シナリオ

SAMURAIの剣

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 √EDENに存在する潤沢な資源を求め侵攻を繰り返す戦闘機械群。
 それらは各|派閥《レリギオス》により様々な形で人類に干渉してくるのだが、今回の事例はあまりにも危険なものだった。

 それは普段よく見る戦闘機械群の侵攻とはあまりにも違いすぎ警戒が疎かになってしまった結果かもしれない。
 普段ならば大量の戦闘機械が現れ騒動を巻き起こすものなのだが、今回に限っては機械群とは思えぬ一人の武士風の男が現れたということで人々は油断してしまったのかもしれない。
 着流しを着て腰に一振りの|得物《打刀》を差す生身のサムライ。

 まさかそのような男が戦闘機械群の手先だとは思いもよらなかったのが被害を大きくする原因となってしまっていた。
 ドンッと大きな轟音がして作業用重機が真っ二つに切り裂かれ倒れこんでいく。
 作業をしていた者達が逃げ惑う中を血風撒き散らし次から次に切り裂いていく情け容赦ないサムライの剣。
 「……出雲天墜斬」
 恐るべき威力の斬撃を加えた後、静かに重機が倒れこむのを見届け男は納刀し顎に手をかけ苦笑した。

 「……ククク、ゼーロット殿も人が悪い。|某《それがし》のような一介の人斬りに無粋なデカブツを叩き斬れなどと勧めるとは」
 剣聖と呼ばれた男、比良坂・源信は苦笑しつつも殺気をはらんだ視線を目の間に乗り捨てられた重機へと向けゆっくりと歩き始める。

 チンと|匕首《あいくち》の音がすると同時に左右に捨てられていた重機がバラバラに切り裂かれ土埃を上げた。
 もはや目の前にあるもの全て切り裂いて見せるとばかり向かう先は作業員たちが逃げ込んだ廃ビルの方向。
 もはや惨劇は免れないのだろうか?


 「統率官ゼーロットがどうやら人斬りを雇ったみたいですぞ」
 集まった√能力者達を前に星詠みのベル・アハトはやれやれといった様子で廃ビル付近の写真を何枚か広げた。
 そこには着物姿のサムライがこちら側に向けて視線を向けているうえ、あまりの殺意の塊に気分が悪くなりそうなほど心地悪い物だ。

 「どうやら相手は生粋の人斬りでこのままだと逃げ遅れた人々が斬り殺されますぞ! それは絶対に阻止せねばなりませぬな」
 ベルは食い入り気味に前へ乗り出しバンバンと机を叩いた。
 「なのでまずはこの男を倒して逃げ遅れた人を倒してほしいのですぞ。おそらく倒せば統率官の居所もすぐに判明するはずなので……邪な野望は速く叩き潰さねば!」

 難しい事は何もない、目の前で悪事を働く敵を屠るだけのこと。
 一同はシンプル極まりないその目的を果たすべく一人また一人と戦場に向け歩き出していくのだった。

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第1章 ボス戦 『剣聖『比良坂・源信』』


逆刃・純素


 剣聖と呼ばれた男もこの地においてはただの人斬り。それも抵抗すらできない一般作業員を切り殺して歩く存在に成り果てていた。
 「ふむ……? 少しばかり抵抗してもらわねば某が弱い者苛めをしているようではないか」
 血飛沫を払いのけ吐き捨てるようにそう漏らす。

 「戦う力もばい相手を斬り殺すとか、そこらの野犬と変わらないぴすっ!」
 そう叫ぶ声と同時に烈火の気迫で振り下ろされた逆刃・純素(サカバンバの刀・h00089)の必殺の一撃。
 だがそれを軽々と受け流し剣聖はようやく斬り合える相手が来たと歓喜の笑いを浮かべた。
 「いやなに嬢ちゃん、普段より斬っておかねば錆びつくだけとは思わないかね?」
 「剣聖を自認するなら腕だけじゃなく心も鍛えておいてくださいぴす」
 軽口を叩く剣聖が霞の構えをとりながらジリジリと間合いを詰めていく。
 それに対して納刀し純素はゆっくりと息を吸い練り上げ剣聖の一挙一動に睨みをきかせた。

 「はっ! 某に居合で挑むとはなかなかの度胸の持ち主のようだ」
 「……神速の剣閃を見るですぴす!」

 両者の立ち位置が間合いに入ったと同時に純素が先に踏み込んだ。
 チンと唾から音がした瞬間には剣聖の眼前へと伸びていく必殺の刃。
 純素の古代海底抜刀術によって音速を遥かに超えた速度で繰り出された最速の居合斬りは本来ならば剣聖の首を刎ねる勢いのものだった。
 だがしかしその致命の一撃を打刀で受け止め火花を飛ばすと同時に強烈な前蹴りを繰り出した剣聖もまた人外の動き。

 本来ならばそこからさらに追撃の返す刃が純素を切り裂く……はずだった。

 「……チッ、嬢ちゃん端から|こっち《武器破壊》が狙いかい」
 「今ので折れないとか、これだから業物は厄介ぴすっ!」
 蹴り飛ばされ距離をとるはめになった純素。蹴られた腹がズキズキと痛み即座に追撃には移れなかったが一つ大きな確信をする。
 剣聖もまた
構え直すだけで斬りかかってこない。それが意味するところは今の一撃で刃に違和感を感じ攻め切れないに違いないのだ。
(ここは攻め時ぴす……)
 静かに納刀し抜刀の構えを取り直す純素。
 次こそは刃を叩き斬ると気合をこめながら純素は痛む腹を庇いつつゆっくりと構えをとっていく……。

