シナリオ

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死体漁りの|女神達《ノルン》と愉快な遠足

#√ウォーゾーン #第49WZ中隊『クラップヤード』 #プレイング受付は木曜8時半から日曜18時まで #連撃はいつでも歓迎 #NPC死亡条件あり #期間外でも書けたら書く #第二章受付は6月19日(木)開始

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 #√ウォーゾーン
 #第49WZ中隊『クラップヤード』
 #プレイング受付は木曜8時半から日曜18時まで
 #連撃はいつでも歓迎
 #NPC死亡条件あり
 #期間外でも書けたら書く
 #第二章受付は6月19日(木)開始

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『……聞こえ…いるか……役立…ずども……』
 既に、その機体は限界だ。通信機器からは辛うじて聞こえる最後の命令。
『エー…ヴァーガ…は転んで死んだ……伝記に…そう書いておけ!』
『総長! ダメだ、総長ーーッ!!』
 彼女の叫びも空しく、エーリヴァーガルは崩落し爆散した。

「ようこそ、√ウォーゾーンに魂を惹かれた√能力者諸君。概要を始めよう」
 ここはある廃工場の中。設計図面上では描かれていない扉が一枚。不自然な二本の支柱に扉だけがある。普通に考えればこの扉を開いても反対側に出るだけだが……実際は√ウォーゾーンへと繋がる扉になっている。
「今回の行き先も第49WZ中隊『クラップヤード』駐留地だ。ああ、別に知ってなくてもいい。以前にも送ったことがあるだけだ」
 かつての新型WZ実験部隊である大型工廠。今は死体を継ぎ接ぎしたデッドマンが、継ぎ接ぎのWZを運用し守っている。地上部分はWZ用の整備ハンガーで、地下には農園もある居住区が詰め込まれている。
「ここのWZ部隊は基本的には戦闘経験のある全員デッドマンで運用されているのだが……どうにも新鮮な死体の在庫が尽きたらしい。手足とかは余裕があるが……内臓の、特に脳の在庫が問題のようだ」
 たとえデッドマンであっても明確な急所である脳は戦闘機械群にとっても破壊優先度が高い。次いで胴体は当たる面積が広いが、貫通なり切断なりされれば致命傷になる。腐敗も早い。
「ヘッドショットで殺されるということもあるが、脳だけ摘出して持って行く戦闘機械群も居るのでな……脳はどうしても不足する。だから、死体の回収が任務だ」
 立体映像で今回の戦場を映し出す。
「戦闘機械都市『アンダーテイカー』人類側の拠点として使われていたが、つい先日戦闘機械群に奪われたばかりだ」
 地下に深い構造ではあるが、WZの運用を前提としているので通路も部屋も広い。稼働するエレベーターもあるので探索には困らないだろう。
「先に言っておくが、生存者は居ない。死体だけだ。ただ、妙な事に戦闘機械群が駐留している様子は無い。ここを落とした奴が大型空中戦艦だからかも知れんが……普通に考えれば罠だろう」
 取り返しに来た人類を殲滅する罠、にしては見え透き過ぎではあるが。
「それでも火中の栗を拾わねばならない。クラップヤードのデッドマン整備施設はここの新鮮な死体を素晴らしいデッドマンに作り変えてくれるだろう」
 それがいい事か悪い事かはともかく。どの道ここはそう言う|世界《√》だ。
「クラップヤード中隊からも戦力は出る。今回も四機編成だが、前回の様に二手に分かれたりはしない。リーダーは熟練のデッドマンなのだが……残り三人が問題でな」
 四機のWZの立体映像を表示する……中型三機と、超大型が一機。
「このデカいのがリーダー機『エーリヴァーガル』だ。こう見えて完全後方支援型でな。まあ、この巨躯で前線に出られてもいい的なんだが」
 映像のエーリヴァーガルが|展開《・・》した。ただでさえ大きい機体が縦と横に広がり、高さ7Mを越える。
「機体のコンセプトは歩く基地。WZの燃料、弾薬補給に簡易修理機能まで備えた戦線維持支援機体だ。機体の大半を占める格納部に他WZを格納し、補給と整備を素早く行う事が出来る。また、機体上部のコントロールユニットには大型ビーム砲、パルスフィールド、多連装ミサイルランチャー、可動アームシールドを装備している」
 格納部の上に接続されたWZにそれらの武器は集約されている。本来は非人型の大型WZで機動力を生かした強襲機だったが、この整備機能に接続された事で本来の機動性は失われている。
「この機体はそもそも未完成品でな……いくら何でも大型化し過ぎた事と、移動する基地の必要性自体が問われて製造中止になった。しかし、開発は8割方完了していて、クラップヤードの工廠に放置されていた物を技術者たちが暇を見て完成させた一機のみが存在している。これに乗るには超大型WZの操縦センス、機体整備の腕、戦術と戦略の両方に通じる知識など、必要なものが多く、今の担当者以外には誰も乗りこなせない代物だ」
 だからこそ遠慮なく使い潰せるのでもあるが。
「まあ、これの担当は熟練者だからいいんだが、今回の問題は残り三人の方だ」
 エーリヴァーガルの映像を消し、中型三機のWZを拡大する。
「高機動強襲型WZ『スクルド』装備評価試験用汎用型WZ『ヴェルザンディ』総合支援型WZ『ウルズ』の三機。前面しかまともな装甲が無いスクルド、全てにおいて器用貧乏なヴェルザンディ、接近されたら終わりの鈍亀ウルズ。これでも腕利きが乗れば活躍するんだろうが……最初に言った通り腕利きのデッドマンの在庫が尽きているのでただの人間、接続不良で記憶喪失のデッドマン、実戦経験の無い技術屋デッドマンとまあ、全員新兵のような物だ」
 そもそも一人生身が混じってるし。
「他は出払っているか本陣の守りをしなきゃならなくてな……現状この任務が出来るのはこの四機に限られている。そもそも罠を踏む抜きに行く訳だしな。ここで実戦経験を積ませれば腕利きになる……かも知れない。この三機はチームアップ前提として編成されている。今回で戦果が上げられれば続投する事になるだろう」
 上がらなかったらどうなるかって? 聞くまでも無かろうよ。
「そこで√能力者諸君の出番という訳だ。彼女達……ああ、見た目的には三人とも10代後半の女子、二人死んでるが……彼女達チーム『ノルン』を援護して立派なチームとして運用できるように鍛えてやってくれ」
 新兵を使い物になるようにするのも目的ではあるか。
「まずは基地内を探索し、目当ての|物資《したい》を見つけて来るといい。敵はこの基地内のどこかに隠れているので、このタイミングで叩いてしまってもいいのだが……敵を探そうとすると物資回収の方が疎かになってしまうだろうな。そもそもの目的は物資回収の方にある。戦闘になれば危険ではあるが、新兵に実戦経験を積ませるなら丁度いいかも知れない」
 現れる敵は弱めで丁度いいのではあるが、実戦である以上戦死の可能性はある。
「回収した死体はエーリヴァーガルに積み込むといい。死体袋も用意してあるから忘れずに持って行くように。他にも使えそうな物があったら遠慮なく頂いていくといいだろう。仮にこの基地を取り返そうとしても運用できる人員が足りないのでな」
 GIRIRIRIRIRIRIRINNNNN!! と、けたたましく目覚まし時計のベルが鳴る。RINと手で押し込んでそれを止めると、こんこんと一枚の扉を叩く。
「時間だ。さあ、戦場を始めよう」

