絶対怪奇探偵~イマドキ脳髄不要論~
●少年曰く
こういうお話はどうだろう?
私に『そうやって』声を掛けてきたのは、可愛らしい、ソラ色の少年でした。少年はどうやら『探偵小説』に目がないらしく、ああ、ならば如何して、私のような底辺に声を掛けてきたのでしょうか。私は所謂、売れない作家という者で、最早、自決をしなければならないほどには、ひどい、無様なものなのです。
きっと気に入るよ。
少年は――ソラ色の彼は、私にひとつの切っ掛けを与えようとしたのです。彼が、与えてくれたのは『ちから』でした。そう、私が考えてきた『内容』は実現不可能な、ある種の、戒に対しての叩きつけなのです。そう、叩きつけ。私はようやく、叩きつける事に成功したのだと思われます。だって、これを見てください。
地面に、べちゃ、と、広がっている。
私の――頭の中身の柔らかさと謂ったら、不要です。
●能力探偵脳髄シリーズ
「君達ぃ……ちょっと、オツムを棄ててきてくれないか?」
星詠みである暗明・一五六の一言は、さて、どのような印象を君達に与えたのだろうか。比喩だろうか? いいや、きっと物理的な話だと、君達は察する事もできた。
「√妖怪百鬼夜行さ。予想しているだろうけども、古妖の封印が解かれてしまってね。それを封じる為にも、まずは月の光の下で『それ』をしなくちゃあならない。まあ、√能力者なら蘇生も可能だし、今更なんだけれどもねぇ。精々、発狂しないように、自我をしっかりと抱えながら叩きつけると良いさ。アッハッハ!」
第1章 冒険 『月下奇譚』

月の光が狂気を齎したのか、狂気が月に光を齎したのか、最早、何方でも構わない。仮に、現状を怪奇な探偵小説としたならば、嗚呼、いったい何者が喝采を送るのであろうか。そもそも、喝采と呼ばれる二文字が『伽藍洞』にされているのだから、如何しようもない。おお、人間よ、妖よ――君達よ。まさか、イマドキのファッションとやらに遅れてはいまいか。
やはり、頭の中はデコれるほどに空っぽにしておくのが宜しい。やはり、頭の中身をすっかりと、放棄しておくのがトレンドだ。地面にたくさんの脳味噌を叩きつけて、売りもせず、踏んづけてやるのがご作法なのだ。この脳髄は――自分自身の『もの』でなければ意味がない。実にカンタンでテキカクな、素晴らしい序章であろうか。
――きっと気に入るよ、誰もがね。
全ては物理的な有り様である。
この有り様に続かなければ、一切が、迷宮入りとされるだろう。
巻き込まれないように、寸前、鋸を拾おうとしている何者かを、
唯々、させないように、外へと運び出してやれ。
ヘドロのような汚らしさだと、泥濘のような輪郭なのだと、何者かに嗤笑をされたのか。死しても尚、瀕しても尚、代わりを用意できてしまう現実に、何処までの痛痒が真なのか。絡みついた、噛みついた、蛇蝎までもが|蛇蝎《●●》してくる有り様。これを何者が「カンタン」だと「オキラク」だと大笑いをしてくれるのか。……既に、伽藍洞の僕に……これって意味あるのでしょうか。残酷な事だ。無慈悲なものだ。それを自らに問いかけたところで『こたえ』など知っての通りだと謂うのに。……簒奪者にも……戸惑われた……経験が……。経験は経験でしかない。体験は体験でしかない。いや、それが蓄えられているのであれば――成程、完全な伽藍洞とは解せないか。こねるべきは空か、或いは、見えない怪物か。外気に触れさせても『よい』のであれば融合をすると宜しい。ぽつんと、四之宮・榴。ようやく|疑似脳《おまえ》と出会う事が出来たのか。……これは、僕、です。ちゃんと、細部まで『僕』の筈です……。間違いはない。きっと、認識する事は不可能なのだが――これは今から『叩きつけられる』事に『踏みつけられる』事に怯えている。
怯えている――いいや、望んでいるのか?
そしてオマエはおそらく、羨ましいとも、思えてしまいそうか?
