君にただ会いたいだけだった
燃え盛る炎が√EDENの街中を照らし、闇夜を赤く染め上げていた。
そこはかつての平和な街並みを想像させる場所だが、今やその風景は全く違って見えた。
街の中央、異様な雰囲気の中に佇む古妖、鬼獄卒『石蕗中将』が、その存在感を放ち、街の支配者のように君臨していた。
石蕗中将は、威厳ある佇まいを見せ、その背後に従う若者たちを支配している。
彼らは「トクリュウ」と呼ばれる、いわゆる闇バイトで集められた者たちで、皆20代前半の青年たちだ。彼らの表情は、全員一様に虚ろで石蕗中将の後ろを無言でついていく。
「人間との交わりは妖怪を腐らせる。今こそ我ら古妖が復権し、妖怪の宿業を示さねばならぬ!」
そう高らかに宣言する石蕗中将の声が、燃えさかる炎の中で街中に響き渡る。
街の住民たちは恐怖におののき、誰もが逃げ惑っていた。
石蕗中将は古妖としての威厳を存分に発揮し、√妖怪百鬼夜行から送り込まれた異端者として、彼自身の存在と目的を宣告する。彼の目には、妖怪がかつての栄華を取り戻すという使命感が満ちていた。
その人物は、ぱっと見は他のトクリュウと何も変わらない。ただの青年で、目立つような風貌でもない。彼の髪は肩にかかるほどの短さで、顔立ちも普通だ。特別背が高いわけでもなく、筋肉質でもない。
──その青年は、石蕗中将が放つ異様な圧に押し潰されることなく、むしろその場に馴染んでいるかのようだった。
普通の人間であれば、妖怪の力に圧倒されるか、あるいは恐怖にすくむものだ。だが、彼は何の抵抗も見せず、淡々とその場に佇んでいる。
石蕗中将とトクリュウの集団は街の中心部に向かって進んでいく。その光景は不気味で、まるで儀式を執り行うための行列のようだ。
石蕗中将が手を振り上げ、何かを呼び寄せるように叫ぶと、その声に応じて街の端々から式神鬼が姿を現す。彼らは、石蕗中将の力に引き寄せられ、やがて炎に照らされた広場に集結する。空気は重く、張り詰めた緊張感が広がる。
「我ら古妖の時代を復活させるために、この√EDENを、そして人間たちを犠牲にするのだ!
愚かな人間どもには我らの力を知らしめ、再び我らが頂点に君臨する時が来た!」
石蕗中将が高らかに叫ぶ。
●
あなたに語りかけてくる声は、冷静かつ落ち着いた響きを持っている。その声はまるで、遠くから聞こえてくるように淡々と続く。
「火が街を包み、石蕗中将がその中心に立っている。
その未来の姿は、時に不確かに揺れるものだが、この情景は、ほぼ確定したものだろう」
語り手は、星詠みであるアステリオス・ハシェット(h03394)だ。
「石蕗中将……彼は古妖の復権を目指す者たちの先頭に立っている。古妖が人間との交わりを忌み嫌い、かつての力を取り戻そうとするのは、理解できなくもない。
だが……彼がどれだけ力を振るおうとも、根本的な変化は難しいだろう」
アステリオスは、わずかな皮肉を含みながらも、淡々とした調子を保つ。
「この騒動は必然と言える。いずれ訪れるものだ。
だが、君はどうだ?この未来を前に、何を考えるのだろうか。無論、君の努力次第で多少の変化は生まれるかもしれんが……」
その声に特別な感情はない。ただ、冷静な観察者としての立場から未来を述べているに過ぎないように感じられる。
「この状況が君たちにとってどのような意味を持つかは知らないが……いずれにせよ、石蕗中将が何を目指しているか、その先を見通しておくことは重要だ。
