
いくら大口径で大威力の艦砲を使ったとしても人一人残さず殺し切るのは不可能だ。地下に逃れたり、攻撃を受ける前に適切な場所に身を隠せば本当の全滅は避けられるはずである。
『敵は恐らくレギオンクラスの小型飛行戦力を追撃に放っている。この先に控えているのはそれだ』
ウルズの分析に足りなかった部分を加えて捕捉する。
『それで地下部分が崩落していないのはこの拠点が頑丈だったからではない。利用価値があるから罠として再利用するためだ。これから貴様らはその罠を踏み抜き粉砕する。気合を入れろ役立たず共ッ!』
『『『はいっ!』』』
「いやぁ……厳しいですね、音に聞こえる”歩く地獄”は」
|八木橋《やぎはし》・|藍依《あおい》(常在戦場カメラマン・h00541)はそのやり取りを聞いて素直な感想を述べる。
『はいぃー……申し訳ありません。私のせいで』
「ウルズさんは元々技術屋さんでしょう? どうしてこの作戦に?」
『私が、提案したんです。ノルンを』
クラップヤードに限った話ではなく、√ウォーゾーンでは常に戦力不足だ。少しでも戦える力を作らなければならない。
『三位一体の連携により特化機体三機を一つの戦力として活用する。それがノルンのコンセプトなのですが』
『まー、ウルズの適任が居なかったんだよね!』
スクルドは緊張した様子も無く軽快に笑う。
『仕方ないよ。突っ込めばいいだけのスクルドと、それをフォローするヴェルザンディに比べると色々やらなきゃならないウルズの適任はそうそう居ないだろうからね』
『……ヴェルザンディも軽くは無い。突っ込むだけのバカのケツ持ちをする方の身にもなって欲しい』
『ごめんごめん。でもボクはヴェルを信用してるからバカになれるんだよ』
『……一発位は誤射かもしれない』
『ごめん! いつも感謝してるから! もっと気を付けるから!』
「なるほど、面白いですね!」
この状況で、この世界で。彼女たちは決して悲観しているだけではない。確かに戦闘経験のあるデッドマンの在庫が尽きたのは理由として大きいだろうが、それでも彼女達にノルンが預けられたのはそう言う理由があるのかもしれない。
『取材はその位にしておけ、命知らず』
エーリヴァーガルはその行為を咎める事は無かった。作戦中に無駄話をするのを嫌うタイプだと思っていたがそうでも無いらしい。むしろ、作戦中だからこそ緊張し過ぎない事が大事だと分かっているのだろう。
『そろそろ地下エリアに入る。エレベーターが完全に止まるまでは周囲を索敵。止まったら迅速に作戦行動に入れ』
エレベーターが完全に止まるまで待つのは途中で動くのは危険だからではない。エレベーターの動作を確認し、帰り道の安全も確保するためだ。
『これよりクラップヤード中隊主導による共同作戦を始める』
今回の作戦の全体指揮を執るエーリヴァーガルが宣言する。全員乗っても余裕がある大型物資搬入用斜め降下エレベーターが止まった。
『突入しろ役立たず共! 命知らず共!』
|ノルン《やくたたずども》、|√能力者《いのちしらず》は各自散開し、物資調達任務が始まった。
藍依、スミカ、クーベルメの三人の|少女人形《レプリノイド》は|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》を展開し、各自12体、計36人のバックアップ素体を投入する。
更にエーリカは多数のレギオンを放ち、摩那は早期警戒ドローンを飛ばし、影丸が軽く指笛を鳴らすと様々な忍獣が施設全体へと散開していく。
『すごい、ニンジャだ! ニンポだ!』
『ニンジャって何?』
『平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在だよ!』
「何故かそう誤解される事が多いが、それはフィクションだ」
影丸は苦笑する。
『えー、でも今だっていろんな動物を何もない所から出したじゃん』
「いや、最初から居た」
『エレベーター内に他の生体反応なかったですよ……!?』
「機械の目と耳に頼り過ぎだな」
『凄い、本物のニンジャはもっと凄いんだ……!』
『スクルド! 無駄話が過ぎるぞ!』
『は、はいっ! ごめんなさい!』
『貴様の役目は命知らず共が提供してきた情報を元に突撃し、物資を搬出する事だ。いつでも動ける様にしておけ』
『はいっ!』
実査の所、スクルドとヴェルザンディは自ら動いて情報収集する必要は無い。√能力者達が数多の目と耳を提供してくれるおかげである。
『友軍レギオンと|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》の皆さんとはこちらで情報共有しています。引き続きよろしくお願いします』
「仕事はスマートに。短時間で確実に完了させたいところですね」
藍依は自身の|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》と共に設備のクリアリングを進めていく。
「どうやら、侵入者を撃退する類の罠はあまり無いみたいですね」
センサータレットの類はあるが、すべて破壊されている。基地内への侵入者に対して既に使われた後なのだろう。そもそも人類側相手には反応しない可能性もあるが、備えておいて損は無いだろう。
|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》には全員の反応速度が半減するという欠点がある。不意打ちにはどうしても弱いのだ。それ故に、丁寧なクリアリングで奇襲を受ける可能性自体を潰していく。
程無くして、大量の罠が仕掛けられた場所を発見した。
「でも、これは……」
この基地の住民がほんの少しでも生きながらえる様に作った|即席罠《ブービートラップ》だ。動作せずに残っているという事は役に立たなかったのだろう。
通信を使ってないのでジャミングの技能ではどうにもならないが、早業がここで生きた。瓦礫が飛ぶ、火炎瓶が落ちる、鉄骨が飛んでくる、そう言った|即席罠《ブービートラップ》を一つずつ解除していく。
……ここにこれだけの罠があるという事は、この先に目当ての物資はある筈だ。
或いは一人でも生存者が……星詠みが居ないといえば居ない筈ではあるが……居るかも知れない。逸りそうになる心を抑えて藍依は慎重に破壊されたドアを潜った。
「……見付けましたよ」
分かっている。分かり切っている。|生存者は居ない《・・・・・・・》と言い切られていたのだ。
死後数日の腐敗臭が鼻を突く。それは非戦闘員たちが虐殺された現場だった。戦えないほど幼い子供、身重の女、僅かに残った老人、四肢を失った傷痍軍人。
一切の区別なく皆殺しであった。
「……回収を始めます」
持ち込んだ死体袋を広げる。幸いと言うべきか、状態はいい。元々欠損している者でなければ大体原型を留めている。
だからこそ死者の苦悶と絶望の表情が突き刺さる。表情が分かってしまうから、受けた苦しみがどれほど壮絶だったか分かってしまう。
これから自分は、この回収した死体を積み込み、切り刻んで選別し――デッドマンとして戦場に送り返すのだ。
慣れた方が楽なのだろう。だが、慣れてしまうべきではない。こんな状況に。
『藍依、経路を確保した。後はこっちに任せて他の場所を当たって』
「分かりました」
詰め込まれた死体袋を担いで、ふと気が付く。
|状態が良すぎる《・・・・・・・》。一様に苦悶の表情を浮かべてはいるが、どう死んだのかはっきりしていない。その可能性に気が付いた時、即座に12人のバックアップ素体も動いた。
「そこだ!」
本体とも言えるHK416が一斉に火を噴いた。巧妙に偽装された物体に銃弾を叩き込んだのだ。この惨劇を起こした奴に。
『どうした!?』
「潜伏中の敵を発見しました。潜伏中の敵は恐らく毒物を使います。注意してください」
肉体的損傷を殆ど確認できず、病気で死ぬには進行が早すぎる。そうなれば、敵が使った手段は何らかの毒物である可能性が高い。
「完全に動力を落として潜伏してる……これじゃあ、熱源もレーダーも反応しない」
金属製の箱に擬態したそれは、蜂型のレギオンのようだ。毒物を流し込む毒針も確認できる。だが、一切動いていなければそれはただの箱だ。
「時限式で一斉に起動するようになっているんでしょう。見つける事さえ出来れば一方的に無力化出来ます」
「世界が変わると必要とされるモノも変わるんですね」
|黒木《くろき》・|摩那《まな》(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)は友軍と『アルバトロス』が送って来る情報を元に探索を続ける。身軽な身体を生かして、壁を蹴り上がり、壊れた照明器具にヨーヨーを巻き付けて立体機動。
「デッドマンのパーツ集め、死体集めとはさすがに初めての経験です」
√ウォーゾーンにはデッドマンと言う種族がある以上、必ず必要となる筈ではあるのだが。壊滅した基地から死体を回収するまではやらないんだろうか。
「見つけた物資にはマーカーを置くので回収よろしくです」
『了解!』
物資の回収は味方を頼る。戦場に出ている√能力者なら死体を見つけて騒ぐような真似はしないが……単純に、自分は足を生かして潜伏する敵を潰して回った方がいいという判断だ。
「熱源を追えば、戦闘機械群は見つけられそうだと思ってたけど」
スマートグラスで確認してもそれらしい熱源が見付からない。そこら中で死臭と焦げた硝煙の臭いがしているが。
「……アレだけは勘弁してほしいわね」
アレと言うのは文字にするのも嫌なアレである。幸い、まだ発生していないようだ。
『皆さん気を付けてください。敵は動力を落として潜伏しています』
ここで藍依からの情報が入る。
「なるほど、動力を落としていれば熱源を追っても見付からない訳ね」
その代わり一切身動きを取れず、反撃も回避も出来ないだろうが。
「怪しい物は壊しておくべき?」
ヨーヨー『エクリプス』を金属製の箱に飛ばす。ギャリィィィン! と甲高い金属音を響かせて箱は破砕されたがただの箱だった。
「手当たり次第に壊しても意味は無いわね」
怪しい物は割とそこら中にある。チェスト、タンク、ボンベ等々、あちこちに散乱している。
この全てが敵かも知れない。そうでも無いかもしれない。そこでふと気付く。
「ここ、怪しい物が多過ぎない?」
貯蔵庫の類の部屋ではあるのだが、妙に物が散乱している割にはそれを積み上げていた棚の方には損害が少ない。
「これ全部自分で壊すのは流石にねぇ」
どの位の敵が居るかは定かではないが、大人しく壊されるのを待ってくれはしないだろう。2回攻撃で範囲攻撃なら対応出来なくは無いが、ここは別な手がある。
『ウルズ、ちょっとここのポイントに砲撃よろしく』
『へっ、砲撃ですか!? ここって、言われても……』
『徹甲榴弾でいいわ。射角は計算してあるから』
『巻き込んじゃいますよ!?』
『大丈夫、私の指定した位置から指定した角度でお願い』
『命知らずも大概だな。ウルズ、言うとおりにしてやれ。それで死んでも奴の責任だ』
『責任とか、そう言う……!』
『お願い。むしろ、撃ってもらえないと囲まれて死にそう』
嫌な音が聞こえた。蜂が非常事態を察知して目覚めようとしている。|紅月疾走《リュヌ・ルージュ》なら纏めて相手をする事も出来るだろうが、数で押し潰されるかも知れない。
『そん、な』
『銃爪を引けウルズッ!』
『もう、本当に……知りませんからねッ!』
錯乱しかかっている状態でありながら、ウルズは的確にしたいされた角度への砲弾を発射した。それは、先端の弾頭に衝突する事無く瓦礫で何度か跳ね返り、摩那の元へ向かう!
「ビンゴ、いい腕してるわ」
目前に迫った砲弾に、エクリプスを巻き付ける。終端誘導、最期の一押し。
KABOOOOOOOOOOOOOOM!!
地下施設全体が揺れるほどの衝撃。これでは摩那も無事では済まないのでは?