虎穴に入らずんば虎子を得ず……? 違う? 其処には虎子など存在していない。存在しているのだとしたならば、それこそ虚無で。嗚呼、虚構を手にして喜ぶ事の『むなしさ』ときたら――首を振る。こっちの頭にはちゃんと、偽物が収納されている。えい、と、疑似を叩きつけた。べちゃ、と、音がする。音がしたのだから、ぐちゃ、流れるように。……な、なぜ……どうして、僕は、眩むなんて……? 足裏を、目眩を、拭っている暇などない。忘却の限りを尽くさんとして――嗚呼、ああ、
探偵が必要なのだ。必要とされているのだ。
それは、即ち、事件が発生しているのと=だ。
鮮度抜群だ、足裏にも優しい。
悪魔の類が裸足で逃げ出し、邪神の類はナンセンスと笑い飛ばす、そのような光景が繰り広げられていた。プルプルとしたゼリー状の何かしらを、腹を空かせた何かしらの蠕動を、さて、思い出させてくれるほどには地獄絵図か。びちゃ、足元に転がってきた脳髄の、楽し気な跳ね方、こんなにも『腹立たしい』ものはない。……|悪魔崇拝の集会《サバト》か何かかしら、それにしてもひどい状況だけど。溜息と共にこぼれたのは、溢れてきたのは、誰かさんの大袈裟な拍手。オツムを棄ててこいってあっさり言ってくれるわねぇ、あの|星詠み《エログロ本》。脳味噌弄られるのは……食べられるのは、流石に、酢醤油で懲りたんだけど。喉元、熱さが過ぎ去ったとしても尚、こびりついている渇くような、乾くような最期。いや、もちろん、絶対的な死は『珍しい』ものなのだが――でも、まぁ。そうしないといけないなら、|義妹《サーシャ》に被害が及ぶ可能性があるなら、やるしかないのかしらねぇ。何事も、試してみない事にはわからない。解せなくとも、判らなくとも、情報となって砕けるのであれば――きっと、おそらく、重要なのだ。
必要なのは『力』であった。速度も、火力も、間違いではないが、やはり解体作業には『力』とやらが必要不可欠。そもそも、ナマモノなのだ。グロテスクを維持すべきなのだ。答えは「A」の複製祀り。うーん……なんだか、思っていたよりも、気分悪いわね。さっきまで『ぐるぐるバット』してた所為かしら……? まあ、そんなことは置いといて。さっさと殺し合ってくれると嬉しいんだけど、|アタシ《●●●》……? 合図は不要だ。アーシャ・ヴァリアントがアーシャ・ヴァリアントの首を落とし、頭蓋を開き、中身を散らかしていく。出来る限り綺麗にこぼれた|脳味噌《もの》に対して、いよいよ、踏みつけとやらを喰らわせた。……これで、良いんでしょ。文句あるなら言いなさいよ、趣味の悪い奴ね……。
……あー……そうね。そういうもんよね。
アタシが、アタシの脳髄をやらなきゃ、意味ないのよね。
むかつく……。
アーシャ・ヴァリアントの絨毯の上で、ラスト、複製に指示を出してやる。複製されたオマエがオマエの脳天、みしみしと、掴んでくれたのか。あとの描写は最早ない。
ちょっと逝ってくるから、掃除はしといてよね。
デタラメな歴史や新解釈、介錯をしてくれる者はなく、冷たい地面へと棒のように。身体の下で震えているのは、さて、自分の頭の中身で在ろうか。もしくは……誰かの未来そのもので在ったのか。
イマドキの若者はせっかちらしい。
考えようとしても、嗚呼、それを粘土と違えている。
物理的に思考が飛躍したのか、或いは、病的なまでに不要だと唆されたのか。何方にしても正解ではなく。しかし、それを正解にしなければ進めないハリネズミの集合体。毎回、だいたいこんな感じの依頼ではありますが……丸投げをしてくるのが常ではありますが……オツムを棄てろとは、いくらなんでも無茶苦茶が過ぎませんかぁ……? 星越・イサが正気な発言をするとは珍しい。文字通りに、アカシックレコードと連結しているような『もの』なのだから、ひとつくらいは良いのではなかろうか。ええ、まあ、私、何度か死からの復活は経験していますが……自ら頭を棄てるのは……脳みそを叩きつけるのは……さすがに……。眩暈がするほどの、ぐるぐるするほどの、月の光の下ではないか。まるで踊っている、回っている胎児のように規則正しいものではないか。……規則正しい? 私が? でも、わかりました。不意にやってきた天啓が、不安定にもやってきた確信が、只、行動せよと囁いてくる。わかってしまいました。それが、正解だと、必要だと、私が為すべき運命なのだと。仮に、全てが誤りだったとしよう。だとしても、犠牲が脳味噌だけなので在れば――まったく、悪くなんて、ない。わかったら、あとは、するだけ。
破損している情報では何もかもを砕いてしまう。故に、其処らに転がっている鋸か何かを手にすると良い。確信に至ったオマエに躊躇は、迷いはなく、狂った歯車のように額へとあてる。……この行為、何かに似ているような気もしますが、何だったのかは覚えていません。ああ、いけない。何がいけないのかと問われたら、貌が、勝手にこわれていく。姿見の類がない事を感謝しながら――アハアハ――皮やら骨やら削っていく。成し遂げてしまいましょう。これが本当に、怪奇探偵小説だと宣うのであれば――実にクソッタレな|犯人《犠牲者》だ。……えい。如何したって歴史なのだ。始まりから今までの流れなのだ。
