不思議な世界風なダンジョンは、ハプニングだらけ?!
√ドラゴンファンタジーのとある場所。
そこには、まるでハートの女王が住んでいるようなダンジョンが聳え立っていた。
門番のトランプ兵が出迎え、中へと進めばありとあらゆる不思議がいっぱい!
常識?そんなものは、この城の中じゃ何一つ通用しない。
常識が非常識?非常識が常識?
ありえる?ありえない?
これもアリ?それもアリ?
正解は全て、冒険者の手の中に!
そう、ダンジョン全てが摩訶不思議!
攻略とは言うけれど、遊び心も忘れちゃいけない!
興味がある人寄っといで!楽しい楽しい冒険の時間だよ!
●
「ふらっと散歩してたら見つけたダンジョン、冒険好きにはたまらねぇだろ?オレも一つ見つけたんだけど、せっかくだし皆で攻略してみねーか?」
猫宮・リオ(h00209)は、へらりと笑いつつダンジョンの情報をまとめたカラフルなメモを配っていった。
どうやら様々な部屋がダンジョン内で入り組んでおり、危険は少ないものの何が起こるか分からないのが現状らしい。迷路だったり、変な部屋があったり、リオも詳しく中は把握しきれないくらい予想外が多い構造らしい。
「戦うのもだけど、遊び心が一番重要っぽいぜ。毎日戦ってばかりも疲れるだろー?ちょっとした息抜きも兼ねてって感じで入っていいと思うから、難しく考える必要はないはずだぜー♪」
ピンクと黒の二又の尻尾をゆらりゆらりと揺らし、気楽な感じで説明をしていく。
物騒な情報もある中で気楽に遊んでいいのか?なんて疑問も浮かぶかもしれないけれど、息抜きも必要なのも事実だろう。
ちょっとした遊び心と共に、ダンジョンの中へと向かうのだった。
第1章 冒険 『城内迷宮』

●白うさぎとティーパーティー
ハートの女王が住む城の中は摩訶不思議なダンジョン内。
「わぁ……すごいですねぇ」と朝霞・蓮(遺失の御子・h02828)は辺りを見回しながら、どうしたら仕掛けが解けるのかと探っていた。
そんな中で急ぎ足で駆け抜ける白うさぎが、ダンジョン内を走り回る。揺れる懐中時計と共に鍵が揺れているのを朝霞・風(忘失の竜姫・h02825)は見逃さなかった。
「あれ、あの白うさぎ鍵持ってる。うーん、逃げる白兎を捕まえればいいの?」
「きっとそうかもしれないです。一緒に白うさぎを追いかけましょう」
どうやら、白うさぎが持つ時計がカギとなっているらしいというところまでは分かったのだが、二人が一生懸命追いかけても追いかけても、足の速い白うさぎに追い付く気がしない。
行く先々が不安定すぎるのも追い付けない要因になっている中、ギミックを使えばいけるかもと蓮は考える。そんな中で追いかけながら観察していると、追わなければ逃げない様子なのに気付けば、風は良い事思い付いたと振り返った。
「あの逆さ時計の部屋で、偽のティーパーティを開いておびき寄せてみるのはどう?」
「あーなるほど。あえて、捕まえようとしないことが大事なんだね。それなら、偽のティーパーティを開いて…え、2人で?ティーパーティって開けるの?」
この摩訶不思議ダンジョンから抜けるには、どちらにしても鍵が必要。無理に追いかけて逃げるなら、こちらからおびき出せばいい。アリスの世界でお茶会は雰囲気にも丁度いいからこそ、休憩も兼ねれて丁度いいだろう。物は試し、やってみなくちゃ結果は分からない。
「だから、とりあえず捕まえようとしないでのんびりお茶を飲んで待ってよう。ほら蓮、ぼくの為にお茶を淹れて?」
「わ、分かりました!早速、準備するであります!」
取り急ぎお茶会の準備をし始める中、白うさぎの分も用意してねと追加注文。
