秋祭り、手を繋いで
少しだけ、暑さも和らいで来ただろうか。
|√妖怪百鬼夜行《こちら》の季節の移り変わりは、夏が続いている|√EDEN《あちら》より顕著だ。
力強い空の青さも色味を変え、少しだけ哀愁を浮かべ始めた頃。
「……ん」
小弓・佐倉(容易くちぎれ、あっけなく溶ける、綿菓子メンタル少女・h08163)の足が少しだけ止まった。
図書館からの帰り道、いつもと違う物が見えたから。
「どうした?」
木邑・零壱(黒き彼岸・h08169)がサングラス越しに少女を覗き込む。
気づけば、周囲には賑やかな声、良い香り。
楽しげな囃子も聞こえてくる。
|√妖怪百鬼夜行《こちら》の祭りは、妖怪たちと共に在る。
在るべき時に現れる、いつでも懐かしい時間の流れる場所だ。
「ああ……そんな時季か」
零壱の口から溢れる言葉。
幼き頃、我が主とその家族たちと祭りを楽しんだ記憶が脳裏に浮かぶ。
「……びっくり、した。いつもと違う、お店がたくさん?」
小弓が首を傾げる。
「秋祭りって奴だな。小弓、少し見ていくか?」
「うん」
ほんの僅かだが、楽しげに小弓の頬が動くのを零壱は見逃さなかった。
「よし、小弓。
好きな屋台を探してみるか。
色々あるぞ、俺も昔――」
零壱の幼き頃の思い出が胸で囃子を鳴らす。
「|零壱《れーち》、なんだか楽しそう?
私も、かも」
「ああ。それは良いな!
さ――人が多いから、手を」
零壱が手を差し出せば、小弓が笑顔で握り返す。
楽しげな2人は屋台の立ち並ぶ祭りへと歩を進めた。
その後ろで、二人を抱えるように|大きな手《護霊》が時折揺らめいている。
小弓を守る腕も、人混みの彼女が心配なのだろう。
美しいガラス細工のようなリンゴの飴。
美味しそうなチョコレートの香りが漂うバナナ。
ソースが香ばしい、ザクザクのキャベツの乗った焼きそば。
もちろん食べ物だけじゃない。
紐についた当たりを選ぶ、くじ引き。
水の中を流れるカラフルな夏の忘れ物、|水風船《ヨーヨー》すくい。
「……すごいね」
「ああ」
そのとき、猫又の主人が屋台の中から小弓に声をかける。
「お嬢ちゃん、金魚さんでもすくって……!?」
零壱と目が合った主人は飛び上がって驚き、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「し、失礼しやした! ちゃ、ちゃんとショバ代は払ってございやす……!」
「お、おい、待て……俺は……」
「待て! 待てと仰るんですかい!」
ぴたり、と主人の動きが止まる。
「……むう……。邪魔をしたな、悪かった……」
小さく頭を下げると、2人は金魚すくいを後にした。
先ほどから、どの屋台の前でもこの対応。
くしゃりと黒髪を掻きながら、零壱は嘆く。
そんなに俺、堅気に見えないか……? と。
「お店の人……どうしたんだろ……?」
「俺が、怖い人に見えるみたいだ」
「……怖くないのに、ね。
……あっ、あれ」
小弓が指をさすのは、射的の屋台。
その商品の棚、並んだ可愛いぬいぐるみ達。
「あれが欲しいのか?」
「うん……!」
小弓の声に力があった気がする。
顔に浮かばなくても、纏う空気が楽しいと伝えてくる。
なら、答えは一つ。
2人は射的の屋台へと辿り着いた。
「おっちゃん、1回頼むよ」
零壱が主人に声を掛ければ、相変わらず。
「あいよお、1回5発……だ……!?
う、ウチはちゃんと書類も出してますぜ!?」
「|零壱《れーち》は怖くないよ。
びっくりしなくて……いいのに。
私、やってみる」
「そ、そうでございますか!
こ、こちらの銃にこのコルクの弾を詰めて。
狙ったぬいぐるみを下に落とせれば、お嬢ちゃんのものですぜ」
「わかった……がんばる」
ぱん、ぱんとコルクが発射される音が続くが、ぬいぐるみは落ちない。
冷や汗を流すのはもちろん店主。
小弓が最後の一発を銃に詰めている間に、そっと狙いのぬいぐるみを落ちやすくズラしていた。
「……。いや、まぁいっか」
ため息を吐きそうになった零壱だが、眼の前で楽しそうに銃を構える小弓を見ていると些細なことだ。
「……あたって、ほしいな……」
パン……! と最後の銃声が鳴れば、ぬいぐるみは見事に落下。
「お、おめでとうございますうう!!!」
仰々しく店主が叫びながら、置いてあった鐘を激しく鳴らす。
精一杯、全力で。
「……やったな、取れて良かった」
「うん」
小弓が店主から受けとったぬいぐるみを片手で抱えると、僅かに頬の色が"楽しい"を帯びた気がする。
片手はぬいぐるみ、片手は零壱と繋いで。
護霊さんももちろん、彼女達を抱える。
「楽しそうで良かったよ。
さて……折角たくさん屋台があるし、食べたい物を買って帰ってゆっくり食べるか?」
「……そう、したい」
「好きなのを選ぶといい、俺も昔そう言われたんだ」
「……うん。
|零壱《れーち》、また、お祭り……行けたらいいな」
「ああ――俺もだよ」
小弓の小さく優しい手が、思いを込めて零壱の手を握るのだった。