静けき運命の足音
夏期講習を終えた昼下がり。
新貴は見慣れた町のビルの隙間に、薄暗く湿った、別世界への道ができていることに気がついた。
同じ時刻のはずなのに、その路地裏には陽の光があまりない。遠くで点滅する赤と青の自販機に照らされて、室外機や配管の群れが、樹冠のように空を覆う様が見えた。
どこか不吉な光景――新貴は、どこか見覚えがある気がしてそこに入り込んだ。排気孔から垂れ流される生ぬるい風が、嫌な具合に頬を撫でる。
「|ちょ……それ、マジで言ってます?《No...way! Are you serious?》」
「!」
何者かの声を聞き、新貴は大きな配管の裏に隠れた。バルブの隙間から曲がり角を覗くと、ハンズフリーで通話する、キャスケット帽の若い男が立っている。
その男の横顔は、失望に歪んで見えた。帽子から僅かに見える横髪は金色で、その左目は青い。この湿気の中、チェック柄のチェスターコートに身を包む姿は、いかにも怪しげだった。
男は、煩わしげに体を揺らしながら話を続け、新貴は辛うじてそれをリスニングできた。
「じゃあ、お上はこれを廃棄しろって? わざわざ日本くんだりまで来たのに? 災厄が誘致されるリスクって……そんな弱腰だから予算を食い潰されるんです、あのリンドー・スミスに! アイツ寿司でも食ってんすか? いやいや、今のは失言……あ、ちょっと!」
通話を切られたのか、男は唇を噛んで壁を見つめた。そしておもむろに、指先ほどの何かをコートから取り出して、か細い日光でそれを照らす。
――模様の付いた布きれ、に見えた。青い地に、白く不定形な柄のものだ。
男はそれを口惜しげに眺めた後、コインのように指先で弾いた。予想に反して、かつん、と硬い音が響く。
男が反対の方向に去っていくのを見届けてから、新貴は捨てられたそれを摘まみ上げた。よく見ると、見覚えのある形状をしている。
「銃、弾?」
それは発射されて潰れた、銃の弾頭だった。口径は新貴のものと同じだ。
銃弾は、飛翔中に何かを貫いたのだろう。白い花弁のような模様の青い布地を纏い、熱でそれが焼き付いている。
新貴は――時おり感じる別√の自分の記憶が、その銃弾にも宿っている気がした。
「……これは俺の遺品、なのか?」
いつか、その顛末を思い出す時が来るのだろうか。僅かに感じた頭痛に不安を覚えながらも、その【遺留品】を手に、新貴は路地を後にした。