どうせなら、帽子屋のコスプレもしちゃおうかな?なんて呑気に考えるくらいには、穏やかな時間を過ごしてもバチは当たらない。
「どう?この衣装似合う?」
「はい、とても似合います!僕のは、眠りネズミでありますか?」
「そう、帽子屋ときたら眠りネズミがいつも一緒だもの。さ、何でもない日をお祝いするお茶会しましょ?」
そうして始まるティーパーティー!香りの良い紅茶に、多くは無いけどちょっとしたお菓子も添えて。二人でゆったりお茶会をしていると、紅茶の香りに誘われて白うさぎが用意された席にちょこんと現れた。
作戦成功!けれど、無理に捕まえようとはせず一緒にお茶を楽しもう?とお誘いすれば、白うさぎも大喜び♪ 二人と一匹のティーパーティーはしばらく続いた。
「ねぇ、白うさぎさん。私達、この先に行きたいんだけど…良ければ、その時計と鍵を貸してくれない?」
「鍵を開けたら返すであります。なので、少しだけ貸して頂きたいでありますが…よろしいでしょうか?」
お茶会を楽しんだ後、風は白うさぎの方へと視線を向けて交渉を試してみる。
白うさぎはお茶をご馳走してくれたお礼にと、持ち歩いていた時計と鍵を差し出してくれれば、蓮と風はありがとうと受け取った。
この鍵があればこの先に進める。二人は白うさぎに別れを告げて出口へと向かい、貸してくれた鍵を使ってみるとガチャリと開く音がした。
二人顔を合わせて頷いた後、扉の近くに時計と貸してくれたお礼に余ったクッキーの袋を置いておくと、開いたドアをくぐり先へと進んで行ったのだった。
●
「わあ、本当にアリスな世界ですね!」
ダンジョン内に入ると、視界いっぱいに広がるのは童話のような不思議な空間!
如月・縁(不眠的酒精女神・h06356)は楽しそうに当たりを見回しながら、本物のアリスのような衣装を身に纏うゼグブレイド・ウェイバー(ポイズンサイエンティスト・h01409)へと視線を向けた。
「ゼグのお洋服だと本物のアリスがいるみたい。ふふ、一緒にお出かけできて嬉しいです」
「うぅ…お姉ちゃんとのお出かけは嬉しいですし、確かに僕のお洋服には合ってると思うんですけど…この姿でダンジョン攻略をすることになるとは…」
ニコニコと笑いつつ「ウサギさんも一緒ですか?」と、ゼグブレイトと共にいる白うさぎに視線を合わせて一撫でする傍らで、似合うと自覚していてもアリス姿でダンジョンに来るとは……。姉のように慕う縁と一緒だからこそ、少しばかり恥ずかしい。
「もちろんこの子も一緒です、一応ボディーガードなので…ちゃんと守ってくださいね?白兎さん」
白うさぎは任せて!と意気込んだ様子、早速というように意気揚々と進み始めた。童話の中でも、少女がウサギを追いかけていたら穴に落ちて不思議な世界に迷い込んだはず、と物語の内容を思い出しながら先を進む。
「こうして迷い込んでしまったから、物語のようにゆっくりお茶会なんてできたら嬉しいのですが……」
「正直戦わないでお茶会で済むならそうしたいです…僕、この姿だと戦えないですし」
変わる景色は、本当に童話の世界のように不思議がいっぱい!今のところ危険は無いとはいえ、アリスなゼグブレイトは今のままだと戦いにくい。戦わずに済むならば、それに越したことはない。ここは不思議の国なら、お茶会なんかも楽しそうと考えながら。
しばらく歩いていたが、このまま歩いていても出口は見つからない。どうやって出口を見つけようと二人はアレコレと考えていた。ここでは、ヒントをくれるチェシャ猫がいるわけではなさそう。うーん、うーんと考えた後、縁は一つ閃いてゼグブレイトへと視線を向けた。
