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戦いの果て、繋がるもの

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薄野・実

 郊外に並ぶ廃倉庫群は、昼もなお陰鬱な空気に包まれていた。打ち棄てられてもう長いこと人も寄り付かぬ場所。そういう潜伏しやすい場所を見つけるのが上手いのも、|悪役《ヴィラン》達の特徴だ。
 その日も、一体の怪人が悪事を働こうとこの廃倉庫群を訪れ――そして、部下に怒りをぶつけていた。
『どういうことだ、オイ! 商談の時間はとっくに過ぎてるぞ!』
 銀の毛並みを持つ大柄な虎の怪人――|銀白虎《シルバータイガー》ダフェラが苛立ちを露わに叫べば、黒服の戦闘員達がどうしたものかと右往左往する。
 『暗黒商社アルコル』。戦争やテロを裏から煽り、武器や改造兵士を提供するプラグマ傘下組織。その四天王幹部であるダフェラが動くほどの大きな商談が今日はあるはずだったのに、訪れた廃倉庫は無人。舐められている、と怒る銀虎であったが、その時涼やかな声が降りかかる。
「彼らには穏便にお引き取り頂きましたよ」
『……何?』
 ダフェラが顔を上げれば、そこにいたのは朱き体の鳥怪人だった。|金朱雀《ヘリオフェニクス》ファルド――かつての同僚の姿に、銀虎の怪人は顔を歪める。
『何をしに来た、ファルド。……大事な商談相手、潰したわけじゃねぇよぁ』
「言ったでしょう、穏便にと。ただの人間である彼らの命を取る理由が私にはありませんから」
『……ふざけたマネを!!』
 怒りに吠える、銀白虎。力を篭めればその筋肉質の体が盛り上がる。戦闘員達もファルドを取り囲むように展開し、まさに一触即発――けれど金朱雀は表情一つ変えず、穏やかな声で応じた。
「……戦います? ダフェラさん、残業お嫌いなのに?」
『ぐっ……』
「四天王同士でガチにぶつかればお互いに只では済まないでしょうし」
 切れ長の金の瞳は、涼やかにかつての同僚を見る。しかしその奥には鋭い光が灯っており、近寄らば遠慮はしないと警告していた。
『くそっ、テメェら、退くぞ。ファルド、今度邪魔した時は――わかってるだろうな!?』
 捨て台詞を残し、銀虎の怪人は戦闘員引き連れ撤退していく。それをその場から動かずただ見守って――ファルドは小さくため息を零した。
「やれやれ……話のわかるやつでよかった」
 呟く言葉は、怪人としてのものではない。√能力者の一人、|薄野・実《すすきの・みのる》(金朱雀・h05136)として――正しい道へと戻った彼は、かつて所属した悪の組織を潰すために、こうして暗躍しているのだ。
「さて、ダフェラに人間態の顔バレは避けたいし……戻るのもう少ししてからにするか」
 この廃倉庫を出る時は、人間態でなければならない。少し時間を潰そう……実が考えた、その時だった。一条の光が、実へ迫る。咄嗟に体の位置をずらして避ければ、そこへ更に一本、二本――無数の赤き光の矢が降り注ぎ、実は高く跳躍することでそれらを躱した。
「敵……!?」
 慌てて、光の飛んできた方向を計算する。無軌道に見えた光の筋も、辿れば全て同じ地点から発されたものだと推測できる。そうして実は敵の位置を割り出し鋭い視線を投げかける。
「この私を|金朱雀《ヘリオフェニクス》ファルドと知って……って、勇希君!?」
 朗々と語り出した声は、敵の正体を認めた瞬間に素に戻ってしまった。そこに佇んでいたのは、同じ旅団で活動する少年――ヒーローの姿をとった|天ヶ瀬・勇希《あまがせ・ゆうき》(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)だったのだ。
「なんで此処に君が……いや、君もヒーローだって言ってたか……!」
 実は勇希のヒーロー姿を知っている、しかし勇希は実の正体を知らない。だから怪人態の彼に名を呼ばれた少年は、その深紅の瞳を瞬かせている。
「……え? なんで俺の名前? もう正体が割れてる……!?」
 慌てた勇希は、一層警戒を強めた様子だった。手にした弓に氷属性の宝石を換装すると、氷の矢を番え引き絞る。
「お前もあの虎怪人の仲間だろ! 今日こそ、俺がやっつけてやる!」
「誤解……と言いたい所ですが、私のこのナリでは当然ですよね」
 わかっているのだ、不可逆の改造を施された怪人である実は、志同じはずのヒーローらと対立しうる存在なのだと。理解を得るには言葉を尽くさなければならないが――そんな時間は、ない。
