シナリオ

「笑おうぜ」

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●戦乱の最中、命は羽根よりも軽く
 オーラム逆侵攻と名付けられた√能力者たちによるレリギオス・オーラムへの反抗作戦。
 その影の立役者とも言えるのが、裏切り者として戦闘機械群側に潜入している覚悟の戦士たち「人間爆弾」である。
 彼らの存在はこの大規模作戦によりようやく認知され、作戦の運び次第では、彼らが新たな√能力者として覚醒することもあるだろう。
 ——そう、彼らは「Anker」であった。

●とある裏切り者の独白
 川崎市が、火の海に呑まれている。
 戦端は開かれた。俺らは文字通り命がかかっている。手を抜いたりはしない。
 けれど……炎を見ると、記憶が疼く。俺が人間爆弾となることを選んだ理由の一つであり、そんな道を選んだ自分自身を疎む、最たる理由。
 俺の家族は炎に呑まれて死んだ。
 人類殲滅に積極的な戦闘機械群による侵攻——当時はまだ、派閥割れが激しくなかったため、レリギオスの名前などなかったが、おそらく俺の家族を奪った一派は、レリギオス・オーラムと思想を同じくしていた。
 撤退後も処理に追われるほど数多埋められた地雷。上空からは爆撃機による爆弾の投下も相次ぎ、人の命は蝋燭の火よりも簡単に消し飛んだらしい。
 俺はそいつらがいなくなった跡地に生まれ育った。人間という資源もなくなった土地を奴等が価値なしとして手放してくれたから、暮らせた。
 けれど、それはまた新たな地獄に踏み入っただけの話だった。
 不発弾が大量に残され、安全など1%も保証されない土地だったんだ。何度も不発弾事故は起こり、処理にあたった人間は死んだし、処理に携わっていなくとも、不意に事故に巻き込まれて死ぬ人間もたくさんいた。
 俺の家族は後者で、故に俺は前者となった。
 爆弾は怖い。人の命を簡単に吹き飛ばす。
 俺もそうやって死ぬんだ、と思った。でも、生きなきゃならなかった。
 弟がいるんだ。不発弾処理をすれば、賃金がもらえたし、この世界に命懸けじゃない仕事の方が少ない。
 ならせめて、弟だけは爆弾で死なないように。

「そんなこと、思ってたっけ」
 失笑、苦笑、微笑。笑い転げるには至らない。
 弟には爆弾で死んでほしくない。そのために不発弾処理に勤しんで、学徒兵の中で爆発物処理を専門的に学び、その努力と適性の結果が今。
 ジェイド・ウェル・イオナ・フラワーワークスは人間爆弾であった。爆弾が何より怖いのに、自分が爆弾になってしまった。
 なかなか笑える冗句ではないか。
 くつくつと、笑いながら自分を囲む少女人形を見る。ゼーロットに勘づかれただろうか。うまく立ち回っていたつもりなのに。
 少女人形はきゃらきゃら笑う。
「お兄ちゃんも爆弾人間なのね!」
「お兄ちゃんはよしてくれ」
 呼んだのが弟だったとして、今は最も自分が受け入れられない呼称なのだ。
「どうして? 年上の男の人はそう呼ぶんでしょう?」
「あー、まー、それはそうか」
「じゃあ、私とおそろいだね! せっかくなら、一緒に逝こうよ!」
 ひとりじゃない方が、怖くないよ!
 ひとりでももう、怖くないけど!

 ああ、確かに。
 爆弾は怖いけど、それは大勢を巻き込むから。巻き込まれて死ぬのをたくさん見た。
 でも、だからこそ、俺は人間爆弾になったんだ。
 一人で死ぬより、だいぶマシだろ?
「ふっ……くくく……っ」
 笑おう。笑おうぜ?
 抱きしめてくる少女人形たちを抱きしめ返す。心温まる抱擁の図に見えることだろう。可笑しくてならない。
 心音じゃない音が互いの中で刻まれているのがわかった。
 助けてくれるやつが誰もいない、孤独な日常で。——そんな場所はあまりに、俺にお似合いだった。
 だから笑う。
 俺も、この子らも、最期が綺麗な花火だったら、少しは胸が透くってもんだ。

●川崎市へ
「今回の任務地は大規模作戦渦中の√ウォーゾーン川崎市だ。だが、大規模作戦とは別の任務ということに注意してほしい」
 ややこしくてすまない、と集まった√能力者に星詠みの勿忘・灯守は告げた。
「大規模作戦『オーラム逆侵攻』ではレリギオス・オーラムに潜入している人間爆弾という工作員たちが手を貸してくれているのはご存知のことと思う。狙われているのはそんな人間爆弾のうちの一人。名前はジェイドという」
 ジェイドが自爆し、襲ってきた敵を巻き込んで死ぬ、というのが勿忘が託宣で見たものらしかった。
「それだけなら、√ウォーゾーンの戦争で殉死というあの√では当たり前のように起こる出来事なんだが、ジェイドを襲っていたのは『レッドキャップ』という傭兵少女人形なんだ。オーラムの手勢じゃない。
 ジェイドはそんなことは知らないし、少女人形なら、√ウォーゾーンにいてもおかしくないからな。多勢に無勢で自爆を決意してしまうんだ」
 そもそも、自分は裏切り者で、助けなど呼んだら裏切り者であることが露呈する。大規模作戦の展開される重要な局面なら尚更。故に助けを求めない。
「だが、これは大規模作戦に関係のない『Anker抹殺計画』による襲撃と見る。サイコブレイドの存在を具体的には観測できなかったが……戦争の最中で、人の命が一つ消えるくらい、誰も気づかない。そう踏んで作戦を展開しているのだろう」
 わざわざ、お誂え向きな少女人形まで雇って。
「ジェイドを死なせたくないのは『Ankerだから』とか『作戦に必要だから』とか、様々理由がある。けれど、当たり前に『死んでほしくないから』救ってほしい。
 全身に爆弾を仕込んでいる彼が自爆して死んだら、きっと肉片すら残らない。デッドマンにして組み立て直すこともできない。それに、√能力者以外にとって、彼は裏切り者だ。誰がその命を惜しんで、悲しんでくれるだろうか」
 そんな空しい死を迎えさせてはいけない。
 人類のために、ただならぬ覚悟を背負って立った者が報われることなくただ死ぬなんて。
「……いつか、戦争が終わったとき『本当はずっと味方だったよ』と笑ってほしいんだ」
 ほの暗い笑みなんかではなく、人類の勝利を、その栄光を支えた誇りによって、笑ってほしい。
 諦めた笑みなんて、浮かべないでほしいんだ。