「女王様の近くの家臣さんに聞けば、このダンジョンの云われを教えてもらえるでしょうか」
ここは、ハートの女王が住む城をイメージされている。それなら、家臣が色々と知っていてもおかしくないと考えた。ゼグブレイトは、なるほどと小さく何度か頷く。
「ふむふむ…では家臣さんにこのダンジョン、もといお城のことについて色々お話を聞きにいきましょうか、もしかしたらすごい発見ができるかも…?」
「なんなら、女王様に直談判も面白そうですね?」
ダンジョンの仕組みや出口の事だけでなく、物語では語られていない事もハートの女王に仕える家臣なら知ってるかもしれない。新しい発見があるなら、世紀の大発見になるかも?なんてワクワクもして。だけど、次に聞こえたワードにはギョッと目を丸くした。
「女王様に直談判…お、怒ったりしないですかね、捕まったりとか…あぁ、ちょ、まって、白兎さん、勝手にいっちゃだめです~!お、追いかけないと…!」
怒られたり捕まったらと考えれば恐ろしい…!オロオロと怯えていると、ボディーガードしていたはずの白うさぎが何かを見つけたのか、ぴょんぴょんと走り始めてしまった。白うさぎが見つけたのは出口かもしれないし、もしかしたら家臣や世紀の大発見かもしれない。
物語のアリスのように白うさぎを追いかけ走り始めたゼグブレイトを、可愛らしいなと思い微笑ましくなりながら、その後ろを楽しそうに追いかける縁の姿があった。
さてさて、白うさぎは一体何を見つけたのかな?
第2章 冒険 『〇〇しないと出られない部屋』

●
白うさぎの協力もあって無事に最初のダンジョンを攻略した後、蓮と風が辿り着いたのは一つのシンプルな部屋。分かりやすく扉はあるものの、押しても引いても開く気配が全くない。
そう、二人は閉じ込められてしまったのだ。この部屋から出るには何が必要だろう?まずは部屋の中を調べてみるしかないと、二人は手分けしてヒントやカギがないか探し始めた。
部屋の照明、部屋の中央にあるテーブルの上の手紙、本棚、ゴミ箱…etc。気分はまるで、RPGや脱出ゲームの主人公!
蓮はどこかワクワクした様子で探索し、本棚の中から本を一冊取り出すと同時に、小さな紙がヒラリと床に落ちた。何だろう?と本を戻し拾い上げると、一部破れてしまってるが部屋について書かれたメモだった。
「『[破れていてよく読めない]しないと出られない部屋』というメモを発見したのであります!風にさっそく共有をするでありますぞ」
メモに書かれた部屋──そう、どこかでよく聞く『〇〇をしないと出られない部屋』に閉じ込められたのだ!
この部屋が何なのか、破れてはいたけどヒントを手に入れる事が出来た。あとは、風に共有してカギを探すだけ!意気揚々とメモを片手に風の近くへと向かった。
──少しだけ、時間を遡る。
蓮が手にするメモを風は一足先に本の隙間に挟まっていた状態で見つけていた。内容を知ってるからこそ、楽しそうに探索する蓮の傍ら、一人違う意味でドキドキしていた。
「えぐいよ……まさか、兄妹でこの手の部屋に入ることになるとは……」
叶うなら、この内容であって欲しくなかった。正直、やりたくない内容すぎると頭を悩ませる。
「『[告解]しないと出られない部屋』って。すぐに破って捨てたよ。焦って半分は隠せなかったけど……」
よくある展開なら、こういう部屋に閉じ込められた二人に与えられる試練は、恋愛的なトキメキが多いのでは?!と心の中でツッコミを入れる。風だって年頃の女の子、トキメキに憧れるのは当然なのだ。
