ヒーローからのクリスマスプレゼント
●クリスマスのヒーローショー
「ジングルベールジングルベール♪」
子供達が流れる定番のクリスマスソングに合わせて機嫌に歌い、クリスマスマーケットが行われている場所に集まっている。
そこにはステージが作られ、子供達が大好きなヒーローショーが行われようとしていた。
「あ! 始まるよ! マスクド・ヒーローだ!!」
勇ましい音楽が流れステージにマスクド・ヒーローが登場する。それは本物ではなくショーの役者であったが、会場は子供達の歓声に包まれた。
そうして舞台が進み、子供を攫おうとする悪の怪人が現れた。
「来い! 悪の怪人め! このマスクド・ヒーロー『ソニック』が退治してやる!!」
「フハハハハッ! 貴様など我が戦闘員で十分だ!」
「クキィーーーー」
悪そうな怪人が命じると、奇声を上げる黒タイツの戦闘員達が現れてヒーローを囲む。
「ソニックキック!!」
だがソニックが大立ち回りをして戦闘員をやっつけていく。
「ソニックがんばれー!」
「怪人なんてやっつけちゃえー!!」
子供達の声援を受け、ソニック役の中の人も気合が入りキレキレの演技をしてみせた。
「キィ! ……いってぇ……」
「おい、喋るなって……キィーー!!」
やられた戦闘員がよろよろとステージから下がっていく。
「フハハハハハハッ! いくら戦闘員を倒そうと、この俺様、怪人『ビッグターキー』は倒せん!!」
怪人がばさっと七面鳥をイメージした翼を広げた。
「いいや、子供達の声援がある限り、オレのスピードはどこまでも速くなる!!」
ヒーローと怪人の一騎打ちが始まり、熱の入ったアクションが繰り広げられる。
「さあ、みんな! もっと応援してオレに力をくれ!」
「ソニックがんばれー!」
「悪い怪人に負けるな―!!」
「よし、みんなの力を……おい、何をしてる?」
ソニックが力強い子供達の声援を受けてパワーアップしたところで、ステージにぞろぞろとやられたはずの戦闘員達が上がってきていた。
「キィイイイイ!!!」
「どうした? うわっ!?」
戦闘員が襲い掛かり、ソニックを袋叩きにしてしまう。
「ソニックー!」
「がんばってー!!」
子供達の声援も虚しく、ソニックはボロ雑巾のようになって動かなくなる。
「キィキイイイイイイ!!!!」
止まることなく戦闘員達はステージを降り、今度は子供達に襲い掛かって捕まえていく。
「きゃー!」
「やー! たすけてー!!」
「誰か助けて! 誰か……ヒーローはいないの!!」
楽しいクリスマスのイベントは、一変して阿鼻叫喚の悪夢と化した……。
●星詠み
「√マスクド・ヒーローで子供達が誘拐される事件を予知しました」
星詠みの神谷・月那(人間(√EDEN)の霊能力者・h01859)が√マスクド・ヒーローで事件が起きると√能力者達に報せる。
「事件が起きるのは東京の墨田区で行われているクリスマスマーケットで、イベントの一環としてヒーローショーが行われているようです。そこに悪の組織の戦闘員が現れ、子供達を誘拐しようとしているようです」
突然現れた戦闘員がショーに乱入し、子供達を連れ去ってしまう。
「皆さんにはそれを阻止してもらいたいのです。不幸中の幸いにも、事件が起きるまで時間があります。皆さんには役者さんの代わりにヒーローショーに立ってもらい、ステージを盛り上げて戦闘員が現れるのを待ち構えていただきたいのです」
戦闘員に襲われては役者も死ぬような怪我を負って危険だ。ならば最初から√能力者が入れ替わってしまおうという作戦となる。
「ヒーローでも怪人でも、戦闘員でも一般人でも、何役でも構いません。悪の組織が乗り込むステージで待っていられればすぐに対処できます」
人手が足りなければ役者の方々にも手伝ってもらうので、敵が襲ってきた時には逃げるまで守ってあげる必要がある。
「ただショーが盛り上がらなくては怪しまれるかもしれません。ですのでしっかりとヒーローショーを演じて、悪の組織が予知通りに現れるようにする必要があります」
内容は何でも構わないが、とにかくショーとして盛り上げ、敵の標的である子供達が帰るようなことは避けねばならない。
「もしショーが盛り上がらなければ、悪の組織はヒーローの介入を怪しんで、強い怪人を送ってくるかもしれません。ですので全力で子供達を楽しませてあげましょう」
ヒーローが居ると予想されると、戦闘員ではなく怪人が送り込まれる可能性もある。リスクを下げる為にもショーを盛り上げたい。
「戦闘員を返り討ちにすれば、指揮官である悪の組織の改造人間『デュミナスシャドウ』が現れるようです。ヒーローを倒して子供の誘拐を継続しようとするので、必ず倒して事件を解決しましょう」
指揮官である『デュミナスシャドウ』を倒せば、事件は無事解決となる。
「クリスマスでもヒーローの方々は休む暇もないようです。ですがその活躍のお蔭で平和が守られているのですから、ヒーローは世界中に平和をプレゼントするサンタのような存在なのかもしれませんね」
きっと今年のクリスマスも|ヒーロー《√能力者》の手によって平和が守られるだろうと、月那は微笑んだ。
第1章 日常 『ヒーローショーをしよう!』

●真・ヒーローショー
「クリスマスイベントで誘拐を企てるだなんて……」