だが、焦ることはない。未来はいつも、少しずつ姿を変えるものだ。」
アステリオスは最後までその冷ややかな口調を崩さず、あなたに淡々と告げる。
「さて、君たちはどう動くのか……。
さぁ、行ってくるといい。健闘を祈る」
第1章 集団戦 『トクリュウ』

風凪・真白(h03029)はキュッと拳を握る。
前を行くのは、猫の獣妖である七々手・七々口(h00560)と、自身が興味を抱いている存在である野分・時雨(h00536)がいる。
自分に出来る事は少ないかもしれない……しかし自身の世界で悲劇が起きて、己のように一人になってしまう人が出ないように、と己を奮い立たせ、少しでも何か出来ればと現場に向かう。
「人間を潰しちまったら、美味い煙草とか酒とか色々ダメになっちまうのにねぇ」
トテトテと歩く七々手が、古妖の考える事はオレにゃあよくわからんぜ、と呟いた。
あの星詠みの言う事が正しければ、『鬼獄卒『石蕗中将』』は人間と妖怪が交わるこの世界を否定しているらしい。
それに協力するトクリュウの青少年達がいる。いったい何を考え石蕗中将に組みするのだろうか。疑問は彼らのアジト目の前になっても解決しなかった。
「話を聞けそうなら声をかけつつ、無力化していきましょう」
野分の言葉に、一人と一匹は頷いた。
トクリュウの青少年達はあなた達に気が付き、睨みながら次々に立ち上がる。
「何もんだテメェら……」
一人の男があなた達を威嚇するかのように低い声を出して追い払おうとするが、そんなもので怯むあなた達では無いだろう。
「さてさて、君らはなんでこの古妖に協力してんのかね? お兄さんに教えてよ」
「……なんでテメェらがそんな事……。
これを知られたからには、ただで返せねぇなぁ!」
トクリュウの青少年達は、本格的にあなた達と対峙するつもりのようだ。
野分は、少し後ろに立つ真白をチラリと見る。彼女はまだ知ったばかりの世界事情に困惑している様子。だが、習うよりも慣れろだ。
「いずれにせよ、古妖に与するならナマ言ってられません」
まるでその言葉を皮切りにしたように、戦闘が始まる。
トクリュウの青少年達は、隠し持っていたナイフを初めとする武器を構える。
一人がその武器を振りかぶった。それを見た七々手はすぐに能力を発動する。『斬殺』により、彼の周りには長さを自由に変えられる七本の魔手が現れる。
「な、なんだこりゃ!?」
それらはトクリュウの青少年の攻撃を防御していく。
野分は七々手に合わせ、『牛鬼力業』の能力の一つ、【蜘蛛脚】によってトクリュウの青少年達を捕縛していく。
「傲慢な魔手による精神汚染でいい気分にさせたら、調子に乗ってなんか喋っちゃくれんかねー」
「君たちにも情念があり中将なんぞに付き従ってしまったのでしょう。
そこまでして叶えたいことでした?己が生活を壊してまで叶えたい願いでした?」
捕縛されてしまったトクリュウの青少年達を見つめながら七々手と野分がそう言うと、彼らは震え上がり次々にとある人物の名前を叫び始めた。
それは、彼らをまとめていたと思われていた人物とは違う名前………。
「た、助けてくれ……ナツヤ!!」
その時、彼らを捕縛していた野分の背後に迫る影を真白は見つける。
「危ないっ!」
真白は慌てて走り野分の前に出て右手を敵に向ける。
自身の右手で良い事なんてこれまでなかった、だが野分は大丈夫だと言ってくれた。
例え自身が傷ついても!
