心に熱のある限り
核融合炉が臨界点にまで到達するまで残された時間はわずかだった。それまでに炉心のそばにある制御室に行って緊急停止コマンドを打ち込む必要がある。そうでなければこの一帯は焦土と化し溶けたガラスみたいな墓標が並ぶ死の大地になるだろう。
「ボタンを一つ押すだけだろう? 簡単な仕事だ」
一番いい耐熱スーツを着込んだ男が自信満々に言った。
「ボタンを押すところまではその装備でできるさ。でもな、試算によると制御室にたどり着いてボタンを押したあと炉の周囲は数千度になる。お前が間に合ったとして、救えるのは逃げ遅れた市街地のヤツら数百人だ。犬死にに等しい」
オペレーターらしき男が苦い顔をしていった。
「一人と数百人ならどっちを選ぶ? 聞くまでもない」
「熟練の技術者一人と役立たず数百人だ。比べるまでもない。頭を冷やせ」
オペレーターはハッチへと続く隔壁を締めようと手を伸ばした。
「人間は成長するもんだ。育ちきったヤツの命は軽いだろ?」
オペレーターの手を掴むと男はにやりと笑った。
「逃げないならもう死んでるのも一緒だ。……行けよ」
「恩に着る。じゃ、行ってくるぜ!」
男が通ったゲートを閉じるとオペレーターは苦々しげに言った。
「帰投を待つ。よい旅を」
「√ウォーゾーンにある実験都市で事件が起きるの、核融合の実験施設で事故が起きて街が一つ吹き飛んでしまうんだ。みんなには事故を止めることとその後に現れる戦闘機械群の撃破をお願いしたい」
ソーダ・イツキ(今はなき未来から・h07768)は√能力者達を前に話し始めた。
「事件が起きるのはビューノーって言う街、その街には実験用の核融合炉があるの。炉は実験中に制御を失って爆発しそうになっているんだ。デイベルさんって言う技師が炉のそばの制御室まで行って緊急停止スイッチを押そうとしてる。みんなにはデイベルさんを手伝って核融合炉が爆発するのを止めて欲しいの。炉の近くには戦闘機械群がいるからそいつらを足止めするか倒してデイベルさんが制御室まで行けるようにして欲しい」
イツキはちょっと戸惑いながら言葉を続ける。
「……制御室の緊急停止スイッチを押してもね、炉の近くは一瞬数千度にまで上昇する。だから、デイベルさんは助からない。でも、街に残った人たちは助かる。√能力者なら生き返るだろうけどシステムを熟知している人が行かなければ間に合わない。なにより、デイベルさんの覚悟と気持ちを大事にしてあげたい。だから、デイベルさんを守って制御室まで送り届けて欲しい。そして、その後にやって来る戦闘機械群を倒して街を守ってあげて欲しい。よろしくお願いします」
イツキはそう言うと√能力者達を送り出すのだった。
第1章 冒険 『冷却不足』
ビューノーの街は海沿いにあった。危険が伴う実験をする場所だ、人の住む場所などほとんどない岩壁にコンクリートの土台を築き、そのかすかな場所に何層もの隔壁で隔てられた実験棟が作られていた。だからと言って実験炉が暴走すればこの付近の住民は生きていられない。実験都市と言っても研究者だけが住むわけではないのだ。家族もいれば、都市機能を支えるための作業員も必要だ。それに買い物をする場所もごはんを食べる場所も、ちょっとした娯楽施設も必要だろう。研究員の数が百人いたとすれば、千人以上の人間がこの街にいることになる。その命が今危機にさらされているのだった。
「立派な方ですね。志は応援し尊敬しますが、生き延びる方法を模索したいです。誰かが悲しむと、俺が困ります」
青木・緋翠(ほんわかパソコン・h00827)はそう言ってオペレーターに隔壁を開けてもらうと熱風が吹きすさむ中実験炉を目指した。
「頼む。あいつは今回の事故は自分のミスだと思ってる。誰のせいでもないのにな、設定値が大きすぎたと言っても実験だ。全ての安全が保証されているわけではないし、試さなければならないこともある。この場に緊急停止ボタンを押せる人間があいつしかいないからと言って、あいつが行かなければならない理由はないんだ。できるなら、たすけてやってくれ」
オペーレーターの声を緋翠は背中で聞いた。
「認めたいわけではないですが、私はやるべきことをやっていきましょう」
風待・葵(電子の護霊・h04504)は実験棟のシステムに潜り込むとシステムの解析を始める。すぐに実験棟の見取り図が手に入り、戦闘機械群が侵入している区画を特定する。葵は該当区画の温度コントロールシステムにアクセスすると、内部の温度を上昇させる。
「デイベルさんは耐熱装備でしたっけ。でしたら、極端でない温度上昇は問題ないはず」
まず炉心から離れた場所の温度を上げ、戦闘機械群が熱暴走するように仕向ける。センサーが使えなくなった戦闘機械群達は近くにいる味方を敵だと勘違いして同士討ちをはじめた。しばらくすると動いている戦闘機械群はいなくなっていた。後は炉への道を塞いでいる個体を無力化するのみだ。
クインリィ・ティアロック(運び屋・h07917)は隔壁内に侵入してデイベルの護衛をしていた。やはり炉心近くに戦闘機械群が集まっているようだった。システムウェポンセットで戦闘機械群を注意深く撃ち抜きながらクインリィは考える。
(このご時世に核融合炉が実用化出来れば大勢助かる。デカい街になりゃお得意様になるかもしれねえ。だったら答えは一つだろう?)