「なんでよ!もっとこう……キスとか、告白とか、ごにょごにょとか……そういうのじゃん普通?なんで告解?どういうチョイス?え、誰がこんなの見て満足するの?趣旨は?」
考えれば考えるほど疑問が絶えない。そんな風の脳内に、こんな声が聞こえた。
『誰が満足するか……それは、このダンジョンの管理者サ★ トキメキなんて無難でしょ?ハラハラする展開の方が萌えるじゃないか♪』
「悪趣味っ!」
盛大なため息をつきながら出発前を思い返す。何も悪い事が無ければ告解する必要は無い。けれど、風には身に覚えがあるのだ。だからこそ、脱出するためとはいえ行動が躊躇われる。
「まさかこんな形で今朝、出発前にこっそり蓮の分のプリンを食べたことを言わなければならないとは……」
今この時も楽しそうに探索する蓮には、一つの楽しみがあった。それは、ご褒美にと用意していた有名店のプリン!巷で話題となっていて、一仕事して帰ったら食べるんだとウキウキで話していた。
そんな蓮に意地悪したくて、悲しそうな顔が見たくて食べてしまっていたのだ。
言いたくない……けれど、言わないと出られない。そんな思考がグルグル、グルグル。先延ばししたところで、この部屋の探索は終わりを迎えそうで。
「もうあれだ、嘘をついて乗り切ってしまえば……」
一瞬嘘ついて乗り切る事も考えたが、それは無駄だとも理解していた。見つけた文献には詳しい部屋の仕様が書かれていて、『虚偽の告解をした愚か者には、マッハ3の速度でタライが脳天に降ってくる』と書かれていたのを思い出すと、更に盛大な溜息が漏れる。
「どういうことなのよ。ギャグに振っているようで、絶妙に殺意が高いのはなんなのよもう!」
死因がタライなんて、正直笑えない。いくら能力者は死んでも生き返れるといっても、そんな死に方したくないに決まってる!ましてや、蓮にそんな光景を見せたくない!恥ずかしくて、別の意味で死ぬ!
そんな理由で死ぬのと正直に話すなら、答えは明白だ。
「もういいわよ、どうにでもなりなさい!」
──そして、蓮がメモを見つけた時間まで戻る。
破れたメモを持って風に近付くと、ドヤ顔で見せてくれる。破れているとはいえ、脱出まであと少し!それはつまり、ご褒美まで近付いているのを意味していた。
「あとは何をしないと出られないのか、見つけられればクリアでありますな!」
答えを得るために色々な仕掛けがあったり、何とも言えないようなスライムに襲われたり、何らかのトラップがあるかもしれない。けれど、蓮は何も心配していない。
「僕達ふたりなら、ちょちょいのちょいでありますぞ!はーっはっは!」
二人一緒なら、どんな事が起きても乗り越えられる!そう信じているからこそ、自信に満ち溢れていた。
そんな蓮と対照的に、風は青ざめているけれど。
「実はね……私もう、この部屋の出方を知ってるの」
「そ、それは本当でありますか?!一体、何をすれば出られるのでしょう?」
うぅ…心が痛い。そんな期待しないで、と言いたくなるくらいにキラキラとした眼差しが眩しい。今この瞬間も、正直迷いがある。それでも、脱出するため──残念なくらいに虚しい死を迎えたくないからこそ。
考え方を変えればいいんだ。帰ってから見る予定だったリアクションを、予定より早く見れるようになっただけ。そう、たったそれだけだと自分に言い聞かせる。
「あのね、蓮……出方を話す前に、大事な事を伝えなきゃいけないの」
「大事な事、でありますか?」
「…蓮が楽しみにしていたプリン、出かける前に食べちゃったん…だよね」
「……え?」
聞き間違い?いや、でも確かにプリンと聞こえた。
え、食べた?食べたの?今日の一番の楽しみだったプリンが、無い?