本物のヒーローである|兵藤・空《ひょうどう・そら》(終焉を告ぐ・h00405)は子供達が楽しみにしているクリスマスを台無しにする悪の組織に怒りを覚える。
「ある意味悪の組織らしいといえばらしいですが、子供達の笑顔は奪わせません。協力させていただきます」
『正体を隠す』目的でマスクを着用し、ヒーロー役でショーに出演することにした。
「ヒーローショーにホンモノが混ざるなんて!」
|花丘《はなおか》・ありす(ありす・イン・ワンダー√・h00811)も悪の組織の悪辣な作戦に憤る。
「ヒーローさんがやられちゃうなんて絶対ダメなのっ! 観てるみんなのためにも、ありす達ががんばらなきゃ!」
ヒーローは子供達に希望を与えるものでなくてはならないと、悪の組織の企みを阻止しようと意気込む。
「とはいえ、 ありす はどーしよーなの……悪役もヒーローもむずかしそー……」
ヒーローショーに出ることになるが、どの役も難しそうだと考え込む……。
「ぁ、お芝居の中で人質になる役ならできそうなのっ!」
そして主演が無理なら脇役になればいいと思い付き、パッと顔を輝かせてステージに向かった。
「多分怪人役ならできると思う……」
トウテツ怪人である|天神・珠音《あまがみ・たまね》(どこにでもはいないトウテツ・h00438)は怪人役なら自分でもできそうだと、子供達を助ける為にショーに出ることにした。
「わたしはちょっと角が気になるけど……怪人って設定なら多分大丈夫だと思う」
大きな角も怪人役ならば問題にはならない。そう思ってスタッフの集まっているところに向かう。
「怪人役をやってもらえるんですか? それは助かります!」
「もう役作りしてきてくれたんですね! ありがとうございます! こっちも出来る限り協力しますんで!」
問題どころか適役として珠音はショーに迎えられた。
「おーい! 準備はいいかー?」
「警備の方はしっかりとねー!」
スタッフは本物の怪人が現れると聞かされ、何とか被害が出ないようにと懸命に準備を行っていた。
「ヒーローショーとはどういう催しなのだろうか……」
初めて聞く言葉に、外星体であるアスク・リーヴスラシル・ブレイザブリク・アルトラ(遠く輝く星への誓い・h02729)は事前に少しばかり情報を調べる。
「なるほど、ヒーローを主人公とした演劇の一種。超越的に興味深い催しだ」
ふむふむと頷き、役を演じる演劇というものに興味を持つ。
「地球人がヒーローに願うものについて知ることができるかもしれないね」
自らも体験すれば、より多くの情報を得られるだろうと、√能力『|我が友はかく語りき《ザークト・マイン・フロイント》』を使用し、20代のドイツ人男性――融合したボディの「青年期のエリアス」に変身してショーに参加する。
(騎士を主人公にした物語は多いと聞く。であれば、地球の文化に疎い我でも騎士らしい言動をすればそれらしく見えるのではないかな)
アスクがどんな役をすればいいだろうかと考え、騎士をイメージしてそれっぽい仮装を用意してもらい舞台に立つことにした。
そうして各々が役割を決め、√能力者と一般のスタッフが協力しヒーローショーの幕が上がる――。
「わー、がおー、たべちゃうぞー」
珠音が怪人としてステージに現れ、手を大きく上げ、口を大きく開いていかにも食べちゃうぞーっとアピールする!
「そこの子たちがとてもおいしそうだぞー。わー、こっちにこーい」
小さい男の子とその横に仕込みで座っていたありすに微笑みながら呼び掛ける。
「ボク?」
「ありすもなのっ?」
「わー、そうだぞー。こっちにこーい」
珠音が大きく頷いて手招きする。すると男の子とありすが立ち上がり、ありすは戸惑う男の子の手を繋いであげて一緒にステージに上がっていった。
「わー、がおー、おいしそうだぞー。たべちゃうぞー」
「た、たべられちゃう!」
「ピンチなのっ!」
男の子とありすがピンチだと怖がるような演技をみせる。
「みんなでヒーローを呼ばないと大変なことになっちゃうぞー」
そう言って珠音が男の子とありすを怖がらせるように両手を広げ、客席に向けて大きく手を振った。
「たすけてヒーローさーーんっっ!!」
「たすけてー! ヒーロー!」
ありすが大きな声で助けを求めると、男の子も大きな声を出す。
「「たすけてー!! ヒーローー!!!」」
すると観客席の子供達も真似て大きな声でヒーローを呼んだ!
「待つんだ!」
そこへ颯爽と空が仮面をつけたヒーローとして登場する。
「フィナイト、参上。悪事を企む者よ、あなた達はここで終わりです」
ヒーロー『|Finight《フィナイト》』を名乗ってカッコいいポーズを決めた!
「がおー、せんとういんのみなさーん」
「「クキィーーーー!!!!」」
珠音が舞台裏へと声をかける。すると奇声を上げて黒タイツの戦闘員達が現れた。
「悪者が何人いようと、正義の前には同じことです」
フィナイトが『錬金術』で圧縮銃を生成して構える。
「銃だ! 手にぱぱって銃が出たよ!」
「わぁっ! カッコいい!!」
その魔法のようなアクションに子供達が歓声を上げる。
「この正義の一撃を受けなさい」
戦闘員役のスタッフが怪我をしないように即席で生成したスポンジ弾を放つ!