べちゃ。
非必須なアイテムを星のように並べて、揃え、キラキラとしている彼女等を睥睨してやる。必須なアイテムの群れを羨望の眼差しで讃えている彼女等、さて、如何様な理不尽、不条理が降り掛からんとしているのか。いいとも、ああ、いいとも。まったく泥臭いものだからね。棄てようじゃないか。三月ウサギは如何しようもなく格好いい。生まれて死ぬまで、死んだ後でも三月ウサギを辞められないのだ。逆に考えてみなよ。必要かい? 不必要さ。こんなモチモチうねうねしたケーキのようなもの。景気良くなっても買うなんてごめんだね。よく考えるべきだよ。地面、転がっている数多のオツムの残骸に声を掛けてやる。ほら、彼等もこう言ってる。やっぱりあたしは、脳みそなんて鼻水量産機でしかないってわかっているのさ。叩きつける前から撹拌されている。この、掻き混ぜる感覚とやらは轆轤の首に等しい。……何言ってるんだこの口は! 考えて学ぶには必要だろコレは!!! 代わりが必要だ代わりが必要だ! 代わりが必要とはつまり、三月のウサギ、既にオマエは適切に出しているのではなかろうか。うるさいだまってろよこのマウス! なあ、知ってるかい? 脳は八割は水で出来ているらしい。いっそ竜から漿液でも頂いてきたら如何か。頂戴しよう!
こぼれている脳みそを掬う為に、まず、カップを用意しなければならない。必須なアイテムからひとつを拾って、ずぶりと、オリジナルなヤツを掬ってやった。つまるところジャムにはティーが合う。代わりにティーをたっぷり入れれば良い。掬ったティーを改めて頭蓋へ。ジャブジャブと鯨飲してくれる頭蓋はとっても賢い頭蓋なのではないか。馬鹿でもわかることだ。三月生まれでもわかることだ。……三月生まれが馬鹿だって? あたしが馬鹿だって言った!!? おい!!! そこにならべ!!! ほら食ってみろ! べちゃと騒いでいる脳みそがお仲間を啜った。おいしい! つまりこれはジャムだったってわけ。
ジャムがこんなにも柔らかいわけがないだろう、と、イマジナリーな鼠が騒いでいる。そんなわけない? だまれ! これはケーキじゃない! 泥の脳みそなんて要らないだろ! 改めての叩きつけだ。ハレルヤ! 誰が喋って良いと言ったこの泥め!
こんな脳みそ蹴っちまえ! 馬鹿ばっか!
あたしが馬鹿だって言った?
丸洗いしてやるとよろしい、マウスウォッシュだ!!!
第2章 集団戦 『今頃山姥』

脳髄の道――ぐちゃぐちゃ――を歩んでいるのは、果たして、何者であろうか。妖怪から見たならば、成程、決して廃れぬ流行だろう。しかし、ああ、別√の人物から見た場合――これは、あまりにも『イマゴロ』なのではないだろうか。ギャルである。簡潔に描写をするならばギャルである。しかも、黒ギャルである。黒ギャルの一人がギラギラとした『もの』を手にして、屈みこみ――適当な大きさのそれを切り分けたのなら、味見と洒落込む。
意味不明な言語である為、此処からは翻訳してお送りする。
あー……このオツム、ちょっと柔らかすぎるわ。あーしが食べたいのはもうちょっと食感が残ってるやつなんだょね。
それならあっちにいーのがあったよ。
マ? じゃあそっちもらうわ。
そういや新鮮なのがこっちに来るかもしんないょ。
だったら、やっぱここにおるわ。
ヤマンバではない。マジモンの山姥だ。
ところで、今頃山姥達はお腹いっぱいになったら帰るらしい。
そういう解決方法もありだろう。
首を刎ねたところで、中身を穿ったところで、
すぐさま|生えて《●●●》くるお姫様。
嘲笑う八岐大蛇――その頸の数とやらも成程、√能力者の蘇生能力に対しては脱帽せざるを得ない。脳味噌を叩きつけて、それを踏み躙り、インビジブルと化しても尚、戻ってくる事が可能なのは――誰かさんに対しての篤い想いの仕業と謂えよう。……いつかの男を思い出す光景……反吐が出るわ。ヤマンバならぬ山姥、今頃って、そこまでガングロなの早々見ないと思うけど。早速|新鮮《●●》なものを発見した山姥達。意思疎通が困難なほどの言の葉のなだれで一種の困惑とやらを齎した。何言ってんのかよくわかんないのも問題だけど、なんとなく、何が欲しいのかはわかるわ。しっかし、だいぶ出血ならぬ出脳サービスしたのにまだ食いたんないわけ? そもそも、このお話は『探偵もの』ではなかったのか。犯人が白昼堂々、ギャル散らかしたりするものなのか、普通は。生憎とサービス期間は終わりなのよね、そんなに食いたきゃ自分達のでも食らっておきなさい。ああ、そうね。きっと、簒奪者の脳みそって美味しくないから『しない』のかしら?