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第1章 冒険 『物資不足を解消しよう!』


●可動前線補給基地WZ『エーリヴァーガル』
 7mの巨体を持つWZ。移動可能な補給基地と言うコンセプトで作られた機体なので直接戦闘能力こそ高くはないものの、火力支援可能な長距離ビーム砲と、周囲の僚機ごと保護するパルスフィールド、多連装ミサイルランチャー、大型シールドアームを装備している。
 この機体の真価は前線での補給と機体整備を可能にした事にあり、7mの巨躯は他のWZを内部に収めて簡易整備を行うためにある。
 だが、いくら何でも大型化し過ぎた事と、移動する基地の必要性自体が問われて製造中止になった。しかし、開発は8割方完了しており、クラップヤードの工廠に放置されていた物を技術者たちが暇を見て完成させた一機のみが存在している。
 機体性質上パイロットは技術者でもある必要があり、歩く地獄の異名を持つデッドマンの専用機となっている。

●高機動強襲型WZ『スクルド』
 大出力のブースターと前面だけ厚い装甲を持たせた強襲特化型WZ。背部に大型バズーカ、両脛部に使い捨てロケットランチャーをマウント。手持ち武装として大型ショットガン、パイルバンカー内蔵シールド、ヒートサーベルと実弾武装のみで統一されている。これはジェネレーター出力を全て駆動系に回すことで高機動を確保しつつ、各種武装を使い捨ててパージする事で重量を減らし、より高い機動性を発揮する為である。
 更に、ただでさえ前面以外が薄い装甲を全てパージする事が可能で、フレーム剥き出しになりながら高機動力を発揮する事も可能になっている。
 また、試作の高出力ジェネレーターを搭載しているが、最大出力を一定時間出し続けると暴走して制御不能になる欠点がある。
 敵陣に強襲を仕掛けてかく乱する事を主軸として設計された物の、前進にのみ極端に加速性能が高い事を始めとした癖の強い操縦性に加え、殆ど特攻用とも言える継戦能力の欠如から正式採用には至らなかった。
 パイロットは学徒動員兵の人間。デッドマンのパーツ不足により特例で採用された。訓練では高い成績を出してはいるものの実戦は未経験の新兵である。

●汎用型試験運用WZ『ヴェルザンディ』
 フレームその物に高い汎用性を持たせる事で様々な武装や支援装備の試験運用専門WZ。元々新規機体の評価試験として作られた前身にあたるスクラップヤードらしい機体である。とにかくどんな装備でも扱える事を目指して設計されているので作戦毎にまるっきり装備が変わる事も多い。しかし、スクラップヤードからSが抜けた後は器用貧乏な設計から誰でも乗れるが、誰も長く乗らない初心者専門機体と言う評価に落ち着く。あくまでも装備品の評価試験用に設計された機体で実戦運用は想定されておらず、製造数は少ない。
 スクルドの設計後に三機一組で運用するチーム『ノルン』として再設計され、スクルドの後方をカバーする射撃と格闘による戦線維持能力を重視した中近距離機体として現在のコードネームが与えられた。
 パイロットはデッドマンの女性兵士だが、接合時の不具合で戦闘に関する経験が抜け落ちている。操縦センスそのものは残っている物の実戦経験は無いに等しい。

