シナリオ

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新作になっても、すべての衣装を水着にしてやろうぜ!

#√EDEN #√汎神解剖機関 #水着結界シリーズ #プレイング受付中 #旱暑によりプレイングが戻ってきましたら再送お願いします

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 #√EDEN
 #√汎神解剖機関
 #水着結界シリーズ
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●異界へ足を踏み入れたとあるカップルの話

 最も平和で、最も豊かで、最も弱く絶えず簒奪者に狙われる楽園──√EDEN。
 そんな楽園も例年に類を見ない季節外れの酷暑が襲いかかり、初夏に入らないというのに各地で真夏日を観測していた。
 しかし、人間とは環境に適応する知恵によって数々の厄災や災害を乗り越えてきた。
 例えば、暑さを紛らわせる『涼』。
 冷たいものや冷房が効いた場所で涼しさを感じる以外にも、打ち水をして感覚的に涼しさを感じたり、川のせせらぎに耳を傾けて涼を感じたり、夜の月を眺めて涼を求めたりと様々だ。
 だが、人は心地よさ以外にも涼を求める。

 それは──恐怖。
 背筋を凍らせるような戦慄、未知の闇に足を踏み入れて暑さを忘れる「肝試し」。


「ねぇ……まだトンネルが続くの?」
「心配するなって……ほら、出れた」
 ここは都内から車で数時間行った先にある山奥。
 かつて多くの集落が点在していたが時代の波による過疎化によって住民が居なくなり、地図上からも消えて忘れられてしまった廃村。
 トンネルを抜けた若い男女のカップルは肝試しのためにこの場所に訪れたのだが、その廃村の名はもう誰も覚えていない。
 舗装もされていない細い林道を抜けると、木々の隙間から朽ちた鳥居が見えてくる。表面にはびっしりと苔が張り付き、名を記した木札は半ば崩れ、判別不能となっていた。

「ここ肝試しの穴場だったの? ネットにも全然出てこなかったけど……」
 彼女は苛立ち混じりの声でそう言いスマートフォンを掲げたが、表示は『圏外』。

「先輩の先輩から聞いてね。隠れた心霊スポットってさ、見つけたもん勝ちだって」
 男は得意げに笑って先を行き、追いすがるように女がついてくるのを確認するとふと立ち止まった。
 ──そして、村の中へ足を踏み入れた、その瞬間。

 ぐにゃり。

 空間が歪んだような妙な感覚がふたりを襲う。
 目眩でも起きたのかと思った彼女が目を擦るが、次の瞬間……とある違和感に気づく。

「……ちょ、なにこれ……!? えっ……えっ!?」
 思わず目を疑った。
 着ていたはずのTシャツも、ジーンズも、スニーカーも──すべてが消え失せていた。
 代わりに身にまとっていたのは、海辺のビーチにでもいるような水着姿だった。
 女は紐の多い大胆なビキニ、男も派手なトランクスだけ。
 それはどちらもどこかレトロで、どこか現実離れしたデザインであった。

「なんで……!? どうして……服、どこ行ったの!?」
「俺も……!」
 二人は慌てて辺りを見回した。
 だが、周りは朽ちた鳥居や廃屋が点在している廃墟のまま。
 ふと気づくと、まだ真新しい奇妙な看板が建っていることに気づく。

 ──『涼ヲ求メル者ニ、水着ヲ与エン』

 血で書いたような錆がかった朱色で、異様な筆跡の文言が刻まれていた。

「……帰ろう……もう帰ろ? これ、絶対ヤバい奴だよ……!」
「あ、ああ……そうだな、元の道を……」

 だが、振り返った先にあったはずの道もトンネルは消え失せ、そこにはただ──
 海が広がっていた。
 青くもなく、煌めきもない、どこまでも鉛のような色をした『海』が。
 山のど真ん中であるはずなのに、微かに──潮騒も聞こえる。
 いや、よく聞けばそれは……笑い声だ。
 水着姿のまま朽ちた廃村の孤島に取り込まれたカップルの前に、ひとつ、またひとつと……『人の形をしたもの』が現れ始めていた。

 それらはすべて、水着姿で笑っていた。


●√EDEN都内某所のとある複合型アウトレットモールにて
「……って|予兆《ゾディアック・サイン》を星詠みっちまってなぁ……」
 白く眩しい日差しがビルのガラス面で反射し、真っ青な空の下では蝉の声すら熱気に負けて沈黙してしまいそうな暑さの中、ちょうど日陰となって心地よい潮風が吹き抜ける海沿いのデッキテラスで狗養・明(狼憑きの|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h00072)は集まった√能力者たちへ茶封筒に入った捜査資料の写しを手渡す。
 中には航空写真、失踪者たちの顔写真、廃村の写真、そして血のような朱で書かれた奇怪な看板の写真などが入っていた。