マスターより

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第1章 日常 『天蓋下の少年少女』


●少年だった日
 |天蓋大聖堂《カテドラル》の空をぼんやりと見上げる。
「こんなんが天蓋で、眠れるかね」
 取り残されたようにひとりの少年が笑った。
 ……少年と呼んでよいのだろうか。彼は19歳。19歳というのは中途半端で宙ぶらりんな年齢だ。
 法的な成人年齢には到達している。けれど、酒や煙草は規制される年齢。海外であれば法的に酒が問題ない場合もあるが、さてはてここは日本であった。
 日本での法的な成人年齢、選挙権などが獲得できる年齢は18歳となったわけだが、それも数年前までは酒や煙草と同じく20歳に統一されていた。法的に成人「大人」と定義はできても、それは年齢が「到達した」だけであり、「大人になった」確かな証左とはなり得ない。
 彼は人類軍の「裏切り者」となってからこのかた、学校というものに通っていなかった。「裏切り者」になったのは、もう八年以上前のことだ。小学校も卒業していない時分より、彼は爆弾を背負っていた。
 人らしい少年時代など過ごせていない、と唇を引き結んでから、すぐにふっと笑った。自嘲である。ちゃんちゃら可笑しい。
 こんな世界で、生きているだけで奇跡と言えるのに、普通に生きることもままならない世界で、普通なんて異常なのに。「普通」で在りたかったのか、自分は、と。
 普通で在りたい人間が、身体中に爆弾なんて、埋め込むわけがないだろう。——天蓋を見上げたまま、彼は歩いた。白手袋に包まれた指先をなんとなしに擦り合わせる。少し硬質な音がした。
 大人でないのは良いとして、じゃあ子どもか? というと、やはり19という年は如何ともしがたい年齢である。やはり中途半端だ。
 はっきりさせておきたい。けれど、はっきりしたいわけじゃない。自分のこと、「立場」に関しては「スパイ」という肩書き上、はっきりさせないのが最良なわけだが。わからなくなったときには、確かめたくなるものだ。
 思考が脳内で渦を巻く。ぐるぐるぐるぐる廻り続ける。
 バターみたいに溶けて、なくなってくれたら、心労なんて生まれないのに、と世迷言。
 けれど、思考を停止したら、「人間」としての価値がなくなるのも確かで、だからやめられない。
 それに、独白のときのみ許されるとりとめのなさが、彼は嫌いではないのだ。

 「オーラム逆侵攻」にて「——狼煙を。」という第一の報告書を提出した。第一ということは第二第三と続く。続いていく。
 続かせなければならない。これほどの大規模作戦が一度や二度の施行で達成されるはずもないのだ。そのため、彼は次なる作戦決行のため、川崎市内の他拠点に向かっていた。怪しまれ、マークされないうちは、各所の同志たちを決起に導き、動きを捉えられないようにする。とある星詠みに通じる「ジェイド・フラワーワークス」の役割がそれだった。
 星詠みはどこか向こうの√にいるのかもしれない。ただ、裏切り者側の動きを気取られないため、星詠みが現場の仔細な情報を自ら確かめに来るのも困難だった。だからジェイドが目となって報告する。
 移動中の現在は、嵐の前の静けさなのか、穏やかな風が頬をなぜた。許されるなら、昔に大人がふかしていた葉巻タバコでも嗜んでみたいところだ。体に悪いと言われたけれど。
 ディストピアタブレットやゲーミングスイーツ、ペインキラーにスマイルジーン……ろくなものが横行していないこの世界で、体に悪いなんて今更すぎて笑える。
 くく、と喉の奥で笑うと、カッコつけで咥えていたココアシガレットが溶けた。少し、苦い。

 あなたは彼とすれ違うかもしれないし、すれ違わないかもしれない。
 まだ何も起こっていない静けさの中で、あなたは何を思うだろうか。何のために思考するだろうか。
 我思う故に我あり。考えよ、人間は考える葦である。
 とりとめのない思考を、楽しめるうちに楽しむとよいだろう。もうじきここも、火の海となる。
志藤・遙斗

●シガレット
 志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)には妹がいる。両親を失った遙斗にとって、たった一人の血をわけた家族だ。
 「弟だけは爆弾で死なないように」というジェイドの思いには共感ができる。遙斗の出身は√汎神解剖機関で、|√ウォーゾーン《ここ》とは勝手がかなり違うだろうけれど。
 兄であるということは、年下のきょうだいを守る責任がある。その手段が遙斗にとっては警察官であり、ジェイドにとっては工作員だったのだろう。
 遙斗にはもちろん、妹を命懸けで守る覚悟がある。その点において、ジェイドの弟を守る覚悟との優劣も貴賤もない。が、ジェイドの選んだ「人間爆弾」という道を思うと、少しほろ苦いものを感じる。
 そこまで文字通りに命を懸けるしかできなかったのだろうか。|√ウォーゾーン《ここ》だとやはり「命懸け」の行き着く先はそうなってしまうのだろうか。
(ですが、同じ「兄」という立場として、応援したくはありますね。……ん?)
 なんとなしに歩いていると、法的に喫煙を認められていないはずのジェイドが咥えタバコをしているように見えた。煙を吸っているいないは法律において重要ではない。紛らわしいことをするのは問題だ、と警察官としての遙斗は考えたが、
 すれ違いざまに見たら、ジェイドの咥えているそれは、タバコに形を似せた菓子。ココアシガレットのようだ。タバコを吸う大人の姿に憧れる子どもが持つ代物。
 お菓子での真似事で目くじらを立てるほど、警察官も遙斗も厳しいわけではない。……なんだか微笑ましかった。
 19というと、次の誕生日がくれば20になるわけだ。そこからなら天下御免でタバコが解禁される。
 ヘビースモーカーになれ、とは言わないが、ココアシガレットを咥えて歩くくらいに憧れがあるのなら、誕生日を迎えさせてやりたいところだ。
 噎せるような息苦しさも、きっとすぐに慣れてしまうだろう。ここはそんな世界だ。

クラウス・イーザリー

●同じ|天蓋《ソラ》の下
(同じ歳、か……)
 同じ天蓋の下を歩きながら、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は今回守る相手に思いを馳せた。
 クラウスもまた、√ウォーゾーン出身で、家族を失っている。何か一つ、ほんの僅かな釦のかけちがいで、クラウスはジェイドになり得たかもしれず、ジェイドもクラウスのような道を辿ったかもしれない。
 守りたいもののために、爆弾を背負う未来。裏切り者の謗りを受けながらでも、「いつか」来るべき日のために、影に生き続ける日々。
 この世界は、子どもたちに選択肢など与えてはくれない。可能不可能は二の次で、できなければ死ぬだけだ。やれと言われたらやるしかない。それでも与えられた役割の中にやりがいや目的意識の合致などを見つけ、進んでいくしかない。その内側がぼろぼろで、触れただけで崩れそうでも。
 ジェイドが真っ当に学校に通って、学徒兵として、人類の側で銃を取る未来も、あったかもしれない。そうしたら、弟をすぐそばで守れただろう。けれど、ジェイドが選んだ潜入工作員の道も、迂遠ではあるが「人を守る」手段なのである。
 クラウスとジェイドの辿る道は、取り替えても、取り替えなくても、あまり変わらないような気がする。大きな何かが違うような気もするけれど、さしたる違いではない。
 善悪などで簡単に区別できるものではない。だが、√ウォーゾーン以外から見ると、結局若者が戦争に身を投じている姿は等しく嘆かわしい。家族を失って、守りたいものはあって、生きなきゃならない。生かさなきゃならない。そんな悲愴の中、銃を取るという手段しか、採れなかった少年たち。
(でも、ここではそれが当たり前だ。考えてもきっと、仕方がない)
 自らの境遇や似た境遇の他者を憐れむのは今更であった。クラウスは決して絶望をしない。それは「希望を欠落したから」という、あまり前向きではない理由からだけれども。
 自分ではない誰かが、悲しんでくれたら報われるだろうか。クラウスにはわからないけれど……。
 とりとめなく思考を巡らせていると、ジェイドとすれ違った。ココアシガレットをタバコの真似事としてでなく、普通に食べ物として噛み砕いていた。飽きたのだろうか。
 すれ違っただけでは、彼の全身に爆弾が埋め込まれているかどうかなんてわからない。ただ菓子を食む少年だ。
(いつかきっと笑える日が来るから、なんて俺は思いはしないけれど、星詠みの言っていた『死んでほしくない』という願いは叶えたいな)
 お互い、羨ましくもない過去や身の上を抱えて歩み、今日、少し語弊はありつつもたまたま、ここですれ違った。
 過程がどうあれ、きっと生き延びるのに必死だった。
 歩き続けて、同じ世界を駆け続けていれば、きっとどこかの戦場ですれ違ったことだろう。
 今日がその一つだ。