『ルートブレイカー』を発動し、野分の前に立ちふさがって真白ら右手を前にかざす。
すると、野分を襲おうとしていた青年の手にしていたナイフが、星屑の様な光となって消えていく。
「くそ、コイツも能力者か!」
悔しそうに顔を歪ませる青年は、またナイフを取り出した。
「ナイス援護です真白ちゃん。
戦場全体を見れているとは優秀な。とはいえ痛みも怪我も必要ありません。暴力はぼくが受け持ちましょう」
「は、はい……無理だけはしないでください、時雨さん」
野分も七々手も新たな敵に向き合う。
恐らくこの青年が、このトクリュウの青少年達が先程言っていたナツヤなのだろう。
「ぼくは彼を相手しましょう」
七々手に野分がそう言うと、七々手は軽いため息を吐いてから、捕縛されている青少年達を見る。
「なら、√能力で残った魔手達でバラして実食……話を聞くために手足だけで我慢しとくべきかね?」
「そうしてくれると、嬉しいですね」
それを聞いたナツヤは顔を顰めさせ、させるか!と叫んだ。
手に持っているのは、恐らく催涙スプレーの類と思われるスプレー容器と、ナイフだ。
恐らくではあるがこの一件、このナツヤと呼ばれている青年が何か鍵を握っているようである。
彼を倒すことで、何か情報を聞き出せるかもしれない。
中条・セツリ(h02124)と天草・カグヤ(h00581)が、ナツヤの行く手に立ち塞がった。
「くそ、どけよ!」
突然現れた二人を見て、ナツヤは状況が不利だと感じたのか、すぐに数歩後ろへ下がって距離を取る。
その動きにセツリはナツヤに言葉を投げかけた。
「やあ、お兄さん。今ならまだ引き返せるよ。悪いことはやめたほうがいい。
なんせ、悪い子には山から妖怪が出てきてさらっていく……なんて話、現代の子には古臭くて通じないかな?」
セツリは冗談めかした口調で続けるが、ナツヤは変わらず二人を警戒したままだ。
その視線は、まるでこちらの出方を探るかのように鋭い。
「ああ、そうか。獄卒に付き従っているんだから、もう怖いものなんてないんだね。なるほど」
セツリが軽く肩をすくめながらそう言うと、周囲に怪しげな気配が漂い始める。
『|百鬼夜行《デモクラシィ》』──彼女の呼び出した9体の配下妖怪、木端天狗たちがその姿を現した。
それを目の当たりにしたナツヤは、一瞬、目を見開いて動揺した。さすがの√能力者であっても、この数を一人で相手にするのは厳しいと判断したのだろう。 その隙を見て、カグヤがやわらかい口調で彼に声をかける。
「ええと……ナツヤ君だね?ちょっと話を聞かせてもらえないかな?」
カグヤは10歳ほどに見える幼い少女の姿で、武器も持っていない。その姿を見たナツヤは、明らかに戸惑いを隠せず、さらに数歩後ろに下がる。しかし、カグヤは焦らず、ナツヤを刺激しないようにゆっくりと歩み寄った。
「君が何者なのかはわからないけど、私は君と戦うつもりはないよ。
だから落ち着いて、武器を置いて話をしない?」
カグヤは『|合掌離神伝《カッショウリシンデン》』を使い、ナツヤの精神に働きかける。彼の心を成長させ、冷静さを取り戻すよう促したのだ。
ナツヤは少しずつ落ち着きを取り戻しつつあったが、まだ武器をしっかりと握りしめたままだった。
その時、彼の仲間達の声が響いた。
「ナツヤ!」
「騙されるな!」
「コイツらも、アイツと同じだ!信じるな!」
あなた達と仲間達との間で、ナツヤの心は揺れ動いていた。
しかし、カグヤの穏やかな声と落ち着いた態度が、彼の心にほんの少しの隙間を作ったのか、やがてナツヤは武器を構えたまま、少しずつ口を開き始めた。
「俺が……俺たちが石蕗中将に従っていたのには、理由があるんだ……」
ナツヤは、かつて彼らがなぜ石蕗中将に従うことになったのか、その経緯をポツリポツリと語り出した。その表情には、どこか憂いが漂っていた。
第2章 冒険 『馬鹿な人間だにゃあ』

彼ら、トクリュウの青少年達にはまともな親がいなかった。
お金もなく、悪い事だとは知っていながら非合法なやり方でお金を稼ぐ日々。
誰だって嫌気が差していた。