「ガイシャは√EDENの住人だが、こっちの√汎神解剖機関でも似たとような事件が頻発していやがる。足を踏み入れた奴らは神隠しに遭っちまって、運良く生還しても気が触れちまったように曖昧な体験談しか覚えてねぇよくある話なんだが……決まって『突然水着姿になった』って証言だけは共通している。お偉いさんらが言うには……『水着怪異』の仕業だってらしいな」
 水着怪異とは、季節と共鳴して現界の境界を歪める特異なる存在。
 水着結界と呼称される結界に立ち入った者の姿を水着に変える能力を持った怪異の総称であり、水着姿に変える力は単なるいたずらではなく『涼』という概念を媒介に結界を展開する力の発露だとされる。
 そのため夏場によく発生するのだが、近年は四季の概念がなくなるまでの異常気象続きで季節外れの猛暑となる日も珍しくなく、それに伴いただ水着姿に変えて驚かすだけであった水着怪異に変化が生じているとのこと。

「それが例の神隠しだな。大方、他の√に足を踏み入れちまったように水着結界が擬似的な√として機能してるって感じか? 言い方を変えりゃ……√世界の狭間に生じた三途の川な擬似空間、ってとこだ」
 明が語るには√汎神解剖機関でも例の廃村は存在しており、村の名が忘れ去られて久しいためか捜査関係者からは『水着村』と呼ばれている。
 だが、カミガリの捜査員らが踏み込んだ際には水着怪異の気配は何処かへと消えてしまっており、√EDENでの『水着村』で同様の事案が発生したことで√を越境したと判断。
 その結果、新人カミガリながらも√能力者であるために越境捜査権がある明にお鉢が回った次第でもある。

「つー訳でこっちにも被害が出ちまった以上、着ている服を水着に変えちまうしょうもねぇ怪異だろうが始末しねぇ。場所も特定済みであとは向かうだけなんだが……ここで問題がある。水着結界の入口を探さねぇといけねぇってことだ」
 現実の世界である√EDENには水着怪異は存在せず、他√への道を発見するように水着結界に足を踏み入れねば水着怪異とは対峙できない。
 まるで雲を掴むような話だが、救いは水着結界へと侵入すれば水着姿に変わるという分かりやすさか。

「ま、この暑さだ。肝試しがてら涼を求めてみるのもオツってだろうが……油断するなよ? 水着結界の中が一体どうなってるか……まだ誰も分からねぇからな?」
これまでのお話

第3章 ボス戦 『水神』


 ──ひゅるり、ひゅるり。

 上空を飛び交っていた暴走インビジブルの群れであったが、尽く√能力者によって駆逐され、実体化された身は冷ややかな空気に溶けていく。
 残った群れも形勢が不利と判断すれば、逃げるように水着結界の内部で孤島となった水着村を囲む鉛色の海へと飛び込んで行った。
 ……その時、海面が爆ぜ、巨体が躍り出る。
 それは巨大なクジラのような怪物だった。
 暴走したインビジブルらは成す術もなく大きく開かれた鯨口に海水ごと呑み込まれてしまったが、インビジブルを糧とするのであればそれは簒奪者。
 そして……この水着結界に棲まう存在であれば、それは紛れもなく水着怪異において他ならない。

 ──水着怪異の正体は『水神』。
 いや、正確には"水神を騙る"強大な怪異か。
 その名の通り水を操る能力を有し、気まぐれに水害やその逆で渇水を起こしては人間たちを苦しめ、その結果発生するインビジブルを喰らう存在。
 遠い遠い昔、この村は危機に瀕した。
 異常な暑さが続き、川の水は枯れ、雨も絶えた。
 そんな年が何年も続けば作物が実らず、村人らは飢餓に苦しんでいたそんな時…『神』が訪れた。
 雲を呼び、雨を降らせる、誰もが何よりも欲していた寄り神の『水神』だった。
 願いを叶えた水神が去ろうとすると、村人らは水神にとある取引を持ちかけた。
 この地に留まり水の恵みを与えてくれるのであれば……生贄を捧げる、と。
 それを聞いた水神は笑い、願いは聞き届けれたが……水神は生贄を得て喜んだのではない。そうせざるを得ない村人らの姿を嗤ったのだ。
 こうして渇水が続けば人身御供の因習があった水着村だが、その歴史も時代の流れによる過疎によって住民が去ったことで信仰も途絶えた……はずだった。
 興味本位で朽ち行く廃村を訪れる者は後を絶えず、村に足を踏み込んだ者を自らの神域に招き入れ、狂わせたインビジブルに喰らわせ、それを自らが取り込むサイクルは現在も続いている。
 そして今、新たな生贄は水着結界へと迷い込んだ√能力者という訳である。