第2章 集団戦 『傭兵少女人形『レッドキャップ』』


●何咲く野原か
 ココアシガレットを噛み砕く音がやけに響いた。
 ジェイドが何故タバコもどきを吸うのをやめたのかと言えば、それは飽きたからなどという猫のような気紛れではなく、
「お兄ちゃん、こんにちは」
「……こんにちは」
 赤い帽子の女の子に話しかけられたからだった。
 赤い帽子の女の子は少女の姿に見合った軽装であるものの武装をしており、胸に巻いているのはおそらく……と考えた。
 レリギオス・オーラム、人類殲滅を思想とするゼーロットの支配下で、人間が普通の顔をして出歩けるはずもない。かといって機械のようには見えない。|少女人形《レプリノイド》だ。
 初めて見るが、レリギオス・オーラムの新たな手勢か——ジェイドが心中でそう警戒したのは、尤もなこと。
 そんなことはお構い無しに少女は話しかけ続けるし、ジェイドもなんでもない顔で応じた。
「お兄ちゃん、ジェイド・ウェル・イオナ・ブロウクン・フラワーワークスで合ってる?」
「はは、長いだろ。ジェイド・フラワーワークスでいいよ。何か用か?」
「フラワーワークスってかわいい名前だね。あれ? でも、花火ってファイアワークスじゃなかったっけ?」
「ご先祖さんからの名前だからなぁ、よくわからん」
 本当に、なんでもない話。ふふ、と笑って、余裕のあるように。
「わたしね、お兄ちゃんを殺しに来たの!」
「ご苦労なことで」
「同じ|天蓋《ソラ》に咲けたら、とっても素敵じゃない?」
 少女の異様な言葉の羅列に、ジェイドはそうだな、と頷いた。頷いて、少女に銃口を向ける。
 少女は笑った。
「やめて、お兄ちゃん」
「っ、お兄ちゃんはよしてくれ」
「えー? 年上の男の人はこう呼ぶんでしょ?」
 少女に他意はない。が、「お兄ちゃん」と呼ばれたことにジェイドは動揺する。照準がぶれる。
 きゃらきゃらきゃらきゃら。「変なお兄ちゃん」と少女は楽しそうだ。くるくるジェイドの周りを回りながら、徐々に数を増やしていく。|少女人形《レプリノイド》らしく。
「夏だし、花火は綺麗だし。わたしたちの命は軽いし、そこに価値なんてないし。どうせ死んでも元に戻るし。お兄ちゃんは花火になるの、イヤ? いつか花火になるために、爆弾になったんじゃないの?」
 否定ができない。
 この世界での命なんて、花びらよりも呆気ない。顧みられることもなく、ただ戦死者としての数値に1加算されるだけ。まるで価値がないみたいで、爪痕もロクに残せない。
 だったら、「最期」の姿くらい、選びたい。
 それで、爆弾を背負った。打ち上げ花火になんて、なれないけれど。音が、光が、誰かの記憶に刻まれて、忘れられないでいてくれたら。
 そんなことを願った。
 弟が爆弾で死ななければよい。
 俺は爆弾で死ねばいい。
「ねえ、お兄ちゃん、イヤ?」
 銃口は、惑うまま。
 少女は、笑うまま。
クラウス・イーザリー
汀・コルト
那弥陀目・ウルル
志藤・遙斗