「クキィーキィッ!!」
「クキキィーー!」
それを受けた戦闘員の皆さんが見事なやられ演技で倒れていった。
「クキィーーー!」
だが戦闘員も負けじと反撃に出る。それを華麗なステップでフィナイトが躱し、さまざまな体勢から銃を放ち魅せるアクションで倒していった。
「すっげー!!」
「フィナイトーがんばれー!」
夢中になった子供達が夢中になってフィナイトを応援する!
「わー、がおー、こうなったら、こどもをひとじちにするんだぞー」
「クキィーーー!」
困ったという風に頭を大きく揺らした珠音が戦闘員に命令すると、戦闘員達がステージに上がっている男の子とありすを人質にする。
「わー!」
「きゃー! 助けてー」
二人がわざとらしい悲鳴を上げ、さらなるピンチを演出していた。
「待つがいい!」
そこで騎士っぽい姿をしたアスクが堂々と姿を見せ、戦闘員と相対する。
「弱い者を労る気持ちを忘れるなど……それでも人間か!?」
「キィーー!」
戦闘員たちに説教するように語りかけると、戦闘員が効く耳を持たず身構えて奇声を発した。
「我が正義の心が貴様を許すなと言っている……我が騎士道を阻むのならば、容赦はしない!」
小道具の剣を抜き放ち、ささっと移動しながら一閃する。すると戦闘員達がバタバタと倒れた。
「子供の安全はこのナイトヒーローである私が守る!」
そう言って男の子とありすを背に守った。
「ナイトヒーローもかっこいい!」
「ほんとだね! 騎士っていいよね!」
新たなヒーローの活躍に子供達が歓声を上げた!
「わー、ぴんちなんだぞ。なら、こっちもなかまをよぶんだぞー」
珠音が手を叩くと、スタッフが扮した新たな怪人が姿をみせる。
「フハハハハッ! この怪人『ビッグターキー』が協力しよう!」
七面鳥をイメージした怪人が翼を広げてフィナイトを薙ぎ払う!
「くっ」
フィナイトは苦しそうな声を上げてゴロゴロと舞台を転がった。
「新しい怪人だー!」
「フィナイトが! どうなるのー?!」
観客の子供達は思いもよらぬ展開に盛り上がる。
「そちらが助っ人なら、こちらも助っ人だ」
そんな声が響くと、新たなヒーローが現れる――。
「ヒーローが求められるならば、俺は必ず駆けつける」
新たなヒーローの|玄鉄・正義《くろがね・まさよし》(Avenge Justice・h03441)が舞台の真ん中に立つ。
「アヴェンジ・ジャスティス、推参」
そして名乗りを上げてヒーローらしいカッコいいポーズを決める!
(演技になると途端にやり難くなる辺り俺もまだまだなんだろう)
ポーズを決めながらも、正義は普段と違う舞台の上という場所に落ち着かないものを感じていた。
(そう考えれば子供達に希望を与える役者の皆さんも紛う事無きヒーローだ。彼らの命と誇りを守る為にも全力で演じるとしよう)
役とはいえヒーローを演じ切ろうと、アヴェンジ・ジャスティスとして怪人の前に立つ。
「フハハハハッ!! ヒーローが何体現れようと同じ事! このビッグターキーが叩き伏せる!」
ビッグターキーが舞うように翼を振るうと、アヴェンジ・ジャスティスは肉体改造で得た身体能力を駆使し、後方宙返りやきりもみスピン等の派手めなアクションを披露して躱していった。
「皆! 想いを声援にして俺に預けてくれ!」
そしてアヴェンジ・ジャスティスは会場の子供達に声をかける。
「俺は独りで戦っているわけじゃない。皆の想いと共に在るから、俺は悪に立ち向かえる」
それは演技として少し大袈裟に言ってはいるが、正義の本心だった。
「皆で一緒に悪の怪人に立ち向かうんだ!」
「ジャスティスがんばれー!」
「怪人なんかやっつけちゃえー!!」
子供達が熱い声援をアヴェンジ・ジャスティスに送る。するとアヴェンジ・ジャスティスの動きがスピードを上げ、ビッグターキーに反撃してよろめかせる。
「行くぞ! これがジャスティスキックだ!」
「ぐはぁっ……まさかこの俺様が………!!!」
ヒーローものっぽくジャンプからのキックを放ち、ビッグターキーは自ら後ろに吹き飛ぶようにして倒れた。
「わー、やられちゃったぞ。こうなったらわたしがみんなたべちゃうんだぞー」
「きゃーー食べられるー!」
「うわーーー!」
残った珠音が両手を上げて威嚇すると、ありすと男の子が悲鳴を上げた。
「みんな! 僕にも力を分けてください!」
よろよろと立ち上がったフィナイトが子供達に呼び掛ける。
「フィナイトが立った!」
「がんばれー! フィナイトーー!
「怪人を倒してー!」
声援に背中を押されるようにフィナイトがしっかりと立つ。
「みんなの気持ち、確かに受け取りました……これが僕の必殺技です。受けてみなさい!」
フィナイトが√能力『|属性弾錬成『雷』《ゾクセイダンレンセイ・カミナリ》』を発動し、雷のように銃弾を放ちダメージの無い演出でドーンッ!と爆発を起こした!