兎にも角にも火の粉は振り払っておくのが正解だ。いや、正当だ。第一に、山姥の群れが√を渡って『大切な人』の可愛い、可愛い脳みそを掻っ攫っていく可能性だって考えられる。|義妹《サーシャ》の教育に良くないのはそうなんだけど、それ以上に、アンタたち節操なさそうなのよねぇ。だから、まあ、全員始末するから、叩きつける必要なんてないんだけど。さて、融合してくれたのはどのような|精神《おつむ》で在ったのか。ぷくぅ、と、頬を膨らませているのはオマエの大切な『誰』だったのか。……いつか絶対に、アイツにぎゃふんと言わせてやるんだから。ああ、もちろん、この宣誓は「お姉ちゃん」には届かない。
漲る力が齎すのは鋭利さを極めた『爪』である。真の威力を発揮した『それ』は――素早く、凄まじく、山姥の数体を断頭した。この程度でアタシと戦うなんて、人食いが聞いて呆れるわよ。で、そっちのアンタは如何する? まさか、逃げるなんて言わないよね。言ったところで――引き寄せてやった。引きずり込んでやった。
まるで、竜の口腔の中……。
落としどころは完璧であった。
如何やらギャル達も、あんまり正気ではないらしい。
宙――宝物を与えたもの――星の煌めきは健在であり、其処には殺意の欠片もなかった。落ちてくるかの如くに、堕ちてしまうかの如くに、クラクラと、確信的なイメージが広がった。まるで回転し続ける天の如くに……嗚呼、星越・イサは√能力者らしく此処に在った。蘇生できた……ということは……。私はAnkerに殺されたわけでも、Ankerの中で息絶えたわけでも、ないということ。籤引きをする際に指を差しているのは誰か。恐怖を味わう為に身投げを試みているのは誰か。つまり、私が何もかもを選択しているということ……。粘ついた眩暈が、こびりついた目眩が、ちゃんとした欄を用意してくれている。『だから、大丈夫』――これが、今の私に、星越・イサに必要な【究極の回答】だったのかもしれません。それなら、猶更、消滅の危機に晒して良いものだろうか。朦朧とするかの如くに間違いはなし、まっすぐに、頭の中身とやらを正してやった。
ふふ……また一つ『強く』なれた気がします。この冗談みたいな叩きつけが、この御伽噺めいた踏みつけが、狂気をより鋭利にしたので在れば、それこそ、空隙を殺す方法であった。……ええ、これは、今現在では『武器』としても揮える事でしょう……。視線の先には騒がしくもヤマンバども、いいや山姥、真っ黒いギャル達は何を考えているのか。ちょっちあーしらのお願い聞いてくんない? ピチピチなのーみそが欲しいんだけど。ああ、戦わずとも治められる。満腹にさえしてしまえばお帰りになられる。それならば……。知っていますか。退廃した世の中、穏便な脳髄の入手方法もあるものです。
ざわつくギャル。それもその筈。彼女等の歴史は、時代は『イマゴロ』で停滞していたのだ。なんかおもしろそーだから、聞いてあげるわ。あーしらはおいしい脳みそ食べたいだけだしぃ。では、そうですね。とある星で過ごしてみるのは如何でしょうか。新鮮な脳髄が常に保管されているらしいです。……マ? つーかどうやって行くわけ?