●せんこう
「させないよ」
 銃声。ジェイドが放ったものではない。
 何気なくすれ違っただけの青年——クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)が少女人形に向けて撃ったものだ。
 きゃっと軽く悲鳴を上げつつ、慣れたように後退して回避する少女人形。彼女らを寄せ付けないように、クラウスは牽制射撃を続ける。
「あんたは……」
「邪魔をしてすまない。だけど、君に死なれたくないと言っている人がいるんだ」
 クラウスの言い回しは普通に聞いたら、少々おかしく感じたかもしれない。普通、このようなときにかけるべき言葉は「君に死なれたくない」という「自分」から発信される気持ちであるはずだ。
 死なれたくない。それはクラウスも思っている。思ってはいるけれど……同じ世界に生まれ、同じように戦争で数々を失って、それでも尚、自分は生き延びた。そのことに対する罪悪感。……ひどく、わかるのだ。
(死んでほしくない、なんて「俺自身」の言葉じゃ言えない)
 死にたい気持ちがわかるから。
 戦場で親友を失った。あいつは俺を庇った。優しく、力強く、誰かの心を支え続ける太陽のようなやつだった。
 生きるべき人だった。
 命は簡単に吹き飛ぶ。どんなに懸命に生きたって、足掻いたって、善行を積んだって、それを省みてくれる何かはこの世界にはない。それがない世界に、希望なんてあるわけがない。
 生きるべき人が生きることもままならない世界なら、死ぬべきときを、死に際の有り様を選びたい。クラウスとて、常日頃から思っていることだ。
(綺麗に……綺麗に死ねる場所があるなら、俺だってそうしたい。満足して親友のところに逝きたい。そう思ってる。ずっと)
 ずっと。
 自らに爆弾を仕込んで、火薬の臭いに焼かれながら、似せ物のソラの下に咲く。夏に花火なんて風流じゃないか。——そんな√ウォーゾーン流の|笑えない冗談《ブラックジョーク》みたいな、本当の気持ち。
 自分も同じものを抱えているのに、「死んでほしくない」と言えない。
 どの口が言うのか——。
 ある意味、クラウスはレッドキャップたちと逆だった。同じだからこそ、素直な言葉で話せない。
 それでも、それなら、
「その人のためにも、守られてくれないか?」
 人の言葉を借り受ける。
 死んでほしくない、と言っていた星詠みがいたんだ。君は見ず知らずの人かもしれないし、彼女ももしかしたら、予知で見ただけで、君のことを知らないのかもしれないけれど。
 まだ、「生きてほしい」と願ってくれる人がいる。俺もそう願ってくれる人を蔑ろにしたいわけじゃないから、死なないよ。
 君もそうだったらうれしいな。
「……ああ」
 低く、空気に溶けて消えそうな声だった。それでも、ジェイドは頷いた。
 そうと決まったなら、クラウスに迷いはない。レッドキャップに踏み込んでいく。
「あはは、そっか。素直に死んではくれない? かな? あはは。そうだよね。ふつう、そうだ。じゃあ、まずは逃げる足を切ったらいいかな? 銃を撃つための腕がいいかな?」
 狂気のような発言を、レッドキャップはただただ素朴な疑問のように放つ。その象徴である【赤帽子】を投げた。ただの飾りではなく、それは命中箇所を【切断】する刃の仕込まれた凶器だ。
 絶望をしたら、人は死ぬのだろうか。死ぬしかないとわかったら、足掻きもせず、諦めて?
 赤帽子が四方八方から飛来する。ただの帽子じゃないのはジェイドもわかったが、切断を宣言したほどの悪意は簡単に回避を許してはくれない。何より少女人形、数が多い。
「右に避けて。あとはエネルギーバリアで対処するから」
 ジェイドにそう声をかけ、ダッシュから流れるようにパルスブレード「暁凪」を一閃。汀・コルト(Blue Oath・h07745)が少女人形を一体無力化する。
 きゃは、と壊れたような笑い声を上げ、命を落とす少女人形。√能力者である彼女は透明になり、やがて√の彼方で再構築される。
 立て続けに他数体にも強撃を与え、距離を取らせたところで、コルトはジェイドに振り向いた。
「はじめまして。星詠みのひとに頼まれてきたよ」
 ジェイドに負傷がないことを確認。油断なく「luna」でエネルギーバリアを展開しつつ、「sphere」でレッドキャップたちをスキャン。プリズムランチャーによる無差別攻撃で削っていく。
「星詠み……何か動きがあったのか」
「大規模作戦と直接関わりがある相手じゃないけど。……【Echo Channel】で接続しているから、回避に役立ててね。反応速度が上がってるはず」
 それでさっき、回避が間に合ったのか、と納得しつつ、ジェイドはコルトに一つ投げかける。
「星詠みの託宣があったのはわかったが、どうしてここまでするんだ」
 別に、助かりたくないわけではないけれど、この疑問はずっと蟠り続ける。自嘲したいくらいだ。助けてくれてありがとうとだけ言えたなら、どれほどよかったことか。
 奥底に燻り続ける希死念慮が、不完全燃焼気味に煤を吐いているのだ。本当に、自分は、と思う。
「報われてほしいって、言ってたから。私もこの状況をどうにかしたかったし……」
 両脚を失い、両眼を義眼に替えられて、コルトも苦しい思いはした。それでも絶望せず、命を繋いでいる。自分のものだけではない。誰かの命も、繋いでいく。
 誰かの力になるために、私は戦うんだ。だから、生き延びるし、繋いでいく。
 そうしたら、私が繋いだ誰かの命も報われる日が来るから。
「報われる日って、いつ来るの?」
 水を射すように、レッドキャップの言葉が刺さった。声に反応し、ジェイドが【赤帽子】を回避、コルトは「lucy」で牽制射撃を放つ。
 間にクラウスが立ち入り、光刃剣を走らせて、レッドキャップのハチェットと打ち合う。ハチェットの方が重みがあるが、使い手が少女であるため、威力は五分五分。【Echo Channel】の接続を受けた上、居合技能を持つクラウスの方に軍配が上がる。
 畳み掛けるように別のレッドキャップが横合いから手斧を振るう。じん、と手が痺れる心地がしたが、クラウスはすぐさまカウンター。【虚影斬】により回復しつつ、【赤帽子】の投擲を阻止する。
「報われる日って、いつ来るの?」
 少女人形の無垢な瞳が問う。
「そんな日なんて来ない」
「いつ来るかもわからない」
「いつ来るかわからないものを待つのはつらいよ。しんどいよ」
「だからやめちゃいたいって思うんでしょ? お兄ちゃんも、お兄ちゃんも。生きるのを」
 攻撃が通用しないことを、この少女人形は嘆かない。最初から知っているのだ。無駄だと。
 無駄な命だと。
 足掻くひと。藻掻くひと。生きたくないひと。死にたいひと。
 命に然したる価値のない世界で、希望を見失って。希望を信じるために人を裏切って。傷ついて、傷つけて。心が血を流していても、外傷がないから平気なフリをしなくてはならなくて。
 報われる日を待ちながら、同時にいつか死んでしまってくれないかな、なんて星を眺めて、馬鹿らしいな、なんて笑う日々。馬鹿らしいのはわかっているのに期待する自分だ。痛いクセに傷つく方ばかり選ぶ自分だ。
 大切な何かは守られるべき。そのために自分は傷ついてもよいものとする。いいや、ちがう。他の何も傷つかないでほしいから、自分こそ傷つけ。そう思って生きている。
「そうでしょ? お兄ちゃん」
 【赤帽子】は届いていない。手斧の間合いにも入っていない。けれど、少女はジェイドを抉っていた。傷つけていた。着実に、確実に。
 言葉の刃は不可視だから。どれだけ鋭いかもわからず、避けることもままならない。
 ——知らない誰かが、俺に「死んでほしくない」と願ったらしい。
 別に、その願いを蔑ろにする気はない。少し心が温かくなった。ほっとした。こんな俺でもまだ、誰かの役には立っていて、生を望まれている。些細なことだけれど、うれしかったんだ。
 守られてくれ、生きてほしい。報われる日へ向かおう……そう手を差し伸べられて、ああ、まだ大丈夫だな。大丈夫でいていいんだな、と。
 思えていた。
 でも、まだある。あるんだ。
