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Faith.

#√ドラゴンファンタジー #喰竜教団 #第二章受付『7日(土)8:31~9日(月)21:00まで』

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 #√ドラゴンファンタジー
 #喰竜教団
 #第二章受付『7日(土)8:31~9日(月)21:00まで』

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 腐った風が淀んでいる。

 数多のひとの骸の上で、竜人に刃を突き立てるおんなが居た。
 まずは自らに立ちふさがった男。それから子ども。そして女。刃を突き立てるたびに叫ぶ声も福音のように甘やかだ。
 やがて声を発しなくなった|いとおしくも尊き竜《・・・・・・・・・》の部位ひとつひとつを丁寧に切り離し、おんなは血と肉の海から取り出した三つの心臓をうっとりと見つめた。

 嗚呼、愛しい竜たち。
 強く気高く孤高で美しい真の竜。
 力を奪われ人に墜とされた、悲しくか弱きドラゴンプロトコル。
 失われたなら取り戻しましょう。姿も力も何もかも。
 わたくしはそれを成し遂げる為の天啓を星より得たのだから。
 肉の身を捨て、我が身とひとつになりさえすれば。ドラゴンプロトコルは再び真竜に至りて天を駆けることも叶うはず。

 ゆえに。肉体という枷を捨て、かりそめの命を捨て、わたくしとひとつになりましょう。
 今生の命など惜しむことはありません。怖れる必要もないのです。わたくしたちは必ずや真竜の時代を取り戻す。これはその為に必要な行為なのです。
 幾度否定されようと邪魔をされようと、わたくしは自らが信ずる道を征く。
 何を犠牲にしようと、どれほど茨の道であろうとわたくしは敬愛する竜たちの為に諦めない。
 この命も、どの命も、全て総て真竜たちに捧げましょう。

 ――嗚呼。この想いをきっと『愛』と。その道を征くことを『信仰』というのだ。


「マルシェに興味はあるだろうか?」
 √ドラゴンファンタジーに通じる異世界への扉の前で、ベネディクト・ユベール(ドルイド・h00091)が徐に問う。
 ドラゴンファンタジーはダンジョンの脅威に晒されつつも、ダンジョンで得られる遺物や宝物によって急速に技術を発展させてきた世界だ。当然、ダンジョン産の品を多く扱ったマルシェも多数存在する。
 そしてベネディクトが今回案内する『カプリスマルシェ』も、そういったマルシェのひとつなのだという。
 カプリスにあったダンジョンは既に封印されているが、その跡地で魔力を含んだ良質な鉱石が眠っていることが発見された。以来、カプリスでは魔鉱石の採掘とその加工技術を磨き発展させたのだと言う。
「火を内包するガーネットのランタン。水を抱くブルージルコンを飾った、水が湧き出る花瓶。植物の生長を助ける力を持つミントガーネットのサンキャッチャー。そんな加工品が多く出回る。それから……そうそう、宝石を加工した化粧品も有名なんだ」
 口下手かつ化粧品に然程明るくないベネディクトの、いまいち要領を得ない説明を代弁すると。
 ロンゲルというドラゴンプロトコルの一家が作っている、魔鉱石を加工した『宝石コスメ』が最近流行り出しているのだという。
 様々な宝石を溶かしこんだような煌めくネイルポリッシュ。
 ガーネットやロードクロサイトを中心とした華やかなリップグロスやスティック。
 モルガナイトやラベンダークォーツ、ムーンストーンなどの可愛らしいアイシャドウパレット。
 オパールやラブラドライトの色が遊ぶラメ。タンジェリンクォーツやローズクォーツのパウダーチーク。
 魔法を内包する宝石を粉にして作ったコスメは、まじないにも使える本格的なものだ。宝石そのもののカラーを宿すコスメたちは艶やかに彩ってくれると評判、とのことだった。
「気になる化粧品を試したり購入するも良し。魔法がかかった加工品を買うも良しだ。食べ物はないのだが、なかなか賑やかなマルシェだと思う。……ただ、な」

