シナリオ

修学旅行生ハイジャック事件

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●日本領海、某海域
「わぁ!」
 シーナは風になびく髪を押さえながら、歓声を上げた。
「いい天気だね!」
「そうね!」
「ずっと晴れてるといいなぁ!」
 甲板にはシーナの級友たちがたくさん出て来ている。彼ら彼女らもまた、船縁に立って景色を眺めていた。後ろを振り返れば、故郷の島がもうあんなに小さくなっていた。
 修学旅行なのである。
 島にある、某中学校の3年生。2クラスぶんの生徒たちは今日から、2泊3日の予定で島を離れるのだ。本土に到着したら、クラスごとにバスに乗り込んで、今度は陸路をいくこと数時間。
「おしり、痛くなっちゃうよ」
 シーナは笑うが、楽しみで仕方がない。生まれも育ちもその島だったシーナにとって、初めて見る生の「都会」になるはずだからである。
「お土産、なににしようかなぁ。もちろんみんなでお揃いのも、なにか買うよね?」
「シーナ、気が早い早い」
 ころころと笑う少女たち。しかし。
「残念だったな、楽しい修学旅行はここで中止だ!」
 ドォン、と甲板上に轟音とともに飛び降りて来たのは……マスク・ド・ハムダーン。力に溺れた少年ヒーローの成れの果てであった。
 フェリーが大きく揺れ、少女たちは悲鳴をあげた。
 甲板に大きな影が差し込んで、見上げてみれば空を2機の巨大ロボットが飛んでいる。ハムダーンは、あそこから飛び降りてきたのだろう。
「お前たちには、√ウォーゾーンへと行ってもらう。そこで研究対象となるんだ!」
「そ、そんな……嫌よ!」
 シーナは気丈にもハムダーンを睨みつけたが、
「黙れ! これも、俺が新しい装備を手に入れるため。逆らうならここで斬り捨ててやろうか?」
 そう言われては、シーナも真っ青な顔で後退りするしかない。
「こいつらは皆、船室に閉じこめておく」
「ひとりくらいは、試し切りしてもいいか?」
 『邪剣・禍骨』がせせら笑う。しかしハムダーンはかぶりを振り、
「駄目だ。お前は操縦室に行って、目的地を変更させろ」
 と、促した。
「俺に? そんなくだらない役目を? ちびっこでもできるんじゃないのか?」
 禍骨はかつての少年ヒーローを嘲ったが、睨み返されるとクックッと笑いながらも操縦室へと足を向ける。
「俺の力、見せつけてやるぞ……!」
 甲板で仁王立ちし、歯ぎしりするハムダーン。船はやがて、外洋を目指して進路を変更していった。

●作戦会議室(ブリーフィングルーム)
「皆、そろっているか?」
 息を切らせながら、綾咲・アンジェリカ(誇り高きWZ搭乗者・h02516)が飛び込んできた。その様子が物語る通り、彼女の口から聞かされた事件は一刻の猶予もないものであった。
 地図を表示したアンジェリカは、海の一点を指さす。
「この海域で、ハイジャックが起きた。もちろん我々が対処する以上、犯人はテロリストでも政治犯でもない。悪に落ちた、怪人どもだ!」
 狙われた船は島と本土を結ぶフェリーである。住民たちにとって欠かせぬ生活の足である。
「折悪しく、修学旅行のため中学生たちが多数乗っている。怪人どもは少年少女らを、√ウォーゾーンに売り渡そうとしているのだ!」
 苦虫を噛み潰したような顔で、アンジェリカは拳で卓を打つ。
 しかしそこで彼女は大きく息を吐き、努めて平静を取り戻しながら言葉を続けた。
「……こんなときこそ、冷静でいなければならないな。作戦の概要を説明しよう」
 なにより人質の救出が最優先である。そこで密かに船に乗り込み、乗客たちと接触する。そして何らかの方法で、彼らを船から下ろすのだ。
 そののち、上空を警護している2体のA14M3人型艦上戦闘機『颶風』を撃破するか、あるいは船内にいる『邪剣・禍骨』を撃破し、航行の自由を取り戻す。
 そして甲板に居座る今回の主敵、マスク・ド・ハムダーンを討ち果たすのだ。
「一刻も少年少女らを早く救出したい……が、成功の可能性を高めるために、この作戦は夜を待って決行する。
 他に、なにか質問は?」
 一同を見渡したアンジェリカは、誰も言葉を発せず決意を漲らせていることを確認すると、満足気に頷いた。
「よろしい。卑劣な怪人どもを、海の底に沈めてやれ!
 さぁ、栄光ある戦いを始めようではないか!」