「わー、やーらーれーたー」
爆発が収まると珠音がバタンキューとやられ倒れていた。
「ヒーローさん、助けてくれてありがとうなのっ!」
「ありがとー! みんなすっごくカッコよかったよ!」
ありすと男の子がヒーローたちに感謝を伝える。
「「ありがとー!!」」
すると客席の子供達もヒーロー達に手を振って声をかけた。
盛大な拍手が起こってヒーローショーは大成功の内に幕が下りようとする。
だが、それに水を差すように、本物の悪の組織の戦闘員が姿を見せた――。
第2章 集団戦 『戦闘員』

●悪の組織『ブラックサバス』
「キィイイイ……ショーが盛り上がってるみたいだなぁ!」
「キキィ……ガキどもが喜んでるぞ! 誘拐してその顔を絶望に染めてやれ!」
本物の悪の組織の『戦闘員』が舞台に近づいていく。
「キィ! 我ら秘密結社『プラグマ』に属する悪の組織『ブラックサバス』が、本当の悪というものを教えてやる」
「キキィイ!! 笑顔には泣き顔を、喜びには嘆きを、希望には絶望を、世界の全てを黒き感情に染めてやるのだ!!」
ショーを台無しにして子供達を誘拐しようと、悪の組織『ブラックサバス』の戦闘員が動き出す――。
だがそのステージに待ち構えているのは一般人の役者ではなく、子供達を守るべく集った本物ヒーロー……√能力者だった。
●本物のヒーロー
「役者……じゃない! 本物の悪の組織だ!!」
「逃げないと!!」
本物の戦闘員が現れると会場が騒然となる。
「落ち着いて! 避難誘導に従ってください!!」
事前に知らされていた役者や警備のスタッフだけはすぐに対応して動き出す。
「戦闘員が来たということは、幸い、僕達ヒーローの介入には気付かれていないようですね」
|Finight《フィナイト》の姿のまま、|兵藤・空《ひょうどう・そら》(終焉を告ぐ・h00405)はステージの上で現れた本物の戦闘員を観察する。
「このまま子供達を悪戯に怯えさせることなく、守り抜きたいものです」
子供達の元には行かせないと立ち塞がり、『錬金術』でさっきの玩具とは違い、実弾を錬成し【錬成圧縮銃】に素早く装填する。
「子供達の笑顔を、希望を奪わせはしない。アヴェンジ・ジャスティス、改めて推参」
|玄鉄・正義《くろがね・まさよし》(Avenge Justice・h03441)が改めて名乗りを上げる。
「皆、何も畏れる事は無い。俺達が君達を必ず守る。だから俺達を信じて想いを預けてくれ」
「ヒーローが守ってくれるって!」
「がんばってー!!」
子供達が勇気を出して声援を送る。
「キィッ!! ヒーローごっこをまだ続けるつもりか?」
「キキーー! 馬鹿め、本物の悪の組織にショーが通じるはずがあるまい!!」
戦闘員はショーの役者など早々に蹴散らして子供を攫おうと足を踏み出した。
「簒奪者相手に手加減は不要です」
「その通りだ。子供を狙うならば容赦はしない」
フィナイトが弾道計算も駆使して誤射を避け、戦闘員の足元へと銃口を向けて引金を引き、正義も同じく素早く狙いを付けて発砲し、銃声を響かせて弾丸を撃ち込んだ。
「キキィッ?」
「本物の銃だと!」
驚いた戦闘員の足が止まり警戒する。
「迂闊に子供達に近付けばハチの巣だ。その覚悟があるなら進むが良い」
正義が敵を脅し、今度は胴体を狙う。
「ここに集ったヒーローみんなで、悪の野望を打ち砕きます!」
まるでヒーローショーの続きのようにフィナイトが宣言し、銃口を戦闘員に向ける。
「キィー!! 本物のヒーローがショーに紛れ込んでいたのか?」
「なら倒して子供を攫うまで! 多勢に無勢だぜ!! キキキィィ!」
12体の新たな戦闘員の部隊が現れて、数の力で圧し潰そうと動き出す。しかしその集団の動きは鈍い。
「さて。敵の数は多いものの、反応速度はそれ程でもないようですね。ならば纏めて吹き飛ばしてしまいましょう」
数は増えても敵の動きが鈍ったのをフィナイトは見逃さず、今一度、√能力【属性弾錬成『雷』】を発動して雷の魔弾を発射して、敵の中央で大爆発を起こし纏めて吹き飛ばした!
「「キィーーーーー!!!!」」
奇声を上げて薙ぎ倒された戦闘員達はビクビク痙攣して動かなくなる。
「キィイイ!! よくもやってくれたな!」
「だがそれほど強力な技、何度も使えまい! キィーー!!」
仲間をやられた戦闘員がさらに数を増やして攻撃後がチャンスと襲い掛かる。
「この技は攻撃だけではありません。仲間を援護する効果もあります」
「敵の増援か……しかし数だけ揃えても無駄だ」
ジャスティスが帯電して強化されスピードを上げて移動し、残像を纏って敵を惑わしつつ誘導する。
「こいつっ! 速いキィ!!!」
「キィイイ! 当たらない!! ちょこまかと!」
戦闘員が攻撃するが反応速度が半減している状態ではナイフも銃弾も掠りもせず、知らず知らずに一カ所に集められていた。
「行くぞ、これが俺の必殺技だ」
ジャスティスがライダー・ヴィークルに跨ると加速し、√能力『ライダー・キック』を発動してヴィークルから高々と跳躍してきりもみ回転を始める!
「馬鹿め! そんな大技が当たるものか!!」
その攻撃から戦闘員が逃げようとする。
「技の影響で俺の命中率も下がっているが、今はお前達の反応速度も半分だろう? 容易に逃げ果せられるとは思わない事だ」
構わずジャスティスが威力を高めて蹴りの態勢に入り、足に炎を纏わせる。
「キキィッ! 逃げ――ギィアっ!?」
戦闘員らが射程から逃れようとするところで、その脚が撃ち抜かれた!