●総合支援型WZ『ウルズ』
 ホバー走行による移動力を確保しつつ、重装甲重装備による後方支援を主体として設計されたWZ。ロングレンジカノンによる長距離砲撃の他、背部にレドームを装備し広域情報収集及び電子戦も行うことが可能である。
 移動力は確保した物の肥大した重量で機動性は失われており、相手に接近されたら終わりという完全後衛型機体。そうならない為の索敵能力ではあるのだが、電子戦を行いつつ遠距離砲撃の弾道計算、味方機の指揮も想定された設計でとにかくやる事が多く、実戦中にこれら全てを扱い切れるパイロットが少ない為少数生産に留まった。
 チーム『ノルン』の後衛担当として再設計され、追加装備でガトリングガンを携行するようになり、多少近づかれても弾幕で押し返すことは可能になったが、重量は余計に増えている。
 パイロットはデッドマンの技術士。チーム『ノルン』の立ち上げにも関わっている技術者だが、戦闘経験は無い。
 なお、チーム『ノルン』のパイロットは全員十代後半の女性に見える外見をしている。
八木橋・藍依
黒木・摩那

●突入する|少女人形《レプリノイド》共
 戦闘機械都市『アンダーテイカー』の地上部分は消滅していた。元はクラップヤード同様地上にWZ運用設備、地下に生活区画を設けていたが、地上部分は消滅したとしか言いようがない程何も無かった。攻撃の激しさを物語る多数の大きなクレーターと僅かな鉄屑と廃材。回収する意味すらない。
『ウルズ、貴様の見解を述べてみろ』
『はい』
 総合支援型WZ『ウルズ』は戦場での情報収集が主任務と言っても過言ではない機体だ。こうした状況をいち早く分析する事は大事な能力である。
『敵は大型航空戦艦と思われます。部隊展開の痕跡はありますので、応戦はしたものの文字通りの全滅……KIAと思われます』
 軍隊における全滅とは開始時戦力の3割を損失した事を指す。だが、この場合は文字通りの全滅。星詠みからの情報もあり、生存者は0で間違いない。
『見れば分かる程度の情報だな。それに、まだMIAだ』
『何が、不足していたでしょうか……』
 ウルズの声は消え入りそうな程小さい。初めての実戦での緊張、あまりの戦力差から来る諦観、本来非戦闘員であるはずだったのに前線に駆り出されたという状況。
『指揮を執る者が気弱になるなッ! ハッタリでも虚勢を張れ!』
 エーリヴァーガルは叱咤する。それでも、今ここに居るのはお前なのだと。
『はっ、はいっ!』
『通常、艦砲射撃だけで拠点が全滅することはあり得ない。大部分は火力による蹂躙だが、それだけでこの状況は説明できない』
 いくら大口径で大威力の艦砲を使ったとしても人一人残さず殺し切るのは不可能だ。地下に逃れたり、攻撃を受ける前に適切な場所に身を隠せば本当の全滅は避けられるはずである。
『敵は恐らくレギオンクラスの小型飛行戦力を追撃に放っている。この先に控えているのはそれだ』
 ウルズの分析に足りなかった部分を加えて捕捉する。
『それで地下部分が崩落していないのはこの拠点が頑丈だったからではない。利用価値があるから罠として再利用するためだ。これから貴様らはその罠を踏み抜き粉砕する。気合を入れろ役立たず共ッ!』
『『『はいっ!』』』

「いやぁ……厳しいですね、音に聞こえる”歩く地獄”は」
 |八木橋《やぎはし》・|藍依《あおい》(常在戦場カメラマン・h00541)はそのやり取りを聞いて素直な感想を述べる。
『はいぃー……申し訳ありません。私のせいで』
「ウルズさんは元々技術屋さんでしょう? どうしてこの作戦に?」
『私が、提案したんです。ノルンを』
 クラップヤードに限った話ではなく、√ウォーゾーンでは常に戦力不足だ。少しでも戦える力を作らなければならない。
『三位一体の連携により特化機体三機を一つの戦力として活用する。それがノルンのコンセプトなのですが』
『まー、ウルズの適任が居なかったんだよね!』
 スクルドは緊張した様子も無く軽快に笑う。
『仕方ないよ。突っ込めばいいだけのスクルドと、それをフォローするヴェルザンディに比べると色々やらなきゃならないウルズの適任はそうそう居ないだろうからね』
『……ヴェルザンディも軽くは無い。突っ込むだけのバカのケツ持ちをする方の身にもなって欲しい』
『ごめんごめん。でもボクはヴェルを信用してるからバカになれるんだよ』
『……一発位は誤射かもしれない』
『ごめん! いつも感謝してるから! もっと気を付けるから!』
「なるほど、面白いですね!」
 この状況で、この世界で。彼女たちは決して悲観しているだけではない。確かに戦闘経験のあるデッドマンの在庫が尽きたのは理由として大きいだろうが、それでも彼女達にノルンが預けられたのはそう言う理由があるのかもしれない。
『取材はその位にしておけ、命知らず』
 エーリヴァーガルはその行為を咎める事は無かった。作戦中に無駄話をするのを嫌うタイプだと思っていたがそうでも無いらしい。むしろ、作戦中だからこそ緊張し過ぎない事が大事だと分かっているのだろう。
『そろそろ地下エリアに入る。エレベーターが完全に止まるまでは周囲を索敵。止まったら迅速に作戦行動に入れ』
 エレベーターが完全に止まるまで待つのは途中で動くのは危険だからではない。エレベーターの動作を確認し、帰り道の安全も確保するためだ。