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第1章 冒険 『さらわれた民間人を助けろ』


如月・縁
マイティー・ソル

 闇夜の中、浮遊型バイクが海面スレスレを駆けていた。マイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)の乗る『フライトフォックス・ヴィークル』である。
 空を見上げたマイティーは、
「上空は巨大ロボットが警戒しておるようじゃ……やはり、怪人組織に間違いないの」
 と、鼻を鳴らした。
 もっとも、それが飛ぶ音がゴゥゴゥと響いているおかげで、バイクのエンジン音も紛れてくれる。
「闇夜というのも、幸いしましたね」
 マイティーの背中にしがみつき、如月・縁(不眠的酒精女神・h06356)も空を見上げる。梅雨の季節である。先ごろから、雨雲が月を覆い隠していた。
「そうじゃな」
 もっとも、ライトを点灯させるわけにいかないバイクの操縦は危険を増す。水飛沫がかかるほどギリギリを進み、マイティーはバイクを船に横付けした。
 ふたりは、ひらりと船へと飛び移る。
「人間を√ウォーゾーンに売り渡そうとしておるのならば、すでに何らかの取引が双方で行われているということじゃな。
 じゃが、妾が来た以上、そう簡単にはさせぬのじゃ!」
「一刻の猶予もありませんね。私が、生徒さんたちを見つけてきます」
「うむ、頼んだ。妾は、敵の様子を窺ってこよう……くれぐれも、気を付けてな」
 視線を上げて、甲板の方を見上げるマイティー。そこにはマスク・ド・ハムダーンがいるはずだ。取引の相手を待っているのだろうか? だとすれば、動いてくる危険は少なそうだが……。
 時間はない。縁は急いで、船内へと向かう。
「ふふ、ビシッと決まってますかね?」
 こんな事態ではあるが、縁は笑って自分の格好を見下ろした。とある戦闘員が着ている黒スーツである。いかにも、潜入にはふさわしいではないか。
「少し様子を見ましょうか」
 縁の手のひらから『透光の花弁』がこぼれ、放たれる。それは潮風に揺られながらひらひらと、辺りに舞い散った。
「こちらですね」
 船内に入り込んだ縁は、まっすぐに生徒たちのいる船室へと向かった。幸い、船にいる敵はハムダーンと邪剣・禍骨だけなのか、見張りはいない。
「だ、誰ですかッ?」
 声を上げた女生徒に「しーッ」と人差し指を立て、縁は囁く。
「安心してください、いま、皆さんを助けますからね」
 すると生徒たちは、
「やった!」
「助かった!」
 と、歓声を上げた。すぐさまシーナが、
「シーッ! みんな、静かに!」
 と、皆を押し留める。皆は慌てて口を押さえ、こくこくと頷いた。
 縁は目を細め、
「では、こちらから。どうか静かにお逃げください。ここは大丈夫……」
「こっちじゃ、こっち」
 舷側に出てきた一行を、マイティーが手を振って呼ぶ。
「急いで乗ってくれ」
 舷側にある、ドラム缶にも似たそれを海へと投下するマイティー。生徒たちの人数は多い。とてもバイクでピストン輸送していくことはできない。
 マイティーは縁が船内を探索している間に、これを探しておいた。
「ふふ、抜かりはない」
 海面に落ちたそれはパッと広がって、救命いかだとなった。
「海を渡って修学旅行……羨ましいですけれど」
「こんなことになったら、ねぇ?」
 頬に手を当てて小首を傾げる縁。シーナは助かった嬉しさと旅行が台無しになった無念で、なんとも微妙に笑う。
「でも、きっと仕切り直しできますよ。今度こそよい修学旅行を」
「ありがとうございます!」
 笑って、シーナは海に浮かんだ救命いかだへと続く滑り台に飛び込んだ。