「ヒーローは一人で戦っているわけではありませんからね」
銃を構えたフィナイトが戦闘員の回避行動を妨害する。
「お前ぇ!! ゲェッ――!!」
罵声を浴びせようとする戦闘員にジャスティスのキックが炸裂し爆発を起こす!
「「キィィイイイイイイイイ!!!!!」」
その衝撃は周囲の戦闘員も巻き込んでなぎ払った!
「これが、ヒーローの力だ」
着地したジャスティスが子供達を勇気づけるようにポーズを決めた。
「ヒーローだ! あのヒーローたちは本物のヒーローだったんだ!!」
子供達は目を輝かせ、ジャスティスとフィナイトに手を振った。
「キキィ!! 本物のヒーローがなんだ! 人質さえとればなにも出来なくなる!」
「そうだ! 任務を遂行するんだキィーーー!!」
戦闘員がぞろぞろと現れ、子供を攫わんと動き出す。
「さぁ、ここから本番――本物の戦闘員との戦いなのっ!」
楽しかったショーは終わりここから本番が始まると、|花丘《はなおか》・ありす(ありす・イン・ワンダー√・h00811)が一緒に演じた舞台の上の男の子を守ろうと背に守るようにして敵に視線を向ける。
「みんな――子どもたちを連れ去らわせなんて絶対にさせないの!」
そう言うと、√能力『トランプの兵隊』を発動して12体の攻性インビジブルのフレンズ「トランプ兵」達を召喚した。
「兵隊さん、おねがいなのっ!」
お願いすると、トランプ兵達は任せろとばかりに槍を掲げた。
12体のうち、10体が子供達やショーのスタッフらを守って避難誘導に当たる。
「きみもいっしょに逃げるのっ!」
ありすは男の子をそのトランプ兵に預ける。
「で、でもおねえちゃんは大丈夫なの?」
「まかせてなのっ! こう見えてもありすはヒーローのなかまなのっ♪」
心配そうな男の子にありすは笑顔を見せて安心させ、避難させていった。
「ガキどもが逃げるぞ!!」
「捕まえるんだ! そうすればヒーローも手出しができなくなる!」
戦闘員は子供を捕まえるのを優先しようとする。しかし残った2体のトランプ兵が槍を突いて迎撃しそれを阻む。
「みんなの方にはいかせないのっ!」
ありすは皆を守ろうと立ち塞がる。
「このガキを捕まえれば!」
戦闘員がありすに手を伸ばすが、その身体をトランプ兵の槍で貫かれた!
「こいつも√能力者か!!」
「無視して逃げるガキどもを狙え!!」
戦闘員が子供であってもありすは危険と判断し、ステージを飛び降りて子供を狙う。
「……本当の悪、黒い感情……。地球人の心を占めるのが、よき意志だけでないことは我も理解している。我が友エリアスは優しく勇敢な人物だったが、それでも負の感情を持たないわけではなかった」
人ならば必ず悪の心も宿しているのをアスク・リーヴスラシル・ブレイザブリク・アルトラ(遠く輝く星への誓い・h02729)は知っていた。
「だから我は、敢えてこう言おう。『ぼくは信じている。絶望が世界を塗り潰して閉ざしてしまうことはないと』」
人は決して悪の心に負けはしないと告げ、会場の外に待機させていたパトカー【ツークンフツリッター】を車両携帯から鎧騎士形態に変形させ、呼び寄せる。
「車がロボットになったよ!」
「すっげー! カッコいい!!」
観客である子供達を守るようにツークンフツリッターは敵との間に立ち塞がった。
「いまのうちなのっ! みんなを逃がすのっ!」
ありすが命じると、トランプ兵達が観客とスタッフをガードし離れた場所へと移動させていった……。
「では、こちらの番だ。|航宙格闘術《アストロエアガイツ》をご披露しよう」
これで子供達が安全になったと安心し、アスクは拳を構え迫る戦闘員と対峙する。
「キィッ!! 素手で俺たちとやるつもりか?」
「キッキキィイ!! 役者がヒーローのつもりか! 舐めるなよ!」
戦闘員が次々と手にしたナイフで襲い掛かる! しかしそれをステップで回避して√能力『|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》』を発動し、拳を顔面にぶち込んで吹っ飛ばした!
「ギゲェッ!!」
「キキィイイイイ!! やりやがったな!!」
「目を覚ませ等とは言わない。――倒れろ」
アスクは突き出されるナイフを腕を掴んで組み伏せ、拳を打ち下ろして頭部を地面に叩きつける。さらには衝撃波を放って次に迫る敵を仰け反らせ、その隙に踏み込んでストレートパンチをお見舞いして顔面を粉砕した!
練られた連続攻撃によって戦闘員達を叩きのめす。
「ば、かな、キィ…………」
「こいつもヒーローだというのか!?」
震えながらも戦闘員が銃口を向ける。
「人を助ける者をヒーローと呼ぶなら、我もまたヒーローにカテゴリされるだろう」
銃弾を避けながら踏み込むと、拳を腹にめり込ませ、前屈みになったところをアッパーで顎を打ち上げた!