それは勿論、生身で。あ……それと……その……わかる範囲で宜しければ、√EDENの流行をお伝えしましょうか……? 脳味噌云々よりも問題なのがファッションセンス。ヤマンバどもに最先端とやらを叩きつけてやれ。
マ??? ちょっち教えてくれね? そしたら星にでも行ってみるわ。
交渉は成立した。あとはイマドキを教えて、彼方へ攫ってやると宜しい。
脳髄が不要だと宣うのであれば、嗚呼、脊髄反射をしてほしい。
脳髄を考えなしだと罵るならば、それを失くしても尚、
理性的であるべきだ。この手遅れどもめ。
化けているのか、化かされているのか、何方にしても脳髄、彼女等の言の葉を解けていない。仮に、解けるほどの知識が蓄えられていたとしても、先程、踏みつけられた方に有ったのか。……えっと……。わからない。何もかもがわからない。山姥からのお言葉は勿論のこと、最近の、|四之宮・榴《じぶん》の精神とやらもわからない。……解りたくも……無いですし……聞きたくも……それに、この現状に釣られて、現れているなら……早めに……。退散をお願いするのは結構だが、嗚呼、相手は話の通じない化け物。自身も彼女等の側に含まれていると謂うのなら、さて、何処までも頭の痛い有り様だ。……それにしたって、ギャルって……なん、ですか? 何かと問われれば時代の流れだ。残酷な獣の|時針《きば》である。……ところで……これって、怪奇探偵小説……? なの、ですよね……探偵は……? 探偵が存在しない探偵小説、まったく、新しいが過ぎて吃驚だ。この皮と肉はサービスとしておく。
事件を、文章を、指で追うように、進めなければならない。先へ、先へと往く為にも|山姥《ギャル》とやらにはご退場願おう。あーしらはあーしらの『やりたいこと』してるだけだし、つーかぁ、あんたもこっち側に近いんじゃないのぉ? 不意に、言葉を『理解』した。あ、あれ……僕、どうして……? 嫌な予感が押し寄せてくる。今直ぐに『お片付け』をしなければ、嗚呼、取り返しのつかない事になってしまう。……もう、めまいは、懲り懲り、です……。見えない怪物達が、インビジブルどもが、一斉に山姥へと襲い掛かった。……ちょっちうるさいんだけど? つーかなに、この魚? 深海魚ってやつ??? 徐々に、徐々に、ギャルの言葉がハッキリと聞こえてくる。まずい……です。咄嗟に投げてやった恋人の一枚。彼女等の一体、その額をバッサリとやった。……やるじゃん。つーかもう、腹減ったしこれで良いんじゃね? 時代はエコってゆーし。滅茶苦茶だ。唐突に始まった共食いに四之宮・榴、頭を抱える。……今日は……本当に、心の底から、べちゃべちゃです……。
捕食者によって丸ごと無くしてやれ。
燃やしてやるのも間違いではない。
そろそろ脳髄を新調しておこう。
集団幻覚にでも巻き込まれたのか、べちゃ、脳髄が叩きつけられている。
叩きつけられた脳髄は踏み潰され、それを、何度も、何度も……。
奇書やんけ。
暴力沙汰程度であれば、暴言程度であれば、嗚呼、持ち前のスルースキル、或いは、より強大な|もの《●●》で迎え撃つ事など容易かった。しかし、莫迦みたいな話だ。阿呆みたいな展開だ。今回も今回で〆切一歩手前、首とやらが掛かっているのに、ぐるり、文字通りとは如何なものか。いや、正解に描写をするのであれば『これ』は首ではない。勿論、頭部だけではなく――もっと細かな、分類である。頭が破裂したってか、ええ? ワイが能力使う前から破壊されてるとか聞いてへんのやけど??? でろでろ、べちゃべちゃ、オツムを棄ててくれた皆々様。ご馳走へと集ってくれたのは、さて、ご存知今頃山姥ども。ああん? 勘弁してクレメンス。海老揉むのも大概にせえよ。支離滅裂な思考も如何やら、この日、この場では上質な脳味噌らしい。よく分からんけど|敵《アンチ》殴ればええんか? この場合はおそらく厄介ファンだろう。もしくは、そう、物理的なストーカーである。つーかあれや。お前らの時代って酷くねぇか? 黒々とした山姥がぶちり、何かが千切れた音。