 『死にたい』
 こんなに励まされてなお、仕舞わせてはくれない。
 終わせて、くれ、ない。
 俺の顔を見て、十三人の彼女らは笑む。
「ねえ、本当はもう終わりたいでしょ? おしまいになりたいでしょ? 逝こうよ、一緒に。なりたかったんでしょ? ずっと。綺麗な綺麗な花火。夏だからどんな命でも綺麗に咲けるよ。……お兄ちゃん、イヤ?」
「イヤですぅー!!」
 答えたのは別の「お兄ちゃん」であった。
 ジェイドとレッドキャップを遮るように踏み入って、元気のよいお返事と共に【|血刈術《ブラッディ・ハーベスター》】を叩きつけたのは那弥陀目・ウルル(世界ウルルン血風録・h07561)である。その剽軽な登場と不釣り合いなまでに物々しい血の大鎌が、少女人形を切り払う。「あ」という悲鳴でもない声をこぼして、人形はくずおれる。
 ウルルの登場にきょとんとしていたジェイドの腕を志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)がそっと引いた。
「ジェイドさん、加勢しますので後方に下がってもらえますか?
 後は俺が対処しますので」
「ああ」
 既に「なぜ」に対する答えは与えられている。故に問いこそしなかったが、戸惑いは簡単に拭われなかった。
 遙斗が煙草に火を点ける。
 レッドキャップがまた【レッドキャップ分隊】を呼んだ。
「わたしたちはね、√能力者だから、終わらないの。終われないの。お兄ちゃん、終わってよ」
 群がる少女に、遙斗は呼び掛ける。
「少女人形とはいえ子供をいじめる趣味は無いんですよね。大人しく撤退する気はないですか?」
「撤退?」
「撤退?」
 遙斗の言葉に顔を見合わせる姉妹たち。まさか「撤退」の意味がわからないわけではあるまい。
「√能力者で、死んでもまた生き返るとしても、死んだらその場は撤退です。お互い無駄な事はしたくないじゃないですか」
「それはそう!」
 遙斗の言葉に、レッドキャップは意外にも同意を示した。が、それは撤退の意ではなく——
「お兄ちゃん、いいこと教えるね」
「爆弾のお兄ちゃんは知ってると思うけど」
「『特攻隊』に『撤退』の二文字は、許されないの!」
 とつげきー! と無邪気な声。
 十三人の姦しいこと。
「まぁ、無理ですよね」
 溜め息未満の煙を吐き出す。
 ——敵対行動の意思を確認。殲滅します。
 遙斗により、執行される正義。殺戮気体を纏い、放たれる【霊剣術・朧】は十三人誰一人にも捉えられることなく、その全ての命を絶つ。
 少女はきゃらきゃらと笑っている。無差別攻撃に蜂の巣にされても、速すぎる煙に巻かれても。
 攻撃が当たっても回復され、自分にのみダメージが蓄積され、容赦ない物量の大鎌に首を飛ばされながら、きゃはきゃはと。
 もう笑うしかできないみたいに。
 ……本当に、俺みたいだ。
 ジェイドはコルトからの回避指示などに従いながら、命を喪わないようにしていた。それでも、散る赤に、落ちて消える帽子に、ずきりと胸が痛む。
 笑おうぜ。どんな笑顔でも、笑っていたら、それでいいだろ。泣くより100倍も1000倍もマシだ。だから笑っていようぜ。
 せっかく好きな死に様を選べたんだ。笑って逝ける自分でいようぜ、なんて。レッドキャップたちがそういう考え方をしているかはわからないけれど。
 ああ、死んでいるなあ、と思う。乾いた心が寒い。
 俺も死ぬとき、こんな風に笑っていられるかな。
「なんかジェイドくんさぁ、さっき『花火になって綺麗に終わるのもいいかな〜』みたいな感じ出してなかった!? んでもって今も出してない!?」
 横合いから吸血鬼。名前を呼ばれて、その名の由来……というには少しくすんだ緑が見開かれる。
 図星だった。
 終わりたかった。綺麗になりたかった。
 裏切り者になったのは望んだことだ。爆弾を背負ったのも、「自分が背負わないことを選んで弟が背負うことになったら、きっと死にたくなるくらい後悔する」からだ。それ以上の後悔なんてないから、自分に背負える後悔を選んだ。
 裏切り者であるために——戦闘機械群を欺くために——一体何人の同胞を撃っただろうか。何人見捨てた? 何人奪った? どのツラを下げて、のうのうと生きている?
 当たり前に殺らなきゃならない。当たり前だから、できなきゃならない。
 いつか、ぜんぶ終わるとき、せめて少しでも罪を雪ぐために……綺麗に、なりたかった。
 花火は綺麗だ。綺麗なものに成れたら、綺麗に終われると思った。そう願った。
 怖くはない。
「怖くなくったって、いいわけない!! いいわけないよ!!」
 ウルルが絶叫する。壮絶な決意も、悲壮な覚悟も、ジェイドのものだ。ウルルは星詠みからそれを聞いて知っていた。
「全身爆弾だらけにして、裏切り者の汚名を被って、ずっと頑張ってきたんでしょう!? どこの誰とも知れないやつと心中? 赤帽子くんはちょーっとかわいいかもしれないけど、そんな報われない終わり方していいわけないじゃん! 大規模作戦は始まって、反撃の狼煙は上げられたかもしれないけどさぁ! まだ始まったばっかりで、レリギオス・オーラムにはこれから、一泡も二泡も吹かせてやらないといけないんだから!!」
 鎌を振るい、迫り来るレッドキャップたちを薙ぎ払う。ウルルはちょっと泣いていた。
 だって、この場の誰も泣いてないんだもの! 信じらんない!! ……は言い過ぎかもだけどさ!!
「この世界ではそれが当たり前とか、わかんないよ! 僕は|√EDEN《楽園》の吸血鬼だから! 頭楽園なんだ悪いね!
 星詠みくんから話を聞いて、『報われない終わり方をしてほしくない』って彼女は言ってた。その意見に同調したから、僕はここにいる。キミを助ける!
 この世界の当たり前はわかんないけどね、キミの話聞いてちょっと泣いた!!」
 果たして、「ちょっと」で済んだのか。
「キミが吹っ飛ばすべきなのは自分じゃない、この理不尽な世界の方だよ!」
「……できるか? それ」
「そのために、俺たちがいるよ」
 希望を失っても、立ち続ける兵士がジェイドに応えた。目減りしたレッドキャップたちを見据え、クラウスはレイン砲台を展開する。——|親友《太陽》が残した|形見《なみだ》を。
 自分の言葉では「死なないでほしい」「生きてほしい」と言えない。けれど、星詠みや、ここに集ったみんなが紡いでくれた。
 だから、
「いつか戦いが終わった時に笑っていてほしいんだ。だから今は、生きてくれ」
 借り物の言葉だけれど、クラウスも鼓舞した。自分では紡げないけれど、ここに来られなかった者の想いを代わる。自分の「声」で語ったなら、少し自分では支えて出せない思いも乗ったような気がする。
 そうして、繋いでいく。繋いだ先には「報い」が待っているのかもしれないけれど、今、誰もが「報われる未来」に向けて、走っている。
 クラウスには見えない|希望《なにか》を見据えている。
 目的地が見えなくとも、導があれば歩いていけるから、クラウスも道を共にできる。
 ジェイドも。
 ウルルがジェイドの肩をがしっと叩いた。
「とりあえずこの場を切り抜けてさ! ゼーロットぶっ飛ばしてぇ! そんで裏切り者の汚名も返上して!
 兄ちゃんめちゃんこ頑張ったんだぞ〜って弟くんの頭を撫で回しに行こうよ!!」
 どう!? と捲し立てるウルルにジェイドは目を丸くした。
 ……弟。もう、どれくらい会っていないだろう。最後に会ったときには、弟も自分の裏切りを知って、互いに銃口を向けたのだったか。
 顔向け、できるかなぁ、今更。
 でも。
「ハハッ、名案だな、そりゃ」
「なら、あなたの命の使いどころは、今じゃないと思う」
 くつ、と笑うジェイドに、コルトがそう告げた。プリズムランチャーが止む。
「お兄ちゃ——」
 【決戦気象兵器「レイン」】がレッドキャップに突き刺さった。殲滅されていく少女。誰かの操り糸から、解放されていく。
 運良くなのか、運悪くなのか、「レイン」から逃れられた少女も一刀に伏され、自爆特攻を決断した個体は、ジェイドに撃たれ、倒れる。
「ごめんな。まだ咲くには早いみたいだ」

