真夜中のダンジョン攻略RTA
大騒ぎして√能力者を集めた少女、レイシー・トラヴァース(星天を駆ける・h00972)は、彼らの顔を見渡すと、自らも√能力者であり星詠みであると明かした。
「てなわけで、お集まりいただきありがとな! あたしは星詠みのレイシーだ。今後ともよろしく! で、さっそくだけど事件だぜ!」
早口にまくしたてるレイシーがゾディアックサインから得たという予知。本来√ドラゴンファンタジーに発生するはずのダンジョンが√EDENのとある商店街に生まれてしまい、人々がモンスターと化す……という内容だ。よって、速やかに「核」となる強大なモンスターを撃破し、ダンジョンを破壊するのが今回の戦いの目的となる。
「誰かが天上界の遺産を√EDENに持ち込みやがったらしい。発生が夜中だからまだマシだけど、朝になっちまったら人が集まってくるから、それまでにどうにかしたいとこだよな」
幸いにして、その地域は店舗ばかりで住宅は少なく、遅くまで開店しているような飲食店もないので、夜間はほぼ無人。最初にモンスター化するのは地域に住み着いた小動物が主だとされている。だが、犠牲を最小限に抑えるため、日の出までに攻略を終えたいとレイシーは言う。
ダンジョンの中は、小規模な個人商店風の建物が連なり壁の代わりになっている。これを駆け抜けて最深部を目指すことになる。シャッターの閉まっている店に空いている店、種類も服屋に靴屋に雑貨屋、総菜屋に大衆食堂……およそ想像しうる店は一通り立ち並び、迷宮を形作っている。
「最終的に、核になってるモンスターを倒せばダンジョンは崩壊するはずだ。元が商店街だから怪しいシャッターとかもあるし、店の中に隠し通路とかもあるかもな。うまく活用できるといいんだけど……あ、そうそう」
何かを思い出したレイシーは、人差し指を立てて√能力者たちに注意を促す。
「店の中もダンジョンの一部だし入れるっちゃ入れる。けど、ダンジョンの中の店に置いてあるものを盗んだら、強~い店主が出てきてひどい目に遭ったって話を聞いたことがあるんだ。……そういうのは、やめといたほうがいいと思うぜ?」
仮にダンジョン内の店から物品を持ち出したとしても、元に戻った本来の商店街には全く影響がないことは予知ができている。が、あえてそれをするかどうかは√能力者たち次第だ。
「ま、その辺の判断は任せるけど、いろいろと気をつけてな? 朝までに超ダッシュでダンジョン攻略、よろしく頼むぜ!」
レイシーはひらひらと手を振る。朝日が昇るまでに、「核」となっているモンスターを撃破するのだ。
第1章 冒険 『ダンジョン内を駆け抜けろ』

「お急ぎダンジョン探索……ですか」
夜中。それは昼夜逆転当たり前の風待・葵(|電子の護霊《バーチャル・ハッカー》・h04504)にとってなんらデメリットにはならない。その細い手足はダンジョンを駆け抜けるには心もとなく見えるが、葵は慣れた手つきでドローンを起動すると空に向けて放った。
「さて、このダンジョンの構造は……」
素早く飛び回るドローンが葵の端末にダンジョンの全景と敵の種類、動きに至るまでの情報をもたらしていく。やがて達成される、探索率100%。その表示に、葵は薄く笑った。
「構造把握、ルート構築はタイムアタックの基本ですよ……?」
そして悠々と立ち上がると、葵は突然、店と店の間の小道に入った。そして道を抜けた瞬間、背後に足音。そのまま遠ざかっていく。モンスターの巡回を上手く回避できたようだ。
「次はその電気屋ですかね……」
店の中の隠し通路はスタッフオンリーのバックヤード。葵はドアをゆっくりと開き……。
「あ」
中の魔物と目が合ったのでそっと閉じた。大丈夫、時間はここまでで十分稼いでいる。人事を尽くしたがゆえにガバもまた面白い……はずだ、たぶん。
(「ここがダメでも次の近道でおつりがきますから……」)
努めて冷静に、葵はドアに背を向ける。その時、ふと店の商品が目についた。
(「先にアイテム回収……タイムアタック的にはアリな道ですが……」)
葵は少し考えて、伸ばしかけた手をひっこめる。安定第一とするならば、高すぎるリスクは避けたい。
「他で稼げばいいでしょう。……おっと」
端末に示された敵の接近に、葵は慌てて身を隠した。
薄暗い商店街ダンジョンに突入した雪月・らぴか(えーっ!私が√能力者!?・h00312)は、時計を確認すると、慌てて走り出した。ゲームはすれど、らびか自身は|RTA《リアルタイムアタック》はやらないし、動画で見ているわけでもない。よってジャンプと飛び蹴りを連打したり延々スライディングしたり、そんな|奇行《高速移動術》など知らないしするはずもない。
「あんまり時間がないけど、自分なりに急げばいいよね!」
極めて正常なダンジョン攻略として何もないところで√能力【両鎌氷刃ブリザードスラッシャー】を発動……ん?