挑発とやらは完全に成功した。ガン決まったかのような面構えで連中、理解し難い言の葉を垂れ流す。いいや、接触事故だ。理解し難いの部分が反転し、わかりやすい台詞とされた。……オタクちゃんさあ。もうちょっと人の気持ちも考えた方がいいよ? 相手の気持ちなんぞ知るものか。そもそも、簒奪者の下僕を相手に『ひと』のように接するなど愚かの極み。あー……ん? ワイがその程度の口撃で苛立つと? まあ、今日は特別や、いあんちゃん直々のセルフカバー披露したるぞい。たったひとつの冴えたやりかた。それにしても、冴え渡るべき脳髄どもが絨毯状態だと如何なものか。知らんがな。脳味噌だけでも考える事くらい出来るんとちゃうか? 成功率が僅かにでもあれば可能な状態。さて、美味しい、美味しい、オツムの中身に毒を添えたのは脳髄自身だ。……山姥どもは遅延性の眩暈によって倒れた。
今のでいいフレーズ思いついたわ~サンガツ。
はよ帰って修羅場の続きやるンゴ。
大きく膨らんでしまった春の足音、蜥蜴が尻尾を残すかの如くに。
聞く耳を持つべきではない、と。
じくじくと炙ったチーズどもの成れの果て、焦げ臭い所以は成程、火力の強すぎが原因だ。シャキシャキとしたお野菜どもがビックリと蒼褪めており、これではサンドイッチとは言い難い。たいへんヤカマシイ妖怪どもに向かってのご挨拶だ。オマエの言の葉も彼女等の言の葉も、さて、不思議の国にはもってこいか。山姥。あたしはこの賢い頭で知っている。脳みそが入っているからね? 脳味噌が入っているだなんて、思考が鎮座しているなんて、ありえない。オマエは先程、三月ウサギの代わりとしてジャムやティーを注いだのではなかったのか。ない? そんなわけない。脳みそが無かったらあたしはどうやって考えて喋ってるって言うんだ。なに? 脳みそ以外に回路があるって? 考えてから物を言うんだよ。回廊が未曾有なのであれば、嗚呼、きっとこの世は滅茶苦茶だ。惰性で掬っておいた脳みその幾つか――おいおい、待ってくれ。まさか、断りなく飲むって言うんじゃないだろうな? 失礼だ。まったく失礼を極めている。失礼の化身か、或いは、失礼が肉を纏って歩いている!
山姥? つまりは山にいる人を食べる人ってことだ。あたしは頭が良い。何せ頭の回転が早いからね。いや、速いのか? そういうことでね。首が途轍もない速度で回っている。これには山姥もちょっと苦笑い。おい! それはあたしがもらう脳みそなんだよ!!!!! 空回っているかのような気分だ。理由は解せないけれども、目が回ってくる。
難解な言葉を話す。成程、目が回ってくるのも納得だ。混乱するからね。相互理解には対話が必要、そのはずさ。ところで、困難な原因はやはり|脳みそ《常識》が転がっているからではないか。うん、対話すら困難なソレが欲しい。脳みそを殴ろう! 手にしてやったのは小槌である。勢いの儘に、失礼には失礼で返してやれ。ウサギを食べるなんて気でも違ったのか、皮を剥いでからにしろよ! セルフサービスとでも考えてやると宜しい。不要なものはあたしの耳だ。
王様の耳は何だって? 王様も山姥もオツムを蹴り上げられたんだから、如何しようもない。……良い包丁を持っている。お借りしよう! 失礼じゃないあたしはちゃんとお礼を言うからね。それに、こんなに長い耳は邪魔だ! 耳の皮膚など無くて結構。
いまなんの話!? 耳!? パンの耳でもくってろよ!!!
たらふく食った。その結果、素敵なまでの破裂である。
第3章 ボス戦 『怪奇探偵小説の付喪神・ソラ色の少年』

怪奇探偵小説――その|犯人《●●》について。
彼は確かに犯人では在るのだが、残念な事に、|探偵《きみたち》がやってきた頃にはもう、出番を失くしていたのだ。犯人である彼は、成程、悪人として、登場人物として――脳髄不要論を人々に語ってくれたのだろう。ああ、だが、皮肉だろうか。犯人は如何やら、自分の脳髄だけは棄てられず――取り込まれてしまったのだ。
こういうお話なんだけど、どうだったかな?
気に入ってくれると嬉しいんだけど。
びちゃびちゃと、べたべたと、棄てられた脳髄の上を歩んでいる、少年。少年こそがこの事件の原因、元となる『小説』そのもの。キミたちにも、彼らの『力』を見せてあげるよ。彼らはちゃんと『犯人』を……『悪人』を……してくれたからね。良い? みんな。大丈夫。ボクがついてるよ。さ、一緒に……邪魔する奴らをやっつけちゃおう!