さっきまでキラキラとしていた表情から一変、魂が抜けてへなへなと座り込んでしまった。予想していたリアクションとはいえ、今この場で凹ませてしまった事には罪悪感がある。
──ガチャリ。
そんな中で扉が空く音がした。
『オメデトーゴザイマス!見事、『告解しないと出られない部屋』からの脱出、ミッションクリアです!』
陽気な機械音声と共に、パンパカパーン♪と明るいBGMが流れるけれど、二人の耳には入ってこなかった。
「あ、開いた……?蓮、プリン食べちゃってゴメンね。この後終わったらさ、帰りにプリン買いに行こ?」
「うぅ……一緒に、買いに行くであります…」
ゴメンね?と蓮の頭を撫でて、プリンを買いに行く約束。
メソメソしながらも小さく何度も頷いて、落ち込みながらも立ち上がる。
とんでもない部屋に閉じ込められてしまったけど、悪戯な感情もあったけど。そんなハプニングの中で、二人の絆は深まった……はず?
──立ち去る二人を、何処かから眺める謎の影。
『あー、とても面白かった!とても良いものを見せてもらったよ★』
ニマニマと笑みを浮かべて、その場を後にする。新しい仕掛けも考えておこうと、悪戯心いっぱいに秘めて。
●
白うさぎを追いかけながら、この先に危険があるかも分からないのだったと改めて考えれば、ヒラヒラと可愛らしいアリス姿のゼグブレイドを見た。
(何度見ても、今のゼグ可愛いわ♪)
──って、違う違う。
「そっか、有栖のお洋服だと戦えないんですね」
「そうですよぉ…何か武器の一つでも持ってくるべきでしたかね…?」
「まあ任せてください。一応私も√能力者なので、義弟を守るくらいはできます」
「僕も能力者ですけど…この姿ではボディーガードの白兎さんに頑張ってもらうしか、ですし…」
私に任せて、とウインク一つ。大切な義弟を守るためなら、姉としては頑張りどころ。
ゼグとしても、義姉にばかり任せるのは申し訳ないから頑張りたいけれど、今は白うさぎと義姉に頼るしか出来ない。ほんの少しの後悔もあるけれど、頼もしい縁の姿に流石だなぁと誇らしい。
そんな二人だが、結局家臣に話を聞けないまま白うさぎを追い掛け、一つの部屋に辿り着いた。部屋に入るなり、外から鍵がかかってしまい、目の前に次の目的地へ行くための扉はあるものの、押しても引いても開く様子が全く無かった。
「あらあらあら?こぉれは大変なお部屋に来てしまいました」
「はわ…閉じ込められてしまいました……」
さて、これからどうしよう?
二人はどうしたら出られるのかヒントを探していると、縁は壁にメモが貼られている事に気付いた。どれどれ?と眺めてみると、そこにはどうやら脱出の方法が。
「『ゼグをこちょこちょしないと出られない部屋』なんて…え、違う?」
「ってお姉ちゃん、そんなお部屋なわけ…ない、ですよね?お目目が怖いですよ…?」
可愛い弟をくすぐれば出られるのなら、これは寧ろご褒美タイム?
しかも都合良く用意されていたのは、ふわふわでちょうどいい肌触りの猫じゃらし。チェシャ猫用かなと考えるけれど、今は完全に遊ぶための玩具では無い。
「ゼグもくすぐったがってくれるかしら?」
「あ、ちょ…待って、くすぐりには弱いんですー!ひーん」
とてもイイ笑顔でにじり寄る姉から逃れようと後ずさるけれど、何時しか背中に壁が。逃げ道が無い中で「あ、これもう逃げられない……」と悟った頃には──。
──こちょこちょ、こちょこちょ
イイ感じに柔らかいからこそ、擽ったさが半端ない!ギブアップを告げても、楽しさのあまり止めてくれない!笑い死んじゃうっ!
そんな義姉弟がわちゃわちゃしている最中、白うさぎが部屋の眺めていると──ガチャリ。
何処かから音が聞こえるなり、ピコリと長い耳を動かして音がした壁へと近付き、たしたしと叩いていると……くるりと回転壁が動き出したではないか!