『これよりクラップヤード中隊主導による共同作戦を始める』
 今回の作戦の全体指揮を執るエーリヴァーガルが宣言する。全員乗っても余裕がある大型物資搬入用斜め降下エレベーターが止まった。
『突入しろ役立たず共! 命知らず共!』
 |ノルン《やくたたずども》、|√能力者《いのちしらず》は各自散開し、物資調達任務が始まった。
 藍依、スミカ、クーベルメの三人の|少女人形《レプリノイド》は|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》を展開し、各自12体、計36人のバックアップ素体を投入する。
 更にエーリカは多数のレギオンを放ち、摩那は早期警戒ドローンを飛ばし、影丸が軽く指笛を鳴らすと様々な忍獣が施設全体へと散開していく。
『すごい、ニンジャだ! ニンポだ!』
『ニンジャって何?』
『平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在だよ!』
「何故かそう誤解される事が多いが、それはフィクションだ」
 影丸は苦笑する。
『えー、でも今だっていろんな動物を何もない所から出したじゃん』
「いや、最初から居た」
『エレベーター内に他の生体反応なかったですよ……!?』
「機械の目と耳に頼り過ぎだな」
『凄い、本物のニンジャはもっと凄いんだ……!』
『スクルド! 無駄話が過ぎるぞ!』
『は、はいっ! ごめんなさい!』
『貴様の役目は命知らず共が提供してきた情報を元に突撃し、物資を搬出する事だ。いつでも動ける様にしておけ』
『はいっ!』
 実査の所、スクルドとヴェルザンディは自ら動いて情報収集する必要は無い。√能力者達が数多の目と耳を提供してくれるおかげである。
『友軍レギオンと|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》の皆さんとはこちらで情報共有しています。引き続きよろしくお願いします』

「仕事はスマートに。短時間で確実に完了させたいところですね」
 藍依は自身の|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》と共に設備のクリアリングを進めていく。
「どうやら、侵入者を撃退する類の罠はあまり無いみたいですね」
 センサータレットの類はあるが、すべて破壊されている。基地内への侵入者に対して既に使われた後なのだろう。そもそも人類側相手には反応しない可能性もあるが、備えておいて損は無いだろう。
 |少女分隊《レプリノイド・スクワッド》には全員の反応速度が半減するという欠点がある。不意打ちにはどうしても弱いのだ。それ故に、丁寧なクリアリングで奇襲を受ける可能性自体を潰していく。
 程無くして、大量の罠が仕掛けられた場所を発見した。
「でも、これは……」
 この基地の住民がほんの少しでも生きながらえる様に作った|即席罠《ブービートラップ》だ。動作せずに残っているという事は役に立たなかったのだろう。
 通信を使ってないのでジャミングの技能ではどうにもならないが、早業がここで生きた。瓦礫が飛ぶ、火炎瓶が落ちる、鉄骨が飛んでくる、そう言った|即席罠《ブービートラップ》を一つずつ解除していく。
 ……ここにこれだけの罠があるという事は、この先に目当ての物資はある筈だ。
 或いは一人でも生存者が……星詠みが居ないといえば居ない筈ではあるが……居るかも知れない。逸りそうになる心を抑えて藍依は慎重に破壊されたドアを潜った。
「……見付けましたよ」
 分かっている。分かり切っている。|生存者は居ない《・・・・・・・》と言い切られていたのだ。
 死後数日の腐敗臭が鼻を突く。それは非戦闘員たちが虐殺された現場だった。戦えないほど幼い子供、身重の女、僅かに残った老人、四肢を失った傷痍軍人。
 一切の区別なく皆殺しであった。
「……回収を始めます」
 持ち込んだ死体袋を広げる。幸いと言うべきか、状態はいい。元々欠損している者でなければ大体原型を留めている。
 だからこそ死者の苦悶と絶望の表情が突き刺さる。表情が分かってしまうから、受けた苦しみがどれほど壮絶だったか分かってしまう。
 これから自分は、この回収した死体を積み込み、切り刻んで選別し――デッドマンとして戦場に送り返すのだ。
 慣れた方が楽なのだろう。だが、慣れてしまうべきではない。こんな状況に。
『藍依、経路を確保した。後はこっちに任せて他の場所を当たって』
「分かりました」
 詰め込まれた死体袋を担いで、ふと気が付く。
 |状態が良すぎる《・・・・・・・》。一様に苦悶の表情を浮かべてはいるが、どう死んだのかはっきりしていない。その可能性に気が付いた時、即座に12人のバックアップ素体も動いた。
「そこだ!」
 本体とも言えるHK416が一斉に火を噴いた。巧妙に偽装された物体に銃弾を叩き込んだのだ。この惨劇を起こした奴に。
『どうした!?』
「潜伏中の敵を発見しました。潜伏中の敵は恐らく毒物を使います。注意してください」
 肉体的損傷を殆ど確認できず、病気で死ぬには進行が早すぎる。そうなれば、敵が使った手段は何らかの毒物である可能性が高い。
「完全に動力を落として潜伏してる……これじゃあ、熱源もレーダーも反応しない」
 金属製の箱に擬態したそれは、蜂型のレギオンのようだ。毒物を流し込む毒針も確認できる。だが、一切動いていなければそれはただの箱だ。
「時限式で一斉に起動するようになっているんでしょう。見つける事さえ出来れば一方的に無力化出来ます」