今ではこんな事をやってはいるが、かつてはいつかこんな生活から抜け出すために真面目に生きていた奴らだっている。
だが、それでも何も変わらないのだ。
ナツヤには妹がいた。
妹のフユミは、猫が大好きな女の子で、その日も可愛がっていた野良猫と遊んでいた。
たまたま、√妖怪百鬼夜行へ赴いたらしい彼女は、石蕗中将が封印されていた祠へ何らかの理由があり、石蕗中将と入れ替えで封印されてしまったという。
その理由はわからない。
本当にフユミが封印されているのかすらナツヤにはわからない。騙されているかもしれない、それでもナツヤは石蕗中将の言う通りに行動し、封印を解く術を探していたのだ。
「だから、他の奴らは関係ないんだ……ただ、俺が、巻き込んじまっただけで……」
「ただ、妹にもう一度会いたいだけだったんだ……」
「俺は、もう、後には引けないんだ!」
ナツヤはそう言うとすぐに走り去っていってしまった。
それを追いかけようとした時。あなたの目の前に一匹の猫が現れた。
猫はついてこいと言うかのように、あなたに背を向ける。
「なるほどねぇ……そういえば戦後の頃も、闇市に若い子たちが仕事を求めてきてたっけ。
けど、その末路は……いいものは少なかったよ」
天草・カグヤ(h00581)はトクリュウの青少年達を見つめて語りかける。
それを聞いて項垂れながら聞いている青少年達は、カグヤの言っていることに対して、それが正しいことであることは理解してはいる。
「人生に一発逆転はないものだからね。
少なくとも、別の世界の妖怪が助けてくれるわけはないしね〜」
青少年達は何も答えない。
全員何かを彼らなりに考えてはいるようだ。
その様子は、まるで大人に諭される子供のようで、それを見れば彼らは本当に、本来であれば大人に保護されるべき子供であることが分かる。
「私は子供(みたいなもの)だし、君たちを助けることもできない。だから偉そうなことは言えないけどさ。
それでも、闇のお仕事は君たちがいるべき場所じゃないと思う。
……まずはナツヤ君を、一緒に助けよう?」
カグヤはトクリュウの青少年達を説得する。
彼女には先程逃げた猫を捕まえるような体力はないため、ナツヤが行ったであろう場所へ向かおうとするが……そこには猫が待ち構えていた。
風凪・真白(h03029)は、トクリュウの青少年たちが置かれている厳しい境遇に驚愕していた。
「家庭環境や経済格差が、こんなところにまで影響しているなんて……」
「楽園に住んでいても、生活がままならないなんてことがあるんですねぃ」
野分・時雨(h00536)もまた、真白と同様に√EDENと呼ばれる楽園の裏事情に驚きを隠せない様子だった。
「妹のフユミさん、心配ですよね」
真白は、ナツヤの妹フユミのことを思いながら、もし自身の義兄がナツヤと同じ立場だったら、兄としてどうしただろうかと考える。しかし、今は自分のことを考える場面ではない。加えて、自身の兄妹関係は複雑で特殊だ。そのことに気づかれないよう、真白は上手に笑って首を振った。その様子を見て、野分が口を開く。
「けど、自分の手に負えないことに首を突っ込んじゃいけません。どんなに身内のためだとしても」
「さておき、猫。猫ですねぃ」
二人の目の前には、まるで彼らを挑発するかのように、しっぽをゆらゆら揺らして座っている猫がいた。
「もしかして、フユミさんが可愛がってた猫なんじゃないかな?」
「ああ、妹さんは猫が好きなんでしたよね」
「真白ちゃん、猫と話せます?」
「猫さんが話してくれたら、話せると思います」
真白が純粋な笑顔で返事をすると、野分は少し気まずそうに頬をかいた。
「………冗談です。ぼくは上から追いますから、真白ちゃんは頑張って地上で追ってください!」
「は、はい!」
真白は野分の言葉に頷き、一生懸命猫を追いかける。体力に自信がない真白だったが、走っていくうちに、猫が細い路地へと入っていく姿が見えた。
野分は建物の屋根や木々を利用し、猫の動きを上から予測しながら追いかけていく。すばしっこく小柄な猫を追いかけるのは大変だったが、彼は軽やかに真白を応援する。
「真白チャン付いてこれてます?