餅竪・れあぬ


 「豊乳女神様への祈りを以て祖霊たる妖異と化す、変化|金翅鳥《スパルナ》!」

 土埃のあがった瓦礫を跳び越え金色の翼を生やした巨乳少女が空を舞った。
 今回の敵は“剣聖”と呼ばれるほどの剣の使い手であり、その斬撃をまともに受けに間合いに入るなどもっての外。
 「そこですわ!」
 餅竪・れあぬ(とある豊饒の女神の使徒:餅・h00357)は手にした精霊銃を構え狙いを定めた。
 その銃口の先で打刀を手に見上げている男こそが“剣聖”比良坂・源信。
 刀剣の間合いから離れ距離を取ろうとするれあぬを見てニィィと口元を歪めた。

 「あぁ……そこぁ、まだ間合いだぜ嬢ちゃん」
 それは誇張でも何でもなく自身の現れからくる殺意の籠った笑い。地を蹴り瓦礫を飛び跳ね信じれないほどの身軽さで瓦礫となったビルを駆けあがってきたのだ。
 「斬撃を飛ばすどころか自分で|ここ《空中》まで駆けてくるとか常識外れも大概にしてほしいものですわね!」
 精霊銃を何発も撃ち込むもその全てをよりにもよって避けるのでも何でもなく打刀で切り裂き弾きながら飛び上がってくるなど普通はありえない。
 未来予測していた以上に常識外れの剣術にれあぬの表情に焦りが見えた。

 (まさか跳躍と剣を交互に交える事でこのような動きをっ!)
 どうやら正面から撃ち合っても直撃させるのは難しいらしい。ならばここはリスクをとっていくしかない。
 そう覚悟を決め狙いを剣聖から外した方向へと向け何発も精霊銃を撃ちこんだ。

 「おいおい……狙いが雑になってるぞ嬢ちゃん、そこは間合いだっ!」
 首を刎ねるかの横薙ぎで繋ぐ無明無限刃の一閃がれあぬの首へと吸い込まれるように伸びていく。
 「起動……後神!」
 その刃の切っ先が喉に触れる瞬間、れあぬの身体を透過し肉の感触がないことに驚くと同時『剣聖の後ろ』へと空間移動したれあぬの身体。
 その幽霊のような動きにも動じず返す刃を振るう剣聖……だがしかしそんな剣聖の四方八方から大気によって捻じ曲げられこの一点に集まるよう曲射して飛んでくる弾丸が次々と襲い掛かり。

 「チィッ、次々と面妖な妖術をっ!」
 「豊饒の女神様の巫術ですわっ!」
 次々と襲い来る精霊弾を可能な限り受ける剣聖だがその全てをしのぎ切るのは不可能。
 さらに追撃とばかり釣瓶火から放たれた雷撃がその背を撃ち弾ける火花。

 避けようもない空中で叩き込まれたその連打を浴び剣聖は真っ逆さまに崩れたビルのほうへ落下していくのだった。

杉崎・ひなの


 次々と切り裂かれ倒壊していくビル群を遠目に見ながら杉崎・ひなの (しがない鍛冶師・h00171)は思うところがあった。
 機械によって構成された群である戦闘機械群でさえこのような事態ともなれば生身である剣聖のような男の手を借りねばならないという事実。
 それは万能に思える機械と手最後は人の手なくして立ち行かないという機械の限界を示しているということなのではないかと。
 (……このような所で貴方のような武人と手合わせ出来る事に感謝し、挑ませていただきます)
 静かに打刀を抜き放ち気を練り上げていくその姿を見て剣聖はニヤリと口元を歪め矛先をこちらへと向けたようだ。
 「ほう……人形風情が剣士の真似事か?」
 「……残念、しがない鍛冶師よ? 私」
 少しばかりはにかみながらひなのが静かに構えをとると剣聖もまたそれに対峙すべく自然体でゆっくりと歩き始めた。
 あまりにも無造作に間合いを詰めていくその歩が止まる。
 「人形もこれだけ揃えば斬り足りないことはなかろうて」
 クククと笑いをこらえるのも道理、剣聖を取り囲むように“12人もの|ひなの《素体達》が姿を現したのだから。
 「……いきます」
 「来いよ人形共! てめぇら|人間《生身》じゃねぇ! 叩っ斬ってやるっ!」
 両者が一気に間合いを詰め剣聖の振るう刃が数名の素体へと襲い掛かりその胴に容赦なく刃が突き刺さる。

 ガキィン

 まっぷたつに切り裂かれるはずの胴が切り裂かれることなく弾かれくるくると空中で回転しながら人の形を失っていく光景に思わず目を奪われるのも仕方がない。
 これこそひなのの奥の手アルティメットダンス。
 先ほどまでの会話で稼いだ時間で素体達に魔力を流し込みその姿を刀剣へと変化させ攻防一体の死の間合いがここに完成する。
 「くはははは! 人を捨て刃に身を堕とすか人形ぉぉぉっ!」
 「元より人に非ず……よっ!」
 それは激しい攻防だった次々と連続で斬撃と蹴りさらには拳まで振るい剣聖の突進は止まらない。
 それに対し右から左から素体達が変じた刃が剣聖に襲い掛かり両者の周囲に幾多の火花が飛び散っていく。

 (くっ、半数を受けに回してようやくですか……ですがここで決めますっ!)
 左右からの一斉に襲い来る斬撃を打ち払う剣聖の目に留まったのは刃を鞘に納め身体を丸めるように大きな溜を作るひなのの姿。
 鍛冶師だなどと名乗ったにもかかわらずそこから垣間見えるのはあきらかな殺しに精通した磨かれた技量。
 「クハハハ! 楽しませてくれるぞ人形っっ!」
 「……はぁぁっ!」
 砂煙が広がる中、両者の渾身の打ち合いがぶつかりあい……そして!