「ふーっ、ちょっとスリリングだったわね」
無論、無事である。瓦礫の板をボードにして衝撃を波にして離脱したのだ。
「まあまあ大きめの巣を叩けたと思うけど、これで全部じゃないわよね」
●第435分隊出撃
「新兵……いや新人死体? の引率しつつ物資回収任務ですね! 一緒に頑張りましょう!」
ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)はラピスフェロウの飛行ユニットをリワークした龍翼【宵星】で空中も自由自在に飛びながら探索を進めている。
「√ウォーゾーンでは生まれ変わってからが本番、みたいなところもあります。新たな|仲間《デッドマン》と出会うために頑張りましょう!」
リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は決戦気象兵器「レイン」に宿る精霊達とレイン砲台・電子戦型を展開しながら激励した。
「目当ての『物資』を見つけて来い、ですか。我々少女人形もですが、デッドマンもまぁ過酷ですね」
スミカ・スカーフ(FNSCARの|少女人形《レプリノイド》・h00964)も所感を述べる。
『命知らず共、役立たず共との交流に余念がないようだな』
そこにエーリヴァーガルが一言。
『ついでに仲良く刺繍でもしてそのよく回る舌を縫い付けておけ!』
7Mの巨大WZから叱咤されると迫力が違う。別に怒られてない|役立たず共《ノルン》の方が緊張してしまう状況に。
「は、はい! 行ってきます!」
「私も動いてはいますので」
『回収任務は時間との勝負だ。ここで生き埋めになりたくなければさっさと行け!』
『本当に過酷ですこと。しかも若手ばかり、経験のない若手は一人まででしょうに』
スミカは|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》で部屋をクリアリングしながらエーリヴァーガルに通信で話しかける。
『今は人手不足だ。ただの人間、不良品、技術屋。クラップヤードも落ちた物だ。それを多少マシにする事が今回の作戦だ。元から|役立たず《スクラップ》の集まりだがな』
エーリヴァーガルはそれを咎めるでもなく普通に話す。
『それで全滅したら余計人手不足になるのでは?』
『しなければいい。三人セットの設計運用は練度の差も少ない方がいい。腕が立つ奴が混じるとそいつに依存するからな』
『なるほど、考えあっての運用なんですね』
『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にと言う奴だ』
『結局行き当たりばったりじゃないですか』
『そこにある物は何でも使うのがクラップヤードの流儀だ。それに、奴らには大金を継ぎ込んだ贅沢な玩具をくれてやっている。役立たずも役立たずなりに役に立つ事が証明出来れば今後の戦局も変わる』
『それで、私達が全滅したら?』
『役立たずは役立たずに過ぎなかった事が証明されるだけだ』
『それは無責任なんじゃない?』
『自分が死んだ後の責任なんぞ誰も取れはしない。死んだ奴に責任を押し付けるのはそれこそ最低の役立たずだろう?』
『違いないわ』
エーリヴァーガルは口調こそ荒い物の、その実部下の事を真剣に考え、今自分に出来る最善を尽くすタイプなのだろう。部下を”役立たず”と呼びながらも、誰も犠牲にするつもりは無い。
だからこそ、本当に危機に陥ったら身を挺してしまうのだろう。この作戦ではエーリヴァーガルが最も死ぬ可能性が高いのだ。彼の死を糧に三人の|女神《ノルン》は成長する……そうなるかどうかはまだ分からない。
WZ運用を前提とした通路は広く、ジェットパック装備のラピスなら手早く作業できる。高い機動力を生かして高所のクリアリングをしているようだ。
「ああ、見付けましたよ」
ラピスは死体に嫌悪感を抱かない……それは良い事なのかはともかく。高所に陣取っていたスナイパーの遺体を死体袋に詰め込む。ついでに狙撃銃も回収。
「総長! スナイパー一人確保です!」
エーリヴァーガルの後部整備ハンガーに死体袋を積み込む。エーリヴァーガルは前線でのWZ修理が主任務だが、大量のペイロードを備えているので大量の物資を積み込めることを生かした作戦だ。ちなみに、行きでは|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》のバックアップ素体を輸送してたりする。兵員輸送車も出来るのだ。
『よくやった。あと10人見付けたら勲章をくれてやる。あのメダルはいいぞ、投げると遠くまで飛ぶ!』
「はいっ! がんばります!」
勲章って投げて遊ぶ物だっけ? とか言う疑問は誰も口にしない。
「じゃあ、次行ってきますね!」
『貴様は高所の探索に優れるようだな。下が良く見える場所を重点的に探せ。通気ダクトも貴様なら楽々通れる大きさだ。逃げようとした役立たずが転がってるかもしれん。貴様にしか出来ん、命知らずの腕を見せて見ろ!』
「了解です総長!」
言われた通りに捜索に行くラピスを、何か物足りなさそうな目で見ている……気がする。
『あー……今回の作戦、元々のメンバーもいい子だし、私達も冷静か素直なタイプばっかりで叱責のし甲斐が無いとか』
『否定は出来んな。跳ねっ返りの方が育て甲斐はある』
『でも、この√にそんな元気な人は珍しいでしょうね』
『そうだな、絶滅危惧種だ。それっぽいのを見付けたら迅速に確保しろ』
『了解よ総長。ああ、今三人回収したから迎えをよろしく』
『聞いているなスクルド! 貴様の足が一番早い! さっさと行ってこい!』
『はいっ! ……着きました!』
『本当に早いわね。はいこれ、落とさないようにね』
『はいっ! 任されます! ……総長! 回収しました!』
『報告はいい。とっととぶち込め!』
リズは決戦気象兵器「レイン」に宿る精霊と共鳴するベルセルクマシンの|少女人形《レプリノイド》だ。いや、種族紹介しただけで長いわ。私もあまり他人の事は言えないが。
当然レインメーカーであり、レイン砲台の運用に特化している。レギオンの様にレイン砲台を操れる√能力者はそんなに居ないのではないだろうか。
戦闘時には様々なタイプのレイン砲台を展開する事で恐ろしい弾幕を張るのだろうが、このレイン砲台は非戦闘時も役に立つ。|決戦気象兵器「レイン」に宿る精霊達《マイ・フレンズ》を展開する事で青色のアマツバメの姿をした精霊を放つ事で、大気を介した情報探査を行う事が出来る。非常に広範囲の地形情報を得る事が出来るが、本人曰く地中に潜むタイプの敵に弱いらしい。
『今回の作戦に合わせて地中調査可能な高出力レーダー持って来ててよかったね』
どこか他人事のように言うのはヴェルザンディ。何か、誰からも指名されなかったので余っていた。ヴェルザンディは様々な装備を簡単に付け替える事が出来るので作戦に応じた簡易換装が出来るのだ。そのせいで器用貧乏なのだが。
「見つかりませんねぇ、敵」
敵は何かに擬態した上で動力を切っていると言う情報は既に共有されてる。箱やボンベのような物に擬態しているようなのだが、熱源反応が無いのでただの箱と見分けが付かない。無理矢理開けようとしたり、壊そうとすると流石に襲って来るようだが。
「いっそのこと全部軽く攻撃してみましょうか?」
それっぽい物への目星はもう付けてある。広域に展開した上で、レイン砲台としても機能させられる精霊憑依砲台だからこそ出来る芸当だろう。
『え、それ全部一度に起動しない?』
「するでしょうね。精霊達、力を貸して下さい」
ここでリズは索敵に使っていた電子戦型以外の砲台も展開する。箱を開けるのはあくまでアマツバメ型だ。その上で、どれが敵でも射線を通せるように他の砲台を配置する。
「じゃあ、いきますよ。せーの!」
広域で一斉に色んな音が鳴り、色んな閃光が走った。一瞬の出来事である。擬態している可能性がありそうな物全てに対して風の刃と化しての突撃を行い、その中で実際に敵だった物を即座に展開済みの砲台で破壊した。
「これを繰り返せばその内全部居なくなるでしょう」
『わお、クール。おっと、地中から反応かな』
ヴェルザンディは手に持っていたレーザーライフルを構える。地中から蜂型レギオンが出現すると同時に撃ち落とす。
『クリア』
蜂は地中に巣を作る事もある。深く掘削できる訳では無いだろうが、柔らかい土なら軽く掘り起こす事は出来るだろう。ましてや、それが生物でない蜂型の殺戮レギオンならば尚更に。
「今の行動はかなり嫌がったって事ですね。じゃあ、続けていきましょうか」
『わーお、中々にクレイジー』
「怖かったら他の人の所に行ってもいいんですよ?」
『冗談』
ヴェルザンディはレーザーライフルを構える。
『私は地中から来る奴だけ見てればいい。こんな楽な仕事なら誰にも譲らないし』
「それでは第二波を始めますよ」
●生き残る事、死を思う事
『今回も戦友へのご挨拶は欠かさずいきましょうか。貴女達がノルンで、貴女がスクルドさんね』
|クーベルメ《Kuhblume》・|レーヴェ《Loewe》(余燼の魔女・h05998)がノルンの三人へと通信を繋げる。
『兵士っていうのはね、死線を潜り抜けた者が強くなるの。訓練も勿論重要なんだけど、実戦経験が兵士を強くするのよね。当然その前に死んじゃう方が圧倒的に多いわ……生き残ったのは、運が良かっただけかもしれない』
訓練を積んだ者が生き残るのではない。訓練を積んだ方が生存率は上がるが、確実ではない。
だからこそこの拠点は全滅したのだから。実戦とは時として抗いようが無いほどの暴力を押し付けて来る。
『仲間や状況に恵まれただけだったかも。それでも、生き延びたら強くなる……だから、とにかく生き残るのよ』
仲間や状況と言う物は運だけで決まる物ではない。当然、運もある。だが、それ以上に手にした物をいかに有効活用し、仲間との深い縁を築くのは紛れもなく己自身の努力に他ならない。
『それも逃げ回るんじゃなくて、仲間を信じて、力を合わせて戦って生き残るの』
時として圧倒的な暴力の前に逃げる事は必要になる。だが、それでも。戦う力を持ち、戦う事を選んだ物はただ逃げるのではなく態勢を整える為の撤退であるべきだ。決して戦う事その物から逃げてはならないと。
『貴女達にもそうなって欲しいと思ってる。分かってくれた?』
『『『はいっ!』』』
『命知らずが、いい心がけだ。ハンガーに空きがあったら勧誘している所だ』
『人手不足だったんじゃないの?』
『貴様用のWZをここに置いておく訳にはいかんだろう』
『それはそうね』
そもそもクーベルメはWZを使うつもりも無いようだし。
『私の機体って、基本前に突っ込めば大丈夫だよね?』
『はい、前面の装甲は厚いので常に前進し続ける方が安全です』
『いや、イノシシか何かじゃないんだから。フォローする私の身にもなって』
『ヴェルザンディは何事も中立中庸ですので、弱点がありませんから。弱点が大きい私達のフォローをして戴ければ大丈夫です』
クーベルメの話を聞いて自分達が生き残るにはどう立ち回るべきかを考えるノルン達。
『前も後ろも面倒見なきゃならないって大変なんだけど』
『いえいえ、極端な話横だけ見てればいいんですよ? 前はスクルド、後ろはウルズが抑えてますから。常にフォーメーションを意識して立ち回って頂ければ危険は少ないかと』
『私も結構やる事多いわねー』
『それでもウルズよりは少ないんです!』
『出来る事多くていいよね。私突っ込んで蹴散らすだけだから』
『そうそう、チマチマした遠距離戦よりぱっと近付いて撃ち抜いた方がいいですよね!』
『だよねぇ! バズーカとか要らなくない?』
『それ無かったら大型相手の有効打が減るんです!』
『『ええー』』
『……なんか、いつの間にか一人増えてね?』
さあ、誰が増えたか考えてみよう。ヒントはプレイングだ。
『このエーリヴァーガルが相手を見上げる事になるとはな』
|エーリカ《Erica》・|メーインヘイム《Mainheim》(あなたの帰りを待つ母艦・h06669)は一見ごく普通の女の子だ……遠くから見れば。近付くにつれて距離感がバグっているように感じるだろう。
それもそのはず、エーリカは8mの巨体を誇るベルセルクマシンだ。元々はレギオンの母艦となる輸送艦だったらしいが、人類への羨望が今の姿を作ったとか。人間型レギオンフォートレスとでも言えばいいのだろうか?