「貴方の戦い振りを間近に見る良い機会……と言う事にしましょう」
 言葉紡げば、戦う覚悟も決まった。実は両手を広げて全身の力を巡らせる。力は炎となって体を駆け巡り、黄金の光を周囲に放つ。そして――彼は不死鳥・朱雀へと変身を遂げていた。その力強くも美しい姿に、勇希も目を見張る。
「なっ……なんか強そうなのに変身した!」
「今の|私《僕》の全力にて焼き払ってみせる」
「くっ……!」
 慌てて勇希が凍れる矢を放つが、遅い。不死鳥態の実はその嘴から白き灼熱のブレスを放ち、その熱で氷の矢も溶かしていく。ブレスはついに少年に届き、小柄な体を吹き飛ばした。
「うあ……っ!」
 勇希の体がコンテナに激突し、苦悶の声が上がる。ずるずると地面へ落ちていく彼を見ながら、実はその様を冷静に観察していた。
(「勇希君のことだ……これで終わりにはならないだろうな」)
 思う間にも、勇希は地面に両手をつき何とか起き上がろうとしている。そう、ヒーローはどんなにやられたって決して挫けないのだ。
「手加減は苦手でして。耐えてみせて下さい」
 実は、そんな勇希に向けて追加の一撃の準備を始める。両の掌を胸の前でかざし、その中に炎を生み出す。じりじりと肌を焼くような熱は、実の操作で化学変化を起こし――その手に、美しい宝石が生まれる。
「力を欲す者へ、輝きが仮初めの力を授く」
「……! その宝石は……」
 勇希が瞳を見開いて、大きくよろめいた。力を強化する√能力、宝石の恩恵受けた実は、勇希を仕留めようと翼持つ手を振り上げて――。
「っ! 思い出した! そうだ、その宝石! お前、実さんだろ!」
「……は、い?」
 ――勇希がはっきりと告げた自身の名前に、実はぴたりと固まった。
「どうしてその名を……」
 どうして、このタイミングで看破されたのだろう。疑問を胸に尋ねれば、少年は明るく笑いながら答える。
「えっ、実さん覚えてない? 闘技場でその宝石錬成の能力使ってさ、師匠にめちゃくちゃ質問攻めされてただろ!」
「あー……」
 思い出した、確かにそんなこともあった。あれは去年の冬、実は一時だけ勇希とその師匠と共に闘技場でチームを組んでいたのだ。属性石を手に戦う勇希の師匠は、魔法道具店を運営する旅団長。彼女は魔法宝石オタクであり――実の宝石錬成についても、瞳を爛々と輝かせてあれこれ尋ねてきたのだ。あの時、彼女の勢いを制止してくれたのが勇希だったが――まさか、そんな出来事から見破られるとは思っていなかった。
「いやー、実さんやっぱすっげー強いな! え、でも待って、あの虎怪人と仲間なのか……!?」
「いえ、私はあの白い虎とは敵です、今はもう」
「そっか。いきなり攻撃して悪かったな」
 無邪気に笑う少年の態度に、実は面食らった。正体が見知った男だったと言うだけで、こんなに無防備になれるものだろうか。怪人態の自分が怪人と対立関係にあると、素直に信じられるのだろうか。
 戸惑いつつも、実の脳裏にはある人物が浮かぶ。ああ、そうだ。見た目だけにとらわれたりせず信じるものを信じる――|正義の味方《ヒーロー》とは、そんな光に溢れた存在なのだ。
 実は小さく息を吐き出すと、怪人姿から人間態――本来の姿へと戻る。やっぱり実さんだ、と笑う勇希へ向けて、朱雀の男は静かに言葉を紡いだ。
「勇希君、君は強い。恐らく君が思う以上に」
「……実さん?」
「だからこの先必要な時、僕に力を貸してくれないか?」
 金色の瞳が、真剣な光灯して勇希を見つめる。そこにあるのは、悪の組織を必ずや倒そうと言う固い意志で――。
「もちろん! 一緒にプラグマぶっ潰して、みんなを助けようぜ!」
 力強く頷いた勇希は、信頼篭めて実に握手を求めるのだった。

 ――そうして、二人は廃倉庫群を抜けて人の街へと帰っていく、のだが。
「その……今言った事だけど。君の心の中だけに仕舞っておくって、お願い出来るだろうか」
「え?」
「誠にだけは絶対に知られたくないんだ。頼む、男の約束って事で」
 両手を合わせて深々と頭を下げる青年は、すっかりいつもの実だった。誠――確かいつも一緒にいる青年の名がそれだったと思い当って、勇希は思わず苦笑してしまう。
「なんか……怪人ってのも大変そうだな」
 その言葉で、彼との約束を請け負って。ヒーローと怪人、二人は守るべき街へと帰っていくのだった。

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