シナリオ

それは毒林檎のような誘惑

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード

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●青春という果実の甘みは誰しもが享受出来る訳ではない
「俺達、付き合う事にしたんだ」
 親友が照れくさそうに頰を掻きながら俺に告げる。
「私はもう少し待って欲しいって言ったんだけど、話しておいた方がいいって、押し切られちゃった」
 親友の腕に抱きつきながら、真っ赤になった想い人がそう言った。……やめてくれ、そんな顔を見せないでくれ。
「……ああ、そうなんだ。なんか、そろそろかなって思ってたよ。おめでとう。」
 俺は絞り出すようにそう言った。嘘だ。まさかそうなるとは思っていなかった。
『こーちゃんもたかちゃんも、兄弟みたいなもんだよね』
『だよなぁ……俺らだって、美春は男友達みたいなもんだろ?』
 そう言ってたじゃないか。だって、そうしたら俺は……。
「あら貴方、ずいぶん疲れているみたいね。よかったらこれをどうぞ?」
 それからどうやって2人と別れたか、よく覚えていない。目の前には綺麗な女性がいて、俺に2枚のカードを差し出している。
「お守りの様な物よ。きっと貴方を救ってくれる」
 |細川忠興《ほそかわただおき》とスコーピオン……女性の妖艶な笑みに促され、2枚のカードを手に取ったその瞬間に、俺の意識は途切れた。

●喜びは鋭利な刃物の様に
「繊細な物だね、人間の感情っていうのは。……ああ、独り言だ。シデレウスカードは知っているね?」
 |有藤・溪《うどう・けい》(幽霊の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h05219)は集まった√能力者を見てそう言った。
「今回カードを渡されたのは、|間宮・隆彦《まみや・たかひこ》君、高校2年生。いつものように幼馴染2人と帰路についた時、2人の交際を明かされた形だ。実際素振りはなかった訳じゃないようだが、目を逸らしていたようだね。ともあれ、突然の告白で喜びという刃が突き立てられた……弱った心にこそ、蒔いた種は根付く。悪意が滑り込むには申し分無い」
 溪は至極当然だという表情で話を続ける。
「まず君達に当たって欲しいのは、彼の幼馴染、|康生《こうせい》君と|美春《みはる》さんの保護だ。悪意ある何者かに唆されて怪人と化した隆彦君は、増幅された執着と欲望に駆られ、康生君を排除し、美春さんを監禁しようとしている。恐らく、君達が辿り着けるのは、何者かに提供された戦闘員が美春を人質に取り、無抵抗の康生に襲い掛かろうとしている場面だろう。
 上手く収めたら、激昂した隆彦君が襲いかかってくるだろうから、対処して欲しい。あとは……この手の暗躍をするタイプは、必ず近くで事の推移を見守り嗤っている。それにもしっかり釘を刺してきてくれ。よろしく頼むね」
 刑事としての経験則か、はたまた別の何かか……どちらにせよ溪はそう言い切り、√能力者を送り出した。

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第1章 冒険 『その人を離せ!』


「こーちゃん!!」
「美春っ!!」
 わらわらと湧いた戦闘員の一人が美春を羽交い締めにし、残りの戦闘員達が康生の行く手を阻む。
「テイコウスルナ、キサマガハンコウスレバ、オンナノイノチハナイ」
 実際のところ、戦闘員共が彼女を害する事は固く禁じられている訳だが、それを知らない康生にとっては、抵抗を封じる楔となる。
「……俺が何もしなければ、美春は無事なんだな」
 言われるがままに座した青年へと戦闘員達が殴りかからんとしていた。
八百夜・刑部
ルネ・レッドバーン
五十音・バルト

「青春というか恋愛は常に人を狂わせるなぁ、そこにただ突っ走れるのが子供や青春の証か……」
 くぁ……と欠伸を噛み殺しながら、|八百夜・刑部《はっぴゃくや ぎょうぶ》(半人半妖(化け狸)の汚職警官・h00547)は、事態の成り行きを遠巻きに眺める。
「ただ……今回は若さゆえの過ち――と言うには、やり過ぎだネ?」
 刑部の隣にいつの間にか立っていた|五十音・バルト《イソネ・バルト》(NoSong,NoLife・h05401)が、顎を撫でながら言葉を継ぐ。
「誰が付け込んだのかは知らないが酷い物だ……所で、いたいけな少女が危険な目にあっているのに、こうしてすぐには近付かずに様子を見ているという事は、ワタシとキミのやり方は似たような所だと思うのだがネ。どうだい、共闘というのは。……恐らくよりスマートに事を成せると約束するヨ」
 品の良い落ち着いた声音で提案するバルト。
「そいつは渡りに船だ、1つ噛ませて貰うとしよう」
 この少しばかり怠惰な雰囲気を滲ませる警官は、自分と誰かの為の正義を信条としている。あくまで優先は自分自身だ。己を犠牲に人助け、ではそう多くは救えない。
 リスクは少ないほうがいい、刑部は2つ返事で承諾するのだった。
「それに、もう少しやりやすくなりそうだ」