今でもジェネラルレギオンとして配下のレギオンを扱う事が出来るので情報収集の一端を担える。
「エーリヴァーガルさんは移動する基地なんですね。なんだか親近感です。名前もエーリまで一緒ですし」
『エーリヴァーガルは、嵐の海という意味らしいぞ。我々クラップヤード中隊はコードネームにどこぞの神話を使っているらしい』
「海なんですか?」
『名前はそうだが、川として登場するようだ。さぞかし荒れた川なんだろうな』
「素敵ですねぇ!」
『……あの総長が和やかに会話している……』
『見上げるような相手には叱責飛ばしにくいんだね』
『聞こえているぞ、役立たず共! 訓練のノルマを5倍に上げられたいか!』
『『『ひぃ!?』』』
『ごめんなさい仕事します!』
『同じく!』
『私もです!』
「あらあら、あまり虐めてはいけませんよ?」
『役立たず共は連携こそ取れているが、個人の戦技はまだまだ改善の余地がある。それに、いま必要なのは経験と覚悟だ。自分が死の危機に晒された時、そこで立ち止まる間抜けに育てる訳にはいかん』
「なるほど、実はお優しい方なのですね」
『……優しい人はあんなメニュー組まないと思う……!』
地獄と称される程の訓練メニューなのだろう。心身ともにギリギリまで追い詰められるに違いない。
『エリちゃん、ちょっと手伝って!』
「はーい、今行きます!」
クーベルメに呼ばれてすたすたすたと……いや、重さ的にどすどすどすと言う感じだろうか。本人的にはただちょっと早く歩いているだけなんだろうが。
「物資って、つまり人間さんの……ですよね」
エーリカは目を瞑って胸に手を当てる……8人目にしてようやく死体を運ぶ事に深い悲しみを感じる人が出て来るとは。流石√ウォーゾーン。倫理観は終わっている。
(エリちゃん……今は人類を溺愛していながら、昔は殺して回る側だった事実も消せないエーリカには辛い仕事だろうけど)
クーベルメはそう思考し、声に出した。
「辛いなら無理しなくていいわよ」
「やれます」
エーリカは即答する。
「一生懸命回収します。これ以上ないくらいとても大切なものですから」
「……そうね。大切に回収しましょう」
凡そ4.5倍の大きさのエーリカの手に、人形のように小さい人間の屍が積み上げられていく。
死体袋に収められているが、袋より明らかに小さい物も多い。
「まだ行けそう?」
「はい、重さは大丈夫なので崩さないように気を付けてください」
「おっけー、そっちは任せておいて!」
(……いや、必死さが上回って案外やれてるみたいね)
(……こんな時、輸送船の姿のままだったらもっとお役に立てたと思うんですが……)
今回の目的は輸送なので、確かに元の姿の方が役には立ったかもしれない。
エーリカは友好強制AIで人間の仲間入りをした時、強い希望で外装を人間のような形にしてもらった。もう船としての輸送力はない。
(ただ大きいだけの人になりましたが、おかげでもう機械じゃないって思えるんです)
手の平に積み上げられていく悲しみの重さ。確かに、一度に運べる量は減ったかもしれない。だが、この手なら別の物も救えるかもしれない。
エーリカは人類を溺愛している。仮に、そう仕組まれたAIだったとしても。
●地獄から産まれ直しても、また地獄
(回収の目的が弔いではなく、抗い戦い続けるためとは……如何にもウォーゾーンだ)
不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は放った忍獣から送られてくる情報を精査し、共有していく。忍者の本分は諜報にあり。
(戦時下の厳しい状況であることを否応もなく思い出させるな)
無機質な地下施設での凄惨な虐殺の跡地。忍犬が嗅ぐ匂いは硝煙に紛れる死臭。忍猫が耳をそば立てるのは潜む危険。忍鼠は通風孔を駆け回る。忍鴉や忍隼は空から目的の物を見つける。
(悲しいけどこれが現実、ということか)
それでも影丸の心には一欠けらの迷いもない。
(機械兵団から世界を取り戻す。その手助けとして微力ながら喜んで手を貸そう)
前回とはメンバーが全く違うが、一度は共に戦った者達の仲間である。
(クラップヤードには縁もあるしな)
そして、決意を口にする。
「この忍務、必ず成し遂げる」
「エントリィィィィィ!」
バァン! と扉を蹴り破る勢いで突入したクーベルメ率いる|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》は室内を素早くクリアリングする。
「クリア!」
「と言っても、擬態した敵が残っている可能性があるのよね」
室内は荒れている。用途の分からない箱や機材など……一見でそれと分からない敵が潜んでいる可能性が消せないのは脅威だ。
「何か見分ける方法は無いかしら?」
「あるぞ」
「ひゃい!?」
独り言のつもりが唐突に話しかけられて驚くクーベルメ。答えたのは影丸だ。
「い、いたのね」
「ああ、ずっとな」
「ずっとっていつからよ!」
「いつからだろうな?」
言葉の真偽は定かではないが、今はそれよりも。
「見分ける方法があるの?」
「ああ、見つけた」
影丸はそう言うと、これまたいつの間に抜いたのか見えない刀身に忍力を集中する。
「天魔覆滅」
忍法・|天地眼《アメツチノマナコ》により刀身が激しく燃え上がり、視界内の敵全ての隙を照らし出す。
そう、視界内の|敵《・》のみの隙だ。擬態では無い物質に隙は生じない。
「見えたぞ、全ての敵が!」
左手を素早く振り抜くと、正確に投擲された手裏剣が擬態した敵に突き刺さる!
「なるほどね、ぶっ叩くのはこっちでも手伝うわよ!」
クーベルメ分隊は揃ってシャベルを構える!
「「「|Einzelkampf《アインツェルカンプ》!!」」」
通常の三倍の移動速度に二倍の威力を乗せて叩き付けられるシャベルが敵を蹂躙した事は言うまでもあるまい。
どすんどすんと轟音を立てながら|物資《・・》を運ぶエーリカ。
大好きな人類の遺体を運ぶというのはやはり慣れない。√ウォーゾーンに居ながらにして希少とも言える感受性を持った少女(巨少女?)はそれでも懸命に運ぶ。
『一つクリアだ。物資は無かった。探索を継続する』
『はーい!』
|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》により反応速度を失っている分、エーリカの|艦隊間レーザー通信《アリアドネ》が命中率と反応速度をサポートしている。それでも3/4ではあるが、半分よりは良い。
『敵を見分ける手段を見つけた。各自の援護に向かう』
『え、どうやって見分けるか分かったんですか?』
『√能力を使って視界内に収める必要がある。残念ながら方法の共有は出来ない』
『それは仕方ないですね。それじゃあ、私の現在地は』
スマートグラスを使って位置情報を共有しようとした摩那だが。
「ここだろう?」
「……ええ、ここですね」
いつからここに? と聞いてもずっと居たと返されるに違いない。それが本当かどうかは別として。
「天魔覆滅」
再び刀身を燃え上がらせ、手裏剣でマーキングする。
「なるほど、その手がありましたか」
摩那はヨーヨーを構える。
「駆けろ、エクリプス!」
|紅月疾走《リュヌ・ルージュ》でマーキングされた物体を全て破壊し尽くすまでにさほど時間はかからなかった。
『凄い、ニンジャってやっぱり凄いんだ……!』
『単純に早いだけじゃない。視線の切り方を分かってる。恐ろしい速さで死角に潜り込んで一気に接近してる訳ね』
『アレ、私も出来る様にならないかな?』
『えー、流石にWZでやるのは色々と無理があるんじゃないかと。大きいし、どうしても音も出ちゃいますしね』
『光学迷彩でも使えば似たような事にはなるかもしれないけど、根本的に別物よね。ちょっと真似できる範囲を超えてるわ』
「そうでもない」
『わあっ!?』
『い、たんですね?』
「ああ、ずっとな」
『敵じゃなくて良かったわ……いや、味方でもちょっと迷惑だわ』
『ヴェルザンディ! 貴様の隙を突かれただけだ! 教導に感謝すべきだな』
『確かに、ありがとうございます』
「ああ、こっちこそすまない。女性に対しては少し失礼だったか」
((それ、私達もやられたんだけど))
ノルンがオープンチャンネルで喋ってるせいで情報が筒抜けである。まあ、暢気な会話が出来るのもエーリカのお陰だ。
「周囲の敵を教えよう」
刀身を抜き燃え上がらせて手裏剣でマーキング。
『よーし、ぶっ壊すよ!』
スクルドがヒートサーベルを抜く。
『とぅりゃぁー!!』
推力に任せた突撃と共に一閃。二つの箱を切り裂き、一つをついでとばかりに蹴り飛ばす。
『はいはい、援護ね』
蹴り上げられた箱をヴェルザンディのレーザーライフルが狙撃。
「連携は見事な物だ。良く仕上がっている」
『ありがとうございます!』
「でも、少しばかり詰めは甘いか」
とんっ、と軽く跳躍したような動きだけで一足とは思えない距離まで接近。倶利伽羅剣を突き立てる。
「今のタイミングでここから仕掛けられたら被害が出る」
『やっぱ経験不足かぁ……』
ヴェルザンディが狙撃するか、スクルドが巻き込むべきか、ウルズが吹っ飛ばすべきだったか……最後のはやや過剰火力か。
「足りないのは経験だけだ。よく訓練しているのが見て取れる」
『はい、ありがとうございます!』
「死ぬなよ」
そして、来た時と同じように唐突に姿を消す。
『戻ったか』
「ああ」
エーリヴァーガルには通用しなかった……ように見えるが、実は適当にカマ掛けたら本当に居たので通じてたかは微妙なラインである。
「見つけた物資の情報を共有しておこう、マップを出してくれ」
『いいぞ』
エーリヴァーガルが空中投影したマップに影丸が次々と指を刺す。忍獣の情報は流石に通信で伝達できる物では無い。
『それで、潜伏した敵の様子はどうだ?』
「結構残っているな。行動範囲内はそれなりに潰せたとは思うが、何せ広過ぎる」
視界内に収めた敵ならば識別できるが、広大な地下施設の全てを目視して回るのは流石に忍者でも不可能だ。
『至近距離からいきなり現れる奴がいなくなれば十分だ。役立たず共! 全周警戒!』
『『『了解!』』』
ノルンが集結し、隊列を組む。
『敵が動き出しました! 現在応戦中!』
『こっちもよ!』
『こちらでも確認しました』
|少女分隊たち《レプリノイド・スクワッズ》が既に各自で応戦。
「ひゃー、いっぱい来てますね!」
ラピスは手にした物資を素早く収めるとガントレットを構える。
「こちらも展開済みです」
リズは呼び戻したレイン砲台で広範囲をカバーできるように展開。
『ここから先は敵が泣いて詫びる損害を与えるのが目的だ』
エーリヴァーガルは大型シールドアームを構え、モノアイを光らせる。
『愉快な遠足の始まりだ!』
第2章 集団戦 『AL失敗作-『グレイビーズ』』

●状況整理
エーリヴァーガル率いるノルンチームは無事に十分な量の|資材《・・》を確保する事が出来た。多くの√能力者が的確に情報を集め、効率的に回収した結果と言えよう。
その一方で、潜伏中の敵を全て片付ける事は出来なかった。ただし、エーリヴァーガルが控える本隊近くの敵は大体排除したので奇襲は受けずに済んでいる。
敵は飛行型で、数が多い。主な攻撃手段に毒を使う事も分かっている。この拠点の住民を殺し尽くした相手だ。油断するべきではない。
ノルンの三人はこれが初めての実戦になる。前衛突撃型のスクルド、中衛射撃援護型のヴェルザンディ、後衛砲撃支援型のウルズ。その中の一人だけを君達は守る事が出来る。
忘れてはならない。一人が守れるのは一人だけだ。全員を守る、二人を守るという中途半端な行いでは誰も守れない。なお、三連撃以上だと普通に二人守れる。流石に居ないと思うが五連撃なら全員守れる。
エーリヴァーガルを守る必要は無いが、誰かが犠牲になる事が確定した時、エーリヴァーガルは迷わず一人を庇って死ぬ。なお、殉職する時は後部ハンガーを切り離すので集めた物資が無駄になる事は無い。
誰を選び、誰を生かすのか。選択の時だ。
●|運命の女神達《ノルン》と|英雄たち《エインヘリャル》
|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》が殿を務める形でエレベーター前に一行は集結する事が出来た。
『準備運動は終わりだ。気を引き締めてかかれ!』
『『『はいっ!』』』
「言われなくても、常に気は引き締めてるさ」
影丸が軽く悪態を付く。
『命知らずはまだ舌が回るようだな』
エーリヴァーガルは語気を強める。
『貴様の悪態が√ウォーゾーンでいつまで続くか見物だな。腕の方も磨いておけッ!!』
「承知」
影丸はこの状況で悪態を言うタイプでは無いが、エーリヴァーガルが何か物足りなさそうにしていたのでちょっとした悪態を付いてみたようだ。気配りの出来る忍者である。
『焼夷榴弾行きます!』
ウルズのロングレンジカノンが火を噴き、着弾した敵を中心に派手に爆発する。散った燃料は燃え続け、被害を広げる。資源回収を終え、この基地に用が無くなったから使える弾頭だ。
とは言え、数体を巻き込んだ程度で敵の勢いは全く止まらない。
『スクルド、突撃するよ!』
『ヴェル、援護に回る』
前衛と中衛が前に出て、それを援護する者達が続く。ノルンは三位一体のコンビネーションこそが本領だが、得意とする距離は全員違うので戦闘中に固まって動く事は無い。
『吹っ飛べッ!』
スクルドが両手にバズーカを持ち、マガジンを撃ち切るまで連射して投げ捨てた。まあ、そう言う設計だし範囲攻撃を初手で飛ばすのは悪くない。唯一の遠距離攻撃手段を投げ捨てた事は問題かもしれないが。
『エーリヴァーガルの中に代えのバズーカはありますので』
ウルズは何かを諦めた顔をしている。
スクルドを先頭にして放たれた矢の如く駆け抜けた前衛は進路上の敵を全て駆逐して進行する。しかし、全方位を敵に囲まれた現状では後衛が敵に取りつかれる可能性が高い。
『ガトリングで迎撃します!』
ロングレンジカノンを折りたたんで背部ハンガーに固定し、迎撃用ガトリングガンに持ち替える。一応、両方同時に使う事も出来なくは無い設計だが、どちらも両手で使った方が命中精度は高い。撃てば撃つほど当たるような状態だが、それだけで押し返せる数ではない。
ウルズが死ぬなら、今この時だった。
「そうはさせませんけどね」
|黒木《くろき》・|摩那《まな》(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)がヨーヨーを構える。
「エクリプス、モードチェンジ!」
摩那はヨーヨーにコインをはめると、ガキン! と音を立ててコインをホールドしたヨーヨーが光り輝き始める。|金環日蝕《エクリプス・ソレイユ》は射程と威力を倍加する√能力だ。
『すいません、撃ち漏らしをお願いします!』
「お任せください」
ウルズが入手した索敵情報はスマートグラス『ラプラス』によって可視化されている。一投で仕留めきれる軌道を一瞬で計算した摩那は正確にその軌道上に投擲!