「世界が変わると必要とされるモノも変わるんですね」
 |黒木《くろき》・|摩那《まな》(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)は友軍と『アルバトロス』が送って来る情報を元に探索を続ける。身軽な身体を生かして、壁を蹴り上がり、壊れた照明器具にヨーヨーを巻き付けて立体機動。
「デッドマンのパーツ集め、死体集めとはさすがに初めての経験です」
 √ウォーゾーンにはデッドマンと言う種族がある以上、必ず必要となる筈ではあるのだが。壊滅した基地から死体を回収するまではやらないんだろうか。
「見つけた物資にはマーカーを置くので回収よろしくです」
『了解!』
 物資の回収は味方を頼る。戦場に出ている√能力者なら死体を見つけて騒ぐような真似はしないが……単純に、自分は足を生かして潜伏する敵を潰して回った方がいいという判断だ。
「熱源を追えば、戦闘機械群は見つけられそうだと思ってたけど」
 スマートグラスで確認してもそれらしい熱源が見付からない。そこら中で死臭と焦げた硝煙の臭いがしているが。
「……アレだけは勘弁してほしいわね」
 アレと言うのは文字にするのも嫌なアレである。幸い、まだ発生していないようだ。
『皆さん気を付けてください。敵は動力を落として潜伏しています』
 ここで藍依からの情報が入る。
「なるほど、動力を落としていれば熱源を追っても見付からない訳ね」
 その代わり一切身動きを取れず、反撃も回避も出来ないだろうが。
「怪しい物は壊しておくべき?」
 ヨーヨー『エクリプス』を金属製の箱に飛ばす。ギャリィィィン! と甲高い金属音を響かせて箱は破砕されたがただの箱だった。
「手当たり次第に壊しても意味は無いわね」
 怪しい物は割とそこら中にある。チェスト、タンク、ボンベ等々、あちこちに散乱している。
 この全てが敵かも知れない。そうでも無いかもしれない。そこでふと気付く。
「ここ、怪しい物が多過ぎない?」
 貯蔵庫の類の部屋ではあるのだが、妙に物が散乱している割にはそれを積み上げていた棚の方には損害が少ない。
「これ全部自分で壊すのは流石にねぇ」
 どの位の敵が居るかは定かではないが、大人しく壊されるのを待ってくれはしないだろう。2回攻撃で範囲攻撃なら対応出来なくは無いが、ここは別な手がある。
『ウルズ、ちょっとここのポイントに砲撃よろしく』
『へっ、砲撃ですか!? ここって、言われても……』
『徹甲榴弾でいいわ。射角は計算してあるから』
『巻き込んじゃいますよ!?』
『大丈夫、私の指定した位置から指定した角度でお願い』
『命知らずも大概だな。ウルズ、言うとおりにしてやれ。それで死んでも奴の責任だ』
『責任とか、そう言う……!』
『お願い。むしろ、撃ってもらえないと囲まれて死にそう』
 嫌な音が聞こえた。蜂が非常事態を察知して目覚めようとしている。|紅月疾走《リュヌ・ルージュ》なら纏めて相手をする事も出来るだろうが、数で押し潰されるかも知れない。
『そん、な』
『銃爪を引けウルズッ!』
『もう、本当に……知りませんからねッ!』
 錯乱しかかっている状態でありながら、ウルズは的確にしたいされた角度への砲弾を発射した。それは、先端の弾頭に衝突する事無く瓦礫で何度か跳ね返り、摩那の元へ向かう!
「ビンゴ、いい腕してるわ」
 目前に迫った砲弾に、エクリプスを巻き付ける。終端誘導、最期の一押し。
 KABOOOOOOOOOOOOOOM!!
 地下施設全体が揺れるほどの衝撃。これでは摩那も無事では済まないのでは?
「ふーっ、ちょっとスリリングだったわね」
 無論、無事である。瓦礫の板をボードにして衝撃を波にして離脱したのだ。
「まあまあ大きめの巣を叩けたと思うけど、これで全部じゃないわよね」

