シナリオ

救済の手は伸べるだけに非ず-手の主も共にあるべきと-

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クラウス・イーザリー

 封鎖された街区より一台の傷だらけのバスが走っていく。先の戦闘時にアクセルと封鎖していた柵を踏み抜いていた時とは別に交通ルールを順守した安全運転で。

 戦闘の影響か|風通し《・・・》が非常に良いバスを運転するは斑鳩・鳩尾、乗っているのは戦闘を担当していた能力者達…その中で前線をずっと張っていたクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)が、座席で風に揺られていた。

「んん゛ッ…終わったのはいいが…ひどいな…」
 その表情は一つ任務が終わった穏やかなモノはない。如何せん戦闘中は鎮痛薬を使用して無視していたクラウスの身体は不満が噴出する様に容赦がなかった。

 訴え声の様な鋭い痛みが車両の揺れに共鳴してズキズキと走り、加えて狭い視界と重い疲労感、鋭い頭痛に空腹感、嫌な汗が止まらず風で冷やされる。ふと思い出されるのは任務中に使用した…黄色い注射器、今にもシャットダウンしそうな意識が痛覚と不快感で強引に目覚めさせられる。
 不快感に満ちた身体をそのままに、斑鳩の置いた鎮痛薬と水を手探りで取り、喉の奥へ流し込む。しばらくすると、不快感は変わらなかったが身体中から聞こえる痛みは鳴りを潜めてくれていた。

 走り出して1時間程だろうか。バスがゆったりと止まりサイドブレーキを引く音が聞こえた。そのまま運転席側から聞こえたのはバスの入り口が開く音。
「あ゛~ダメだ。やっぱり大型車両は慣れんなぁ…ちょっと休憩。しばらくしたらまた発つぞ~買い物とかいるなら済ましとけ~」
あくびも含めた斑鳩の声が聞こえ、バスの真ん中の通路を歩く音が聞こえて来る。

「よっ、先は随分な働き様だったが…無理が祟ったか?」
「そこまで心配しなくっても大丈夫。よくあ…ッ…」
「言わんこっちゃない、完璧に祟ってるな。むしろ無理って言ってくれた方がこっちの気が楽だよ。」
「あぁ…訂正する。やりすぎたかもしれないな…」
「よろしい。…水が減ってるって事は鎮痛入れたか。あれが終わってそろっと時間が経つが、なんか食ったか?」
「…いいや、途中でビスケット数枚齧った程度だな」
「あー…うん。そんでお主、その顔色ならあの黄色い注射器をぶっ刺したろ?副作用の低血糖が悪化した奴だな…少し待っとれ」

 そう言って斑鳩が運転席の後ろに置かれた大きな背嚢から物を漁り、外に向かっていった。重たい身体を軽く起こして行く先を見れば、枝の積み重なった台、上に置かれた金属の器に水を入れてと、飲み物を淹れる準備を進めている様子だった。

「アクア~?アルマ~?起きたか?そろっと身体治ったろ~」
「むぅ…久々にいっぱいやって疲れたんだから~…」
『ぷぁ…|ご主人様《ますたー》何~?』
 バスの後ろから聞こえた声。ふと思い出されるのは戦闘後、バスの隅にあったスライムの塊…が、二人に戻ってたみたいで。
 今見る姿も最初の案内時より、一部を除いて少女めいた体躯まで小さくなっていた。

「ちょっと2階立って。なんかいい感じに」
「なにそれ。変なの~」
『うーん…?うん…』
目を擦りながらバスの二階へ二人のスライムが上がっていく。

「案外日差し出てるな。これで…よし点いた」
斑鳩が手に持っていたのは真っ黒い布。アクアとアルマが二階から顔を覗かせてる様子を目に、ちょうどいい場所に布を移動すれば、収束した太陽光から火種が作られる。

「あ、なるほどね~」
『お日様の光を集めるんだったんだ~』
「|火打石《スターター》忘れたからな…久しく晴れてるしちょうどいい」

火種が移された焚火台、容器の水が暖められてる横でティーポットへ茶葉を入れていた。
「好みとかはいったん置いといてくれ。ちょっと一杯落ち着くのが必要だからな。」

 マグカップに注がれたのはストレートの紅茶。そこへ多めの砂糖を入れたカップを二つ持ってバス内に戻って来る。
「お主の日常がどうだかは知らんが…落ち着く時間は作った方がいい。視野や思考が狭くなるぞ?」
「…あぁ。ありがとう」
「一杯飲んだ後にちょっとだけ。一応|看護兵《メディック》やってるからな…軽く診るぞ」
 マグカップから広がる芳醇な香り、口に含めば優しい暖かさと砂糖の強めな甘味が口に広がる。普段食べてるビスケットが恋しくなるなと思いを巡らせれば、マグカップから上がる湯気がバスの窓をほんのりと曇らせた。