「そぉれッ!」
殺戮回転ノコギリめいて高速回転する|金環日蝕《エクリプス・ソレイユ》が次々と敵を鮮血吹き出す鉄屑にしていく。
機械は血を吹かない。だが、この敵は流血する。このような姿をしていながら敵は人体をパーツとして使っている。もし、√能力者達が遺体の回収に来なければこの基地の遺体も全てこれに作り替えられていたかもしれない。敵もまた、死体を資源と見做しているのだ。
だがそれは終わってしまった命だ。摩那に躊躇いがある筈も無い。手の動きでヨーヨーの紐を操りながら、念動力も加えて予測困難なジグザグ軌道を描いて|金環日蝕《エクリプス・ソレイユ》は敵を駆逐していく。
◆締め切り回避の為、先行採用しています。まだ出番はあるので備えよう。
●交錯する戦線
『こっちも持ってけ!』
スクルドは両脛部の使い捨てロケットランチャーをぶっ放ち、メインブースターを吹かして突撃する。相手の性質からパイルバンカー内蔵シールドは不要と見て放棄。手持ちは大型ショットガンとヒートサーベルのみになる。
「しかし、スクルドのスペックは本当に突進一択ですね。装甲をパージする時は事前に連絡をくださいね?」
そんなスクルドのほぼ真後ろを陣取って援護しているのはリズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)
『装甲パージは使うまでも無いかな。突っ込んで蹴散らす!』
一際派手にジェネレーター直結のメインブースターを吹かし、散弾を叩き込みながらヒートサーベルで次々と撫で斬る。
その眼前に敵!
『伊達や酔狂でこんな頭をしてるんじゃない!』
頭部のヒートホーンで貫く!
まさしく、正面突破の一点のみを突き詰めた機体構成だ。正面からは多少の被弾もしているが全て弾いている。
「試作ジェネレーターの最大出力は限定使用でお願いしますよ」
『はーい!』
スクルドが突撃し続けられているのには理由がある。
弱点である後方を常にリズが陣取り敵を寄せ付けないという事。そして、スクルドがこじ開けた戦線を|LXF光翼最大出力モード《フライトアーマー・オーバートップ》を発動したリズが全方位へのレイン砲台を展開し、損害を広げ続けている事だ。通常型は近くの敵を、高火力型は最も多くの敵を巻き込める方向に撃つ。側面や背面からの攻撃はシールド型でブロック。
もっとも、側面からの攻撃はあまり受ける事は無く、背面に至っては一発も飛んでこない。それはスクルドの前進特化ブースターに相手が追い付けない事に加えて、その背面を常に陣取り続けられるリズの機動力のお陰だ。
そしてその後方。派手に暴れるスクルドとリズが散らした敵を的確に仕留めて回るスミカ・スカーフ(FNSCARの少女人形レプリノイド・h00964)とヴェルザンディ。
『全く、前も後ろも派手でいいね』
「その分こっちは自由に動けてますから。汎用型らしく行きましょう」
『あいよっと』
リニアライフルで的確に一機ずつ仕留めていくヴェルザンディ。記憶を無くしているというのに緊張も動揺も無い。
(三人の内、誰かが欠けそうになればエーリヴァーガルが身代わりになって破壊されるようですが)
突入前のブリーフィングを思い出す。
(直接助けたい気持ちはありますが、その為に無理をする訳にはいきません)
スミカは純粋な魔力で構成された|古代語魔法【接触拡散式純魔力弾】《セットマジック・ザ・カラサワ》をスクルドの背面に回り込もうとしていた敵集団に叩き込み一網打尽にする。
(それに、その心配も無さそうですし)
スクルド、ヴェルザンディ、ウルズの三人に一人でも√能力者がフォローしていればこの戦場では死なない。その条件は既に満たしている。
「ヴェルザンディ、ウルズとスクルドの真ん中を意識してください。このWZチームでは、あなたがリーダーの立ち位置ですから」
『『えっ?』』
二人から上がる疑問の声。
『私じゃなくね? 後方でよく見えてるウルズでしょ』
『いえいえ、私は情報収集で手一杯なので引っ張るのはスクルドさんの想定なんですけど』
『ええ~? 私もヴェルだと思うなー』
『って言うかスクルドは一番無いだろ』
『先頭で引っ張るポジションなので|先導《リード》役ではありますから』
『随分と口が回る余裕があるようだな、役立たず共。直近に自殺の予定が無ければ気を引き締めろッ!!』
『『『は、はいっ!』』』
『それでは、エーリヴァーガル総長としては誰にするべきだと思っているのですか?』
『分かり切った事だろう、全員等しく役立たずだ!』
『それはそれは』
全員等しく。誰かが一人で引っ張るのではなく、三人が互いに引っ張り合う関係。それがノルンなのだろう。
「確かにおしゃべりが過ぎました。集中です」
『はいよ!』
摩那がウルズに近寄る敵を横の動きで排除しているとすれば、ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)は縦の動きで突き抜けている。
「ここでも新人さん型の練度上昇を期待して極力見守る……べきですかね?」
それが出来るならその方がいいかも知れないが、敵の数は一人前でも十分持て余す量だ。それに、足りないのは実戦経験だけだった新人たちの動きはいい。手加減できる状況でも、手加減が必要な状態でも無いようだ。
「それなら、みんなで生きて帰るためにも、油断は禁物です。しっかりカバーしますですよ!」
「近寄る敵はこっちで引き受けますので」
摩那が手元に戻したヨーヨーを握り、再び投擲する。武器の性質上横に広い範囲を薙ぎ払えるが、ウルズを守るのが主目的なので離れる訳には行かない。
その点、ラピスの機動力なら離れた敵を貫きに行く事が出来る。下手な鉄砲でも撃てば当たるような状況ではあるが、得意な事が出来るのならその方がいい。
「じゃあ、ロングレンジカノンの準備をしてください」
『え、この状況でですか?』
「どかーんと吹き飛ばした方が数は減らせますからね!」
ラピスは|Code:神雷《コードジンライ》を発動し、ジェットパックを蒼白に輝く過電流モードに変形させる。サンダーフェロウを構えると、一瞬の内に数体を串刺しに。残骸を蹴り飛ばして杭を抜くと次の瞬間には既に数体串刺しにしている。
『なんて速さ。これじゃ援護なんて……』
弾種は有効性が確認された焼夷榴弾。下手に撃てば巻き込んでしまうかも知れない。ウルズは引き金を引けない。
「落ち着いて、あの動きをよく見て見なさい」
摩那が軽くアドバイスをする。
「あんな速度で動いているのに、どうして貴女はそれを捕捉出来ているのかしらね?」
『あっ、そう言う事ですか!』
そう、ラピスは決して加減して飛行している訳では無い。なのにウルズはその動きが見えている。何なら動く先までわかる。それは何故かと言えば。
(スクルドの動きを真似してくれている!)
使う獲物は違えども、高速で突っ込んで蹴散らすという戦法は似通っている。その上でスクルドの動きを見て、スクルドと同じように動いて見せているのだ。
(弾道、爆破範囲、計算……!)
ウルズは素早く算段を立てる。適切な位置への援護射撃を。
『そこですっ!』
そして、引き金を引く。放たれた砲弾はラピスとすれ違いに飛び、追跡しようとした敵をまとめて吹き飛ばした!
「そうそう、その感じ! どんどんいこう!」
『はいっ!』
遠距離攻撃が得意な敵には接近戦を挑めばいい。接近戦が得意な相手は遠距離戦で翻弄すればいい。これは一般的な、当たり前の戦法だ。なので、それをカバーするには得意とする距離が逆になっている人が適切である。第435分隊はそれをやった。
突っ込んで接近戦をし続けるスクルドには、圧倒的な弾幕を張れるリズを。接近されたら対応できないウルズには高機動で接近戦が出来るラピスを。
その一方で、得意分野が同じならその性質を強化する事が出来る。ヴェルザンディと組んだスミカがそうだ。
戦闘行為と言う物は常に自分の有利な状況を相手の不利な状況にぶつける事が最適である。中々そう上手くは行かない物だが、仲間と連携すれば互いの欠点をカバーし、長所を伸ばす事も出来る。
敵の数は多いが、それだけだ。単一の戦法でただの飽和攻撃をし続けている相手と言う物は実際は一体の敵を相手にしているのと大差が無い。
『スクルド、ポイント更新! マーカーの位置に向かって!』
『了解っと!』
『では、こちらはこの位置でカバーしますよ』
『じゃあ、この辺でグレネードをぽいっとな』
(やる物だな。全く萎縮していない。最初から三人一組として設計した効果がコレか)
エーリヴァーガルは誰かが孤立すれば身を挺してカバーするつもりで居た。だが、結果はこれだ。
(その分、誰か一人でも欠けた時に脆さが露呈するだろうな)
見知った仲間と声を掛け合って戦えている。それは戦場では有難い幸運と言える。
(危ういが、今はこれでいい。どれ、気合を入れ直してやるか)
『遠足はここからが本番だ。意地を見せてみろ役立たず共!』
『『『はいっ!』』』
●トリプルドッグ
「守るとなると、集団戦で怖いのは乱戦よね」
|クーベルメ《Kuhblume》・|レーヴェ《Loewe》(余燼の魔女・h05998)が言った。
「流れ弾、雑兵の捨て身の一撃……優秀な兵士や英雄であっても、最期はそんなものが多いわ」
「咄嗟に年下の部下を庇って死ぬとか?」
「アレはそもそも敵地なのに気を抜き過ぎだったのよ」
『何の話?』
「いや、ちょっとロボットアニメ史に悪い意味で残っちゃった例を思い出してね」
せめてあの目立つジャケットは脱げ。まあ、あの作品全体的にパイロットを技量関係無い所で殺し過ぎなんだよなぁ……いや、いきなり脱線し過ぎた。
「大丈夫、あなたは討ち取らせるものですか!」
スクルドは背面から一発でも直撃すると致命傷になりかねない機体だ。特に狙撃のような意識外からの一撃に弱い。常に前進し続けるスクルドの背後を取れるならの話だが。
しかし、真後ろはリズがしっかりと固めている。あれなら守りは任せておいても大丈夫だろう。
「あなたは得意な事をやってちょうだい!」
スクルドのフォローに回るクーベルメはスクルドを挟撃しようとする敵集団を重点的に叩く。相手の数が多くても問題無い決戦気象兵器「レイン」で片方だけ叩けばもう片方はスクルドとリズによって蹂躙される。挟撃を内側から破る格好だ。
クーベルメが機動性の高いスクルドとリズに付いていくのは無理である。しかし、先の戦いで配置した|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》はまだ健在であり手数がある。もう一人の先鋒として敵集団の動きをコントロールする事が出来る。シャベルを背負って突撃銃を構え、突っ込みながら蹴散らしていく。
手榴弾で隊列を崩し、突撃銃で各個撃破。抜けてきた相手にはシャベルを脳天に叩き込む。
当然その間もレインは絶やさない。しかも、敵の動きは別な味方によって誘導されている。
その動きをサポートしているのが|エーリカ《Erica》・|メーインヘイム《Mainheim》(あなたの帰りを待つ母艦・h06669)の|艦隊間レーザー通信《アリアドネ》だ。|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》による反応速度の低下を補っている。
「お互い動きの鈍い支援型ですからね。いざとなったらわたしの大きな身体を盾にしてもいいですよ」
『いえ、そういう訳にも』
「大きさのせいで感覚狂うんだけど、見た目生身の女の子っぽいのよね。それこそ、戦場に居る事が不釣り合いなくらいには」
エーリカは身長が8mあるベルセルクマシンだが、大きさ以外の要素を取れば普通の女の子にしか見えない。
「そんなに頑丈ではないかもしれませんけど……あはは」
『大丈夫です! 近距離の迎撃はラピスと摩那さんで請け負いますから!』
ウルズに群がろうとする敵集団を貫きながらラピスが言った。
「そう言う事。乙女の肌を傷物にさせたりしないわよ」
エクリプスを旋回させながら摩那も同意する。