ラピス・ノースウィンド
スミカ・スカーフ
リズ・ダブルエックス

●第435分隊出撃
「新兵……いや新人死体? の引率しつつ物資回収任務ですね! 一緒に頑張りましょう!」
 ラピス・ノースウィンド(機竜の意思を継ぐ少女・h01171)はラピスフェロウの飛行ユニットをリワークした龍翼【宵星】で空中も自由自在に飛びながら探索を進めている。
「√ウォーゾーンでは生まれ変わってからが本番、みたいなところもあります。新たな|仲間《デッドマン》と出会うために頑張りましょう!」
 リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は決戦気象兵器「レイン」に宿る精霊達とレイン砲台・電子戦型を展開しながら激励した。
「目当ての『物資』を見つけて来い、ですか。我々少女人形もですが、デッドマンもまぁ過酷ですね」
 スミカ・スカーフ(FNSCARの|少女人形《レプリノイド》・h00964)も所感を述べる。
『命知らず共、役立たず共との交流に余念がないようだな』
 そこにエーリヴァーガルが一言。
『ついでに仲良く刺繍でもしてそのよく回る舌を縫い付けておけ!』
 7Mの巨大WZから叱咤されると迫力が違う。別に怒られてない|役立たず共《ノルン》の方が緊張してしまう状況に。
「は、はい! 行ってきます!」
「私も動いてはいますので」
『回収任務は時間との勝負だ。ここで生き埋めになりたくなければさっさと行け!』

『本当に過酷ですこと。しかも若手ばかり、経験のない若手は一人まででしょうに』
 スミカは|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》で部屋をクリアリングしながらエーリヴァーガルに通信で話しかける。
『今は人手不足だ。ただの人間、不良品、技術屋。クラップヤードも落ちた物だ。それを多少マシにする事が今回の作戦だ。元から|役立たず《スクラップ》の集まりだがな』
 エーリヴァーガルはそれを咎めるでもなく普通に話す。
『それで全滅したら余計人手不足になるのでは?』
『しなければいい。三人セットの設計運用は練度の差も少ない方がいい。腕が立つ奴が混じるとそいつに依存するからな』
『なるほど、考えあっての運用なんですね』
『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変にと言う奴だ』
『結局行き当たりばったりじゃないですか』
『そこにある物は何でも使うのがクラップヤードの流儀だ。それに、奴らには大金を継ぎ込んだ贅沢な玩具をくれてやっている。役立たずも役立たずなりに役に立つ事が証明出来れば今後の戦局も変わる』
『それで、私達が全滅したら?』
『役立たずは役立たずに過ぎなかった事が証明されるだけだ』
『それは無責任なんじゃない?』
『自分が死んだ後の責任なんぞ誰も取れはしない。死んだ奴に責任を押し付けるのはそれこそ最低の役立たずだろう?』
『違いないわ』
 エーリヴァーガルは口調こそ荒い物の、その実部下の事を真剣に考え、今自分に出来る最善を尽くすタイプなのだろう。部下を”役立たず”と呼びながらも、誰も犠牲にするつもりは無い。
 だからこそ、本当に危機に陥ったら身を挺してしまうのだろう。この作戦ではエーリヴァーガルが最も死ぬ可能性が高いのだ。彼の死を糧に三人の|女神《ノルン》は成長する……そうなるかどうかはまだ分からない。

 WZ運用を前提とした通路は広く、ジェットパック装備のラピスなら手早く作業できる。高い機動力を生かして高所のクリアリングをしているようだ。
「ああ、見付けましたよ」
 ラピスは死体に嫌悪感を抱かない……それは良い事なのかはともかく。高所に陣取っていたスナイパーの遺体を死体袋に詰め込む。ついでに狙撃銃も回収。
「総長! スナイパー一人確保です!」
 エーリヴァーガルの後部整備ハンガーに死体袋を積み込む。エーリヴァーガルは前線でのWZ修理が主任務だが、大量のペイロードを備えているので大量の物資を積み込めることを生かした作戦だ。ちなみに、行きでは|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》のバックアップ素体を輸送してたりする。兵員輸送車も出来るのだ。
『よくやった。あと10人見付けたら勲章をくれてやる。あのメダルはいいぞ、投げると遠くまで飛ぶ!』
「はいっ! がんばります!」
 勲章って投げて遊ぶ物だっけ? とか言う疑問は誰も口にしない。
「じゃあ、次行ってきますね!」
『貴様は高所の探索に優れるようだな。下が良く見える場所を重点的に探せ。通気ダクトも貴様なら楽々通れる大きさだ。逃げようとした役立たずが転がってるかもしれん。貴様にしか出来ん、命知らずの腕を見せて見ろ!』
「了解です総長!」
 言われた通りに捜索に行くラピスを、何か物足りなさそうな目で見ている……気がする。
『あー……今回の作戦、元々のメンバーもいい子だし、私達も冷静か素直なタイプばっかりで叱責のし甲斐が無いとか』
『否定は出来んな。跳ねっ返りの方が育て甲斐はある』
『でも、この√にそんな元気な人は珍しいでしょうね』
『そうだな、絶滅危惧種だ。それっぽいのを見付けたら迅速に確保しろ』
『了解よ総長。ああ、今三人回収したから迎えをよろしく』
『聞いているなスクルド! 貴様の足が一番早い! さっさと行ってこい!』
『はいっ! ……着きました!』
『本当に早いわね。はいこれ、落とさないようにね』
『はいっ! 任されます! ……総長! 回収しました!』
『報告はいい。とっととぶち込め!』