 静寂。
 はは、とジェイドから空笑いが零れた。
「敵の殲滅を確認、取り合えずこれで一安心って所ですかね」
 レッドキャップが一体残らず消滅するのを確認し、遙斗が新しい煙草を出す。
「さて、ジェイドさんこの後どうします? 上からは君の安全を確保しろと指示を受けているので、大人しく安全な所に避難してくれるとこちらとしては助かるんですけどね」
「安全な場所、か」
 レッドキャップがレリギオス・オーラムの手勢でないことは理解したが、それではどこが安全かと言われると、即座に挙げられる場所がない。ジェイドは形式上とはいえ「人類の裏切り者」であり、これからまだ暗躍せねばならない以上、人類軍側に救援を求める、という決断は下しにくい。
 かといって、オーラム側に救援を求めるのも具合がよろしくない。ましてやここは現在オーラム軍と人類軍のせめぎ合う渦中の川崎市だ。
「まあ、見回りにかこつけて、近くのシェルターにでも行くかな」
「なら、そこまで護衛します」
「必要ない」
 遙斗の申し出を断ったのは、ジェイドよりも低い声。
 緊張が走る。固い表情でジェイドが振り向く。
 その先にいた男も、翡翠色の目をしていた。

第3章 ボス戦 『外星体『サイコブレイド』』


●切っ先と銃口
「……誰だ?」
 当然ながら、ジェイドの知らない人物であった。戦闘機械群側に潜入して長いが、見たことがない。あんな剣を持っていれば、印象に残りそうなものだが。
「敵とだけ認識していればいい。ジェイド・フラワーワークス。お前を殺しに来た」
「……なるほど、さっきの子らの雇い主ってとこか」
「物分かりがいいな」
「おかげさまでな。その方がやりやすいだろ」
 表情一つ変えないサイコブレイドところころと様々な表情で笑うジェイドは対照的であった。
「でも、俺を殺して、何になるっていうんだ? さすがに初対面だし、戦闘機械でもなさそうなあんたに殺意抱かれてんのは傷つくが」
「殺意か。……レッドキャップは俺が雇ったが、俺とて雇用主がいる。それらがお前を殺せとのお達しだ」
 Anker抹殺計画。『外星体同盟』よりサイコブレイドに与えられた任務。サイコブレイドはサイコブレイドで、人質がいる。できなければ人質の命が危ない。
 ……なんてことで同情を誘うような男ではないため、ジェイドはそれを知らないままだ。
「お前は誰かに生を望まれている。同時に同じくらい、誰かに死を望まれている。その結果がここにいる√能力者で、倒されたレッドキャップたちだ」
「死を望まれてんのはわかってら」
「それ以外のこともわかっておけ」
 サイコブレイドの姿がぶれて消える。
 次の瞬間には、サイコブレイドの冷たい剣がジェイドの首筋に宛がわれていた。
 殺意と敵意をありありと表しながら、その刃はジェイドの肌に傷一つつけないまま、すぐ下ろされる。
 息を詰めていたジェイドが、溜め息のように吐き出した。
「あんた、何がしたいんだ……」
 何がしたい、何がしたいのだろうな——サイコブレイドは視線をふいとさまよわせる。
 誰かの守るべきものを殺して、自分の守るべきものだけを守る。そんな自己本位。
 許されない。許されるわけがない。許されていいはずがない。それでもやらなければならない。できなければならない。幸か不幸か、懸かっているのは自分の命ではない。……が、それは他者の命だからこそ、いっそう重いのだ。
「Anker抹殺計画……お前もまた、誰かしらのかけがえのないものなんだ。恨みはないが、殺されてくれ。
 戦禍による華々しい殉死とはいかないが、その背に負いすぎた荷を下ろす手伝いをしてやる」
 楽になったらどうだ、若人。
 ふっとジェイドが苦笑する。諦めも僅かに香る。けれど何より、可笑しくて笑った。
 口のよく回る男だ。本当は殺りたくないんだな、と察した。だって、今の会話の最中に、男はジェイドを微塵切りにすることができたはず。
 情けがある。良心がある。同じように苛まれている。
 あまりに、可笑しい。
 楽になりたい、と言ったら、痛みを感じさせることなく、トマトみたいにスライスしてくれるんだろうな。はは。
「でも……今は、死ねないや」
 ジェイドは、くすんだ緑色で、助けに来てくれた√能力者たちを見やる。
 死んでほしくない、まだ戦って、ゼーロットをぶっ飛ばして、勝利を得て、弟の下に帰って、頑張ったよ、味方だったよ、という未来を示された。そんな日が来るといいな、と思った。
 願ってくれた。その想いを足蹴にするほど、ジェイドの心は死んでいなかった。……それでも、「死にたくない」とは言えなかったけれど。
 銃口じゃないものを、切っ先じゃないものを、俺もあんたも、向けられたらよかったのにな。
志藤・遙斗
クラウス・イーザリー
汀・コルト
那弥陀目・ウルル