「急いでいるなら速く動けばいいんだよ!」
『雪月魔杖スノームーン』の両端に薄紅色の氷の刃が現れ、輝きを纏う。振り回せば手数4倍の多段攻撃で敵の命を刈り取るが……そう、この√能力、発動することで移動速度も4倍になる。さらにらぴかは選んで敵の多い道へ突入した。重要な場所は守りを固めるのが道理、それらを高速で薙ぎ払いながら強行突破していく。だからこの√能力を使っておく必要があったんですね。
√能力を発動したまま、古めかしいレンタルビデオ店の中も通り過ぎようとするらぴか。面白いホラー映画でもあれば借りたくもなってしまうかもしれないが……。
(「持ち物が増えると動きにくくなっちゃうし、通るだけにしよ!」)
商品棚もついでになぎ倒されるが、ダンジョンさえ破壊できれば実際の店舗に影響はないし、盗んではいないのでノーカンである。
「超強い店主、ビームでも撃ってくるのかな? あるいは犬とか呼び出されたりなんかして?」
興味は惹かれるものの、今は最速攻略が優先だ。猛吹雪の如く、らぴかはダンジョンを駆け抜けていった。
深夜の商店街に仁王立ちした明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)はおもむろに鉄十字怪人へと変じると、正義の心を胸にダンジョンを進み始めた。……が。
「あれは……」
暁子、もとい鉄十字怪人の視界に入ってしまったのは、高級そうな水晶玉だった。どうやらパワーストーンの類を売っている店のようだが……。
「やはりダンジョンには財宝がつきものか、頂いていこう」
正義に転向した怪人といえど、先立つものは必要だ。実に、実に世知辛いことだ。幸いにして、頂いてもいい価値あるものが転がっていたのなら、つい手が出てしまうのだ。力なき正義が無意味であるように、財力なき正義もまた無力。だから仕方がないのだ。
「では、行くか」
鉄十字怪人が移動を再開するが、これに慌てたのがダンジョンのモンスターたちだ。なにせ身の丈2メートルの怪人がのっしのっしとまっすぐ近づいてくる。それなりの知能があれば正面から立ち向かうなんて無理とすぐに分かる。モンスターたちは慌ててトラップを起動!
落石だ!
「まだまだー!」
強化筋肉が大岩を粉砕!
毒ガスだ!
「まだまだー!」
怪人の細胞が毒を無効化!
自棄になったモンスターの突撃!
「まだまだー!」
ブラスターライフルで横薙ぎ! 哀れモンスターたちはまとめて壁とお友達に!
鉄十字怪人を遠巻きに包囲するモンスターたち。一触即発、だがモンスターたちは及び腰だ。その沈黙を破ったのは鉄十字怪人の方だった。
「ふーしーぎ、まーかふしぎ・どぅーわー」
洗脳ソングを口ずさめば、それは√能力【不思議摩訶不思議魔空間】となって、鉄十字怪人を物語の主人公へと押し上げる。今なら何でもできるはず。
ゆけ、鉄十字怪人。飛べ、鉄十字怪人。明日の正義を守るために……!
