シナリオ

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桜花はなき君のために咲く

#√妖怪百鬼夜行 #リプレイ作成中

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●カミサマと|友達《しんゆう》

「ねぇ、きみは、カミサマってやつ?」

 初めて君に会ったのは、あの老いぼれた桜の蕾が運よく花開き始めた日だった。
 初めて出会った時、君は卸したての制服を着て、ニコニコと笑っていた。この神社に近くの高校に通うために引っ越したばかり。入学式は明日だけど嬉しくて、制服で散歩していたら偶然ここに来れたのだと俺に怖気つかずに話しかける君に、圧倒された。だって、ここに人が来るなんて|随分と《・・・》と久しぶりのことだったから。
「ねえねえカミサマ?またここに来ていいかな?」
「…好きにすればいいさ。こんな小汚いところでよければ」
「ん!じゃあ好きにする。あっ、そういえばあたし、カミサマに名前言ってないじゃん!じゃあ、改めて…あたし、|咲良《さくら》。『良い感じに咲く』って書いてさくら!で、ここは綺麗な桜が咲いてるじゃん!すっごい偶然だよねー。嬉しい!」
 よく話すやつだなぁと、その時の俺は思った。また来ると言って再び来るやつなんてこれまで居なかった。ここから1年以上も付き合いが続くとは思わなかった。
「ねぇ、カミサマの名前ってなんていうの?」
「俺、は……」

●君がいなくなった日
 咲良が、死んだ。自殺だった。
 高校の屋上から飛び降りたらしい。原因は、進学した高校でのからかいによる精神衰弱から衝動的行動。
 すべて、仲間の妖怪からの言伝で知った。
 出会ってから一年と3ヶ月と十数日が経った日に、咲良は死んだ。

 いつからだったんだ。あの笑顔はいつから嘘だったんだ。いつから苦しみ始めたんだ。どうして、気づかなかったんだ?
 よく|神社《ここ》に遊びに来てはいたが、最近は朝から夕方まで居座るようになっていた。お気に入りだったはずの制服を着る機会は少しずつ減り、薄汚れ穴の空いたジャージをよく着るようになった。
「咲良、今日は学校じゃないのか?」と何度も聞いた。だが、咲良はそれらしい理由をたくさん並べてずっと誤魔化していた。俺は、思春期ならではのものかもしれないと楽観し、詮索すべきではないと判断し、追求しなかった。

「咲良、もう遅いから家に帰れ」と言ったあの日、咲良は少しだけ間を空けてから笑った。
「そうだね。もうこんな時間。そろそろ帰るね。また、明日」
 それが、最期の言葉だった。

 もしも、本当の理由を聞けたのなら、君は自死を選ぶことはなかったのだろうか。積み重ねていた暗雲を、刻まれ続けた傷を癒せたのかもしれないのに。君の笑顔を曇らせる原因を取り除くことができたのかもしれないのに。

 朝からずっと雨が降っていた。降り止む様子はない。慰めの慈雨だったかもしれないが、俺には、嘲笑されているようにしか思えなかった。
 今更後悔しても遅いのはよく分かっている。
 俺は、何もできなかった。してやらなかった。
 カミサマなんかじゃない。ただ、隣に居ただけ。なのに、どうして、この胸が張り裂けてしまいそうなんだ。

「…ああ、そうか」

 俺は、彼女と過ごす日々が、いつの間にか、大切なものになってしまっていた。彼女が居ない世界がこんなに空虚なものになってしまうなんて、知らなかった。
 俺は、神社の中に入り、古びた桐箪笥から歪な形をした玉を取り出す。百幾年もの間、強大なあまり封じられた古き妖。
 何重にも巻かれた布と貼り付けられた札を乱暴に剥がした。