森屋・巳琥

「あとは任せて」
 船に残る仲間たちに言い残して、 森屋・巳琥(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)は海へと飛び込んだ。
 といっても量産型WZ『ウォズ』ごと、である。
「え、女の子……?」
 救命いかだに乗ったシーナが、戸惑いの声を上げた。だって、聞こえてきた声はどう考えても小さな少女のものであったから。
「うん。なんとなくだけど、放っておいちゃいけないて思ったの」
 そう言いつつ、巳琥はそれぞれの救命いかだを縄で繋いでいく。確かに巳琥は年端もいかない女の子だが……√ウォーゾーンは彼女に平穏な生活を許さなかった。
 とはいえ、やはり年相応な部分も残しつつ、
「だから、安心してね」
 と、笑ってみせる。
 救命いかだを結びつけた縄をWZが引っ張って、船から離していく。
「わぁ、すごい!」
 解放された安堵感からか、シーナや級友たちは救命いかだの中で歓声を上げた。
「もっと『お高い』機体だったら、スピードももっと速いんだろうけど」
 ぼやく巳琥であったが、白銀の雫が降る世界で交わした契約の力によって、その速度は増している。
「そんなことないよ、速い速い!」
 揺れにキャアキャアと悲鳴を上げながら、シーナが応えた。
 船そのものが南下しているせいで、推進器など持たず巳琥に引かれているだけの救命いかだも、どんどん船から遠ざかる。
 フェリーを追っていた巡視艇の灯火が、近づいてきた。

第2章 集団戦 『A14M3人型艦上戦闘機『颶風』』


「まだ現れないのか……!」
 甲板上で腕を組み、マスク・ド・ハムダーンは苛立ちを隠せずにいた。まだ、「取引相手」は姿を見せない。
 すると上空を警護していた2体のA14M3人型艦上戦闘機『颶風』が、いくらか高度を下げた。
「なんだ?」
 ハムダーンが怪訝に思うと、ちょうど通信が入る。
「ハムダーン様。そのフェリーから、救命いかだが離れていきます」
「なにッ!」
 救命いかだは、発見されやすいように鮮やかなオレンジ色をしている。そのために、上空から発見されてしまったのである。
「追います!」
 ハムダーンの指示を待たずして、2体の颶風は大きく旋回して船尾方向へと進路を向けた。
 しかしそこに、√能力者が駆けつける。
伊藤・ 毅
如月・縁