「テイコウスルナ、キサマガハンコウスレバ、オンナノイノチハナイ」
 |二人《刑部とバルト》の視線の先、進んでいく事態に身を呈して割り込む者がいた。
「待て待てーい!そんな横暴、この私……ルネ・レッドバーン(|屠竜騎士《ドラゴンスレイヤー》見習いの冒険者・h01148)が許さないから!」
 大きなハキハキとした声で名乗り口上を挙げ、戦闘員達の注目を集める。
「さてさて。キサマガテイコウスレバ、オンナノイノチハナイ……ってことは私は好きにして良いってことでしょ?……さぁ、いくわよ!」
 身の丈程の長さの柄を持つ大きな戦斧を構え、ルネは笑顔を浮かべた。

「確かに……それでは参ろうか、勇敢なる同志よ」
「やれやれ、そういうのは柄じゃないんだがな」
 戯曲のように芝居がかった大仰な仕草で言うバルトに、肩を竦めて刑部が返す。
「♪さあ、怪盗のお出ましだ。星をも欺く芸術、目を離すなよ、ほら、お宝はもう手の内さ!」
 バルトが低くすっきりと通る声で旋律を口ずさむ。
 彼の本質は歌声だ。歌を現実にする√能力……そのうちの1つで、彼は「数日前から予め準備をしてきたという『事実』」と、手練れの怪盗さながらの変装能力を自身へと挟み込む。
「さて、敵も味方も化かすのはお手の物ってな!」
 隣では刑部が一拍念じ、その姿を変えていく。
 変装と変化、方法は違えど変じる先は戦闘員。ルネが大きく戦斧を振り回し大立ち回りをしているどさくさに紛れて、姿を変えた二人が美春を捕らえている戦闘員へと近づいていく。
「アノオンナ、ツヨイ、オマエもイケ。カノジョは、アノ方のモトにツレテイク。コチラへワタシてモラオウ」
 『変装の為に準備をしてきたという事実』を真実としたバルトの振る舞いは、戦闘員として寸分違わぬ物だった。必然、言葉を発さずに隣に控えていた刑部にも疑いは向かなくなる。
「リョウカイシタ。シッカリトオクリトドケロ」
 戦闘員がバルトへと美春を引き渡した瞬間、刑部がどろん煙幕を地面へと叩き付け、戦闘員の視界を奪う。
「♪見たか、怪盗の技! 囚われの少女は盗ませてもらったヨ!」
「ナッ、ダマシ……グハッ」
 バルトの低く通る歌声が響き、小柄な忍者へと変じた刑部がサーベルを振るい戦闘員を沈める。
「……ありがとう」
「どういたしまして、お嬢さん」
 バルトが美春を抱え距離を取ったのを見たルネが、戦斧をしっかりと握り直す。
「あとは畳んじゃっていいわね」
 戦闘員の隙を的確に見極め、フルスイングで刃を叩き込む。
 人質という枷がなくなった√能力者達の手によって、戦闘員の鎮圧は速やかに行われたのだった。

第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』


「ふざっ、けるなぁぁぁぁ!!」
 蠍の尾を持ち、皮膚が武者鎧と一体化した様な怪人が現れ、咆哮する。
「……美春は俺のものだ。逃さぬぞ逃さぬぞ逃さぬぞ逃さぬぞぉぉぉ!!」
 怪人が手にしていたのは学業成就のお守り。
「……お前、隆彦か?」
 お守りを見た康生が驚愕の表情を浮かべる。
 あれは3人で揃って買い、康生の買った物が美春へ、美春の買った物が隆彦へ、隆彦の買った物が康生へと渡った物だ。
 怪人がそのお守りを破り捨てると、怪人の足元から、所々に砲台の設置された和風の小型城塞がせり上がってくる。
「クハハハッ、美春は、オレが守る!!」
 いつの間にか少女は消え、怪人の呼び出した城塞の中へと囚われていたのだった。