六合・真理


 廃墟に成り果てていくビル街に強烈な衝撃波が通り抜けそして崩れかけた橋の欄干へと吹き飛ばされてきた人影が一つ。
 すさまじい衝撃を受け常人ならば即死であろうその場からゆっくりと立ち上がった剣聖は近づいてくる足音に気が付きそちら側へと意識を向けた。

 「おや、お侍の旦那かい」
 「……てめえは何時ぞやの|嬢《あま》ぁ」
 飄飄とした雰囲気で六合・真理(ゆるふわ系森ガール仙人・h02163)はゆったりとした動作で腰を落としていき八卦掌独特の歩法で剣聖を中心にして円を描くよう間合いを取り始めた。
 それに対し剣聖もまた抜刀した愛刀を真理へと突き付け独特の足さばきで“間”を測っているかのよう。

 「お前さんの言わんとするところは分からんでもないよ。「抜かれず錆逝く刃に如何なる意味があろうか?」ってねぇ」
 「応……嬢もちぃと|臓物《モツ》ぶちまけてみねえかぃ?」
 剣聖の息も乱さぬ中段突きを回転するような華麗な足さばきで避け真理は刃の腹をトンと叩き受け流していく。
 なにげない会話から一瞬の殺意を測るのは並大抵のことではない。

 「おうおう……無抵抗の素人相手ばかりで、巻き藁を斬るしか能がないのかい情けないってもんだよ。鮪でも解体してるほうが幾らかマシだねぇ」
 「言っとけ……三枚おろしにしてやらあ!」
 溜息交じりの真理の挑発に剣聖は息もつかせぬ連撃のまま跳躍し着地すると同時に真理の背後から容赦ない袈裟斬りを叩き込んでいく。
 無明無限刃の激しい斬撃が真理が受け流しに使う利き腕を切り裂き飛び散る鮮血と鈍く重い骨まで軋むような異音。

 「大口叩いてこのザマか嬢ぅ?」
 「……なんの、まだまだじゃ」
 丹田の横回転により生じた擰勁が四肢末端へと伝わっていく、それこそが八卦掌の基礎にして真髄……流れるように受けたダメージそのものが体内を循環しさらにその力が流れに乗るように逆腕へと集約されそして軽く触れたかに思えた剣聖の腹に触れた掌。
 だがしかしその直後信じれないような勢いで剣聖の身体が吹き飛ばされ廃ビルの壁へとめり込んだ。

 「……ぐほっ、何をしなすった? ガハッ」
 よろよろと立ち上がるも吐血し片膝をつく剣聖。その言葉を聞きながら静かに息を吐き出し真理は普段通りに微笑んだ。

 「なに……ちょっとした手品みたいなもんさ」
 「チィ……どこまでもふざけた嬢だ」
 見れば先ほど受けたはずの斬撃の傷跡が消え去り残されたのは血糊で汚れた着衣だけ。
 勁打・方陣三世因果、真理の放ったこの奥義の秘密に剣聖は未だ至れない。
 戦いはまだ終わらない、双方共にこの場から一歩も引こうとなど思いもよらないのだから。

澪崎・遼馬


 幾人もの達人たちにより限界まで消耗しきったのか剣聖の足取りはおぼつかないようになるまで弱り切っていた。
 だがその瞳に宿る人斬りの狂気は刃こぼれ著しい打刀にまだなお殺気を宿し続けるなど戦意そのものは衰えていないらしい。

 (武に覚えがあれば尋常に立ち会いたいものではなる……だが、人斬り相手ではその価値もないな)
 駆け付けた矢先その姿を確認し澪崎・遼馬(地摺烏・h00878)は懐より手に馴染んだ愛銃を取り出した。
 此岸と彼岸と呼ばれるその二丁の魔銃を持つと同時に自分に向け強烈な殺意が向けられたのを察し目の前に確実にある“|間合い《死地》へ覚悟を決め一歩踏み込んだ。
 「密葬課、現着した」
 それは自らの矜持を示す異能捜査官としての覚悟の言葉だ。

 「ふむ……銃使いか。彼方の錆にするには、ちと不足か」
 剣聖が漏らした言葉に混じった銃使いへの軽視ともとれる発言、願わくは刃同士の打ち合いを求めているのだろうが遼馬にしてみれば大いなる矛盾を孕んだ相手の挑発に乗る必要など全くない。
 「君のその凶刃、収める鞘がないのならここでへし折るしかあるまい……」
 両者ともに言葉が示す通りすでに臨戦態勢、それも一合で斬り結べる間合いにいないというだけですでに駆け引きは始まっていたのだ。
 それでもなお遼馬はこの間合いをさらに内へと詰めていき撃鉄を起こす。

 緊張が高まる両者の真横で瓦礫が一つ崩れていき……そして地面へと“落ちた”。

 それが決戦開始の合図となった。
 互いに地面を蹴り一気に縮まる距離、そして剣聖の音速の突きからの払いが遼馬の首へと迫った。
 無明無限刃、一撃でも喰らえば次々と繰り出される至極の連続技を喰らうわけにはいかない。
 当初よりそれを想定し気を練っていた遼馬にとってここまでは想定内のこと。
 死を呼ぶ刃が首皮一枚切るか切らないかのタイミングで突如として遼馬の姿が存在していなかったかのように消え去り宙を切る刃。
 「なっ!? 手ごたえが……ないだとっ???」
 咄嗟の判断でそのままさらに前へと跳躍しようとした剣聖の背から聞こえる幾多の発砲音。
 振り返りざまに数発の|弾丸《実体弾》を弾くも残り数発は純粋な魔力で出来た魔力弾。
 それが両肩や脇腹に命中に剣聖は思わず片膝をついてしまった。