展開したドローン達が見つけた敵や崩れた通路を避けながら最短で制御室を目指す。そこに現れたものがいた。
「やっと追いつけました。デイベルさんですね。護衛とお手伝いに来ました。青木緋翠と申します」
緋翠はそう言うと、技術革新で耐熱スーツを強化すること、スイッチを押すと同時に冷却液を放出することをデイベルに提案する。
「未来の技術ってことになるのか。魔術の入ったフロッピーディスクで? それはまた、古いのか新しいのかわからねえな。でもあんた、腕は確かそうだ、ここまでどうやって来たかを見ればわかる。丁寧に設備を傷つけないように問題がある部分だけを壊してやって来たな。だから時間も少しかかったってわけだ。それにしては早い、ならあんたは腕利きだ」
頼もう、とデイベルは言った。制御室まではあと少し、だが大型の戦闘機械群がその場所へ行けないように足止めしていた。時間は少しある。
「機械群の冷却装置をハックします。機械群が止まるまでこの区画の温度を上昇させるので気をつけてください」
葵はそう言うとその多脚型の戦闘機械群にハッキングを仕掛ける。冷却機構を止められた戦闘機械群は周囲が揺らぐくらいの高熱になり苦しそうに脚を揺らした。
「よし、後は俺に任せろ」
クインリィが動きの遅くなった戦闘機械群に狙いを定める。制御用のメインチップをきれいに撃ち抜くと戦闘機械群は動きを止めた。
「熱暴走……怖いですよね? では区画のシステムを最大冷却に設定します。後は頼みました」
葵の通信が終わると、制御室の温度が一気に下がった。制御室に入る前にクインリィが訊ねる。
「デイベル、遠隔操作のドローンでスイッチを押せないか? 俺はサウナが苦手でね」
デイベルはその申し出に首を横に振って答えた。
「それができるならここまで来なくても済んだんだ。生体認証システムがあるんだ。それに設定されているのは俺を含め3人だけ。だから俺が来た。家族には悪いが逃げ遅れたヤツらを見殺しにするわけにはならないだろう? でも、そう言ってくれるのは嬉しい。あんた達は逃げてくれ」
緋翠がゆっくりと進み出た。
「俺が電磁バリアで熱エネルギーを反射・遮断しつつ、自動修復を使うことで、デイベルさんを護ります。」
「炉心が爆発するわけじゃないが、それでも行き場を失った熱が一瞬このあたりを覆うんだ。俺を助けられたとしてあんたは死ぬぞ。それに俺も死ぬかもしれない。だとしたら無駄死にだ」
緋翠はデイベルを安心されるように笑顔を作って言う。
「大丈夫です、俺は記憶を共有するタイプのレプリノイドですから、端末が1つ壊れる程度のことです。試す価値はあります」
「……わかった。頑固だな、気が合いそうだ。俺が生きていたら、あんたの別端末と酒でも飲もう」
制御室に入るとデイベルはメインのコンソールの奥にある赤いパネルを睨み付けた。生体認証システムが起動して緊急停止スイッチがあらわになる。デイベルがボタンに指を乗せるとボタンが白く光る。認証しましたと合成音声が告げるとデイベルは一気にボタンを押し込んだ。シュー、と言う音が響く。警告音など鳴らない無音の部屋の中で、緋翠とデイベルはその時を息を凝らして待った。
デイベルが頷く。耐熱スーツのスイッチを押すとスーツ内を冷却液が巡りはじめる。一瞬の沈黙の後、ゴォォと言う空気の爆ぜる音が響いた。灼熱の空気が制御室内に入り込み室内の気温が1000℃を超えてはるかに高くなっていく。緋翠の張った電磁バリアが熱を反射する。デイベルの周囲の空気の層さえ守れればいいのだ。電磁バリアが気体分子を足止めし続けることができればデイベルの命は繋がれるだろう。
「……死ぬのは初めてなので、少し怖いですが少し楽しみです」
緋翠が焼け焦げてきた自分の体を見ながらデイベルには聞こえないように呟いた。
(俺は死にますがAnkerは自宅にありますので問題ありません)
緋翠の体が燃え尽きる頃、熱は収まった。その横には表面が溶けた耐熱スーツがあった。