はい、頑張れ、頑張れ!」
野分の応援を受けながら、真白は一度猫を見失ったが、霊能力者としての力を活かし、現時点と重なる√を観察して、再び猫の姿を見つけることができた。
猫は時折振り返りながら、こちらを伺っている。
それを見て、真白はさらに気を引き締め、足を速めて猫を追い続けた。
第3章 ボス戦 『鬼獄卒『石蕗中将』』

あなた達は気が付く。
猫のいる場所は√妖怪百鬼夜行へ続くゲートであった。
猫はそのゲートの前に辿り着くとピタリと止まった。
その近くには、ナツヤが持っていたと思われるナイフが落ちている。
つまり、ナツヤはこの先へ入っていったのだろう。
あなた達はナツヤを追いかける選択肢をとるだろう。
ゲートを潜ると、そこは鬱蒼とした森だった。
森を進めばそこには祠がある。
その前にはナツヤが項垂れて座っていた。
あなたは彼に近付こうとするかもしれない。
だが、その前に刀を振りかざしあなた達を襲う石蕗中将が現れた。
「あの小僧についてきたな?
貴様らはあの小僧の部下か?それとも、私の野望を阻止しようとしているという能力者か!?」
石蕗中将は元々は√EDENにいた様子だ。
だがナツヤを追いかけてここまで戻ってきたらしい。
あなた達は直感的に、あの祠へ再度封印するためには、石蕗中将を弱らせてあの祠の戸をを開くことが必要であるということが分かる。
「ま、待ってくれ!
もう少しだけ、時間をください!」
「いいや、小僧。
貴様は私との約束を守る義務がある。
その時間はとうに過ぎているはずだ」
石蕗中将とナツヤの間には、まだ何かある様だ。
それを暴くも、暴かないもあなた次第だろう。
「そうで~す! 小僧についてきました、追加の小僧と小娘でございます。部下か能力者、どちらだと思います?」
野分・時雨(h00536)はニヤッと笑いながら石蕗中将に話しかけた。その言葉にうんうんと頷く風凪・真白(h03029)だが、すぐに首を傾げた。
「え、そうですって……時雨さん、挑発しちゃうんですか!?」
真白が慌ててそう言ったが、野分はすでに自身の武器である|曲刀《カルタリ》を携え、石蕗中将の元へ駆け出していた。
「真白ちゃん、ナツヤくんをお願いね」
「ええぇぇぇ!?」
真白が戸惑う間もなく、野分は石蕗中将の式神鬼たちに次々と斬りかかり、進んでいく。
「大丈夫ですか、ナツヤさん?」
真白はその場にへたり込んでいるナツヤに優しく声をかけた。
外見からは特に怪我は見当たらないものの、ナツヤは呆然としたまま、野分と石蕗中将の戦いを見つめていた。
野分が石蕗中将の注意を引いている今なら、ナツヤから何か話を聞けるかもしれない。
真白は拳をギュッと握りしめ、ナツヤに問いかけた。
「あの、教えてください……何を約束したんですか? 私たちにできることがあれば何でもしますから、どうか情報をください!」
真白が必死に訴えかけているその間、野分は石蕗中将との激しい戦闘を繰り広げていた。
石蕗中将は野分が召喚した12体の式神鬼を巧みに斬りつけ、すぐに距離を取ることに気付く。
石蕗中将の式神鬼は、召喚者とともに戦う間は反応速度が半減してしまうというデメリットがあった。このままでは彼の作戦に押し負けてしまうことは明白だ。
「致し方あるまい……」
石蕗中将が低く唸ると、式神鬼たちを帰投させ、懐から鞭を取り出した。その鞭が空気を激しく叩き、乾いた音が響く。
野分は鞭を素早くかわしたが、その瞬間、彼の周りに獄卒の刑場が広がり、野分の動きが徐々に鈍くなっていった。
「なんっ……!?」
その隙を狙った石蕗中将の鞭が野分に振るわれようとした瞬間、真白の声が響いた。
「風が凪ぐ丘にて……祈るは、真っ白な純潔……。白蝶の願いは、楽園の安寧」
真白の√能力『|凪の波蝶《ナギノハチョウ》』が発動し、霊気でできた白い蝶が石蕗中将に向かって飛び、攻撃を加えた。