 だが、その循環も今や大きく狂った。
 糧となる暴走したインビジブルらは尽く駆逐され、自らの神域を荒らす者らを廃するために暗き海より海神が姿を現したのだ。
 √汎神解剖機関から√EDENに移る力があるのであれば、水神を取り逃がせば他の√にある水着村へと逃げるだろう。
 
 ──そうさせない。
 この悍ましき水着結界を生み出す水着怪異を、今ここで討つのだ。
白神・真綾

 鉛色の海が逆巻き、空を覆うほどの巨体がその輪郭を晒す。
 暴走したインビジブルを海水ごと啜り、潮を纏い、異界の海そのものと同化したような怪異が真綾を見下ろした。
 それはまさしく水神──否、正体は水神を騙る怪異。
 その眼は人を信仰の対象ではなく供物としてしか見ていない。
 慈しみなどはなく、そこにあるのは循環と捕食の連鎖。
 神域の中に築かれたこの水着結界は、飢えた偽神の胃袋そのものであった。

「ヒャッハー! ようやく大物の出番デスネェ!」
 真綾は砂浜に押し寄せる鉛色の高波を前にしながら、歓喜の高笑いを上げた。
 両手で握られたフォトンシザーズの刃は真夏の太陽の様に猛烈に輝き始め、白い髪が突風のような海風で荒れ狂いながらキーモッドの水着が潮に濡れて肌にぴたりと貼りつく。
 だが、そんなことなど彼女には些事であり、脚元を掬う波に膝まで呑まれようとも構わず、寧ろその不安定さを笑い飛ばしながら突き進む。

「それにしても水着の元凶が鯨とか予想外デスネェ。人型でもないのに人を水着にして何が楽しいデス? 中身は人間だったりするデスカ? まぁ、なんにしてもヤルこと変わらねぇデスネェ」
 その問いに応えるかのように水神の鯨口が開くが、出たのは言葉ではなく咆哮。
 自らの神域を荒らす者への神罰とも言うべき『水神ノ呪殺』により大気はおろか水着村全体が震え、周囲を満たす海水さえも敵意に染まっていく。
 海面が沸騰したように泡立った次の瞬間、空間ごと抉るかのような衝撃が放たれた。
 それは水を操る権能により水を媒介にして暴威を示す√能力であり、鉛色の海水で満たされた砂浜の中から何かが飛び出してくる。

「おぉーっと! ハジマッたデスネェ!」
 風が逆巻き波を持ち上げながら出たのは、無数の尖った骨片。
 過去の供物たちの残滓が呼び起こされ、忘れられた残骸が怨念と呪詛を纏いながら真綾の白い肌を掠めて水着の縁を少し裂くが真綾は笑う。

「ヒューッ! 水着が裂けるサービスカットの発生デスけど、残念! 殺ルならサクッと殺ラねぇとデース!」
 飛び交う骨片は海神のちからによって鋭さを増していたが、真綾は華麗に身を翻しながら骨の弾幕を滑るようにすり抜ける。
 砕けた破片が頬を掠めて赤い線を引くも──狂気に満ちた笑みは崩れない。
 それに呼応するかのにフォトンシザーズの輝きは旭光となり、√能力『|殲滅する白光蛇の牙《エリミネートバイパーズファング》』が顕現する。

「真綾ちゃん、本気殺すデース!」
 フォトンシザーズを|超過機動状態《オーバードライブモード》に変形させると、粘度が高まる鉛色の海水から飛び出すように脱出する。
 視線の先にあるのは、水神の鯨腹。
 空中に展開していたビットを足場とすることで真綾の身体は踊るように宙を舞い、弾丸のように跳ね上がって高度を上げていく。

「サァサァ、解体ショーの始まりデース!」
 叩き込まれるは、分厚いの皮膚をも容易く切り裂く一撃。
 鯨腹に空いた傷口からは鉛色の海水とは別の異質な黒い液体が溢れ出すが、果たしてそれは喰らった魂たちの残滓か、水神の呪詛か、それともまだ捕食途中の何かなのか。
 確かなのは致命には遠いものの、その巨躯に確実な傷を刻んだことを示す苦痛に満ちた咆哮が上げられたことだ。

「ヒャッヒャッヒャー! 3枚におろしてお刺身にしてやるデース! それともベーコンの方が良いデスカネェ?」
 返り血のように黒い体液に塗れた水着を纏った白兎は狂気のままに戦場を跳ね回り、水着結界が崩れるような軋みすらも狂笑が切り裂いていく。