第2章 日常 『昇進祝い』
「まったく、無茶なヤツらだ。おかげで生き残っちまったぜ。2階級特進だと思ったんだけどな」
デイベルは火傷を負ったものの命に別状はなかった。2階級ではないが実験炉の暴走を止めた功績で昇進することになった。すぐに昇進祝いのパーティが開かれデイベルは家族と再会した。娘は笑顔だったが妻は喜びと怒りで泣きながら怒った。
パーティはまだまだ続く。戦闘機械群が再びやって来るまでにパーティを楽しむ時間はあるようだ。デイベルと話をしてもいいし場を盛り上げるために何か披露してもいいだろう。もちろん、パーティに出ている√ウォーゾーンにしては豪華な食事にありつくのもいいだろう。
ホールに用意されたのは合成じゃないビールにワイン、未成年のためにコーラやオレンジジュース。肉も大豆ミートではなく鶏肉。さすがに牛や豚はなかったがこの√の事を考えれば普段ならないくらいの豪華さだった。コックらしき男が笑顔で話している。
「全部吹き飛ぶはずだったんだ、出し惜しみしてもしょうがないだろ? なあ、デイベル。お前は吐くまで飲んでいいぞ!」
「そうしたいところだけどな。こいつに泣かれたら羽目をはずすのもな」
デイベルがまだ目を腫らしている妻に向かって言った。
「わかってるのよ。私達を助けるためだって。でもね、あなたがいなくなった時のことを思うと……。もう、酔い潰れなさい。二日酔いになるといいんだわ」
悲しそうにした後に急に怒りだしてデイベルの妻が言った。そこにスマートグラスをかけた青年が近づいてきた。
「先ほどぶりです、デイベルさん。ご無事そうで何よりです」
青木・緋翠(ほんわかパソコン・h00827)は笑顔でそう言った。
「本当に無事なんだな。まあ、体は違うんだろうが。で、大丈夫なのか?」
「俺の方も問題ありません。街の方々も喜んで……泣いている方も、喜んでおられるのですよね? すみません、悲しんでいるかどうかを把握するのは少々苦手です」
緋翠はデイベルの妻を見ながらそう言った。悲しみが欠落している緋翠は他人が悲しんでいるかを知ることは少し苦手だったからだ。
「そうか、得意不得意はあるよな。……そうだな、人間ってのは面倒なもんだろ? 嬉しくて悲しくて腹が立ってるなんてたまにはある事だ。俺はできる男だからな、一度にたくさんの感情をプレゼントするのもわけないのさ」
デイベルが肩をすくめながら言うとデイベルの妻がデイベルを軽く小突く。
「こんなに腹が立つのも生きてるからなんだけどね。うれしい、うれしいよ。でももうちょっと無理しないで欲しい。向こう見ずなんだから!」
「まあ、こんなもんだ。で、どうする? 約束したろう、いっぱいやろうってな」
デイベルの提案に緋翠は笑顔で答える。
「ご一緒します」
クローンを呼び出して街の補修をしていたクインリィ・ティアロック(運び屋・h07917)がホールに着いた時、ホールをかわいいイルカが泳いでいた。緋翠が余興と言って呼び出したのだった。イルカはキュキュッと鳴きながらこっそり超音波を出して敵の気配を探っていた。
「天然物か、豪華だな」
クインリィはローストチキンを囓りながらデイベルに近づく。
「よお、無事だったみたいだな。……少し聞きたい事がある。デイベル、核融合炉の事故は偶然だったのか?」
「おかげさまでな。……それは、どう言うことだ? たしかに臨界実験で事故の可能性はあるが、ほとんど大丈夫な範囲のはずだった」
「炉の近くには戦闘機械群もいた、余りにも出来過ぎじゃないかって思ってね」
クインリィは星詠みから聞いた話を踏まえて言った。
「たしかに。あいつらが都合良くいた理由がわからない。あの区画は厳重にロックされているし、警戒も最大限だ。でも、暴走を狙ったところで誰も得はしない。奪った方が役に立つ、特にエネルギーが必要な戦闘機械群は」