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 2章です。
 |細川忠興《ほそかわただおき》スコーピオンシデレウスと化した隆彦への対処となります。隆彦の執着が歴史に伝わる細川忠興の逸話と合わさり歪んだ末の能力が以下になります。怪人は城塞の上に陣取り、城塞に付いた砲門での攻撃を仕掛けてきます。

能力名
愛する者への執着

内容
Ankerから【お守り】を受け取ると、それが壊れた時、壊れた場所に、【Ankerを幽閉する機動城塞】で武装し一時的に√能力者となったAnkerが現れる。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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八百夜・刑部
オーリン・オリーブ
ルネ・レッドバーン
如月・縁
五十音・バルト

「えー!?何あれ、すごー!
 っていやいや、そんなこと言ってる場合じゃないね」
 現れた機動城塞を見上げながら、ルネが驚きの声を上げる。
「コレハコレハ。あとで気まずくなりそうなことをやらせてるネ」
 顎に手を添えながら眉を顰めるバルト。
「これはこれは。恋は盲目とはいいますが、大変なことになりましたね」
 大体、細川は妻への妄執でしょうに……と零しながら、|如月・縁《きさらぎ ゆかり》(不眠的酒精女神・h06356)は、武者姿の怪人を見据える。
「ここまでやる根性あるなら結果はさておきとっとと告白しておきゃ良かったんだろバカタレが」
「この暴走はシデレウスカードによるものだって我輩信じてるほ」
 やれやれと言った様子で吐き捨てる刑部に、静かに近くの木の枝へと降り立ったコキンメフクロウ――オーリン・オリーブ(占いフクロウ・h05931)が宥めるように言う。恐らく、彼の背中を押したものが、シデレウスカードでなければ或いは……。

「ええと、康生さん…?でしたか?ひとまずこちらへ隠れてください」
 羽根を広げ、迎え入れるように促す縁。
(俺を、知っている。……さっきの3人もそうだけど、脅威からは守ってくれるって事みたいだな。よくわからないけど)
 状況を俯瞰し、縁の言う通りにする康生。
「逃げるな、康生ぇぇ!!お前さえ消せば、美春は俺だけを見てくれる」
「たかちゃん、もうやめてっ……」
 激昂し怒鳴る|細川忠興《ほそかわただおき》スコーピオンシデレウスを見て、城塞の中の美春が顔を手で覆いさめざめと泣き出す。
「もう、シツコイ男は嫌われますよ?」
 |透光《クリスタル》の花弁が顕現し、康生を護るように強固な囲いと化す。目の前に立ちはだかる困難に、仲間達が憂いを抱える事の無いように。