「それなら、わたしは私の出来る事を」
エーリカは中継基地であるレギオンメイトから多数のレギオンを展開させる。
「いけっ、レギオンさんたち!」
数には数を、レギオンにはレギオンを。簒奪者でもあるレギオンは侮れない火力はあるが、主力武器が毒なので機械には相性が悪い。破壊は他メンバーに頼りつつ、レギオンを展開して時間稼ぎと敵集団の誘導を行っていく。
「1匹も逃がしませんから、覚悟してください……わたし達と違って、感情のない機械には”覚悟”なんて出来ないかもしれませんけど」
先の探索で展開された|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》は3セットの36体。その内、24体はヴェルザンディのカバーに回っている。
半分はスミカ。やはりエーリカの支援のお陰で反応速度の低下を抑えられている。
もう半分は|八木橋《やぎはし》・|藍依《あおい》(常在戦場カメラマン・h00541)本体とも言えるHK416で応戦している。
方やFNSCARの|少女人形《レプリノイド》、方やHK416の|少女人形《レプリノイド》。同じアサルトライフルと言うカテゴリではありながらライバル企業の生まれである。
双方共にその辺りの思い入れがあるかは分からないが、種別が同じなので結構やりやすいようで。
「ポイント更新、2ブロック前へ」
「|突撃《チャージ》!」
24人の突撃歩兵の一糸乱れぬ連携から逃れられるような敵ではない。
『渋い立ち回りだよねぇ』
フォローされるヴェルザンディが漏らす。
「銃撃戦に置いて一番扱いやすいのが|突撃銃《アサルトライフル》と言うカテゴリですからね」
「汎用性と言う一点では引けを取りませんよ」
『私もアサルトにすればよかったかな? 今リニアライフルなんだよね』
一発が重いリニアライフルは薄いカバーなら容赦なく貫通し、軌道王に居る相手を纏めて射抜く事も出来る。ただし、連射速度はアサルトライフルとは比べ物にならない。
「相手次第でしょうね。この相手なら連射力がある方が良かったかと」
「一長一短ですよね。バン行きます」
藍依がピンを抜き、閃光手榴弾を投擲。光学カメラを無力化させた隙に突撃して|蹂躙《クリアリング》する。
「ヴェルザンディさんはどんな武器も扱えるのが強みですからね。色々試していきましょう」
『アイアイ、了解っと』
「次はスモークで」
チャージしたリニアライフルで敵集団に風穴を開けた所に投げ込まれる発煙手榴弾。発熱する事で熱感知も無力化する事が出来る優れモノだ。こちらを見失った|一瞬の隙《1ターン》に左右に展開。十字砲火で油断なく仕留める。
エーリカは味方の命中と反応速度を大きく向上させる分かりやすい|支援《バフ》を味方全体に与えている事に対し、藍依もひっそりと分かり難い|支援《バフ》を与えている。|未知との遭遇!《アンディファインド・システム》によって呼び出されたキューブ状の正体不明のシステムが毒に対する耐性を大幅に上げているのだ。直接注入されれば危ういが、毒のバイオ粒子程度なら殆どダメージを受けない程度まで軽減されている。
攻め手は多く、守りも堅牢。数ばかりが頼りの敵は次第にその数を減らしていくのみのように思えたのだが。
●残身
(遺体回収が完了してよかった……このままここで朽ちていくよりは、デッドマンとして人類が生き延びる力となる方がまだましなのだろう)
不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は内心安堵する。
(だが、毒で苦しめて殺すとは悪意そのものだ)
そして、内心の決意を口にする。
「ノルンチームを助けて敵を撃破する。この忍務、必ず成し遂げる」
『確認できる敵は全て破壊しました!』
『よし、役立たず共。一度こっちに合流しろ』
『『了解!』』
スクルドとヴェルザンディがウルズとエーリヴァーガルが待つ本陣へと帰還する。当然、それを守る√能力者達も一度集合した。
乗ってきたエレベーターのある広大なフロアである。
『出番無しか、やるじゃないか命知らず共』
「まあね。その機体じゃ相性悪すぎでしょ?」
『それでも何とかするのがクラップヤード流だ』
実際、自ら戦うとなれば何とかしてしまうエーリヴァーガルなのだが、ノルンを実戦に慣れさせるという目的もあるので積極的に動く事は無かった。まあ、√能力者が大半の物事を何とかしてしまったので別にフォローする必要がなかったとも言う。そもそもエーリヴァーガルは直接戦闘をする機体では無いし。
「油断は禁物ですよ。伏兵が残っている可能性があります」
「そうですね、これだけ潜伏能力に長けた相手なら伏兵は必ずあると想定した方がいいと思います」
エーリカの言葉に藍依が同意する。
「残身は怠るべきでは無い」
それに、多くの忍獣を従えた影丸も。
「いけっ、レギオンさんたち!」
「千里眼カメラも出します」
「アルバトロスも行きますよ」
「では、レインの精霊達を出しましょう」
「忍鳥達、頼んだぞ」
レギオン、ドローン、精霊、忍鳥。資源回収で活躍した多くの索敵手段を再展開する。
「ええ、許しませんとも。ここの人達をあんな風にしたこと……機械なんかと違って、壊れたら修理すればいいというわけにはいかないんです」
「エーリカ! 恨みの感情で戦うのは感心しないけど……っ」
「憎しみは眼を曇らせる。怒りの炎は己の内で燃やせ」
クーベルメが気持ちは同じ、と続けようとしたら影丸が先に釘を刺した。
「炎が必要になる時はある。だが、炎は常に熱く輝き続ける。仕舞いには何を憎んでいたのかすら思い出せなくなる程己の心を焼き続ける」
「ですが」
「心配はいらない。簒奪者達はここで殲滅する。そうしなければならない理由もある」
それは、ここまで数多く破壊してきた『AL失敗作』という敵の性質を見れば明らかな事だ。
「俺達とこいつ等が探している物は同じかもしれない。だが、俺達は決してこんな非道を成すためにしている訳じゃない。こんな非道を行う簒者共を決して赦しはしない」
敵にされた事を、こちらがやり返す。生体パーツとして使われている者達を解放する為にも。
「文字通り、鏖殺だ」
「熱源を落とす事での潜伏は厄介な手ですね」
「でも、今は状況が違うはずよ」
一斉に展開し、数を頼みの圧し潰すのならば予備戦力など必要ない。数こそが武器なのだから全てを一気に出し切るべきだが、それで相手が押し潰せなかったら? もう一度潜伏し、機を見て再稼働するべきだろう。
だからそうした。だが、一度目とは状況が違う。
「一度起動していますからね。ずっと潜伏していた訳じゃない」
「余熱があるという事ですね」
藍依と摩那はドローンの熱感知の閾値を上げた。エーリカのレギオンとリズも精霊の熱感知を上げる。忍鳥に熱感知能力は無いが、鳥と言えども隠れ潜む忍者の業を得たもの。一度動いた痕跡があるかどうかは見て判断できる。
相手はそれに反応する事は出来ない。動力を落としているからだ。これでは下策だったか? いや、事ここに至って逆転できる策などありはしない。
「残敵全ての位置を確認した。共有を頼む」
「了解、偵察ドローンは撤収しますよ」
「私達で一つ残らず叩き起こしてやりましょう」
「頼みますよ、レギオンさんたち!」
レギオンミサイルの爆発とレイン砲台の光に紛れ、忍鳥が敵を狩る。忍隼は猛禽の爪で切り裂き、忍鴉は羽手裏剣を飛ばす。到底仕留めきれるような攻撃では無いが、こちらのメッセージはしっかり伝わったようだ。
もはや逃げも隠れもさせはしない。お前たちの位置は全て見破っているという意図は。
既に見破られているなら潜伏する意味は無い。生き残りが発する微弱な起動シグナルで残った敵は全て起動した。
『役立たず共、もう一仕事だ』
『『『はいっ!』』』
「フォーメーションはさっきと同じで行く?」
『いや、私達はもう一人でも戦える』
『一人じゃ無理だろ、三人だ』
『そうです。三人そろっていれば大丈夫』
「そう言う事なら、こっちも全員攻勢に出て良さそうね」
「確認した数はさっきの半分以下ですから。それでも、油断はしないように!」
36人の|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》が戦闘態勢を取り、突入する。
「ジ! クガ! イフリズ! 出よ、倶利伽羅龍王剣!」
その先陣を切る紅の残光。あまりの速度に見えるのは|倶利伽羅龍王剣《クリカラリュウオウケン》が通り過ぎた軌跡のみ。これは単純に早いのではない。視覚を誘導して視線を切る事で死角へと抜ける忍びの業だ。
袖口から伸ばした糸が構造物や敵、時には味方すら使って三次元機動。糸を巻き付けた敵を二周して拘束しながら周囲の敵を次々と斬り抜ける。
「エントリィィィーーーッ!!」
そうして忍者が作った隙を他の者達が広げる。|突撃銃《アサルトライフル》の|銃光《マズルフラッシュ》が弾ける度に敵が落ちていく。
小指でピンを抜き、蹴り飛ばす事で遠くまで飛ばされた手榴弾が派手に爆発する。殺傷榴弾だ。
「ここで問題! どれが殺傷榴弾でしょうか?」
三つの手榴弾のピンを抜き、三方向に投げる! 爆発、爆発、爆発!
「正解は全部です。他は、ちょっと使い過ぎました」
『派手にやるな、命知らず。クラップヤードのお手製弁当は要るか?』
「いいですね、いただきましょう。やっぱり、遠足と言えば弁当ですよね」
『他の連中も何か切れたら今の内に補給しておけ!』
実はエレベーターは一度往復している。誰も乗せずに上に上がったが、降りて来る時には補給物資が山積みだった。クーベルメの|航空支援要請《クローズ・エア・サポート》で運ばれた物資だ。
『突撃ッ!』
帰りでパイルバンカーシールドを拾ったスクルドが突撃する。その背面はヴェルザンディと|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》が固めているので心配ない。杭を一体に突っ込み、そのまま推力に任せて数体に衝突させてからパイルバンカーを起動。一気にまとめて爆散させた。
『あの動きって』
「ラピスの真似でしょうか!」
『正解! 刺突武器は相性イマイチな相手と思ったけどやりようだね!』
ラピスがウルズに見せたスクルドのシミュレーション。その動きを今度はスクルドが模倣しているのだ。
「では、ラピス本来の動きもお見せしましょう!」
ラピスはスクルドの動きを真似していたが、別に速度を落としていた訳では無い。速度に大きな差は無いが、ラピスの動きは一際早い。
『これが本来の機動性ですか。もう目では追えませんね』
やっている事は影丸に近い。動きに緩急を付けて、速く動いているように見せている。ただ単純に早いだけではいずれ目が慣れて対応される。だが、動きに緩急を付ければ対応は遅れる。その遅れた分はラピスにとって十二分な隙だ。
「こういう感じです!」
『よし、やってみる!』
スクルドも常に全速力の踏み込みから、少し緩急を付けて仕掛けた。最初の内は間合いの違いで空振る事もあったが、すぐに修正した。
「いい感じですよ! ラピスも負けてられませんね!」
毒の影響は藍依の|未知との遭遇!《アンディファインド・システム》によって大きく減じていたが、影丸はそこにもう一手を加える。|倶利伽羅龍王剣《クリカラリュウオウケン》で空間を切り裂く事で、毒で汚染された空間を引き寄せながら自身は高速離脱。敵側に有利な性質は残ったままではあるが、動きの遅い味方を毒の領域から守る事ができる。
それに、敵側の適応環境ももはや問題にならない。
「ノーマクサーマンド! バーサラ! ダンカン!」
|不動明王利剣呪《フドウミョウオウリケンジュ》を発動し、自身と剣に迦楼羅炎を纏う。ただでさえ早い移動速度が更に三倍になり、僅かでも有利を得ようとして集まった敵を稲妻の如き速さで両断。敵も引き寄せる事で次々と始末していく。
「逃がさないと」
呼び寄せたゲコ丸の上に乗り二段ジャンプ!
「言った筈だ」
いまだ潜もうとする敵をずんばらりん!