「低血糖は多少マシになったようだな。あとは…公的機関が必要だが、左上腕、右大腿と肋骨にもらった重い奴。内出血と痛み方から…ヒビを入られたみたいだな。良く鎮痛で誤魔化しが効いたな?」
 空のマグカップが二つできてしばらく。クラウスの負った|モノ《・・》を確認して斑鳩は話す。
「…お主の事だからな、なんかあったら否が応でも駆け出してしまいそうだが…あえて言うならしばらく安静にした方がいいぞ」
「あぁ…だが、もう少しうまくやる方法もあっただろうが…」
 簡易的な診察をクラウスは悲しげかそんな表情で聞いていた。
「そんなしょぼくれた顔せんでいいじゃんか。お主は場を張ってくれたし、トドメも持ってった。暗い顔に似合わない成果だぞ」
「…そうか。そうだな…。ありがとう」
「お互いに必要な事を十分やった。現場で常に最善を選べるかは別だからな。軽食を用意しよう。空きっ腹に強い薬は胃が荒れるからな」

 再度斑鳩が外に出れば、熾火に枝を焚べて器を乗せる。沸かす湯へチョコレートめいた物とオートミールを加えて煮立てていた。
ふと気配を感じ、バスの通路側へ振り返れば先程二階に上がってた二人のスライム、星河アクアと、星河アルマがいつの間にか来ていた。
「クラウス…さんだよね」
『…酷い怪我…大丈夫?』
「あぁ…君達も疲れてたみたいだが、もう大丈夫なのか?」
「わたし達の傷とかは治るのは早いからね」
『うんうん。でも、人の怪我って大変って聞くから…』
心配そうに右手へ彼女達の手が重ねられれば、ひんやりとした感覚が伝わる。

「…ちょっとだけいい?えっとね。まだ|ご主人様《ますたー》は時間かかりそうだし」
「えっと、何を?」
『えっとね。少しずつでいいから、リラックスして呼吸をゆっくり整えてみて。多分できるから。』
彼女達が話す様に椅子へ体を預けて目を瞑る。静かに深い呼吸をゆっくりと──

 右胸が痛むが彼女達を信じてそのまま続けると…いつの間にかその痛みが治まり、身体に滞留していた気持ち悪い物が徐々に流れていくと共に、身体の芯に暖かさが宿ったような心地よさが。先ほどの容体から考えられない、心地よい眠気で意識が閉じる。

「お、二人共…珍しいな|それ《・・》をするなんて」
「|ご主人様《ますたー》。大丈夫って言ってたけどやっぱり重たい物が溜まってたから…」
『わたし達の|波紋《・・》って元々は人のでしょ?だからできるかもって』
「そりゃ妙案、二人の分の粥も作ってくるから頼んだ」
「わーい!」
『わかった~!』

 ふと目を開ける。確かアクアとアルマが右手に触れて…久しく悪夢を見ずに眠れた様な気がする。
「お、今度の目覚めは良さそうだ。少しは良くなったか?」
声が聞こえた方に向けば、湯気を上げる容器を持った斑鳩が戻ってきていた。
「あぁ、これは…?」
「人体に宿る神秘の一つって奴だ。彼女達の能力で、源流は人間の根底にあるモノ。医療用でも使えるんだってな」
「そんなものが…」
「あぁ。処方は楽そうだが覚えるのは厳しいぞ?あと麦粥ができた。これ飲んだら発つぞ。あぁそうだ。運転は変わらんぞ?絶対安静な」
「まだ何も言ってないが…?」
「お主は優しいからな。少し良くなったらすぐ言いかねないだろ?アクア!アルマ!器~」
「あー………。」
「わぁ~!何何~?」
『甘い匂い!チョコと何の~?』
「チョコとオーツ麦にココアとかだな。蒸し芋よりマシなアレに色々ぶち込んだ。」

 バス内に広がる甘い香り。口当たり滑らかな麦粥で身体を温めた後に荷物をまとめて斑鳩がニッと笑顔を浮かべて話す。
「お主らが助けた奴が準備を進めて待ってる。パーティよりはニューインだがな」

 ふと思えばここしばらく、まともに寝付けたことは殆どなかった気がする。いつもきまってみるのは…親友が|いって《・・・》しまった日の|弾の雨《あめ》模様、突き飛ばしてくれた両親が瞬きの間に|右手だけ《・・・・》になった日の|石煙《きり》模様。瞼の裏と脳に焼き付いたあの光景が夜闇に悪夢と帰って来る。
 そして「これで本当に良かったのか?」という声が内より響く。暖かい体の底から黒い悔恨が滲み出てくる感覚がして──

「こういう日があっても…たまには悪くない」
何故か頬が緩んで、今日だけは許せそうな、そんな気がした。

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