「ありがとうございます、真白ちゃん!」
「いえ、この攻撃は、私は動けなくなってしまうので……その分は時雨さんが何とかしてくれるのを信じてます!」
真白がそう続けようとした時、彼女の目の前に、帰投させたはずの石蕗中将の式神鬼が再び現れ、今にも襲いかかろうとしていた。
「キャッ!」
真白はとっさにナツヤを庇い、目を閉じた。しかし、いつまで経っても衝撃はやってこなかった。
恐る恐る目を開けると、そこには大きなガンブレードを構えた少女と見紛う美貌を持つ青年、十六夜・宵(h00457)が立っていた。彼の横には、どこか貴族めいた雰囲気を持つ男性、ヴェーロ・ポータル(h02959)が式神鬼と対峙している。
「大丈夫?」
「う、うん……」
十六夜が真白に優しく声をかける。彼は真白に微笑みかけたあと、ナツヤに目を向ける。
「アイツと何を約束したか、その秘密を暴く気はないよ」
そして石蕗中将は彼らを睨みつけ尋ねる。
「貴様らも、小僧の部下か?」
「…………とりあえず、僕が思っているのは……お前は帰れってことくらい。それに僕は彼の部下じゃない。僕は僕だ」
十六夜はエレメンタルバレット『雷霆万鈞』を月霊刃銃で発射し、次々と式神鬼に命中させていった。
ヴェーロはその様子を静かに見守りながら佇んでいた。
「あの……行かなくてもいいんですか?」
真白が戸惑いながら尋ねると、ヴェーロは冷静に眼鏡を押し上げた。
「あの砲撃の中に入れば服が汚れてしまいますからね。今はあなた方を守ることが先決かと」
その言葉に真白は納得し、ヴェーロが握っている紫の炎で作られたダガーに気付いた。身だしなみに気を配りながらも、しっかりと警戒を怠らない彼の姿に安心感を覚える。
「これは負けていられませんね……さて、女の子を攻撃するなんて許せませんよ。中将殿にはこちらをどうぞ」
その様子を見ていた野分は、スッと小刀を取り出した。
「それは……小僧の小刀……!」
「ナツヤくんが落としたナイフ、いただいておきましたよ」
野分は不敵に笑いながら、再び式神鬼の一部を破壊し、ナイフを石蕗中将に向かって振りかざした。
「坊ちゃんからの落し物ですよ!」
「ナツヤさんを苦しめるその約束…私が破棄します」
そう言った真白に、ナツヤは首を振る。
「違う、違うんだ……」
「え?」
ナツヤはポツリポツリと、彼と石蕗中将の間に起きたことを話し始めた。
●
それは石蕗中将と初めて会った日の事。
「い、妹は……フユミは……助かるのか!?」
「……それはわからん。小僧、貴様次第だ」
フユミは石蕗中将の代わりにこの封印の祠に閉じ込められてしまった。
「ここから出られたのは良いが……まさかその相手が人間とはな」
「…………」
ナツヤは石蕗中将に怯えながらも彼を睨みつけ、ナイフを構えている。
その様子を見て石蕗中将は溜息を吐いた。
「そもそも、この事態そこおかしな事だ」
「そ、そうなのか?」
石蕗中将にとって、この人間であるナツヤと話す事ですら腹立たしい事だった。
だが、この√妖怪百鬼夜行に、√EDENの人間がいる事の方が問題だ。
どうにかして彼とその妹を√EDENに追い返す、あるいはこのまま亡き者にする事も考え始めていた。
だが、この祠を破壊しようと近付けば、再度自身が封印される可能性がある。
そしてこのナツヤもそれを阻止しようとするだろう。
ならばそれを利用するしかない。
「貴様、なぜこの祠に?」
「俺も、よくわからない。
フユミはこの√へは、来る事もほぼなかったはずだし……そういえば、数日前に俺達の溜まり場に、おかしな男が来たような……」
ひょろりとした背の高い男をナツヤは思い出す。
「……ならば、その男を探すしかないだろう」
「え?」
「俺がそこまでは協力しよう。