能ある鷹は爪を隠す。少なくとも√Edenではよく知られた諺だ。では、忍鳥達はただ弱い攻撃をして敵を起こしただけだろうか。当然違う。
これだけ広域に散らばった敵を一つ残らず鏖殺するにはかなりの労力と時間がかかる。だから敵はこの『AL失敗作』を大量に放つ事で労力の問題を解決した。
だから影丸も同じ事をした。忍隼が本気の速度で爪を振るえば鎌鼬の如くぱっくりと切り裂く。忍鴉はさらに多くの羽手裏剣を放ち弾幕で圧殺。忍燕の高速飛翔は一筋の流星となり次々と敵を穿つ。
それだけでは終わらない。忍鼠はどんな閉所にでも入り込み、未だ潜伏しようとする敵に致命的損害を与える。忍蛇はピット器官で熱を敏感に感じ取り、構造的に脆い部位を締め上げて破壊する。忍犬は咥えた刀で敵を切り裂き、忍猫が安全を確認する。忍猿は器用に鎖分銅を操り粉砕。忍狐と忍狸は化け術で主人の姿を借り剣を振るう。忍熊の爪は多くの敵を蹂躙。忍鼬が鎌鼬の本分を見せれば忍狼がそれら全てを統率し主に伝える。
当然、リズのレイン砲台の精霊もそれに手を貸し遠距離までフォロー。
文字通りの鏖殺である。ただの一つも逃しはしない。それは安全を確保すると言うよりも、むしろ敵の一部にされてしまった者を救うための行為だったのではないだろうか。
片合掌で犠牲者の冥福を祈る影丸の姿がそれを物語っているようだった。
「敵の全滅を確認した」
「みんな、お疲れさま」
そして、全員がエレベーターに戻る。
『……あの、あれだけいた筈の忍獣たちはどこに?』
「さあ、どこだろうな?」
役目を終えれば速やかに去る。たぶん、どこかには居るんだろうが……熊とかどうやって隠れてたんだ?
『役立たず共、愉快な遠足はここまでだ』
エーリヴァーガルは、上昇するエレベーターの先を睨む。
そこに鎮座しているのは――浮いているので鎮座ではないかもしれないが――この基地の防衛線力を単独で壊滅させた敵旗艦。全長100mを越える、海洋生物型巨大戦艦。
『直近に自殺の予定がある者だけ付いて来い!』
第3章 ボス戦 『Great-Invasion『ORCA』』

●状況整理
全長100mを越える敵海洋生物型巨大戦艦『ORCA』を撃破すれば本作戦は完了となる。
もう一度説明しておくが、ノルンの三人はまだまだ実戦経験が足りてない。前衛突撃型のスクルド、中衛射撃援護型のヴェルザンディ、後衛砲撃支援型のウルズ。その中の一人だけを君達は守る事が出来る。
忘れてはならない。一人が守れるのは一人だけだ。全員を守る、二人を守るという中途半端な行いでは誰も守れない。なお、三連撃以上だと普通に二人守れる。流石に居ないと思うが五連撃なら全員守れる。
敵は巨大な上に空中に浮いているので遠距離攻撃か飛行能力が必要になる。まあ、技能として飛行系を持っていなければならないという訳では無い。接近する手段を何か書いておけば大体何とかなる。
問題は相手のサイズの方かもしれない。当然ながら無人運用なので、人が入るスペースは無く内部に入って破壊する事は出来ない。ビットの射出口なら狙って入り込む事も出来るかもしれない。
最終的には派手に破壊するので何か決め技を一つ書いておいてくれるといい事があるかもしれない。決め技は使用指定してもしなくてもいい。
さあ、再びの選択の時だ。誰を生かし、誰を見捨てるのか。後悔の無い選択をするがよい。
●空中艦隊戦
『散開! あんな奴の直撃を受けたら装甲厚など関係無しに真っ平らにされるぞ!』
ノルン、エーリヴァーガル、そして√能力者達はバラバラに散開する。あんな巨大な敵の主砲はおろか、副砲ですら直撃は危険だ。
ヒレ部に見える三連砲塔、顎部二連砲塔、側面部三連砲塔。これら見えている砲塔の威力は非常に高い。それだけではなく発光部はレーザー機銃になっているようで分厚い弾幕を展開してくる。
「ひえー、ただでさえ大きくてあんな遠くに浮かんでるのにこの弾幕じゃ近付けませんよ」
|黒木《くろき》・|摩那《まな》(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)は「さすがは巨大戦艦というだけあって、でかいですね」とか暢気な事を言っていたが、その大きさ相応の難敵である事を理解して一筋の汗が滴る。スマートグラス『ラプラス』で解析した情報を再び表示する。
「全長115m、高度1500m。大き過ぎて距離感バグりそうです」
遠くに見えるシャチ型飛行戦艦の威容はあまり大きく見えない。人間は無意識に大きさで距離感を計ろうとするため、遠すぎる相手の正確な大きさは理解しにくい。
「近寄ったらもっと大きいんでしょうね。あれを撃ち落とすとなると、なかなか大変そうです」
相手も人間サイズに艦砲を当てるとなるとそう簡単ではないようで、連装砲の着弾点は遠い。とは言え、その修正にそれほど時間はかからないだろう。レーザー機銃に気を取られて連装砲の爆破範囲から逃げ損ねたらどうしようもない。
「飛ぶ手段はあるのですが、浮くだけなんですよね」
和傘『飛天御前』の事を少し考えるが、浮くだけではレーザー機銃でハチの巣所か蒸発するだろう。対航空機用の機銃なので生身で当たれば骨も残らない。
「手はあるんですけどね」
ウルズの近くで飛び回っているのはその手を使う為だ。しかし、ウルズの方も回避で手一杯で反撃もままならない状況。
『我々は貧乏くじを引いたようだ!』
エーリヴァーガルは全長8mの巨体。機銃を全て避け切る事は出来ない。しかし、可動シールドアームでブロックする事で損害を受けずに済ませている。だが、艦砲射撃相手では8mと言えど生身と大差が無い。当然、他のWZも同様だ。
「皆さん、私を盾にしてください!」
同様に難儀しているのは身長8mのエーリカ。アコースティックギターケースを盾にして何とか凌いでいる。しかし、それもいつまでもは持たない。一切反撃できていない現状では。
『遠方から高熱源体の接近を検知!』
ウルズが悲鳴めいた声色で報告が上がる。
『状況分析は冷静にやれ!』
『は、はい! ですが、これは……!』
『冷静に、正確にだ! 分かっていない事を中途半端に口にするな!』
『遠方から接近する物体、敵母艦の倍以上の大きさです!』
『なんだと!?』
さすがにそれは歴戦のエーリヴァーガルですら戸惑う事態。もしも、それが敵であるならば今以上にどうしようもない。
「待ってください、これ友軍信号です!」
ウルズが検知した物体にラプラスを向けた摩那はそれに気が付く。
「味方の、√能力者……!? でも、あんな大きさありえるの?」
「両舷全速! 本艦を味方の盾とする!」
大和型戦艦・一番艦・大和(蘇み返りし護国の鎮守・h05418)はかつての大日本帝国が誇る最強の戦艦『大和』と同サイズ、即ち全長263mの超弩級の中でも最大最強の戦艦である。まあ、空中を飛行している時点で中身は完全な別物だろうが。あの大きさと重量で空を飛ぶのはかなりの無茶がある筈だが、重力制御か仮想海面でも搭載しているのだろう。
その最大速度は27.46ノット、約50.8 km/hで巨体が動くには随分と遅く見える。
「第一、第二砲塔撃ち方始めッ!」
その前方に設置された45口径46cm3連装砲塔の二基が吼える。積んでいるのは実体弾かビーム砲か。いずれにしても全長115mの『ORCA』にとっては直撃したくない火力だ。全力で回避行動を取る。
「直撃弾無しですか。運動性はイージス艦以上ですね」
|ORCA《シャチ》の名の通りに空中をダイナミックに泳いで艦砲を躱す。
「第二射、てーッ!」
大和はそれを気にもせず続けて主砲をお見舞いする。何と言っても最大射程が違う。ORCAの主砲ならば届くだろうが、それでは足元の敵に対処できない。
「味方のベルセルクマシンですかぁ……アレ、暴走されたら手が付けられませんよね?」
と、言うよりどういう経緯で味方にしたのやら。
『ですが、回避に気を取られてこちらへの攻撃が手薄になっています』
大和が現れるまでは悠々と上空に佇み全砲塔を地上に向ける事が出来た。しかし、全力回避となれば連装砲を地上の小型戦力に当てる余裕はない。レーザー機銃は相変わらずこっちに向いているが、それだけならまだ対処は出来る。
「今がチャンスですね。さあ、その大砲で私を打ち上げてください」
『どうやってですか! 口径が大きいとは言っても人間が入れる大きさじゃないですよ!?』
「射程距離内ではあるんでしょう?」
『そうですけど!』
『構わん! 命知らずが命知らずな事をするだけだ! やれ!』
『ああ、もう』
ウルズはロングレンジカノンをORCAに向ける。
『弾道計算、しなくても外すような大きさでも距離でもありません!』
摩那はその砲身の上に着地。超可変ヨーヨー『エクリプス』の糸を砲口に巻き付ける。
「ヨシ!」
『何見てヨシって言ってるんですか。無茶ですよそれ』
「いいから撃ちなさい」
『ええもう、撃ちますよ!』
ドォンッ! と砲身が吼える。
空中で鳴り響いている音と比べればささやかにすら感じるが、WZ用のロングレンジカノンも本来ならば十分な轟音である。発射された弾頭にヨーヨーの糸を巻き付けて、ORCAに向かって一直線に飛んでいく。
「着弾まで60秒! これで一発勝負です」
摩那は左手でヨーヨーの糸を保持したまま、右手で殲滅動力剣『アンフィニ』に深淵ダークエネルギーをチャージし始めた。
結論から言うと、この戦闘はその規模に反してごく短時間で決着が付いた。簒奪者側が圧倒的な火力だけでなく継戦能力も圧倒している以上、√能力者達は短期決戦を余儀なくされているからだ。
●第435分隊駐屯地withルート前線新聞社
大和は確かに高い耐久力を持つが、あくまで一人の√能力者である。そういう√能力でも無ければ敵の攻撃を一手に引き受け続ける事は出来ない。だが、わずかな時間であっても敵の気を逸らしてくれた意味は大きい。
「この好機を逃す訳にはいきません。私達の仕事をしましょう」
『了解! 突撃だね!』
リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は当然その機を逃さずスクルドと共に突撃を選んだ。火力の高い連装砲からの砲撃は大和が引き受けてくれているお陰で、レーザー機銃だけならリズのレイン砲台だけで|弾く《パリィ》事は十分可能だ。
「デカいシャチ型の戦艦です、115mとは圧倒的な大きさですね。おそらく外壁は強固、狙うとしたら口を開いて主砲を撃つその時。それまでは牽制しつつ生存しなければなりません」
「実戦は訓練の様に、訓練は実戦の様に。落ち着いていきましょう」
『了解了解っと』
「いや、もう少し緊張してください」
スミカ・スカーフ(FNSCARの少女人形レプリノイド・h00964)と|八木橋《やぎはし》・|藍依《あおい》(常在戦場カメラマン・h00541)はアサルトライフルに長射程化ロングバレルを取り付けて戦っている。1500mとなると、普通のアサルトライフルが届く距離ではないし、ロングバレルを付けてもそこまで届くかは疑問ではある。まあ、√ウォーゾーンで使われているアサルトライフルは対人では無く対機械想定なので基本的な有効射程が√Edenの倍くらいあるのかもしれない。
「大和さんの攻撃を嫌って高度を落として回避運動を取っています。今なら難なく当てられるはずです」
「的が大き過ぎて外す気はしませんけどね」
『って言っても、結構大きく動いてるんですけど?』
大和の艦砲を避ける為にORCAは大きく回避運動を取っている。部分的には時速200kmは出ているだろうか。単純に早いのではなく、泳ぐような動きをしているので動きを読みにくい。
「慣性を無視して自由自在に動いている訳ではありません。動きをよく見てください」
藍依の統率する|少女人形《レプリノイド》の一人が対物ライフルを見事に当て続けている。
「この距離なので銃弾も風に流されます。風も読んで撃ちましょう」
スミカの|少女人形《レプリノイド》もフルオートで撃ち続けているが、その命中率は7割を下回ってはいない。
「相手は|遮蔽物《カバー》を使えませんから。当て放題です」
『簡単に言ってくれるよ』
ヴェルザンディは射程と威力に優れるバトルライフルを選んで持って来ているが、結構当たっていない。
『二次ロックでも避けられちまう』
「それはWZのFCSに頼り過ぎですね」
「敵の動きをよく見るのです。シャチを模した外見は伊達じゃなくて、あの形が合理的だからかもしれません」
まるで水中の様に空中を泳ぐORCA。逆を言えば、空中でありながら水中のように動いているとも言える。
『って言っても、私の腕じゃFCSの補助抜きでこの弾幕を避けながら当てるってのはね』
そう、忘れてはいけない。この三人、というかどっちも|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》を率いているので25人はレーザー機銃弾幕に晒され続けているのだ。エーリカの恩恵で反応速度は0.75倍で済んではいる物の雨の様にレーザーが降り注いでいる事に違いは無い。
『狙いを絞る余裕はないっての』
「だったら照準自体はFCS頼りでも構いません」
スミカが冷静にアドバイスする。
「回避行動の終わりに隙があります。そのタイミングだけ撃って当てましょう」
『FCS任せで適当に撃ちっぱなしにするなって事か。いや、そりゃそうか。あれだけ大きければそれで当たると思い込んでたな』
「戦場で思い込みは禁物です。必ずその裏をかかれると思いましょう」
『やってみる』