「こちらLANDLOAD。対象空域侵入、マスターアーム点火、エネミータリホー、ボギー2、エンゲイジ」
 ジェットエンジンの轟音が響き渡る。飛行形態となった『WZF-204スレイヤー』のコックピットから、伊藤・毅(空飛ぶ大家さん・h01088)はマイクに向かって接敵を告げた。
 その背に飛び乗り、如月・縁(不眠的酒精女神・h06356)は後ろを振り返った。
「あ、WZの方が、救命いかだを引っ張ってくれたんですね」
 もはや救命いかだは遥か後方である。巡視艇が救助作業を始めていた。
「……と、いうことは。あとはあの敵を近づけないようにするだけですね?」
「そういうことだね。
 シーカーオープン、ロックオン、FOX2、FOX2」
 2機のA14M3人型艦上戦闘機『颶風』が、ぐんぐんと近づいてくる。『スレイヤー』の姿が目を引かぬはずがなく、敵はこちらに狙いを変えて迫ってきた。
 まずは、あの1体に狙いを集中させる。
 毅は敵機を正面に見据え、発射ボタンを押した。WZから吊り下げられた『ガンポッド』から、おびただしい機関砲弾が吐き出される。
 それは『颶風』の装甲で次々と爆ぜ、敵機はのけぞるようにしながら弾幕から逃れようとした。
 2機の『颶風』は互いにデータリンクしているのか、攻撃を受けた1機が牽制気味に粒子機関銃を放つと、その避ける方向を狙うようにもう1機が撃ってきた。
「く……」
 毅はチャフを撒いて敵を幻惑しつつ、大きく急上昇する。その頂点で大きく機体をひねって方向を変え、敵へと向き直った。装甲にいくつもの弾痕を残した敵機も、後を追って急上昇している。
 それはそれとして。
「……」
 この急起動、大丈夫だろうか?
 そう思った毅ではあったが、縁はなんとか機体にしがみついていた。まさかモニターしていることに気づいたわけでもあるまいが、縁は強い風に髪をあおられつつも、艶然と微笑んだ。
 その縁が、飛ぶ。セレスティアルの白い翼を大きく広げて、敵の正面へ。
 敵もまさか、と思ったらしい。虚を突かれたように一拍反応が遅れた。
「こんばんは、お邪魔しますね」
 微笑みを浮かべたまま、縁は『酒精女神の槍』を振り上げる。
「√ウォーゾーンの話とはいえ、人身売買はハンザイですよ? 見逃すわけにはいきません、おとなしく引き下がってください」
 神々しく、そしてわずかに酒精の香りを帯びた槍。それが『颶風』の頭部、メインカメラに深々と喰い込んだ。
 敵はとっさに腕を振るうが、縁は敵の胸板を蹴って、すでに跳んでいる。
「……それとも。一緒に踊りますか?」
 くるりと槍を回し構え直した縁。その穂先が装甲の隙間を抉る。いくつものケーブルが斬り飛ばされて火花を散らし、また機械油が溢れ出た。やがて炎が生まれ、小さな爆発が広がる。
 道連れにとでも思ったか、敵機が縁に向かって手を伸ばしてくる。
 しかし、そこに。
 いくつもの白煙の尾を伸ばしながら、小型のミサイルが襲いかかった。その衝撃で敵機は後方に弾き飛ばされ……落下していく縁を変形した『スレイヤー』が降下して追い、縁はその肩に着地した。
「共同撃墜……でいいかな」
「はい。あと、1機」
 『颶風』の爆発が、海原とフェリーとを明るく照らす。
 残った1機は12体の無人機型『颶風』を差し向けてきたが、毅のWZは海面を走るように銃弾を避けていく。脚部からの噴射炎が海面を叩き、大きな波と水蒸気を上げた。