「がふぁっ!!」
戦闘員が血を吐いてノックアウトされた。
「子供たちもみんな逃げたのっ! これであとは悪の組織をやっつけるだけなのっ♪」
ありすはステージ周辺から子供の姿がなくなったのを確認し、後は心置きなく敵を倒してしまえると仲間に伝えた。
「がおー、たべちゃうぞー……」
子供達が避難して見えなくなると、|天神・珠音《あまがみ・たまね》(どこにでもはいないトウテツ・h00438)が怪人らしくポーズを決めて戦闘員に声を掛ける。
「キィイイイ……怪人ごっこか? だが遊びは終わりだ!」
「キキィ……ここからは本物の悪の組織のお仕事だぜ!!」
その態度に戦闘員達は油断し、堂々と近づいてくる。
「……本当に楽しかったんだから。ヒーローとして、怪人としても小さい子を喜ばせることが出来たことが……それを邪魔することを、わたしは許せない」
子供達の相手をしてた時の事を思い出し、珠音は怒りを抱いて√能力『|消えない飢えで喰らい尽くす《アンリミテッドイーター》』を発動し、伸びた長い髪が巨大な口【饕餮の牙】へと変貌して無造作に近づく戦闘員の頭からぱっくりと噛みついた!
「あ?」
何が起きたか分からず、戦闘員の上半身が一瞬にして失われていた……。
「ひ、ひぃいいいいいいい!!」
仲間が食われたのを目の前にした他の戦闘員が腰を抜かす。
「ちょうどお腹が空いていて……我慢できない。食べなきゃいけないのは敵のせいだから……」
だから仕方ないのだと言い訳して、珠音は【饕餮の角】で敵が向ける銃を払い、髪が蠢いてさらに襲い掛かり、戦闘員が喰い散らかされる。
「ギャアアアアアアア!!!!」
片腕を失った戦闘員が悲鳴を上げ、残った手で通信装置を接続しようとする。
「ダメだよ……悪い事はさせないから……」
「アギェアアアアアアアアア!!! うぁっ――」
角で通信装置を貫くと、その手もぱっくりと食い千切られ、狂ったように叫ぶがすぐに声が止む。その頭も歯形を残して消えていた。
「キキィ!! 化け物! こいつ怪人じゃないか!!」
「何故怪人が人間の味方をする!!」
戦闘員達が珠音の異形を見て怪人だと決めつけて叫ぶ。
「怪人でも……人間の味方はいるんだよ……」
悲しそうな顔で、それでも人々を守る為ならこの忌まわしい力を使おうと、珠音は髪を操り戦闘員を喰らう。
「早く黒幕が出てくれないと、もっと食べなきゃいけなくなる……」
珠音が暗い顔で、いくら食べても満足できないと戦闘員を「食べ物」として見つめていた……。
第3章 ボス戦 『『デュミナスシャドウ』』

●悪の改造人間
「馬鹿な、ヒーローがショーに出ていたなんて……」
最後の戦闘員がガクッと崩れ落ち、子供を攫おうとしていた部隊は全滅した。やったと気が緩みそうになるところに、水を差すように声が響く。
「ヒーローの待ち伏せか、我らの動きは予知されていたか」
空よりヴィークルに乗った人影が舞台に着地する!
「我が名はデュミナスシャドウ。貴様らに死を与える地獄の使者だ」
悪の組織『ブラックサバス』の改造人間『デュミナスシャドウ』がシャドウ・ヴィークルに跨り姿を見せた。
「我ら『ブラックサバス』の理念は黒き感情を与えること。ヒーローであろうとそれは同じだ。希望には絶望を――貴様らを絶望に追い込んで希望を黒く染める!」
観客もスタッフも避難を終えて静かになったステージで、人質がおらずとも自らの力でヒーローを倒そうと、ヴィークルのエンジンを唸らせデュミナスシャドウはヒーローへと攻撃を仕掛ける!
●ヒーローと悪の戦い
「これからは本物のヒーローの時間……私は怪人だけど、困ってる人を助けたいという思いはあるから……」
|天神・珠音《あまがみ・たまね》(どこにでもはいないトウテツ・h00438)は怪人であっても、ヒーローと同じく人々を救いたいという熱い気持ちがその胸にあった。誘拐事件を続けさせないと敵の方へと近づく。
「さて、黒幕のお出ましですか」
|兵藤・空《ひょうどう・そら》(終焉を告ぐ・h00405)がようやく舞台に立った敵のボス『デュミナスシャドウ』と対峙する。
「人々の避難が終わっているのが幸いですね。多少、派手に戦っても問題ないでしょう……僕はフィナイト。あなたを終焉に誘います」
そしてヒーローとして名乗りを上げ圧縮銃を身構えた。
(見たところ、機動力や近接戦闘を得手とする敵でしょうか。それらで対抗するのは分が悪そうですが……もしかしたら、油断を誘えるかもしれませんね)
敵の武装を観察すると身軽そうで近接戦を得意としているように見えた。
「試してみましょうか」
『錬金術』で装備を変更し、圧縮銃を分解、錬成剣へ再構築する。
「デュナミス・シャドウ、剣の錆となれ!」
「俺に近接戦を挑むつもりか。いいだろう、受けて立つ!」
フィナイトが啖呵を切ると、それを受けてデュミナスシャドウがヴィークルを降りて右腕の爪を構えた。
「行くぞ!!」
デュミナスシャドウがダッシュして距離を詰めようとする。
「今です!」
敵が有効射程に入るなりフィナイトは√能力『|戦闘錬金術『風』《プロエリウム・アルケミア・カゼ》』を発動し、遠距離から突風を吹かせ広範囲に不可視の攻撃を叩き込み、虚を突かれ正面から受けたデュミナスシャドウに激しい衝撃を与えた。
「むぅっ!? 不意打ちか、だがこの程度なら――」
「まだです!!」
それを踏み留まってデュミナスシャドウは耐えようとするが、風は連続して吹き二度目の攻撃にとうとう耐えきれず後方へと吹き飛ばされた!