「借り物の力で勝ち誇るのは格好悪いと、親御さんに習わなかったカナ?……ましてや、その力が元の人格をも飲み込むような代物なら?
 残念ながら君は、ただ利用される子供にスギナイ」
 彼は何者かに振り回されている……言外にそう滲ませ、バルトが語る。
「大丈夫だよ、おじさん。……あいつの事はよく知っているつもりだ。ありがとう」
「これは……余計な気遣いだったかな」
 聡い子だ、それに、強い。……真っ直ぐに見つめてくる|彼《康生》の目に、バルトの口角が上がる。
「ばっちゃが言ってたほ。初恋は実らないものだって。
 人付き合いの経験値貯めて、人の器のレベルアップするしかないほ。恋にもレベルがいるんだほ。
 これからいっぱい出会いを重ねて磨いていくんだほ。そう、全部これからだほ。
 だから……未来は今が作り上げるんだほ」
 オーリンが√能力者達に向け、第六感共有網を展開していく。繋ぐために、視る。後は皆が繋いでくれればいい。
「あーあー、泣かせてんじゃねぇか。独り善がりにやりやがって。全部片付いたら女の子の扱いってやつを教えてやらにゃいけねぇな」
 小柄な忍者の姿のまま、刑部が斬り込んでいく。目立って動き回り囮を買って出るつもりだったが……
「道は我が開こう」
 それは少しづつ重なり響く楽章。バルトの生み出す音楽を奏でるポルターガイストが、城塞の砲撃を反射していく。
「こいつは重畳。……じゃあ大元をぶっ壊していくとしよう」
 刑部が城塞へと駆け寄り、跳ねるように飛び移る。そのまま城塞の上を駆け回り、サーベルで砲台を斬り伏せていく。
「これならやりやすいかな。よーし、今からそっち行って殴り飛ばしてあげるから、首を洗って待ってなさい!」
 既に城塞は丸裸に等しい。ルネは手にした大戦斧【アルビオン】を掲げて宣言し、白いマントを脱ぎ捨てる。
(必ず……助けるんだ!)
「邪魔を……するなぁぁぁぁっ!!」
 刑部の速やかな制圧により、ついに城塞の攻撃手段が途絶え、腰に下げていた刀を抜き放ちルネへと斬りかかる|細川忠興《ほそかわただおき》スコーピオンシデレウス。
「うおりゃーっ!!」
 真正面からの斬撃を、ルネは横薙ぎの一撃で打ち払い、真正面から打ち据える。
「ぐっ……ぬうあぁぁぁぁぁっ!!」
 大戦斧により吹き飛ばされた怪人が宙を舞い、その身に纏う武者鎧のような皮膚が剥がれ、消えていく。同時に美春を捕らえていた機動城塞も崩れ、塵となっていく。
「きゃぁっ!!」
「おっと……危ねぇ危ねぇ」
 身軽な体躯を活かし跳び上がった刑部が、両肩に隆彦と美春を受け止めた。縁の作り出した康生を守る囲いの中に美春を下ろし、気を失った隆彦を寝かせてやる。
「……アフターケアも紳士の領分だ」
 バルトが指を鳴らすと、呼び出されたポルターガイストが、√能力の媒介とする為に隆彦が破り捨てたお守りを修復し、眠っている彼の胸元へと置いて消えた。
「壊れたなら直せばいいのさ、物も絆もね」
 ウィンクしながら述べてやると、康生と美春がしっかりと頷く。
「起きたら恋占いするほ。何回かロハ(無料)で構わないほ。……君達もよければどうぞほ」
 占いは未来を見る物ではなく、背中を押す物だ。次は正しく背を押してやりたいとオーリンは思う。
「あら……嫉妬と妄執、とてもいい『素体』だと思ったのに。残念ね」
 コツコツ、とヒールの音を響かせながら、妖艶な雰囲気を纏った女が現れ、その場に屈みこむと地面に落ちた2枚のカードを至極落胆した様子で拾い上げた。

第3章 ボス戦 『ポイズナーマスケ』


「ご機嫌よう、√能力者の皆さん。せっかく上手く仕上がってくれた作品をダメにして下さってどうもありがとう」
 女は見る間に毒々しい容貌の怪人へと姿を変えていく。
「執着、嫉妬、劣等感……全てにおいて高水準の負の感情に満ちていた。私は彼がそれを飲み込み救われる力を与えただけ。それを奪い取るだなんて、貴方達はなんで酷い存在なのかしら。彼が可哀想よ……倒れてちょうだい。もう一度、彼に力を与えるわ」
 毒婦はクスクスと笑い、能力者達と対峙した。
八百夜・刑部
五十音・バルト
如月・縁
オーリン・オリーブ
ルネ・レッドバーン

「アー、趣味の悪い敵だとは思っていたが。失恋に付け込んで、高校生に色目を使うような奸婦とはネ」
 バルトが眉を顰め、肩を竦めて見せる。
「見解の相違ね、彼は苦しんでいたわ。私はそこに救いを差し伸べただけ」
 女……ポイズナーマスケの詭弁に縁が言葉をつぐ。
「恋は盲目って言いますもんね。それだけエネルギーをかけて相手と対峙しているわけです。……とはいえ、ヒトのエネルギーを借りるのもどうかと思いますが」
「あら、占いだって一緒じゃない。迷える人に道を示し、幸福への|標《しるべ》とする……私のした事と一体何が違うというのかしら?」
「……それは違うほ。実は占いで未来は見えないほ。占いとはBuffだほ。……我輩は、その人の心のままに、少しだけきっかけを作ってあげるだけだほ。悪意で心を塗り替え、弄ぶようなやり方とは、絶対に違うし、許せないほ」
 かの雄牛の怪人のように、倒れた怪人の素体を捨て置かないのはいい。けれども……この脳がしびれるような甘い臭いはダメだ。ほんの少しだけ、進む道を見つけるきっかけを与える占いの世界に身を置くものとして、オーリンには人の心を操り弄ぶこの毒婦を許せようはずもなかった。
「どちらにせよ、もうお前は失敗している。
 もう一度それを手に取るかどうか……その決断は隆彦がするべきなんだよ。正しい正しくない置いといてな。……お前が勝手に決めるべき物じゃない」
 学生達を後方へと担いで逃がして戻ってきた刑部が、真っ直ぐに見つめながら言う。
「いかにも黒幕っぽい人ね!あとは貴女を倒すだけ!いくよ!」
 ルネの調子は変わらない……やるべき事は決まっているから。