 「やはり実弾はともかく魔力に対しては然程慣れていないようだな」
 遼馬の姿はそう呟いている間にも闇に紛れ再び消えていった。
 しかもそれは剣聖からすれば間合い外のちょうど銃の射程とも呼べる距離であり、それがおそらくは遼馬の能力であることは理解できても咄嗟には対策がとれるわけではない。
 「なるほど……このまま怯えた兎みてぇにチマチマやる気かい糞餓鬼がっ!」
 「いや……それは当人の趣味ではないな?」
 剣聖の吐き捨てるかのような言葉を遮るように直近より聞こえてきた遼馬の否定の言葉。
 さらには後頭部に突き付けられた銃口の感触がもはやこの状況が詰みであることを示している。

 「チィ……後ろをとられるまで気付かねえとはヤキが回ったか」
 「なに、今回は当人の読みが当たっただけだ気にするな」
 肩の力を抜きやれやれといった飄飄とした態度で話す剣聖に遼馬もまた軽い言葉で返す。
 もはや全てを諦めたかに見えたその瞬間、剣聖が突如として打刀を振るい横薙ぎの大回転。
 諦めたかに見せかけ放つ最期の強烈なる一刀が遼馬を襲う!

 タタンッ

 二発同時に響いた発砲音と共に"根元で砕けた刀身"と額に風穴を開けた剣聖が空回りをしたままその場へと崩れ落ちていく。
 「チッ、油断ぐらいしやがれっての」
 「所詮は仮初の死であろうが、こいつはオマケだ」
 致命傷を受けつつ倒れたまま減らず口を叩く剣聖に対し、遼馬の持つ二丁から何発も何発も弾丸が撃ち込まれ確実なトドメが刺されていった。

 こうして第一陣ともいえる雇われ剣聖は息絶えた。
 だがしかしこの事件の首謀者が健在である以上、新たな動きがあるに違いないだろうと遼馬は暗雲たちこめる廃ビル街を見上げるのだった。

第2章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』



 剣聖破れるとの報告を受け統率官ゼーロットは手にしていたグラスを床に投げ捨てた。
 パリンという軽い音と共に広がる真っ赤な水たまり。
 わなわなと肩を震わせながら怒りがこみあげぶつける先を求め言葉を発した。

 「あの男こんなにもあっさり殺されただと? 剣聖とか何とか能書きだけかたわけがっ!」
 自分で動くつもりもなく金で雇った剣聖に任せきっていたゼーロットにとってこれはまるで計算外。
 戦力としてあまり期待していない量産型の機械群よりはましだろうと雇ってみればこのありさま。
 全く持って腹がたつ、これでは他の統率官共に手柄を取られてしまうではないか。
 「お前たちがだらしないからこの私がこのような理不尽な目にあうのだ! わかったか! わかったか!」
 世話をさせていた機械群を蹴り飛ばし破壊するとようやく怒りが少し収まったのか次の一手を考え動くことにした。

 あの憎き√能力者と呼ばれる連中はゴキブリのようにどこからか現れ敵対してくるに違いない。
 今のうちに一度撤退するというのも手だがそれでは手柄がたてられず困ったものである。
 「かくなるうえは別の街の攻略に切り替えだ。こ奴らに構っている暇はない」
 自分ひとりで納得しその場を立ち去ろうとしたゼーロット。

 だがすでに√能力者達はゼーロットの位置を嗅ぎつけ次々と世界を渡りこの場へと駆け付けてきてしまっていた。

 悪に逃げ場などありはしない、悪にあるのは勝利かより最高の勝利だけなのだ。
リニエル・グリューエン
黄羽・瑠美奈


 「忌々しい能力者共め!」
 統率官ゼーロットは雇っていた剣聖の敗北により自分の居場所が察知されてしまったことに苛立ちを抑えきれず現れた人影のほうを睨みつけた。
 そこには緑の髪を靡かせ静かに祈るような表情を浮かべた美女が場の空気を支配するかのように佇んでいたのだ。
 「汝にこれほどに早く出会えるとは、これもまたシャシス神のお導きに他ならず……」
 凛とした言葉を発しリニエル・グリューエン(シャリス教団教皇・h06433)はカツカツと音を立て歩き始めた。
 引くことなど考えもしない、まるでそれが神の教えだとでも言わんばかりに。

 「はぁはぁっ、なんとか間に合った~」
 そんな緊張感が増す戦場にバタバタと足音をさせ駆け付けた可愛らしいコスチュームの美少女メイドさん。
 息を落ち着けようと深呼吸してから対峙する両者へと大げさなほどにお辞儀してみせた。
 「あっ……コホンコホン。私このたび悪い方をやっつけるべく派遣されてきましたメイドイエローでございます」
 スカートの端をちょこんと掴み一礼する黄羽・瑠美奈(メイドイエロー・h05439)の場違いさに統率官ゼーロットは頭が痛くなりそうだ。
 というか痛い。
 わけのわからぬ神の声を聞き現れた女と、給仕役の女がこのような戦場に現れるだけで意味不明だといううえ、敵対者である自分をまるで恐れていないその様子に腹もたつというものだ。