 ――それだけの案内なら良かったのだが。

「微かだが、風に異臭が混じっている。いきものの血と肉が腐った臭いだ」
 それは決して気のせいではない。
 何故ならば星が教えてくれたのだ。腐った風。倒れ伏し折り重なった死の上で、無惨に引き裂かれるドラゴンプロトコルたちの遺骸を。それを喰らう|何者か《・・・》を。
「おそらく喰竜教団の襲撃がある。ただ、ドラゴンプロトコルだけを狙ったというにしては、あの予知はあまりに犠牲で溢れていた。気になるのは『腐った風』だ。それが何かまでは私にはわからなかったが……広く被害が出るものであることは間違いがないだろう」
 風の正体まではわからなくとも、予知はひともドラゴンプロトコルをも巻き込む風が吹き荒れることを確かに示している。
 事前に阻止出来ればいいが、曖昧な予知は敵も星を詠んでいる証。先んじて避難を促せば、星が変わったことに気付いた喰竜教団は行動を変えるだろう。その先がどうなるかは全く未知の事態となる。
 ゆえに必要なのは警戒。そして、何かあった時に迅速に動けるようにしておくことだ。
「易いことではあるまい。だが被害を迅速に最小で抑え、来たる敵を迎え撃つ。恐らくそれが今は最善だ。……頼めるか」
 そう言って竜人たるベネディクトは琥珀の瞳に静かな怒りを燃やし、集った能力者たちを見渡す。

「教団というからには、きっと喰竜教団には強固な『信仰心』があるのだろう。信仰とは信じ尊ぶこと。そしてかたく信じることだ」
 喰竜教団が『真竜の為と』謡いながら、ドラゴンプロトコルそのものの命を奪ってでも、いずれ彼らを真竜に至らしめるに必要なこととかたく信じているのなら。それが決して揺らぐことがないのなら。
 これはきっと、信仰と信念のぶつかり合いになる。
「……成し遂げ、皆で無事に帰ってきてくれ」
 預けるように。背を押すように。ベネディクトは静かに告げて扉の先へと能力者たちを誘う。

 ――信仰とはなんなのか。今、その意味を問われている。
これまでのお話

第2章 集団戦 『鉱石竜「オーアドラゴン」』




 ――ふふ。

 微かな女の笑い声を聞いたのは誰だったろう。
 透光の花が。オルカの歌が。警戒する者たちの琴線が。一斉に警告を発する。
 顔を上げた能力者たちの間を、突如風が吹き抜けた。

 異様な程に甘い匂いがする。まるで熟れ過ぎて腐り落ちた果実が弾けたような、くらくらする程に甘ったるい――腐ったかのような、風。

 嗚呼。これは毒だ。毒の息吹だ。

 ひとたび吸い込めば目眩を覚え、ふたつ吸い込めばそれはもっと酷くなる。込み上げる吐き気と痙攣で立っていられなくなる頃には|甘さ《どく》は全身に巡り、やがて苦痛を感じる間もなく意識と呼吸が閉ざされる。
 はじめは抵抗力の弱い者から。やがて大人へと。
 幾度も吹き付ける毒の風は瞬く間にカプリスマルシェ全体へと広がり、一般人も能力者も一切の区別なくそこに居る人々へと襲い掛かった。
 ひとり、またひとりと膝を着き、胸を抑えて倒れていく。ドラゴンプロトコルは特に巡りが早いのか、症状が出る速度が顕著だ。

 異変に気付いた者たちが逃げ出そうと駆けだして、今度は悲鳴があがる。
 いつのまにか鉱石竜オーアドラゴンの群れが、カプリスマルシェ全体を囲いこんでいる。
 近づく者を威嚇し、一歩ずつ包囲網を狭めては明らかな敵意を向ける。たったひとつ合図があれば、オーアドラゴンはその牙を人々に向けるだろう。

「きゃあああ!!」
「ママ、マリ、僕の後ろへ!!」
 混乱の渦中にあるマルシェの中から、更なる悲鳴が風を裂いた。ロンゲル一家の宝石コスメの店が、いつの間にか鉱石竜に囲まれている。腐った風によって身動きも儘ならない中、父親は次々現れる鉱石竜たちから家族を庇っている。
 ドラゴンプロトコルであっても彼らに戦う力はない。ひとたび襲い掛かられたならばひとたまりもない。

 ――ふふ。ふふふ。

 どこからか女の笑い声が響く。
 誰一人、『腐った風』の中から逃がしはせぬと。笑い声に呼応するように鉱石竜の群れが嘶いた。

 けれども女には誤算があった。
 既にマルシェの中には能力者たちが紛れている。異変を警戒し、為すべきを為さんと準備を整えていた者がいる事を彼女は見通せなかったのだ。
 すべきことは三つ。
 毒を孕んだ『腐った風』を抑えること。
 鉱石竜の包囲網を崩し、人々をマルシェ会場の外へと逃がすこと。
 ロンゲル一家だけを狙う鉱石竜の群れを排除し、彼らを助け出すこと。

 風の影響は能力者たちにも及ぶだろう。ドラゴンプロトコルには巡りが早いかもしれない。
 それでも、己が出来ることを為し、人々を護る為。

 いざ、駆けろ。