森屋・巳琥
マイティー・ソル

「く……おのれ!」
 同胞を失ったもう1機のA14M3人型艦上戦闘機『颶風』は、12機の無人機型を差し向けてきた。
「そろそろ見つかる頃じゃとは思ったが、人型戦闘機の方が動いたようじゃな」
 マイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)は『フライトフォックス・ヴィークル』を巧みに操って、襲い来る粒子機関砲の攻撃を避け続ける。
「とはいえ、あのサイズで空中移動されるとなると、相手するのは少し面倒じゃな」
 機関砲弾がヴィークルの側をかすめ、マイティーは水柱の飛沫を浴びた。ふるふると頭を振って、雫を払う。
 敵はさらに撃ってこようとしたが。
「水上戦闘は、初めてなんですよね」
 森屋・巳琥(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)がWZのコックピットで、口をへの字に曲げている。
 量産型WZ『ウォズ』の脚部には大型のフロートを仕込んだ。大きく音を立てつつ着水するが、なんとかバランスは保つことができている。
 大丈夫とみた巳琥は深呼吸し、試作型対物狙撃銃『Proto-Meteor shower』を構える。
 一筋の光線が闇を貫くと、それは無人型『颶風』の背を貫いた。エネルギーパックを破壊された機体が、激しく爆発を起こして四散した。
 光線モードならば、反動も少ない。フロートで踏ん張りが利かなくとも問題はなかった。
「遅くなりました」
「なに、なに。救命いかだでは世話になった! あちらは無事なんじゃろ?」
「えぇ」
 頷いた巳琥。
「人質になった皆は、襲撃で楽しみを削がれてしまったかもですが。
 せめて刺激的な思い出として笑い話にできるよう、無事に解決したいのですよ」
「じゃな。案外と、順調にいかなかったときのほうが思い出深いものよ」
 マイティーは狐面の下で笑い、
「さて、その巡視艇の邪魔をされても困る。
 ならば、無人機を個別に相手してかかりきりになるわけにもいくまい。できる限り、まとめて排除するとしようかの?」
 と、上空を旋回して態勢を立て直している無人機群を見上げた。
「了解、相手を追い込むとします」
 意図を察した巳琥が頷く。
「ふふ、妾には文字通りの隠し弾があるでな」
「並列操作補助機構『蜃気楼』起動」
 巳琥は自身と見分けがつかないほどに酷似した素体たちを率いて無人型に、そしてそれらを指揮する有人型『颶風』へと立ち向かった。
「敵指揮は……そこまで密でもないのかな?」
 多数対多数の戦いとなったが、その指揮能力と連携攻撃の巧みさは巳琥に軍配が上がったか、敵は押し込まれ数機の無人型が、撃墜されて落ちていく。
「やるのう!」
 マイティーはヴィークルに跨ったまま『コラプサー・ライフル』を構え、敵群に狙いをつけていた。
 放たれたのは、通常の弾頭ではない。高重力場発生弾頭である。
「多用はできんが、これが隠し弾という奴じゃ!」
 無人機の1機が、その弾頭に貫かれる。すると着弾したところに凄まじい高重力……ブラックホールに匹敵するそれが生まれ、周囲の機体もバランスを崩して激しく衝突し合いながら、飲み込まれていった。
「それ、もう1撃くらいはよかろう! おぬしらの欠点はそのサイズと、無人機を展開したがゆえに、動きが悪いことじゃ!」
 もう1発のブラックホールが、またも多数の敵を巻き込んだ。その中には有人型も混じっていたではないか。
 さすがというべきか、有人型は片腕片足をもぎ取られながらもなんとか重力から逃れ、反撃を試みたが……巳琥の狙撃銃から放たれた光線が、そのコックピットを貫いた。
「敵機、撃破」
「さて。あとがないマスク・ド・ハムダーンは、どう出るかの?」
 海面で燃え盛るおびただしい機械油の明るさに照らされて。甲板に立つマスク・ド・ハムダーンは、√能力者たちを睨みつけていた。