ヴェルザンディは一度銃口を下ろし、敵の回避パターンの解析に勤める。大和の砲火は確実に敵の回避行動を取らせてはいるが、大口径の艦砲はリロード時間が長いので継続的に撃てる訳ではない。大和も砲塔毎に時間差を付けて撃つ事で発射間隔を縮めてはいるが、それでも長い。
『そうか、あの砲撃に合わせりゃいいのか』
逆を言えば、大和が撃てばORCAは避ける。大和が撃つタイミングは定期的なのでORCAが避けるタイミングも同じ。加えて、地上からの攻撃には一切気を止めていない……舐められた物だ。
『なるほどなるほど、私にも見えて来たぜ』
大和の咆哮が鳴り響く時、ORCAは必ず大きく避ける。大きい回避行動には必ずその最後に動けないタイミングが生まれる。そのタイミングに合わせて銃爪を引けば、FCSの二次ロックによる自動偏差射撃で当てられる。
ヴェルザンディはそうした。当然、その銃弾は正確にORCAを捉えた。
『よしよし、これを続ければいいんだな?』
「上出来です」
『で、これをいつまで続けるんだ?』
「それはまあ……」
「もう少しですよ。私達は確実にクラインフィールドを削り続ければいいだけですからね」
『敵海洋生物型巨大戦艦はクラインフィールドを展開しています』
「クラインフィールド? 何かのバリアですか?」
ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)はウルズを守りながら問いかける。
『バリアの一種ではありますが、物理装甲の表面に展開するため、内側に入って叩くという事が出来ません』
「とっついてもバリアの内側に入り込む事は出来ない感じですか」
『フィールド外からの干渉も一切無効化する。仮にあのデカい大砲が当たったとしても揺るぎはしない。だが、無敵ではない』
『クラインフィールドは受けるダメージを全体に均一化し拡散する事でその耐久力を維持しています。ですが、受けたダメージは蓄積され続けて無くなる事はありません。ダメージ蓄積を解除するにはフィールドを分離、つまり解除しなければなりません』
『つまり奴にとってはつまようじ程度の攻撃でも、そこに残り続けていつかは解除しなければならないという事だ。さらにフィールドの許容値を超えれば今まで蓄積した分が内側に炸裂して泣いて喜ぶ損害を受ける事になる』
『それだけは絶対に避けようとするはず。効いていないように見えてもダメージは蓄積しています。攻撃を続けてください』
「了解です!」
ラピスは|聖櫃の賢明《アーク・プルデンティア》を展開し、ウルズとエーリヴァーガルを守っている。これによって発生するナノ・クォークによる歪みの渦は受けた攻撃を世界の歪みによる再帰反射弾として跳ね返す事で攻防一体の攻性防壁になっている。単純に撃たれた射点へと弾き返すだけなので狙いを付ける事は出来ないが、狙いを付ける必要がないとも言える。
エーリヴァーガルは長距離ビーム砲で、ウルズはロングレンジカノンで反撃しているがやはり効いている様子はない。
「それで、そのフィールドの限界はいつ来るのですか?」
『さてな。三日三晩眠らずに撃ち続ければいずれ割れるだろう』
「えぇぇー……」
『役立たず共だけで戦っているのならな』
『そろそろ、こちらの前衛が接敵します。フィールド崩壊のタイミングを逃さないでください』
『懐に入るだけで一苦労だよぉ!』
「この程度のレーザー機銃なら何発当たろうが弾けます。その機体と私の精霊を信じてください」
『りょう、かいっ!』
スクルドは前進に特化したブースターを限界ギリギリまで吹かす。スクルドの試作ジェネレーターは高い出力を誇るが、最大出力を出し続けると制御不能になる爆弾を抱えている。限界ギリギリなら一応暴走しない筈だが、この状態で回避運動を取ろうとすると瞬間的に負荷が上がり暴走の危険性がある。
だからスクルドは一切の回避を捨てた。機体の正面装甲と、その速度に付いて来れるリズのシールド型レイン砲台を信じて。
「お先でーす!」
その横を、ウルズの砲弾に引っ張られた摩那が通過していった。まあ、ほぼ最大出力とは言っても流石にロングレンジ砲の弾速よりは遅い。それに生身で引っ張られてる状態で大丈夫なのかは謎である。
『アレ、後で酷い事になりません?』
「なるでしょうね。ですが、今は自分の事に集中してください」
『了解!』
◆締めに向けて期限が早い人を先行採用しています。見せ場は後に来るので備えよう。
●陸の王者VS海の王者
「ORCAの悠々と泳ぎ回る姿……アンダーテイカー上空に海原を見た気がする」
|クーベルメ《Kuhblume》・|レーヴェ《Loewe》(余燼の魔女・h05998)は猛然と突撃するスクルドの後方を走る。
「大きいですね~! 居住スペースは不要、艦載機もないのにこの大きさとは……あ、一応クラゲさんを積んでるのかな?」
|エーリカ《Erica》・|メーインヘイム《Mainheim》(あなたの帰りを待つ母艦・h06669)はギターケースで弾幕を凌ぎながら全ての味方の、特に|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》には欠かせない支援なので自ら機銃の遮蔽物になりつつ前進する。
『あのクラゲ状ビットは圧縮して格納してあるみたいですね。空中で展開するとそれなりの大きさになりますけど、内部では干物の様になっていると推測できます』
「だとしたら、この大きさを単艦での戦闘力にほぼ全振りしているということです。これは強敵ですよ」
「そうね。ORCA、要するにシャチよね。すなわち海の王者」
空を泳ぐ威容を指差して一言。
「対する私は、陸の王者であるライオン。その決着は空でつけましょう!」
びしっと自分を指差しての一言。
「クーちゃんって、空飛べましたっけ?」
「無理よ! 私は飛べないのよね。地上から射撃させてもらうわ」
引き連れた|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》は戦車砲に似た対物ライフルで射撃支援。
「主砲の範囲を意識して散開するわよ」
「はーい」
機銃だけでは埒が明かないとORCAはクラゲ状のインビジブルビットを次々と展開し始めた。分子結合阻害弾による攻撃はそこまで脅威でもない攻撃だが、クラインフィールドのダメージ蓄積を外側から修復できるのが厄介だ。
「こっちに向かって攻撃してくるだけならそんなに困る相手じゃないんだけどね。この距離でひたすら回復に専念されたらたまったものじゃないわ」
本体のクーベルメは無数の輝きを操る。
「相手が単体の時はあんまり使わないイメージだけど、これだけ大きかったら話は別でしょ」
即ち、決戦気象兵器「レイン」だ。
「周りのビットごと消し飛ばしてやるわ!」
光の奔流が上空に向かって放たれた。レーザー同士が衝突し、空中で閃光が花開く。
「ORCAなのにマザーのウィルだなんて! そういえば、砲台を破壊されるとそのダメージが他部位へ伝播する欠陥があったりしないでしょうか?」
『クラインフィールドは砲台部分にも展開されているので砲台だけを狙って壊すのは意味が無いかと』
『そうでもない。クラインフィールドで守っているという事はどの場所に当てても同じダメージを与えられるという事だが、逆を言えば頭の天辺から足のつま先まで全身が有効打という事になる。特定部位だけ集中攻撃した場合、その部位に負荷を押し付けてから分離させる事で本体へのフィールド負荷を弱める事も出来る。トカゲのしっぽ切りの要領だ』
「では、副砲を何とかしてみましょう。副砲が無くなれば大和さんも自由に動けますから」
エーリカは傘下のレギオンと|艦隊間レーザー通信《アリアドネ》で接続された|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》にマーカー情報を送信する。
「砲台狙いですか。いいかもしれません、乗ってみましょう」
『あいあい』
「その前に」
藍依|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》は一斉に手榴弾のピンを抜き、大きく振りかぶって全力投球! 普通に考えれば投げて届くような距離じゃないが、どうやら届いているようだ。
「あれだけ遠ければ味方を巻き込む心配はありません」
『ロングレンジ砲で顎部の砲塔を狙ってみます』
今回の戦闘に関してはウルズがやる事は普段より少ないと言える。最も重要な任務である索敵が必要無いからだ。その分の情報資源を弾道計算に当てれば、一見明後日の方向に飛んでいったように見える弾頭に、ORCAが当たりに来たような動きで命中する。
『回避運動予測なんてもう済ませてますから』
『クラップヤードの流儀を教えてやる。泣きを入れたらもう一発だ!』
エーリヴァーガルの長距離ビーム砲が片方のヒレの砲塔を撃ち抜き、多連装ミサイルランチャーがクラゲビットを減らす。
「では、私がもう片方を」
スミカ|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》は堅実に火線を集中させて叩く。
「大分高度も降りてきてますしね」
ORCAにとっても√能力者達の位置は機銃で撃つには遠かったらしい。とは言え、砲塔は大和に向け続けなければならず、必然的にORCAの方から近付いてきている格好になる。
そして、駄目押しのレギオンスウォーム。損傷させた砲塔に更なる追撃を重ねる。
空中で、何かが割れるような音が響いた。
『敵クラインフィールドに変化あり。やはり、砲塔をパージしました!』
砲塔にこれまでのダメージ蓄積を全部押し付けての分離。修復するまでは二度と使えない手だが、これで本体のフィールド容量は最大値まで回復してしまう。
砲塔は潰したが、依然健在。その顎を大きく開く。主砲『インビジブル集束砲』で全てを薙ぎ払う。範囲は直線状とは言え、直線の横幅が広い。大和か、地上戦力か。後者の方が厄介と言う結論が出たようだ。
「そう、私達は」
「この瞬間を」
「待っていた」
その時、三人の√能力者が動いた。
●|一手《1ターン》
その一人は大和。大和の装甲厚は副砲による攻撃を殆ど無力化しているが、単純な物理装甲では完全に無力化する事は出来ない。大和には敵の砲撃を回避する能力も無いので被弾面積の少ない正面を向けて前進し続けるしかなかった。
しかし、今副砲は破壊された。破損部位をパージしたとは言え、クラインフィールドの崩壊時に生じる衝撃波で身動きが取れない。|ごくわずかな時間《1ターン》ではあるが、回避できない状況が生まれた。
大和はずっと砲撃に耐えながらこの瞬間だけを待ち続けていた。
「右舷全速!」
その兆候を見極めて90度旋回し、舷側を晒す。戦艦と言う物は基本的に側面への火力が最も高い。前方と後方の砲塔を同時に向けられるからだ。言ってしまえば正面への火力は半分に過ぎない。
「三式弾装填! さぁ、やるわ」
ここまで牽制の為にあえて通常弾頭を使っていた。一発でも直撃すれば致命打になるからだ。しかし、ここは威力は劣るが標的に高確率でダメージを与えられる時限信管の対空砲弾を選んだ。
「大和型の火力、存分にお見せします!」
ここまで距離を詰めた事により主砲45口径九四式46cm3連装砲塔だけでなく、副砲の60口径三年式15.5cm3連装砲塔も射程内。四十口径八九式十二糎七高角砲は有効射程ギリギリだがついでとばかりに照準を合わせる。
その一人は摩那。ウルズの砲撃を利用して一足先にORCAの船体に取りつく事が出来たが、まだチャージを解放していない。仕掛けるべき絶好のタイミングを計っていたのだ。
「トカゲの尻尾切りで耐久力全回復とか、通せないでしょそれは」
対大型怪異殲滅動力剣『アンフィニ』を高々と掲げる。高速回転するレーザーチェーンソーが深淵ダークエネルギーを喰らって異形大型化。目前の獲物を解体せんと金切り声を上げる。
その一人はリズ。スクルドと別れて、インビジブル集束砲の正面に陣取っている。
光翼が輝き、|LXM《LZXX Multi weapon》の周囲に全てのレイン砲台が集合合体するようにして一つの巨大な銃身を形作る。
「必ずここで撃つと思ってましたよ」
発射直前の砲口には膨大なエネルギーが蓄えられている。だが、砲身を通して発射するまでは何の殺傷能力も無い。|短時間《1ターン》、しかも発射されれば退避が間に合わず真っ先に蒸発する位置取り。
それでもこの発射直前のタイミングを待つ必要があった。主砲発射時であれば、鉄壁のクラインフィールドの砲口部分を解除しなければならないからだ。
彼女たちは仲間がこの|好機《1ターン》を作ってくれると信じた。そして、それは必然的に訪れ、必然の結果を生む。
「|絶海砲戦《フルバーストマキシマム・アナイアレイション》、てーッ!」
「暗黒粒子圧縮完了──|獄界断輪《スピラルノワール》、次元駆動展開ッ!」
「無理をします。申し訳ありませんが付き合って下さい。「レイン」に宿る精霊達……ッ!」
三式弾の大輪が無数に花開き、巨大レーザーチェーンソーがクラインフィールドを抉り取り、一点集中したレインの閃光がORCAの砲身を貫いた。
クラインフィールドが一瞬で臨界点を越えて内部破裂。|一手《1ターン》で受けた三度の痛打をそのままに受ける。
鋼鉄が軋む。もはやクラインフィールドの再展開は不可能。だが、その巨体は依然健在。主砲も副砲も粉砕されてなお、まだその質量はそこにある。
レーザー機銃こそ残ってはいるものの、もはや爪も牙も失った手負いの獣。だが、手負いの獣こそが最も恐ろしい。この質量に任せた体当たりや、クラゲ状のインビジブルビットが……否! インビジブルビットはもはやほとんど残っていない!