 なぁ、そんなにすげえやつなら頼むよ。
 縋るように、俺は、それに向かって願ってしまう。

 謝りたいんだ、あいつに。どうしても、謝りたいんだ。
 |咲良《しんゆう》に、もう一度会わせてくれよ。

●√EDENにて
「√妖怪百鬼夜行にて、ある古妖の封印が解かれてしまいました」
 √EDEN、都内の某広場。星詠みの鳴宮・響希の表情は真剣なそれだった。隣に座る白い犬(透き通った手足はこの世のものではない証明である)も彼と同じような表情を浮かべている。
「場所は繁華街から外れた、小さな神社です。何十年も手入れされていないので、かなり寂れているようです。そこに住んでいた狛犬の付喪神が、ある人間の復活を望んだことで古妖の封印が解かれた形になります」
 街の片隅にポツンと建てられた古い神社が今回の事件の舞台だ。
 長年神社に縛られ離れることができない狛犬の付喪神。そんな付喪神の元に現れた人間の少女。種族の壁はあれど、神社で出会った2人の関係はきっとかけがえのないものだっただろう。
 だが、少女が自死を選んだことを知った付喪神は、悲しみと後悔のあまり、神社で封じていた古妖の封印を解いてしまう。
「解放されてしまった古妖の名前は、『まつろわぬ神』。復活した古妖は、彼の願いを叶えるどころか、己の力にするため、彼を神社ごと閉じ込めてしまいました。このまま放っておけば、付喪神は古妖に吸い尽くされますし、神社の力を取り込んだ古妖は周囲一帯を焼き払ってしまいます」
 そうならないためにも、まずは神社全体に貼られた結界を壊してほしい。古妖は、その中で焼き尽くすための力を貯め続けている。古妖が完全となったら立ち向かうことはかなり難しくなってしまう。
「神社に張り巡らせた結界を壊し、付喪神を救出。そして、古妖を再封印してもらう。これが今回の依頼です。再封印するには、付喪神と共に閉じ込められた玉が必要です。古妖を弱らせることができれば、再封印はできると思います」

 全ての説明を終え、響希は資料の束をおろす。
 柔らかな赤の瞳が、貴方達√能力者の姿をしっかりと映していた。
「多分ここまで聞けばわかると思いますが、付喪神の願いが叶うことはありません。願いは叶わない、二度と友に会えない、街が焼き尽くされるかもしれない。そんな状況に気づいて、より深く絶望しまうかもしれません。だからこそ、貴方達の力で、彼や街を救ってください」
 それ以上の言葉を紡ぐことなく、響希は静かに頭を下げる。白い犬は、ただ静かに翡翠の瞳を光らせるのだった。

マスターより

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第1章 冒険 『結界をぶち破れ!』


●雨、桜、そして閉ざされた世界
 星詠みの導きによって、貴方たちは√妖怪百鬼夜行へやって来た。その日は、暗雲と雨によって黒く彩られていた。
 ぬかるみに足を奪われそうになりながら、貴方たちは此度の舞台である神社に向かう。そんな中、貴方は気づくだろう。
 桜の花びらが頬を掠めたことを。
 今は8月。暑さもピークに達し、春の花などもう咲かないはずなのに。

 違和感を抱えたまま、ひたすら走る。
 暗雲から注がれる雨に濡れながら、ぬかるんだ道を走り抜け、長い階段を登り切った先で、貴方たちの瞳に映ったのは、神社そのものを飲み込み、見事に咲く桜だった。
 響希から聞いたのは、神社にある桜の木は樹齢は長いが花を蓄える力はあまり残っていない細枝ばかりの1本のみだった。だが、いま目の前にあるのは、太らせた枝の先で幾多にも花開く桜の木だったのだ。
 しかも数は一本だけではなく。ぐるりと囲むように幾つもの桜の木が生えていた。古妖の力によって増殖されたのかもしれない。 
 これが、結界だというのか。
 √能力者達が近づこうものなら、花嵐や根の蠢きによる妨害を行うだろう。だが、貴方達が躊躇う時間が長ければ長いほど、古妖は全てを壊すための力を満たし、付喪神の命は確実に奪われるだろう。
 迷っている時間はない。さぁ、美しき桜の結界を打ち破ってみせろ。
エアリィ・ウィンディア

●精霊の少女と真夏の桜
 茹だるような暑さは、降り続ける雨のおかげで幾分か和らいでいた。だが、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)の青空色の髪と綺麗な衣服はその雨に濡れ続けることで、ぴったりと肌に貼り付けられる、嫌な感覚を覚える。その上、ベシャリベシャリとぬかるみにちいさな足がつく度に、靴にも衣服にも泥色を纏うことになる。
 ああ、これは帰ったらお母さんに怒られちゃうかな…なんて、一抹の不安を抱えつつ、それでもエアリィは一刻も早くこの事件を解決しようと、前へ前へと走っていた。
 そんな中、雨に紛れ、エアリィの白い肌に何かが貼り付いた。ぺらりと剥がしてみれば、それはきっと、彼女が季節が巡るたびに見かけていたものであると気づくことだろう。

「桜の、お花…?」

 その|存在《桜の花びら》に気づくと同時に、ふわりと柔らかなあの香りも漂ってきて、エアリィは思わず顔を上げる。いつの間にか彼女は現場である神社に到着していて、その神社は、巨大な桜の木たちに取り囲まれていた。
 いや、取り囲まれている…というよりは埋め尽くされていると形容した方が正しいかもしれない。
 今は、8月中旬。真夏のピークは過ぎつつはあるが、それでもこの時期に桜が咲いているという事実は常識的にはあり得ない。
 純粋な桜の美しさへの感嘆か、あるいは「真夏の桜」という異常な光景への驚きか、はたまたその両方か。エアリィはしばらく唖然としていた。
(すっごく、綺麗…。でも、なんだか…)
 なんだかーー……
 その後に続く言葉は果たして何だったのか。
 何故か浮かばなかった言葉は一旦後で考えることにしたエアリィは、すぐさま依頼の遂行を優先することにした。
 今は、この結界に囚われた付喪神を救出を優先。それだけだ。