開いたよ!と知らせるように地面を踏んで音を出してから、一足先に部屋の外へ。扉はあったけれど、ただのフェイクだったようだ。
「え、そこそういう仕組みなんです?」
「はぁ、はぁ……あ、開いたんですか…?」
猫じゃらし片手に、キョトンとしながら開いたままの回転壁を見る縁と、笑いすぎて息絶え絶えのゼグブレイドは白うさぎが行った方向へと視線を向けた。
この時間は終わりかと少し残念だけど、ゼグブレイドの手を取り立ち上がらせて手を繋いだ。
「見失う前に、追いかけてみましょう」
「は、はいっ…!もう、ボディーガードが自由すぎますぅ……」
二人もまた、白うさぎを更に追いかけて回転壁の向こうへと進み始めた。
──縁はひっそりと猫じゃらしを隠し、またいつか使えそうかも?と持ち帰っているのは秘密★
第3章 ボス戦 『オレンジ・ペコ・ダージリン』

●
一組は悪戯を告解し、一組はくすぐり地獄(片方だけ)
なんという変なトンデモ部屋を抜けて辿り着いた先に待ち構えていたのは、様々なパフェやお菓子、ダージリンが香るティーパーティー会場。
──え、これなに???
「ようこそ、わたしのティーパーティー会場へ♪」
どうやら『オレンジ・ペコ・ダージリン』は戦う事よりも、お茶会を楽しむ事に意識を向けている様子。
もちろん戦って脱出も出来るけれど、もしかしたら平和的に脱出も出来るかもしれない。このダンジョンの結末は、√能力者達に委ねられた!
●
色々な意味でしょんぼりした蓮と風は、最後の部屋へと辿り着く。扉を開けた瞬間、ふわりと紅茶の香りが漂ってきた。
よく見ると、ダンジョンの主がドーンとボスらしく構えている……と思っていたが、二人の目の前には美味しそうなパフェと紅茶が!
ついさっきまでプリンを食べられてしまった事に落ち込んでいた蓮は、その光景にパァァっと目をキラキラ輝かせて、勢いよく風へと振り返る。
「これはまさに渡りに船(?)、さっそくいただきますぞ…!むむっ、どうしたのでありますか風?パフェが我らを呼んでおりますぞ?」
こんな美味しそうなパフェを食べないなんていう選択肢は選べるわけが無い!だからこそ、早く食べようと言わんばかりに急かすけれど、風は敵の罠じゃないかと警戒して慎重になっていた。
「え、こんな都合よく用意されてるなんて……ちょっと怪しいかもしれないから」
「え、あやしい?ははは、何を言うのでありますか!そんなもの「いまさら」で、ありますぞ!」
確かに、ここまでの流れでマトモだった事など最初の迷路くらいだろう。蓮はここぞとばかりに盛大な溜息をつきながら、あからさまに落ち込んでみせた。
「それに……あー…プリン食べたかったな…プリン…」
食べてしまったプリンの事を言われてしまえば、怪しいと反論するにもしづらくなってしまう。躊躇いはあるものの、渋々といった様子で小さく頷くしかなかった。
「分かったわよ……でも、その前に」
二人が視線を向けた先には、このダンジョンのボスである『オレンジ・ペコ・ダージリン』が優雅に紅茶を楽しんでいた。
仕掛けも全て彼女が仕込んだものだろうか?真相は分からなくても、風は聞かずにいられなかった。
「『〇〇しないと出られない部屋』なんて物騒な部屋をこのダンジョンに組み込んだのはあなた?おかげで、ぼくの帰宅後の楽しみがひとつ減ってしまったのだけれど?」
「部屋?何のことかしら?」
わたし知らないわ?というように、キョトンとした様子で二人を見つめる。お茶の邪魔をするのとでも言いたげに、ジッと警戒の色を見せていた。
「違うの?……まぁ、それは置いといて」
この部屋が最後なら、この冒険ももうすぐ終わり。このまま帰ってもいいけれど、まだ蓮の機嫌は戻っていない。それなら、プリンのお詫びになるのなら、寄り道も悪くないかな?