 リズは決戦気象兵器「レイン」に宿る精霊と共鳴するベルセルクマシンの|少女人形《レプリノイド》だ。いや、種族紹介しただけで長いわ。私もあまり他人の事は言えないが。
 当然レインメーカーであり、レイン砲台の運用に特化している。レギオンの様にレイン砲台を操れる√能力者はそんなに居ないのではないだろうか。
 戦闘時には様々なタイプのレイン砲台を展開する事で恐ろしい弾幕を張るのだろうが、このレイン砲台は非戦闘時も役に立つ。|決戦気象兵器「レイン」に宿る精霊達《マイ・フレンズ》を展開する事で青色のアマツバメの姿をした精霊を放つ事で、大気を介した情報探査を行う事が出来る。非常に広範囲の地形情報を得る事が出来るが、本人曰く地中に潜むタイプの敵に弱いらしい。
『今回の作戦に合わせて地中調査可能な高出力レーダー持って来ててよかったね』
 どこか他人事のように言うのはヴェルザンディ。何か、誰からも指名されなかったので余っていた。ヴェルザンディは様々な装備を簡単に付け替える事が出来るので作戦に応じた簡易換装が出来るのだ。そのせいで器用貧乏なのだが。
「見つかりませんねぇ、敵」
 敵は何かに擬態した上で動力を切っていると言う情報は既に共有されてる。箱やボンベのような物に擬態しているようなのだが、熱源反応が無いのでただの箱と見分けが付かない。無理矢理開けようとしたり、壊そうとすると流石に襲って来るようだが。
「いっそのこと全部軽く攻撃してみましょうか?」
 それっぽい物への目星はもう付けてある。広域に展開した上で、レイン砲台としても機能させられる精霊憑依砲台だからこそ出来る芸当だろう。
『え、それ全部一度に起動しない?』
「するでしょうね。精霊達、力を貸して下さい」
 ここでリズは索敵に使っていた電子戦型以外の砲台も展開する。箱を開けるのはあくまでアマツバメ型だ。その上で、どれが敵でも射線を通せるように他の砲台を配置する。
「じゃあ、いきますよ。せーの!」
 広域で一斉に色んな音が鳴り、色んな閃光が走った。一瞬の出来事である。擬態している可能性がありそうな物全てに対して風の刃と化しての突撃を行い、その中で実際に敵だった物を即座に展開済みの砲台で破壊した。
「これを繰り返せばその内全部居なくなるでしょう」
『わお、クール。おっと、地中から反応かな』
 ヴェルザンディは手に持っていたレーザーライフルを構える。地中から蜂型レギオンが出現すると同時に撃ち落とす。
『クリア』
 蜂は地中に巣を作る事もある。深く掘削できる訳では無いだろうが、柔らかい土なら軽く掘り起こす事は出来るだろう。ましてや、それが生物でない蜂型の殺戮レギオンならば尚更に。
「今の行動はかなり嫌がったって事ですね。じゃあ、続けていきましょうか」
『わーお、中々にクレイジー』
「怖かったら他の人の所に行ってもいいんですよ?」
『冗談』
 ヴェルザンディはレーザーライフルを構える。
『私は地中から来る奴だけ見てればいい。こんな楽な仕事なら誰にも譲らないし』
「それでは第二波を始めますよ」

クーベルメ・レーヴェ
エーリカ・メーインヘイム

●生き残る事、死を思う事
『今回も戦友へのご挨拶は欠かさずいきましょうか。貴女達がノルンで、貴女がスクルドさんね』
 |クーベルメ《Kuhblume》・|レーヴェ《Loewe》(余燼の魔女・h05998)がノルンの三人へと通信を繋げる。
『兵士っていうのはね、死線を潜り抜けた者が強くなるの。訓練も勿論重要なんだけど、実戦経験が兵士を強くするのよね。当然その前に死んじゃう方が圧倒的に多いわ……生き残ったのは、運が良かっただけかもしれない』
 訓練を積んだ者が生き残るのではない。訓練を積んだ方が生存率は上がるが、確実ではない。
 だからこそこの拠点は全滅したのだから。実戦とは時として抗いようが無いほどの暴力を押し付けて来る。
『仲間や状況に恵まれただけだったかも。それでも、生き延びたら強くなる……だから、とにかく生き残るのよ』
 仲間や状況と言う物は運だけで決まる物ではない。当然、運もある。だが、それ以上に手にした物をいかに有効活用し、仲間との深い縁を築くのは紛れもなく己自身の努力に他ならない。
『それも逃げ回るんじゃなくて、仲間を信じて、力を合わせて戦って生き残るの』
 時として圧倒的な暴力の前に逃げる事は必要になる。だが、それでも。戦う力を持ち、戦う事を選んだ物はただ逃げるのではなく態勢を整える為の撤退であるべきだ。決して戦う事その物から逃げてはならないと。
『貴女達にもそうなって欲しいと思ってる。分かってくれた?』
『『『はいっ!』』』
『命知らずが、いい心がけだ。ハンガーに空きがあったら勧誘している所だ』
『人手不足だったんじゃないの?』
『貴様用のWZをここに置いておく訳にはいかんだろう』
『それはそうね』
 そもそもクーベルメはWZを使うつもりも無いようだし。
『私の機体って、基本前に突っ込めば大丈夫だよね?』
『はい、前面の装甲は厚いので常に前進し続ける方が安全です』
『いや、イノシシか何かじゃないんだから。フォローする私の身にもなって』
『ヴェルザンディは何事も中立中庸ですので、弱点がありませんから。弱点が大きい私達のフォローをして戴ければ大丈夫です』
 クーベルメの話を聞いて自分達が生き残るにはどう立ち回るべきかを考えるノルン達。
『前も後ろも面倒見なきゃならないって大変なんだけど』
『いえいえ、極端な話横だけ見てればいいんですよ? 前はスクルド、後ろはウルズが抑えてますから。常にフォーメーションを意識して立ち回って頂ければ危険は少ないかと』
『私も結構やる事多いわねー』
『それでもウルズよりは少ないんです!』
『出来る事多くていいよね。私突っ込んで蹴散らすだけだから』
『そうそう、チマチマした遠距離戦よりぱっと近付いて撃ち抜いた方がいいですよね!』
『だよねぇ! バズーカとか要らなくない?』
『それ無かったら大型相手の有効打が減るんです!』
『『ええー』』
『……なんか、いつの間にか一人増えてね?』
 さあ、誰が増えたか考えてみよう。ヒントはプレイングだ。