第3章 ボス戦 『マスク・ド・ハムダーン』


如月・縁
マイティー・ソル

「でましたね、黒幕さん。√ウォーゾーンに若い人たちを連れ去るなんて……」
 裾をふわりと膨らませながら、如月・縁(不眠的酒精女神・h06356)は甲板に降り立った。
「お主がマスク・ド・ハムダーンじゃな!」
 マイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)は『クールナールブレイド』を抜き、その切っ先をマスク・ド・ハムダーンに突きつける。
「自身の力を得るためにハイジャックとは……少年ヒーローの成れの果てとは、よく言ったものじゃ」
 芝居がかった仕草で、大げさにかぶりを振るマイティー。「ヒーロー」に強い憧れを持つ彼女だからこそ、
「……残念じゃ、おぬしのような者を見るのはの」
「黙れッ!」
 ハムダーンが抜いたのは、『妖刀村正』である。怒りに任せて叩きつけると、傍らにあったベンチはまるで飴のようにあっさりと切れた。へし折れさえしない。
「胡散くさい正義なんか、うんざりだ! 俺が得をして、何が悪い!」
 甲板を蹴って、一気に距離を詰めてくるハムダーン。
「俺が強ければ、お前らも嬉しいだろうッ?」
「むぅッ!」
 反射的に構え直した刃が、妖刀と激しくぶつかった。火花が散り、その衝撃にマイティーは顔をしかめる。
「マイティーさん!」
 縁が横合いから『酒精女神の槍』を繰り出した。
「ちッ!」
 ハムダーンは舌打ちしつつも、その穂先を易々と打ち返す。
「お前から先に死にたいのかよ!」
「く……ッ!」
 容赦なく襲い来る妖刀を、縁はかろうじて受けている。そこにマイティーも加わったが、ハムダーンは両者を相手にしても一歩も引くことなく妖刀を振るう。
 打ち合うこと十数合、さすがにハムダーンも攻め疲れたか、わずかに間合いが開いた。
 縁が荒い息を吐く。
「さすがは、かつてのヒーローといったところでしょうか」
「しかし差し当たりは、目的と過程が歪に替わったような典型的な悪……」
 そう言ったところで、マイティーは小首を傾げた。
「いや。成長できなかった子供のまま、といったところじゃな」
「なんだとッ!」
 激昂するハムダーン。縁はその目を見据え、
「本気でやるなら、√ウォーゾーン修学旅行プランくらい作ってください。
 誰かに頼まれたのですか? 何の研究をするつもりなんですか?」
 と、ハムダーンの顔色を窺った。
「研究内容なんか、知るか! 俺は俺のため、強くなるための『結果』さえ手に入ればいい!
 本気を出せというなら、見せてやるよ!」
 再び、妖刀を構え直すハムダーン。今度こそ、√能力者たちを両断してくれようという構えである。
「マイティーさん!」
「任せよ!」
 跳び下がる縁。代わりにマイティーは前に出て、ハムダーンを迎え撃つ。
 ハムダーンの速さたるや、距離などなかったかのように瞬時に間合いを詰めて来た。
 しかし。
「お前の腸を見せてくれッ!」
「そうは、いかぬ!」
「なにッ……?」
 マイティーは大剣を立て、腹部を守る。
「たしかに凄まじい一撃とはいえ……真っ向勝負ならば、受けられぬこともない!」
 その間に縁は、手にしていた槍を変形させていた。酒精女神の槍は、赤石のはめ込まれた弓へと変じた。
「こっちを見て。楽にしてあげる」
 『宝赤の竜爪弓』の弓弦が鳴り、ハムダーンを飛矢が襲った。矢はその肩に深々と突き刺さる。
「少し、外れましたか……!」
 妖刀を持つ手を狙ったのである。しかし敵はとっさに体を捻り、命中したのは左肩であった。
「なに、十分よ!」
 突き刺さった矢はハムダーンの体内を毒で侵している。そして、
「かつて目指したモノが妾と同じかどうかは知らぬが。正義を名乗る者として、『悪には最悪の結末を』以て、お主という悪を斬り伏せるのじゃ!」
 大剣が変形し、『悪必中必滅斬』となる。ハムダーンは迫りくる刃から目を離せず、胸を深々と斬り裂かれた。

