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水底の蛍火

#√妖怪百鬼夜行 #一章プレイングは13日(金曜)8:31から受付開始

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 #√妖怪百鬼夜行
 #一章プレイングは13日(金曜)8:31から受付開始

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●Accident
 森が水底に沈むように蒼く翳った、さる初夏の宵の口。
 昼日中にさんざめいていた陽光が落日と共に喪われると、山巓から降りてくる風は意外なほど冷ややかであった。枝葉の幾何学模様に切り取られた深い藍色の空には星が瞬き、森には金糸雀色のヒメボタルが乱舞する。夜気をなぞるようなゆるやかさを持って飛翔するその姿は、まるで浮世を惑わさんとしているかのようだ。
 山の中腹に建てられた神社へと続く参道はゆるやかな坂道になっており、左右を紫陽花の低木と花の透かし細工で彩られた提灯が縁取っている。
 この参道には毎年六月になるとヒメボタルが現れ、静謐な神域を揺蕩っては紫陽花で羽を休め、また森を廻ってゆく光景を目にすることが出来た。今年もその季節がやってきたのだ。
 麓の通りでは夜市が開かれる。
 これは祭りの際に立ち並ぶ夜店とは違い、古物や雑貨、紅茶やハーブティー、ハンドメイド品などを取り扱った露店であり、夜の蚤の市と言った方が分かりやすいだろうか。蛍の淡い光をイメージしたやわらかくてほんのりと薄暗い灯りの下で露店を巡るのは、ちいさな宝物を探しているようでなんだかわくわくするものだ。客の要望に応えて紅を刷いてくれたり、髪を結わえて髪飾りを差してくれる店もあるという。
 暗い夜を押し上げるような祭りの夜店とは少し違う大人な雰囲気は、どこか気持ちを浮上させる妖しげな美しさがあった。
 もちろん飲食できる夜店もあって、中でも古民家カフェでは紫陽花の低木に囲われた庭先で紫陽花を模したパフェや、バタフライピーで色が変化するドリンクなどを楽しむことが出来るようになっている。

 そんな人々を茂みの奥から覗く六つの光。剣呑で、けれどどこか悪戯に輝く瞳はすぐ暗い森の奥へと消えてゆく。あとに残るは何も知らぬ人々の笑い声だけ。
 それから――。

●Caution
「もう蛍の季節なんですねぇ」
 白い頬に手のひらを宛がい、感慨深そうに口にした物部・真宵(憂宵・h02423)は「早いですねぇ」「ついこのあいだ、桜が咲いていた気がするんですけれど」と時が経つ速さに少し微苦笑を零している。
「今回は古妖絡みの事件です。……また? なんて、おっしゃらないで下さいね」
 ちいさく笑いかけた星詠みは、手にした黒い革の手帳を開いて概要を説明する。
「現場はとある小さな山の中腹にある神社です。こちらには災いの鎌鼬『三巴』が封じられた祠があったのですが、どうやらそれが破壊されたようなんです」
 祠を壊したのは近所に住む子どもたちらしい。この春に中学生に進級したばかりで多感な時期なのだろう、鬱屈とした思いに付けこまれたか古妖の口車に乗せられ、騙され祠に手をかけてしまった。
「三巴が麓に降りてくる刻限は二十一時。夜市が最もにぎわう頃合いを狙っているのでしょうね。ですから皆さんには宵の口あたりから夜市に向かってもらいたいのです」
 つまり、夜二十一時までは各々自由に行動してもらって大丈夫、ということだ。
「麓の夜市から神社までの参道は二つルートがありまして。一つは正面に繋がる参道、こちらはゆるやかな坂道で、紫陽花の低木に彩られた美しい道になっているんです。もう一つは小川に沿うように登っていく参道で、とても浅くて水がきれいですから清涼を楽しむことが出来そうですよ」
 正面の参道はヒメボタルが、小川沿いの参道はゲンジボタルが飛んでいることだろう。どちらのルートを辿っても蛍の光と紫陽花を楽しむことが出来る。だが古妖が暴れてしまえば夜市やそこに訪れる人々はもちろん、蛍や紫陽花にまで被害が広がってしまうことだろう。
「蛍の一生は短く儚いものです。せめておだやかに、やさしい時の流れのなかを泳いでほしいですから」
 このちいさき命が刈り取られることがないよう、そして周囲の人々にも被害が及ばぬよう、どうか対処に当たって欲しい。星詠みはそう頭を下げた。
「夜市は最終日なんだそうです。ぜひわたしの分まで楽しんで来てください。戦いの前に英気を養うのは、悪いことではありませんから……ね?」
 真宵はすこし頸を傾げて、可愛らしく微笑んだ。

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第1章 日常 『蚤の市をブラブラと』