「やるなっ!!」
装甲をひしゃげさせながらも、デュミナスシャドウは空中で回転して片膝をついて着地する。
「3秒以内に反撃を決める!!」
デュミナスシャドウは√能力を使い、反撃して回復しようと足に力を溜めるが、そこに珠音が接近していた。
「反撃なんてさせないよ……攻撃もまとめて食い尽くすから……」
珠音が√能力『|消えない飢えで喰らい尽くす《アンリミテッドイーター》』を発動し、髪が蠢くと巨大な口【饕餮の牙】が開き、デュミナスシャドウの左腕に噛み付いた!
「その能力! 貴様怪人か!! 怪人が何故俺の邪魔をする!」
デュミナスシャドウはその髪を払いのける。しかし髪は続いて次々と口を開けて襲い掛かり、牙が装甲を貫き、ガチガチと金属を噛み砕いて飲み込む。
「怪人でも、わたしは人の味方だから……」
容赦なく珠音の髪が伸びて縦横無尽に襲い掛かり、デュミナスシャドウの身体のあちこちに歯型が刻まれていく。
「連撃を抜けなくては、反撃が成功すれば回復する!」
デュミナスシャドウは口の一つを爪で切り裂く。すると珠音の髪に戻って先端が散った。
「よし、このまま反撃に――」
そのまま勢いに乗ってデュミナスシャドウが右腕の爪で珠音の腹を切り裂こうとするが、銃弾が撃ち込まれ弾かれた!
「なにっ!?」
「仲間を傷つけはさせません」
フィナイトが銃を構えてデュミナスシャドウの攻撃を阻止していた。
「仲間だと! 怪人など悪に属するもの。世界に黒き感情をばら撒く要因だぞ!」
「怪人であろうと、その力を人の為に使っているなら|仲間《ヒーロー》です!」
さらに銃弾を放つがそれは爪に弾かれた。しかしその隙を見逃さず珠音は髪の口で喰らい付く。
「怪人でもヒーロー……わたし、子供たちを傷つけるような悪者は許さないから……」
自分もヒーローのように子供を助けるのだと、子供の誘拐を企むような悪の組織の一員であるデュミナスシャドウに怒りをぶつけるように脇腹を噛み千切った!
「悪いことするなら、もっといっぱいかじりついてみせるよ………」
「ぬぐぁっ!! 貴様!!」
これ以上のダメージは拙いと迫る大口を爪で切り裂いて、デュミナスシャドウは反撃を諦めて防戦に徹する。
「口で何と言おうと、怪人ならばその脳に怪人指令装置がある。いずれ貴様は人間を裏切ることになるだろう!!」
「そんなこと……ない。わたしは、みんなを守るから………」
反論しつつも動揺して僅かに珠音の攻撃が緩んだ隙に、デュミナスシャドウは大きく後ろに飛んで仕切り直した。
「さぁついにボスの登場なのっ! 子どもをさらおうとする悪い怪人は懲らしめてやるのっ!」
|花丘《はなおか》・ありす(ありす・イン・ワンダー√・h00811)は子供の誘拐を企む悪の組織のボスを懲らしめてやろうと意気込む。
「さっきまでは脇役だったけど、ここからは ありす も主役なのっ!」
懐中時計のスイッチを押して√能力『アリスフォーム』を発動し、光を纏いくるりと回転しながら魔法少女の格好に変身した!
「変身しただと? 貴様もヒーローか!」
デュミナスシャドウが警戒して身構える。
「うさぎさんに兵隊さん、騎士さんにジャバウォック! みんな突撃なのーっ!」
そこへありすは手を振り下ろし、フレンズ――攻性インビジブル「フレンズ・オブ・ワンダーランド」が突撃を開始した!
「インビジブルか!!」
デュミナスシャドウが防御態勢を取ると、ぴょんと飛び込んだ白うさぎが防御の隙間を抜けて顔にキックを叩き込む!
「むぅっ」
よろめき隙が出来るとトランプ兵が槍を突き入れる。そして白の騎士が剣を振るいジャバウォックが爪で引き裂いた!