森屋・巳琥

「ぐ、おお……ッ!」
 マスク・ド・ハムダーンから流れ出る血は、瞬く間に甲板を濡らしていく。
 その眼前に、1機のWZが着地した。森屋・巳琥(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)である。
「強くなる『結果』だけを求めて、積み重ね過程と、それでどうするかまでもが歪んでる……かな?」
「黙れ! 俺にやることに、口出しするなッ!」
 ハムダーンは憎々しげに怒鳴ると、『妖刀村正』を八相に構えて飛びかかってきた。
「中にいるのは、ガキなんだろう? まずはそのガラクタを斬り刻んで中身を出して、それから柔肌を斬り裂いてやるよ!」
「それは悪趣味すぎますね」
 顔をしかめた巳琥はすかさず、量産型WZ『ウォズ』を決戦モードに変形させた。
「高負荷リスク承認、限界のその先へ……」
 真紅に輝くWZは振り下ろされる刃をかいくぐり、ハムダーンの横手に回った。
「避けたつもりか!」
「く……!」
 なおも刃は迫る。巳琥は『ドラゴンガーダー』でそれを受け流しつつ、甲板から跳んで距離を取った。激しい水飛沫を上げて着水しつつ、WZ用の狙撃銃を構えて引き金を引く。
「ぐあッ!」
 頭を狙ったのである。しかし敵もさすがというべきか、とっさに身を捩って、光線が貫いたのは肩であった。肉は抉れ、傷口は焼ける。
 巳琥はすぐさま次弾の狙いをつけ、撃つ。しかしハムダーンは妖刀をかざして、それを弾いたではないか!
「この程度で……俺は倒れないッ!」
 もはや度重なる負傷で、左手は持ち上げることもできないのであろう。それでもハムダーンは立ち上がる。傷つき倒れないところだけは、ヒーローらしい。
「……きっと本元には、堕ちる前に求めた信念がありそうですが」
 よほど困難な壁にぶつかったのか、それとも……なにかに、干渉されたか。
 巳琥の考えを読んだわけでもあるまいが、海面で燃え盛る重油の光に照らされた『村正』が、ギラリと妖しい光を反射させた。
「誰ひとりとして、俺の進む道を邪魔することはできないッ!」
 躍りかかってきたハムダーンの刃が、またしても装甲を抉る。まともに受けてなどいられないが、受け流すにも限度がある。『ドラゴンガーダー』にも『ウォズ』本体にも、無数の傷がついた。
「利己的な……。
 一般的な悪も、想えばその視点は正義になるそうですね。ですが、利己的な正義は別の正義にぶつかるものです。それが混沌を呼ぶものなら特に、ね」
「俺の邪魔をして斬り殺される者が悪。簡単なことだ!」
 巳琥は距離を取りつつ狙撃するが、ハムダーンはそれをかいくぐりながら間合いを詰めてくる。
「……60秒、経過」
 コックピット内に提示された数字に、巳琥は眉を寄せた。まもなくして、稼働限界を超えてWZの決戦モードが解除される。
「ははは! なかなかしぶとかったが、そこがお前の限界だな!」
「……無理なら次に、託します。私たちは、ひとりじゃないんですから」
「はんッ! お仲間が駆けつける頃には、お前は肉の塊になっているってことか!」
 『妖刀村正』が、WZの膝を深々と斬り裂いた。いくつかのケーブルとダンパーが破損し、WZは膝をつく。
 巳琥はすぐさまハッチを開け、コックピットから飛び出した。
「やっと、その柔肌を斬り裂く感触が味わえる!」
 ハムダーンは喜々として刃を振り上げる。小娘が右手を伸ばしているが、そんなものは何の抵抗にもならない。腕ごと斬り捨てるだけである。
「いいえ。この手は望む未来を掴むために」
「な……ッ!」
 その掌がハムダーンの右腕に触れたとたん、妖刀は妖しい輝きを失った。突然に感じる妖刀の重さに、ハムダーンは愕然とした。
 そのこめかみに、巳琥が左手に構えた自動拳銃が押し当てられた。

 怪人の骸は柵を跳び越えて、海へと落下した。そして、闇の中へと沈んでいった。
 シーナたち修学旅行生を救助した巡視艇は彼方を進み、港を目指している。
 彼らには……輝かしい、未来がある。

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