●覚悟のひと
「あ、予兆で見た事ある人だ!」
 とても素直すぎる感想を述べたのは那弥陀目・ウルル(世界ウルルン血風録・h07561)である。
 サイコブレイドが大型予兆で出てから、間もなく三ヶ月が経とうとしているわけだが、√能力者でないジェイドはそれに触れる余地もなかったため、奇しくもウルルの言葉でサイコブレイドが何者なのかを理解する。
 大規模作戦の開始も、ゼーロットに纏わる大型予兆がきっかけだったという。そのレベルで共有される脅威。——|王権執行者《レガリアグレイド》ってヤツか、とジェイドは警戒を強める。
 ゼーロットは性格がアレで実力もアレなので「脅威か?」と一瞬思ってしまったが——そんなことを考えるほどの心の余裕ができたと肯定的に捉えることにして——サイコブレイドは間違いなく「脅威」だ。一般人でも感じ取れるくらいの「雰囲気」がある。
 碧眼が額にもある。ということは人間ではなさそうだ。それくらいしかジェイドにはわからなかったが、ウルルの着眼点も額の目に向いたらしく、疑問が紡がれる。
「それオデコのお目目はサングラスしなくていーの? 日光しんどくない? 僕はしててもしんどいときある」
「……だからこそのフードでは?」
「なるほど!」
 思わずジェイドが口を挟む。サイコブレイドは無表情のままなので、何を思っているかわからない。
 が、あからさまに間の抜けたやりとり。それなのに、サイコブレイドはジェイドを襲おうとしない。やる気がないというよりは、その奥底には大型予兆から読み取れた通り、懊悩が存在するのだろう。
「警察です」
 そこへ、警察手帳を提示しながら、志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)がサイコブレイドの前に出る。
「無駄な抵抗はやめて今すぐ大人しくしなさい」
「それで抵抗しなくなると思うのか?」
「生憎と、実際に大人しくなる人物を見たことはありません。アナタも、大人しくなってくれるわけではないようですね」
 持ち上げられた「サイコブレイド」に遙斗は微かに嘆息。やれやれといった様子で新しいタバコに火を着ける。
「ペースがはやくないか? 体に悪いぞ」
「お気遣いどうも。ですが、事情はあれど、アナタに退く気はないようですし、こちらも全力をもって、アナタを排除します」
 遙斗の宣告と共に、その体には紫煙が纏われていく。殺戮気体だ。
 命に仇なす存在への【|正当防衛《セイギシッコウ》】。
 サイコブレイドの目が険しく細められる。速度上昇による遙斗の素早い剣戟が「サイコブレイド」とかち合った。どうにか応対しているが、剣に何かがチャージされている様子は見られない。余裕がないのか、それとも。
 だが、反撃をして来ないのなら、畳み掛けるまで。サイコブレイドの足元付近に雷属性の弾丸が着弾する。
 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)だ。【紫電の弾丸】により、サイコブレイドにダメージを、味方に強化を与える目的。汀・コルト(Blue Oath・h07745)による【Echo Channel】の接続も継続されているため、√能力者とジェイドの基礎能力値は底上げされている。
「ジェイドさんもそうだったみたいに、おじさんも、自分に課された任務に苦しんでる……」
「同情ならいらん」
「そう。でも、ごめんなさい。Ankerがいない私には、あなたの苦しみを理解しきれない」
「√能力者である以上、Ankerは存在する。死に戻りをするのに座標は必須だ。が、Ankerは√能力者を殺せる存在。死にたくないからAnkerを定めないというのも珍しい話ではない。共感がないことを謝る必要はないさ」
「そうなんだ」
 少し不思議だった。王劍のもたらす絶対死領域を除き、√能力者に二度と返らない絶対的な死をもたらせる存在、Anker。その側面を聞くと恐ろしいもののように聞こえる。
 それでも、どうしようもなく大切で、守りたいと願える——願ってしまうもの。命を脅かすのに、自分の命より大切。そんなどうしようもなさ、矛盾と呼んでしまうと無情なナニカがAnkerだという。
 やっぱり、わからないな、とコルトは瞬きをし、改めてサイコブレイドを見据える。
「それに……どんな理由があっても、任務で人を殺そうとするなら……私も、任務として止めるだけ」
「そうか」
 ザンッ
 遙斗の剣に見切りを交えた大振りな薙ぎ払いで対処しつつ、サイコブレイドは視線を周囲に走らせた。ばちりと弾ける感電のダメージが耳障りだが、集中を乱さない。
 コルトが展開したレギオンを警戒する。コルトの「luna」と「lucy」はジェイドを守るように展開され、近づけば「luna」がバリアを張り、「lucy」が牽制射撃を放つ。しかし、積極的攻勢はこちらではないらしい。
 レギオンではないものからの射撃がサイコブレイドを襲う。多種多様な√能力者にAnker抹殺計画を妨害されてきたサイコブレイドだが、「彼」と対峙するのは果たして何度目か。
 あちらが見慣れてきたように、サイコブレイドもそのレインメーカーの顔は覚えていた。もはやよく知る顔のうちに数えていい。それくらい見慣れた顔を——その目の青を見て、サイコブレイドは瞠目した。
「やっぱり、わかるものなのか」
 クラウスがその反応にぽつりと言葉を紡ぐ。
 Ankerを追い求め、気が狂うかと思うほどに求め続けた歳月の果て、星間生命が身につけてしまった√能力。一連の計画の要である「Ankerを見分ける能力」は一般人の中からAnkerを見分ける、というのが一般認知だろう。しかし、Ankerであれば、そこに能力の有無は関係ない。√能力者とて、Ankerにはなり得るのだ。——今のクラウスがそうであるように。
 Ankerとは、心の楔。Ankerの中にはどうしようもないクズやダメ人間もいる。犯罪者やストーカーをAnkerにしてしまう者もいる。要は√能力者本人の心が傾くものであれば、その立場や性格、有り様に貴賤などなく、誰もがAnkerとなり得る。
 だから、√能力を持つ者が誰かのAnkerとなることは珍しいことではないのだ。
 それでも、動揺した。
 大袈裟な動揺ではない。普通は一般人とAnkerの見分けもつかないように、√能力者が誰かのAnkerになったって、違いはわからない。だから、この動揺はサイコブレイドにしか感じられないものだった。致し方ないもの。
 けれど、そのあからさまな隙を加速した遙斗が見逃すはずもなく、鋭く【霊剣術・朧】を叩きつけた。
「ぐ、」
 バチ、と畳み掛けるような感電ダメージ。サイコブレイドの触手部分が抉れ、爛れる。が、その負傷をものともせず、まるで捨て身であるかのように、サイコブレイドはクラウスに迫った。
 √能力者は殺せない。そんなことはわかっている。Ankerを殺したいわけではない。それでも、道を妨げるものを、排除しなくてはならない!!
 言い聞かせるような緑の目は、暗い。その切っ先は鋭く、クラウスは√能力者であるからか、ブレがない。
 けれど、その剣を受けたのはクラウスではなかった。コルトである。【|レギオン・シグマレイ《ファーストプロトコル・アクティブ》】によりダメージを先送りにしていた。【サイコストライク】が来ると予期しての対処だ。
 その予測は見事的中、サイコブレイドは感電によるダメージが目立ってきた右腕を切り捨てる。左手に持ち替えた剣での再攻撃。
 コルトは「luna」で防御を展開、迫り来る「サイコブレイド」を「暁凪」で受け止める。
 猛攻を続けようとするサイコブレイドに、レイン砲台によるレーザー射撃が刺さる。鬱陶しげに浅い呼吸、サイコブレイドは距離を取らざるを得なくなる。
 ——標的だけを狙えばいいだろう?
 そんなことはサイコブレイドもわかっているのだ。邪魔者を排除しなければならないなど、言い訳にもならない。標的が戦場にいるのだから、流れ弾でもなんでも、殺せる状況ではあるのだ。
 なぜ実行しないのか。
 自分は悪だ。邪悪の側に加担している。卑怯な手管と謗られようと今更だ。暗殺者であった。後ろ指を指されるような手段を用い、標的を抹殺するのが仕事である。与えられた任務を全うすることに卑怯汚いは関係ない。そんなことはわかっているし、今までだって幾度となくそうしてきた。
 これ以上無辜の命を手にかけたくないなど、甘えだ。
 そんな思考に一発の銃弾がよぎる。
 ジェイドが、苦笑のような表情をサイコブレイドに向けていた。その手には、何かの改造が施された拳銃。
「撃ってこねえ相手は撃ちづらいだろ?」
 そう嘯いて、肩を竦めるジェイド。後方でウルルが少し呆れの色を灯していたが、ジェイドの背を押していた。
「おまじないは上々、とりあえず売られた喧嘩には札束ビンタかましてらっしゃいな」
「全然札束じゃねえけどな。サンキュ」
 ウルルは吸血鬼。常なら、血液を使い形成する【血刈術】の鎌は吸血と並行することでコスト回収を行うもの。自爆特攻前提の|少女人形《つくりもののいのち》からは思うように吸血ができなかったため、ウルルはバッテリー切れとなってしまった。
 代わり、ジェイドの拳銃に武器改造、錬金術、【|血工術《ブラッディ・ハッカー》】の併せ技で強化を施した。なんか本人はサイコブレイドを挑発しているが、戦う力はあってなんぼである。
 まあ、挑発のように映るそれも、ジェイドの心が前向きになった証ではあった。まだ笑顔の奥に乾いた心の気配を漂わせてはいるが、今はじゅうぶん。死ぬよりも生きる方向に舵が切られているなら、ウルルが今、言うべきことはない。
 ジェイドの挑発は空元気だった。が、クラウスやコルトにはその言葉の意図がなんとなくわかった。
 無抵抗の相手を一方的に害する。それは自分たちも躊躇すること。殺しに来る相手に対し、おかしな話ではあるが、気を遣ったのだ。もちろん、無抵抗で殺されてやる気がないからではあるが……戦う覚悟を持って向かってくる相手に、こちらも同じ覚悟でもって応じる。それは一種、礼儀作法のようなものと言えた。
 サイコブレイドは、そんなジェイドの様子に顔を歪めた。苦しげに。ここまであからさまに表情を変えたのは、これまでの数多の抹殺計画を通しても、初めてだったかもしれない。
 これだから、同じ気配を持つ人種は。
 ——これだから、Ankerは。
 ジェイドが撃ってくる銃弾を剣で弾きつつ、サイコブレイドはジェイドに近づこうとする。
「させない」
 義足によるダッシュで滑り込み、チャージを終えたコルトが【臨界照射スパーク・レイ】を放つ。直前にジェイドが放った銃弾がサイコブレイドサングラスを弾き飛ばしたことにより、コルトの技の威力のみならず、閃光までをもまともに受けてしまった。
 それでも、まだ倒れない。器用に額と左目だけは閉じていたらしく、閃光が止むなり開いて、貫通攻撃を乗せた【サイコストライク】をコルトに放つ。
 そこに、銀閃。遙斗の【霊剣術・朧】だ。剣には剣を。正義の下に。
 先送りダメージが返ってきたコルトは一旦下がり、援護射撃を行うジェイドの防御に務める。継続戦闘に支障があるほどのダメージではないが、サイコブレイドが【サイコストライク】を連発するのなら、もう戦闘の終わりは近い。
 光に潰された右目を潰し、サイコブレイドは再び剣を放つ。遙斗がそれと切り結び、離れ——そこにクラウスが駆けつけた。
 その魔力兵装には、ありったけの魔力がチャージされている。
「悪いな。今日のところは帰ってくれ」
 ——【月拯】
 月の光を纏い、その刃がサイコブレイドを切り裂いた。