第2章 ボス戦 『怪しい店主『ジョン・スミス』』

「おやおや、困りますねェ……このジョン・スミスの目の前で、泥棒とは」
店の奥からゆらりと現れる影。怪しい店主『ジョン・スミス』が、√能力者達の前に姿を現したのだ。
「√EDENに作ったダンジョンはいかがです? せっかくですから、もっとじっくり楽しんでいただきたいですね……」
自信作なので、とジョン・スミスは不敵に笑う。どうやらこの男が、√EDENに天上界の遺産を持ち込んだ簒奪者のようだ。出会ってしまったからには、倒さなくては。
葵の攻略は完璧のはずだった。だが、読まれているかのように雑魚を配置され、とっさの進路変更を繰り返すうちに……広場に出てしまった。そこにいたのは一人の男……葵は、それが簒奪者であると直感する。
「ようこそ、泥棒一味の√能力者さん」
汚れたエプロン、厚い手袋。職人……いや、これが予知に聞いた店主か。男は貼り付けたような薄い笑みを浮かべ、しかしその目の奥には窺い知れぬ深淵のような不気味さをたたえている。
(「泥棒は私じゃないんだけど……ここで出会っちゃうなら、対処ついでに盗んでおけばよかったかな……」)
|RTA《リアルタイムアタック》的には、予期せぬ強敵との遭遇はロスだ。だが全てがうまくいくということも絶対にありえない、それもRTAだ。この先どうリカバリするか、その技術も見どころだが。
(「とはいえ、私ひとりじゃ分が悪いな」)
逃げるか? それは無理がある。雑魚と鉢合わせれば状況は悪化する。では戦うか? 少なくとも単独では、邪悪なインビジブルの助力を得た簒奪者には敵わない。奇襲の機は既に逸した。葵は護霊を召喚しつつ、にらみ合いを続ける。
膠着。その最中、鋭い破砕音が状況を動かした。明かりの消えた店の中からガラスを突き破って怪人が現れたのだ。
「待たせたな。正義の味方、到着!」
怪人……鉄十字怪人の姿の暁子は葵の前に割って入ると、怒声一発、誰何する。
「お前が中ボスか!!!?!!?」
でかい。すごく声がでかい。それは周囲のモンスターはもちろんのこと、別の道を通っていたらぴかの耳にまで届いた。底知れぬ恐怖を感じたモンスターたちがそそくさと音の方角から離れようとする中、らぴかはあえて、声の主を探して立ち止まった。
「おおお、もしかして店主きちゃったー!?」
これは助けに行かねばと、らぴかはモンスターとすれ違いながら駆けていく。ほどなくして広場にたどり着くと、役者はそろったと言わんばかりに、簒奪者はらぴかにも一礼した。
「中ボス……そうですねぇ、まあそう考えていただいて構いませんよ。ジョン・スミスと申します、以後お見知りおきを」
慇懃無礼な挨拶が終わるや否や、ジョン・スミスは鉄十字怪人……その後ろにいる葵を狙って突進した。
「私が引き付けるから、その間に攻撃して」
葵は護霊とのコンビネーションで、次々と繰り出される警棒を防いでいく。ジョン・スミスの三倍の力の前に圧倒されそうになるが、それを見て動かぬ正義の心はない。
「待てぇぇぇい!! か弱いものから攻撃するとは根性のない奴め!」
響く怒声に√能力【疾風怒濤】を乗せて。敵が三倍ならこちらも三倍、与える恐怖は無限大。いかに簒奪者といえど一瞬怯んだその隙に、葵の護霊が組みついて自由を奪い、動作を遅らせた。怪人の強靭な腕がジョン・スミスの警棒を掴み。
「この腕! 細すぎる!! 振り回したらあっさり折れる!!!」
注目するとこ、そこなのか。ジョン・スミスの底知れぬ笑みのさらに奥に、若干の動揺が見え隠れし始めた。
「……とりあえず、何か呼び出したり即死ビームとかもないみたい。これなら何とかなりそうだね!」
雰囲気に吞まれ翔けたらぴかが魔杖を構える。護霊を殴らないように狙いを定めつつ、気持ち急ぎめのヒットヒット&アウェイ。周囲の警戒を怠らず、杖を器用に扱い攻撃を重ねていく。