 「貴様ら……神だのメイドだの意味のわからないことを!」
 「まぁっ! 至高なるシャリス神の御威光をご理解していただけぬとは……わたし、わたしはあまりの悲しさに涙で世界を沈めてよいのかしら?」
 「ああ……いえいえ、あなた様をきっちり冥府に送るよう|指令《オーダー》をいただいてますからお気になさらず♪」
 ゼーロットが少し話すだけで倍以上になって返ってくる意味不明の発言の数々。
 なんというか話が通じそうもない二人を相手にするのは無駄と考えさっそく攻撃をしかけようと手をかざした。

 「信心の足らぬ汝のため、神を祀る聖殿をご覧にいれましょう!」
 リニエルの祈りに呼応し周囲の景色が虹彩に包み込まれ景色が一変し始めた。
 わけのわからぬこの状況にゼーロットは警戒し構えをとるも先に狙いを定めてきたのは無害に見えたメイドのほうだった。

 「ウィングシューター!」
 手にしたレーザー銃をいきなりぶっぱなしゼーロットに伸びる光弾。
 それが命中するか否かのタイミングで突然周囲を浮遊していたインビジブルとゼーロットの位置が入れ替わり弾けると同時に火花が飛び散った。
 瑠美奈の先制攻撃を華麗に回避したゼーロットはこの異様な空間を作り出しているリニエルをまず倒そうと駆け寄るも思い切り杖を振りかぶった隙だらけの姿にほくそ笑み間合いを詰めた。
 (なんだこの女は、まるで素人のようではないか)
 素人そのものにしか見えなかったリニエルのフルスイングを優雅に避けようとしたゼーロットはなぜかそれがスローモーションでも見ているかのように自分に向け確実に命中するのを自覚しようやくカラクリに気が付いた。
 (しまった、これはこ奴自身を主人公に仕立て上げる結界だったというのか!?)
 気づいた時にはもう遅い、豪快なフルスイングで叩きつけられた|愛用の杖《サンクトゥアリウム》が側頭部に命中し吹っ飛んでしまったのだから。
 しかもそこに瑠美奈の放つレーザー銃が追い打ちをかけてくるのだから始末が悪い。

 「クソクソクソッ、なんだ!なんなのだこの状況は!」
 そう叫びながらビルの残骸に叩きつけられたゼーロットは、悔しさを滲ませながら大きな瓦礫の下敷きになってしまったのだった。

鴉丸・雷雨


 土煙があがる廃ビル群を眼下に見下ろし鴉丸・雷雨(髑髏鴉・h07883)はハンバーガー|らしき物《・・・・》をガブリとかぶり不敵に笑う。
 「サムライとチャンバラが出来るって聞いてたんだけどな」
 出遅れちまったかと内心呟くと新たに発生した戦闘の爆音へと視線を向けた。

 そこには数名の能力者達とすでに戦闘状態に入っている統率官ゼーロットの姿が見え、今ならば容易にその場へと介入可能だと理解する。
 そうと決まればこの場になど用はないとばかり雷雨は迷いなくその場から飛び降りた。

 「ふむ、また新手ですか……」
 統率官ゼーロットにしてみれば剣聖を倒されたことで自分の位置が知られ次々と能力者たちが襲い来ることにすでに辟易としてしまっていた。
 しかもそれが剣聖と戦いたいがため現れ、その対象が失われた後の何処か小馬鹿にしたような態度の雷雨ともなれば嫌悪を表に出しても仕方がない。
 「仕事は仕事だ、アンタを仕留めることも依頼のうちには入ってる」
 「フムン。貴様はスクラップにしてネジにでもしてやろう……|生半可《サイボーグ》にはお似合いだ」
 そういうなりゼーロットの腹部が輝き始め雷雨は急ぎ物陰へと駆け込んだ。
 その直後無数のビームがコンクリート壁を穿ち大量の土埃が宙を舞った。

 「電解液濃度戦闘レベル。行くぜ!」
 その土埃から飛び出し首筋に電解液カートリッジを突き刺すと同時に全身に満ちていく戦闘を可能にするレベルにまで引き上げられた強力な力。
 ニィィと笑っていた口元をフェイスガードが覆い戦闘準備は整った。

 「そこかっ!」
 腹部からビームを乱射しながらゼーロットが振り向くも雷雨はビルの残骸などを利用し確実に間合いを詰めていく。
 そうするうち再チャージのためビームが途切れた瞬間が訪れた、それを見逃す雷雨ではなく抜刀した|電磁物理刀《マゴロクE》を中腰に構え一気に……跳んだ。

 「何っ!?」
 「盛り上がってきたなぁ……オイッ!」
 一瞬の隙をついての猛突進、マゴロクEの切っ先がゼーロットの強靭な装甲を突き破り切っ先がビーム発射口へと深々と突き刺さった。
 そこからチャージ不足ではあるがビームが拡散され雷雨の全身に焼けつくような痛みが走る。
 「おのれ……貴様のような下級兵士に傷つけられるような私では」
 「なに……からすま宅急便からの追加サービスだ、|とっとけ《死んどけ》!」
 さらなるビームを放とうとするゼーロットに突き刺さったマゴロクEの柄にトドメの蹴りが叩き込まれた。