「これだけのインビジブルを操るとは、だが俺を倒すにはまだ力が足りん!!」
傷つきながらもデュミナスシャドウが踏み留まり、シャドウ・ヴィークルが飛び出してきて騎乗する。
「蹴散らしてやる!」
エンジンを唸らせヴィークルを疾走して勢いをつけようとする。
「止めるのっ!」
ありすの声に反応した白い騎士が盾を構えてヴィークルを受け止める。
「ええいっ邪魔だ!!」
それを強引に突破してステージの上で暴れ回る。
「改造人間デュナミスシャドウ、油断ならない相手のようだね」
ステージに立ったアスク・リーヴスラシル・ブレイザブリク・アルトラ(遠く輝く星への誓い・h02729)は正八面体の小櫃【ソリッドアコード】が放つ八色の光を取り込んで、爽やかな好青年から外星体の異形なる姿に変身した。
「貴様、怪人か……いや星間生物か!!」
「|地球《このほし》を守りたいと願っているのは、地球人だけではないのさ」
デュミナスシャドウが訝し気にその異形の姿を観察して正解に至ると、アスクは前に踏み出し接近する。
「何者であろうと我らの邪魔をするならば倒すまで!!」
ヴィークルを疾走させてデュミナスシャドウが撥ね飛ばそうとするが、それをアスクはオーラを纏って受け止めて押さえ込む。
「我が押さえている今がチャンスだ」
「うん、今だよみんなっ!」
ありすが号令を掛けると、フレンズ達が一斉に襲い掛かり騎士のシールドバッシュを食らい、ヴィークルの軌道が逸れてステージから落ちていった。
「無駄な足掻きだ。貴様等の希望、それを絶望に塗り潰してくれる!!」
「その絶望を希望で染めて見せる。アヴェンジ・ジャスティス、参る!」
デュミナスシャドウがヴィークルをターンさせて突っ込もうとする。だがその前に同じくライダー・ヴィークルに騎乗した|玄鉄・正義《くろがね・まさよし》(Avenge Justice・h03441)が現れ、名乗りを上げヒーローとして希望を消させはしないと悪と相対する。
「ヒーローめ、俺とヴィークル勝負をするつもりか? 」
「行くぞ!」
二人はヴィークルを走らせ、デュミナスシャドウが爪で、ジャスティスが特装圧縮銃で攻撃し合う。互いにヴィークルを幾度も交差させ攻防を繰り返す。
「ちぃっ!!」
「ヴィークル同士の戦いならば、近接戦よりも攻撃チャンスが増える此方の方が有利」
デュミナスシャドウが爪がジャスティスの装甲を抉るが、ジャスティスの弾丸もまたデュミナスシャドウの装甲を削り穴を穿っていた。
「綺麗ごとを言う貴様等ヒーローに、黒き感情を――絶望を与えてやるぞ!!」
ヴィークルを加速させたデュミナスシャドウはその勢いを利用してヴィークルから跳躍し、闇の炎を脚に纏わせ炎の輪を展開して加速しキックを放つ!
「……絶望ならもう味わったさ。だからこそ、俺は絶望を覆したいと願うんだ」
ジャスティスは銃を撃って牽制し、残像を残してヴィークルを加速させ範囲外へ逃れる。僅かに遅れてデュミナスシャドウがキックを地面に叩き込むと、爆炎が広がり周囲を呑み込んだ!
「避けたか、ならばもう一度――何っ!?」
デュミナスシャドウがヴィークルに着地して再び走り出そうとしたところで、正面からアスクが組み付いた。
「退けっ! く、轢き殺してやる!!」
エンジンを唸らせてデュミナスシャドウはヴィークルを押し込む。だがアスクはずずっと足を僅かに後退させながらも耐え続ける。
「騎士道とは苦難の道だと、我が友は言っていたからね」
苦難を乗り越えていくのが騎士であると、友の生き方を実践してみせる。
「それに、平和を奪われた人々の痛みを思えばこの程度どうと言うことはない」
本来であればこの場所には多くの笑顔が今も溢れていたのだ。それを奪った相手に怒りを覚え纏うオーラを強くして押し留める。
「悪い怪人は許さないのっ!」
そこへありすはフレンズを突っ込ませ、トランプ兵が槍で敵を押さえつけ、ジャバウォックが背後から爪を振り抜き背中を大きく切り裂いた!
「ぬぐぁっ!!」
ダメージが重なり耐えきれなくなったデュミナスシャドウがヴィークルから転げ落ちる。
「……絶望を振り撒く行為が本心なのかそれとも洗脳によるものなのかは分からない。だが、絶望を広げない為にも今はお前を倒す」
チャンスとジャスティスがヴィークルの速度を上げて√能力『ライダー・キック』を発動し、空に跳び上がると脚を燃え上がらせて矢のように飛んでキックを放つ!
「希望など絶望の前には無力! 打ち砕いてくれる!!」
「否――希望は決して絶望に負けない!」
渾身のキックをデュミナスシャドウは腕で受け止める。しかし腕が折れて蹴りの衝撃波が胸に伝わり、内部を粉砕して爆発を起こした!
「ぐぅああああああっ!!」
吹き飛んだデュミナスシャドウが地面を転がり、近づいてきたヴィークルに手を掛けてゆっくりとぼろぼろの身体を起こす。
「希望など、すぐに絶望に染まるもの……何故、そんなあやふや感情でこれほどの力を出せるのだ………」
「大切なものを守ろうとする意思は君が思うよりも強固だということさ」
反論しながらアスクが√能力『アルトニウム光線』を発動する。
「さらばだ……!」
「がっあああぐぅあああああああ!!!!!!」
ポーズを決めて腕からアルトニウム光線を放ち、デュミナスシャドウを爆発させて木っ端微塵に吹き飛ばした!
悪の組織『ブラックサバス』との戦いが終ると避難していた人々が戻ってくる。
「これで子供たちが安心してヒーローショーを楽しめるのっ」
「そうだね。笑顔も戻ったようだし、ショーの公演も続けられるだろう」
ありすとアスクは戻ってくる子供達の顔に笑顔があるのを見て、その笑顔を守れてよかったと思う。
「この笑顔を守る為ならば、俺は悪と戦い続けよう」
これからも子供達の笑顔を守ってみせると正義は誓った。
「あ、ヒーローだ!」
「怪人のおねえさんも、ショーに出てた人たちがいるよ!」
出演した√能力者らに気付いた子供達が大きく手を振る。それに応えて皆も手を振り返す。
√能力者はクリスマスに平和というプレゼントを贈って、子供達を笑顔にしたのだった……。