ソラ色をした少年が|本《●》を開いた。
其処から飛び出してきたのは――嗚呼――脳髄不要の戒なしである。
心の底から涌いてきた大罪の意識、蔑ろにされた己の脳髄の憤懣か。
イマドキのお姫様の強靭さは誰もが知っての通りである。
名状し難さや形容し難さ、その悉くを蹂躙しようと試みたが故の|探偵《●●》であった。されど試みの何もかもはナンセンスとされ、只、筆舌に尽くし難い『べちゃ』のオノマトペだけが残された。……あどけなさそうな見た目の割に、話し方の割に趣味悪いわね、アンタ。付喪神――などと、少年は自称をしているのだが、これでは最早、呪物である。呪物であり怪異であり、人間災厄よりも災厄をしている。というか、そんな|本《小説》書いた奴が一番だけど、あの|星詠み《エログロ本》と一緒に発禁されなさい、発禁。表沙汰にならないように、せめて、裏側だけで蔓延っていれば良いものを。……嫌? 嫌っていうなら構わないけど、アタシが直々に焚書にしてやるわ。「焚書」を耳にした付喪神、ソラ色の少年の反応や如何に。びくんと、身体を震わせて、踊るかの如くに、登場人物どもと融合したのか。それは……キミ、ボクに対しての、殺害予告で良いんだよね? どう捉えたって『そう』じゃないの。アンタ、犯人にも探偵にも向いてないんじゃないかしら。火花の代わりとして猛ったのは能力者、オマエ自身の|身体《にく》であった。
灼熱と化したドラゴンプロトコル、その膂力にこそ阿鼻は宿っていた。たとえ、脳髄を不要としている犯人の不条理な――滅茶苦茶な――人知を超えた力だったとしても、嗚呼、文字通りの桁違いには敵わないか。こんなのでアタシを殺すだなんて、アタシのオツムを持ち去ろうだなんて、馬鹿げた|話《●》よね。抵抗をしようとしても、藻掻いたとしても、嗚呼、乾いた藻のような無様さなのだから、|少年《本》は踏みつけを喰らう事しかできない。……あ、あつい……あつい……燃えちゃう……ボクが、ボクたちが……! 即座に蘇生をしたところで無意味なこと。竜の怪力の前では最早――少年は、少年としか認められない。探偵もので終盤、洋館とか火事で燃え尽きて犯人も一緒に死んじゃうの『よくある』事でしょ。アンタも、アンタ達も、そうしてあげる。ひどい特効ではないか。少年の瞳の色すらも、赫々と。
よく燃えてくれた事に感謝をしておく。
渦眩く世界の中心で獲物を引っ掛ける。
柔らかとされた少年の肉、珍味よりもきっと良いものだ。
ボクたちが、ボクが、主人公なのに、なんで……?
獣の数字のひとつを恐れるかの如くに、殺意、奇怪さに挑戦してくるとは想定外であった。犯人はおそらく『善意』でこれをしていたのだ。付喪神には『悪人』と判定されてはいたのだが、さて、脳髄を不要と論ずる為には、それなりの所以がなければならない。……僕らが、探偵だった……のです、ね。犯行に至った理由など最早、ひとつしか考えられない。つまりは、悩みを抱えているのであれば、頭痛に悩まされているのであれば、それをスッカリ取り除いてやれば宜しいのだ。……犯人の脳味噌だけは、魂だけは、貴方様が……お持ちなのですか。正直……他人を巻き込むし……怪奇としては……? 山姥の言の葉が怪奇だった、その程度であれば刹那も要らない。ところで、脳味噌不要の答えですが……頭痛だけでは、ありません……ですよね。考えはひとつだが、考えなければもうひとつ。……脳髄を、考えない臓器だと、したなら……重たいだけ、だと……? ふぅん。キミ、ボクの事を紐解くなんて、立派な探偵だよ。ボクたちは、キミのことを名探偵として扱ってあげるから。有難迷惑だ。迷惑千万で、いよいよ、取り返しのつかない眩暈か。
小説の序盤を語ってくれたところで、嗚呼、誰が文章を噛み砕いてくれるのか。仮に、探偵の助手が語り役だったとしても、助手が意思疎通できないとなれば笑えるものも笑えない。三人称なのであれば、より、難解だ。……なぜ、でしょうか……なぜ、そんなにも、理解させようと、しないのですか……。残されているのは暴力であった。暴力で、能力で、戒をナンセンスとしてやらなければ火の粉を払う事すらも赦されない。……仕方が、ありません……僕は、こういうのは、得意では、ありませんが……。脳髄を叩きつけてくれとのお達しも聞き流してやれば問題ない。鋸がすり寄ってきたとしても受け流してやれば問題ない。壁となってくれた捕食者への感謝の言の葉――犯人は必ず現場に存在している。現場に居なければ、事件が起きない故に。
遁走……? 逃がすと、思いますか……僕は、これでも、追われる側のことは、わかっています。経験が活きているのだ。投擲された愚者の立ち位置は鋭く、少年、山姥のお友達とされた。釘付けだ。麻痺だ――羅鱶、此処に来てようやくの攻勢である。