「|刑部《ぎょうぶ》転じて|刑部《おかさべ》……ってな」
 退避の関係上、少しばかり他の者と比べるとポイズナーマスケとの距離があった刑部が、再び変化を行う。刑部の変じたのは、蠱惑的な装いをした和装の美女。
「あら、それで嫌がらせのつもり?……子供じゃあるまいし」
 女の言葉に微笑を浮かべる刑部……その無機物すら誘惑する笑みは、その場に残された機動城塞の切り落とされた砲身を自在に操り、ポイズナーマスケへとけしかける。
「……鬼神の呪い、受けなんし」
「なっ!!」
 砲身の衝撃と、鬼神の呪いにより、ポイズナーマスケの動きが幾分か鈍る。
「でも、これで私を封じたつもり?鈍ったなら動きを最小限にすればいいの」
 ポイズナーマスケはそう言って巨大な|真なる毒蛇竜《ヨルムンガンド》へと変ずる。
「♪エンジン始動、もたつくなよ、発進だ。生きるか死ぬか、手遅れになる前に、飛べ!」
 低く通る歌声を響かせ、実体化させた戦闘機に飛び乗るバルト。
「わざわざ出てきてくれた礼だ、この場で仕留めてアゲヨウ」
「貴方にそれが出来て?」
 バルトの駆る戦闘機の放つ機関銃、ミサイル等は、ことごとく毒蛇竜の表皮に弾かれていく。
「効かない、か。……だが、強大な力には強大なエネルギーが要る。これは持久戦ダネ」
 やれやれと零しながらも、攻撃の手を緩める事なく続けていく。
 見抜かれたからには敵も手をこまねいてはいない。毒で構成された自身の分身を放ち、周囲に多種多様な毒霧をばら撒いていく。
「持久戦には持久戦、ほ?」
「であれば、散らしましょう」
 オーリンの創造したウィザード・フレイムが毒霧を反射し、それを縁の放った透光の花弁が切り裂き霧散させる。
「……そろそろかネ。さあ、舞台は整えた。クライマックスと行こうじゃないか。頼んだヨ」
「オッケー、任せて!!」
 バルトの言葉に、ルネが竜漿と毒素の枯渇が始まった毒蛇竜を真っ直ぐに見つめる。
「例え敵がどれだけ強大でも、正面から困難に立ち向かって、人々を守る。それが私の憧れた道。だから……今からあなたをぶった斬る!!」
 そうして手袋を投げつけ正面へと駆け出し、最後の抵抗とばかりに吐き出された溶解毒を、大戦斧【アルビオン】を薙ぐ事で生み出した旋風で弾く。
「正々堂々、屠竜宣誓撃!」
 無敵の表皮を構成していたエネルギーが突き、ルネの振るう刃が一刀両断とばかりに、毒蛇竜を断ち切ったのだった。

 そうして脅威の去った後ーー
「オーリン先生の恋占いはすごいですよ。ロハでできるならぜひ受けてみてください」
 高校生たちを前に、縁が我が事のように言う。

 正体と気持ちを知られた以上、もう元の三人には決して戻れない……そう考えた刑部は、美女に化けたまま「イイ男になりなんし」とだけ告げて、隆彦の頭を撫でて去った。

 一方、ルネは笑顔を浮かべ、3人の絆を信じた。ちょっとしたもやもやは残るかもしれない。
……だが、この3人ならまた仲良くなれるだろう。

 それから、オーリンが約束通り3人を占い始めた。
 どちらが正解かはわからない。占いは未来を見通す物ではないからだ。しかして、オーリンの与えた標は、彼らのこれからに向けてそっと背を押した事は確かだろう。

「聞け、足跡の歌。そして知れ、未来とは彼らの奏でる音楽である!」
 彼らのこれからを祝福する様に、バルトの力強い言葉が響いた。

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