「任務完了ですかね? さて、ジェイドさん、護衛しますのでシェルターまで移動しましょう」
「今ので終わりじゃないのか」
 遙斗の申し出にジェイドは怪訝な顔をする。サイコブレイドは大将の雰囲気を漂わせていたが、後続があるのだろうか。
 遙斗は静かに続ける。
「終わりとは思いますが、念のため。折角拾った命です。もう少し長生きをしてもバチは当たらないと思いますよ?」
「そうだよぉ?」
 そこへウルルが入り、ジェイドをボディチェックする。怪我はない様子。ヨシ! と肩をぽんと叩いた。
「|√ウォーゾーン《ここ》での生き方とか、処世術とか、僕にはわかんないけど、生きるのを諦めるのはダメなんだから! 命大事に!! まだ、大規模作戦? っていうのは続くわけだし、いつか弟くんに胸張って会いに行くっていう役目が残ってるんだから、死んでなんかいられないよ!」
 ウルルからの励ましに、ジェイドは笑い声をこぼす。まだ渇いてはいるけれど、いくらか朗らかで、翳りが少なくなっていた。
「ジェイド」
 そこに、クラウスも声をかける。
 ジェイドの中に吹き溜まる感情が、自分の内面の反射のようで、自身の言葉では励ませなかったけれど、ジェイドが前を向いてくれてよかったと思う。
「応えてくれてありがとう」
 死にたくない、とは言い切れなくとも、「死ねない」と。そう口にしてくれたこと、それだけでも思えるようになったこと、それがうれしかった。
 自分を想う誰かの気持ちからまで、目を背けるようなひとでなくてよかった、お互い。
 自分のせいで誰かが死んで……戦地で生きる以上、命が喪われるのは仕方がないことだ。けれど、その要因に自分が刺さっていたら、身を焼き焦がすほどの呵責に死にたくなる。死んでしまえ、と自分をずっと呪い続ける。その気持ちはこの場の誰よりもわかったから。
 Ankerになって、「死んでほしくない」「生きていてほしい」という言葉を向けられて。誰かの心を、自分を労ってくれる気持ちを蔑ろにしたくなくて、ようやくクラウスも「死ねない」という場所に行き着けた。
 同じで、よかった。
「こっちこそ、ありがとな」
 ジェイドの笑みが少し照れ笑いに変わる。
 気づきたくなかったかもしれない。自分の奥底にある許されてはいけない願望——許されたいという願望。それを知らしめられたのは、隠していた膿を絞り出され、風に晒されるようで、あまりに痛く、苦しい。
(でも、優しいよ。……優しいひとなんだ)
 コルトはジェイドを見つめながら思った。
 レッドキャップを撃つときも、つらそうな顔をしていた。自分と重なる部分が多かったのだろう。そういうのは真正面からまともに取り合うとつらいから、目を逸らしてしまう。実際、コルトは耐えきれず、割り切ることにした。
 痛みを抱え続けて生きるのはつらいよ。だから、それができるのはすごいよ——
 何気ない呟きのように伝えてきた少女の声。ジェイドはほろ苦くくしゃりと笑った。
「本当ね、ジェイドくん自身も色々あると思うし、さっきのオジサンも色々……本当に色々あるんだよ。
 まあ、その諸々は星詠みくんから直接教えてもらいな。その方が効くでしょ?」
「えっ」
 ウルルからウインクと共に贈られた言葉に、ジェイドが頓狂な声を出す。
 大規模作戦が終わったら、そのときにジェイドが√能力者として覚醒する——かどうかはともかくとして、どんな形であれ、共に戦った仲間となるのだ。勝利を噛みしめるときに、今日のことについて聞ける日も来るはずだ。
 死なないでほしい、そう願った本人の口から聞く。それは人伝に聞くより、この自己肯定感が低めな少年の芯にはよく響くことだろう。
 戦いは続いていく。死にたくても、死にたくても、生き続けていかねばならない。
 それがほんの少しだけ、「死ねない」と思えたら。「自分が死ねばよかった」「いつか死ななきゃならない」なんて、義務のような希死念慮から、少しだけ自分を赦せたら。
 「生きていてほしい」という誰かの願いに添えたなら。そうして、ほんの少し、もうあとちょっと、……生きていいような気がしないだろうか。
 大丈夫。そのくらいで揺らぐ覚悟ではないことを、私たちはもう、知っているから。

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