……意地の張り合い、です……僕は、散々、意地の悪さを……味わっています。
なので……貴方様に、負けるつもりは、欠片も、ありません。
噛みつかれ、破り捨てられ、散らかった|脳味噌《ページ》。
生きる伝説の糧とせよ。
混沌とやらの中心で惑星級、鎮座し、只、吐き散らかす。
無理やりに捻じ込まれた文章の大渦巻きの所為で、彼方の光景。
少年はもう、終いなく、目を回すのみ。
頭蓋骨を叩いてみた、同時に、脳味噌をズラしてやったならば、嗚呼、増殖するのはビスケットか。ビスケットが増殖するなんて有り得ないと、脳髄が増殖するなんて赦されないと、ざくり、ぐちゃ、眩暈を覚えるよりも前に大惨事か。……おはなしは大変気に入りました。小説自身でありながら犯人でもあり、更に、新たな物語を――脳髄を、加えんとするあなたの有り様は――地球に住みながら地球を観察し、宇宙までも観測したいと、広大無辺を理解したいと、只管に願う『私』とよく似ています、ね。成程、星越・イサ。オマエとソラ色の少年は同族なのかもしれない。ベクトルとやらが違うだけでこの狂気、まるで煌めく文字列であった。……たとえ、それが矛盾だとしても。キミ、キミはさ、ボクじゃなくて、別の何かを見ていないか? 見ているフリをしてその実、観る事にしか興味関心がないんじゃないか? 頭上、星の群れとやらが旋回を続けている。それを、目の玉で追跡していると――旋回を辞めても尚、此方は続ける他にないのか。……私なりに全力の返礼をしましょう。黒色の砂塵を集めてこねて、門の彼方すらも無聊だと思えてしまうほどの……。
これが『序盤』だったとする。これが『あらすじ』だったとする。全部をまるっと語り尽くして、嗚呼、主人公、殺戮のお庭とやらに放逐されたのか。……キミ。キミ、待ってくれないか。ボクはちゃんと、完結させたつもりなんだ。完結した筈なのに、ピリオドを打った筈なのに……どうして、ボクが、終わらない……? 折角の邂逅なのです。折角の遭遇なのです。切開をするのですから、相応のお持て成しをするのが、私の役目というわけです。無限に拡張されていく視野、無限に収縮する自我――太陽系を飛び越え、銀河の果て、宇宙の果て、絶対的に終幕しない怪奇探偵小説――未曾有の無限の螺旋――き、キミ……ボクは、嫌だ。いや、なんだ。これ以上、中身を増やしたり、蛇足をするのは勘弁……して……。ソラ色の少年の手を掴んでみせた。掴んで、引っ張って、強引に|外側《●●》へ。脳髄で考えているなんて、変な事を宣うつもりなのか。
聞こえてくるのは悲鳴だろうか。
或いは、少年の発狂であろうか。
脳髄に刻まれた恐怖も、恐怖以外も、きれいさっぱり、
捨てられますか?
たとえ、相手が冒涜的な行いに執心だったとしても、
何処かに救いの種が埋まっているのかもしれない。
何かを見せられているのか、何かを聞かされているのか、まるで、強引な誰かに腕を引かれて、ぶんぶんと、振り回されているかの如く。いや、実際に振り回されていたのは――無茶苦茶にされていたのは――知らない人の頭の中身であり、これを覆す事など最早できない。せめて、ああ、せめて、皆様の為にお祈りをさせてください。神聖祈禱師の言の葉が、レティシア・ムグラリスの、ひとつひとつの動きが『どのような』力を与えると謂うのか。迷える人々に勇気を……迷える|魂《インビジブル》に導きを……。犯人で在ろうとも、犠牲者で在ろうとも、探偵で在ろうとも、彼等の前では皆が等しいのか。……聖職者かぁ。なんだか、堅苦しいのは苦手なんだよね。簒奪者曰く――付喪神曰く――キミだけでも犠牲者にしておかないと。
誰の為の祈りだったのか、誰の為の聖書だったのか、登場人物として、モブとして、参加を認められていたヒトサマやら妖怪サマやら、彼等彼女等の傍らに天の使いが降りてきた。これらは幻影だが、故にこそ、途中退場させられる事などない。肺臓か、或いは喇叭へと、祝福の意味を籠めると宜しい。歌え、さあ、謳え――自分達こそが主人公なのだと、それこそが絶対なのだと、あの、出来損ないの怪奇探偵小説へと――ソラ色の少年へと……。もう、悪さをしてはいけないのです。白薔薇の花言葉、清らかたれ。……ボクは、ボク、だ。たとえ、倒されたとしても、死んだとしても、ボクをやめることはできないよ。
往生際の悪さだけは驚嘆に値するだろうか。
兎も角、福音は此処に在り――己の、可能な限りの、光の雨を。
――今度は、優しい物語にしてくれると嬉しいですね。
音が聞こえてくる。音だけが、耳朶を擽ってくる。
更に奥へと、半規管やら、脳髄やら。
終わりを告げる鐘のように。