「最後の一つだ」
それを成した者が、静かに最後の一つを仕留めた。ぬばたまを翻らせ、燃える倶利伽羅剣を手にした忍者がそこに居た。
●忍者が来る
「アンダーテイカーの人々を鏖殺した戦闘機械共の首魁を倒す」
不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)はいつもと変わらぬ、しかし困難な目的を表明する。
「この忍務、必ず成し遂げる」
「ノーマクサーマンド!バーサラ!ダンカン!」
|不動明王利剣呪《フドウミョウオウリケンジュ》の真言を唱え、迦楼羅炎を纏う。
「いざ、参る」
地を蹴り跳躍したように見えたが、その移動先が見えない。後には木の葉が数枚風に踊るのみ。
「ムジナ流、空蝉の術」
その姿は遥か上空。高度1500mに浮かぶインビジブルビットの真上。|忍法《ニンポウ》・|針千本《ハリセンボン》によりインビジブルビットの真上にいた普通のインビジブルと入れ替わり、不動明王利剣呪による一突きで仕留める。ビットを足場に跳躍し、八艘飛びめいて次々とビットを一撃で仕留めていく。構造を圧縮する事で大量展開を可能にしたインビジブルビットだが、クラゲの様に浮遊する性質から戦闘時の対応力は大きく犠牲になっている。融合する隙を与える相手でも無し。インビジブルビットはただ一方的にその数を減らし続ける。
とは言え、インビジブルビットの数は多い。インビジブルを素体に使っているので無尽蔵ではないとは言え、秒間数体を射出できる速度だ。いくらもともと速い忍者が不動明王利剣呪によって3倍の速度を得ていても限度がある。数で押せる敵特有の誤射を気にせず味方ごと圧殺する分子結合阻害弾を乱射されれば|痛痒《ダメージ》を受ける可能性はある。始末した敵を足場に跳躍しているので行き先を予測する事は可能。近くの味方を撃てばいいだけなのだ。
そんな当たり前の対応は忍者に通用しない。撃たれた時にそこに居るのはインビジブルビットのみ。針千本による入れ替えだ。しかも、入れ替わられたインビジブルは電気鰻化され、範囲に電流をまき散らして纏めて感電させて一網打尽にされる。入れ替わりの対象は視界内。上空1500mを視界に捉える忍者の眼が向かう先を読めるほどインビジブルビットは高度に作られてはいない。
こうしてインビジブルビットは秘かに数を減らされ続け、三式弾の大輪に巻き込まれてほぼ全滅。生き残りも同様に仕留められ展開した分は完全に全滅したのだ。
「頃合だ」
ORCAの背に着地し、ゲコ丸も手伝ってもらった二段ジャンプで位置と方向を確保。袖から伸びる糸を装甲の突起に引っ掛けて、目当ての右舷ビット射出口に辿り着く。
「天魔覆滅」
忍力を倶利伽羅剣に込めれば刀身が激しく炎上する。|忍法《ニンポウ》・|天地眼《アメツチノマナコ》によって構造的に弱い部分を瞬時に判断。射出口を一瞬で解体すると内部へと入り込む。
ORCAを構成する核を見つけ出し、この手で破壊する為に。
『突撃ぃぃぃぃーーーッ!!』
左舷ビット射出口に向かって突撃したスクルドは両脛部の使い捨てロケットランチャーを発射し、背部に二挺マウントしていた大型バズーカを両手に持ってマガジンを撃ち切るまで連射する。
『確かに、この相手ならバズーカは使えるか』
まあ、撃ち切った後はいつものように投げ捨てられるのだが。スクルドを守っていたリズはインビジブル集束砲を撃ち返す為に向かったので、今スクルドを守る者はいない。だが、強襲に特化したスクルドにとって、弾幕に正面から突っ込むのは想定内の仕様である。ここまでリズの守りで温存されたアーマーは問題無くレーザー機銃を弾き飛ばし、遂に近接攻撃距離まで肉薄。
『これを喰らえッ!』
両腕にマウントしたパイルバンカーシールドに突入の勢いを上乗せして突き立て、稼働させる。二本の鋼鉄杭がクラインフィールドを失ったORCAの物理装甲に深々と突き刺さり、貫き砕く。反動でバンカーシールドを失ったがこれも仕様内。
『全弾持ってけ!』
両肩ユニット前面ハッチを展開し、チタン製のベアリング散弾を一斉発射。両手に持った大型ショットガンも穿った穴に撃ち込みハッチ内部への損壊を広げる。撃ち切ったショットガンもやっぱり投げ捨て、二刀のサーベルを構える。
「もう一発、やってやりますとも」
摩那は(主に無茶な移動手段のせいで)受けたダメージを顧みず、エクリプスに異空コイン『シグマプリズム』をはめ込む。
「ええ、もう一発だけ無理を通します」
LXMのリミッターを解除するリズ。
「守るだけが聖櫃の賢明じゃないんですよ」
自力で砲口まで突撃したラピスはナノ・クォークの展開準備を終えている。
「射撃位置確保」
「こっちも展覧会の準備は完璧です!」
24人の|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》が真下の地点を半包囲するように展開。
『配置に付いた』
『こっちもガトリング砲準備完了です!』
ヴェルザンディ、ウルズは地上で待ち構える。
「海兵が言っていたわ。銛は獲物の目を覗き込めるくらい……引き寄せてから放てってね!」
同じく真下の近くに陣取るクーベルメ。試作品のレイン砲台は限界ギリギリだがまだ撃てる。
「一刀のもとに切り伏せる」
大和の船体が垂直に立ち上がりながら変形していく。装甲を展開しながらより長く延伸し、砲塔を背面に向けて集中。公試排水量69,000トンの巨艦が質量をそのままにただ一本の刀となる。刀と呼ぶにはあまりに大きく、あまりに重い。振り回せる者など居る筈も無いそれは刀自体が自立しただ一撃のみ振り下ろせる無敵斬艦刀であった。
「決め技、ですか」
ORCAの頭上に影が差す。跳躍したエーリカが上空で拳を構える。
『命知らず共、目標が物欲しそうな顔をしているぞ』
エーリヴァーガルは大型ビーム砲を最大充填。
『望みのものを叩き込んでやれ!』
●金環最大特殊砲撃聖櫃のメーインヘイム決戦気象メガ乱れ雪月花銃器展覧接触拡散式無敵斬艦分身撃
「エクリプス、モードチェンジ!」
黒木・摩那の|金環日蝕《エクリプス・ソレイユ》!
獄界断輪によって穿った損傷部にスペクタクルモードのヨーヨー『エクリプス・ソレイユ』を投げ込み損傷を拡大させる!
「レイン兵器の全出力をLXMの遠距離火力に変換。私達を相手するには遅すぎますね!」
リズ・ダブルエックスの|LXM《モードマルチウェポン》・|最大特殊砲撃《エレメンタルブラスト》!
レイン砲台を集結させて形成した砲身の基部であるLXMのリミッターを解除し、極大プラズマ砲を射出! 砲口部の基部をプラズマ融解させる!
「極小微粒子の歪みの渦です、デカかろうが内部を消し削ったらたまったもんじゃないでしょ!」
ラピス・ノースウィンドの|聖櫃の賢明《アーク・プルデンティ》!
リズの穿った穴にナノ・クォークによる歪みの渦を流し込み内部を崩壊させていく!
「思いっきりパンチしちゃいますよ! 気分はダイダロス・アタック!」
エーリカ・メーインヘイムのメーインヘイム・アタック!
高度を落としたORCAの頭上から拳を打ち下ろし、ORCAを地上に叩き付ける!
「もうちょっとだけ頑張って! ウェザーブレイカー!」
クーベルメ・レーヴェの決戦気象兵器「レイン」!
叩き付けられたORCAの巨体にレインの閃光を無数に叩き込み撃ち伏せる!
『エネルギー充填率120%。化け物め泣いて詫びらせてやろう!』
エーリヴァーガルのメガ・ビーム・キャノン!
鈍く輝く紅の粒子砲がORCAの巨体を撃ち貫く!
『今だ、アレをやるよ!』
『了解、タイミングは合わせる』
『やってやります!』
ノルンの乱れ雪月花! スクルドが風雪の如く斬り抜け、ヴェルサンティが月下の狙撃を撃ち、ウルズが大輪の砲火と銃弾の乱れ咲きを放つ!
「逃げないとと蜂の巣になっちゃいますよー。逃げられないでしょうけど!」
八木橋・藍依の|少女人形による銃器展覧会《ガンパレード・マーチ》!
サブマシンガン、ライトマシンガン、ミニガン、アサルトライフル、バトルライフル、対物ライフル、ダブルバレルショットガン、コンバットショットガン、ドラムマガジンフルオートショットガン、無反動砲、迫撃砲、そしてHK416。|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》12体による銃撃多重交響曲!
「マナバッテリーセット、この一撃が勝利への終曲です!」
スミカ・スカーフの|古代語魔法《セットマジック》【|接触拡散式純魔力弾《ザ・カラサワ》】!
|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》12体の純魔力弾一斉射撃が過剰魔力反応による大爆発を引き起こす!
「この一刀に断てぬ物無し――チェェェェェストォォォォーーーーーーーッ!!」
大和型戦艦・一番艦・大和の無敵斬艦刀!
69,000トンの巨刀が鋼鉄の咆哮を上げ反動加速し、ORCAを真っ二つに両断!
「終わりだ。龍王よ、力を貸してもらう!」
不動・影丸の|忍法《ニンポウ》・|龍焔分身撃《リュウエンブンシンゲキ》!
無数の光によって生じた全ての影が実体を持つ分身となりORCAの核を多重炎剣斬撃! 本体が最後に捻じり込み、核を完全粉砕!
Great-Invasion『ORCA』はその機能を完全に停止した。
『役立たず共、貴様らはこれで実戦経験者となり一人前の役立たずとなった。貴様等のケツには文字通り火が点いたことだろう。その火は死線を潜り抜けた証拠だ。次の遠足まで大切に育てておけ!』
『『『はいッ!』』』
「一人も犠牲にせずに済みました。一安心ですね」
「帰るまでが遠足とも言いますし、まだ油断はしないでおきましょう」
『命知らず共、助力に感謝する。貴様等の死体は我々クラップヤードが最大限活用してやる、死に場所もな。その気になったらいつでも来い』
「いや、私達死んでも復活するらしいから」
「決死戦だとそうも行かないみたいですけどね。その場合って死体残るんでしょうか?」
「さあ、状況にもよるんじゃない?」
「ここでは多くの命が既に犠牲になった」
影丸は再び片合掌。
「肉体は有難く使わせてもらう。魂はこの地で静かに眠れ」
『さあ、貴様の言う通り帰るまでが愉快な遠足だ。残りもしっかり楽しんで行け!』
『『『はいッ!』』』
この戦闘、この事件で観測出来たのはここまでだ。
新兵も老兵も誰一人欠ける事無く拠点へ帰還できたのは喜ばしい事だろう。あまりに多くの命が失われた場所で、彼女たちが回収した遺体は再び地獄へ投げ落とされる事になる。
死者の魂がこの地に眠るのなら、蘇った者の魂はどこから産まれてどこに逝くのだろうか。一切の例外なく地獄に堕ちるには違い無い。この√ウォーゾーンならば確実に、他の√でも或いは。
だとしても、|死者《デッドマン》は歩みを止めない。たとえ地獄から地獄へと渡り歩く日々であっても、その歩みを止める理由は無い。死が土へと還る事ならば、我々は一人の例外なく死の上に立っている。
だから今日も戦う。未来に希望が無いとしても。過去に何も残せなかったとしても。
今日は、今日だけはせめて。今ここに居る者としての誇りを胸に戦う。
これは、第49WZ中隊『クラップヤード』の日常の一頁だ。