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道行きは未だ知れず

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九竜・響


 竜の力は絶大だ。
 彼らの全盛の時代は遥か昔に終わり、その権勢を現代に伝えるものはエルフ達の曖昧な口伝のみであるが、しかし僅かな残滓ですら未だ想像を絶する力を秘めている。例えば天上界の遺産に触れて生まれたモンスター。例えばそれに対抗する為の竜漿兵器。竜の魔力が齎した衝撃がどれ程か、この世界に生きていて知らぬ者はいない。竜が与えた影響は、天翔ける彼らのインビジブルが放つ圧倒的な存在感よりも尚大きい。

 故にその力の前には、他のあらゆる全ては等しく些事に過ぎないのだ。
 人種も、性別も、体格も、国籍も宗教も価値観も――それに勿論、年齢も。



「全ての手続きが完了しました。これで貴方は今日から冒険者です」
 そう告げた窓口の職員の声色には、どこか苦いものが混じっていた。何か釈然としないものがあったからだ。
 手続きに不備があった訳ではない。冒険者の氏素性はハッキリしているし、犯罪歴の類があった訳でもない。態度が横柄だっただとかそういう事もない。何一つ問題となるところはなく、冒険者登録は恙なく終わった。
 では何が問題なのかと言えば、問題なく終わってしまった事こそが問題なのだ。
 職員はにこやかな営業スマイルを顔に貼り付けたまま、諸々の書類を鞄にしまう冒険者を見遣る。その背は、低い。長身の自らに比して、ではない。概ね誰から見ても絶対的に低いと断じて良い。何しろ、申請書類によれば彼は小学生になったばかりである。

 指名、九竜・響。
 年齢、六歳。
 身寄り、なし。

 他所様の個人情報をやたらと記憶するのは褒められた事ではないと理解しているし、余計な詮索をせずに忘れてしまうのが仕事人の正しい姿なのだと解ってもいるが、考えずにはいられない。
 理屈では分かっている。制度上だけでなく、論理的にも問題はないのだと。√能力者の力は絶対だ。なり立ての新人であっても非能力者のアスリートや格闘家などより間違いなく格上だし、死の心配についてはその特性上実質的に絶無だと言って良い。だから「こんな子供が」などという心配は全く的外れに違いない。
 事実として義務教育中に√能力者に覚醒したものの多くが冒険者となっているし、それに両親も親族もいないのなら一人で生きていく力は必要だ。猶更冒険者として活動すべきであり、手続きが滞れば彼の人生に影を落とす。他人が嘴を容れる正当な理由は何一つとしてない。

 そこまで理解していながら、どこか納得できないのは何故だろうか。凝り固まった旧い価値観に縛られているからか。モヤモヤとしたものを内に抱えて、しかし表情に出す事はしない。窓口には未だ多くの客が並んでいる。少年を笑顔で見送って、職員は次の仕事に取り掛かった。
 あるいは、彼が今後十年二十年と冒険者を続けてくれたなら、これも笑い話になるのだろうか。



 自宅に帰った響を出迎える声はなかった。
 少年は静かな室内をぼんやりと眺める。真新しい住処だ。かつては両親と一緒に住んでいたそうだが、その名残を感じさせるものはない。新居を構えて間もなかったのだろうか。分からない。どうして両親がいないのかも。分かっている事は、今は独りだという事だけ。
 がらんとした空間に一人佇むも、特に感慨は湧かなかった。自分に過去の記憶がないからだろうか。寂しい、辛い、悲しい、そんな風に心が乱れる事はなく、ただ「ああ、そういうものなんだな」と思うばかり。

 響は荷物を机に並べる。
 冒険者登録の際に渡された多数の難しい紙束と、全ての冒険者に配られるらしいゴチャゴチャとしたスターターキット。それから、気が付いた時に既に持っていた武器。骨董品の旧い銃だ。動力に血液を必要としない、魔法文明の発達以前に生まれた旧来の大型拳銃、それを改造したもの。初めから精霊銃として造られたのではなく、機能を無理矢理後付けした歪な得物。
 何故自分がこれを持っていたのかは分からない。両親の遺品だろうか、あるいは親戚のものだろうか、などと思索を巡らせる事もない。ただ、これが自分の武器なんだな、とだけぼんやりと思った。
 自分は今日から、これを手に冒険者として活動していくらしい。実感はない。これと言って目的意識や熱意もない。ただ、与えられた情報によれば、どうやらそうする流れにあるそうだ。そういうものなのだと登録手続きをした大人が言っていた。周囲を漂う精霊やインビジブル達も。

 自分は天涯孤独で、過去の記憶もなくて、これをする適性だけはあるのだと彼らは言う。ならとりあえずそうしよう。学生をして、冒険者をして――ああ、それから竜を探すのだったか。精霊がそう言っていたから、多分そうするべきなんだろう。特に拒否する理由はない。そうしよう。
 それが、これからの自分の生き方。周りの人々の反応を見るに、この人生は「かわいそう」と呼ぶべきものらしいけれど。生きていけるのであれば、特に嘆く事はない。

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