『このエーリヴァーガルが相手を見上げる事になるとはな』
 |エーリカ《Erica》・|メーインヘイム《Mainheim》(あなたの帰りを待つ母艦・h06669)は一見ごく普通の女の子だ……遠くから見れば。近付くにつれて距離感がバグっているように感じるだろう。
 それもそのはず、エーリカは8mの巨体を誇るベルセルクマシンだ。元々はレギオンの母艦となる輸送艦だったらしいが、人類への羨望が今の姿を作ったとか。人間型レギオンフォートレスとでも言えばいいのだろうか?
 今でもジェネラルレギオンとして配下のレギオンを扱う事が出来るので情報収集の一端を担える。
「エーリヴァーガルさんは移動する基地なんですね。なんだか親近感です。名前もエーリまで一緒ですし」
『エーリヴァーガルは、嵐の海という意味らしいぞ。我々クラップヤード中隊はコードネームにどこぞの神話を使っているらしい』
「海なんですか?」
『名前はそうだが、川として登場するようだ。さぞかし荒れた川なんだろうな』
「素敵ですねぇ!」
『……あの総長が和やかに会話している……』
『見上げるような相手には叱責飛ばしにくいんだね』
『聞こえているぞ、役立たず共! 訓練のノルマを5倍に上げられたいか!』
『『『ひぃ!?』』』
『ごめんなさい仕事します!』
『同じく!』
『私もです!』
「あらあら、あまり虐めてはいけませんよ?」
『役立たず共は連携こそ取れているが、個人の戦技はまだまだ改善の余地がある。それに、いま必要なのは経験と覚悟だ。自分が死の危機に晒された時、そこで立ち止まる間抜けに育てる訳にはいかん』
「なるほど、実はお優しい方なのですね」
『……優しい人はあんなメニュー組まないと思う……!』
 地獄と称される程の訓練メニューなのだろう。心身ともにギリギリまで追い詰められるに違いない。
『エリちゃん、ちょっと手伝って!』
「はーい、今行きます!」
 クーベルメに呼ばれてすたすたすたと……いや、重さ的にどすどすどすと言う感じだろうか。本人的にはただちょっと早く歩いているだけなんだろうが。

「物資って、つまり人間さんの……ですよね」
 エーリカは目を瞑って胸に手を当てる……8人目にしてようやく死体を運ぶ事に深い悲しみを感じる人が出て来るとは。流石√ウォーゾーン。倫理観は終わっている。
(エリちゃん……今は人類を溺愛していながら、昔は殺して回る側だった事実も消せないエーリカには辛い仕事だろうけど)
 クーベルメはそう思考し、声に出した。
「辛いなら無理しなくていいわよ」
「やれます」
 エーリカは即答する。
「一生懸命回収します。これ以上ないくらいとても大切なものですから」
「……そうね。大切に回収しましょう」
 凡そ4.5倍の大きさのエーリカの手に、人形のように小さい人間の屍が積み上げられていく。
 死体袋に収められているが、袋より明らかに小さい物も多い。
「まだ行けそう?」
「はい、重さは大丈夫なので崩さないように気を付けてください」
「おっけー、そっちは任せておいて!」
(……いや、必死さが上回って案外やれてるみたいね)

(……こんな時、輸送船の姿のままだったらもっとお役に立てたと思うんですが……)
 今回の目的は輸送なので、確かに元の姿の方が役には立ったかもしれない。
 エーリカは友好強制AIで人間の仲間入りをした時、強い希望で外装を人間のような形にしてもらった。もう船としての輸送力はない。
(ただ大きいだけの人になりましたが、おかげでもう機械じゃないって思えるんです)
 手の平に積み上げられていく悲しみの重さ。確かに、一度に運べる量は減ったかもしれない。だが、この手なら別の物も救えるかもしれない。
 エーリカは人類を溺愛している。仮に、そう仕組まれたAIだったとしても。