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秋祭り、手を繋いで

#√妖怪百鬼夜行 #ノベル #秋祭り2025

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小弓・佐倉
木邑・零壱

 少しだけ、暑さも和らいで来ただろうか。

 |√妖怪百鬼夜行《こちら》の季節の移り変わりは、夏が続いている|√EDEN《あちら》より顕著だ。
 力強い空の青さも色味を変え、少しだけ哀愁を浮かべ始めた頃。

「……ん」

 小弓・佐倉(容易くちぎれ、あっけなく溶ける、綿菓子メンタル少女・h08163)の足が少しだけ止まった。
 図書館からの帰り道、いつもと違う物が見えたから。

「どうした?」

 木邑・零壱(黒き彼岸・h08169)がサングラス越しに少女を覗き込む。

 気づけば、周囲には賑やかな声、良い香り。
 楽しげな囃子も聞こえてくる。

 |√妖怪百鬼夜行《こちら》の祭りは、妖怪たちと共に在る。
 在るべき時に現れる、いつでも懐かしい時間の流れる場所だ。

「ああ……そんな時季か」

 零壱の口から溢れる言葉。
 幼き頃、我が主とその家族たちと祭りを楽しんだ記憶が脳裏に浮かぶ。

「……びっくり、した。いつもと違う、お店がたくさん?」

 小弓が首を傾げる。

「秋祭りって奴だな。小弓、少し見ていくか?」

「うん」

 ほんの僅かだが、楽しげに小弓の頬が動くのを零壱は見逃さなかった。

「よし、小弓。
 好きな屋台を探してみるか。
 色々あるぞ、俺も昔――」

 零壱の幼き頃の思い出が胸で囃子を鳴らす。

「|零壱《れーち》、なんだか楽しそう?
 私も、かも」

「ああ。それは良いな!
 さ――人が多いから、手を」

 零壱が手を差し出せば、小弓が笑顔で握り返す。
 楽しげな2人は屋台の立ち並ぶ祭りへと歩を進めた。

 その後ろで、二人を抱えるように|大きな手《護霊》が時折揺らめいている。
 小弓を守る腕も、人混みの彼女が心配なのだろう。

 美しいガラス細工のようなリンゴの飴。
 美味しそうなチョコレートの香りが漂うバナナ。
 ソースが香ばしい、ザクザクのキャベツの乗った焼きそば。
 もちろん食べ物だけじゃない。
 紐についた当たりを選ぶ、くじ引き。
 水の中を流れるカラフルな夏の忘れ物、|水風船《ヨーヨー》すくい。

「……すごいね」

「ああ」

 そのとき、猫又の主人が屋台の中から小弓に声をかける。

「お嬢ちゃん、金魚さんでもすくって……!?」

 零壱と目が合った主人は飛び上がって驚き、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

「し、失礼しやした! ちゃ、ちゃんとショバ代は払ってございやす……!」

「お、おい、待て……俺は……」

「待て! 待てと仰るんですかい!」

 ぴたり、と主人の動きが止まる。

「……むう……。邪魔をしたな、悪かった……」

 小さく頭を下げると、2人は金魚すくいを後にした。
 先ほどから、どの屋台の前でもこの対応。
 くしゃりと黒髪を掻きながら、零壱は嘆く。
 そんなに俺、堅気に見えないか……? と。

「お店の人……どうしたんだろ……?」

「俺が、怖い人に見えるみたいだ」

「……怖くないのに、ね。
 ……あっ、あれ」

 小弓が指をさすのは、射的の屋台。
 その商品の棚、並んだ可愛いぬいぐるみ達。

「あれが欲しいのか?」

「うん……!」

 小弓の声に力があった気がする。
 顔に浮かばなくても、纏う空気が楽しいと伝えてくる。
 なら、答えは一つ。

 2人は射的の屋台へと辿り着いた。

「おっちゃん、1回頼むよ」

 零壱が主人に声を掛ければ、相変わらず。

「あいよお、1回5発……だ……!?
 う、ウチはちゃんと書類も出してますぜ!?」

「|零壱《れーち》は怖くないよ。
 びっくりしなくて……いいのに。
 私、やってみる」

「そ、そうでございますか!
 こ、こちらの銃にこのコルクの弾を詰めて。
 狙ったぬいぐるみを下に落とせれば、お嬢ちゃんのものですぜ」

「わかった……がんばる」

 ぱん、ぱんとコルクが発射される音が続くが、ぬいぐるみは落ちない。
 冷や汗を流すのはもちろん店主。
 小弓が最後の一発を銃に詰めている間に、そっと狙いのぬいぐるみを落ちやすくズラしていた。

「……。いや、まぁいっか」

 ため息を吐きそうになった零壱だが、眼の前で楽しそうに銃を構える小弓を見ていると些細なことだ。

「……あたって、ほしいな……」

 パン……! と最後の銃声が鳴れば、ぬいぐるみは見事に落下。

「お、おめでとうございますうう!!!」

 仰々しく店主が叫びながら、置いてあった鐘を激しく鳴らす。
 精一杯、全力で。

「……やったな、取れて良かった」

「うん」

 小弓が店主から受けとったぬいぐるみを片手で抱えると、僅かに頬の色が"楽しい"を帯びた気がする。
 片手はぬいぐるみ、片手は零壱と繋いで。
 護霊さんももちろん、彼女達を抱える。

「楽しそうで良かったよ。
 さて……折角たくさん屋台があるし、食べたい物を買って帰ってゆっくり食べるか?」

「……そう、したい」

「好きなのを選ぶといい、俺も昔そう言われたんだ」

「……うん。
 |零壱《れーち》、また、お祭り……行けたらいいな」

「ああ――俺もだよ」

 小弓の小さく優しい手が、思いを込めて零壱の手を握るのだった。

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