「もっと筋肉!! 気合いを入れてパワーを込めねば正義の道は歩めなーい!」
「ああもう、何なんですか貴方は!」
怒りももっとも、護霊の拘束もあり、自由がほとんど利かない簒奪者。鉄十字怪人がジョン・スミスの腕を掴んで振り回した拍子に、警棒が手を離れてらぴかの方へ飛んでいく。
「おっ……せーの!」
カキーンと魔杖で撃ち返せば、ジョン・スミスの額にクリーンヒット。思わずのけぞる簒奪者に、らぴかは即座に追撃を試みた。
「よーし、【変形惨撃トライトランス】いってみよー!」
氷の魔法により、魔杖は斧刃を備えた鎖鎌へと変化する。杖として牽制し、桃色の氷の鎖で拘束し、氷刃で切り裂けば、簒奪者といえど重傷は免れない。
「今だ……最後の一押し、あいつを倒して」
らぴかが離れ、護霊の拘束を解けいたその瞬間、葵は周囲を漂うインビジブルに呼びかける。瞼を閉じてその時を待つ葵に、現れたインビジブルの群れが食らいつく。ほとんどついていない肉がかじり取られ、華奢な骨がかみ砕かれ……そうして高めた√能力が一体の獣となり、ジョン・スミスを睨みつけた。
「やれやれ、ここまでですか。せいぜい楽しんでください、本番はここからですので」
「そんなことより何だこの貧弱な腰つきは! 男ならもっとがっしり筋肉を付けんか!?」
「いや避けましょうよ貴方は。死にますよ? 彼女みたいに」
さきほどまで葵がいた場所に、残っているのは血溜まりのみ。一般人であれば肝を冷やすこと間違いなしだが、この場にいる誰もが√能力者だ。Ankerでなければ、彼らを真の意味で『終わらせ』ることはできない。
無敵獣の攻撃により、鉄十字怪人のハリウッドジャンプ回避が映え、らぴかは思わず顔を背け、ジョン・スミスの肉体は消失する。
だが、彼も葵もそう時を置かずして蘇生するはずだ。簒奪者はまた別の事件を起こし、√能力者たちはその解決に奔走することになるのだろう。
「ゆっくり楽しんで欲しいならもっと建てる場所考えてね!」
らぴかはもっともな指摘を残す。それがインビジブルと化したジョン・スミスに届くかは、分からないが。
ともあれ、死すらも計算に入れたRTAは予期せぬ展開をものともせずに進行していく。残すはダンジョンの「核」だけだ。
第3章 ボス戦 『リンドヴルム『ジェヴォーダン』』

「よくぞここまでたどり着いた! だがこのジェヴォーダンを倒せるかな?」
ドラゴンプロトコルに似たモンスター、リンドヴルム『ジェヴォーダン』は、√能力者を挑発するように手招きする。この竜こそが、このダンジョンの「核」となったモンスターに間違いない。
夜明けまでの時間はまだある。とはいえ、急いで倒さねば。
皆と一旦分かれたものの、最深部に最初にたどり着いたのは暁子……怪人であった。そこはやたらと広いフィールド、目の前に鎮座する明らかに強大なモンスター。
「この竜がダンジョンの『核』か。先ほどのジョン・スミスは軟弱だったが、こちらはどうだ? 試させてもらおう」
「ほう、俺を試そうなどと……後悔するなよ?」
ジェヴォーダンはその目を閉じ、しばし念じる。おかげで十字架怪人が懐から取り出したボタンに気付くのが遅れた。
「ポチっとな」
「……待て、今何をした?」
念を中断、中途半端な大きさに巨大化したジェヴォーダンは、部屋全体のかすかな振動に警戒を強める。一方怪人はというと、何ともないかのようにボタンを懐にしまい、自律浮遊端末ゴルディオン初号機、二号機、三号機を起動した。
「効果が現れるまで時間がかかる。その間私がお相手しよう」
「ならばその効果とやらが現れる前に、貴様を喰らうとしよう」
爪を振りかざすジェヴォーダンを、ブラスターカノンと自律浮遊端末ゴルディオンが迎撃。ジェヴォーダンが防御する間にも、振動は大きくなっていく。
「どうだ、横スクロールシューティングみたいだろう!?」
「小癪な!」