 侵入者に気づいた桜達が、その幹を大きく揺らし、花嵐を発生させた。物理的なダメージはないものの、密度の濃い嵐はエアリィの視界をあっという間に埋めつくす。少しでも近づけさせないと次々と花びらをエアリィに向けて放つ中、彼女はわずかな隙間を縫いながら前へと進んでいた。
「うう…すごく綺麗だけど、このままじゃ、前に進めなーい…!」
 普段だったら嬉しい桜でも、こう邪魔をされてはたまったものではない。痺れを切らしたエアリィは、【高速詠唱】ですらすらと言葉を紡ぐ。
「あたしの通る道を作ればいいんだ…!精霊さん達、力を貸して!
ーー六界の使者たる精霊達よ!集いて力となり、我が前の障害を撃ち砕けっ!」
 彼女が言葉を紡ぎ終わると同時に、彼女が使役可能な全ての属性の魔力の弾丸が、桜の木達に向かって放たれる。一つ一つの威力は小さいがそれが三百もの回数を重なるものなら、巨木の幹が砕けるのは時間が問題だった。
 ぱきぱきと音を立てながら幹が砕けバランスを失った桜の木達が、次々と倒れていく。少しでも角度などを誤れば神社そのものに被害が出てしまいそうだが、そこはエアリィの緻密な計算によって回避できている様子だった。
 目の前の桜の木が倒れたことで、なんとか神社に入れそうな道が開けた。だが急がないとまた新たな木が生えてしまうかもしれない。エアリィは急いで駆け抜ける。途中、彼女を通してなるものかと枝葉や根が襲いかかるが、彼女は精霊剣を振るうことによって、その危険も見事跳ね除けることに成功する。中には切り落としてしまったものもあるが、桜は痛みを訴えることはなく蠢き続けていた。
「…綺麗な結界だけど、今は邪魔しないでね」
 切り捨てた枝葉や根に向かってそう語りつつも、エアリィの足は囚われた付喪神のもとに辿り着くまで止まることはなかった。

夜白・青

●ゆるり騙り蜃気楼
 暗雲ただよう雨の中、神社を取り囲むように花開く桜の木達を見ながら、夜白・青(語り騙りの社神・h01020)はゆるりと思いを吐露する。
「誰かがいなくなることも、自分がなにかできたのではないかと思うことも、全部が悲しいことだねい」
 雨に濡れながら、ただ静かに言葉を紡ぐ。彼の独特な言葉使いは、かつていたような気がする友人を真似たことによるもの。白き龍から紡がれる柔らかな口調はある種のギャップを思わせるかもしれない。
 そんな青に気づいた桜の木達は、彼の進む道を閉ざそうと花嵐を吹かせはじめた。雨の雫と桜の花びら。少しだけ厄介なような気がしてきた。
「うーん…ここを乗り越えることは確かに難しいそうだねい。でも、その奥にいる付喪神を助けて、古妖を封印しないといけないからねい」
 だから、まずは第一歩だねいーー。
 花嵐をかき分け進みながら、青の金色の瞳がきらりと輝く。それまでにあった緩やかな雰囲気が消え失せ、背筋を凍らせてしまうほどの視線を、緑色の組紐が目を引く美しき扇子と共に桜の木に向ける。

「それでは、語ろうかねい…蜃が見せる、真のごとき幻を…」

 シャン、と扇子が開く小気味の良い音が響く。広げた扇子を口元に寄せて語るは、葉桜と夏の日差しを連想させる|蜃気楼《ものがたり》の節々。その蜃気楼は、真夏に咲いた桜を否定する。
 蜃気楼に魅入らられた桜の一本の動きがわずかに鈍る。蜃気楼による風景によって、何かしらの拒絶反応を見せたかと思えば、そのまま硬直し、咲かせていた花が徐々に萎れてしおれていく。
「ん、成功みたいだねい」
 花嵐を避けながら、軽やかな足取りで歩く青。硬直した桜の木にわずかに|隙《すきま》が生まれていた。体を小さくかがめるなどすれば難なく通り抜けそうだ。
「先に行かせてもらうねい」
 緩やかにそう語りかけると、青は自分の体と隙間の大きさを見比べてから、その大きさに通れるように屈むなどしてから、するりと桜の結界を抜けて行くのだった。