「この後に戦闘機械群がやって来るのかもな。小難しいことを考えるヤツらもいるようだからな」
クインリィがそう言うと、緋翠も懸念を伝える。
「核融合炉までの道に戦闘機械群がいました。と言うことは感知されたかもしれませんので、警戒をお願いします」
それを聞いた警備担当者が警戒を強めるように連絡する。緋翠がイルカが手に入れた情報をクインリィに渡す。街の中にまだ戦闘機械群らしき反応がある、それはこちらにゆっくりと近づいている。
「折角無事に帰って来た所、敵の奇襲で台無しにされたらたまらねえ」
クインリィはそう言うとクローンを連れてあたりを調べるために出て行った。
「今度はこっちから仕掛けてやるよ」
クインリィは不適に言い放った。
第3章 ボス戦 『心と可能性を探求する者』
その戦闘機械群、 『心と可能性を探求する者』は少し変わっていた。論理を越えたもの、心と感情の可能性を探っていた。これもまたそのための実験なのだった。
「今回も貴重なデータが取れました。あなた方には感謝します。自分の身を顧みずに行動する姿、実に興味深いですね。心に負荷をかけない時よりも大きな事を成し遂げる。これで一つ真理に近づくことができました。我々に必要な物は感情か、心か、それを凌駕する力か。完全は不完全によりなし得る、では完全は自己矛盾でしかないのか」
心と可能性を探求する者は太刀を抜くと殺気を放つ。
「語りすぎました。あなた方なら戦うに値する。その価値を確かめるに値する。私も今だ道すがらですが、相手をしていただけないでしょうか」
すぐに戦いを始めなければ心と可能性を探求する者は√能力者達がその気になるまで死と破壊をまき散らすだろう。
パーティの会場からしばらく歩いたところ、大きな通りの真ん中に『心と可能性を探求する者』は立っていた。√ウォーゾーンの無機質な街並みが広がる中、心と可能性を探求する者はやって来た√能力者に向き直る。
「依頼の場所についたよ、マスター」
第四世代型・ルーシー(独立傭兵・h01868)の乗るWZがそう告げた。ルーシー専用にチューニングされたWZ、ブッタは軽量機体故の機動性を生かした接近戦闘が得意だ。ルーシーは間合いを計ると心と可能性を探求する者へと一気に肉薄する。ルーシーのパルスブレードと心と可能性を探求する者の太刀が合わさり火花が散った。
「迷いがないですね。まるで全てを知らないかのようです。その在り方、興味深い」
「再度間合いを詰め斬りかかる」
心と可能性を探求する者の言葉を遮るかのように再びルーシーの機体がバーニアを吹かす。肩口から体当たりするように飛び込むと心と可能性を探求する者も両手の太刀を交差するように振り下ろす。ガリガリと装甲を削られる音の後、パルスブレードが心と可能性を探求する者の肩に食い込むギリギリという音が響いた。
「早いですね。その反応速度、驚くに値します」
心と可能性を探求する者の感嘆の声があたりに響いた。
『心と可能性を探求する者』が現れる少し前、ビューノーの様子を調べている者がいた。 風待・葵(電子の護霊・h04504)は街中に飛ばしたドローンからの情報を解析していた。核融合プラントの方角に突然現れてこちらに向かう反応がある。
「パーティは柄じゃないんで、準備だけ進めてたんですが……さて、どうしましょうか」
葵は当該の方向に機雷を撒いて時間を稼ぎながら次の手を考える。
「放っておけばここら一帯がブッ壊されるってか……やらせねえよ」
クインリィ・ティアロック(運び屋・h07917)はそう言うとジェネレーターの出力を上げる。エネルギーバリアを展開し光剣を抜き放つと一足飛びに心と可能性を探求する者に迫る。突き出した光剣を心と可能性を探求する者は身を翻して避けるとクインリィに向けて太刀を振り下ろす。クインリィはそれをステップを踏んで間一髪で躱すと不敵に笑った。
「……見えない剣なのか、あれは?」