 高周波振動しながらゼーロットの内部を砕き貫通する必殺の凶刃。
 顔を反面以上をフェイスガードで隠しながらも雷雨は勝利を確信した笑いをその目に浮かべていた。

逆刃・純素


 激戦の続く戦場へと駆け付けた逆刃・純素(サカバンバの刀・h00089)は統率官ゼーロットの姿を発見すると迷いなくその間合いを詰めていった。
 (油断すると足元をすくわれるかもしれないぴす)
 仲間たちとの連戦で疲弊しているであろうとはいえ強敵を相手どるのに油断は大敵、そして純素は何故か思うのだ……まだまだ敵は弱り切っていないだろうということを。

 「そこか下郎っ! 今から死ぬお祈りは済ませたか!」
 ゼーロットが接近する気配に気づき振り向きざまに腹部に集まっていくエネルギーの輝き。
 スマッシュビームが解き放たれ間合いを詰める純素を包み込んでいった。
 「もう避けきれないぴすね……ならば、全部切り裂くぴす!」
 古代海底抜刀術が唸りを上げた。

 襲い来る300ものビームの束を、純素の抜き放つ必殺の居合が斬って斬って斬りまくる。
 エネルギーバリアやエナジークロークの防御の限界までギリギリ使い込んだ突進の速度は尋常ではなくあっという間にゼーロットに刃が届く距離まで踏み込むことができた。
 バシッバシッと手足に焼け跡が積み重なっていくも致命傷になるような場所への一撃はすべて切り裂いていく。


 「この……ビームを斬るだとこの女っ!」
 「お祈りは済ませたぴす? 部屋の片隅でガタガタ震えたり準備はOKぴす?」
 それは先ほどの嫌味に対する純素なりの返答。

 あと一歩という距離で刃を鞘に納めそしてズンと地面を踏みしめ飛び込んだ完全なる居合の間合い。
 神速の居合が音よりも早くゼーロットの腹へとその凶刃を届かせていった。

 「ぐおおお!? ありえんっありえんぞぉ!?」
 「カンブリア紀からヤリ直すぴすーっ!」
 バシッとフィールド同士がぶつかり合い跳ぶ火花が真っ赤に輝いた。
 ゼーロットの身を守るエネルギーフィールドと切っ先にその気を込めた純素との純粋な力と技のぶつかり合い。

 その拮抗はさらに踏み込み力を解放した純素に軍配があがりそのままゼーロットの身体は廃ビルのほうへと吹き飛ばされていく。
 激戦は未だ決着がつかない……統率官ゼーロットの耐久度だけは並外れている証左だろう。

餅竪・れあぬ
杉崎・ひなの
六合・真理


 「ええい……この私がこのような所でやられるものかっ!」
 立ち上る土煙から身を起こし統率官ゼーロットは怒り狂っていた。
 次々と現れる能力者たちの猛攻に次第に消耗が増していくこの体たらくにプライドの高いゼーロットとしては怒気を抑える気がさらさらしない。

 「その程度しか物事を見ていないから、だらしない結果になってしまったのではなくて?」
 ザッザッザと足音を隠すこともなく杉崎・ひなの (しがない鍛冶師・h00171)は愛刀を手にゼーロットの前へと姿を現した。
 激昂している男に対し冷静にその瞳を見据えるとゆっくりと構え戦いに備える。

 大きな炸裂音が現場に響く。
 「よいしょぉ~さて、この辺でお開きの時間かねぇ? お邪魔するよぉ」
 間延びしたかのようなゆっくりとした言葉を発し六合・真理 (ゆるふわ系森ガール仙人・h02163)も廃ビルの壁をぶち抜き姿を現すとその光景を眺めた。
 次々と現れた者たちの攻撃によってすでにかなり手負いといっていいほどの損害を出しつつもまだ油断はならない。
 さすがは幹部級といったところだがはっきりいって万全とはほど遠い状態なのは間違いないだろう。

 「チッ……またぞろぞろと群れる事しか能のないサル共が」
 「はじめまして、だねぇ統率官の坊ちゃん。わしは六合・真理。仙人ってやつだよ」
 「杉崎・ひなの……しがない鍛冶屋よ」
  両者ともに睨みを利かせ慎重に間合いを測っているかのような微妙な駆け引き。
 そんな両者の上空を黒い影が横切った。

 「こちらに注意を向かせている間に奇襲かサル共!」
 ゼーロットが叫びながら上空へと無数のビームを撃ち出し天へと駆け上がっていく300もの弾幕。
 それが命中するよりも早く聞こえてくる女神への祝詞
 「豊乳女神様への祈りを以て祖霊たる妖異と化すっ! 変化……影女!」
 それは高高度よりゼーロットを観察していた餅竪・れあぬ(とある豊饒の女神の使徒:餅・h00357)による落ち着いた詠唱。
 ビームの弾幕を受ける前にその姿がかき消え何とゼーロットの至近へと突然の瞬間移動。
 「甘いですわっ!」
 精霊銃に取り付けられた銃剣が手首を切り裂き飛び散る鮮血、さらに一撃を加え弾丸がマントを貫通して穴を穿つ。

 「合わせる……わ!」
 れあぬの奇襲に合わせひなのもまた致死圏へと踏み込み狙うは目の前の大将首。
 それに合わせ真理も間合いを詰めていくがこちらは逆に軽い足取りで無造作に飛び込んだように見える。
 「チィッ、小癪な!」
 「小蠅みたいに飛び回る機械は鬱陶しいもんさね」
 ひなのと真理の左右からの攻めを受け後退するしかないゼーロット。ここにきて同時に攻められる厄介さに気づき始めたのだろうか。
 先ほどまでの無防備に近い戦い方をここで修正するつもりなのか両手をかざし廃ビルの残骸へとそっと触れた。
 ただの鉄筋コンクリートだったはずの物が凶悪な形状の槍と大砲が合体したかのような武具へと変化を続けた。
 メキメキメキと歪な音を立てながら急速に生み出されていく新兵装、通称マルチプライクラフター。
 統率官であるセーロットに相応しいレベルのその武器が今まさにこの場で生成されている。
 だがしかしそれを黙って見ている真理ではない。