「ぼく達もせっかくだし、少しお茶会していこっか」
「ふふん!わかればよろしいのですぞ!それではいざ行きましょうぞ、ティーパーティー!」
そうと決まれば、と空いてる席に腰掛けると『オレンジ・ペコ・ダージリン』は一緒にお茶会出来ると分かり、嬉しそうにニコニコし始めて、気を良くしたのかパフェを勧めてくれた。
「ありがとう」とお礼を伝えながら、どのパフェを食べようか悩む蓮に一言。
「早速よ、彼女とぼくにお茶を淹れなさい、蓮」
「もちろんでありますっ!美味しいお茶、淹れるでありますよ!」
そんなこんなでハプニングもありながら、最後は何とボスも含めて三人で楽しくお茶会♪
美味しいダージリンとパフェを心ゆくまで楽しんだとさ★
トンデモな一日だったけど、何だかんだ楽しいダンジョン……だったかも?
●
「はぁ…はぁ…ひ、ひどいめにあいました…」
くすぐり地獄(?)を乗り越えて、二人が辿り着いた部屋は恐ろしいボスの部屋……ではなく、お洒落なティーパーティー会場となっていた。
予想とは全く違う雰囲気に、なんだか拍子抜け。
「ダンジョンだからてっきり、戦うものと思っていたけど」
「……戦わなくていいのなら、それにこしたことはないですね…」
せっかくの可愛い衣装が戦闘でボロボロになってしまうのは、姉としても望ましくない。それなら、ここはお茶会を楽しむ事で脱出出来るなら、それに越したことはない。
そうと決まれば、縁は『オレンジ・ペコ・ダージリン』の方へ視線を向けると丁寧な所作でカーテシーをした。
「オレンジ・ペコ・ダージリン嬢、今日はお茶会ご一緒させていただきます」
「え、えと…お茶会、ご一緒させていただきます…!」
縁の動作を見て、見様見真似でお辞儀。
二人の様子から『オレンジ・ペコ・ダージリン』は「あらあら、まぁ……♪」と嬉しそうに微笑んでみせた。
一緒にお茶会してくれるなら、とご機嫌な様子で二人の分も紅茶とパフェを用意すると、ここからは楽しいティーパーティー!
普段はお酒を飲む事が多い縁は、ダージリンを一口飲みながらホッと一息。
「お酒もいいけど、たまには紅茶を楽しむのもいいですね」
「わ…ほんとだ…いい香り……ん、その…えと…ミルクとお砂糖を入れてもいいですか?」
紅茶も甘いのが好きで、とゼグブレイドは照れくさそうに話しながら、淹れたてのダージリンにミルクと砂糖を入れて、くるくるとティースプーンで混ぜてから一口。優しい甘さが口いっぱいに広がって、ほっこりと笑顔。
「ゼグは甘いものは好きですか?パフェ、一緒に食べません?」
「甘いものは大好きです!やった、一緒に食べます~」
「こしょこしょのお詫びです。あーん……♪」
「あ~ん……甘~い…美味しい~…、お姉ちゃんも!あーんですよ」
フルーツたっぷりなパフェ、チョコたっぷりなパフェを二人で「あーん♪」と食べさせ合えば、心もお口の中も幸せいっぱい♪ 今食べているパフェだけじゃなく他にもあるからこそ、他のパフェも食べるのが楽しみでしかない♪
ここまでの冒険はヘンテコだったり、笑いしかなかったり(?)、ちょっと変なダンジョンだったけど、こんな冒険も悪くない。
自由に動き回っていたボディーガード役の白うさぎも給仕をお手伝いしつつ、得意げに親指グッと立ててから席に座り、みんなに混ざって一緒にティータイム♪
ふーっ、ふーっと冷ましながら紅茶を楽しむ様子を、縁とゼグブレイドは二人で微笑ましく眺めていた。
いろいろあったけど、楽しいダンジョン攻略。
楽しかったのは、きっと大好きなお姉ちゃんと一緒だったから。
縁もまた、大好きな弟との冒険だったからこそ、めいっぱいに楽しむ事が出来た。
これならまた来たいな、とゼグブレイドは改めて振り返っていたのだった。