腕の軌道からその剣戟は予想できると言え、躱し続けるのは難しいだろう。クインリィは距離を取ると突撃銃を構える。と可能性を探求する者に近づかれないようにバラバラと銃弾を放って牽制する。
「迂闊に近寄れば相手の思うまま……それだけは避けねえと。恐らくは空間引き寄せでこっちの武器を引き剥がすか、俺自身を直接狙ってくるだろう」
クインリィは次の一手を冷静に考える。
「人間がすごい、という点には全面的に同意します。ですが、だからこそ敬意をもって接するべきでしょう。少なくとも、意図的に追い込んで反応を観察するようなやり方を許すわけにはいきません。みなさんきっと、悲しみますからね」
青木・緋翠(ほんわかパソコン・h00827)が穏やかな表情で言った。
「敬意ですか、もちろん私は人間に敬意を払っている。ただ、その悲しみを学びたかった。あの方は本来ならば死ぬはずだった。自己犠牲とその結果の悲哀、それこそが私が見たかったものです。死ぬ覚悟によって導き出される力と、残されたものの悔恨。強い心の力を見るにはいい状況です。ですがそうならなかった、デイベル氏はあなた方の協力により生き残った。500%は死ぬはずでした。その可能性を覆したあなたに私は興味があります」
心と可能性を探求する者はそう言うと緋翠をスキャンしはじめる。演算装置が高速で機能しその行動原理を見極めようとするが、緋翠が引き起こした震動がそれを中断させる。
「隙を作るのに私一人では手数が足りなさそうだと思っていたのですが、これならいけそうですね。では、足元崩しに徹しますか」
そこに葵のドローンがワイヤーを飛ばす。脚が絡め取られた心と可能性を探求する者は状態の力だけで棒手裏剣を飛ばす。棒手裏剣に込められた光剣の力が葵を襲うが、緋翠の飛ばした光ディスク光を反射させながらそれを弾く。光ディスクは周囲を跳ね返りながら心と可能性を探求する者からの攻撃を遮り続ける。
「相手はあんな頭でっかちの自信家だ。たいしたことねえ!」
クインリィが再度光剣を掲げて突進すると、心と可能性を探求する者はインビジブルを太刀に纏わせる。不意にクインリィの速度が上がった、心と可能性を探求する者がその力でクインリィを引き寄せたからだ。心と可能性を探求する者はその勢いでクインリィの光剣を弾き飛ばす。そしてその無防備な胸へ太刀を突き立てようとする。
「うまく行ってくださいよ……!」
心と可能性を探求する者の胸で爆発が起こったのはその時だった。葵が投げつけたグレネードがしっかりと心と可能性を探求する者を捕らえたのだった。爆風で腕が弾かれている間に緋翠が心と可能性を探求する者の腕をかち上げる。ぽっかりと空いたその場所へクインリィが燃え盛る拳を叩き込んだ。頭を吹き飛ばされ心と可能性を探求する者が仰向けに倒れる。
「どうだい、感情の味って奴はよ?」
「興味、深い。私が感情を手に入れることができれば、あなたとも渡り合えることができるのでしょうか。……しかし、良いデータが取れました。あなた方には感謝しています。またお会いしましょう」
心と可能性を探求する者はそこまで言うと動かなくなった。
やって来たデイベルにクインリィが言った。
「どうだい? 俺は役に立つだろう。何かあったら頼ってくれよな」
「あんたらは命の恩人だ。それに実験炉の修理にも物資がいる。何か仕事があったら優先的にお願いするように言っておくよ」
葵はまだ何か無いかドローンを飛ばして警戒していたがあれが最後の戦闘機械群だったようだった。ドローンに手を振らせるとゆっくりとドローン達を帰還させた。
「無事で良かったです。悲しむ人がいなくて良かった」
そう言う緋翠の手をデイベルはがっちりと握った。
「あんたのおかげだ。あんたの無茶が俺を助けてくれた。おかげでまだ家族にも会える。まだあいつの怒る顔を見れるのは嬉しい。何かあったら力になる。いつでも訊ねてきてくれ」
その言葉に緋翠はいつものふわりとした笑顔を見せた。