 「わざわざ造る工程がいるのは難儀だねぇ」
 シームレスになめらかなまま速度だけが急速に跳ね上がり強烈な震脚が地面に深い足跡を刻んだ。
 ズンッと重い衝撃と共に生成されている最中の新兵装へと添えられた掌。
 そして触れた部分から広がっていく波紋と共に形を失い元の廃材へとなり果てていく未完の新兵器。
 「なっ!? 我が武装を分解しただとっ!?」
 「そいつは邪魔だからねぇ、|剄打・雲散霧消《ルートブレイカー》させてもらったよ坊ちゃん」
 それは真理の√能力を無効化する妙技、それをまともに喰らっては生み出される武器が原型を留めることなど不可能だ。
 「今ねっ!」
 ひなのもまた逆方向から踏み込み刃を振るうも、もう片方の手で生み出された|刃砕きの剣《ソードブレイカー》によって受けられ火花が飛んだ。
 キリキリキリと金属同士の軋みが聞こえるも未だ折れないあたり、ひなのの愛刀が筋金入りの業物という証だ。

 「畳みかけるなら今ですわっ!」
 れあぬが影渡りの影から飛び出し精霊銃のトリガーを引いた。
 鍔迫り合いに近い状態で動けないゼーロットの背にそれらが命中し防御フィールドに波紋が走る。
 だがそれではまだ火力が足りないのか貫通には至らない。
 (相手は機械生命ですし、|これなら《雷撃》ば効きますかしら?)
 釣瓶火から発した電撃が大きな火花をあげゼーロットの背を再び焼いていく。
 「ぐおおっ!? 影から影へとコソコソとっ!」
 「ほいほい。 害虫駆除は巣ごと根こそぎってねぇ!」
 苦悶の声を上げるゼーロットの腹へとさらに踏み込み掌を押し付ける自然体の真理の動き。
 磨かれた功夫の恐るべきところはそのスピードでもパワーでもない。練り上げられた技は一撃で|七孔噴血《目耳鼻口から血を噴く》を引き起こすほどに内部から対象を破壊してしまうのだ。

 ズンッという軽いようで重い一撃にゼーロットの体内の回路がいくつもショートし形成していたソードブレイカーがその形を失った。

 「……ひとつ掬い、ふたつランジ、みっつチェストォ!」
 ひなのはすかさずゼーロットの足へと蹴りを叩き込み流れるように片手平突きを肩へと多々突き刺した。
 そのまま引き抜き大上段へと振りかぶったその眼前にゼーロットの見開かれた目を睨みつけた。
 無銘三左……ひなのが誇る後先考えぬ薩摩示現流の流れを汲む気合の一刀。
 防御フィールドの消失したゼーロットの装甲を易々と切り裂き豪快な袈裟斬りの一閃が致命傷となった。

 「ぐああ……ば、バカな。この私がこのような所で……っ」
 ふらふらと後ずさるゼーロットにれあぬの電撃がさらに追い打ちをかけた。

 もはやそこが限界だったらしい。
 エネルギー炉が暴走し全身に奔るスパーク。さらには手足から噴き出した火花がもはや助かるまいという確信を3人に与えた。

 「せ、戦闘機械群に栄光あれぇぇぇぇ……っ」
 仰け反りながら断末魔の叫びを残し大爆発を起こした統率官ゼーロット。

 後に残されたのは今の爆発によって吹き飛んだ廃ビルの残骸の影へと逃れた勝利者たちの姿だけなのだった。

第3章 日常 『戦い終わって日が暮れて』



 戦いの余波がまだ残る廃ビル群の至る所で未だに燃えている残骸の山。
 指揮官を失ったことで統率を失った機械群は次々と撤退をはじめもはや残っている敵はいないことだろう。

 逃げ遅れた者たちで生き残っていた者たちは戦闘機械都市へと急ぎ戻るべく足早にその場を去っていった。

 √能力者たちは一つの戦いが終わったその地で何を思うのか?

 静かに太陽が沈んでいき街に静寂の時が訪れようとしていた……。
餅竪・れあぬ
杉崎・ひなの
鴉丸・雷雨
六合・真理


 激しい戦いの残滓が残された廃ビル街に夕日が差し込み始めた。
 先ほどまでの戦いで燃え続ける残骸も数日あれば鎮火するだろうと積極的に消化などしないがこの地では当たり前のこと。
 とはいえ戦闘の危険性が無くなった事に人々はほっと胸を撫で下ろし一時の平穏が街を包み込んでいった。

 「やれやれ、怪しい動きはもう無さそうだねぇ」
 薄暗くなっていくビル街を一望できる建物の屋上を陣取り一人杯を傾ける六合・真理 (ゆるふわ系森ガール仙人・h02163)は
ほんのりと|酒精《アルコール》の回った表情でほぅと吐息を漏らした。
 そうこうしているうちに天へと昇っていく月に杯を掲げうっとりと頬を赤らめ静かにそれを口をつけた。
 芳醇な香りが広がっていき幸福感に包まれた片隅で今日の戦いを思い出していた。