その代わり……お前はその後、私に従うのだ」
●
それがナツヤと石蕗中将の約束だった。
「苦しめられていた訳じゃない……俺は妹をあの祠から助け出して……あの祠を壊す。
あの人は……その手伝いをして、その代わりに俺はあの人の手伝いをする」
「でも、だけど……みんなを巻き込むなんて聞いていなかったし………。
あの人は何でか分からないけど、何かに焦っていたみたいだとは思っていたけど……多分、アンタ達が来ることを予想していたんだろうな……だから√EDENへ進行する日にちもしっかり決めていたんだろうと思う。
……俺は、間に合わなかったんだ」
石蕗中将は確実に弱っています。
あとは更に攻撃し、タイミングを見て祠の扉を開くことで、石蕗中将を再度封印することができるでしょう。
ナツヤの言葉に風凪・真白(h03029)は驚いた。
「共犯者……。
ひょろりとした背の高い男って誰……?」
「……分からない」
ナツヤは真白の問いかけに首を横に振る。
「ただジッと立っていただけなんだ。何か話すわけでもなく……今思い出しても、気味が悪い」
この事件の裏に、第三者の存在があることを真白は確信する。
ナツヤの妹のフユミがこの√に迷い込んだことも、何か意図的に仕組まれているように思えた。
他者の意図が関わっている――。
そんな真白の思考をよそに、戦闘は激化していく。
「おやまあ、お友達だったんですかぃ。
ナイフ投げちゃってすいませ~ん。許してください!」
「友達? フン、人間と友人になるなど、有り得ぬ事よ!!」
石蕗中将の猛攻に、野分・時雨(h00536)は顔をしかめる。
「ですが、お家には戻っていただかなくては。
祠の中にいる嬢ちゃんが可哀想ですからね」
野分は苦境の中でも笑みをこぼす。
ナツヤは真白に任せ、石蕗中将に集中できるのは良いが、戦力差がありすぎる。
どうにかしなければ……と考えたそのときだった。
「流石に出遅れたな。でも、まだ終わってないのなら……。
遅れ馳せながら乱入御免」
その声で、野分はすぐに援軍が来たことを悟った。
「駆けつけ三杯、お残し厳禁、喧嘩は締めまで気を抜くな……ここからが本番、って奴さ」
八羽・楓蜜(h01581)が戦闘に合流すると、すぐに『|暴才《バイオレンス・タレント》』を発動させる。
闘争心が増大し、潜在能力を解放させた八羽は石蕗中将の攻撃を回避しながら急速に接近する。
「何者だ!?」
石蕗中将は焦り、鞭を振るうが、八羽は喧嘩仕込みの不規則な動きで、敵の攻撃をかわしながら『ルートブレイカー』を発動させ、右掌で鞭を掴み無効化する。
「さぁ……歯ぁ食いしばりな……!」
石蕗中将にとどめを刺そうとした瞬間、彼の激しい抵抗が始まった。その隙をついて、2発の弾丸がどこからか飛んできた。
その方向を見ると、少女と青年が立っていた。森屋・巳琥(h02210)と四二神・銃真(h00545)だ。
「みなさん、今です!」
森屋が野分と八羽に声をかける。真白は首を傾げながら尋ねる。
「あ、あなた達は……?」
「オレはどこにでもいるただの私立探偵。揉め事でも厄介事でもいっちょ噛みさせてもらうぜ?」
四二神はサングラスをグイッと上げ、真白に挨拶する。
その間に、森屋は野分と八羽の援護をヴェノム・バレットで行う。
それを見た四二神も、彼らをサポートするためにガンマブラスターを構える。四二神は今回の戦いで自分が主役ではないと考え、今戦っている野分や八羽を最優先で援護する。猫の手程度のサポートかもしれないが、不敵な笑みをこぼしながらも、彼は弾丸を放った。
『ディメンションブレイク』――四二神の放った弾丸は異なる√世界の強制干渉によって、通常の2倍ダメージを与えられ、味方にはひずみの影響を無視させ、戦闘力を強化するものだった。
この一連の援護によって、石蕗中将はさらに追い込まれる。