ジェヴォーダンが十字架怪人を叩き潰そうとしたその時、轟音とともに壁が破壊され、大量の水が流れ込んだ。
「なっ!?」
ジェヴォーダンはがれき交じりの水に押し流され、その攻撃は怪人に届かない。こんなこともあろうかと、実は数日前から巨大ダムを占拠していたのだ。
「ダンジョンの奥まで洪水を導くには時間稼ぎが必要だったのだ。さあ、あとは仲間がやってくれるさ!」
いい笑顔(?)で親指を立てる怪人。仲間を信じる心を持つ彼女は、正義の味方に違いない。
ダンジョンの最奥に姿を現した御兎丸・絶兎(碧雷ジャックラビット・h00199)は、巨大なドラゴンの威容を前に目を輝かせた。
「でっかいな! 倒しがいがありそうだぜ!」
「俺に言わせれば、お前はずいぶんとチビだな」
「なんだとぉ!?」
見えている地雷を踏むジェヴォーダンに、絶兎が怒り出した。感情に任せて動いているように見せて、小回りを活かした攻撃で敵の反撃をかいくぐっていく。
大きく息を吸い込む絶兎。念じ、さらに巨大化するジェヴォーダン。彼我の体格差はさらに広がるが、竜が鈍重になった分、先に身軽な絶兎が動いた。
「いくぞー……にひっ。さん、にい、いちっ! |わーーーーーーーーーーーーっ《超轟音》!!!!!!!!!!!!」
絶兎がいたずら小僧の笑みを浮かべた次の瞬間、爆音によりダンジョン内が大きく揺れた。√能力【|絶・叫・兎《ハウリングラビット》】が、その大音量で大地を揺るがし、天井を崩落させる。
「オレさまの力を見たか!」
勝負は体の大きさだけでは決まらないのだ。
「間に合ったようですね。今回はリスポーンが早くて助かりました」
肉体の再生を終えた葵が関節を鳴らす。運よく早いうえに近場となれば、一度死んだ方がアドバンテージがあるというものだ。
(「体が軽いと再構築も簡単なんですかね……?」)
ともあれ、目の前には巨大化したドラゴンプロトコル。崩れたボスフロアに対処するためか、さらなる巨大化を試みている。
「おおお、今度はちゃんと強そうなのが出てきちゃったね! ダンジョンのボスはこうじゃないとね!」
わくわくを隠しきれずに攻略法を考えるらぴか。まだ時間に余裕はある、今度はじっくり観察せねば。一方葵は、さっさと決着をつけることを考えていた。
「これ、結構大きくなってますし、ちまちました攻撃じゃ有効打にならなそうですし……ここは初手からもう一回死んどきますか」
「えっ!? またやるの!?」
√能力発動時の痛々しい様子を思い出し、葵を心配するらぴか。しかし葵は淡々と答えた。
「ええ。もう一回死んでますし、誤差です誤差。感覚が馴染んでるうちにやりましょ」
√能力発動に必要なのは、葵が敵を敵と認識するところまで。あとは死んでいる間に、無敵獣が倒してくれるだろう。
「では。私は死にますが、『核』を倒せるなら問題ありませんね」
「ううう……」
インビジブルに喰いつくされる葵を守るように、らぴかは前に出る。無敵獣の爆誕まで、葵に手出しはさせない。霊力を乗せた拳で足の鱗を集中的に破壊し、反応して生成された爪を回避する。攻撃は一点集中。機動力を奪えば、あとは√能力を叩きこむだけだ。
無敵獣が咆哮を上げる。らぴかは飛びのき敵から距離を取ると、√能力【砲雪玉砕スノーキャノン】により雪だるま大砲を大量に召喚。
「狙って狙って口から雪玉ドーンっ!」
るぴかが人差し指をまっすぐジェヴォーダンに向けると、呼び出された雪だるま大砲は一斉に発射準備に入る。狙いを定め、口を大きく開け、雪玉を一斉掃射。その弾は雪だるまの口より大きいが、√能力なので問題ない。
同時に、無敵獣が光線を吐き、回避もままならないジェヴォーダンは、光と雪の中に消えていく。
やがて、『核』を失ったダンジョンは崩壊を始める。√能力者たちは脱出し、後には大量の水とがれきと少しの血だまりが残り……それらもまた、ダンジョンと共に消え去っていった。