 (ふむ……あの坊ちゃん、自信満々だった割には手勢はあのお侍と有象無象だけだったのかねぇ?)
 なにやら攻め手に欠けているのではないかと首を傾げるもそれが事実なのだから否定しようもないのだが……。


 敵の精鋭を撃破したことで戦闘機械都市の外延部に広がる屋台街も通常の営業を始めたようだ。
 戦いがあろうと無かろうと均等に腹は減るもの、そしてその屋台街を一際大きな胸を揺らしながら歩く餅竪・れあぬ (とある豊饒の女神の使徒:餅・h00357)は腹の辺りに手を触れキョロキョロと目移りしてしまう。
 ただでさえカロリー消費が大きな肉体の持ち主でもあるし戦いの影響で大きなカロリーを消費をする以上、それを補充すべく早急に何か美味しい物を見つけたいものなのだが……。
 「せっかくですし……|チャレンジメニュー《食べきったらタダ》をやってるお店は……あっ」
 派手な看板の店へと自然と足が向いていくれあぬ。その店のド派手で食欲を刺激する匂いに釣られ一名様ご来店。



 
 戦闘の余韻がようやく抜けてきたのかフェイスガードを開き鴉丸・雷雨(髑髏鴉SKULL RAVEN・h07883)は屋台街の一角でほっと肩の力を抜いた。
 まだ飲み切っていなかったエナジードリンクを飲み干しのどを潤すもまだ少しばかり物足りない。
 なんとか今日も平和を守れた、だがそれが今のままでは薄氷を踏むようなものだと考えると何だか切ないものが心に流れていき少しばかり沈黙すると大きく息を吸い気分を変えることにした。

 「なんか食ってくか……」
 雷雨が色とりどりド派手な看板の店へと入っていくと先ほどまでの戦闘でチラリと見かけた|胸のデカい女《れあぬ》が山ほど積まれた料理を前にして食べ始める瞬間だった。
 それはどう考えても一人で食べきれるものではない大量の料理であり、この戦闘機械都市でこれほどの贅沢ができるということはこの地区の食糧生産や運送が正常に機能しているという証拠だろう。
 そして目の前でそんな刺激的な山盛りを見せられた雷雨の腹の虫はとっくに大騒ぎをし始めており。

 「そっちの姉ちゃんと同じ料理を! じゃんじゃん持ってきてくれた構わないぜ!」
 ドスンと開いていたれあぬの隣の席に座り注文するとあっという間に提供された|山積みの料理《チャレンジメニュー》。
 こんがりと焼きあがった串焼きに手を付けさっそくパクリと口に運び口内に広がるジューシーな肉汁の旨味。
 「やっぱり√EDENのメシは美味いな~」
 思わずこぼれた感想だが、それがちょうど横で同じように肉塊を頬張っていたれあぬの耳に入り聞こえてくるフガフガ音。
 「ふがふがふが……味付けきちんとしていて食が進みますわぁ」
 横を見ればれあぬのペースはかなり早くすでに半分近くが減っているようだ。
 「……まだまだそれじゃ甘いじゃん」
 ニヤリと口を開きながら肉団子をパクリと齧り雷雨の目が笑う。

 ……こうして屋台にて熾烈な戦いが幕を開けることになった。


 そんな大騒ぎの喧騒を尻目に激しい戦いの痕を観察するように歩いていた杉崎・ひなの (しがない鍛冶師・h00171)は愛刀をゆっくりと引き抜きその刀身の状態をそっと指先で触れ感触を確かめた。
 「今日もありがとうね、私の相棒」
 僅かに刀身に歪みが感じられ帰ったらすこしばかり手直しが必要と軽く頷き静かに納刀した。
 今日戦った相手の得物は噂には聞いていたソードブレイカーと呼ばれる刀身に刃を受け止める溝がいくつも造られた変わり種。
 参考になるかもとその残骸に興味を覚えこうして歩き回っているわけだ。
 (もしかするとマルチプルイクラフターは廃材だけになっちゃったから残ってるかしら?)
 散策がてら少し手間だがこうして出歩きそしてキラリと月光を反射していくつかの破片を発見し近づくひなの。
 まだそれなりに原型を留めているようで間に合うかもしれないと屈み指先で触れながら静かに武器複製の能力を行使していく。

 「これ鋳造、できるかな?」
 戦った際に感じた手ごたえもイメージに加えそして形成されていく|ソードブレイカー《刃砕き》の刀身にほっと胸を撫で下ろしまじまじとそれを観察し軽く振ってみる。
 刀身のバランスが独特であるし、その使い方も東洋剣術とはまるで違うことを踏まえても研究する価値があるかもしれない。

 「おっとなんじゃなじゃ、ただの鍛冶師だったかい」
 不意に真後ろに軽やかな音がして着地した真理がそこに立っていた。
 戦場に戦闘機械がまだ潜んでいないかと警戒し高台にいたところひなのが何やらしているのが見えて跳んできたらしい。

 「嬢ちゃんもせっかくの月見、一杯付き合わないかい?」
 そう言いながら誤魔化すように酒瓶を見せる真理。だがしかしひなのは苦笑するように着ている制服にそっと手を触れ口を開いた。
 「ダメですよ、私この通り未成年なんだから」
 「おっと、これはダメだねぇ」
 二人の笑いが重なり静かに夜は更けていく。





 「お……おかわりですわ」
 「こっちも追加だぜ、負けてられないじゃん」

 気づいたら大食い勝負になってしまっていたれあぬと雷雨、果たしてこの大食い対決の勝者はどちらだったのか。
 このあとちょっと大変なことになったのは秘密ということで、今回の事件は無事に解決したのだった。

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