だが、彼もただの敵ではない。古妖としての長年の経験を持つ彼は、すぐに式神鬼を召喚し応戦しようとした。
しかし、またどこからか援護が現れる。
ウィスカ・グレイシア(h00847)の『百鬼夜行』で召喚された彼女の配下妖怪たちが、次々と式神鬼を無力化していく。
「今なら、きっと……」
ウィスカがつぶやく。
今畳み掛ければ、あなた達の勝利は目前だ。
野分は卒塔婆を手にし、石蕗中将と真っ向から鍔迫り合う。
力では勝てないと思い、中々大胆な行動をとることが出来なかったが…………これだけの援軍を得た野分は行動に移す。
水姫――地這い獣を呼んだ野分は、祠に向かって押し込むように指示し、激突させる。
「ぐ、ぐぅぅううう……!?」
それでも反撃しようとする石蕗中将を、真白、森屋、四二神が遠方から攻撃する。
「一緒に助けましょう、妹さんを……フユミさんを」
真白はナツヤに声をかけ、彼の手を引く。
ナツヤと真白は祠の扉を引くが、あと一歩足りない。
「フ、フユミ!!」
二人の力だけでは、この祠を開けることはできない。
そのとき、そっと二人の手を包み込むように、八羽が手を添える。
「下らない手品も、逃亡劇も、全部終わりだ。大人しく|祠《ブタバコ》に帰れ」
そして、祠の扉が開かれた……。
●
「あんたは、この世界の事をどう思ってるんだよ」
「……愚問だな」
あんたは結局、なんでそんなにも人間と妖怪を分けたがるか、教えてくれなかったな。
「……俺、別にあんたが妖怪だからって、嫌いなわけじゃなかったんだ」
●
野分に引っ張りだされたフユミ。
安堵したナツヤは眠りに落ちた。
石蕗中将は封印され、戦いは終わった。
その様子を見て、真白も野分も詰まっていた息を吐き出した。
遅れてやってきた援軍たちも、笑いながら去っていく。
「時雨さん、ありがとうございました」
「いや、真白ちゃんも大活躍でしたよ」
野分に褒められ、真白が謙遜しようとしたその時。真白は何かに見られているような錯覚を覚えた。
一体誰が?
傍観者を気取り、彼らを巻き込んだ真犯人の目的は一体……。
真白が感じた視線は、次第に重く、鋭いものへと変わっていった。
何か異質な存在が背後に迫っているような不快感が襲いかかる。
しかし、周囲には誰の姿もない。ただ、深い闇がそこにあるだけだった。
あなた達はこの事件の裏を、まだ知る術はない。
●
アステリオス・ハシェット(h03394)は、静かにため息をつく。
彼が眺めていたのは、確かにハッピーエンドと呼ばれる結末だった。ナツヤとフユミは無事に救われ、あなた達の尽力で石蕗中将は封印された。
誰もが安堵し、勝利の余韻に浸っている。
だが、彼にとって満足のいく結末ではなかった。
「期待外れだ……私にとっては、だが」
アステリオスは無表情のまま呟いた。
だが自分は「星詠み」、無数にある可能性の√を観察し、その中でどのような結末が待ち受けるかを知る者だ。これ以上、微妙なバランスで均衡を保つ各√を混沌に誘う、などするつもりは無い。
ただ今回も、彼の望む結果までたどり着かなかっただけだ。
「あの子供なら……|あの子《・・・》をおびき寄せるいい餌になるかと思ったのだがな」
しかし、今回も目論見は不発に終わったようだった。
それでも、彼の表情に焦りはない。むしろ、新たな展開を楽しむ余裕すら見て取れる。アステリオスは、白紙の本を取り出し、羽根ペンで何かを書き込んでいく。
「次の策を練らなければな……」
そう言いながら、彼は書き込む手を止めない。
どの√に干渉し、どの人物を動かすべきか――それらはすべて彼の中で計算されている。今回の結末は、自分の望む結果には届かなかったが、それでもまだ終わりではない。
そう、終わらないのである。
「星詠みとして、もちろん君達の世界は、守るとも」